(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-131535(P2020-131535A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫成型用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20200803BHJP
B29C 33/10 20060101ALI20200803BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20200803BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20200803BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C33/10
B29C35/02
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-27345(P2019-27345)
(22)【出願日】2019年2月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 崇宏
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202AJ02
4F202AM32
4F202AR07
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU01
4F202CU07
4F203AA45
4F203AB03
4F203AH20
4F203AM33
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL10
4F203DN26
(57)【要約】
【課題】タイヤのビード部にスピューが形成されないようにする。
【解決手段】タイヤのビード部を成形するビード成形面14を有するビードリング5を備える。前記ビードリング5は、前記ビード成形面14と前記ビードリング5の外部とを連通可能なスプリングベント25が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのビード部を成形するビード成形面を有するビードリングを備え、
前記ビードリングは、前記ビード成形面と前記ビードリングの外部とを連通可能な複数のスプリングベントが設けられている、タイヤ加硫成型用金型。
【請求項2】
前記ビード成形面に於ける前記スプリングベントの開口位置は、前記ビード成形面を構成する凹部の最深部である、請求項1に記載のタイヤ加硫成型用金型。
【請求項3】
前記ビード成形面を構成する凹部は曲率半径Rの断面形状を有し、
前記スプリングベントは、前記最深部を通って径方向に延びる基準線に対して前記最深部を基準として、±10°の角度範囲に延びている、請求項2に記載のタイヤ加硫成型用金型。
【請求項4】
前記スプリングベントは、金型の軸心を中心として周方向の異なる位置に形成され、
前記複数のスプリングベントは、前記基準線に対する傾斜角度が相違している、請求項3に記載のタイヤ加硫成型用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫成型用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タイヤのビード部を成形するビードリングを備え、このビードリングにベント穴を形成したタイヤ加硫成型用金型が公知である(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、前記従来の金型で成型して得られたタイヤには、ビード部にスピューと呼ばれる髭状のゴムが形成される。このビード部に形成されるスピューはリム組みする際の妨げとなり、除去するのが好ましいが、ビード部に形成されたスピューの除去は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017−209958号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、タイヤのビード部にスピューが形成されないようにすることができるタイヤ加硫成型用金型を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するための手段として、タイヤのビード部を成形するビード成形面を有するビードリングを備え、前記ビードリングは、前記ビード成形面と前記ビードリングの外部とを連通可能なスプリングベントが設けられている、タイヤ加硫成型用金型を提供する。
【0007】
この構成により、加硫成型する際、ビード部からスプリングベントを介してガスを排出することができる。スプリングベントであるので、ビード部の外表面にスピューが形成されることはない。
【0008】
前記ビード成形面に於ける前記スプリングベントの開口位置は、前記ビード成形面を構成する凹部の最深部であるのが好ましい。
【0009】
この構成により、最もガスが残留しやすい部分から積極的にガスを排出できる。
【0010】
前記ビード成形面を構成する凹部は曲率半径Rの断面形状を有し、前記スプリングベントは、前記最深部を通って径方向に延びる基準線に対して前記最深部を基準として、±10°の角度範囲に延びているのが好ましい。
【0011】
この構成により、スプリングベント間で排気性能にバラツキが発生することを防止し、所望のエア排出効果を得ることができる。
【0012】
前記ビードリングは、タイヤ周方向に分割された複数で構成され、前記各ビードリングに形成する前記スプリングベントは、前記基準線に対する傾斜角度が相違しているのが好ましい。
【0013】
この構成により、基準角度に対する傾斜角度の違いで、ゴム詰まりが発生しにくいスプリングベントを介在させることができる。このため、全てのスプリングベントが同時に詰まってしまうといった不具合の発生を防止できる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ビード部を形成するビード成形面に連通可能なスプリングベントを設けるようにしたので、ビード部にスピューが形成されることを防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係るタイヤ加硫成型用金型の断面図。
【
図3】
図2のX矢視によるビード成形面の部分拡大図。
【
図5】他の実施形態に係るビードリングの部分拡大断面図。
【
図6】他の実施形態に係るビードリングの部分拡大断面図。
【
図7】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
【
図8】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
【
図9】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
【
図10】他の実施形態に係るビードリングのビード成形面の部分拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る実施形態を添付図面に従って説明する。なお、以下の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物、あるいは、その用途を制限することを意図するものではない。さらに、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは相違している。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ加硫成型用金型(以下、単に「金型1」と記載する。)の概略を示す断面図である。
図1には、金型1のタイヤ径方向の一方側のみが、加硫成型された空気入りタイヤ2と共に図示されている。
【0018】
金型1は、上下方向に延びる軸心を中心として環状に配置されるセクターモールド3、サイドプレート4及びビードリング5を備える。セクターモールド3、サイドプレート4及びビードリング5によって画定された空間は、グリーンタイヤがセットされて加硫成型されるキャビティ6、すなわちセグメンテッドモールドである。
【0019】
セクターモールド3は複数のセクター7からなる。各セクター7は、金型1の軸心を中心として径方向に移動する(
図1中、RDで示す)。各セクター7は内径側に移動して環状に連なり、連なった内壁面が空気入りタイヤ2のトレッド部の外表面を形成するトレッド成形面8となる。
【0020】
サイドプレート4は、セクターモールド3の内径側に位置する上下一対の環状のプレートである。上プレート9は、金型1の軸心方向(
図1中、ADで示す)に移動する。下プレート10に対して上プレート9が接近し、その内壁面が空気入りタイヤ2のサイドウォール部の外表面を形成するサイドウォール成形面11となる。
【0021】
ビードリング5は、サイドプレート4の内径側に一体化された上下一対の環状のリングである。上リング12は、上プレート9と共に下リング13に接近し、その内壁面の一部が空気入りタイヤ2のビード部の外表面を形成するビード成形面14となる。
【0022】
ビード成形面14は、
図2に示すように、軸心方向ADの上方から下方に向かって第1湾曲面15、第2湾曲面16、第3湾曲面17、平坦面18及びテーパ面19で構成されている。第1湾曲面15は、断面が曲率半径R1の円弧状で、曲率中心O1がビードリング5側にあり、膨らむように形成されている。第2湾曲面16は、第1湾曲面15に連続し、断面が曲率半径R2の円弧状で、曲率中心O2が第1湾曲面15とは反対側にあり、窪むように形成された凹部である。第3湾曲面17は、曲率半径R3の円弧状で、曲率中心O3がビードリング側にあり、膨らむように形成されている。第2湾曲面16の最も窪んだ位置である最深部20は、第2湾曲面16を線対称に2分割する基準線SL上に位置している。ここでは、基準線SLと金型1の軸心方向に延びる直線ADLとの成す角度θ0は、20°≦θ0≦65°に設定している。
【0023】
ビード成形面14には、
図2をY矢視で見た
図3に示すように、溝状のソーカット21が複数箇所に形成されている。ソーカット21は、タイヤ周方向CRに延びる周方向ソーカット22と、タイヤ径方向RDに延びる径方向ソーカット23とが含まれる。周方向ソーカット22は最深部20に位置している。
【0024】
ビード成形面14の第2湾曲面16の最深部20には、軸心を中心として周方向に等間隔で複数のベント孔24が形成されている(ここでは、18箇所)。一部のベント孔24は、周方向ソーカット22と径方向ソーカット23の交点に位置している。ベント孔24は基準線SLに沿って延びている。またベント孔24は、
図7に示すように、金型1の軸心から径方向RDに向かうように延びている。各ベント孔24にはスプリングベント25がそれぞれ配置されている。ベント孔24とスプリングベント25の軸心とは一致している。
【0025】
スプリングベント25は、
図4に示すように、排気通路26を有する円筒状のハウジング27と、ハウジング27に挿入されたステム28と、ステム28をビード成形面側に付勢するコイルスプリング29とを備える。
【0026】
ハウジング27は、外周面の一部(
図4中、下方部分)をベント孔24に圧入状態で保持されている。排気通路26は、上端から下端に向かって上端開口部30、連通部31、スプリング収容部32及びテーパ部33で構成されている。上端開口部30は連通部31よりも内径寸法が大きく、そこには段部34が形成されている。スプリング収容部32は連通部31よりも内径寸法が大きく、連通部31との境界部分には縮径部35が形成されている。テーパ部33は、スプリング収容部32から下端に向かって徐々に内径寸法が大きくなる円錐内面で構成されている。
【0027】
ステム28は、軸部36と、軸部36の上端部に形成されるストッパ37と、下端部に形成される弁体38とを備える。軸部36の下方部分には、その上方側よりも外径寸法が大きくなった大径部39が形成されている。弁体38は、下方に向かって拡径した円錐台状に形成されている。弁体38の円錐外面は、ハウジング27のテーパ部33の円錐内面と平行に延び、両者は面接触可能となっている。
【0028】
コイルスプリング29は、軸部36の周囲に配置され、ハウジング27のスプリング収容部32に収容されている。コイルスプリング29は、縮径部35と大径部39との間で圧縮状態となっている。これにより、ステム28は下方側へと付勢される。このとき、ストッパ37がハウジング27の段部34に当接して抜け止めされる。但し、ストッパ37と段部34との間には、当接状態で部分的な隙間が形成され、ガスが流動可能となっている。
【0029】
前記構成の金型1では、グリーンタイヤを加硫成型する際、グリーンタイヤのビード部とビードリング5のビード成形面14との間のガスは、スプリングベント25を介して金型外へと排出される。スプリングベント25は、ビード成形面14のうち、最も窪んだ第2湾曲面16の最深部20に形成されている。スプリングベント25では、コイルスプリング29の付勢力によってステム28が押し下げられ、弁体38とテーパ部33との間に隙間が形成されている。これにより、金型1内のガスは、この隙間からスプリング収容部32内に侵入し、連通部31と軸部36の隙間からストッパ37と段部34の隙間を介して外部へと排出される。最深部20はガスが行き場を失って最も集まりやすい場所である。この場所にスプリングベント25を設けることで、残留ガスによって焼けやボイドが発生することを防止できる。
【0030】
グリーンタイヤの加硫成型で、ビード成形面14にゴムが流動してくれば、このゴムにより、コイルスプリング29による付勢力に抗してステム28が上方に押し上げられる。これにより、弁体38の円錐外面とハウジング27のテーパ部33の円錐内面とが互いに面接触して閉鎖される。したがって、ハウジング27内にゴムが流入することはない。
【0031】
このようにして加硫成型された空気入りタイヤ1のビード部にはスピューが形成されることがない。したがって、このタイヤをリムに組み付ければ、リムに対してビード部の外表面を密着させることができ、良好なリム組み状態を得ることができる。
【0032】
なお、本発明は、前記実施形態に記載された構成に限定されるものではなく、種々の変更が可能である。
【0033】
前記実施形態では、
図2に示す形状のビード成形面14について説明したが、他の形状のビード成形面であっても、最も深い位置である最深部にベント孔24を形成すれば、前記同様の効果を得られる。
【0034】
前記実施形態では、ビードリング5にはビード成形面14の最深部20から延びるベント孔24を基準線SL上に形成するようにしたが、基準線SLに対して±10°の範囲、好ましくは、±5°の範囲で傾斜させてもよい。例えば、グリーンタイヤのビード部での材質の違いによってゴムが流動しやすい方向が相違するため、ベント孔24に装着したスプリングベント25へのゴムの流入を防止しやすいように、ゴムが流動しやすい方向に対してベント孔24を傾斜させるようにすればよい。
【0035】
図5では、ベント孔24は、基準線SLに対して−10°の範囲、すなわちベント孔24の中心と、金型1の軸心方向に延びる直線ADLとの成す角度θ1が、基準線SLと成す角度θ0よりも小さくなるように傾斜させている。これにより、ビード成形面14での開口からビードリング5の外面までの距離を短くすることができる。この結果、ビード成形面14での残留ガスを排出しやすくなる。
【0036】
図6では、ベント孔24は、基準線SLに対して+10°の範囲、すなわちベント孔24の中心と、金型1の軸心方向に延びる直線ADLとの成す角度θ2が、基準線SLと成す角度θ0よりも大きくなるように傾斜させている。この範囲であれば、少なくともタイヤ1の内径側でのゴム噛みの発生が問題となることはない。
【0037】
この場合、複数あるベント孔24の傾斜角度は全て同じとしてもよいが、それぞれ相違させるようにしてもよい。これにより、スプリングベント25に向かって流動するゴムが、弁体38に作用する条件を各ベント孔24で相違させることができる。この結果、全てのスプリングベント25がほぼ同時期に詰まる等の不具合が発生することを防止できる。
【0038】
前記実施形態では、ビードリング5を平面視したとき(
図2中、下方側から見たとき)、
図7に示すように、ベント孔24を金型1の軸心から径方向に向かうように形成したが、相違させるようにしてもよい。これによれば、上プレート9へのビードリング5の取付(ねじ止め)位置と重なりそうなベント孔24の傾斜角度を相違させて両者の干渉を回避できる。これにより、ビードリング5の内面に於けるベント孔24の開口位置を自由に設定できる。この結果、周方向に均一にベント孔24を開口させてエアの排出を偏りなく実施できる。
【0039】
図8では、ビードリング5の周方向に隣り合う3つのベント孔24を1組として、1つのみをビードリング5の径方向に延びる直線RDLに対して所定角度α(−20°≦α≦20°)で傾斜させるようにしている。したがって、ビードリング5の周方向には2つ置きに傾斜したベント孔24が形成されることになる。
【0040】
図9では、ビードリング5の周方向に隣り合う3つのベント孔24を1組として、両側に位置するベント孔24の傾斜方向を逆向きとしている。つまり、ビードリング5の径方向に延びる直線RDLに対して周方向の一方に傾斜する第1ベント孔24aと、前記直線RDL上に位置する第2ベント孔24bと、前記直線RDLに対して周方向の他方に傾斜する第3ベント孔24cとが、周方向に順番に配置される。これによれば、なお、第2ベント孔24bと第3ベント孔24cの傾斜角度は必ずしも同じでなくてもよい。
【0041】
図10では、3つあるベント孔24の全てをタイヤ径方向に延びる直線RDLに対して所定角度α(−20°≦α≦20°)で傾斜させている。
【0042】
前記実施形態では、ビード成形面14の最深部20から1つのベント孔24を形成するようにしたが、傾斜角度の相違する2つのベント孔24を形成することもできる。例えば、最深部20に対してゴムが流動しやすい方向に一方のベント孔24を形成し、これ以外の方向に他方のベント孔24を形成すれば、一方のベント孔24にゴムが詰まってしまった場合であっても他方のベント孔24によってガス抜きすることができるので、1つのビードリング5を長期に亘って使用することができる。
【0043】
前記実施形態では、金型1としてセグメンテッドモールドについて説明したが、上下半割の2ピースモールドであっても、ビード成形面14にスプリングベント25を採用することで、同様な効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0044】
1…金型
2…空気入りタイヤ
3…セクターモールド
4…サイドプレート
5…ビードリング
6…キャビティ
7…セクター
8…トレッド成形面
9…上プレート
10…下プレート
11…サイドウォール成形面
12…上リング
13…下リング
14…ビード成形面
15…第1湾曲面
16…第2湾曲面
17…第3湾曲面
18…平坦面
19…テーパ面
20…最深部
21…ソーカット
22…周方向ソーカット
23…径方向ソーカット
24…ベント孔
25…スプリングベント
26…排気通路
27…ハウジング
28…ステム
29…コイルスプリング
30…上端開口部
31…連通部
32…スプリング収容部
33…テーパ部
34…段部
35…縮径部
36…軸部
37…ストッパ
38…弁体
39…大径部