(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-132353(P2020-132353A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】ワイヤロープテンション治具及びこれを用いたワイヤロープの巻替え方法
(51)【国際特許分類】
B66D 1/54 20060101AFI20200803BHJP
B66D 1/50 20060101ALI20200803BHJP
B66D 1/395 20060101ALI20200803BHJP
【FI】
B66D1/54 A
B66D1/50 Z
B66D1/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-27520(P2019-27520)
(22)【出願日】2019年2月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(72)【発明者】
【氏名】奥村 高好
(57)【要約】
【課題】ワイヤロープの撚りに起因した回転力を逃がしつつ、ウインチドラムに巻き付けられるワイヤロープに対して十分な張力を付与することが可能なワイヤロープテンション治具及びこれを用いたワイヤロープの巻替え方法を提供する。
【解決手段】ワイヤロープテンション治具11は、中央にワイヤロープ挿通孔16が設けられた半割り可能な筒型構造のテンション付与部13と、テンション付与部を挟む両側にそれぞれ配置されるとともに、一対の反力確保用ロープ33,33がそれぞれ取り付けられる一対の耳片32,32からなる反力受け部14とを備え、テンション付与部と反力受け部との間に、テンション付与部の連結ボルト28を締め付けてワイヤロープ12への挟持力を付与した状態で、テンション付与部と反力受け部とがワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に接続されるトルク吸収部15を設けている。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建設機械のウインチドラムに巻き取られるワイヤロープにテンションを付与するテンション付与部と、該テンション付与部の反力を受ける反力受け部とを備えたワイヤロープテンション治具において、前記テンション付与部は、中央にワイヤロープ挿通孔が設けられた筒型構造をなして、前記ワイヤロープの長さ方向の一部を挟持可能な内側面を有する複数のスライドプレートと、半割り可能に形成され、前記スライドプレートの外側面が当接可能な内側面を有する一対のブラケットと、両ブラケットを組み合わせた状態に保持しながら前記スライドプレートに前記ワイヤロープへの挟持力を付与するための連結ボルトとを備え、前記反力受け部は、前記テンション付与部を挟む両側にそれぞれ配置されるとともに、一対の反力確保用ロープがそれぞれ取り付けられる一対の耳片からなり、前記テンション付与部と前記反力受け部との間に、前記連結ボルトを締め付けて前記ワイヤロープへの挟持力を付与した状態で、前記テンション付与部と前記反力受け部とが前記ワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に接続されるトルク吸収部を設けていることを特徴とするワイヤロープテンション治具。
【請求項2】
前記トルク吸収部は、入れ子状にして径方向に重合配置させてなる内側環状部材及び外側環状部材を前記ワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に組み付けて構成され、前記内側環状部材は、周方向で2分割された分割体を前記一対のブラケットの外周部にそれぞれ設けるとともに、両分割体の外周端同士間に隙間を有して連続する円弧状摺接面をなすように形成され、前記外側環状部材は、内周部が前記連続する円弧状摺接面に摺接可能な環状摺接面を有して形成されるとともに、前記一対の耳片を径方向両側外周部にそれぞれ設けていることを特徴とする請求項1記載のワイヤロープテンション治具。
【請求項3】
請求項1又は2記載のワイヤロープテンション治具を用いたワイヤロープの巻替え方法であって、前記一対の反力確保用ロープの一端を前記一対の耳片にそれぞれ取り付けるとともに、他端を建設現場に配置された固定物の一箇所に纏めて取り付ける段階を含むことを特徴とするワイヤロープの巻替え方法。
【請求項4】
前記建設機械は、ベースマシンの前部に起伏可能かつ着脱可能に設けられたブームと、該ブームに回転可能かつ昇降可能に吊持されたケリーバと、前記ベースマシンの前部に設けられたフロントフレームに支持されて前記ケリーバを回転駆動するケリードライブとを備えたアースドリルであり、前記ワイヤロープは、前記ケリーバを吊持するための主巻ロープであり、前記固定物は、前記アースドリル以外の他の建設機械のフロント部材であることを特徴とする請求項3記載のワイヤロープの巻替え方法。
【請求項5】
前記建設機械は、ベースマシンの前部に起伏可能かつ着脱可能に設けられたブームと、該ブームに回転可能かつ昇降可能に吊持されたケリーバと、前記ベースマシンの前部に設けられたフロントフレームに支持されて前記ケリーバを回転駆動するケリードライブとを備えたアースドリルであり、前記ワイヤロープは、前記ケリーバを吊持するための主巻ロープであり、前記固定物は、前記ベースマシンの前部に装着された前記ブームであることを特徴とする請求項3記載のワイヤロープの巻替え方法。
【請求項6】
前記建設機械は、ベースマシンの前部に起伏可能かつ着脱可能に設けられたブームと、該ブームに回転可能かつ昇降可能に吊持されたケリーバと、前記ベースマシンの前部に設けられたフロントフレームに支持されて前記ケリーバを回転駆動するケリードライブとを備えたアースドリルであり、前記ワイヤロープは、前記ケリーバを吊持するための主巻ロープであり、前記固定物は、地面に寝かせて配置された前記ケリーバであることを特徴とする請求項3記載のワイヤロープの巻替え方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建設機械のウインチドラムに巻き取られるワイヤロープにテンションを付与するワイヤロープテンション治具及びこれを用いたワイヤロープの巻替え方法に関し、詳しくは、ワイヤロープに型崩れを生じさせないワイヤロープテンション治具及びこれを用いたワイヤロープの巻替え方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、アースドリルなどの建設機械には、ウインチドラムが搭載されていて、このウインチドラムに、例えば、ケリーバなどの施工具を吊下げ可能なワイヤロープが巻回されている。このワイヤロープには、掘削作業の際に大きな負荷が作用し易く、ワイヤロープの摩耗が激しいことから、作業現場において新品と交換する場合がある。新品のワイヤロープをウインチドラムに巻替える際には、いわゆる乱巻きを防ぐために、テンション(張力)を付与しながら、きっちり詰めた状態で順序よく整列して巻替える必要がある。そこで、比較的に小さく、かつ、簡易な構造でワイヤロープに型崩れが生じることを防止して、現場において容易に取り扱うことができるワイヤロープテンション治具が開発されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6258682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1に記載されたワイヤロープテンション治具では、ワイヤロープの乱巻や型崩れなどの不具合が生じることを防止できるものの、その構造上、張力が付与されたワイヤロープから受ける回転力を逃がすことができず、ワイヤロープの撚りが詰まるなどして、ワイヤロープの寿命を短くする要因となっていた。さらには、使用中にワイヤロープから受ける回転力が治具本体や固定物に連結されたロープに残留することで、使用後に固定を緩めた瞬間、意図しない動きをするおそれがあり、ワイヤロープの巻替え作業に関する取り扱い上の点においても課題があった。
【0005】
そこで本発明は、ワイヤロープの撚りに起因した回転力を逃がしつつ、ウインチドラムに巻き付けられるワイヤロープに対して十分な張力を付与することが可能なワイヤロープテンション治具及びこれを用いたワイヤロープの巻替え方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明のワイヤロープテンション治具は、建設機械のウインチドラムに巻き取られるワイヤロープにテンションを付与するテンション付与部と、該テンション付与部の反力を受ける反力受け部とを備えたワイヤロープテンション治具において、前記テンション付与部は、中央にワイヤロープ挿通孔が設けられた筒型構造をなして、前記ワイヤロープの長さ方向の一部を挟持可能な内側面を有する複数のスライドプレートと、半割り可能に形成され、前記スライドプレートの外側面が当接可能な内側面を有する一対のブラケットと、両ブラケットを組み合わせた状態に保持しながら前記スライドプレートに前記ワイヤロープへの挟持力を付与するための連結ボルトとを備え、前記反力受け部は、前記テンション付与部を挟む両側にそれぞれ配置されるとともに、一対の反力確保用ロープがそれぞれ取り付けられる一対の耳片からなり、前記テンション付与部と前記反力受け部との間に、前記連結ボルトを締め付けて前記ワイヤロープへの挟持力を付与した状態で、前記テンション付与部と前記反力受け部とが前記ワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に接続されるトルク吸収部を設けていることを特徴としている。
【0007】
また、前記トルク吸収部は、入れ子状にして径方向に重合配置させてなる内側環状部材及び外側環状部材を前記ワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に組み付けて構成され、前記内側環状部材は、周方向で2分割された分割体を前記一対のブラケットの外周部にそれぞれ設けるとともに、両分割体の外周端同士間に隙間を有して連続する円弧状摺接面をなすように形成され、前記外側環状部材は、内周部が前記連続する円弧状摺接面に摺接可能な環状摺接面を有して形成されるとともに、前記一対の耳片を径方向両側外周部にそれぞれ設けていることを特徴としている。
【0008】
さらに、本発明のワイヤロープの巻替え方法は、前記ワイヤロープテンション治具を用いたワイヤロープの巻替え方法であって、前記一対の反力確保用ロープの一端を前記一対の耳片にそれぞれ取り付けるとともに、他端を建設現場に配置された固定物の一箇所に纏めて取り付ける段階を含むことを特徴とし、また、前記建設機械は、ベースマシンの前部に起伏可能かつ着脱可能に設けられたブームと、該ブームに回転可能かつ昇降可能に吊持されたケリーバと、前記ベースマシンの前部に設けられたフロントフレームに支持されて前記ケリーバを回転駆動するケリードライブとを備えたアースドリルであり、前記ワイヤロープは、前記ケリーバを吊持するための主巻ロープであり、前記固定物は、第1の巻替え方法では、前記アースドリル以外の他の建設機械のフロント部材であり、第2の巻替え方法では、前記ベースマシンの前部に装着された前記ブームであり、第3の巻替え方法では、地面に寝かせて配置された前記ケリーバであることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ワイヤロープテンション治具が半割り可能な筒型構造をなすテンション付与部と、該テンション付与部の両側に設けられた一対の耳片からなる反力受け部とを備え、これらの間に、テンション付与部と反力受け部とがワイヤロープの軸心回りに相対回転可能に接続されるトルク吸収部を設けているので、簡単な構成で、ワイヤロープに対して十分な張力を付与しつつ、ワイヤロープの撚りに起因した回転力を逃がすことが可能となり、ワイヤロープの寿命を延ばすことができる。
【0010】
とりわけ、トルク吸収部がテンション付与部及び反力受け部に対して隣り合う関係に配置されていることから、治具をワイヤロープの挿通方向に極力短く形成して小型・軽量に製作でき、もってワイヤロープテンション治具としての安価で実用性に優れた構造を得ることができる。しかも、ワイヤロープから受ける回転力が治具本体や反力確保用ロープに残留しないので、現場においてワイヤロープの巻替え作業を行う際に、ワイヤロープテンション治具を安心して取り扱うことができるだけでなく、一対の反力確保用ロープを固定物の一箇所に纏めて取り付けた場合であっても、反力確保用ロープ同士が絡み合ってしまうという不都合もなくなり、作業性を良好なものにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一形態例を示すワイヤロープテンション治具の正面図である。
【
図4】本発明のワイヤロープテンション治具を用いたワイヤロープの巻替え方法における第1形態例を示した図である。
【
図5】同じく本発明のワイヤロープの巻替え方法における第2形態例を示した図である。
【
図6】同じく本発明のワイヤロープの巻替え方法における第3形態例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1乃至
図3は、本発明のワイヤロープテンション治具の一形態例を示すもので、本形態例に示すワイヤロープテンション治具11は、基本的には、建設機械のウインチドラムに巻き取られるワイヤロープ12にテンション(張力)を付与するテンション付与部13と、該テンション付与部13の反力を受ける反力受け部14と、テンション付与部13と反力受け部14とをワイヤロープ12の軸心回りに相対回転可能に接続するトルク吸収部15とで構成されている。
【0013】
テンション付与部13は、中央に、例えば直径30mmのワイヤロープ12に対応する内径31.5mmのワイヤロープ挿通孔16が設けられた筒型構造をなして、ワイヤロープ12の長さ方向の一部を挟持可能な内側面となる内側縁部17a,18a,19a,20aを有する4つのスライドプレート17,18,19,20と、半割り可能に形成され、スライドプレート17,18,19,20の外側面となる外側縁部17b,18b,19b,20bが当接可能な内側面21a,22aを有する一対のブラケット21,22と、スライドプレート17,18,19,20をブラケット21,22の内側に固定するための固定ボルト23が着脱可能な上側プレート24,25及び下側プレート26,27と、両ブラケット21,22を組み合わせた状態に保持しながらスライドプレート17,18,19,20にワイヤロープ12への挟持力を付与するための連結ボルト28及びナット29とを備えて構成されている。
【0014】
一対のブラケット21,22は、断面が略「く」字状で長手方向(
図2の左右方向)に延びる長さL1が、例えば200mmの同一形状のブラケットであり、互いに組み合わせたときの断面が略六角形の筒状に形成されている。また、各ブラケット21,22の両側部からは、連結ボルト28が挿通されるボルト孔を有した連結片30,31がそれぞれ突出している。各ブラケット21,22の内部には、各スライドプレート17,18,19,20が収容されており、ブラケット21とブラケット22とは直接的に接していないが、連結片30,30と連結片31,31とが互いの対向面を平行に離間させた隙間L2を、例えば14mmに設けて、連結片30,31が4つの連結ボルト28及びナット29によって連結される。このとき、ブラケット21とブラケット22との間の隙間L3は、例えば4mmに設けている。
【0015】
各スライドプレート17,18,19,20は、ワイヤロープ12の周囲に配置され、ワイヤロープ12にテンションを付与するものである。これらスライドプレート17,18,19,20は、それぞれ同一形状のプレートであって鋼よりも軟質の材料、例えば、樹脂材料からなり、断面が略6角形状で長手方向に延び、長手方向の長さがブラケット21,22の長さL1とほぼ同じに形成されている。また、ワイヤロープ12の軸心Cを基準として、各スライドプレート17,18,19,20の径外方向側の外側縁部17b,18b,19b,20bは、ブラケット21,22の内側面21a,22aの一辺部分にそれぞれ当接している。一方、各スライドプレート17,18,19,20の径内方向側の内側縁部17a,18a,19a,20aは、周方向に略90度分だけ湾曲した曲面状に形成され、ワイヤロープ12の周面にそれぞれ当接可能になっている。
【0016】
対称的に配置された各スライドプレート17,18,19,20は、各内側縁部17a,18a,19a,20aによって、ワイヤロープ12の径よりも僅かに大きい円形状のワイヤロープ挿通孔16が形成されている。そして、ワイヤロープ12の径方向に対向する一対のスライドプレート、すなわち、スライドプレート17とスライドプレート20と、スライドプレート18とスライドプレート19とは、ワイヤロープ12の軸心Cに対して対称的な形状で、外側縁部17bと外側縁部20bと、外側縁部18bと外側縁部19bとは、それぞれ互いに平行な平面となっている。これにより、スライドプレート17がブラケット21の内側面21aから押圧される際の押圧力と、スライドプレート20がブラケット22の内側面22aから押圧される際の押圧力とは向きが逆向きで等しくなり、スライドプレート18がブラケット21の内側面21aから押圧される際の押圧力と、スライドプレート19がブラケット22の内側面22aから押圧される際の押圧力とは向きが逆向きで等しくなる。こうして、ワイヤロープ12は、四方から均等に押圧されて、型崩れすることなく安定して挟持される。
【0017】
上側プレート24,25及び下側プレート26,27は、それぞれ同一形状のプレートであって略三角形状に形成され、ブラケット21,22の長手方向の両端に対称的にそれぞれ設けられ、三角形状の両側部に螺着した固定ボルト23,23の先端部を、スライドプレート17,18,19,20の長手方向の係合孔にそれぞれ係合させて各スライドプレート17,18,19,20をブラケット21,22内に固定する。また、対向する三角形状の底辺中央には、半円状の切欠孔24a,26a(反対側は図示せず)が形成されている。各切欠孔24a,26aは、ワイヤロープ12を貫通させるための孔を形成するもので、ワイヤロープ挿通孔16よりも大径になっている。
【0018】
こうして、テンション付与部13では、ワイヤロープ12がワイヤロープ挿通孔16に挿通されて、ブラケット21の連結片30,30と、ブラケット22の連結片31,31とが各連結ボルト28及び各ナット29によって連結される。連結ボルト28は締付トルクを調整可能であるため、締付トルクを調整することでブラケット21,22間の隙間L3が調整されてワイヤロープ12への挟持力が付与される。すなわち、各スライドプレート17,18,19,20がブラケット21,22の内側面21a,22aによってワイヤロープ12の軸心Cに向けて押圧され、これに伴って、ワイヤロープ12が各スライドプレート17,18,19,20の内側縁部17a,18a,19a,20aで挟持される結果、ワイヤロープ12に対してテンションを付与することができる。
【0019】
そして、このワイヤロープテンション治具11では、ワイヤロープ12をワイヤロープ挿通孔16から送り出す際の反力受け部14として、一対の耳片32,32を備えている。各耳片32,32は、鋼板を小片状に切断した同一形状の切断片であって、テンション付与部13を挟む両側にそれぞれ配置されるとともに、反力確保用ロープ33をつなぐためのシャックル34が取り付く取付孔32aを有している。各耳片32,32とテンション付与部13との間には、後述するトルク吸収部15が介在され、テンション付与部13においてワイヤロープ12への挟持力を付与した状態で、各耳片32,32とテンション付与部13とがワイヤロープ12の軸心回りに相対回転可能になっている。
【0020】
トルク吸収部15は、テンションが付与されたワイヤロープ12から受けるトルク(回転力)を逃がすもので、入れ子状にして径方向に重合配置させてなる内側環状部材35及び外側環状部材36をワイヤロープ12の軸心回りに互いに相対回転可能に組み付けて構成されている。
【0021】
内側環状部材35は、テンション付与部13の外周形状に対応させた中央孔を有する2枚の円環状板35a,35aを、互いの板面同士を軸方向に一定の間隔で、例えば、耳片32の幅寸法程度に離間させるとともに、周方向で2分割することによって分割体35b,35bを構成し、テンション付与部13のブラケット21,22の外周部であって長手方向中間位置に、つまりL1/2の位置に設けられている。半割りされた円環状板35a,35aの外周縁部は、軸方向外側に向けて小径となる段差35c,35cが設けられるとともに、互いの外周端同士間に、前記隙間L2に対応する隙間37,37を有して連続する円弧状摺接面35d,35dが形成されている。また、2枚の円環状板35a,35a同士は、ブラケット21,22の外周部に放射状に設けられた複数の補強板35eによって繋がれ、必要な強度が確保されている。
【0022】
外側環状部材36は、2枚の円環状板36a,36aを、互いの板面同士を軸方向であって前記内側環状部材35における2枚の円環状板35a,35a同士の間隔に対応して離間させ、周方向に等間隔で設けられた複数のカラー部材38を介してボルト39及びナット40で固定されている。円環状板36aは、その内周部が内側環状部材35の段差35cに係合可能になっており、前記連続する円弧状摺接面35d,35dに摺接可能な円環状摺接面36bを有するとともに、該円環状摺接面36bの軸方向外側縁部から径方向に環状の鍔部36cを突出させて両摺接面35d,36bを覆うように形成されている。また、両摺接面35d,36b間には僅かな隙間が設けられ、この隙間量は、連結ボルト28の締付トルクを調整して隙間L2が変化した場合であっても、内側環状部材35と外側環状部材36との径方向のガタつきを抑えながら両者の相対回転が円滑に行われるように設定されている。さらに、径方向両側において隣り合うカラー部材38,38間には耳片取付板36d,36dがそれぞれ渡され、この耳片取付板36d,36dの中間部に各耳片32,32が径外方向にそれぞれ突出するように設けられている。こうして、各耳片32,32をシャックル34と反力確保用ロープ33とを介して固定物にそれぞれ連結することにより、安定した状態で、テンション付与部13のブラケット21,22に作用する反力を受承しつつ、ワイヤロープ12の回転力を吸収できるようになっている。
【0023】
図4乃至
図6は、本発明のワイヤロープテンション治具11を建設機械の一つであるアースドリルに用いられるワイヤロープの巻替え方法に適用した場合の使用状況を示すものである。ワイヤロープ12は、使用するに従って摩耗が進むため、定期的に新品と交換する必要がある。特に、大きな負荷がかかるアースドリルの主巻ロープは、掘削作業に伴って摩耗の進行が早いことから、建設現場において巻替え作業が行われている。
【0024】
アースドリル41は、自走式のベースマシン42の前部に起伏可能、かつ、着脱可能に設けられたブーム43の先端部前面に、該ブーム43の長さ方向に直交するシーブ軸44が水平方向に設けられ、該シーブ軸44に主巻シーブ45及び補巻シーブ46が互いに間隔をあけてそれぞれ回転可能に支持されている。また、ブーム43の先端部後面に、該ブーム43の長さ方向に直交する主巻ガイドシーブ軸47及び補巻ガイドシーブ軸48が左右同軸上に水平方向に設けられ、主巻ガイドシーブ軸47には主巻ガイドシーブ49が、補巻ガイドシーブ軸48には補巻ガイドシーブ50が互いに間隔をあけてそれぞれ回転可能に支持されている。
【0025】
前記主巻シーブ45には、主巻ウインチ51から主巻ガイドシーブ49を介して繰り出された掘削作業用のワイヤロープである主巻ロープ52を巻き掛け、この主巻ロープ52の尻手にスイベルを介してケリーバ(図示せず)を回転可能に吊り下げ、主巻ウインチ51でケリーバを昇降させるように構成している。また、ブーム43の下方に支持されたフロントフレーム53の先端には、ケリーバが昇降可能な状態で挿通されるケリーバ回転駆動装置(ケリードライブ)54がフレームシリンダ55によって支持された状態で設けられており、ケリーバ回転駆動装置54でケリーバを回転させることにより、ケリーバの下端部に装着した掘削装置を回転させる。
【0026】
さらに、補巻シーブ46には、補巻ウインチ56から補巻ガイドシーブ50を介して繰り出されたクレーン作業用のワイヤロープである補巻ロープ(図示せず)を巻き掛け、この補巻ロープの尻手に補巻フックが連結される。また、ベースマシン42の後部にはガントリ57が起伏可能に設けられている。
【0027】
ガントリ57は、起伏ウインチ(図示せず)から繰り出される起伏ロープ58をガイドするためのガイドシーブ59を備えている。また、起伏ロープ58は、起伏ウインチから上方に立ち上がってガイドシーブ59を経て前方のミドルシーブブロック60とガントリシーブブロック61とに掛け回されてロープ端がガントリシーブブロック61に固定されている。さらに、ミドルシーブブロック60には、一端がブーム43の先端部に設けられた連結部材43aに接続されたペンダントロープ62の他端が接続されており、起伏ウインチで起伏ロープ58を巻き取ったり、繰り出したりすることによってブーム43を起伏させる。
【0028】
ここで、本発明のワイヤロープテンション治具11を用いたアースドリル41の主巻ロープ52の巻替え方法の第1形態例は、
図4に示すように、用意したワイヤロープテンション治具11の耳片32,32に、一対の反力確保用ロープ33,33の一端がそれぞれ取り付けられるとともに、反力確保用ロープ33,33の他端が、固定物として、油圧ショベル63のフロント部材であるバケット64の一箇所に、具体的には、バケット64に備わる吊り耳64aに纏めて取り付けられる。そして、ワイヤロープテンション治具11で主巻ロープ52の長さ方向の一部を挟持し、主巻ウインチ51を回転駆動させて、樽巻きドラム65から主巻ロープ52を巻き出すと、主巻ロープ52は、ワイヤロープテンション治具11によってテンションが付与された状態で主巻ウインチ51に整列して巻き取られる。このとき、テンションが付与された主巻ロープ52から受けるトルクは、ワイヤロープテンション治具11のトルク吸収部15によって逃がされ、反力確保用ロープ33,33に伝達されることはない。
【0029】
ところで、直径が異なるワイヤロープ12を巻替える場合には、その直径に適合するサイズの内側縁部17a,18a,19a,20aを有するスライドプレート17,18,19,20に交換される。また、保守の観点から、スライドプレート17,18,19,20が使用によって摩耗した際にも、同様に交換される。
【0030】
このように、ワイヤロープテンション治具11が半割り可能な筒型構造をなすテンション付与部13と、該テンション付与部13の両側に設けられた一対の耳片32,32からなる反力受け部14とを備え、これらの間に、テンション付与部13と反力受け部14とがワイヤロープ12の軸心回りに相対回転可能に接続されるトルク吸収部15を設けているので、簡単な構成で、ワイヤロープ12に対して十分な張力を付与しつつ、ワイヤロープ12の撚りに起因した回転力を逃がすことが可能となり、ワイヤロープ12の寿命を延ばすことができる。
【0031】
とりわけ、トルク吸収部15がテンション付与部13及び反力受け部14に対して隣り合う関係に配置されていることから、治具をワイヤロープ12の挿通方向に極力短く形成して小型・軽量に製作でき、もってワイヤロープテンション治具11としての安価で実用性に優れた構造を得ることができる。しかも、ワイヤロープ12から受ける回転力が治具本体や反力確保用ロープ33に残留しないので、現場においてワイヤロープ12の巻替え作業を行う際に、ワイヤロープテンション治具11を安心して取り扱うことができるだけでなく、一対の反力確保用ロープ33,33を、固定物の一箇所に纏めて取り付けた場合であっても、反力確保用ロープ33,33同士が絡み合ってしまうという不都合もなくなり、作業性を良好なものにすることができる。
【0032】
また、トルク吸収部15が内側環状部材35及び外側環状部材36を入れ子状に相対回転可能に組み付けて構成されたもので、内側環状部材35を周方向で2分割して分割体35b,35bを形成するとともに、該分割体35b,35bの外周端同士間に隙間37,37を有して連続する円弧状摺接面35d,35dをなすように形成され、さらには、外側環状部材36の内周部が、この連続する円弧状摺接面35d,35dに摺接可能な円環状摺接面36bを有して形成されているので、テンション付与部13において連結ボルト28の締付けによる隙間L3の調整量を確保しつつ、テンション付与部13と反力受け部14との円滑な相対回転を実現させることが可能となる。すなわち、ワイヤロープ12へのテンション付与機能とワイヤロープ12から受けるトルク逃がし機能とを両立させて、構造を複雑にすることなく、ワイヤロープテンション治具11に必要な機能を最大限に発揮することができる。
【0033】
図5及び
図6は、本発明のワイヤロープテンション治具11を用いた第2及び第3形態例におけるアースドリル41の主巻ロープ52の巻替え方法を示すもので、第1形態例と同様の構成要素には同一の符号を付してその詳細な説明は省略する。
【0034】
図5に示される第2形態例では、フレームシリンダ55を伸長させてフロントフレーム53及びケリーバ回転駆動装置54をそれぞれブーム43に沿わせるとともに、起伏ウインチを回転駆動させて起伏ロープ58を繰り出し、ブーム43を地上付近まで倒伏させた状態で主巻ロープ52の巻替え作業が行われる。そして、反力確保用ロープ33,33の他端が固定物となるブーム43の一箇所に、具体的には、ブーム43の基端部上面に備わる連結部材43bに纏めて取り付けられる。これにより、油圧ショベル63などの他の建設機械が使用できない場合であっても、主巻ロープ52の巻替え作業を行うことができる。しかも、小型で軽量なワイヤロープテンション治具11をブーム43上に持ち運ぶことは容易であり、締付けトルクの調整も携帯しているトルクレンチなどで容易に行えることから、良好な作業性が確保される。
【0035】
図6に示される第3形態例では、ベースマシン42からブーム43を取り外した状態で主巻ロープ52の巻替え作業が行われる。また、固定物としては、ベースマシン42の周辺の地面に寝かせて配置されたケリーバ(図示せず)が用いられ、反力確保用ロープ33,33の他端がケリーバの先端部に備わる吊り片66に纏めて取り付けられる。ここで、ケリーバの重量は、数トン以上あり、テンション付与部13からの反力は数百重量キログラムであることから、反力確保用ロープ33,33を地面などの固定物に連結することとほぼ同様の効果を得られる。これにより、主巻ロープ52の巻替え作業を、掘削作業を行う現場の環境に依存せずに、限られた作業スペースで容易に行うことができる。
【0036】
なお、本発明は、前記形態例に限定されるものではなく、ワイヤロープテンション治具は、テンション付与部と反力受け部とを互いに横並びにして、その間にトルク吸収部を介在させるように配置した構成、すなわち、各部を集約配置した構成であれば、本発明の範囲内で適宜に変更して実施することができる。また、テンション付与部は、ワイヤロープを型崩れなく均等に挟持できればよく、この場合、例えば、ブラケットやスライドプレートの長さをワイヤロープの撚り長さ(撚合構成においてストランドが1周する長さ)が収まる長さに形成すれば、ワイヤロープの局所的な摩耗を防止することができる。さらに、反力受け部となる耳片の形状についても、丸棒や角材などから種々の形状に形成したり、外側環状部材の板部分と一体的に形成したりすることができる。加えて、トルク吸収部は、内側環状部材及び外側環状部材を入れ子状に組み付けた構成であれば、摺接面同士の円滑な摺動を考慮しつつ適宜に構成を変更することができる。
【0037】
また、ワイヤロープの巻替え方法では、ケリーバを吊持するための主巻ロープを主巻ウインチのドラムに仕込む場合について説明したが、ワイヤロープと、これに対応するウインチは適宜に変更することができる。例えば、補巻ロープを補巻ウインチに仕込む場合や、起伏ロープを起伏ウインチに仕込む場合にワイヤロープテンション治具を用いてもよい。さらに、ワイヤロープテンション治具が用いられる建設機械は、杭打機やクレーンであってもよい。加えて、固定物は、反力確保用ロープが一箇所に纏めて取り付く構成であれば、ブルドーザなどの建設機械のフロント部材であってもよいが、機体の一部分に限定されるものでなく、例えば、地面に設置されたアンカーなどであってもよい。
【符号の説明】
【0038】
11…ワイヤロープテンション治具、12…ワイヤロープ、13…テンション付与部、14…反力受け部、15…トルク吸収部、16…ワイヤロープ挿通孔、17…スライドプレート、17a…内側縁部、17b…外側縁部、18…スライドプレート、18a…内側縁部、18b…外側縁部、19…スライドプレート、19a…内側縁部、19b…外側縁部、20…スライドプレート、20a…内側縁部、20b…外側縁部、21…ブラケット、21a…内側面、22…ブラケット、22a…内側面、23…固定ボルト、24…上側プレート、24a…切欠孔、25…上側プレート、26…下側プレート、26a…切欠孔、27…下側プレート、28…連結ボルト、29…ナット、30,31…連結片、32…耳片、32a…取付孔、33…反力確保用ロープ、34…シャックル、35…内側環状部材、35a…円環状板、35b…分割体、35c…段差、35d…円弧状摺接面、35e…補強板、36…外側環状部材、36a…円環状板、36b…円環状摺接面、36c…鍔部、36d…耳片取付板、37…隙間、38…カラー部材、39…ボルト、40…ナット、41…アースドリル、42…ベースマシン、43…ブーム、43a,43b…連結部材、44…シーブ軸、45…主巻シーブ、46…補巻シーブ、47…主巻ガイドシーブ軸、48…補巻ガイドシーブ軸、49…主巻ガイドシーブ、50…補巻ガイドシーブ、51…主巻ウインチ、52…主巻ロープ、53…フロントフレーム、54…ケリーバ回転駆動装置、55…フレームシリンダ、56…補巻ウインチ、57…ガントリ、58…起伏ロープ、59…ガイドシーブ、60…ミドルシーブブロック、61…ガントリシーブブロック、62…ペンダントロープ、63…油圧ショベル、64…バケット、64a…吊り耳、65…樽巻きドラム、66…吊り片