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特開2020-127348ステーター、モーター、およびステーターの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-127348(P2020-127348A)
(43)【公開日】2020年8月20日
(54)【発明の名称】ステーター、モーター、およびステーターの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H02N 2/12 20060101AFI20200727BHJP
   H02N 2/16 20060101ALI20200727BHJP
【FI】
   H02N2/12
   H02N2/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-20092(P2019-20092)
(22)【出願日】2019年2月6日
(71)【出願人】
【識別番号】519315280
【氏名又は名称】NJコンポーネント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】一色国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】赤岸 正彦
(72)【発明者】
【氏名】八幡 信隆
(72)【発明者】
【氏名】大場 佳成
(72)【発明者】
【氏名】三谷 明洋
(72)【発明者】
【氏名】竹内 忠
(72)【発明者】
【氏名】山田 克夫
【テーマコード(参考)】
5H681
【Fターム(参考)】
5H681AA14
5H681BB03
5H681CC07
5H681DD02
5H681DD13
5H681DD23
5H681DD35
5H681DD40
5H681DD65
5H681DD87
5H681FF14
(57)【要約】
【課題】圧電素子の振動が均一に弾性体に伝達されるステーターを提供する。
【解決手段】圧電体2に環状扇形の複数の分極領域15が円環状に配置されてなる圧電素子10、円環状の金属製弾性体3と、配線基板4との間に狭持された状態で積層されてなり、複数の分極領域は、円環を直径方向に横断する直線200によって分割される二つの円弧状領域(21、22)のそれぞれに線対称となるように配置され、圧電体には電極がなく、弾性体は、一方の面に放射方向に等角度間隔で複数のスリット31が形成され、他方の面が円環状の分極領域の配置領域に積層され、配線基板は、圧電素子に積層される面に、二つの円弧状領域に対面する二つの駆動用配線パターン(42、44)と、いずれの分極領域にも対面しない接地用配線パターン43とが形成され、接地用配線パターンと弾性体とが導通されているステーター1としている。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平板状の圧電体に環状扇形の複数の分極領域が円環状に配置されてなる圧電素子が、金属からなる弾性体と、シート状の基材の一主面に配線パターンが形成されてなる配線基板との間に狭持された状態で積層されてなるステーターであって、
前記複数の分極領域は、円環状に配置された領域を直径方向に横断する直線によって分割される二つの円弧状領域のそれぞれに、同じ数となるように、当該直線に対して線対称に配置され、
前記圧電体の表裏両面には電極が形成されておらず、
前記弾性体は、円環状で、表裏一方の面に放射方向に等角度間隔で複数のスリットが形成されているとともに、表裏他方の面が、前記圧電素子における円環状の前記分極領域の配置領域に接着剤の層を介して積層され、
前記配線基板は、前記基材において、前記圧電素子に積層される側の面に前記配線パターンが形成されてなり、
前記配線パターンは、二つの前記円弧状領域に対面する二つの駆動用配線パターンと、いずれの分極領域にも対面しない接地用配線パターンとからなり、
前記接地用配線パターンと前記弾性体とが導通されてなる、
ことを特徴とするステーター。
【請求項2】
請求項1に記載のステーターであって、
前記圧電体は、円環状で、
前記配線基板の基材は、円環の一部が放射外方向に突出する形状に形成され、
前記駆動用配線パターンは、前記円弧状領域に対面しつつ、前記基材において放射方向に突出する領域にて前記放射外方向に突出する形状を有し、
前記接地用電極は、前記基材において放射方向に突出する領域にて放射外方向に突出する形状を有している、
ことを特徴とするステーター。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のステーターであって、前記圧電体の表裏両面が研磨されていることを特徴とするステーター。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載のステーターであって、前記配線基板は、駆動信号用の前記二つの配線パターンの端部間の領域に環状扇形の配線パターンが形成されていることを特徴とするステーター。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載のステーターと、前記弾性体において前記スリットが形成されている面に接触した状態で配置されるローターとを備えたことを特徴とするモーター。
【請求項6】
平板状の圧電体に環状扇形の複数の分極領域が円環状に配置されてなる圧電素子が、金属からなる弾性体と、シート状の基材の一主面に配線パターンが形成されてなる配線基板との間に狭持された状態で積層されてなるステーターの製造方法であって、
圧電体の表裏一方の面に、複数の円環扇形の電極を円環状に並べて形成するとともに、当該圧電体の表裏他方の面に、前記複数の円環扇形の電極が形成される円環状の領域に対面する円環状の電極を形成する電極形成ステップと、
前記複数の円環扇形の電極のそれぞれと、前記円環状の電極との間に電界を印加して前記円環扇形の電極の形成領域を分極させる分極ステップと、
前記複数の円環扇形の電極と前記円環状の電極とを除去して前記圧電素子を得る電極除去ステップと、
前記圧電素子の表裏一方の面に前記弾性体を積層して接着する弾性体接着ステップと、
前記圧電素子の表裏他方の面に前記配線基板を積層して接着する配線基板接着ステップと、
前記配線基板の前記接地用配線パターンと前記弾性体とを導通させるステップと、
を含み、
前記電極形成ステップでは、円環状の前記圧電体を直径方向に横断する直線によって分割される円弧状の二つの円弧状領域のそれぞれに、同じ数の前記円環扇形の電極を当該直線に対して線対称となるように形成し、
前記電極除去ステップでは、前記圧電体の表裏両面を研磨して、当該圧電体の表裏両面を平坦化するとともに、前記電極を除去し、
前記配線基板接着ステップでは、前記基材の一主面に、二つの前記円弧状領域に対面する形状の二つの駆動用配線パターンと、二つの前記円弧状領域に対面しない形状の接地用配線パターンとが形成された配線基板を前記圧電素子に接着して、二つの前記駆動用配線パターンのそれぞれを、二つの前記円弧状領域に個別に対面させるとともに、前記接地用電極を、前記圧電素子において分極されていない領域に対面させる、
ことを特徴とするステーターの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステーター、モーター、およびステーターの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
モーターは、ステーターとローターとで構成される。そして、モーターには、進行波型超音波モーターがある。超音波モーターは、電磁石を用いたモーターと比べ、低速で高トルクが得られる、高速応答性、停止時におけるトルクの保持、静粛性、磁気ノイズが発生しない、などの特徴を有している。
【0003】
一般的な超音波モーターのステーターは、例えば、円環状の弾性体の表裏一方の端面に、圧電素子が接着剤によって貼着された構造を有する。弾性体の表裏他方の端面は、普通、放射方向に多数のスリットが等角度間隔に形成されて、櫛歯状に形成されている。
【0004】
超音波モーターの圧電素子は、円環状の圧電体の表裏両面に円環扇形の電極が形成された構造を有している。圧電体の表裏一方の面には、円周を所定角度毎に分割した環状扇形の複数の駆動用電極が形成されており、圧電体の表裏他方の面には、表裏一方の面に形成された複数の駆動用電極の形成領域に対面する接地用電極が形成されている。接地用電極は、普通、円環状に形成されている。また、圧電体は、駆動用電極の形成位置で分極されており、その分極方向は、円周に沿って交互に反対方向となっている。なお、駆動用電極と接地用電極は、分極処理において使用されたものであり、超音波モーターを駆動する際には、その分極処理に用いた電極を用いている。
【0005】
そして、接地用電極と、複数の駆動用電極のそれぞれの間に、所定の周波数の電圧信号を所定の位相差で印加すると、各駆動用電極の形成領域に定在波が発生し、その定在波が合成されて、ステーターに円周方向の進行波が発生する。その進行波が、弾性体において、櫛歯が形成されている側の端面に積層されているローターに摩擦力を介して伝達され、ローターが回転する。なお、超音波モーターの基本的な構造や原理については以下の非特許文献1や2に記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】新和商事株式会社、”超音波モーターカタログ”、[online]、[平成31年1月25日検索]、インターネット<URL:http://www.shinwa-syoji.com/others/img/motor.pdf>
【非特許文献2】公益社団法人日本セラミックス協会、”セラミックスアーカイブズ「超音波モーター」”、[online]、[平成31年1月25日検索]、インターネット<URL:http://www.ceramic.or.jp/museum/contents/pdf/2007_6_02.pdf>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
超音波モーターを構成する圧電素子は、普通、環状扇形の分極領域を有する円環状の圧電体の表裏両面に各分極領域に駆動信号を印加するための電極が設けられた構造を有する。そして、この電極は、圧電体を分極する際に用いられたものであり、従来の超音波モーターでは必須の構成となっている。そして、電極は、導電ペーストを印刷したり、金属をメッキしたりすることで形成された厚膜である。したがって、電極は、場所に応じて、厚さにバラツキがある。そのため、弾性体と圧電体とを接着剤を用いて貼り合わせると、電極と弾性体との間に介在する接着層の厚さに差が生じる可能性がある。弾性体と圧電素子との間に気泡が混入する可能性もある。圧電素子と弾性体との層間において、接着剤が厚かったり、気泡が混入したりした箇所では、圧電素子にて発生した振動が弾性体に伝達し難くなり、圧電素子から弾性体への振動伝達が不均一となる。
【0008】
そこで本発明は、圧電素子の振動が均一に弾性体に伝達されるステーター、そのステーターを用いたモーター、およびステーターの製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、平板状の圧電体に環状扇形の複数の分極領域が円環状に配置されてなる圧電素子が、金属からなる弾性体と、シート状の基材の一主面に配線パターンが形成されてなる配線基板との間に狭持された状態で積層されてなるステーターであって、
前記複数の分極領域は、円環状に配置された領域を直径方向に横断する直線によって分割される二つの円弧状領域のそれぞれに、同じ数となるように、当該直線に対して線対称に配置され、
前記圧電体の表裏両面には電極が形成されておらず、
前記弾性体は、円環状で、表裏一方の面に放射方向に等角度間隔で複数のスリットが形成されているとともに、表裏他方の面が、前記圧電素子における円環状の前記分極領域の配置領域に接着剤の層を介して積層され、
前記配線基板は、前記基材において、前記圧電素子に積層される側の面に前記配線パターンが形成されてなり、
前記配線パターンは、二つの前記円弧状領域に対面する二つの駆動用配線パターンと、いずれの分極領域にも対面しない接地用配線パターンとからなり、
前記接地用配線パターンと前記弾性体とが導通されてなる、
ことを特徴とするステーターとしている。
【0010】
前記圧電体は、円環状で、
前記配線基板の基材は、円環の一部が放射外方向に突出する形状に形成され、
前記駆動用配線パターンは、前記円弧状領域に対面しつつ、前記基材において放射方向に突出する領域にて前記放射外方向に突出する形状を有し、
前記接地用電極は、前記基材において放射方向に突出する領域にて放射外方向に突出する形状を有している、
ことを特徴とするステーターとすることもできる。
【0011】
前記圧電体の表裏両面が研磨されているステーターとしてもよい。さらには、前記配線基板は、駆動信号用の前記二つの配線パターンの端部間の領域に環状扇形の配線パターンが形成されているステーターとすることもできる。
【0012】
本発明のその他の態様は、上記いずれかに記載のステーターと、前記弾性体において前記スリットが形成されている面に接触した状態で配置されるローターとを備えたモーターである。
【0013】
本発明の範囲には、平板状の圧電体に環状扇形の複数の分極領域が円環状に配置されてなる圧電素子が、金属からなる弾性体と、シート状の基材の一主面に配線パターンが形成されてなる配線基板との間に狭持された状態で積層されてなるステーターの製造方法も含まれており、当該製造方法は、
圧電体の表裏一方の面に、複数の円環扇形の電極を円環状に並べて形成するとともに、当該圧電体の表裏他方の面に、前記複数の円環扇形の電極が形成される円環状の領域に対面する円環状の電極を形成する電極形成ステップと、
前記複数の円環扇形の電極のそれぞれと、前記円環状の電極との間に電界を印加して前記円環扇形の電極の形成領域を分極させる分極ステップと、
前記複数の円環扇形の電極と前記円環状の電極とを除去して前記圧電素子を得る電極除去ステップと、
前記圧電素子の表裏一方の面に前記弾性体を積層して接着する弾性体接着ステップと、
前記圧電素子の表裏他方の面に前記配線基板を積層して接着する配線基板接着ステップと、
前記配線基板の前記接地用配線パターンと前記弾性体とを導通させるステップと、
を含み、
前記電極形成ステップでは、円環状の前記圧電体を直径方向に横断する直線によって分割される円弧状の二つの円弧状領域のそれぞれに、同じ数の前記円環扇形の電極を当該直線に対して線対称となるように形成し、
前記電極除去ステップでは、前記圧電体の表裏両面を研磨して、当該圧電体の表裏両面を平坦化するとともに、前記電極を除去し、
前記配線基板接着ステップでは、前記基材の一主面に、二つの前記円弧状領域に対面する形状の二つの駆動用配線パターンと、二つの前記円弧状領域に対面しない形状の接地用配線パターンとが形成された配線基板を前記圧電素子に接着して、二つの前記駆動用配線パターンのそれぞれを、二つの前記円弧状領域に個別に対面させるとともに、前記接地用電極を、前記圧電素子において分極されていない領域に対面させる、
ことを特徴とするステーターの製造方法としている。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、圧電素子の振動が均一に弾性体に伝達されるステーター、そのステーターを用いたモーター、およびステーターの製造方法が提供される。なお、その他の効果については、以下の記載で明らかにする。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】従来例に係るステーターを一方向から見たときの斜視図である。
図2】従来例に係るステーターを他の方向から見たときの斜視図である。
図3】従来例に係るステーターの製造方法を示す図である。
図4】本発明の実施例に係るステーターを一方向から見たときの斜視図である。
図5】実施例に係るステーターを他の方向から見たときの斜視図である。
図6】実施例に係るステーターの製造方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施例について、以下に添付図面を参照しつつ説明する。なお、以下の説明に用いた図面において、同一又は類似の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略することがある。図面によっては説明に際して不要な符号を省略することもある。
===実施例について===
本発明の実施例に係るステーターは、進行波型超音波モーター用のステーター(以下、ステーターと言うことがある)であり、円環状の圧電体に円環状の弾性体を積層させた構造を有する。そして、実施例に係るステーターは、従来のステーターと同様に、平板状の圧電体に、環状に配置されてなる環状扇形の複数の分極領域が形成されてなる圧電素子を有しているものの、圧電素子と弾性体との間に介在する接着層の厚さが均一となる構造を備えている。以下では、円環状の圧電体を有する従来例に係るステーターの構造、製造方法、および問題点について詳しく説明し、その上で、本発明の実施例に係るステーターについて、より詳しく説明する。
===従来例に係るステーター===
<構造>
図1図2とに、従来例に係るステーター101を示した。ステーター101は、円環状の圧電体2が、分極処理されてなる圧電素子110と、圧電体2と同軸に積層されてなる円環状の金属製弾性体3とを備えている。ここで、圧電体2の外形となる円環の軸100方向を上下方向とするとともに、圧電体2の下方に弾性体3が積層されていることとして、上下の各方向を規定すると、図1(A)、および図1(B)は、それぞれ、ステーター101を上方から見たときの斜視図、および上方から見たときの分解斜視図を示している。また、図2(A)、および図2(B)は、それぞれ、ステーター101を下方から見たときの斜視図、および分解斜視図を示している。
【0017】
図1(A)、図2(A)に示したように、圧電体2の上面に、シート状の基材141の一主面に配線パターン(142〜144)が形成されてなる配線基板104が積層されている。配線基板104は、外部の駆動回路からの駆動信号を圧電素子110に印加するための配線部品であり、ここに示した従来例に係るステーター101では、配線基板104として、FPC(Flexible Printed Circuits)を用いている。FPCからなる配線基板(以下、FPC104と言うことがある)は、例えば、柔軟性のある樹脂製フィルムからなる基材141の一主面に導電材からなる配線パターン(142〜144)が形成された構造を有する。
【0018】
また、図1(A)、図1(B)に示したように、圧電素子110の上面には、環状扇形の複数の駆動用電極11が、圧電体2の円環形状に沿って形成されている。また、図2(B)に示したように、圧電体2の下面には、円環状の接地用電極12が形成されている。駆動用電極11、および接地用電極12は、圧電素子110を駆動する際に外部回路に接続される電極であるとともに、圧電素子110の製造過程において、圧電体2を分極する分極処理に用いられた電極でもある。なお、分極処理では、圧電体2は、上面に形成されている複数の駆動用電極11のそれぞれと、接地用電極12との間に、上方から下方、あるいは下方から上方に向かう電界が印加される。それによって、圧電体2において、それぞれの駆動用電極11が形成されている環状扇形の各領域が、分極領域として、上方から下方に向かう方向、あるいは下方から上方に向かう方向に分極される。また、分極処理では、互いに隣接する分極領域の分極方向が互いに逆方向となるように分極する。なお、図1(A)、および図1(B)では、分極方向が同じ分極領域に形成されている駆動用電極11同士を、同じ種類のハッチングで示した。
【0019】
また、円環状の圧電体2を、直径方向に横断する直線200によって、円環を二分割した二つの領域に分割したとき、各領域に同じ数の駆動用電極11が当該直線200に対して線対称となるように形成されている。そして、図1に示した例では、10個の駆動用電極11が円弧状に配置されて、その10個一組の駆動用電極11が、上記直線200に対して線対称となるように形成されている。そして、10個一組の駆動用電極11のそれぞれが配置されている二つの領域を円弧状領域(21、22)として、各円弧状領域(21、22)にある10個の駆動用電極11は、銀ペーストなどの導電材が円弧状に塗布されてなる導通パターン23によって互いに接続されている。
【0020】
また、圧電体2において、上記二つの円弧状領域(21、22)を仕切る直線200上で、互いに180゜の角度となる二つの位置には、円環扇状の分極されていない領域がある。そして、この分極されていない領域にも駆動用電極11とは異なる環状扇形の電極(以下、補助電極13と言うことがある)が形成されている。図1では、補助電極13を網目のハッチングで示した。なお、図1(A)に示したように、二つの補助電極13の一方は、圧電体2の上面に露出し、他方は、FPC104の下方に配置されている。
【0021】
FPC104には、外部回路に接続される三つの配線パターン(142〜144)が平行となるように形成されており、両端の二つの配線パターン(142、144)からは、それぞれ、異なる位相の駆動信号が出力され、中央の配線パターン143は接地される。FPC104の各配線パターン(142〜144)は、例えば、厚さ方向にのみ導電性を有する異方導電性接着剤により圧電体2の上面に接着されている。FPC104の三つの配線パターン(142〜144)のうち、両端の二つの配線パターン(以下、駆動用配線パターン(142、144)と言うことがある)は、一つの補助電極13に隣接する二つの駆動用電極11aのそれぞれに接続されている。それによって、FPC104における二つの駆動用配線パターン(142、144)の一方の駆動用配線パターン142が、二つの円弧状領域(21、22)の一方の円弧状領域21に形成されている駆動用電極11の全てに接続され、他方の駆動用配線パターン144が、他方の円弧状領域22に形成されている駆動用電極11の全てに接続される。
【0022】
そして、圧電素子110を駆動させるためには、圧電体2の下面を接地するとともに、上面の二つの円弧状領域(21、22)のそれぞれに形成されている駆動用電極11に対し、位相が90゜ずれた駆動信号を印加する必要がある。ここに示した従来例に係るステーター101では、図2(A)において点線の枠で示した、弾性体3の側面から圧電体2の上面周縁に至る領域201に塗布された、銀ペーストなどの導電材により、金属製の弾性体3とFPC104における中央の配線パターン(以下、接地用配線パターン143と言うことがある)とが接続されている。それによって、接地されているFPC104における接地用配線パターン143と弾性体3の下面とが接続されて当該弾性体3が接地され、弾性体3の下面と接着されている圧電素子110の下面に形成されている接地用電極12が接地される。
【0023】
なお、図2(A)、図2(B)に示したように、弾性体3の下面には、放射方向に多数のスリット31が等角度間隔に形成されて、櫛歯状に形成されている。圧電素子110が外部回路からの駆動信号によって駆動されると、圧電素子110の振動が弾性体3に伝達し、弾性体3の下面に円周方向の進行波が発生する。弾性体3の下面にローターを接触させた状態で配置して超音波モーターを構成すれば、弾性体3の下面に発生した進行波が摩擦力を介してローターに伝達されてローターが回転する。
<製造方法>
次に、図1図2に示した従来例に係るステーター101の製造方法について説明する。図3に、従来例に係るステーター101の製造手順を示した。まず、図3(A)に示したように、円環状の圧電体2の表裏一方の面に、銀ペーストなどの導電材を印刷したり、マスクを用いて、金などの金属をスパッタリングによって形成したりして、図1に示した駆動用電極11に対応する円環扇状の複数の電極(以下、駆動用電極11と言うことがある)を形成する。図3に示した例では、20個の環状扇形の駆動用電極11を形成している。また、図3(B)に示したように、圧電体2の表裏他方の面には、円環状の電極(以下、接地用電極12と言うことがある)を形成する。なお、接地用電極12は、円環状でなくてもよく、二つの円環状領域(21、22)に対応させて、圧電体2の下面に、円弧状に二つの領域に形成してもよい。
【0024】
そして、駆動用電極11と円環状の接地用電極12との間に電界を印加し、圧電体2における、それぞれの駆動用電極11の形成領域を分極させる。このとき、図3(A)においてハッチングの種類が異なる駆動用電極11の形成領域には、極性が異なる電界を印加する。なお、図1に示した補助電極13に対応する電極(以下、補助電極13と言うことがある)の形成領域には電界を印加せず、この領域は分極させない。以下では、圧電体2において、駆動用電極11が形成されている面を上面とする。
【0025】
次に、図3(C)に示したように、圧電体2において、補助電極13を通る直線200を境界にして互いに線対称となる、上記の二つの円弧状領域(21、22)のそれぞれに形成されている10個一組の駆動用電極11の上面に銀ペーストを印刷するなどして、円弧状の導通パターン23を形成する。それによって、各円弧状領域(21、22)のそれぞれに形成されている10個一組の駆動用電極11が接続され、圧電素子110が完成する。
【0026】
そして、図3(D)に示したように、圧電素子110の下面に環状の金属製弾性体3を接着する。また、圧電素子110の上面にFPC104を接着する。このとき、駆動用配線パターン(142、144)が、二つの円弧状の電極(21、22)のそれぞれの端部に接触するようにFPC104を配置する。そして、接地用配線パターン143と弾性体3とを銀ペーストなどを用いて導通させる。このようにして、図1(A)、図2(A)に示した従来例に係るステーター101が完成する。
【0027】
ところで、従来例に係るステーター101は、圧電体2を分極するときに用いた電極(11、12)を、駆動信号を印加するための電極(11、12)としても用いている。しかし、圧電体2と弾性体3とは接着剤によって接着されており、従来例に係るステーター101では、上述したように、圧電体2の下面に形成されている接地用電極12の厚さにバラツキがあると、圧電体2の下面と弾性体3の上面との間に介在する接着剤の層の厚さにバラツキが生じ、圧電素子110から弾性体3への振動伝達が不均一となる。
===実施例に係るステーター===
<構造>
図4図5とに、本発明の実施例に係るステーター1を示した。図4(A)、および図4(B)は、それぞれ、ステーター1を上方から見たときの斜視図、および上方から見たときの分解斜視図を示している。また、図5(A)、および図5(B)は、それぞれ、ステーター1を下方から見たときの斜視図、および分解斜視図を示している。
【0028】
図4、および図5に示したように、実施例に係るステーター1は、下方から弾性体3、圧電素子10が、この順に同軸となるように積層されている。そして、圧電素子10の上面に、FPC4が積層されている。圧電素子10と弾性体3、および圧電素子10とFPC4とは、従来例に係るステーター101と同様に、接着剤によって接着されている。
【0029】
実施例に係るステーター1における圧電素子は、図中点線で示したように、従来例に係るステーター101の圧電素子110と同様に、円環扇状の複数の分極領域15が形成されている。そして、実施例に係るステーター1における圧電素子10は、直径方向の直線200に対して線対称となる二つの円弧状領域(21、22)のそれぞれに、円環扇状の分極領域15が、10箇所ずつ形成されている。しかし、図4(A)、図4(B)に示したように、圧電素子10の上面には、駆動用電極11が配置されておらず、図5(B)に示したように、圧電素子10の下面には、接地用電極12がない。
【0030】
このように、実施例に係るステーター1の圧電素子10は、従来例に係るステーター101の圧電素子110に対し、圧電体2の表裏に駆動用電極11、および接地用電極12が形成されていない点が異なっている。なお、各分極領域15の分極方向は、従来例に係るステーター101と同様である。
【0031】
図4(A)、図4(B)、図5(B)に示したように、FPC4の基材41は、円環状の圧電体2の上面を覆う円環の一部に、放射外方向に矩形状に突出する領域が一体的に形成された平面形状を有する。基材41における圧電体2側の面には、圧電体2における二つの円弧状領域(21、22)に対面する円弧の一端が、基材41において、矩形状に突出する領域に形成されて放射外方向に突出する直線に連続する形状の二つの駆動用配線パターン(42、44)と、基材41における矩形状の領域に放射外方向に直線状に突出する接地用配線パターン43とが形成されている。
【0032】
なお、本実施例では、接地用配線パターン43の放射内方向側の端部は、基材41における円環状の領域において、二つの駆動用配線パターン(42、44)の端部同士が対向する環状扇形の領域に沿う形状に形成されている。なお、接地用配線パターン43は、いずれの分極領域15にも対面していない。
【0033】
なお、基材41の円環状の領域において、接地用配線パターン43に対する反対側の領域には、駆動用配線パターン(42、44)や接地用配線パターン43とは別に、独立した環状扇形の配線パターン(以下、補助配線パターン45と言うことがある)が形成されている。それによって、圧電素子10が接着される基材41の円環状の領域は、各配線パターン(42〜45)間に形成される狭い間隙を除けば、一様の厚さとなる。
【0034】
そして、実施例に係るステーター1では、図5(A)において点線の枠で示した領域201に、銀ペーストなどの導電材が塗布されており、この導電材により、接地用配線パターン43と、金属製の弾性体3とが導通している。それによって、外部回路によって接地されているFPC4における接地用配線パターン43を介して弾性体3の下面が接地され、弾性体3の上面に接している圧電体2の下面が接地されている。
【0035】
このように、実施例に係るステーター1では、圧電素子10の上面と下面のいずれにも電極が形成されておらず、圧電素子10の表裏両面が平坦面になっている。そのため、圧電素子10と弾性体3との間、および圧電素子10とFPC4との間に介在する接着剤の層の厚さが均一になり、圧電素子10に発生させた振動が均一に弾性体3に伝達される。
<製造方法>
次に、図4図5とに示した実施例に係るステーター1の製造方法について説明する。図6に、実施例に係るステーター1の製造手順を示した。まず、図6(A)に示したように、従来例に係るステーター101と同様にして、円環状の圧電体2の表裏一方の面に、銀ペーストを印刷したり、マスクを用いて選択的にスパッタリングをしたりして、円環扇状の複数の電極11を形成する。また、圧電体2の表裏他方の面には、図6(B)に示したように、円環状の電極12を形成する。そして、図6(A)に、二種類の斜線のハッチングで示した電極11と円環状の電極12との間に電界を印加して、円環扇状の電極11が形成されている領域を分極させる。このとき、図中で、斜線のハッチングの種類が異なる電極11には、極性が異なる電界を印加する。それによって、圧電体2に複数の環状扇形の分極領域15が形成される。なお、ここまでの手順は、図3に示した従来例に係るステーター101の製造方法と同様である。しかし、実施例に係るステーター1では、図6(C)、図6(D)に示したように、圧電体2を分極させた後に、圧電体2の表裏両面に形成した電極(11、12)を除去する。それによって、表裏両面のいずれにも電極(11、12)が形成されていない圧電素子10が得られる。
【0036】
圧電体2に形成した電極を除去するためには、例えば、銀ペーストの電極であれば、溶剤を用いて除去することができる。また、スパッタリングによって形成した電極であれば、逆スパッタリングによって除去することができる。
【0037】
ところで、圧電体2は、分極に際して電界が印加されると、その分極の方向に応じ、厚さ方向に収縮あるいは膨張する。すなわち、圧電素子10を得る際の分極処理において、圧電体2の表面にうねりが生じている場合がある。また、圧電体2における分極領域15とそれ以外の領域との間に極めて小さな段差が生じている可能性もある。そこで、本発明の実施例に係るステーター1では、圧電体2の表裏両面を研磨することで電極(11、12)を除去し、分極処理によって生じた圧電体2の表面と裏面と(以下、表層と言うことがある)に生じた極めて小さな変形も平坦に均している。なお、圧電体2は、粉体状の圧電材料を成形して焼結させたセラミックスである。したがって、圧電体2の表層が研磨されていれば、その表層に存在する粉体粒子は、表層に露出する側が平坦になっている。すなわち、電子顕微鏡などを用いて圧電体2の断面を観察すれば、研磨処理の有無を判別することができる。
【0038】
次に、図6(E)に示したように、圧電体2の表裏一方の面に環状の金属製弾性体3を接着し、圧電体2の表裏他方の面にFPC4を接着する。このとき、駆動用配線パターン(42、44)が円弧状領域(21、22)に形成されている全ての分極領域15を覆いつつ、接地用配線パターン43がいずれの分極領域15とも対面しないように位置合わせをする。なお、FPC4と圧電体2とを正確に位置合わせするためには、例えば、圧電体2の側面とFPC4の基材41の双方に位置合わせ用のマークを形成しておけばよい。あるいは、分極領域15が形成されていない角度範囲を示すマークを圧電体2の側面などに設け、接地用配線パターン43における円環扇状の部分が、そのマークが示す角度範囲内に配置されるように、FPC4と圧電体2とを積層してもよい。
【0039】
そして、以上の手順で、FPC4と圧電体2とを積層して接着したならば、FPC4の接地用配線パターン43の下面と弾性体3とを銀ペーストなどを用いて導通させる。このようにして、図5(A)、図6(A)に示した実施例に係るステーターを完成させる。なお、実施例に係るステーター1の弾性体3の下面に、当該下面と接触する面を有するローターを配置すれば、進行波型超音波モーターになる。
===その他の実施例===
上記実施例に係るステーター1のFPC4には、二つの駆動用電極パターン(42、44)の端部間の領域に補助配線パターン45が形成されていたが、FPC4に補助配線パターン45が形成されていなくてもよい。なお、FPC4に補助配線パターン45を設けない場合では、例えば、FPC4と圧電体2とを接着する際にFPC4の上面が押圧された場合、二つの駆動用電極パターン(42、44)の端部間の領域が凹み易くなる。そのため、その凹んだ領域の周囲の分極領域15とFPC4との間で、接着層の厚さにばらつきが生じる可能性がある。分極領域15において接着層の厚さのばらつきが生じれば、圧電素子10を駆動する際に、分極領域15に電界が均一に印加されず、圧電振動にバラツキが生じるおそれがある。
【0040】
上記実施例に係るステーター1では、弾性体3と接地用配線パターン43とを弾性体3の側面に配置した導電材によって接続していたが、例えば、スルーホールを介して弾性体3の上面と接地用配線パターン43の下面とを接続してもよい。いずれにしても、接地用配線パターン43と弾性体3とが導通されていればよい。
【0041】
上記実施例に係るステーター1では、圧電素子10は、円環状の圧電体2に複数の円環扇形の複数の分極領域15が円環状に配置された構造を有していたが、圧電体2の平面形状は、円環状でなくてもよい。圧電素子10は、例えば、円板などの平板状の圧電体2に複数の円環扇形の複数の分極領域15が円環状に配置されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1,101 ステーター、2 圧電体、3 弾性体、4,104 配線基板(FPC)、10、110 圧電素子、11,12 電極、15 分極領域、21,22 円弧状領域、23 導通パターン、41,141 基材、42,44,142,144 駆動用配線パターン、43,143 接地用配線パターン、100 軸、200 直線
図1
図2
図3
図4
図5
図6