(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-132618(P2020-132618A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】ベンゼンポリカルボン酸エステルを水素化して脂環族ポリカルボン酸エステルを形成する水素化方法
(51)【国際特許分類】
C07C 67/303 20060101AFI20200803BHJP
C07C 69/75 20060101ALI20200803BHJP
B01J 23/78 20060101ALI20200803BHJP
B01J 35/10 20060101ALI20200803BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20200803BHJP
【FI】
C07C67/303
C07C69/75 Z
B01J23/78 Z
B01J35/10 301G
C07B61/00 300
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-50412(P2019-50412)
(22)【出願日】2019年3月18日
(31)【優先権主張番号】108104750
(32)【優先日】2019年2月13日
(33)【優先権主張国】TW
(71)【出願人】
【識別番号】519096792
【氏名又は名称】台湾中油股▲フン▼有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110002516
【氏名又は名称】特許業務法人白坂
(72)【発明者】
【氏名】紀 景發
(72)【発明者】
【氏名】楊 英傑
(72)【発明者】
【氏名】陳 怡惠
(72)【発明者】
【氏名】呂 政芳
(72)【発明者】
【氏名】陳 憲鴻
(72)【発明者】
【氏名】王 逸萍
(72)【発明者】
【氏名】何 奇律
【テーマコード(参考)】
4G169
4H006
4H039
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169AA11
4G169BA02B
4G169BB06B
4G169BC08A
4G169BC09A
4G169BC10A
4G169BC10B
4G169BC12A
4G169BC13A
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4G169BC70A
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4G169EC15X
4G169EC15Y
4G169FA01
4G169FA02
4G169FA08
4G169FC08
4H006AA02
4H006AC11
4H006BA06
4H006BA21
4H006BA30
4H006BC10
4H006BC11
4H006BE20
4H006BJ10
4H006KA31
4H006KC20
4H039CA40
4H039CB10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体を水素化して脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を形成する水素化方法の提供。
【解決手段】触媒の存在下、芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体を水素化して脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を形成する水素化方法であって、前記触媒は、少なくとも一つの周期表における第8〜10族遷移元素である活性金属と、第2族と第14族元素を有する触媒担体とを含むことを特徴とする水素化方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体を水素化して脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を形成する水素化方法であって、
触媒の存在下、水素雰囲気において芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体に対して水素化反応を行い、対応する脂環族カルボン酸又はその誘導体を発生し、前記触媒は(1)周期表における第8〜10族遷移元素である活性金属と、(2)周期表における第2族元素と第14族元素である触媒担体を含むことを特徴とする水素化方法。
【請求項2】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属は、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケルの中の一つ或いは二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項3】
前記第2族元素である触媒担体は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの中の一つ又は二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項4】
前記第14族元素である触媒担体は、ケイ素、ゲルマニウム、スズの中の一つ又は二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項5】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(10〜80):(1〜30):(1〜30)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項6】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであり、前記第2族元素である触媒担体がマグネシウムであり、前記第14族元素である触媒担体がケイ素である場合、前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(20〜70):(1〜20):(1〜20)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項7】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであり、前記第2族元素である触媒担体がマグネシウムであり、前記第14族元素である触媒担体がケイ素である場合、前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(45〜65):(2〜15):(2〜15)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項8】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであり、前記第2族元素である触媒担体がマグネシウムであり、前記第14族元素である触媒担体がケイ素である場合、前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(50〜65):(3〜10):(5〜12)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項9】
前記触媒の比表面積は80〜300(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積は0.2〜0.9(cm3/g)の範囲にあり、ボイド径の平均値は2〜50(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項10】
前記触媒の比表面積為100〜250(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積0.25〜0.7(cm3/g)の範囲にあり、ボイド径の平均値は5〜30(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項11】
前記触媒の比表面積為120〜200(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積0.3〜0.5(cm3/g)の範囲にあり、及び平均ボイド径10〜25(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項12】
芳香族ポリカルボン酸は、芳香族構造にカルボン酸、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸の中の一者或いは二者以上が含まれてなる化合物であり、また、ベンゼンポリカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4−トリメリト酸、1,3,5−トリメリト酸、1,2,3−トリメリト酸、1,2,4,5−ピロメリト酸の中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項13】
芳香族ポリカルボン酸の誘導体は、芳香族ポリカルボン酸のモノエステル、ジエステルとポリエステルの中の一つ又は二つ以上の組み合わせであり、また、ポリカルボン酸エステルは、炭素数1〜30のアルキルエステル、炭素数3〜30のシクロアルキルエステル、炭素数1〜30のアルコキシエステルの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項14】
芳香族ポリカルボン酸の誘導体であるエステル類は、炭素数2〜20のアルキルエステル、炭素数3〜20のシクロアルキルエステル、炭素数2〜20のアルコキシエステルの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項15】
芳香族ポリカルボン酸の誘導体であるエステル類は、炭素数3〜18のアルキルエステル、炭素数4〜18のシクロアルキルエステル、炭素数3〜18のアルコキシエステルの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項16】
芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体は、ジメチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジオクチルテレフタレートの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項17】
水素化反応の圧力は1〜100バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項18】
水素化反応の圧力は1〜50バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項19】
水素化反応の圧力は1〜30バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項20】
水素化反応の温度は50〜200℃の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項21】
水素化反応の温度は50〜150℃の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項22】
水素化反応の温度は50〜100℃の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項23】
芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体は、溶媒或いはシンナーに溶解できる請求項1に記載の水素化方法。
【請求項24】
水素化反応を行う方法は、バッチ式、半バッチ式と連続式の中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項25】
水素化反応は、バッチ式反応器、攪拌式タンク、トリクルベッド、気泡塔、マルチチューブ反応器の中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む反応器によって行われる請求項1に記載の水素化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体に対して水素化反応を行うことにより、対応する脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を形成する水素化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水素化反応は、水素雰囲気で触媒の存在下、炭素の二重結合を還元してアルカン類の生成物を得る反応であり、石油精製、食品、製薬及び通常な化学製品の加工に係るプロセスにおいてよく見られている。例えば、水素の添加によって石油における硫黄、窒素、ニッケル、バナジウムなどの元素を除去することと、水素の添加によって植物性油脂における不飽和脂肪を低減することと、不飽和の分子鎖を有するコポリマーに対して水素を添加することによって分子構造と特性を変化させることがある。また、例えば、芳香族エポキシ樹脂は、ベンゼン環の水素化により、UV光の照射による劣化の現象が改善される。水素化された芳香族ポリカルボン酸は、機能性ポリイミド及び官能性エポキシ樹脂の硬化剤などの分野に使用され、また、水素化されたシクロヘキサンジカルボン酸は、フタレートの代わりに可塑剤としてポリ塩化ビニル(PVC)の加工に使用され、或いは塗装材、充填補強材、加工助剤などの用途に使用されてもよい。PVCの加工において、フタレート(フタル酸エステルとも称する)関連製品、例えばジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタルレート(DOP)或いはジイソノニルフタレート(DINP)などの誘導体が可塑剤として適用されることがもっとも多い。しかし、近年、このような物質は人体の健康に有害であると言われ、一部の使用、例えば赤ちゃん用品などの用途において、だんだん禁止されている。したがって、脂肪族ジカルボキシレートが環境にやさしい物質と見なされてフタレートの代わりに可塑剤として使用されている。例えば、シクロヘキサン−1,2−イソノニルジカルボキシレートに関する技術は既に開示されており、例えば、ベンゼンポリカルボン酸又はその誘導体を水素化してベンゼン環を飽和させて毒性を除去する方法によって製造することはよく見られている。
【0003】
水素化反応のポイントは、反応に使用される触媒であり、先行技術である米国特許US6284917B1において、大きいボイドを有する二峰性(bimodel)のアルミナを担体として製造される担持型ルテニウム触媒を使用し、80℃で100〜200バール(Bar)の圧力範囲において、高圧バッチ攪拌式オートクレーブによって、対応する脂環族カルボキシレートを製造することが開示されている。
【0004】
中国特許CN102658182Bにおいて、リンでアルミナを修飾して(P−Al
2O
3)担体になった後、ニッケルを担持して得られる触媒を使用し、150〜200℃で、30〜150バールの圧力範囲において、連続式固定床反応器によって、対応する脂環族カルボキシレートを製造することが開示されている。
【0005】
米国特許US7595420B2において、規則性ボイドを有するシリカ材料であるMCM−41を触媒の担体として製造される担持型ルテニウム系触媒を使用し、120℃で58〜200バールの圧力範囲において高圧バッチ攪拌式オートクレーブによって、対応する脂環族カルボキシレートを製造することが開示されている。
【0006】
米国特許US8722922B2において、第8〜10族元素の遷移金属であるパラジウム、ルテニウムなどを、第2族元素であるアルカリ土類金属を有するアルミナ担体(2A−Al
2O
3)に担持させて製造される担持型触媒を使用し、100〜250℃で1〜50バールの圧力範囲において固定床反応器によって、対応する脂環族カルボキシレートを製造することが開示されている。
【0007】
米国特許US8586784B2において、二酸化チタン(TiO
2)を担体として製造される担持型触媒を使用し、温度100℃で、100バールの圧力で、連続式固定床反応器によって、対応する脂環族カルボキシレートを製造することが開示されている。
【0008】
上記の先行技術から、多くの発明において、ベンゼン環の水素化率を90%以上にするために、100バール以上の高圧或いは100℃以上の高温、又は高圧且つ高温の雰囲気において芳香族ポリカルボン酸エステルを水素化する方法を行わなければならないので、全体のコストの向上につながっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体を水素化して脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を形成する水素化方法を提供し、この水素化反応は、低圧(30バール以下)及び低温(80℃以下)の雰囲気で行われ、且つ転化率を99.9%以上にし、選択率を99.4%以上にすることができる。
【0010】
本発明に係る芳香族ポリカルボン酸は、芳香族の構造にカルボン酸、ジカルボン酸、ポリカルボン酸、ヒドロキシカルボン酸などが含有されてなる化合物を指す。芳香族の分子鎖には、ベンゼン、ビフェニル、アントラセン、ナフタレン、多環芳香族炭化水素などがあり、例えば、ベンゼンポリカルボン酸、ビフェニルポリカルボン酸、ナフタレンポリカルボン酸などが挙げられる。したがって、異なる芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体のベンゼン環の部分に対して水素化反応を行うことによって、対応する飽和脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体を発生することができる。特にベンゼンポリカルボン酸又はその誘導体のベンゼン環の部分に対して水素化反応を行うことによって、シクロヘキサンポリカルボン酸又はその誘導体を発生することができる。ベンゼンポリカルボン酸は、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,2,4−トリメリト酸、1,3,5−トリメリト酸、1,2,3−トリメリト酸、1,2,4,5−ピロメリト酸及び上記いずれか二つ或いはそれ以上の組み合わせが挙げられる。そして、芳香族ポリカルボン酸の誘導体とは、芳香族ポリカルボン酸のモノエステル、ジエステルとポリエステルなどを指し,また、エステル類には、炭素数1〜30のアルキルエステル、炭素数3〜30のシクロアルキルエステル、炭素数1〜30のアルコキシエステルなどが含まれる。好ましくは炭素数2〜20のアルキルエステル、炭素3〜20のシクロアルキルエステル、炭素数2〜20のアルコキシエステルである。より好ましくは炭素3〜18のアルキルエステル、炭素4〜18のシクロアルキルエステル、炭素3〜18のアルコキシエステルであり,このうち、炭素鎖は直鎖でも分岐鎖であってもよい。例えば、ジメチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジオクチルテレフタレート及び上記いずれか二つ或いはそれ以上の組み合わせが挙げられる。
【0011】
本発明は、芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体を低温且つ低圧で水素化して、対応する脂環族ポリカルボン酸及びその誘導体を製造しうる水素化方法を提供する。本発明の水素化方法は触媒の存在下で行われ、前記触媒は触媒担体及び活性金属を有し、このうち、触媒担体は周期表における第2族と第14族元素を含み、活性金属は周期表における第8〜10族遷移元素を含み、さらに酸素或いは酸素を有する化合物を含む。公知の方法と比べると、通常の水素化反応において、触媒の機能を発揮させるために高圧の水素雰囲気及び適宜な温度で行わなければならず、反応の温度を上げるのは反応の速度と転化率を向上できるが、副反応も発生するので、生成物の純度を低下することになる。また、水素化製品である脂環族ポリカルボン酸又はその誘導体と原反応物である芳香族ポリカルボン酸又はその誘導体との構造が似ているから、分離しにくい。一方、本発明は、特定の触媒を使用することによって、触媒活性の向上と製品の純度を両立させることを実現できる。したがって、本発明に係る方法は、先行技術より、50〜100℃の範囲にある反応温度と1〜30バールの範囲にある圧力によって転化率を99.9%以上にすることができるという優れたメリットを有することが明るいである。また、もう一つのメリットは製品の選択率(99%以上に達する)を向上し、続きの分離コストを低減することができる。
【0012】
本発明に係る反応は触媒の存在下で行われ、前記触媒は触媒担体及び活性金属を有し、このうち、触媒担体は周期表における第2族と第14族元素を含み、第2族元素はマグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)の一つ又は二つ以上を含み、第14族元素はケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)の一つ又はそれ以上を含み、活性金属は周期表における第8〜10族遷移元素である金属を含くんでニッケル(Ni)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)の一つ又は二つ以上を含む。
【0013】
このうち、第8〜10族遷移元素である活性金属が触媒全体に占める比率は10〜80重量%の範囲にあり、第2族元素の触媒担体が触媒全体に占める比率は1〜30重量%の範囲にあり、第14族元素の触媒担体が触媒全体に占める比率は1〜30重量%の範囲にあり、その他の残部は酸素或いは酸素を有する化合物である。このうち、活性金属がニッケル(Ni)であることが好ましく、活性金属が触媒全体に占める比率が20〜70重量%であり、好ましい比率は45〜65重量%であり、より好ましい比率は50〜65重量%である。第2族元素の比率は1〜20重量%であり、好ましい比率は2〜15重量%であり、より好ましい比率は3〜10重量%であり、第14族元素の比率は1〜20重量%であり、好ましい比率は2〜15重量%であり、より好ましい比率は5〜12重量%である。
【0014】
また、触媒において、第8〜10族遷移元素である活性金属:第2族元素の触媒担体:第14族元素の触媒担体の比率は(10〜80):(1〜30):(1〜30)である。第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであって、第2族元素の触媒担体がマグネシウムであって、第14族元素の触媒担体がケイ素である場合、第8〜10族遷移元素である活性金属:第2族元素の触媒担体:第14族元素の触媒担体の比率は(20〜70):(1〜20):(1〜20)であり、好ましくは(45〜65):(2〜15):(2〜15)でり、より好ましくは(50〜65):(3〜10):(5〜12)である。本発明は、特定の触媒の存在下で反応する方法を提供し、このうち、前記触媒の比表面積は80〜300m
2/gの範囲にあり、好ましくは100〜250m
2/gの範囲にあり、より好ましくは120〜200m
2/gの範囲にある。触媒におけるボイドの体積は0.2〜0.9cm
3/gの範囲にあり、好ましくは0.25〜0.7cm
3/gの範囲にあり、より好ましくは0.3〜0.5cm
3/gの範囲にある。触媒におけるボイド径の平均値は2〜50nmの範囲にあり、好ましくは5〜30nmの範囲にあり、より好ましくは10〜25nmの範囲にある。
【0015】
本発明に係る反応は、溶媒又はその他のシンナーの存在下で行われ、相分離或いは互いに溶解しない場合を避けるように主要な反応物との相性を考えて、且つ水素化の条件で反応しないものとして溶媒或いはシンナーを選択する必要がある。水素化反応の生成物自身を溶媒或いはシンナーとすることもできる。本発明に使用される溶媒は、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−エチル−ヘキサノール、イソノニルアルコール、テトラヒドロフラン、ヘキサノールなどを含む。
【0016】
本発明で使用されるオートクレーブは、連続式(例えば、トリクルベッド反応器、攪拌式タンク、マルチチューブ反応器など)であってもよく、非連続式反応器(例えば、バッチ反応器))であってもよい。
【発明を実施するための形態】
【0018】
硝酸ニッケル53.5gと硝酸マグネシウム9.5gを脱イオン水300mLに溶解させて混合することによって溶液を得る。そして、アンモニア水溶液、炭酸ナトリウム或いは水酸化ナトリウム(或いはいずれか二つの混合物)を含む脱イオン水溶液に仕込み、PHが9〜11になるまで調整し、60〜90℃で十分に攪拌し、更にケイ酸ナトリウム溶液6mLを添加し、1〜4時間攪拌し続けた後、ろ過してろ過ケークを取り出し、水で洗浄したら110℃で乾燥し、700℃で4小時焼成し、これにより、触媒Aを製造し得る。
【0020】
硝酸ニッケル53.5gと硝酸マグネシウム19.1gを脱イオン水300mLに溶解させて混合することによって溶液を得る。そして、アンモニア水溶液、炭酸ナトリウム或いは水酸化ナトリウム(或いはいずれか二つの混合物)を含む脱イオン水溶液に仕込み,PHが9〜11になるまで調整し、60〜90℃で十分に攪拌し、更にケイ酸ナトリウム溶液24mLを添加し、1〜4時間攪拌し続けた後、ろ過してろ過ケークを取り出し、水で洗浄すると110℃で乾燥し、700℃で4小時焼成し、これにより、触媒Bを製造し得る。
【0021】
本発明は、触媒担体及び活性金属を含む触媒を芳香族ポリカルボン酸及び其誘導体の水素化反応に使用し、ジエチルへキシルフタレートと
(di(2−ethylhexyl)phthalate,DEHP)、ジブチルフタレートと(DBP)、ジイソノニルフタレート(DINP)が反応物としてそれぞれ使用され、水素化反応を行い、その反応条件と結果は以下の通りである。
【0023】
7mLの触媒Aを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、ポンプによってジ(2−エチルヘキシル)フタルレート(DOP、またDEHPと称することもある)を反応器に送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計(LC−UV)とガスクロマトグラフィー(GC)によって、転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果を表1にまとめて示す。
【0026】
7mLの触媒Bを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、ポンプによってジブチルフタレートをオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果を表2にまとめて示す。
【0029】
7mLの触媒Bを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、ブタノールを溶媒として、フィードポンプによってジブチルフタレートと1−ブタノール溶液を重量比1:1でオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果表3にまとめて示す。
【0032】
7mLの触媒Bを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、ポンプによってジ(2−エチルヘキシル)フタルレート(DOP、またDEHPと称することもある)をオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果表4にまとめて示す。
【0035】
7mLの触媒Bを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、2−エチル−ヘキサノールを溶媒として、フィードポンプによってジ(2−エチルヘキシル) フタルレートと2−エチル−ヘキサノール溶液を重量比1:1でオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計(LC−UV)とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果表5にまとめて示す。
【0038】
7mLの触媒Bを反応管に充填し、水素雰囲気において450℃で還元を行い,温度が下がった後、ポンプによってジイソノニルフタレート(DINP)をオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果を表6にまとめて示す。
【0041】
7mLの触媒Bを反応管に仕込んで、水素雰囲気において450℃で還元を行い、温度が下がった後、イソノニルアルコールを溶媒として、フィードポンプによってジイソノニルフタレートとイソノニルアルコール溶液を重量比1:1でオートクレーブに送って水素化反応を行い、反応後の生成物を集めて液体クロマトグラフィーで分離させた後、紫外分光光度計とガスクロマトグラフィーによって転化率と選択率をそれぞれ分析する。試験の条件と結果を表7にまとめて示す。
【手続補正書】
【提出日】2020年5月21日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼンポリカルボン酸エステルを水素化して脂環族ポリカルボン酸エステルを形成する水素化方法であって、
触媒の存在下、水素雰囲気においてベンゼンポリカルボン酸エステルに対して50〜100℃の範囲の温度において水素化反応を行い、対応する脂環族カルボン酸を発生し、前記触媒は(1)周期表における第8〜10族遷移元素である活性金属と、(2)周期表における第2族元素と第14族元素である触媒担体を含むことを特徴とする水素化方法。
【請求項2】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属は、白金、パラジウム、ルテニウム、ニッケルの中の一つ或いは二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項3】
前記第2族元素である触媒担体は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウムの中の一つ又は二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項4】
前記第14族元素である触媒担体は、ケイ素、ゲルマニウム、スズの中の一つ又は二つ以上の組み合わせである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項5】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであり、前記第2族元素である触媒担体がマグネシウムであり、前記第14族元素である触媒担体がケイ素である場合、前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(45〜65):(2〜15):(2〜15)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項6】
前記第8〜10族遷移元素である活性金属がニッケルであり、前記第2族元素である触媒担体がマグネシウムであり、前記第14族元素である触媒担体がケイ素である場合、前記第8〜10族遷移元素である活性金属:前記第2族元素である触媒担体:前記第14族元素である触媒担体の比率は(50〜65):(3〜10):(5〜12)である請求項1に記載の水素化方法。
【請求項7】
前記触媒の比表面積は80〜300(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積は0.2〜0.9(cm3/g)の範囲にあり、ボイド径の平均値は2〜50(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項8】
前記触媒の比表面積は100〜250(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積0.25〜0.7(cm3/g)の範囲にあり、ボイド径の平均値は5〜30(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項9】
前記触媒の比表面積は120〜200(m2/g)の範囲にあり、ボイド体積0.3〜0.5(cm3/g)の範囲にあり、及び平均ボイド径10〜25(nm)の範囲にある請求項1に記載の水素化方法。
【請求項10】
ベンゼンポリカルボン酸エステルは、炭素数1〜30のアルキルベンゼンポリカルボン酸エステル、炭素数3〜30のシクロアルキルベンゼンポリカルボン酸エステル、炭素数1〜30のアルコキシベンゼンポリカルボン酸エステルの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項11】
ベンゼンポリカルボン酸エステルは、ジメチルフタレート、ジメチルテレフタレート、ジメチルイソフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジイソオクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ベンジルブチルフタレート、ジイソデシルフタレート、ジオクチルテレフタレートの中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項12】
水素化反応の圧力は1〜100バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項13】
水素化反応の圧力は1〜50バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項14】
水素化反応の圧力は1〜30バールである請求項1に記載の水素化方法。
【請求項15】
水素化反応を行う方法は、バッチ式、半バッチ式と連続式の中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む請求項1に記載の水素化方法。
【請求項16】
水素化反応は、バッチ式反応器、攪拌式タンク、トリクルベッド、気泡塔、マルチチューブ反応器の中の一つ或いはいずれか二つ以上の組み合わせを含む反応器によって行われる請求項1に記載の水素化方法。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0001
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0001】
本発明は、
ベンゼンポリカルボン酸エステルに対して水素化反応を行うことにより、対応する脂環族ポリカルボン酸
エステルを形成する水素化方法に関する。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
本発明は、
ベンゼンポリカルボン酸エステルを水素化して脂環族ポリカルボン酸
エステルを形成する水素化方法を提供し、この水素化反応は、低圧(30バール以下)及び低温(80℃以下)の雰囲気で行われ、且つ転化率を99.9%以上にし、選択率を99.4%以上にすることができる。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本発明は、
ベンゼンポリカルボン酸エステルを低温且つ低圧で水素化して、対応する脂環族ポリカルボン酸
エステルを製造しうる水素化方法を提供する。本発明の水素化方法は触媒の存在下で行われ、前記触媒は触媒担体及び活性金属を有し、このうち、触媒担体は周期表における第2族と第14族元素を含み、活性金属は周期表における第8〜10族遷移元素を含み、さらに酸素或いは酸素を有する化合物を含む。公知の方法と比べると、通常の水素化反応において、触媒の機能を発揮させるために高圧の水素雰囲気及び適宜な温度で行わなければならず、反応の温度を上げるのは反応の速度と転化率を向上できるが、副反応も発生するので、生成物の純度を低下することになる。また、水素化製品である脂環族ポリカルボン酸
エステルと原反応物である
ベンゼンポリカルボン酸エステルとの構造が似ているから、分離しにくい。一方、本発明は、特定の触媒を使用することによって、触媒活性の向上と製品の純度を両立させることを実現できる。したがって、本発明に係る方法は、先行技術より、50〜100℃の範囲にある反応温度と1〜30バールの範囲にある圧力によって転化率を99.9%以上にすることができるという優れたメリットを有することが明るいである。また、もう一つのメリットは製品の選択率(99%以上に達する)を向上し、続きの分離コストを低減することができる。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0021
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0021】
本発明は、触媒担体及び活性金属を含む触媒を
ベンゼンポリカルボン酸エステルの水素化反応に使用し、ジエチルへキシルフタレートと(di(2−ethylhexyl)phthalate,DEHP)、ジブチルフタレートと(DBP)、ジイソノニルフタレート(DINP)が反応物としてそれぞれ使用され、水素化反応を行い、その反応条件と結果は以下の通りである。