【解決手段】1種又は2種以上のタンパク質由来のフラグメントペプチドを、質量分析を使用して定量する。1種又は2種以上のタンパク質は、CBL、FPGS、HSP90A、HSP90B、INSR、MCL1及びTrkAからなる群から選択される。
前記分画工程が、ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、及び逆相高速液体クロマトグラフィーからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
前記質量分析が、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極質量分析、イオントラップ/四重極ハイブリッド質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、及び/又は飛行時間型質量分析を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
使用される質量分析のモードが、選択反応モニタリング(SRM)、多重反応モニタリング(MRM)、及び/又は多重選択反応モニタリング(mSRM)である、請求項5に記載の方法。
前記1種又は2種以上のフラグメントペプチドの定量が、前記生体試料中の前記1種又は2種以上のフラグメントペプチドの量を、異なる別個の生体試料中の同一の1種又は2種以上のフラグメントペプチドの量と比較することを含む、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
前記1種又は2種以上のフラグメントペプチドの定量が、生体試料中の前記1種又は2種以上のフラグメントペプチドの量を、同一のアミノ酸配列を有する既知量の添加された内部標準ペプチドとの比較によって決定することを含む、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
前記タンパク質消化物中の前記1種又は2種以上のフラグメントペプチドの検出及び/又は定量が、対応するタンパク質の存在を示すとともに、対象における癌の診断上のステージ/グレード/ステータスとの関連を示す、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
前記1種又は2種以上のフラグメントペプチド又は前記対応するタンパク質の検出及び/又は定量の結果を相関させ、前記対象に対する最適な癌処置療法の情報を提供することをさらに含む、請求項14に記載の方法。
前記相関が、マルチプレックスフォーマットにおいて、他のタンパク質又は他のタンパク質由来のペプチドを検出及び/又は定量することと組み合わされる、請求項15に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
詳細な説明
患者組織、例えば、ホルマリン固定組織中のタンパク質CBL、FPGS、HSP90A、HSP90B、INSR、MCL1及びTrkAを測定するための方法が提供される。それぞれのタンパク質の測定レベルは、単独又は組み合わされて、癌処置法の改善の一部としての診断ツールとして使用可能である。例えば、タンパク質の1種又は2種以上のレベルは、試料が取得された対象において、癌の診断上のステージ/グレード/ステータスと相関させることができる。相関はまた、マルチプレックスフォーマットにおいて、他のタンパク質、又は他のタンパク質由来のペプチドを検出及び/又は定量することと組み合わせて、対象に対する癌処置法の改善を提供することができる。
【0013】
測定されるタンパク質
CBL(別名、FRA11B、NSLL及びRNF55)は、E3ユビキチンタンパク質リガーゼであり、細胞のシグナル伝達及びタンパク質のユビキチン化に関与する。CBLは、E3リガーゼとして機能するため、ユビキチンと、そのタンパク質基質(典型的には、受容体チロシンキナーゼ)との間の共有結合の形成を触媒することができる。CBLは、細胞表面受容体の活性化によって誘発される多くのシグナル伝達経路の負の調節因子として機能し、活性化した受容体チロシンキナーゼ、例えば、KIT、FLT1、FGFR1、FGFR2、PDGFRA、PDGFRB、EGFR、CSF1R、EPHA8及びKDRを認識することにより、細胞のシグナル伝達の終結をもたらす。CBLは、膜結合性のHCK、SRC及びSRCファミリーのその他のキナーゼを認識し、それらのユビキチン化及び分解を調節する。CBLは、造血細胞におけるシグナル伝達に関与し、骨芽細胞の分化及びアポトーシスの制御に重要な役割を果たし、その制御は、破骨細胞性骨吸収に必須である。
【0014】
FPGS(別名ホリルポリ−γ−グルタミン酸合成酵素及びホリルポリグルタミン酸合成酵素)は、葉酸からポリグルタミン酸誘導体への変換を触媒するタンパク質であり、細胞中に葉酸化合物を蓄積させ、これらの補助因子を細胞内に保持させる。これらの補助因子は、葉酸依存性酵素のほとんどに対する重要な基質であり、それらの酵素は、プリン、ピリミジン及びアミノ酸の合成に関わる一炭素転移反応(one-carbon transfer reactions)に関与している。非置換の還元された葉酸は、好ましい基質である。FPGSは、メトトレキサート(MTX)をポリグルタミン酸に代謝する際にも役割を果たしている。
【0015】
熱ショックタンパク質90A(HSP90A)及び熱ショックタンパク質90B(HSP90B)は、同一の機能を有するほぼ同一のタンパク質であり、シャペロンタンパク質として作用する。シャペロンタンパク質は、他のタンパク質が適切に折り畳まるのを補助し、熱ストレスに対してタンパク質を安定させ、タンパク質の分解を補助する。これらのタンパク質はまた、腫瘍の成長のために必要なその他の多くのタンパク質を安定させ、このことが、HSP90A及びHSP90Bに対する阻害剤が、抗癌剤として研究されている理由である。クラスとしての熱ショックタンパク質は、あらゆる種にわたって最も高発現の細胞タンパク質の一つであり、一般に、温度上昇によるストレスの際に機能して細胞を保護し、ストレスのない細胞において総タンパク質の1〜2%を占める。しかしながら、細胞に熱が加えられると、熱ショックタンパク質の割合は、細胞タンパク質の4〜6%に上昇する。HSP90Aタンパク質は、2つのアイソフォームを有し、両方とも細胞質中に見られる。HSP90AAの発現は、誘導性である一方で、HSP90ABは、恒常的に発現される。HSP90Bタンパク質は、1フォームのみ有し、小胞体に局在する。HSP90A及びHSP90Bを薬剤によって標的とすることは、臨床試験において、見込みのある効果を示している。HSP90Bはまた、ヒトの卵巣自己免疫疾患に関与する自己抗原のバイオマーカー及び標的の一つとしても同定されていて、その自己免疫疾患は、卵巣障害及びそれによる不妊を引き起こす。
【0016】
INSR(別名インスリン受容体、IR)は、インスリン、IGF−I、IGF−IIによって活性化され、チロシンキナーゼ受容体の大きなクラスに属する膜貫通受容体である。代謝的には、インスリン受容体は、グルコースの恒常性の制御において重要な役割を果たし、悪化した状態下の機能的なプロセスによって、様々な臨床症状、例えば、糖尿病及び癌を生じ得る。インスリン受容体は、単一のINSR遺伝子によってコードされ、転写の間の選択的スプライシングによって、その遺伝子からIR−A又はIR−Bアイソフォームが生じる。いずれかのアイソフォームのその後の翻訳後のイベントにより、タンパク質分解性に切断されたα及びβサブユニットを生じ、それらのサブユニットは組み合わされて、最終的に、ホモ二量体又はヘテロ二量体化し、ジスルフィド結合で結合された約320kDaの膜貫通インスリン受容体が形成される。
【0017】
MCL1(別名骨髄細胞白血病1(myeloid cell leukemia 1)及びBCL2ファミリーアポトーシス制御因子)は、BCL−2タンパク質ファミリーのタンパク質である。2つの区別可能なMCL1のアイソフォームが同定されている。長い方の遺伝子産物は、このタンパク質のより長いフォーム(アイソフォーム1)を生じ、それは、アポトーシスを阻害することにより細胞の生存を増強する一方で、選択的スプライシングされた短い方の遺伝子産物(アイソフォーム2)は、アポトーシスを促進し、細胞死を誘導する。
【0018】
TrkA(別名トロポミオシン受容体キナーゼA)は、チロシンキナーゼTrk受容体ファミリーのメンバーであり、それらは、哺乳動物の神経系においてシナプスの強度及び可塑性を制御する。Trk受容体は、いくつかのシグナル伝達カスケードを通じて神経の生存及び分化に作用する。しかしながら、これらの受容体の活性化は、神経の機能的特性に重大な影響を及ぼす。ニューロトロフィンが結合することによるTrk受容体の活性化は、シグナルカスケードの活性化を導き、細胞の生存及びその他の機能的制御の促進をもたらし得る。TrkAは、神経成長因子(NGF)の結合に対して、最も高い親和性を有する。NGFは、局所作用及び核内作用の両方において重要であり、錐状体の成長、運動性、及び神経伝達物質に対する生合成酵素(biosynthesis of enzymes for neurotransmitters)をコードする遺伝子の発現を制御する。TrkAは、その他のチロシンキナーゼ受容体がするように、リガンドの結合に応答して二量体になる。これらの二量体は、互いにリン酸化し、キナーゼの触媒活性を増強することにより、異なるシグナル伝達カスケードの活性化を介して神経の成長及び分化に作用する。3つの既知の経路は、PLC、Ras/MAPK(mitogen-activated protein kinase)及びPI3K(phosphatidylinositol 3-kinase)経路である。これらの経路は、核及びミトコンドリアの細胞死プログラムの妨害に関与し、結局は、転写因子、CREB(cAMP response element-binding)の活性化に至り、次いで、CREBは、腫瘍発生を促進する特定の遺伝子を活性化する。
【0019】
これらのタンパク質はそれぞれ、現在の臨床業務における癌治療薬、又は臨床的に開発中の癌治療薬のための標的であるため、患者の腫瘍細胞において、これらのタンパク質のそれぞれの発現レベルを決定することは、癌治療法について決定するプロセスの一部として使用可能である。
【0020】
アッセイ法
以下の方法は、定量的なプロテオミクスベースのアッセイを提供し、そのアッセイを使用して、癌患者からのホルマリン固定組織中の測定されるそれぞれのタンパク質を定量することができる。アッセイからのデータを使用して、例えば、癌療法のための処置決定を改善することができる。
【0021】
タンパク質は、以下に詳細に記載されるように、SRMアッセイ又はDIA法によって測定されてもよい。SRMアッセイを使用して、測定されるそれぞれのタンパク質からの特定のペプチドの相対定量レベル又は絶対定量レベルを測定することができる一方で、DIAは、タンパク質の相対レベルのみを測定することができる。いずれのタイプのアッセイも、生体試料から取得された所与のタンパク質調製物中のタンパク質のそれぞれの量を、質量分析によって測定する方法を提供する。より具体的には、アッセイは、患者の腫瘍組織、例えば、ホルマリン固定された癌患者組織から得られた細胞から調製された複雑なタンパク質溶解液試料中のこれらのタンパク質を、直接的に測定することができる。ホルマリン固定組織からタンパク質試料を調整する方法は、米国特許第7,473,532号に記載され、その内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第7,473,532号に記載の方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville、MD)から市販されているLiquid Tissue試薬及びプロトコルを使用して簡便に実施可能である。
【0022】
癌患者組織からの組織の最も広範かつ有利に利用可能な形態は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織である。外科的に切除された組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、断然世界中で最も一般的な癌組織試料を保存する方法であり、標準的な病理プラクティス(pathology practice)において許容される慣例である。ホルムアルデヒドの水溶液はホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、酸化及び重合度を制限するために少量の安定剤(通常はメタノール)を含む、ホルムアルデヒドの飽和水溶液(体積基準で約40%又は質量基準で37%)からなる。組織を保存するための最も一般的な方法は、組織全体を長時間(8時間〜48時間)、ホルムアルデヒド水溶液(一般的に10%中性緩衝ホルマリンと呼ばれる)に浸漬し、次いで、室温での長期間保存のために、固定された組織全体をパラフィンワックスに包埋する。このようなホルマリン固定された癌組織を分析するための分子分析法は、癌患者組織の分析のために最も受容され、頻繁に利用されている方法であろう。
【0023】
SRM又はDIAアッセイからの結果を使用して、組織(生体試料)が回収及び保存された患者又は対象の特定の組織試料(例えば、癌組織試料)中の特定のタンパク質のそれぞれの正確かつ精密な相対的な定量レベルを、相関させることができる。これにより、癌に関連する診断情報が提供されるだけでなく、医師又は他の医療専門家が患者に対する好適な療法を決定することもできる。そのようなアッセイは、疾患のある組織又はその他の患者試料におけるタンパク質発現のレベルに関連する診断及び治療上の重要な情報を提供し、コンパニオン診断アッセイと呼ばれる。例えば、そのようなアッセイを、癌のステージ又は程度(degree)を診断し、患者が最も応答しそうな治療薬を決定するように設計することができる。
【0024】
本明細書に記載のアッセイによって、特定のタンパク質に由来する特定の非修飾のペプチドの相対レベル又は絶対レベルが測定されるとともに、特定のタンパク質のそれぞれに由来する特定の修飾されたペプチドの相対レベル又は絶対レベルも測定可能である。修飾の例には、ペプチドに存在するリン酸化されたアミノ酸残基及びグルコシル化されたアミノ酸残基が挙げられる。
【0025】
タンパク質のそれぞれの相対定量レベルは、SRM又はDIA法によって決定される。SRMアッセイに関して、異なる試料中のタンパク質に由来する個々のフラグメントペプチドのSRMシグネチャピーク面積(signature peak area)(例えば、シグネチャピーク面積又はフラグメントイオン強度の積分値)を比較される。あるいは、各ペプチドがその独自の特定のSRMシグネチャピークを有する場合、複数のシグネチャペプチド(signature peptide)に対する複数のSRMシグネチャピーク面積を比較することが可能であり、ある生体試料中の相対的なタンパク質量を、追加の又は異なる1つ又は複数の生体試料中の同一の1種又は2種以上のタンパク質の量に関して決定することが可能である。このようにして、対象の1種以上のタンパク質由来の特定の1種又は2種以上のペプチドの量、したがって、1種又は2種以上の選択された(designated)タンパク質の量が、同一の実験条件下で複数の生体試料にわたって、同一の1種又は2種以上のペプチドに対して相対的に決定される。加えて、単一試料中の所与のタンパク質に由来する所与の1種又は2種以上のペプチドに対する相対定量は、SRM法によるそのペプチドに対するシグネチャピーク面積を、その生体試料からの同一タンパク質調製物における異なる1種又は2種以上のタンパク質に由来する他の異なる1種又は2種以上のペプチドに対するシグネチャピーク面積と比較することによって、決定可能である。このようにして、選択されたタンパク質由来の特定のペプチドの量、したがって、そのタンパク質の量は、同一試料中の一方に対する相対的なものとして決定される。これらのアプローチは、試料間及び試料中において、選択されたタンパク質に由来する個々の1種又は2種以上のペプチドの定量を、他の1種又は2種以上のペプチドに対して可能にする。その際、シグネチャピーク面積によって決定される量は、一方に対する相対的なものであり、生体試料からのタンパク質調製物中の選択されたペプチドの容量に対する絶対重量又は重量に対する絶対重量を問わない。異なる試料間における個々のシグネチャピーク面積に関する相対定量データは、試料当たりの分析されたタンパク質量に標準化される。相対定量を、単一試料中の及び/又は多くの試料にわたる複数のタンパク質及び1種又は2種以上の選択されたタンパク質に由来する多くのペプチドにわたって同時に実施することができ、相対的なタンパク質量、例えば、その他のペプチド/タンパク質に対するある1種のペプチド/タンパク質への知見を得ることができる。
【0026】
SRMアッセイとは異なって、DIAは、標的ペプチドの事前選択を必要としない。代わりに、プリカーサー質量範囲(precursor mass range)が選択され、次いで、その範囲は、一連の単離ウインドウ(isolation window)へと分割される。MS/MSデータは、最初の単離ウインドウにおいて、検出されたプリカーサーイオン全てから取得される。それは、プリカーサー質量範囲全体が対象とされるまで、連続して隣接する単離ウインドウに対して繰り返される。MS/MSスペクトルライブラリを使用して、以下に詳細に記載されるように、取得されたデータから目的のペプチドを同定する。
【0027】
選択されたタンパク質の絶対定量レベルは、例えば、SRM法によって決定される。そこでは、生体試料中の選択されたタンパク質に由来する個々のペプチドのSRMシグネチャピーク面積は、スパイクされた(spiked)内部標準のSRMシグネチャピーク面積と比較される。一実施形態において、内部標準は、選択されたタンパク質に由来する全く同一のペプチドの合成バージョンであり、それは、1種又は2種以上の重同位体によって標識された1つ又は複数のアミノ酸残基を含む。このような同位体標識された内部標準は、質量分析によって分析される際、標準が予測可能かつ一貫したSRMシグネチャピークを生じ、そのピークは、天然の(native)ペプチドのシグネチャピークと異なり、区別でき、そのピークを比較ピークとして使用可能であるように合成される。したがって、内部標準が生体試料からのタンパク質調製物に既知量でスパイクされ、質量分析によって分析される際、天然のペプチドのSRMシグネチャピーク面積は、内部標準ペプチドのSRMシグネチャピーク面積と比較され、この数値比較によって、生体試料からの元の(original)タンパク質調製物中に存在する天然のペプチドの絶対モル濃度及び/又は絶対重量が示される。フラグメントペプチドに対する絶対定量データは、試料当たりの分析されたタンパク質量に従って表される。絶対定量を、単一試料中の及び/又は多くの試料にわたる多くのペプチド、したがって、多くのタンパク質にわたって同時に実施することができ、個々の生体試料及び個々の試料のコホート全体において絶対的なタンパク質量への知見を得ることができる。
【0028】
本明細書に記載のアッセイ法を使用して、例えば、直接的に患者由来の組織(例えば、ホルマリン固定された組織)において、癌のステージの診断を補助することができ、その患者を処置する際の使用に最も有利である治療薬を決定する際に補助することができる。手術(例えば、腫瘍の部分的な又は腫瘍全体の治療的な切除)又は生検工程(疑いのある疾患の存在もしくは非存在を決定するために実施される工程)のいずれかによって患者から切除された癌組織を分析して、特定の1種又は2種以上のタンパク質がその患者の組織に存在するか否かとともに、その患者の組織に存在するタンパク質のフォームを決定する。さらに、1種又は2種以上のタンパク質の発現レベルを、健康な組織で見られる「正常」又は対照レベルに対して、決定し、比較することができる。健康な組織で見られるタンパク質の正常又は対照レベルは、例えば、癌を有していない1又は複数の個体の対応する組織に由来していてもよい。あるいは、癌を有する個体に対する正常又は対照レベルは、癌に影響されない対応する組織の分析によって取得されてもよい。
【0029】
1種、いくつか又は全ての選択されたタンパク質からのタンパク質レベルのアッセイを使用して、タンパク質レベルを利用することにより、癌を有すると診断された患者又は対象における癌のステージを診断することもできる。選択されたタンパク質に由来する個々のペプチドの絶対レベルは、分析されたタンパク質溶解液の総量当たりのSRMアッセイによって決定されるペプチドのモル量として定義される。そのため、1種又は2種以上の選択されたタンパク質に関する情報を、1種又は2種以上のタンパク質(又はタンパク質のフラグメントペプチド)のレベルを、正常組織で見られるレベルと比較することによって、癌のステージ又はグレードを決定する際の補助のために使用することができる。1種又は2種以上の選択されたタンパク質の定量的な量が、癌細胞において決定されると、その情報を、例えば、アッセイされた1種又は2種以上のタンパク質の異常な発現によって特徴付けられる癌組織を特異的に処置するために開発された(化学的及び生物学的)治療薬のリストに照合することができる。例えば、タンパク質のアッセイの情報を、選択されたタンパク質又は選択されたタンパク質を発現している細胞/組織を特異的に標的とする治療薬のリストに照合することは、疾患の処置への個別化医療アプローチと呼ばれているものを表す。本明細書に記載のアッセイ法は、診断上及び処置上の決定の情報源として患者自身の組織に由来するタンパク質の分析を使用することによる個別化医療アプローチの基礎を形成する。
【0030】
原理的には、選択されたタンパク質由来のあらゆる予測されるペプチドを、代理レポーター(surrogate reporter)として使用して、質量分析ベースのSRM又はDIAアッセイを使用する試料において選択されたタンパク質の量を決定することができる。そのペプチドは、例えば、特異性既知のプロテアーゼ(例えば、トリプシン)による消化によって調製される。同様に、選択されたタンパク質において修飾される可能性があると知られる部位のアミノ酸残基を含むあらゆる予測されるペプチドの配列を使用して、試料中の選択されたタンパク質の修飾の程度をアッセイすることができる可能性もある。
【0031】
選択されたタンパク質に由来する適切なフラグメントペプチドは、米国特許第7,473,532号に提供されているLiquid Tissueプロトコルの使用を含む様々な方法によって生成することができる。Liquid Tissueプロトコル及び試薬によって、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から、組織/生体試料中のタンパク質のタンパク質消化により、質量分析による分析に適切なペプチド試料を作製することができる。Liquid Tissueプロトコルにおいて、組織/生体試料を、緩衝液中で長期間加熱して(例えば、約10分〜約4時間の期間、約80℃〜約100℃)、タンパク質のクロスリンクを逆転させるか又は解除する。使用される緩衝液は、中性緩衝液(例えば、トリスベースの緩衝液又は界面活性剤を含む緩衝液)である。熱処理の後、組織/生体試料を、トリプシン、キモトリプシン、ペプシン及びエンドプロテアーゼLys−Cを含むが、これらに限定されない1種又は2種以上のプロテアーゼによって、生体試料の組織及び細胞構造を破壊するのに十分な時間で処理する。加熱及びタンパク質分解の結果として、液体で可溶性の希釈可能な生体分子溶解液が得られる。
【0032】
驚くことに、上記されたタンパク質の多くの潜在的なペプチド配列は、容易には明らかにならない理由によって、質量分析ベースのアッセイにおける使用には適切でない又は非効率的であることが見出された。アッセイに対して最も適切なペプチドを予測することができなかったため、実際のLiquid Tissue溶解液における修飾された及び非修飾のペプチドを実験的に同定し、各選択されたタンパク質の信頼性のある精密なアッセイを開発する必要があった。いかなる理論に縛られることを望まないものの、例えば、あるペプチドは、あまりイオン化しないか、又は他のタンパク質と区別することができるフラグメントを生じないために、質量分析によって検出することが困難であると考えられている。また、ペプチドは、分離(例えば、液体クロマトグラフィー)においてあまり分離しないか、又はガラスもしくはプラスチック製品に吸着することもあり得る。
【0033】
表1に記載のペプチドは、ホルマリン固定された癌組織から得られた細胞から調製された複雑なLiquid Tissue溶解液内の全てのタンパク質のプロテアーゼ消化によって、それぞれの選択されたタンパク質から得られた。特に断りの無い限り、各例において、プロテアーゼはトリプシンであった。次いで、Liquid Tissue溶解液を質量分析によって分析して、質量分析によって検出され、分析される選択されたタンパク質由来のペプチドを決定した。質量分析による分析のための特定の好ましい一群のペプチドの同定は、1)Liquid Tissue溶解液の質量分析による分析において、タンパク質に由来する1種又は2種以上のイオン化するペプチドの種類の実験的な決定、及び2)Liquid Tissue溶解液を調製する際に使用されるプロトコル及び実験的な条件を通して残存するためのペプチドの能力に基づく。この後者の特性は、ペプチドのアミノ酸配列のみならず、ペプチド中の修飾されたアミノ酸残基が、試料調製の間に修飾された形態で残存するための能力にまで拡大される。
【0034】
ホルマリン(ホルムアルデヒド)固定された組織から直接得られた細胞のタンパク質溶解液を、Liquid Tissue試薬及びプロトコルを使用して調製した。そのプロトコルは、組織の顕微解剖を経て、細胞を試料管に回収し、次いで、Liquid Tissue緩衝液中で細胞を長期間加熱することを伴う。ホルマリン誘導性のクロスリンクを逆に作用させ、次いで、組織/細胞を、例えば、プロテアーゼであるトリプシンを含むが、それに限定されないような、プロテアーゼを使用して予測可能な方法で完全に消化する。各タンパク質溶解液を、プロテアーゼによる完全なポリペプチドの消化によって一群のペプチドに変換する。各Liquid Tissue溶解液を(例えば、イオントラップ質量分析によって)分析し、ペプチドの複数の網羅的プロテオミクス調査を実施し、データを各タンパク質溶解液に存在する全ての細胞性タンパク質の質量分析によって同定可能な限り多くのペプチドを同定したものとして提示した。単一の複雑なタンパク質/ペプチド溶解液から可能な限り多くのペプチドを同定するために、網羅的なプロファイリングを実施可能なイオントラップ質量分析又はその他の形態の質量分析を、一般的には使用する。しかしながら、イオントラップ質量分析計が、ペプチドの網羅的なプロファイリングを実施するために最良のタイプの質量分析計であり得る。
【0035】
SRMアッセイは、いずれのタイプの質量分析計、例えば、MALDI、イオントラップ、又はトリプル四重極で開発及び実施可能であるが、SRMアッセイのために最も有利な機器プラットフォームは、多くの場合、トリプル四重極機器プラットフォームであると考えられる。できる限り多くのペプチドが、使用される条件下で単一の溶解液の単一のMS解析において同定されると、次に、ペプチドリストを照合し、その溶解液中で検出されたタンパク質を決定するために使用した。このプロセスを複数のLiquid Tissue溶解液に対して繰り返し、極めて大きなペプチドリストを単一のデータセットに並べた。このタイプのデータセットは、分析された生体試料のタイプにおいて(プロテアーゼ消化後)、具体的には、生体試料のLiquid Tissue溶解液において検出され得るペプチドを表すと考えることができるため、選択されたタンパク質のそれぞれに対するペプチドを含む。
【0036】
データ独立取得(DIA)と呼ばれる新たな方法は、SRMの再現性と、網羅的なショットガンプロテオーム解析において同定される膨大なタンパク質/ペプチドとを組み合わせることにより、網羅的なプロテオーム法及びターゲット法(targeted methods)の両方の長所を利用する。一般にDIA法には、分析中に個々のプリカーサーイオンを検出する必要がなく、それは、MS/MSスキャンが、取得プロセスを通して体系的に(先行する情報なしに独立して)収集されるからである。マルチプルDIAフォーマットが、使用中及び/又は現在開発中であり、以下のいずれにおいても、今回記載の方法において適用可能である。
【0037】
DIAのデータ作成は、DDA又はSRM実験と比較して、より柔軟かつ単純である。サーベイスキャン(survey scan)又は全MSスキャン(full MS scan)からのプリカーサーイオンの選択に関係なく、DIAは、全てのMS/MSスキャンを収集する一方で、DDAはその選択を必要とする。標的フラグメントペプチドの事前定義(predefinition)は、SRM/PRMにおいて必要とされるが、DIA実験に必要ない。プリカーサー及び対応するトランジション(transition)の広い範囲が、データの入手後に抽出可能である。したがって、ターゲットプロテオミクスにおいて、DIAは、ターゲットデータ抽出戦略を使用する包括的なプロテオーム規模の定量を目標とする。しかしながら、SRMと比較する場合、DIAベースのターゲット法は、一般に、より低い感度、特異性及び再現性に加えてタンパク質の定量におけるより狭いダイナミックレンジを提供する。
【0038】
DIA法は、元々、事前定義されたm/z範囲の連続的な単離及び断片化を実施するために広いプリカーサー単離ウインドウ(10m/z)の適用を備えるLTQリニアイオントラップ(LIT)質量分析計を使用して導入された。MSレベルの定量と比較して、信号対ノイズ比(S/N)は、良好な線形ダイナミックレンジで大幅に改善された(350%より高い)ことが見出された。DIA定量のMS/MSレベルにおけるイオン抽出(ion extractions)の適用も、実施された。しかしながら、広いプリカーサー単離ウインドウを備えるそのような低分解能のDIA MS/MSは、質量確度(mass accuracy)、及びペプチド同定における信頼性を低下させ、それにより、潜在的に偽陽性率(false positive discovery rate)を増加させる結果となった。
【0039】
それ以降、その他の修正されたDIAが、導入されている。MSEは、これまでに導入され、QqTOF機器で効率的に作動可能である。より狭い単離ウインドウ(2.5u)の使用により、タンパク質の同定の改善につながったが、標的の質量範囲全体を対象にする全データ取得には、複数回のインジェクション(5日間で67インジェクション)を必要とした。非常に速くスキャンするイオントラップMS(例えば、LTQオービトラップ Velos MS)によって、全データ取得時間が約2日まで短縮された。卓上のExactive MSの導入は、全イオン断片化(all-ion fragmentation)(AIF)の適用を実施するために使用された。そこでは、ペプチドが、プリカーサーの選択なしに、断片化のためにHCD衝突セル(HCD collision cell)に注入され、フラグメントが、C−トラップに戻され、オービトラップ質量分析部によって分析された。共溶出するプリカーサーイオンに対するフラグメントイオンの割当(assignment)は、高分解能(m/z 200において100000)及び高い質量確度によって増強された。このコンセプトは、デューティサイクル時間を大幅に減少させるが、ある程度の保持時間において、AIFからのより大きな干渉をもたらす。別のDIAアプローチが、続いて導入され、拡張独立データ取得(extended data-independent acquisition)(XDIA)と呼ばれ、電子移動解離(ETD)機能を備えた様々なタイプのオービトラップMSで実施された。DDAベースのETD解析と比較した場合、DIAベースのETDアプローチは、スペクトルの同定数(約250%)及び固有のペプチド数(約30%)を有意に増加させた。これは、低存在量のPTM研究を促進することができる可能性があった。
【0040】
最近、DIAにおける大きな改善が、高速スキャンHR/AM機器の開発と併せて達成された。そこでは、SWATHと呼ばれるDIAのバリエーションが、QqTOF MSを使用して実施され、概念的には、複数のスペクトルからなる広い単離ウインドウ(典型的には25m/z)の利用が言及されている。QqTOF MSを使用する一つの重要な特徴は、最速のデータ取得速度である。別のDIA戦略が、QqOrbi MSの使用によって導入された。そこでは、MSXと呼ばれる新規の取得法が、取り入れられ、機器の速度、選択性及び感度を改善した。DIAデータ取得及びプロセスにおける最近の改善は、新しいバージョンのオービトラップMS機器によって支援されている。pSMARTと呼ばれるその最初の一つは、Q Exactive MSで実施され、質量範囲にわたって、非対称の(asymmetric)単離ウインドウ:400〜800m/zを対象にする5Daウインドウ、800〜1000m/zを対象にする10Daウインドウ、及び1000〜1200m/zを対象にする20Daウインドウを利用する。広選択イオンモニタリングDIA(wide selected-ion monitoring DIA)(wiSIM−DIA)と呼ばれ、新しいハイブリッドQ−HCD−オービトラップ−LIT MS(すなわち、オービトラップFusion及びLumos)で実施される別のDIA法では、200Daの単離ウインドウによる3回のHR/AM SIMスキャンが、400〜1000m/zの全プリカーサーイオンを対象にして使用される。各SIMスキャンと平行して、12Daの単離ウインドウによる17回の連続したイオントラップMS/MSが、関連する200DaのSIM質量範囲を対象にして取得された。標準的な広いウインドウのMS/MSのみのDIA法とは異なる、pSMART及びwiSIM−DIAのためのMS1データ(すなわち、より長い充填時間(fill time)によるHR/AMプリカーサーデータ、及びLC溶出プロファイルにわたって十分なプリカーサーイオンのデータポイント)が、高感度の検出及び定量のために使用され、一方で、高速イオントラップMS/MSスキャンからのMS/MSデータが、ペプチドの同定/確認にのみ使用される。
【0041】
検出可能なペプチドプリカーサーの全フラグメントイオンの完全な記録を有するが、高度なデータ解析を伴う標準的なDIA法と比較して、pSMART及びwiSIM−DIAは、比較的簡単なデータ解析によって、検出可能なペプチドプリカーサーに対する小数のMS/MSスペクトルのみを提供することができ、その理由は、デューティサイクル時間の大部分が、高品質のMS1データを生成するために使用されるためである。したがって、それらの感度及び精度は、標準的なDIA法によって提供されるものよりも高く、一方で、それらの定量確度(quantification accuracy)(すなわち、特異性又は選択性)は、標準的なDIA法の定量確度よりもいくらか低く、それは、MS1からの共溶出による干渉(co-eluting interference)を有する機会がMS/MSよりも増加するためである。ごく最近、ハイパー反応モニタリング(hyper reaction monitoring)(HRM)と呼ばれる新規のDIA法が、実施された。それは、Q Exactive MSプラットフォ−ムによる包括的なDIA取得と、保持時間の標準化された(iRT)スペクトルライブラリを有するターゲットデータ解析とからなる。HRMは、複数の測定にわたって、一致して同定されるペプチド数、及び異なる豊富なタンパク質の定量の信頼性の両方において、網羅的なショットガンプロテオミクスより優れていることが実証されている。
【0042】
DIA解析のためのより効果的なバイオインフォマティクスのツールは、現在、開発中であり、以下のいずれにおいても、今回記載の方法において適用可能である。DIAスペクトルは、高度に多重化され、そのために、より精巧なデータ解釈アルゴリズムが、DDA又はSRM/PRMと比較して必要とされる。現在、DIAスペクトルを解釈するために使用される3つのアプローチが存在する。一つ目のアプローチは、DIAスペクトルから疑似DDAスペクトル(pseudo-DDA spectra)を構築することである(例えば、Demux、MaxQuant、XDIAプロセッサー及びComplementary Finder)。これらの再構築された疑似DDAスペクトルは、次いで、通常の検索エンジンツール、例えば、MSGF+、MaxQuant、MASCOT、又はその他のスペクトルライブラリを使用して処理される。スキームのいくつかは、クロマトグラフの溶出プロファイルを使用して、ペプチドの同定を改善した。Tsou et al.による最近の発表には、DIA−Umpireと呼ばれるコンピュータによるアプローチの開発が記載されていた。DIA−Umpireは、2つの側面(m/z及び保持時間)の特徴検出アルゴリズム(feature-detection algorithm)から開始して、MS及びMS/MSデータ中の全ての可能性のあるプリカーサー及びフラグメントイオンのシグナルを見出す。フラグメントイオンは、LC溶出ピークとピークの頂点における保持時間との相関を有するプリカーサーイオンによってグループ化される。次いで、各プリカーサー−フラグメントグループに対して生成された疑似MS/MSスペクトルが、上記のツールを含む通常のデータベース検索エンジンにより処理される。Tsou et al.,“DIA−Umpire:comprehensive computational framework for data−independent acquisition proteomics,”Nat Methods 12:258−264(2015)参照。
【0043】
3つ目のアプローチは、多重化されたMS/MSを、ペプチドの理論上のスペクトルに照合することである(例えば、ProbIDtree、Ion Accounting、M−SPLIT、MixDB、及びFT−ARM)。スコアリングアルゴリズム(scoring algorithms)は、配列データベース又はスペクトルライブラリからペプチドの理論上のフラグメントイオンが、高い質量確度を備える多重化されたスペクトルに関して見出される数に、直接的に基づいている。初めの2つのアプローチは、DIAスペクトルからのペプチドの、さらなる定量の前の同定に大いに取り組んできた。無償で利用可能な自動化又は半自動化されたツール、例えば、Skyline、mProphet、OpenSWATH及びDI−ANA、並びに、2つの市販のソフトウェア、AB/Sciex社のPeakView(登録商標)及びBiognosys社のSpectronaut(商標)が、ターゲットデータ抽出戦略を使用する定量的なターゲットDIAデータを処理するために使用されている。
【0044】
検出されたペプチド
一実施形態において、選択されたタンパク質の絶対量又は相対量の決定において有用であると同定されたトリプシンペプチドを表1に記載する。これらのペプチドはそれぞれ、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から調製されたLiquid Tissue溶解液において質量分析によって検出された。したがって、各ペプチドを使用して、直接的にホルマリン固定患者組織を含むヒト生体試料中の選択されたタンパク質に対する定量的なアッセイを開発することができる。
【0046】
表1に記載のトリプシンペプチドは、通常、例えば、前立腺、結腸及び乳房を含む異なるヒトの器官の複数の異なるホルマリン固定組織の複数のLiquid Tissue溶解液から検出された。
【0047】
SRM又はDIAアッセイを実施する際の一つの留意事項は、ペプチドの分析に使用され得る機器のタイプである。SRMアッセイは、いかなるタイプの質量分析計、例えば、MALDI、イオントラップ、又はトリプル四重極で開発及び実施可能であるが、SRMアッセイのために最も有利な機器プラットフォームは、多くの場合、トリプル四重極機器プラットフォームであると考えられる。そのタイプの質量分析計を、細胞内に含まれる総タンパク質からの数十万から数百万の個々のペプチドからなり得る非常に複雑なタンパク質溶解液内の単一の分離された標的ペプチド(single isolated target peptide)を分析するために最適な機器であると考えることができる。記載の方法を使用して、1)選択されたタンパク質のそれぞれに由来する候補ペプチドであって、選択されたタンパク質に対する質量分析ベースのSRMアッセイのために使用可能な候補ペプチドを同定し、2)相関させるために、選択されたタンパク質に由来する標的ペプチドに対する単一又は複数のSRMアッセイを開発し、かつ、3)定量的なアッセイを、癌診断及び/又は最適な療法の選択に適用した。DIAアッセイ法に関する詳細は、以下でさらに提供される。
【0048】
アッセイ法
1.タンパク質に対するSRM候補フラグメントペプチドの同定
a.ホルマリン固定された生体試料からのLiquid Tissueタンパク質溶解液を調製し、1種又は2種以上のプロテアーゼを使用して(プロテアーゼは、トリプシンを含んでいても、含んでいなくてもよい)、タンパク質を消化する。
b.個々のフラグメントペプチドが、いかなるペプチド修飾、例えば、リン酸化又はグリコシル化も含まない場合、Liquid Tissue溶解液中の全てのタンパク質フラグメントをイオントラップタンデム質量分析計によって分析し、選択されたタンパク質に由来する全てのフラグメントペプチドを同定する。
c.Liquid Tissue溶解液中の全てのタンパク質フラグメントをイオントラップタンデム質量分析計によって分析し、ペプチド修飾、例えば、リン酸化又はグリコシル化残基を有するタンパク質に由来する全てのフラグメントペプチドを同定する。
d.特定の消化方法によって完全な全長タンパク質から生成される全てのペプチドを、潜在的には測定することができるが、SRMアッセイの開発に使用される好ましいペプチドは、ホルマリン固定された生体試料から調製された複雑なLiquid Tissueタンパク質溶解液において直接的に質量分析によって同定されたペプチドである。
2.選択されたタンパク質に由来するフラグメントペプチドに対する質量分析アッセイ
a.Liquid Tissueタンパク質溶解液において同定された個々のフラグメントペプチドに対するトリプル四重極質量分析計によるSRMアッセイを、選択されたタンパク質に由来するペプチドに適用する。
i.ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、又は逆相高速液体クロマトグラフィーを含むが、これらに限定されない最適なクロマトグラフィー条件のためのフラグメントペプチドに対する最適な保持時間を決定する。
ii.各ペプチドに対するSRMアッセイを開発するために、ペプチドのモノアイソトピック質量、各ペプチドに対するプリカーサー電荷状態、各ペプチドに対するプリカーサーm/z値、各ペプチドに対するm/z遷移イオン、及び各フラグメントペプチドに対する各遷移イオンのイオンタイプを決定する。
iii.次いで、各ペプチドが、特徴的かつ固有のSRMシグネチャピークを有し、そのピークが、トリプル四重極質量分析計で実施される固有のSRMアッセイを正確に規定する場合、SRMアッセイを、トリプル四重極質量分析計で(i)及び(ii)からの情報を使用して実施することができる。
b.検出されるタンパク質のフラグメントペプチドの量が、SRM質量分析による分析からの固有のSRMシグネチャピーク面積の関数(function)として、特定のタンパク質溶解液中のタンパク質の相対量及び絶対量の両方を示すことができるようにSRM/MRM分析を実施する。
i.相対定量は、下記によって達成され得る。
1.1つのホルマリン固定された生体試料からのLiquid Tissue溶解液において検出された所与のフラグメントペプチドからのSRMシグネチャピーク面積を、少なくとも第2、第3、第4又はそれより多いホルマリン固定された生体試料からの少なくとも第2、第3、第4又はそれより多いLiquid Tissue溶解液中の同一のフラグメントペプチドの同一のSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することによって、選択されたタンパク質の増加又は減少を決定する。
2.ペプチドフラグメントに関する2試料間のSRMシグネチャピーク面積の比較を各試料において分析されたタンパク質量に対して標準化する場合、1つのホルマリン固定された生体試料からのLiquid Tissue溶解液において検出された所与のフラグメントペプチドからのSRMシグネチャピーク面積を、異なる別個の生体試料源に由来する他の試料における、他のタンパク質に由来するフラグメントペプチドから開発されたSRM/MRMシグネチャピーク面積と比較することによって、選択されたタンパク質の増加又は減少を決定する。
3.タンパク質のレベルの変化を、様々な細胞条件下で発現レベルが変化しない他のタンパク質のレベルに対して標準化するために、所与のフラグメントペプチドに対するSRMシグネチャピーク面積を、ホルマリン固定された生体試料からの同一のLiquid Tissue溶解液中の異なるタンパク質由来の他のフラグメントペプチドからのSRMシグネチャピーク面積と比較することによって、選択されたタンパク質の増加又は減少を決定する。
4.修飾が、リン酸化及び/又はグリコシル化を含むが、これらに限定されず、修飾されたペプチドの相対レベルが、非修飾のペプチドの相対量を決定するのと同一の方法で決定される場合、これらのアッセイを、タンパク質の非修飾のフラグメントペプチド及び修飾されたフラグメントペプチドの両方に適用することができる。
ii.所与のペプチドの絶対定量は、個々の生体試料中の選択されたタンパク質に由来する所与のフラグメントペプチドに対するSRMシグネチャピーク面積を、その生体試料からのタンパク質溶解液にスパイクされた内部標準フラグメントペプチドのSRMシグネチャピーク面積と比較することにより達成可能である。
1.内部標準は、試験されている選択されたタンパク質に由来するフラグメントペプチドの標識された合成バージョンである。この内部標準を試料に既知量でスパイクし、内部標準フラグメントペプチド及び生体試料中の天然のフラグメントペプチドの両方に対するSRMシグネチャピーク面積を、別個に決定した後に、両方のピーク面積を比較する。
2.修飾がリン酸化及び/又はグリコシル化を含むが、これらに限定されず、修飾ペプチドの絶対レベルを、非修飾ペプチドの絶対レベルを決定するのと同一の方法で決定することができる場合、これを、タンパク質の非修飾のフラグメントペプチド及び修飾されたフラグメントペプチドに適用することができる。
3.癌診断及び処置に対するフラグメントペプチドの定量の適用
a.選択されたタンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対定量及び/又は絶対定量を実施し、癌分野においてよく理解されているような、選択されたタンパク質の発現と患者の腫瘍組織における癌のステージ/グレード/ステータスとの以前に決定された関係が確認されることを実証する。
b.選択されたタンパク質のフラグメントペプチドレベルの相対定量及び/又は絶対定量を実施し、異なる処置戦略による臨床転帰との相関を実証する。この場合、この相関は、患者のコホート及びこれらの患者からの組織にわたる相関研究を通じて、その分野で既に実証されている、あるいは、将来において実証することができる。以前に確立された相関又は将来において導き出される相関のいずれかが、このアッセイによって確認されると、次いで、このアッセイ法を使用して、最適な処置戦略を決定することができる。
【0049】
各選択されたタンパク質に由来する特定のフラグメントペプチドに関する特定かつ固有の特性を、イオントラップ及びトリプル四重極質量分析計の両方における全てのフラグメントペプチドの分析によって明らかにした。その情報は、ホルマリン固定された試料/組織からのLiquid Tissue溶解液において直接的に候補となるあらゆるSRMペプチドにおいて実験的に決定される必要がある。なぜなら、興味深いことに、あらゆる選択されたタンパク質に由来する全てのペプチドを、本明細書に記載のSRMを使用する溶解液において検出することができるとは限らないためであり、それは、検出されないフラグメントペプチドを、ホルマリン固定された試料/組織からのLiquid Tissue溶解液において直接的にペプチド/タンパク質を定量する際に使用するためのSRMアッセイを開発するための候補ペプチドと見なすことはできないということを示す。
【0050】
特定のフラグメントペプチドに対する特定のSRM/MRMアッセイを、トリプル四重極質量分析計において実施する。特定のタンパク質のSRM/MRMアッセイによって分析される実験的な試料は、例えば、ホルマリン固定パラフィン包埋組織から調製されたLiquid Tissueタンパク質溶解液である。そのようなアッセイからのデータは、ホルマリン固定された試料におけるこのフラグメントペプチドに固有のSRMシグネチャピークの存在を示す。
【0051】
このペプチドに対する特異的な遷移イオンの特性を使用して、ホルマリン固定された生体試料中の特定のフラグメントペプチドを定量的に測定する。これらのデータは、分析されたタンパク質溶解液のマイクログラム当たりのペプチドのモル量の関数として、このフラグメントペプチドの絶対量を示す。ホルマリン固定された患者由来組織の分析に基づく、組織中の対応するタンパク質レベルの評価は、特定の患者のそれぞれに関する診断、予後、及び治療に関連する情報を提供することができる。一実施形態において、この開示によって、生体試料において表1に記載の各タンパク質のレベルを測定する方法であって、この方法は、生体試料から調製されたタンパク質消化物中の修飾された又は非修飾の1種又は2種以上のフラグメントペプチドを、質量分析を使用して検出及び/又は定量することを含み、その試料中の修飾された又は非修飾のタンパク質のレベルを算出し、そのレベルは相対レベル又は絶対レベルである、方法を記載する。関連する実施形態において、1種又は2種以上のフラグメントペプチドの定量は、既知量添加される内部標準ペプチドとの比較によって、生体試料中のフラグメントペプチドのそれぞれの量を決定することを含み、この場合、生体試料中のフラグメントペプチドのそれぞれは、同一のアミノ酸配列を有する内部標準ペプチドと比較される。いくつかの実施形態において、内部標準は、同位体標識された内部標準ペプチドであり、
18O、
17O、
34S、
15N、
13C、
2H又はそれらの組合せから選択される1種又は2種以上の重安定同位体を含む。
【0052】
本明細書に記載の生体試料中の選択されたタンパク質(又はそれらの代理となるフラグメントペプチド)のレベルを測定する方法を、患者又は対象の癌の診断上の指標として使用してもよい。一実施形態において、選択されたタンパク質レベルの測定結果を使用して、組織において見られる選択されたタンパク質レベルを、正常組織及び/又は癌組織又は前癌状態の組織で見られる選択されたタンパク質レベルと相関させる(例えば、比較する)ことによって、癌の診断上のステージ/グレード/ステータスを決定してもよい。
【0053】
核酸及びタンパク質の両方を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物から分析することができるため、疾患の診断及び薬剤処置の決定に関するさらなる情報を、プロテオミクス解析に使用した同一試料の核酸から得ることができる。例えば、選択されたタンパク質がある細胞により高レベルで発現される場合、SRMによって分析した際、データは、細胞の状態と、制御できない増殖、潜在的な薬剤耐性及び癌の発生の可能性とに関する情報を提供することができる。同時に、対応する遺伝子並びに/又はそれらがコードする核酸及びタンパク質の状態(例えば、mRNA分子及びそれらの発現レベル又はスプライスバリエーション)に関する情報を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物に存在する核酸から取得することができる。同一の生体分子調製物に存在する、選択されたタンパク質でない任意の遺伝子及び/又は核酸を、選択されたタンパク質のSRM分析と同時に評価することができる。一実施形態において、選択されたタンパク質及び/又は1種、2種、3種、4種又はより多くの追加のタンパク質に関する情報を、それらのタンパク質をコードする核酸を試験することによって評価してもよい。例えば、それらの核酸を、配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応法、制限断片多型解析、欠損もしくは挿入の同定、及び/又は一塩基対の多型、転移、塩基転換又はそれらの組合せを含むが、それらに限定されない変異の存在の判定のうち1種以上、2種以上、又は3種以上によって試験することができる。