【実施例】
【0029】
(α化乾燥玄米の調製1)
まず、α化乾燥玄米の製造における膨化工程(膨化処理)の有無の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを200℃、39秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重0.65g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水して、常温において24時間浸漬を行った。これを炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG−B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α−アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60〜70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(比較例A)。
【0030】
一方、比較例Bとして、同じ原料玄米100gに1.8倍量加水して常温において24時間浸漬を行った後、炊飯以降は比較例Aと同様の方法によってα化乾燥玄米を調製した。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表1にまとめた。なお、表中における「釜離れ」とは、炊飯米を炊飯器の釜から離す際の状態を表し、「乾燥トレイでの平伸ばし状態」とは、酵素液浸漬後に液切りした米を乾燥トレイに平たく伸ばす際の状態を表し、「乾燥後のほぐし状態」とは、熱風乾燥後において乾燥トレイ上の乾燥玄米をほぐした際の状態を表す(後述する表2および表4についても同様である)。
【0031】
【表1】
【0032】
この結果、炊飯前に膨化処理を行った比較例Aの玄米は吸水性が極めて高いため、炊飯前の常温における24時間浸漬処理により加水をすべて吸収していた。この玄米を炊飯後、乾燥処理を行うと、米粒が崩壊してしまいα化乾燥玄米が得られなかった。よって、乾燥後重量および乾燥後のほぐし状態は確認できなかった(ND)。なお、炊飯前の膨化処理を行っていない比較例Bは、得られたα化乾燥玄米の復元性および復元後の食感が好ましいものではなかった。
【0033】
(α化乾燥玄米の調製2)
次に、α化乾燥玄米の製造における加熱前浸漬時間の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを200℃39秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重0.65g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、加熱前浸漬時間0時間(浸漬なし、実施例1)、加熱前浸漬時間0.5時間(浸漬0.5h、実施例2)、および加熱前浸漬時間2時間(浸漬2h、比較例1)の3種類の加熱前浸漬処理を実施し、これらをいずれも炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG−B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α−アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60〜70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表2にまとめた。いずれも単粒化されたα化乾燥玄米を取得することができた。
【0034】
【表2】
【0035】
そして、このようにして得られた実施例1、2および比較例1の各α化乾燥玄米について、官能評価を実施した。具体的には、これらのα化乾燥玄米30gをスープとともにカップ状容器に入れ、容器に98℃の熱湯を注いで5分後に湯戻りした玄米の官能評価を行った。
官能評価は、α化乾燥玄米の復元性(中心部に芯がない戻りの良さ)、食感(弾力および粘り)および米粒感(見た目の粒感)の3つの項目について、以下に示す評価基準を用い、パネリスト間において共通の評価基準となるように統一した。具体的には、実施例1を基準サンプル(評価はいずれの項目も4.0)として、以下の評価基準に基づいて10名のパネリストが相対評価により各サンプルを比較官能評価し、この平均値を算出した。結果を下記表3に示した。
【0036】
<復元性、食感および米粒感の評価基準>
5:非常に良い(実施例1より良い)
4:やや良い(実施例1と同等)
3:良い(実施例1より若干劣るが良好である)
2:やや悪い(実施例1より劣る)
1:悪い(実施例1よりもかなり劣る)
【0037】
【表3】
【0038】
この結果、実施例1および実施例2のα化乾燥玄米は、復元性が良好であり、且つ食感および米粒感も良好であった。一方、比較例1のα化乾燥玄米は、復元性は良好であったが、米粒が崩壊し、特に米粒感が好ましいものではなかった。
【0039】
(α化乾燥玄米の調製3)
次に、α化乾燥玄米の製造における膨化処理条件の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき50%、つや姫50%、いずれも山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、150℃156秒、175℃83秒、200℃70秒、225℃52秒の4つの条件においてそれぞれ熱風により膨化処理を行い、得られた各膨化玄米(かさ比重はそれぞれ0.86g/ml、0.74g/ml、0.63g/ml、0.59g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、いずれも加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG−B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α−アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60〜70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例3〜6)。
【0040】
一方、比較例2として、同じ原料玄米100gを洗米してから1.8倍量加水して常温において24時間浸漬を行った後、炊飯以降は実施例3〜6と同様の方法によってα化乾燥玄米を調製した。これらの各工程における玄米の重量、かさ比重および状態を下記表4にまとめた。いずれも単粒化されたα化乾燥玄米を取得することができた。
【0041】
【表4】
【0042】
これらの製造工程中の膨化工程後における各膨化玄米について、粒の側面および横断面(膨化玄米の粒を短手方向に切断した断面)を観察した。この観察所見および各膨化玄米のかさ比重を表5に示した。
なお、実施例3、4、6の製造工程中の膨化工程後における各膨化玄米については、さらに、粒の側面および横断面を下記条件により顕微鏡観察し、未処理玄米粒の側面および横断面と比較した。この顕微鏡写真を
図2に示した。
使用機器:デジタルマイクロスコープ VHX−1000(キーエンス社製)
倍率:50倍
【0043】
【表5】
【0044】
さらに、得られた実施例3〜6および比較例2の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表6に示した。
【0045】
【表6】
【0046】
この結果、実施例3〜6のα化乾燥玄米は、比較例2のα化乾燥玄米に比べていずれも復元性が良く、食感も優れていた。また、膨化処理温度を高くすると得られる膨化玄米のかさ比重がより小さくなり、得られるα化乾燥玄米の復元性がより良くなる傾向であった。なお、膨化処理温度を200℃超とすると、得られるα化乾燥玄米の米粒感が若干低下する傾向がみられた。さらに、膨化工程後の膨化玄米の外観評価から、実施例3、4、6はいずれも膨化工程後において、玄米の表皮(果皮および種皮)の少なくとも一部が破れていることが明らかとなった(
図2)。
【0047】
また、実施例3、実施例6および比較例2のα化乾燥玄米について、かさ比重および98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率を測定した。この結果、実施例3のα化乾燥玄米のかさ比重は0.40g/ml、吸水率は255質量%であり、実施例6のα化乾燥玄米のかさ比重は0.34g/ml、吸水率は276質量%であった。これに対し、比較例2のα化乾燥玄米のかさ比重は0.45g/mlであったが、吸水率は201質量%であった。
【0048】
(α化乾燥玄米の調製4)
α化乾燥玄米の製造における膨化処理条件の影響をさらに確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき100%、山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、240℃42秒、260℃35秒、280℃32秒の3つの条件においてそれぞれ熱風により膨化処理を行い、得られた各膨化玄米(かさ比重はそれぞれ0.58g/ml、0.56g/ml、0.55g/ml)に原料玄米の1.8倍量加水した。そして、いずれも加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG−B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた各炊飯米を、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α−アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60〜70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移して45秒間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例7〜9)。
【0049】
そして、このようにして得られた実施例7〜9の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表7に示した。
【0050】
【表7】
【0051】
この結果、膨化処理温度を240℃、260℃あるいは280℃としても、膨化処理温度が高くなるにつれて得られるα化乾燥玄米の米粒感は若干低下傾向となるものの、全体として官能評価は概ね良好であった。ただし、260℃および280℃における膨化処理では、膨化処理において玄米がやや焦げやすい傾向にあり、また膨化処理時間が短いためやや処理のバラつきが出やすい傾向であった。
【0052】
また、実施例9のα化乾燥玄米について、かさ比重および98℃の熱湯に浸漬してから5分後における吸水率を測定した。同じ方法により2回製造した各ロットについての測定結果は、それぞれ、かさ比重0.38g/mlおよび吸水率259質量%、ならびに、かさ比重0.35g/mlおよび吸水率282質量%であった。
【0053】
(α化乾燥玄米の調製5)
α化乾燥玄米の製造における酵素液浸漬時間の影響を確認するため、次の試験を実施した。
原料となる玄米(はえぬき100%、山形県産)100gを洗米して表面の汚れを除去した後、225℃52秒の条件において熱風により膨化処理を行い、得られた膨化玄米(かさ比重は0.59g/ml)に原料玄米の2.0倍量加水した。そして、加熱前浸漬時間をとることなく、炊飯器(マイコン炊飯ジャー JBG−B100、タイガー魔法瓶社製)によって炊飯し、得られた炊飯米を3つに分け、約60℃に調整した0.05%ネオスピターゼ(α−アミラーゼ1%含有製剤、至適温度60〜70℃、ナガセケムテックス株式会社製)含有酵素液に移してそれぞれ2秒、45秒、3分間撹拌しながら浸漬した。この酵素液浸漬後、液切りを行い、液切り後の米を乾燥トレイに平たく伸ばした状態で入れ、95℃、75分間の条件により熱風乾燥を行った(実施例10〜12)。
【0054】
そして、このようにして得られた実施例10〜12の各α化乾燥玄米について、前述と同様の方法により、実施例1を基準サンプルとして官能評価を実施した。結果を下記表8に示した。
【0055】
【表8】
【0056】
この結果、実施例10および実施例11のα化乾燥玄米は、いずれの項目も良好な評価であったが、酵素浸漬処理時間3分である実施例12のα化乾燥玄米は、全体として比較的良好な評価であるものの、米粒感がやや低下し食感はやわらかくなる傾向であった。
【0057】
以上より、本発明に係るα化乾燥玄米の製造方法により、玄米の吸水性および炊飯性が著しく改善され、さらに復元性および復元後の食感が好ましい、単粒化されたα化乾燥玄米が効率的に得られることが示された。
【0058】
なお、本実施例に使用した原料玄米(はえぬき、つや姫)に代えて、原料玄米としてコシヒカリ100%(山形県産)を用いる以外は本実施例と同様に製造を行うことによっても、本発明のα化乾燥玄米を取得することができる。