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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-132648(P2020-132648A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】油浸透防止膜形成用液組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/00 20060101AFI20200803BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20200803BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20200803BHJP
【FI】
   C09D183/00
   C09D7/63
   C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-22826(P2019-22826)
(22)【出願日】2019年2月12日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038DL011
4J038DL031
4J038DL061
4J038HA096
4J038HA326
4J038JA17
4J038JA37
4J038JA39
4J038JC37
4J038JC38
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA05
4J038PB05
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】撥水撥油性を有し、特に膜に付着したオレイン酸、リノール酸等の脂肪酸等の汚れが膜に浸透せず、この汚れを簡便に落とすことができる油浸透防止膜形成用液組成物を提供する。
【解決手段】油浸透防止膜形成用液組成物は、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、シリカゾルゲルを100質量%に対してシリカゾルゲルがペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分又はペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5〜10質量%とメチル基成分を5〜25質量%とホウ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素成分を1〜10質量%含み、溶媒が、炭素数1〜4のアルコール及び/又はこのアルコール以外の溶媒である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、
前記シリカゾルゲルを100質量%とするときに、前記シリカゾルゲルが下記の一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分又は下記の一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%〜10質量%とメチル基成分を5質量%〜25質量%とホウ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素成分を1質量%〜10質量%含み、
前記溶媒が、炭素数1〜4のアルコール及び/又は前記アルコール以外の溶媒であることを特徴とする油浸透防止膜形成用液組成物。
【化1】
上記式(1−1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、Rf1は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また上記式(1−1)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【化2】
上記式(1−2)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、また上記式(1−2)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撥水撥油性を有し、特に膜に付着したオレイン酸、リノール酸等の脂肪酸等の汚れ(以下、単に「膜に付着した脂肪酸等の汚れ」ということもある。)が膜に浸透せず、この汚れを簡便に落とすことができる油浸透防止膜を形成し得る液組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、撥水撥油性を付与することができる化合物として、特定のペルフルオロアミン構造を有する含フッ素シラン化合物が開示されている(例えば特許文献1(要約)参照。)。この含フッ素シラン化合物は、炭素数8以上のペルフルオロアルキル基を含有せず、生体蓄積性や環境適応性の点で問題となるペルフルオロオクタンスルホン酸(PFOS)又はペルフルオロオクタン酸(PFOA)を生成する懸念がない化学構造でありながら、優れた撥水撥油性を付与することが可能であり、多種多様な用途に適用可能性を有するフッ素系シランカップリング剤として有用である特徴がある。
【0003】
特許文献1に示される含フッ素シラン化合物を少量だけ添加して液組成物を調製すると、この液組成物により形成した膜に撥水撥油性を付与することができる。しかしこの含フッ素シラン化合物を一般的なアルコール溶媒とを混合して液組成物を調製した場合、この含フッ素シラン化合物の表面張力がアルコール溶媒の表面張力と大きく異なってしまう。このため、この液組成物を基材上にバーコーターで塗布した場合、塗膜に水玉模様やコーター筋が生じて、成膜性に劣る。更に含フッ素シラン化合物と溶媒だけを混合した液組成物で塗膜を形成した場合、塗膜の強度が低いうえ、塗膜の基材への密着性が十分でない。更に成膜した後の膜厚が、可視光線の波長程度(100nm〜800nm)である場合、液組成物を塗布した後の溶媒が揮発する乾燥過程でウェット膜厚が薄い部位から徐々に揮発していくときに、膜に虹色の干渉縞を発生する問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、本出願人は、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、シリカゾルゲルを100質量%とするときに、このシリカゾルゲルが下記の一般式(1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分(F)を0.5質量%〜10質量%と炭素数2〜7のアルキレン基成分(G)を0.5質量%〜20質量%含み、溶媒が、水と炭素数1〜4のアルコールとの混合溶媒であるか、或いは炭素数1〜4のアルコールと前記アルコール以外の有機溶媒との混合溶媒であることを特徴とする膜形成用液組成物を提案した(特許文献2(請求項1)参照。)。
【0005】
【化3】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2015−196644号公報
【特許文献2】国際公開2018/123126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に示される膜形成用液組成物を基材上に塗布して塗膜を形成した後、塗膜に脂肪酸等の油が付着して長期間経過したときに、脂肪酸等の汚れが重力により、膜中に浸透してしまい、布等で拭いても、落とすことができないまだ解決すべき課題があった。
【0008】
本発明の目的は、撥水撥油性を有し、特に膜に付着した脂肪酸等の汚れが膜に浸透せず、この汚れを簡便に落とすことができる油浸透防止膜を形成し得る油浸透防止膜形成用液組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点は、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、前記シリカゾルゲルを100質量%とするときに、前記シリカゾルゲルが下記の一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分又は下記の一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%〜10質量%とメチル基成分を5質量%〜25質量%とホウ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素成分を1質量%〜10質量%含み、前記溶媒が、炭素数1〜4のアルコール及び/又は前記アルコール以外の溶媒であることを特徴とする油浸透防止膜形成用液組成物である。
【0010】
【化1】
【0011】
上記式(1−1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、Rf1は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また上記式(1−1)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【0012】
【化2】
【0013】
上記式(1−2)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、また上記式(1−2)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の観点の油浸透防止膜形成用液組成物では、液組成物がシリカゾルゲルを主成分とするため、高い強度の油浸透防止膜が得られ、かつ油浸透防止膜の基材への密着性が良好となる。また液組成物が上記の一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分又は上記の一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%〜10質量%含むため、形成した油浸透防止膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。またメチル基成分を5質量%〜25質量%含むため、膜を形成した後、メチル基成分が塗膜の表面に撥水性を付与するだけでなく、塗膜中の膜成分にも撥水機能を付与することにより、膜に付着した脂肪酸等の膜への浸透を防止して、脂肪酸等の汚れを簡便に落とすことができる。更にホウ素等の元素成分を1質量%〜10質量%含むため、膜を形成した後、これらの元素成分が加水分解重合時に三次元的に重合し、膜密度を向上させる働きをして、膜に付着した脂肪酸等の膜への浸透を防止して、脂肪酸等の汚れを簡便に落とすことができる。また溶媒が、炭素数1〜4のアルコール及び/又は前記アルコール以外の溶媒であるため、油浸透防止膜を成膜性良く形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0016】
〔油浸透防止膜形成用液組成物の製造方法〕
本実施形態の油浸透防止膜形成用液組成物の製造方法を説明する。この製造方法では、先ず、ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン又はテトラエトキシシランと、下記の一般式(2−1)又は下記の一般式(2−2)で示されるフッ素含有基成分としてのフッ素含有シランと、メチル基成分としてのメチル基含有シランと、ホウ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素成分を含むアルコキシドと、エタノール、2−プロパノール等のアルコールと、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素と、水とを混合して混合液を調製する。次いでこの混合液と有機酸、又は無機酸からなる触媒とを混合してケイ素アルコキシドとメチル基含有シランとを加水分解することにより加水分解物を調製する。次にこの加水分解物に、炭素数1〜4のアルコール及び/又は前記アルコール以外の溶媒とを混合して、シリカゾルゲルを含む油浸透防止膜形成用液組成物を製造する。
【0017】
【化4】
【0018】
上記式(2−1)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また、Rf1は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であって、直鎖状又は分枝状であってもよい。また上記式(2−1)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(2−1)中、R1及びZはアルコキシ基である(ただし、aは0〜3の整数)。
【0019】
【化5】
【0020】
上記式(2−2)中、m及びnは、それぞれ同一又は互いに異なる1〜6の整数である。また上記式(2−2)中、X1は、炭素数2〜10の炭化水素基であって、エーテル結合、CO−NH結合、O−CO−NH結合及びスルホンアミド結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよい。更に上記式(2−2)中、R1及びZはアルコキシ基である(ただし、aは0〜3の整数)。
【0021】
上記ケイ素アルコキシドとしては、具体的には、テトラメトキシシラン、そのオリゴマー又はテトラエトキシシラン、そのオリゴマーが挙げられる。例えば、硬度の高い油浸透防止膜を得る目的には、テトラメトキシシランを用いることが好ましく、一方、加水分解時に発生するメタノールを避ける場合は、テトラエトキシシランを用いることが好ましい。
【0022】
上記メチル基成分として用いるメチル基含有シランとしては、メチルトリメトキシシラン、ジメチルトリエトキシシラン、のモノマーや、JNC社製FM−0441、FM−4411、FM−DA26、信越化学工業社製KR−500、KR−515、X−40−9225等のメチル基含有オリゴマー、重合体が挙げられる。メチル基成分は、シリカゾルゲル中に5質量%〜25質量%含まれる。好ましい含有割合は6質量%〜20質量%である。5質量%未満では、膜を形成した後のメチル基成分の撥水性の働きが弱く、膜に付着した脂肪酸等の膜への浸透を許容して、脂肪酸等の汚れを簡便に落とすことができない。25質量%を超えると、塗膜強度が不足し、膜を擦ったときに膜が基材等から剥離し易くなる。
【0023】
上記ホウ素、アルミニウム、チタン及びジルコニウムからなる群より選ばれた1種又は2種以上の元素成分を含むアルコキシドとしては、ホウ素アルコキシド、アルミニウムアルコキシド、チタンアルコキシド、ジルコニウムアルコキシド等が挙げられる。ホウ素アルコキシドとしては、トリメトキシボラン、トリエトキシボラン、トリ−n−プロポキシボラン、トリイソプロポキシボラン、トリイソブトキシボラン、トリ−n−ブトキシボラン、トリ−sec−ブトキシボラン、トリ−t−ブトキシボラン等が例示される。アルミニウムアルコキシドとしては、アルミニウムエトキシド、アルミニウムイソプロポキシド、アルミニウムn−ブトキシド、アルミニウムsec−ブトキシド等が例示される。チタンアルコキシドとしては、チタンテトラメトキシド、チタンテトラエトキシド、チタンテトラノルマルプロポキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラノルマルブトキシド等が例示される。ジルコニウムアルコキシドとしては、ジルコニウムテトラブトキシド、ジルコニウムテトラプロポキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド等が例示される。
上記ホウ素等の元素成分は、シリカゾルゲル中に1質量%〜10質量%含まれる。好ましい含有割合は2質量%〜9質量%である。1質量%未満では、膜を形成した後の上記ホウ素等の元素成分が三次元に重合する働きが弱くなり、膜密度の向上が図れないため、膜に付着した脂肪酸等の膜への浸透を許容して、脂肪酸等の汚れを簡便に落とすことができない。10質量%を超えると、塗膜が基材等に密着せずに、膜を擦ったときに膜が基材等から剥離し易くなる。
【0024】
上記フッ素含有官能基成分は加水分解物のシリカゾルゲル100質量%に対して0.5質量%〜10質量%含まれる。好ましい含有割合は0.6質量%〜5質量%である。フッ素含有官能基成分が下限値の0.5質量%未満では、形成した膜に撥水撥油性の防汚性が生じにくく、上限値の10質量%を超えると、油浸透防止膜の弾き等が発生し成膜性に劣り、防汚性の機能を発現しにくい。
【0025】
フッ素含有官能基成分として用いるフッ素含有シランは、上記一般式(2−1)で示される。上記式(2−1)中の含窒素ペルフルオロアルキル基としては、より具体的には、下記式(3)〜(14)で示されるペルフルオロアミン構造を挙げることができる。
【0026】
【化6】
【0027】
【化7】
【0028】
【化8】
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
【0031】
【化11】
【0032】
【化12】
【0033】
【化13】
【0034】
【化14】
【0035】
【化15】
【0036】
【化16】
【0037】
【化17】
【0038】
また、上記式(2−1)中のX1としては、下記式(15)〜(19)で示される構造を挙げることができる。なお、下記式(15)はエーテル結合、下記式(16)はエステル結合、下記式(17)はアミド結合、下記式(18)はウレタン結合、下記式(19)はスルホンアミド結合を含む例を示している。
【0039】
【化18】
【0040】
【化19】
【0041】
【化20】
【0042】
【化21】
【0043】
【化22】
【0044】
ここで、上記式(15)〜(19)中、R2及びR3は炭素数が0から10の炭化水素基、R4は水素原子または炭素数1から6の炭化水素基である。R2及びR3の炭化水素基の例とは、メチレン基、エチレン基等のアルキレン基が挙げられ、R4の炭化水素基の例とは、メチル基、エチル基等のアルキル基の他、フェニル基、ビニル基等も挙げられる。
【0045】
また、上記式(2−1)中、R1は、加水分解基のメトキシ基、エトキシ基等が挙げられる。
【0046】
また、上記式(2−1)中、Zは、加水分解されてSi−O−Si結合を形成可能な加水分解性基であれば特に限定されるものではない。このような加水分解性基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのアルコキシ基、フェノキシ基、ナフトキシ基などのアリールオキシ基、ベンジルオキシ基、フェネチルオキシ基などのアラルキルオキシ基、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチリルオキシ基、バレリルオキシ基、ピバロイルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などのアシルオキシ基等が挙げられる。これらの中でも、メトキシ基、エトキシ基を適用することが好ましい。
【0047】
ここで、上記式(2−1)で表されるペルフルオロアミン構造を有するフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(20)〜(34)で表される構造が挙げられる。なお、下記式(20)〜(34)中、Rはメチル基又はエチル基である。
【0048】
【化23】
【0049】
【化24】
【0050】
【化25】
【0051】
【化26】
【0052】
【化27】
【0053】
【化28】
【0054】
【化29】
【0055】
【化30】
【0056】
【化31】
【0057】
【化32】
【0058】
【化33】
【0059】
【化34】
【0060】
【化35】
【0061】
【化36】
【0062】
【化37】
【0063】
またフッ素含有シランは、上記一般式(2−2)で示される。上記式(2−2)中のペルフルオロエーテル基としては、より具体的には、下記式(35)〜(41)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0064】
【化38】
【0065】
【化39】
【0066】
【化40】
【0067】
【化41】
【0068】
【化42】
【0069】
【化43】
【0070】
【化44】
【0071】
ここで、上記式(2−2)で表されるペルフルオロエーテル構造を有するフッ素含有シランの具体例としては、例えば、下記式(42)〜(49)で表される構造が挙げられる。
【0072】
【化45】
【0073】
【化46】
【0074】
【化47】
【0075】
【化48】
【0076】
【化49】
【0077】
【化50】
【0078】
【化51】
【0079】
【化52】
【0080】
上記炭素数1〜4の範囲にあるアルコールは、この範囲にある1種又は2種以上のアルコールが挙げられる。このアルコールとしては、例えば、メタノール(沸点64.7℃)、エタノール(沸点約78.3℃)、プロパノール(n−プロパノール(沸点97−98℃)、イソプロパノール(沸点82.4℃))が挙げられる。特にメタノール又はエタノールが好ましい。これらのアルコールは、ケイ素アルコキドとの混合がしやすいためである。ケイ素アルコキシド及びエポキシ基含有シランに炭素数1〜4の範囲にあるアルコールを添加して、好ましくは10℃〜30℃の温度で5分〜20分間撹拌することにより混合液を調製する。
【0081】
〔加水分解物の調製〕
上記調製された混合液と有機酸又は無機酸からなる触媒とを混合する。このとき液温を好ましくは30℃〜80℃の温度に保持して好ましくは1時間〜24時間撹拌する。これにより、混合液中のケイ素アルコキシドとメチル基含有シランと上記ホウ素等の元素成分を含むアルコキシドが加水分解される。有機酸又は無機酸は加水分解反応を促進させるための触媒として機能する。有機酸としてはギ酸、シュウ酸が例示され、無機酸としては塩酸、硝酸、リン酸が例示される。触媒は上記のものに限定されない。
【0082】
炭素数1〜4の範囲にあるアルコールは、加水分解物を100質量%とするときに、20質量%〜98質量%含まれることが好ましい。このアルコールの割合を前記範囲に限定したのは、アルコールの割合が下限値未満では、ケイ素アルコキシドが、溶液中に溶解せず分離しやすく、加水分解反応中に反応液がゲル化しやすい。一方、上限値を超えると、加水分解に必要な水、触媒量が相対的に少なくなるために、加水分解の反応性が低下して、重合が進みにくく、油浸透防止膜の密着性が低下しやすくなる。
【0083】
加水分解物中のSiO2濃度(SiO2分)は1質量%〜40質量%であるものが好ましい。加水分解物のSiO2濃度が下限値未満では、重合が不十分であり、油浸透防止膜の密着性の低下やクラックの発生が起こりやすく、上限値を超えると、加水分解により生じた水の割合が相対的に高くなりケイ素アルコキシドが溶解しにくく、反応液がゲル化しやすくなる。
【0084】
上述したように、本実施の形態のフッ素含有シランは、窒素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロアルキル基、又は酸素原子に炭素数が6以下の短鎖長のペルフルオロエーテル基をそれぞれ1以上有する構造となっていて、分子内のフッ素含有率が高いため、形成した油浸透防止膜に優れた撥水撥油性を付与することができる。
【0085】
炭素数1〜4のアルコールとともに用いられるアルコール以外の溶媒としては、イオン交換水ような水が挙げられる。
【0086】
〔油浸透防止膜形成用液組成物〕
本実施の形態の油浸透防止膜形成用液組成物は、上記製造方法で製造され、シリカゾルゲルを主とする成分並びに溶媒を含み、このシリカゾルゲルを100質量%とするときに、シリカゾルゲルが上記の一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分又は上記の一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分を0.5質量%〜10質量%とメチル基成分を5質量%〜25質量%とホウ素等の元素成分を1質量%〜10質量%含み、上記溶媒が、炭素数1〜4のアルコール及び/又は前記アルコール以外の溶媒であることを特徴とする。
【0087】
上記シリカゾルゲルは、上記の一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造のフッ素含有官能基成分と炭素数2〜7のアルキレン基成分を含む。より具体的には、上述した式(3)〜(34)で示されるペルフルオロアミン構造を挙げることができる。
また上記シリカゾルゲルは、上記の一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造のフッ素含有官能基成分と炭素数2〜7のアルキレン基成分を含む。より具体的には、上述した式(35)〜(49)で示されるペルフルオロエーテル構造を挙げることができる。
【0088】
本実施の形態の油浸透防止膜形成用液組成物がシリカゾルゲルを主成分として含むため、油浸透防止膜の基材への密着性に優れ、高い強度の油浸透防止膜が得られる。またシリカゾルゲルが上記一般式(1−1)で示されるペルフルオロアミン構造又は上記一般式(1−2)で示されるペルフルオロエーテル構造であるため、撥水並びに撥油の効果がある。シリカゾルゲル中のフッ素含有官能基成分の含有割合が0.5質量%未満では形成した膜に撥水撥油性の防汚機能を付与できず、10質量%を超えると油浸透防止膜の弾き等が発生し成膜性に劣る。好ましいフッ素含有官能基成分の含有割合は0.6質量%〜5質量%である。またシリカゾルゲル中のメチル基成分の含有割合が5質量%未満では、膜に付着した脂肪酸等の汚れが簡便に落ちず、25質量%を超えると成膜後、膜が基材等から剥離し易くなる。ホウ素等の元素成分の含有割合が1質量%未満では、膜に付着した脂肪酸等の汚れが簡便に落ちず、10質量%を超えると成膜後、膜が基材等から剥離し易くなる。
【0089】
〔油浸透防止膜の形成方法〕
本実施の形態の油浸透防止膜は、例えば、基材であるステンレス鋼(SUS)、鉄、アルミニウム等の金属板上、窓ガラス、鏡等のガラス上、タイル上、ポリ塩化ビニル(PVC)等のプラスチック上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記液組成物を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、室温乾燥もしくは乾燥機等により室温〜130℃の温度で乾燥させることにより、形成される。
【0090】
〔油浸透防止膜〕
本実施の形態の油浸透防止膜は、上記方法で形成され、撥水撥油性を有し、特に膜に付着した脂肪酸等の汚れが膜に浸透せず、この脂肪酸等の汚れを簡便に落とすことができる。
【実施例】
【0091】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0092】
<実施例1>
ケイ素アルコキシドとしてのテトラメトキシシラン(TMOS)の3〜5量体(三菱化学社製、商品名:MKCシリケートMS51)7.11gと、メチル基含有シランとしてのオリゴマータイプ(信越化学工業社製KR−500)0.65gと、チタン元素成分を含むテトライソプロポキシチタン0.90gと、式(31)で表わされるフッ素含有シラン0.09gと、有機溶媒としてのエタノール(EtOH)(沸点78.3℃)19.1gとに、イオン交換水2.13gを添加して、セパラブルフラスコ内で25℃の温度で5分間撹拌することにより混合液を調製した。またこの混合液に、触媒として酢酸0.03gを添加し、40℃で2時間撹拌した。これにより、シリカゾル加水分解物Iを調製した。得られたシリカゾルゲルである加水分解物Iをエタノール、1−プロパノール、2−プロパノールの混合液(比率 85:10:5)で5倍に希釈して、液組成物が得られた。加水分解物I(シリカゾルゲル)を作るための液組成を表1に、シリカゾルゲルと溶媒を含む液組成物を表2に、加水分解物I(シリカゾルゲル)の組成を表3にそれぞれ示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
【表3】
【0096】
<実施例2〜7及び比較例1〜4>
表1〜表3に示すように、ケイ素アルコキシド、フッ素含有シラン、メチル基含有シラン、ホウ素等の元素成分を含むアルコキシド、水、エタノール(EtOH)、触媒を用い、実施例1と同様にして、実施例2〜7及び比較例1〜4の加水分解物II〜XI及び液組成物を得た。なお、実施例4の触媒であるEDTAは、エチレンジアミン四酢酸の略称である。また実施例6では、ホウ素等の元素成分を含むアルコキシドとして、テトライソプロポキシチタンとテトラブトキシジルコニウムの2種類のアルコキシドを質量比で1:1の割合で用いた。また実施例7では、炭素数1〜4のアルコール以外の溶媒として、トルエンと水(イオン交換水)を質量比で1:1の割合で用いた。
【0097】
<比較試験及び評価>
実施例1〜7及び比較例1〜4で得られた11種類の液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.3)を用いて、厚さ2mm、たて150mm、よこ75mmのSUS基材上にそれぞれ乾燥後の厚さが0.5〜1μmとなるように塗布し、11種類の塗膜を形成した。ここで、先ずバーコーターによる塗布時の成膜性を評価した。続いてすべての塗膜を室温にて、20時間乾燥して11種類の防汚性が付与された膜を得た。これらの膜について、膜表面の撥水性、撥油性、n−ヘキサデカンの転落性、膜の基材への密着性及び脂肪酸等の浸透性を次の方法で測定して評価した。これらの結果を表4に示す。なお、表4では、n−ヘキサデカンを単に「HD」と表記している。
【0098】
【表4】
【0099】
(1) 成膜性
成膜性は、膜を目視にて評価した。膜全体に弾き、筋等の発生がなく、液組成物を均一に塗布できたものは「良好」とし、膜の一部に僅かに弾き、筋等が生じたものは「可」とし、膜全体に弾き、筋等が生じたものは「不良」とした。
【0100】
(2) 膜表面の撥水性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM−700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の油浸透防止膜をこの液滴に近づけて油浸透防止膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の撥水性を評価した。
【0101】
(3) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM−700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカンを準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するSUS基材上の油浸透防止膜をこの液滴に近づけて油浸透防止膜に液滴を付着させる。この付着したn−ヘキサデカンの接触角を測定した。静止状態でn−ヘキサデカンが膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値をn−ヘキサデカンの接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。膜の表面状態が凸凹になって荒れていると通常よりも高い値を示すため、接触角が高過ぎる場合には、成膜性が不良であるとの判断基準となる。
【0102】
(4) n−ヘキサデカンの転落性試験
協和界面科学製ドロップマスターDM−700を用いて、シリンジに25℃±1℃のn−ヘキサデカンを準備し、水平に置いたSUS基材上にシリンジからn−ヘキサデカンを9μLの液滴を滴下し、基材を2度/分の速度で傾斜させ、n−ヘキサデカンの液滴が移動開始するときの基材の傾けた角度を測定した。(3)の接触角が低くてもこの転落角度が小さい方が防汚性が高いことを意味する。
【0103】
(5) 膜の基材への密着性
75mm×150mm×厚さ2mmのSUS304基材上に塗膜を形成した。塗膜の上に、セロファンテープを貼り付けた後、テープを剥がしたときに、塗膜がテープ側に全く付かなかった場合を密着性が「良好」であるとし、塗膜の大部分がテープ側に貼り付き、SUS基材界面で塗膜が剥がれてしまった場合を密着性が「不良」であるとした。
【0104】
(6) 脂肪酸等の浸透防止性
75mm×150mm×厚さ2mmのSUS304基材上に形成した塗膜の上に、オレイン酸、醤油、ケチャップ、マヨネーズの4種類の液体を滴下し、乾燥防止のために、蓋をして、24時間静置した。24時間後に、ベンコット(旭化成社製)にて、滴下した部分を擦って、膜面の状態を目視にて観察した。液体汚れが膜に浸透せずに液体汚れを除去でき、かつ膜面に変化がないものを「良好」とし、膜が剥離したり、液体汚れが膜に浸透し、膜が変色したものを「不可」とした。
【0105】
表4から明らかなように、比較例1の液組成物では、シリカゾルゲル中、ホウ素等の元素成分が存在しないため、脂肪酸等の液体汚れが膜に浸透し、膜が変色して、脂肪酸等の浸透防止性は「不可」であった。それ以外の評価項目については、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角、膜の基材への密着性はすべて「良好」であった。
【0106】
また比較例2の液組成物では、シリカゾルゲル中、ホウ素等の元素成分が15.4質量%と多過ぎたため、成膜性が「不可」であり、塗膜が基材に密着せずに膜が剥離して、膜の基材への密着性及び脂肪酸等の浸透防止性はいずれも「不可」であった。それ以外の評価項目については、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角はすべて「良好」であった。
【0107】
また比較例3の液組成物では、シリカゾルゲル中、メチル基成分が存在しないため、脂肪酸等の液体汚れが膜に浸透し、膜が変色して、脂肪酸等の浸透防止性は「不可」であった。それ以外の評価項目については、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角、膜の基材への密着性はすべて「良好」であった。
【0108】
更に比較例4の液組成物では、シリカゾルゲル中、メチル基成分が28.3質量%と多過ぎたため、成膜性が「不可」であり、塗膜強度が不足し、膜を擦ったときに膜が基材から剥離して、膜の基材への密着性及び脂肪酸等の浸透防止性はいずれも「不可」であった。それ以外の塗膜の撥水撥油性及びヘキサデカンの転落角はいずれも「良好」であった。
【0109】
これに対して、表4から明らかなように、実施例1〜7の液組成物では、フッ素含有官能基成分、メチル基成分及びホウ素等の元素成分が本発明の第1の観点で特定する範囲内にあるため、成膜性、塗膜の撥水撥油性、ヘキサデカンの転落角、膜の基材への密着性はすべて「良好」であった。また脂肪酸等の浸透防止性もすべて「良好」であった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の油浸透防止膜形成用液組成物は、脂肪酸等を使用する工場、醤油、ケチャップ、マヨネーズを使用する厨房、台所、住居、事務所の内装材において、脂肪酸等の油汚れを防止する分野に用いられる。