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特開2020-125979目標検知装置、目標推定方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-125979(P2020-125979A)
(43)【公開日】2020年8月20日
(54)【発明の名称】目標検知装置、目標推定方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/292 20060101AFI20200727BHJP
   G01S 7/02 20060101ALI20200727BHJP
   G01S 13/522 20060101ALI20200727BHJP
   G01S 13/58 20060101ALI20200727BHJP
【FI】
   G01S7/292 200
   G01S7/02 216
   G01S13/522
   G01S13/58 200
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2019-18500(P2019-18500)
(22)【出願日】2019年2月5日
(71)【出願人】
【識別番号】504133110
【氏名又は名称】国立大学法人電気通信大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 敬之
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 一宏
(72)【発明者】
【氏名】秋田 学
【テーマコード(参考)】
5J070
【Fターム(参考)】
5J070AC02
5J070AC06
5J070AC11
5J070AD08
5J070AH14
5J070AH31
5J070AH35
5J070AK22
5J070AK35
5J070BA01
(57)【要約】
【課題】レーダにおいて、複数の目標の検出が高い精度で行えるようにする。
【解決手段】送信信号の反射波を受信して得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向(ファストタイム方向)の次元と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向(スロータイム方向)の別の次元とを有する多次元信号を取得する。そして、多次元信号について、距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理し、その処理された信号から、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する。さらに、検出した目標から、距離ビン毎の信号複素振幅を求め、検出した目標の情報と、距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成し、生成した減算信号を、多次元信号から減算して、別の目標を検出するようにした。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信信号の反射波を受信して得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向の次元と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向の別の次元とを有する多次元信号を取得する取得部と、
前記多次元信号について、前記距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理する多次元信号処理部と、
前記多次元信号処理部で処理された信号を使って、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する目標検出部と、
前記目標検出部が検出した前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つから、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成部と、
前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つと、前記距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成する減算信号生成部と、
前記減算信号生成部が生成した減算信号を、前記取得部で得られた多次元信号から減算する減算処理部と、を備え、
前記減算処理部で減算された多次元信号を、前記多次元信号処理部に供給するようにした
目標検知装置。
【請求項2】
前記送信信号はパルス信号であり、
前記取得部は、パルス圧縮処理部である
請求項1に記載の目標検知装置。
【請求項3】
前記多次元信号処理部は、パルスドップラ処理を行うパルスドップラ処理部であり、
前記目標検出部は、前記パルスドップラ処理部の出力に基づいて、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する
請求項2に記載の目標検知装置。
【請求項4】
前記多次元信号処理部は、合成帯域処理を行う合成帯域処理部であり、
前記目標検出部は、前記合成帯域処理部の出力に基づいて、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つ検出する
請求項2に記載の目標検知装置。
【請求項5】
前記多次元信号処理部は、ビームフォーミング処理を行うビームフォーミング処理部であり、
前記目標検出部は、前記ビームフォーミング処理部の出力に基づいて、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つ検出する
請求項2に記載の目標検知装置。
【請求項6】
前記減算処理部は、目標数推定部を含む
請求項2に記載の目標検知装置。
【請求項7】
送信信号の反射波を受信する受信処理と、
前記受信処理で得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向の次元と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向の別の次元とを有する多次元信号を取得する信号を取得する取得処理と、
前記多次元信号について、前記距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理する多次元信号処理と、
前記多次元信号処理により処理された信号を使って、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する目標検出処理と、
前記目標検出処理により検出した前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つから、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成処理と、
前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つと、前記距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成する減算信号生成処理と、
前記減算信号生成処理により生成した減算信号を、取得処理で得られた多次元信号から減算して、前記多次元信号処理を行うための信号とする減算処理と、を含む
目標推定方法。
【請求項8】
送信信号の反射波を受信して得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向の次元と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向の別の次元とを有する多次元信号を取得する取得ステップと、
前記多次元信号について、前記距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理する多次元信号処理ステップと、
前記多次元信号処理ステップで処理された信号を使って、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する目標検出ステップと、
前記目標検出ステップにより検出した前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つから、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成ステップと、
前記目標速度と前記目標距離と前記角度の少なくともいずれか1つと、前記距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成する減算信号生成ステップと、
前記減算信号生成ステップにより生成した減算信号を、前記取得ステップで得られた多次元信号から減算して、前記多次元信号処理ステップでの処理を行うための信号とする減算ステップと、
をコンピュータに実行させる
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送信信号の反射波を受信して目標を検知するレーダ技術を適用した目標検知装置、目標推定方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ミリ波帯の利用による車載レーダ装置やインフラとして設置されたレーダ装置の高分解能化や高信頼性化が求められている。すなわち、既存の車載レーダ装置であっても、車両などの比較的大きな物体の検知は可能であるが、歩行者やさらに小さな対象物の検知を可能とする必要があり、ミリ波レーダのさらなる高分解能化や高信頼性化が求められている。
【0003】
特許文献1には、レーダ装置において、信号強度の強いターゲットの検出結果から、それを再現する受信信号を推定し、元の受信信号から推定した受信信号を減算して、減算で残った信号に対して検出を繰り返すことで、微弱な信号のターゲットについての検出を可能とする技術についての記載がある。
特許文献1に記載された減算処理を繰り返すことで、複数の対象物を検知することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−49074号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、レーダ装置において、受信信号から速度や距離を検出する際には、アナログ系の受信回路が備えるアナログフィルタの特性やケーブルの特性に受信信号が大きく影響を受けてしまう。
一方、元の受信信号から推定した受信信号を減算する際の減算信号は、速度や距離の検出部で得られたピークとなる周波数ビンにおける「速度、距離、複素振幅」から信号である。
【0006】
したがって、特許文献1に記載された技術では、減算信号を生成して、その減算信号を受信信号から減算したとしても、検出したターゲットの信号を十分に減算したものとはならず、減算残りが生じてしまい、複数のターゲットの検出精度が低下してしまう。特に微弱な信号のターゲットの検出精度が悪くなって、誤検出につながってしまう。
【0007】
例えば、図19(A)に示すように、車載レーダの前方に、車とバイクと人が存在した場合、レーダで得られる反射波としては、図19(B)に示すように、最も大きなターゲットである車の成分m1と、それより小さなターゲットであるバイクの成分m2と、最も小さなターゲットである人の成分m3とが重なった状態である。
ここで、バイクや人を精度よく検出するためには、車の成分m1やバイクの成分m2を正確に検出する必要があるが、従来の技術では高精度化に限りがあった。
【0008】
本発明の目的は、複数の目標の検出が高い精度で行うことができる目標検知装置、目標推定方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目標検知装置は、送信信号の反射波を受信して得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向(実施の形態例で述べるファストタイム処理の処理方向)の次元と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向の別の次元(実施の形態例で述べるスロータイム処理の処理方向)とを有する多次元信号を取得する取得部と、多次元信号について、距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理する多次元信号処理部と、多次元信号処理部で処理された信号を使って、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する目標検出部と、目標検出部が検出した目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つから、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成部と、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つと、距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成する減算信号生成部と、減算信号生成部が生成した減算信号を、取得部で得られた多次元信号から減算する減算処理部と、を備え、減算処理部で減算された多次元信号を、多次元信号処理部に供給するようにしたものである。
【0010】
また、本発明の目標推定方法は、送信信号の反射波を受信する受信処理と、受信処理で得た受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向の次元(実施の形態例で述べるファストタイム処理の処理方向)と、パルスヒット方向と周波数方向とアンテナ素子方向の少なくともいずれか一つの方向(実施の形態例で述べるスロータイム処理の処理方向)の別の次元とを有する多次元信号を取得する信号を取得する取得処理と、多次元信号について、距離方向の次元以外の少なくとも1つ以上の次元の信号を処理する多次元信号処理と、多次元信号処理により処理された信号を使って、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つを検出する目標検出処理と、目標検出処理により検出した目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つから、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成処理と、目標速度と目標距離と角度の少なくともいずれか1つと、距離ビン毎の信号複素振幅をもとに、減算信号を生成する減算信号生成処理と、減算信号生成処理により生成した減算信号を、取得部で得られた多次元信号から減算して、多次元信号処理を行うための信号とする減算処理と、を含む。
【0011】
また、本発明のプログラムは、上記目標推定方法の各処理をステップ化して、コンピュータに実行させるようにしたものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、信号電力の大きい目標のサイドローブに埋もれるような微弱な電力の目標を検知することができ、複数の目標の正確な検出が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図2】本発明の第2の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図3】本発明の第2の実施の形態例による処理手順の例を示すフローチャートである。
図4】本発明の第3の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図5】本発明の第4の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の第4の実施の形態例によるアンテナ構成の例を示す図である。
図7】本発明の第5の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図8】本発明の第5の実施の形態例による処理手順の例を示すフローチャートである。
図9】本発明の第6の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図10】本発明の第7の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図11】本発明の第8の実施の形態例による構成例を示すブロック図である。
図12】本発明の各実施の形態例での処理状態の例を示す図である。
図13】本発明の各実施の形態例でのスロータイム処理の例を示す図である。
図14】本発明の各実施の形態例での多次元信号の例を示す図である。
図15】本発明の各実施の形態例での減算処理の例を示す波形図である。
図16】本発明の各実施の形態例での減算後の多次元信号の例を示す図である。
図17】本発明の各実施の形態例での複数の目標(第1目標、第2目標、第3目標)を検出する例を示す図である。
図18】本発明の各実施の形態例でのスロータイム信号の例を示す図である。
図19】車載レーダが複数の目標を検出する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態例を、添付図面を参照して説明する。以下の説明では、まず図1図11を参照して、各実施の形態例(第1〜第8の実施の形態例)のレーダ装置10a〜10hの基本的な構成を順に説明し、その後、各実施の形態例のレーダ装置10a〜10hの各構成要素が行う処理の詳細を、図12図18を参照して説明する。
【0015】
[1.第1の実施の形態例]
図1は、本発明の第1の実施の形態例のレーダ装置10aの構成例を示す。
第1の実施の形態例のレーダ装置10aは、受信部11、アナログ/デジタル変換器12、取得部13、減算器14、スロータイム処理部15、目標検出部16、距離方向複素信号振幅生成部17、減算信号生成部18、減算処理部19、および送信部21を備える。
【0016】
送信部21は、符号変調したパルス信号を、パルス繰り返し間隔(PRI:Pulse Repetition Interval)で繰り返し連続して送信する。パルス信号を繰り返し送信する場合、ここでは、後述する図18(B)に示すように、パルス信号を送信する毎に周波数を変化させた、時分割多周波ステップ方式とする。時分割多周波ステップ方式の場合、周期的に周波数を繰り返し変化させる。送信周波数帯域としては、例えば79GHz帯などの高い周波数帯を使用する。
【0017】
受信部11は、送信部21で送信した信号の反射波を受信する受信処理を行う。反射波には、目標で反射した成分が含まれる。ここでの目標には、複数の目標が存在する。
【0018】
受信部11で得られた受信信号は、符号変調された時分割多周波ステップ受信信号を受信するため、[距離ビン方向と、距離ビン毎のパルスヒット方向の受信信号]×周波数ステップ数分の信号になる。受信部11で得た受信信号は、アナログフィルタの影響受けた信号(ファストタイム信号)となっており、複数の目標の信号が重畳されている。
なお、以下の説明で複数の目標のそれぞれを、第1目標、第2目標、第3目標、・・・と個別に述べたとき、第1目標の受信信号が最も受信強度が高く、第2目標、第3目標、・・・と順に受信強度が低下するものとする。
【0019】
受信部11で得られた受信信号は、アナログ/デジタル変換器12でサンプリングされる。アナログ/デジタル変換器12でサンプリングされた受信信号は、取得部13に供給される。
【0020】
取得部13は、受信信号から、距離方向の情報についての処理を行って、距離方向の次元と、それとは別の次元(ここではパルスビット方向の次元)とを有する多次元信号を取得する。なお、取得部13は、ファストタイム信号を取得処理するため、ファストタイム信号処理部として機能する。
取得部13は、パルス圧縮処理部131と、パルスドップラ処理部132とを備える。
パルス圧縮処理部131は、受信信号をパルス圧縮処理する。すなわち、パルス圧縮処理部131は、符号変調された多周波ステップ受信信号をパルス波形化する。パルス波形化した信号は、アナログフィルタの影響を受けた信号である。
パルス圧縮処理部131でパルス波形化した多周波ステップ受信信号は、パルスドップラ処理部132に供給される。
【0021】
パルスドップラ処理部132は、パルスドップラフィルタ処理により、距離ビン毎のパルスヒット方向の受信信号をドップラ信号に変換する処理が行われる。ここでのドップラ信号は、目標速度に対応した信号であり、距離方向の次元と速度方向の次元(パルスビット方向の次元)とを有する2次元信号(多次元信号)が生成される。
【0022】
取得部13で得られた2次元信号は、減算器14に供給される。減算器14では、減算処理部19から減算信号が供給されるとき、取得部13から供給される2次元信号から、減算信号を減算処理する。減算信号が供給されないタイミングでは、減算器14での減算は行われない。減算器14で減算処理が行われた2次元信号(または減算処理が行われていない2次元信号)は、スロータイム処理部15に供給される。
なお、減算器14は、減算後の信号を記憶する記憶部を備え、後述する繰り返しでの減算時に、記憶部が記憶した信号から減算する処理が行われる。
【0023】
スロータイム処理部15は、供給される多次元信号(2次元信号)の内で、距離方向の次元以外の少なくとも1つの次元の信号を処理する多次元信号処理部である。スロータイム処理部15の具体例については、第2〜第4の実施の形態例で説明する。
【0024】
スロータイム処理部15で、距離方向の次元以外の次元であるパルスビット方向の次元について処理された信号は、目標検出部16に供給される。目標検出部16では、スロータイム処理部15が出力する2次元信号から、信号振幅が最大となる目標速度と目標距離を検出する。検出した目標速度と目標距離の情報は、出力部161に得られる。
【0025】
そして、目標検出部16が検出した目標距離の情報は、距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成部17に供給される。
距離方向複素振幅生成部17では、目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅を求める距離方向複素信号振幅生成処理を行う。例えば、目標検出部16が第1目標の目標速度と目標距離を検出したとき、その第1目標の目標速度におけるアナログフィルタの影響受けた複素信号波形を求める。
【0026】
距離方向複素振幅生成部17で求めた、目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅は、減算信号生成部18に供給される。
減算信号生成部18は、目標検出部16で得られた目標速度および目標距離と、距離方向信複素振幅生成部17で得られた距離ビン毎の信号複素振幅をもとにパルスヒット方向に亘る減算信号(例えば第1目標の信号)を生成する減算信号生成処理を行う。減算信号生成部18が生成した減算信号は、減算処理部19に供給される。
【0027】
減算処理部19は、減算器14で、取得部13から供給される多次元信号(2次元信号)から、減算信号生成部18で生成された減算信号を減算する減算処理を行う。
この減算処理を行うことで、取得部13から出力されたアナログフィルタの影響受けた多次元信号(2次元信号)から、アナログフィルタの影響が考慮された減算信号(例えば最初の段階では第1目標の信号)を減算する処理が行われる。したがって、減算器14で減算した後の信号には、第2目標以降の目標の成分が含まれることになる。
【0028】
減算器14で減算された信号は、第1目標を検出する場合と同様に、スロータイム処理部15、目標検出部16で処理され、第2目標についての目標距離、目標速度が検出される。さらに、第3目標が存在する場合には、距離方向複素信号振幅生成部17と減算信号生成部18と減算処理部19での処理が繰り返され、減算器14で、第2目標以降の目標の成分が含まれる信号(減算器14が記憶した信号)から、第2目標の信号が減算され、第3目標以降の目標の成分が含まれる信号が減算器14で得られる。
【0029】
このようにして、減算器14、スロータイム処理部15、目標検出部16、距離方向信複素振幅生成部17、減算信号生成部18、および減算処理部19での処理が、必要な目標が検出されるまで繰り返される。
【0030】
以上説明したように、本実施の形態例のレーダ装置10aによると、受信信号に含まれる複数の目標(第1目標、第2目標、第3目標、・・・)を、個別に検出することができるようになる。すなわち、振幅の大きな目標に埋もれた振幅の小さな目標の検知が高精度に行うことが可能となり、誤検知を抑制できるようになる。
【0031】
[2.第2の実施の形態例]
図2は、本発明の第2の実施の形態例のレーダ装置10bの構成例を示す。
第2の実施の形態例のレーダ装置10bは、第2の実施の形態例のレーダ装置10aのスロータイム処理部15として、合成帯域処理部15aを適用したものである。
【0032】
合成帯域処理部15aでは、取得部13から減算器14を経由して供給される多周波ステップ受信信号を合成して、広帯域化する処理が行われる。合成帯域処理部15aで広帯域化した信号は、目標検出部16に供給される。
図2に示すレーダ装置10bのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0033】
図3は、合成帯域処理部15aを備えたレーダ装置10bにおける目標検出処理の流れを示すフローチャートである。この図3のフローチャートでは、レーダ装置10bにおける、減算器14以降の処理を示す。
【0034】
まず、減算処理部19が目標数を更新する(ステップS11)。
そして、減算処理部19で得られた減算信号により、減算器14で減算処理を行う(ステップS12)。ここでの減算処理は、ステップS11で設定した目標数が、1以上であるときに行われ、目標数1のときには、ここでの減算処理が省略される。
【0035】
その後、合成帯域処理部15aにより、多周波ステップ受信信号を合成して広帯域化する合成帯域処理が行われる(ステップS13)。さらに、合成帯域処理が行われた速度方向と距離方向の2次元信号から、目標検出部16で、信号振幅が最大となる目標速度と目標距離の検出処理が行われる(ステップS14)。
【0036】
そして、距離方向複素振幅生成部17が、目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅を算出する(ステップS15)。この距離方向複素振幅生成部17で算出された目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅と、目標検出部16で得られた目標速度および目標距離とをもとに、減算信号生成部18が、パルスヒット方向に亘る減算信号を生成し、生成した減算信号を減算器14で減算する(ステップS16)。
その後、減算器14は、減算信号を減算して得られた信号を記憶する(ステップS17)。
【0037】
そして、減算処理部19が終了判定の条件を満たすか否かを判断する(ステップS18)。ここでの終了判定の条件を満たす場合としては、例えば減算後の信号波形が、雑音レベルであると判断したとき、終了と判定する。この雑音レベルの判定の一例については、[数8]式および[数9]式を用いて後述する。
このステップS18での判断で、終了判定の条件を満たしていない場合(ステップS18のNO)、ステップS11の目標数の更新に戻る。
【0038】
また、ステップS18での判断で、終了判定の条件を満たしたと判断したとき(ステップS18のYES)、取得部13で得られた信号についての処理を終了する。
【0039】
本発明の第2の実施の形態例のレーダ装置10bによると、スロータイム処理部15として、合成帯域処理部15aを適用することで、広帯域化により目標距離の検出精度が向上する。すなわち、複数ステップの受信信号を合成することにより、目標検出部16に得られる信号のSN比が向上し、目標距離の検出精度が向上する。
【0040】
ここで、第2の実施の形態例のレーダ装置10bで行われる処理を、数式を用いて説明する。
なお、本明細書で説明する各式に用いられる変数は、以下の通りである。
n:周波数ステップ番号、m:シーケンス繰り返し番号、s:距離ビン番号、l:ドップラビン番号、k:レンジサンプル番号、h:アレー素子番号、q:角度番号、tgtn:目標番号、tgtN:目標数、c:光速、f:搬送波周波数、f:サンプリング周波数、N:周波数ステップ数、Δf:周波数ステップ幅、Tpri:パルス送信間隔、τ:目標までの電波の往復時間、f:目標のドップラ周波数、R:目標の距離、θ:目標の角度、ΔV:目標速度探索刻み幅、ΔR:目標距離探索刻み幅、Δθ:目標距離探索刻み幅
【0041】
まず、取得部13の出力信号を、次の[数1]式に示す。
【0042】
【数1】
【0043】
この取得部13の出力は、合成帯域処理部15aにて、次に示すように、n方向フーリエ変換がなされる。
【0044】
【数2】
【0045】
【数3】
【0046】
合成帯域処理部15aの出力は、目標検出部16にて、しきい値処理がなされ、目標数個の速度と距離が紐づけされて検出される。距離方向複素信号振幅演算部17により、目標検出部16にて検出された目標速度と目標距離を用いて距離方向の複素信号振幅を下式より生成する。
【0047】
【数4】
【0048】
距離方向複素信号振幅演算部7の出力より、減算信号生成部8により減算信号が生成される。
【0049】
【数5】
【0050】
減算処理部19では、減算信号生成部18により生成された減算信号を記憶する。減算器14では、取得部13の出力から、記憶した減算信号が減算される。
【0051】
【数6】
【0052】
減算処理部19では、以下の式による終了判定を実施する。終了判定では、設定値εより小さいとき終了する。
【0053】
【数7】
【0054】
終了判定で、設定値εより小さいという条件を満たさないときは、目標数の更新に戻り、目標数に1を加えたものが新たに設定される。
【0055】
[3.第3の実施の形態例]
図4は、本発明の第3の実施の形態例の構成例を示す。
第3の実施の形態例のレーダ装置10cは、第1の実施の形態例のレーダ装置10aのスロータイム処理部15として、パルスドップラ処理部15bを適用したものである。また、取得部13は、パルス圧縮処理部131と合成帯域処理部132aとを備える。
【0056】
パルスドップラ処理部15bでは、取得部13から減算器14を経由して供給される多周波ステップ受信信号について、パルスドップラフィルタ処理により、距離ビン毎のパルスヒット方向の受信信号をドップラ信号に変換する処理が行われる。
【0057】
パルスドップラ処理部15bでパルスドップラフィルタ処理が行われた信号は、目標検出部16に供給される。
図4に示すレーダ装置10cのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0058】
本発明の第3の実施の形態例のレーダ装置10cによると、スロータイム処理部15として、パルスドップラ処理部15bを適用することで、複数の目標の検出を精度よく行うことができる。
【0059】
ここで、第3の実施の形態例のレーダ装置10cで行われる処理を、数式を用いて説明する。
まず、取得部13の出力信号を、次の[数8]式に示す。
【0060】
【数8】
【0061】
取得部13の出力は、ドップラパルス処理部15bにて、m方向のフーリエ変換がなされ、以下の[数9]式、[数10]式で示すことができる。
【0062】
【数9】
【0063】
【数10】
【0064】
そして、ドップラパルス処理部15bの出力は、目標検出部16にて、しきい値処理がなされ、目標数個の速度と距離が紐づけされて検出される。距離方向複素信号振幅演算部17により、目標検出部16にて検出された目標速度と目標距離を用いて距離方向の複素信号振幅を以下の[数11]式より生成する。
【0065】
【数11】
【0066】
距離方向複素信号生成部17の出力より、減算信号生成部18により次に示す減算信号が生成される。
【0067】
【数12】
【0068】
減算器14では、元の取得部13の出力から減算信号生成部18の出力が減算される。
【0069】
【数13】
【0070】
なお、減算処理部19での減算処理の終了判定では、次式の設定値εより小さいとき、終了と判定する。
【0071】
【数14】
【0072】
終了判定で、設定値εより小さいという条件を満たさないときは、目標数の更新に戻り、目標数に1を加えたものが新たに設定される。
【0073】
[4.第4の実施の形態例]
図5は、本発明の第4の実施の形態例のレーダ装置10dの構成例を示す。
第4の実施の形態例のレーダ装置10dは、第1の実施の形態例のレーダ装置10aのスロータイム処理部15として、ビームフォーミング処理部15cを適用したものである。
また、レーダ装置10dは、図6に示すように、受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されている。受信アンテナ111,112,113,114,・・・は、例えば受信角度(方位角)をずらして配置する。
【0074】
受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されていることで、取得部13で得られる多次元信号に含まれる1つの次元には、目標の角度の次元の信号が含まれるようになる。
【0075】
そして、スロータイム処理部15であるビームフォーミング処理部15cが、ビームフォーミング処理で角度ごとの受信状態の情報を取得する。
ビームフォーミング処理部15cで得られた角度ごとの受信状態の情報は、目標検出部16に供給される。目標検出部16では、角度ごとの受信状態の情報から、目標の角度(方位角)を検出する。目標検出部16が検出した目標の角度の情報は、出力部161から出力される。
図5に示すレーダ装置10bのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0076】
本発明の第4の実施の形態例のレーダ装置10dによると、スロータイム処理部15として、ビームフォーミング処理部15cを適用することで、複数の目標の角度の検出を精度よく行うことができる。
【0077】
[5.第5の実施の形態例]
図7は、本発明の第5の実施の形態例のレーダ装置10eの構成例を示す。
第5の実施の形態例のレーダ装置10eは、減算処理部19が、目標数推定部191を備えるようにしたものである。
目標数推定部191は、レーダ装置10eでの過去や現在の目標の検出状況や、他の装置(例えばカメラなど)での検出状況から、レーダ装置10eの周囲の目標の数を推定する。目標数推定部191が推定する目標の数には、上限を決めてもよい。
図7に示すレーダ装置10eのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0078】
図8は、減算処理部19が、目標数推定部191を備えた場合の処理の流れを示すフローチャートである。
【0079】
まず、減算処理部19が目標数を更新する(ステップS21)。こ
そして、減算処理部19で得られた減算信号により、減算器14で減算処理を行う(ステップS22)。ここでの減算処理は、ステップS21で設定した目標数が、1以上であるときに行われ、目標数1のときには、ここでの減算処理が省略される。
【0080】
その後、スロータイム処理部15でのスロータイム処理が行われる(ステップS23)。さらに、スロータイム処理が行われた速度方向と距離方向の2次元信号から、目標検出部16で、信号振幅が最大となる目標速度と目標距離の検出処理が行われる(ステップS24)。
【0081】
そして、距離方向複素振幅生成部17が、目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅を算出する(ステップS25)。この距離方向複素振幅生成部17で算出された目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅と、目標検出部16で得られた目標速度および目標距離とをもとに、減算信号生成部18が、パルスヒット方向に亘る減算信号を生成し、生成した減算信号を減算器14で減算する(ステップS26)。
その後、減算器14は、減算信号を減算して得られた信号を記憶する(ステップS27)。
【0082】
次に、減算処理部19は、目標数推定部191が推定した目標数に対応した試行回数だけ減算を繰り返したか否かを判断する(ステップS28)。このステップS28での判断で、目標検出の試行回数が、推定した目標数に対応した数でない場合(ステップS28のNO)、ステップS22の減算処理に戻る。
また、ステップS28での判断で、目標検出の試行回数が、推定した目標数に対応した数であるとき(ステップS28のYES)、目標検出についての終了条件を満たすか否かを判断する(ステップS29)。
ここで、目標数推定部191の推定方法として、目標検出部191で検出したピークに対応する波形を減算処理した後のサイドローブレベルと減算前のサイドローブレベルを比較して、有意な差があれば検知したピークを目標とみなし、目標数をカウントアップする。有意な差が見られなければピークを目標と見なさず目標数のカウントアップを行わない。目標検出についての終了条件を満たしたときのカウントを目標数として出力する。
【0083】
このステップS29で終了条件を満たさない場合(ステップS29のNO)、ステップS21の目標数の更新に戻る。また、ステップS29での判断で、終了条件を満たす場合(ステップS29のYES)、取得部13で得られた信号についての処理を終了する。
【0084】
本発明の第5の実施の形態例のレーダ装置10eによると、目標数推定部191を設けて、目標数推定部191が推定した目標数に応じた回数だけ、目標を検出する処理を繰り返すことで、適切な数の目標数を検出できるようになる。
【0085】
[6.第6の実施の形態例]
図9は、本発明の第6の実施の形態例のレーダ装置10fの構成例を示す。
第6の実施の形態例のレーダ装置10fは、取得部13aが、パルス圧縮処理部131と、ビームフォーミング処理部133と、パルスドップラ処理部132とを備えるようにしたものである。
また、レーダ装置10fは、図6に示すように、受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されている。受信アンテナ111,112,113,114,・・・は、例えば受信角度(方位角)をずらして配置する。
【0086】
受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されていることで、取得部13のビームフォーミング処理部133で得られる多次元信号に含まれる1つの次元には、目標の角度の次元の信号が含まれるようになる。ビームフォーミング処理部133は、パルス圧縮処理部131の出力から、目標の角度の次元の信号を得る。
そして、ビームフォーミング処理部133で目標角度の次元の信号が含まれた信号が、パルスドップラ処理部132に供給される。
図9に示すレーダ装置10fのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0087】
[7.第7の実施の形態例]
図10は、本発明の第7の実施の形態例のレーダ装置10gの構成例を示す。
第7の実施の形態例のレーダ装置10gは、スロータイム処理部15dが、パルスドップラ処理部151と、帯域合成処理部152と、ビームフォーミング処理部153とを備えるようにしたものである。ここで、レーダ装置10gのスロータイム処理部15dは、パルスドップラ処理部151、帯域合成処理部152、ビームフォーミング処理部153の順で処理を行うようにした。
また、レーダ装置10gは、図6に示すように、受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されている。受信アンテナ111,112,113,114,・・・は、例えば受信角度(方位角)をずらして配置する。なお、取得部13は、パルス圧縮処理部131を備える。
【0088】
受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されていることで、ビームフォーミング処理部153は、目標角度の次元の信号についてのスロータイム処理を行うようになる。
図10に示すレーダ装置10gのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0089】
ここで、第7の実施の形態例のレーダ装置10gで行われる処理を、数式を用いて説明する。
まず、取得部13の出力信号を、次の[数15]式に示す。
【0090】
【数15】
【0091】
この取得部13の出力は、パルスドップラ処理部151にて、m方向のフーリエ変換がなされる。
【0092】
【数16】
【0093】
【数17】
【0094】
パルスドップラ処理部151の出力は、合成帯域処理部152にて、n方向フーリエ変換がなされる。
【0095】
【数18】
【0096】
【数19】
【0097】
合成帯域処理部152の出力は、目標検出部16にて、しきい値処理がなされ、目標数個の速度と距離が紐づけされて検出される。そして、距離方向複素信号振幅演算部17により、目標検出部16にて検出された目標速度と目標距離を用いて距離方向の複素信号振幅を下式より生成する。
【0098】
【数20】
【0099】
さらに、距離方向複素信号振幅演算部17の出力より、減算信号生成部18により減算信号が生成される。
【0100】
【数21】
【0101】
減算処理部19では、減算信号生成部18により生成された減算信号を記憶する。
減算器14では、元の取得部13の出力から減算処理部19に記憶された減算信号が減算される。
【0102】
【数22】
【0103】
ここで、減算処理部19では、目標数の更新により目標数が1として設定される。その後、目標検出の試行回数が設定回数に達すると、以下の式による終了判定を実施する。終了判定では、設定値εより小さいとき終了する。
【0104】
【数23】
【0105】
終了判定で、設定値εより小さいという条件を満たさないときは、目標数の更新に戻り、目標数に1を加えたものが新たに設定される。
【0106】
[8.第8の実施の形態例]
図11は、本発明の第8の実施の形態例のレーダ装置10hの構成例を示す。
第8の実施の形態例のレーダ装置10hは、スロータイム処理部15eが、ビームフォーミング処理部154と、パルスドップラ処理部155と、帯域合成処理部156とを備えるようにしたものである。ここで、レーダ装置10hのスロータイム処理部15eは、ビームフォーミング処理部154、パルスドップラ処理部155、帯域合成処理部156の順で処理を行うようにした。なお、取得部13は、パルス圧縮処理部131を備える。
また、レーダ装置10hは、図6に示すように、受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されている。受信アンテナ111,112,113,114,・・・は、例えば受信角度(方位角)をずらして配置する。
【0107】
受信部11に複数の受信アンテナ111,112,113,114,・・・が接続されていることで、ビームフォーミング処理部154は、目標角度の次元の信号についてのスロータイム処理を行うようになる。
図11に示すレーダ装置10hのその他の箇所は、図1に示すレーダ装置10aと同じ構成である。
【0108】
[9.受信部が受信する信号の例]
図12は、各実施の形態例の受信部11での受信信号の例を示す。
図12(A)は、送信信号TXの一例を示す。
図12(A)に示す例では、パルス繰り返し周期PRIごとにパルス信号を送信する状態を示す。図12では、1周期PRIごとの周波数の相違は無視する。
【0109】
このような送信信号TXを送信部21が送信したとき、受信部11では、図12(B)に示すように、送信信号TXの反射波である受信信号RXが得られる。この受信信号RXの受信タイミングは、目標との距離に応じて送信タイミングから遅れたものになる。
図12(B)に示す受信信号RXは、目標が1つである場合の例を示し、目標が2つの場合には、図12(C)に示す状態になる。すなわち、図12(C)に示すように、第1目標に対応した強い受信信号RX1と、第2目標に対応した弱い受信信号RX2とが重畳された状態になる。第1目標と第2目標とに距離が相違する場合、それぞれの信号RX1,RX2の受信タイミングが異なる。
【0110】
この図12(C)に示す受信信号RX1,RX2が受信される状態は理想的な場合を示し、実際には受信部11でのアナログフィルタ処理により、図12(D)に示すようなアナログ的に強度が変化する受信信号RXaの波形が得られる。
本発明の各実施の形態例のレーダ装置10a〜10hでは、図12(D)に示すような受信信号RXaから、第1目標の成分と第2目標の成分を取りだして、それぞれの目標を高精度に検出する処理が行われる。
【0111】
[10.ファストタイム処理とスロータイム処理の例]
図13は、本発明の各実施の形態例で行われるファストタイム処理とスロータイム処理の概要を示す。
各実施の形態例では、取得部13が、パルス圧縮処理などのファストタイム処理を行い、スロータイム処理部15が、合成帯域処理などのスロータイム処理を行うようにした。
まず、受信部11で図13(A)に示す繰り返し間隔PRIごとの受信信号RXaが得られるとする。この受信信号は、図12(D)で説明した受信信号RXaと同じ波形である。この受信信号RXaには、図12で説明した第1目標の成分と第2目標の成分が含まれている。
【0112】
ここで、取得部13では、パルス圧縮処理を行う際に、図13(B)に示す参照信号を取得し、受信信号をサンプリングした信号と、参照信号との相互相関を取る。ここでの参照信号は、図12(A)に示す送信信号に対応する。
参照信号との相互相関を取ることで、図13(C)に示すパルス圧縮(相互相関)された信号P1が、パルス繰り返し周期PRI毎(ファストタイム方向)に得られる。このパルス圧縮された信号P1は、パルスの終了時刻にピークを持つ波形である。
なお、パルス圧縮された信号P1には、図13(C)に破線で示す第2目標の信号P2が含まれるが、信号P1に埋もれている。
ここまでのパルス圧縮処理は、本実施の形態例で述べるファストタイム処理である。
【0113】
一方、スロータイム処理部15でのスロータイム処理では、複数の繰り返し間隔PRIでの信号についての処理が行われる。すなわち、図13(D)に示すように、それぞれの間隔PRIの信号の内で、同一レンジビンに対して、パルスビット方向にフーリエ変換する処理が行われる。図13(D)に示す状態は、パルス圧縮された信号P1のピーク位置の各PRIのレンジビン(第1目標が得られるレンジビン)faに対して、パルスビット方向にフーリエ変換する状態を示す。また、図13(E)に示す状態は、パルス圧縮された信号P1の第2目標が得られる箇所のレンジビンfbに対して、パルスビット方向にフーリエ変換する状態を示す。
【0114】
図14は、ファストタイム処理後のレンジビンの信号(横軸)と、スロータイム処理後のドップラビンの信号(縦軸)とを、2次元に展開したものである。
減算器14での減算が行われていない最初の状態では、図14(A)に示すように、レンジビンとドップラビンのいずれの方向でも、第1目標の位置が最も高く、その第1目標の位置から徐々にレベルが低下する状態を示す。
図14(B)は、スロータイム処理後のドップラビンの方向に、フーリエ変換した状態を矢印で示す。例えば、最も高いレベルのレンジビンfaが、第1目標が含まれる信号になる。
【0115】
そして、距離方向複素信号振幅生成部17での距離方向複素信号振幅の生成で、レンジビン方向に減算波形を生成することで、図15(A)に示すように、第1目標についての減算波形α1が生成される。この減算波形α1を元の波形から減算することで、図15(B)に示すように、第1目標の成分が除去された第2目標(およびそれより信号強度が弱い目標)の成分の波形α2が得られる。
この減算後の第2目標の成分の波形α2から、距離、速度、角度などの検出が可能になる。
【0116】
図16は、図15(B)に示す減算後の信号から、第2目標を検出した例を示す。図16は、図14と同様に、ファストタイム処理後のレンジビンの信号(横軸)と、スロータイム処理後のドップラビンの信号(縦軸)とを、2次元に展開したものである。
この図16に示すように、減算後の信号からは、第2目標の信号がピークとして明確に現れ、第2目標についての情報(速度、距離、方位など)を高精度に検出できるようになる。
【0117】
図17は、速度と距離に展開した信号(左側)と、信号の電力(右側)とを示す。図17(A)は、受信信号を示す。図17(A)に示すように、受信信号には、第1目標m1の情報と、第2目標の情報m2と、第3目標の情報m3とが含まれている。
図17(B)は、この受信信号から第1目標を得る信号を示す。第1目標を得る際には減算処理を行っていないので、図17(A)の信号と図17(B)の信号は同じであり、第1目標m1がピークになる。このピーク値より第1目標を検出することができる。そして、第1目標の目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅を求める処理が行われる。
【0118】
図17(C)は、1回目の減算処理を行った信号を示す。すなわち、第1目標を検出した際の目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅から、第1目標についての減算信号を生成し、減算処理を行うことで、振幅が小さな第2目標と第3目標が重畳した信号が、図17(C)に示すように残る。この信号では第2目標m2がピークになり、第2目標m2の距離や速度を検出することができる。そして、第2目標の目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅を求める処理が行われる。
【0119】
図17(D)は、2回目の減算処理を行った信号を示す。すなわち、第2目標を検出した際の目標速度における距離ビン毎の信号複素振幅から、第2目標についての減算信号を生成し、減算処理を行うことで、振幅が小さな第3目標の信号が、図17(D)に示すように残る。この信号では第3目標m3がピークになり、第3目標m3の距離や速度を検出することができる。
さらに第4目標以降が存在する場合には、減算処理を繰り返す。
【0120】
[11.スロータイム信号の例]
上述した各実施の形態例では、符号変調された時分割多周波ステップ信号を受信して、ファストタイム処理とスロータイム処理を行うようにした。
時分割多周波ステップ信号について、スロータイム処理を行うのは一例であり、その他の受信信号を、スロータイム信号として処理することもできる。
【0121】
例えば、図18(A)は、符号変調したパルス信号を、同じ周波数を使って、パルス繰り返し間隔(PRI)で繰り返し送信する場合に、一定数の繰り返し間隔で、スロータイム信号を生成する例を示す。
【0122】
図18(B)は、符号変調したパルス信号を、順に周波数を変化させて、パルス繰り返し間隔(PRI)で繰り返し送信する場合に、その周波数変化を繰り返す単位で、スロータイム信号を生成する例を示す。つまり、図18(B)は、時分割多周波ステップ信号の例である。
【0123】
この時分割多周波ステップ信号の場合、図18(C)に示すように、例えば周波数がN段階(Nは2以上の任意の整数)の変化であり、周波数fからfN−1まで変化するものを、m=0のスロータイム信号とし、以下、同じ周期で、m=1、m=2、・・・とスロータイム信号を生成する。
なお、図18(B)や図18(C)に示す例では、周波数を順に変化させる例を示したが、図示の例とは異なる順序で周波数を変化させてもよい。
【0124】
図18(D)は、複数の受信アンテナによるアンテナアレイを備えて、その複数の受信アンテナの受信信号をビームフォーミング処理する場合におけるスロータイム信号の例を示す。この例は、図5および図6に示す第4の実施の形態例に相当する。
それぞれのアンテナの受信信号がパルス信号であるとき、全てのアンテナの受信信号で、スロータイム信号を生成する。この場合のスロータイム信号では、距離や速度の情報の他に、目標の方向(方位角)の情報を取得することができる。
【0125】
[12.具体的な信号処理の例]
次に、第1の実施の形態例の構成で、信号処理を行う場合の具体的な信号処理の詳細を、説明する。
まず、受信部11で受信される信号は、送信部21から送信した信号が目標で反射し、目標までの往復時間に相当する時間遅延τの後、受信波として受信アンテナに入射し、受信部11で受信され、アナログ/デジタル変換器12でサンプリングされる。
サンプリングされた受信波は、[数24]式で示される。
【0126】
【数24】
【0127】
ここで、tn,mは周波数ステップ番号nのm回目の時刻、sは距離ゲート番号、codeは、CPC符号列番号(code=0,1)、fd,nは周波数ステップ番号nの周波数におけるドップラ周波数である。
複数目標が存在する環境下におけるサンプリング信号は、[数24]式の線形和として表される。
アナログ/デジタル変換器12でサンプリングされた信号は、パルス圧縮処理部131でパルス圧縮処理され、その出力は、次の[数25]式で示される。
【0128】
【数25】
【0129】
ここで、sinccodeは各CPC符号の自己相関関数を示す。パルス圧縮出力は、パルスドップラ処理部132のパルスドップラフィルタ(PDF)処理により、周波数ステップごとにm方向のフーリエ変換が施され、その出力は、次の[数26]式で示される。
【0130】
【数26】
【0131】
フーリエ変換が施された信号は、加算処理により、各codeのパルスドップラフィルタ出力が加算処理される。加算処理された出力は、次の[数27]式で示される。
【0132】
【数27】
【0133】
そして、パルスドップラ処理部132の出力は、スロータイム処理部15に供給され、スロータイム処理が行われる。スロータイム処理として、第2の実施の形態例のように合成帯域処理部15aでの合成帯域処理を行った場合、n方向のフーリエ変換が施される。
n方向のフーリエ変換が施された信号は、次の[数28]式で示される。
【0134】
【数28】
【0135】
合成帯域処理部15aの出力は,目標検出部16にて、しきい値処理がなされ、最大電力に対応する速度と距離が紐づけされて検出される。
そして、減算信号生成部18において、減算する目標数がKのときのパルス圧縮後の距離ビン毎の複素振幅は、次の[数29]式で示される。
【0136】
【数29】
【0137】
ここで、tgtn(=0,1,…K−1)は、減算する目標番号を示す。距離ビン毎の距離方向複素信号振幅生成部17の出力を用いて、距離ビン毎の減算信号波形が、次の[数30]式で生成される。
【0138】
【数30】
【0139】
この減算信号の減算処理により、元のパルス圧縮出力から減算信号を減算する。減算後の波形は、次の[数31]式で示される。
【0140】
【数31】
【0141】
ここで、減算処理部19は、例えば収束判定により、V^およびR^(^は本来は数式に示すように符号の上に付与される)が収束するまで、減算処理を繰り返す。収束したら、目標/サイドローブ判定に移行する。例えば、減算する目標数がKのときと、K−1のときの合成帯域後のサイドローブレベルを比較して、サイドローブレベルに低減が見られないときは、最後に検知した目標はサイドローブの誤検知であるとして、検知対象から除外し、次に大きなピーク電力をK番目の目標として検知して処理を続ける。サイドローブレベルに低減が確認されたら、目標であるとして、終了判定に移行する。
【0142】
例えば、[数31]式の減算後の波形が、[数32]式に示すように雑音レベルになったとき、全体の処理を終了する。
【0143】
【数32】
【0144】
減算後の波形が雑音レベルにならないとき、減算目標数更新により減算する目標に新たに推定した目標を加え、減算する目標数をK+1として、減算処理を繰り返す。
このような終了判定処理は、例えば図3のフローチャートのステップS18や、図8のフローチャートのステップS29での終了判定に相当する。
なお、このような雑音レベルの判断に基づいて終了判定を行うのは一例であり、その他の処理で終了判定してもよい。
【0145】
[13.変形例]
なお、上述した各実施の形態例で示す構成は、それぞれの構成を行う処理回路などのハードウェアを設けて、専用の回路で構成してもよいが、処理回路の一部または全てを、コンピュータで構成してもよい。コンピュータで構成する場合には、それぞれの処理を行うプログラムを用意し、そのプログラムのコンピュータへの実装で、各処理回路での処理が実現される。
ここでのコンピュータには、CPU(Central Processing Unit:中央処理装置)とその周辺機器をバスで接続した一般的な計算機の他に、FPGA(Field Programmable Gate Array)やASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の半導体チップで構成されたコンピュータによって実現してもよい。
【符号の説明】
【0146】
10a,10b,10c,10d,10e,10f,10g,10h…レーダ装置、11…受信部、12…アナログ/デジタル変換器、13…取得部、14…減算器、15…スロータイム処理部、15a…合成帯域処理部、15b…パルスドップラ処理部、15c…ビームフォーミング処理部、15d,15e…スロータイム処理部、16…目標検出部、17…距離方向複素信号振幅生成部、18…減算信号生成部、19…減算処理部、21…送信部、111,112,113,114…アンテナ、131…パルス圧縮処理部、132…パルスドップラ処理部、132a…帯域合成処理部、133…ビームフォーミング処理部、151…パルスドップラ処理部、152…帯域合成処理部、153…ビームフォーミング処理部、154…ビームフォーミング処理部、155…パルスドップラ処理部、156…帯域合成処理部、161…目標検出信号出力部、191…目標数推定部
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