(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-129991(P2020-129991A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】焼き栗のみから成る食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 25/00 20160101AFI20200803BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20200803BHJP
A23L 3/00 20060101ALI20200803BHJP
A23L 3/10 20060101ALI20200803BHJP
【FI】
A23L25/00
A23L19/00 Z
A23L19/00 A
A23L3/00 101C
A23L3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2019-24242(P2019-24242)
(22)【出願日】2019年2月14日
(71)【出願人】
【識別番号】519010536
【氏名又は名称】松尾 和広
(74)【代理人】
【識別番号】100154966
【弁理士】
【氏名又は名称】海野 徹
(72)【発明者】
【氏名】松尾 和広
【テーマコード(参考)】
4B016
4B021
4B036
【Fターム(参考)】
4B016LC02
4B016LE04
4B016LG01
4B016LP01
4B016LP05
4B016LP09
4B016LP10
4B016LP11
4B021LA05
4B021LP07
4B021LP10
4B021LW02
4B036LC01
4B036LE02
4B036LE05
4B036LH28
4B036LP01
4B036LP05
4B036LP17
4B036LP19
4B036LP21
(57)【要約】
【課題】加糖なしで糖度が高く、且つ燻し臭さを抑えた焼き栗のみから成る食品の製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の焼き栗のみから成る食品の製造方法は、生の栗を冷蔵保管して熟成させる第1工程と、前記栗を加糖せず且つ切れ目を入れずに圧力釜で加熱する第2工程と、加熱後の前記栗の皮を剥く第3工程と、前記栗を加糖せずに押し潰してペースト状に加工する第4工程と、ペースト状の前記栗を成形してレトルトパウチ内に入れ、前記レトルトパウチ内を脱気して真空密封した後、加圧加熱殺菌する第5工程を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の栗を冷蔵保管して熟成させる第1工程と、
前記栗を加糖せず且つ切れ目を入れずに圧力釜で加熱する第2工程と、
加熱後の前記栗の皮を剥く第3工程と、
前記栗を加糖せずに押し潰してペースト状に加工する第4工程と、
ペースト状の前記栗を成形してレトルトパウチ内に入れ、前記レトルトパウチ内を脱気して真空密封した後、加圧加熱殺菌する第5工程を備えることを特徴とする焼き栗のみから成る食品の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において前記圧力釜で加熱する際の設定圧力が1.3 MPa±0.1 MPaであることを特徴とする請求項1に記載の焼き栗のみから成る食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加糖なしで糖度が高く、且つ燻し臭さを抑えた焼き栗のみから成る食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
栗を使用する食品として例えば焼き栗や栗甘露煮等が知られている。
特許文献1には収穫後の生栗を冷蔵保管により熟成させた後、シロップ等で加糖しながら釜で加熱する焼き栗の製造方法が開示されている。
特許文献2には水に浸漬した後に加熱乾燥した剥き栗を調味液で加糖したり、或いは加糖せずにそのままレトルトパウチに入れたりして加圧加熱殺菌する加工栗の製造方法が開示されている。
特許文献3には切れ目を入れた生栗を圧力調整しながら圧力釜で加熱する焼き栗の焼成方法が開示されている。
他には例えば栗きんとんやモンブラン等の菓子では材料としてペースト状に加工した栗を使用している。栗をペースト状に加工する場合、焼き栗は茶色く変色しているため、栗本来の黄色を活かすことができる蒸し栗を使用するのが一般的である。また、蒸し栗では糖度が不足するため加糖するのが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−166915号公報
【特許文献2】特開2018−166447号公報
【特許文献3】特許第3426590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記したような従来の栗を使用する食品は次のような問題がある。
栗に加糖することによって栗本来の甘み・風味が損なわれてしまうという問題がある。
また、生栗に切れ目を入れて圧力釜で加熱・加圧してそのまま食用に供する場合、加熱・加圧条件が適切であれば香ばしさが付加されて風味が増して美味しくなるが、加熱・加圧条件が過度の場合には鬼皮や釜内の臭いが栗に移ってしまい燻臭さを感じてしまう問題がある。燻臭さを感じる問題は栗をペースト状に加工した場合にも生じる。
【0005】
本発明はこのような問題に鑑み、加糖なしで糖度が高く、且つ燻し臭さを抑えた焼き栗のみから成る食品の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の焼き栗のみから成る食品の製造方法は、生の栗を冷蔵保管して熟成させる第1工程と、前記栗を加糖せず且つ切れ目を入れずに圧力釜で加熱する第2工程と、加熱後の前記栗の皮を剥く第3工程と、前記栗を加糖せずに押し潰してペースト状に加工する第4工程と、ペースト状の前記栗を成形してレトルトパウチ内に入れ、前記レトルトパウチ内を脱気して真空密封した後、加圧加熱殺菌する第5工程を備えることを特徴とする。
また、前記第2工程において前記圧力釜で加熱する際の設定圧力が1.3 MPa±0.1 MPaであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では第1工程で栗を熟成させることで糖度を高め、第2工程で栗を圧力釜で加熱・加圧することで更に糖度を高める。したがって、栗を蒸す場合と比較して加糖を行わなくても充分に糖度が高い焼き栗のみからなる食品を製造できる。
また、第2工程において栗に切れ目を入れないので、圧力釜で加熱・加圧する際に鬼皮及び釜の臭いが栗に移ってしまう事態を防止できる。したがって、燻臭さを抑え、栗本来の甘み・風味に香ばしさとコクを加えた自然で上品な味わいの焼き栗のみから成る食品を製造できる。
圧力釜の設定圧力は一般的な焼き栗の0.6 MPa〜0.9 MPaよりも高い1.3 MPa±0.1 MPa程度にすれば糖度を充分に高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の焼き栗のみから成る食品の製造方法に基づいて製造した食品の写真
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の焼き栗のみから成る食品の製造方法について説明する。
本発明の方法は第1〜第5工程で構成される。
第1工程では生の栗を冷蔵保管して熟成させる。
冷蔵保管中に栗に含まれる酵素(アミラーゼ)の作用によりデンプンが糖化されるので、栗の糖度を高めることができる。本願発明者の実験により約−1℃で約45日間冷蔵保管した場合に栗の糖度が最高値の20度に到達することが明らかになった。冷蔵保管の期間は栗の状態や周囲の環境に応じて40日〜50日の間で調整してもよい。冷蔵保管した後の栗をすぐに使用しない場合には−60℃程度の超低温で保存しておけば少なくとも1年は栗の鮮度低下を防止できる。
【0010】
第2工程では栗を加糖せずに、且つ切れ目を入れずに圧力釜で加熱する。
圧力釜としては圧力調整弁を備えた一般的な釜を使用すればよい。上記第1工程で糖度が20度程度まで上昇した栗を圧力釜に入れて加熱・加圧することになるが、この際に栗に切れ目を入れない点が本発明の特徴の一つである。本願発明者の実験によると栗に切れ目を入れて1.2 Mpa程度まで加圧すると鬼皮の臭いや釜の中の焦げた臭いが栗に移ってしまい、栗そのもの及びペースト状に加工した栗に燻臭さを感じてしまうことが明らかになった。
また、一般的な焼き栗では圧力釜の設定圧力は0.6 MPa〜0.9 MPaであるが、本願発明者による実験の結果1.3 MPa程度まで高圧にするのが好ましいことが明らかになった。栗に切れ目を入れずに高圧で焼くことによって糖類のカラメル化及び/又はメイラード反応が起きているものと推測され、これにより栗が黄色から濃い茶色に変化すると共に栗に香ばしさとコクを与えることができる。また、本願発明者による実験の結果、1.3 MPa±0.1 MPa程度で栗を加熱・加圧することで糖度は30度程度まで上昇することが明らかになった。
【0011】
第3工程では加熱後の栗の皮を剥く。
皮とは鬼皮と渋皮の両方を指す。皮の剥き方は特に制限されず、周知の方法を用いればよい。
第4工程では栗を加糖せずに押し潰してペースト状に加工する。
ペースト状に加工する方法としては例えば挽肉加工用のミンチ機やフードプロセッサー等の回転刃による処理、ブレンダー等によるせん断処理、ミル等の粉砕装置による処理などが挙げられる。必要に応じて裏ごし処理を加えてもよい。
【0012】
第5工程ではペースト状の栗を成形型にいれて成形してレトルトパウチに入れ、レトルトパウチ内を脱気して真空密封した後、加圧加熱殺菌する。
成形後の栗ペーストの形は特に制限されないが、例えば棒状(直方体)が挙げられる。
レトルトパウチ内には調味液等の添加物を一切入れない。レトルトパウチとしては、耐熱性及び気密性のある密閉可能な包装容器であれば特に制限されない。レトルトパウチの例としては、プラスチックフィルムのみ、金属箔のみ、或いはこれらを積層したものを袋状に成形したものが挙げられる。
脱気及び真空密着については周知の装置及び方法を使用すればよいので詳細な説明を省略する。また、加圧加熱殺菌についても周知の装置及び方法を使用すればよいが、120℃前後で数十分程度行えば充分である。
以上で焼き栗のみから成る食品の製造方法が終了する。
本発明によれば第1工程時の熟成による糖度の上昇、第2工程時の加熱による更なる糖度の上昇と、カラメル化及び/又はメイラード反応により、栗本来の甘み・風味に香ばしさとコクが加わった自然で上品な味わいで無添加の焼き栗のみから成る食品を製造できる。また、レトルトパウチ内のペースト状の栗は第5工程時の加圧により固く引き締まった状態になるのでレトルトパウチから取り出した状態で型崩れしない。ナイフ等で薄くスライスして食べるのが好ましい。
【実施例1】
【0013】
製造条件を変えて焼き栗のみから成る食品を製造した。
製造条件及び試食の評価について表1に示す。
【表1】
試作品A〜Gは冷蔵保管による熟成を行った栗を使用した。
試作品A〜Eは栗に切れ目を入れず、試作品F及びGは栗に切れ目を入れた。
圧力釜の圧力を試作品Aは0.9 MPa、試作品B〜Eは1.3 MPa、試作品Fは0.7 MPa、試作品Gは1.4 MPaに設定した。
更にオーブンで試作品Cを180℃、10分、試作品Dを250℃、10分の条件で加熱した。
加熱後、試作品A〜Gは皮を剥いて加糖せずに押し潰してペースト状に加工した。試作品Eは栗にさつまいもを加えてペースト状に加工した。
試作品A〜Gは加圧加熱殺菌を120℃、時間を試作品A,F及びGは20分、試作品B〜Eは30分行い、焼き栗のみから成る食品を製造した。形は延べ棒状(直方体)とした。
【実施例2】
【0014】
実施例1の評価結果を踏まえて再度製造条件を変えて焼き栗のみから成る食品を製造した。
製造条件及び試食の評価について表2に示す。
【表2】
試作品H〜Jは冷蔵保管による熟成を行い、栗に切れ目を入れていない。
圧力釜の圧力を試作品Hは栗各50gを0.9 MPaと1.3 MPa、試作品I及びJは栗各50gを0.7 MPaと0.9 MPaにした。
皮を剥いて加糖せずに押し潰してペースト状に加工する際に圧力を変えた2種類の栗を混ぜて試作品H〜J各々の総重量を100 gにした。
試作品H〜Jは加圧加熱殺菌を120℃、時間を20分行い、焼き栗のみから成る食品を製造した。形は延べ棒状(直方体)とした。
【0015】
[結論]
試作品Hが栗本来の甘み・風味に香ばしさとコクが加わった上品な味わいになった。試作品I及びJも試作品A〜Gと比較して美味しいが、試作品Hと比較すると甘みが不足していた。この甘味の不足は第2工程での圧力釜での加熱・加圧不足が原因と推測される。したがって、試作品Hにおいて0.9 MPaで加熱・加圧した栗を使用することなく、1.3 MPa±0.1 MPa程度で加熱・加圧した栗のみを使用するのが最も美味しくなる条件と推測される。
図1に本発明の製造方法で製造した焼き栗のみからなる食品の写真を示す。第2工程での圧力釜の設定圧力を1.3 MPaにした。一般的な設定圧力(0.6 MPa〜0.9 MPa)で加熱・加圧した場合と比較してよりこげ茶色に近くなっているのが分かる。これは、第2工程で高圧で栗を焼くことによって糖類のカラメル化及び/又はメイラード反応が起きた結果と推測される。
【産業上の利用可能性】
【0016】
本発明は、加糖なしで糖度が高く、且つ燻し臭さを抑えた焼き栗のみから成る食品の製造方法であり、産業上の利用可能性を有する。