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特開2020-135981マグネシウム二次電池用の負極材、マグネシウム二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-135981(P2020-135981A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】マグネシウム二次電池用の負極材、マグネシウム二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20200803BHJP
   H01M 4/46 20060101ALI20200803BHJP
   H01M 10/054 20100101ALI20200803BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20200803BHJP
   H01M 10/0569 20100101ALI20200803BHJP
【FI】
   H01M4/134
   H01M4/46
   H01M10/054
   H01M10/0585
   H01M10/0569
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-25322(P2019-25322)
(22)【出願日】2019年2月15日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度 国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 先端的低炭素化技術開発(ALCA) 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(72)【発明者】
【氏名】江頭 港
(72)【発明者】
【氏名】平塚 香織
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AJ06
5H029AK01
5H029AK02
5H029AK16
5H029AL11
5H029AM04
5H029AM07
5H029DJ09
5H050AA08
5H050AA12
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA02
5H050CA20
5H050CB11
5H050DA09
5H050DA13
5H050EA08
(57)【要約】
【課題】ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、不動態皮膜の生成を抑制することができ、過電圧が低く、高効率でマグネシウムを電析させることができるマグネシウム二次電池用の負極材を提供する。
【解決手段】マグネシウム二次電池用の負極材10は、マグネシウムを含むマグネシウム材11と、マグネシウム材11の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層12とを有し、被覆層12が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲンと、マグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子13を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウムを含むマグネシウム材と、前記マグネシウム材の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層とを有し、
前記被覆層が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲンと、マグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子を含むマグネシウム二次電池用の負極材。
【請求項2】
前記炭素質材料粒子が、SP炭素−炭素結合を有する炭素質材料の粒子である請求項1に記載のマグネシウム二次電池用の負極材。
【請求項3】
前記炭素質材料粒子が、グラフェン構造を有する炭素質材料の粒子である請求項1または2に記載のマグネシウム二次電池用の負極材。
【請求項4】
正極と、負極と、非水電解液とを含み、
前記負極は請求項1〜3のいずれか一項に記載のマグネシウム二次電池用の負極材を含み、
前記マグネシウム二次電池用の負極材は、前記被覆層が前記正極に対向する位置に配置されているマグネシウム二次電池。
【請求項5】
前記非水電解液は、下記の一般式(I)で表されるエーテルと、前記エーテルに溶解したマグネシウム塩を含む請求項4に記載のマグネシウム二次電池:
【化1】
ただし、上記の一般式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立して炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、aは1〜5の整数を表す。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム二次電池用の負極材、およびその負極材を用いたマグネシウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、様々な分野においてリチウムイオン二次電池が広く用いられている。しかしながら、一価のイオンを用いるリチウムイオン二次電池では、理論容量密度の改良に限界がある。このため、近年では二価のマグネシウムイオンをキャリアとするマグネシウム二次電池が注目を集めている。
【0003】
マグネシウム二次電池では、負極として、マグネシウムを含むマグネシウム材が用いられている。しかしながら、マグネシウム材の表面は、酸化物からなる不動態皮膜が形成されやすい。この不動態皮膜は、マグネシウム二次電池の充放電時に抵抗となって充電電圧を上昇させると共に、放電電圧を低減させて、充電電圧と放電電圧との差(過電圧)を高くし、放電容量の低下を引き起こす要因となる。
【0004】
マグネシウム二次電池の過電圧を低くする方法の一つとして、ハロゲン化アルキルマグネシウム(グリニャール試薬)などのハロゲン化物イオンを含む電解液を用いる方法が知られている。しかしながら、ハロゲン化物イオンを含む電解液は、電極の集電体などの金属材料を腐食させたり、正極活物質の酸化還元反応の電位程度の電位で酸化分解を起こしたりすることがある。このため、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用したマグネシウム二次電池では、電池の作動電圧を2V以下とすることが必要となる。そこで、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しないで、マグネシウム二次電池の過電圧を低くするための検討が盛んに行われている。
【0005】
特許文献1には、マグネシウム材をハロゲン化アルキル溶液に浸漬して、マグネシウム材の表面に形成されている不動態皮膜を除去し、その不動態皮膜を除去したマグネシウム材をマグネシウム二次電池の負極として使用することが記載されている。
【0006】
特許文献2には、マグネシウム二次電池用の負極として、マグネシウム金属と炭素の同素体とを含み、かつ該マグネシウム金属と該炭素の同素体とが一部で接触している材料が記載されている。この特許文献2によると、この材料は、マグネシウム金属が炭素の同素体と接触していることにより、その表面に酸化皮膜が形成されない、若しくは形成されにくくなるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2016−201182号公報
【特許文献2】特開2013−145729号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
マグネシウム二次電池の過電圧を低くし、かつ放電容量を向上させるためには、長期間にわたって負極であるマグネシウム材の表面に不動態皮膜の生成を抑制することが必要である。しかしながら、特許文献1に記載されている方法では、マグネシウム二次電池を長期間にわたって使用すると、電解液の分解などによってマグネシウム材の表面に新たな不動態皮膜が生成して、2V程度の過電圧が生じ、マグネシウムを電析させる際の効率が低下することがあった。また、特許文献2に記載されている負極用の材料は、マグネシウム金属の表面に不動態皮膜が生成すると、その不動態皮膜を除去することが難しい場合があった。
【0009】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、不動態皮膜の生成を抑制することができ、過電圧が低く、高効率でマグネシウムを電析させることができるマグネシウム二次電池用の負極材を提供することを目的とする。本発明はまた、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、室温で、過電圧が低く、放電容量が大きく、かつ高電圧で高エネルギー密度の充放電が可能であるマグネシウム二次電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するために検討した結果、マグネシウムを含むマグネシウム材の表面を、ハロゲンとマグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子を含む被覆層で被覆することによって、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、マグネシウム材の表面に形成されている不動態皮膜を除去することができ、さらにその不動態皮膜が除去された状態を長期間にわたって維持することができ、過電圧を低くし、高効率でマグネシウムを電析させることが可能となることを見出した。そして、その被覆層で被覆されたマグネシウム材を負極として用いたマグネシウム二次電池は、室温で、過電圧が低く、放電容量が大きく、かつ高電圧で高エネルギー密度の充放電が可能であることを確認して本発明を完成させた。
従って、本発明は以下の態様を含む。
【0011】
[1]マグネシウムを含むマグネシウム材と、前記マグネシウム材の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層とを有し、前記被覆層が、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲンと、マグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子を含むマグネシウム二次電池用の負極材。
【0012】
[2]前記炭素質材料粒子が、SP炭素−炭素結合を有する炭素質材料の粒子である[1]に記載のマグネシウム二次電池用の負極材。
【0013】
[3]前記炭素質材料粒子が、グラフェン構造を有する炭素質材料の粒子である[1]または[2]に記載のマグネシウム二次電池用の負極材。
【0014】
[4]正極と、負極と、非水電解液とを含み、前記負極は[1]〜[3]のいずれか一つに記載のマグネシウム二次電池用の負極材を含み、前記マグネシウム二次電池用の負極材は、前記被覆層が前記正極に対向する位置に配置されているマグネシウム二次電池。
【0015】
[5]前記非水電解液は、下記の一般式(I)で表されるエーテルと、前記エーテルに溶解したマグネシウム塩を含む[4]に記載のマグネシウム二次電池。
【0016】
【化1】
【0017】
ただし、上記の一般式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立して炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、aは1〜5の整数を表す。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、不動態皮膜の生成を抑制することができ、過電圧が低く、高効率でマグネシウムを電析させることができるマグネシウム二次電池用の負極材を提供することが可能となる。また、本発明によれば、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、室温で、過電圧が低く、放電容量が大きく、かつ高電圧で高エネルギー密度の充放電が可能であるマグネシウム二次電池を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施態様に係るマグネシウム二次電池用の負極材の模式断面図である。
図2】本発明の一実施態様に係るマグネシウム二次電池の模式断面図である。
図3】実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板と比較例1で用意したマグネシウム板の表面のXPSスペクトルである。
図4】実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーの測定結果である(電解液の溶媒:トリグライム)。
図5】比較例1で用意したマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーの測定結果である(電解液の溶媒:トリグライム)。
図6】比較例2で得られた被覆層付きマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーの測定結果である(電解液の溶媒:トリグライム)。
図7】実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーの測定結果である(電解液の溶媒:ジグライム)。
図8】実施例2で得られた二極式セルの3サイクル目の充電曲線と放電曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施態様に係るマグネシウム二次電池用の負極材およびマグネシウム二次電池について、添付した図面を参照しながら説明する。
【0021】
[マグネシウム二次電池用の負極材]
図1は、本発明の一実施態様に係るマグネシウム二次電池用の負極材の模式断面図である。図1に示すように、マグネシウム二次電池用の負極材10は、マグネシウムを含むマグネシウム材11と、マグネシウム材11の少なくとも一方の表面を被覆する被覆層12とを有する。
【0022】
マグネシウム材11は、マグネシウムイオン(Mg2+)を放出し、かつマグネシウムイオンを吸蔵し得るものであれば特に制限はない。マグネシウム材11は、純マグネシウムであってもよいし、マグネシウム合金であってもよい。マグネシウム合金の例としては、マグネシウムとアルミニウムとの合金、マグネシウムとマンガンとの合金、マグネシウムと亜鉛との合金が挙げられる。
【0023】
被覆層12は、炭素質材料粒子13を含む。炭素質材料粒子13は、塩素、臭素およびヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種のハロゲンと、マグネシウムとを表面に有する。ハロゲンは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。被覆層12はマグネシウムとハロゲンとを含み、還元性が高いので、マグネシウム材11の表面に不動態皮膜(酸化物)が生成しにくく、またマグネシウム材11の表面に生成している不動態皮膜を還元分解して除去することができる。
【0024】
炭素質材料粒子13は、炭素−炭素結合を有する炭素質材料の粒子である。炭素質材料粒子13としては、活性炭粒子、カーボンブラック粒子、グラフェン粒子、酸化グラフェン粒子、カーボンナノチューブ粒子、黒鉛粒子を用いることができる。これらの炭素質材料粒子13は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。炭素質材料粒子13は、SP炭素−炭素結合を有する炭素質材料の粒子であることが、導電性が高く、負極材10の表面の電気抵抗を低くすることができる点で好ましい。具体的には、炭素質材料粒子13は、グラフェン粒子、酸化グラフェン粒子、カーボンナノチューブ粒子、黒鉛粒子であることが好ましい。特に、グラフェン構造を有する炭素質材料粒子の中でも酸化グラフェン粒子は表面に含酸素官能基を有し、マグネシウムおよびハロゲンとの親和性が高い点で好ましい。
【0025】
炭素質材料粒子13は、平均粒子径が10nm以上500μm以下の範囲内にあることが好ましい。炭素質材料粒子13の平均粒子径が大きくなりすぎると、被覆層12に大きな空隙が形成されて、マグネシウム材11の表面に部分的に不動態皮膜が生成しやすくなるおそれがある。一方、炭素質材料粒子13の平均粒子径が小さくなりすぎると、被覆層12が緻密になりすぎて、マグネシウム材11の表面に非水電解液が十分に浸透しにくくなるおそれがある。炭素質材料粒子13の平均粒子径は、炭素質材料粒子13が凝集粒子を形成している場合は、凝集粒子の平均粒子径である。
【0026】
被覆層12の被覆量は、マグネシウム材11の単位面積(1cm)あたりの量として、10mg以上であることが好ましい。
【0027】
マグネシウム二次電池用の負極材10は、例えば、マグネシウムとハロゲンとを表面に有する炭素質材料粒子13の分散液を、マグネシウム材11に塗布し、乾燥することによって製造することができる。
【0028】
マグネシウムとハロゲンとを表面に有する炭素質材料粒子13の分散液は、例えば、溶媒中で、マグネシウムとハロゲンとを含む化合物と炭素質材料粒子とを混合することによって調製することができる。マグネシウムとハロゲンとを含む化合物としては、下記の一般式(II)で表されるハロゲン化アルキルマグネシウム(グリニャール試薬)を用いることが好ましい。ハロゲン化アルキルマグネシウムは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
【化2】
【0030】
ただし、上記一般式(II)において、Rは、炭素原子数1〜5のアルキル基を表し、Xは、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子を表す。
【0031】
分散液の溶媒は、エーテル系溶媒であることが好ましい。エーテル系溶媒は、環状エーテルであってもよいし、鎖状エーテルであってもよい。環状エーテルの例としては、テトラヒドロフラン(THF)を挙げることができる。鎖状エーテルの例としては、1,2−ジメトキシエタン(DME)を挙げることができる。
【0032】
炭素質材料粒子13の分散液を、マグネシウム材11に塗布する方法としては、浸漬法、印刷法などの分散液を基材に塗布するための公知の方法を用いることができる。
【0033】
本実施形態のマグネシウム二次電池用の負極材10は、マグネシウム材11の表面が、ハロゲンとマグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子13を含む被覆層12で被覆されている。このため、本実施形態のマグネシウム二次電池用の負極材10は、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、マグネシウム材11の表面に形成されている不動態皮膜を除去することができ、さらにその不動態皮膜が除去された状態を長期間にわたって維持することができ、過電圧が低く、高効率でマグネシウムを電析させることができる。
【0034】
[マグネシウム二次電池]
図2は、本発明の一実施態様に係るマグネシウム二次電池の模式断面図である。
図2に示すように、マグネシウム二次電池20は、正極21と、負極24と、非水電解液25とを含む。正極21は、正極集電体22と、正極集電体22の表面に形成されている正極活物質層23とからなる。負極24は、上述のマグネシウム二次電池用の負極材10を含む。負極材10は、被覆層12が正極21の正極活物質層23に対向する位置に配置されている。正極21と負極24との間には、セパレータを有していてもよい。
【0035】
正極集電体22としては、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、鉄などの金属材料、あるいはステンレス合金などの前記金属材料を含む合金材料を含むシートを用いることができる。シートは多孔質体やメッシュであってもよい。
【0036】
正極活物質層23は、正極活物質、導電材、バインダーを含む組成物からなる。正極活物質は、マグネシウムイオンを吸蔵しかつ放出し得るものであれば特に制限はなく、マグネシウム二次電池で利用されている公知のものを使用することができる。正極活物質としては、例えば、金属硫化物、金属酸化物、シェブレル相を有する化合物、ポリアニオン系化合物、シリケート系化合物を用いることができる。導電材としては、例えば、カーボンブラック粒子や黒鉛粒子などの炭素質材料粒子を用いることができる。バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂を用いることができる。正極活物質層23の正極活物質、導電材およびバインダーの含有量は特に制限はないが、一般に、正極活物質の含有量は70質量%以上96質量%以下の範囲内にあり、導電材の含有量は2質量%以上28質量%以下の範囲内にあり、バインダーの含有量は2質量%以上28質量%以下の範囲内にある。
【0037】
非水電解液25は、非水溶媒と溶質とを含む。非水溶媒は、下記の一般式(I)で表される鎖状エーテルであることが好ましい。鎖状エーテルは、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
【化3】
【0039】
ただし、上記の一般式(I)において、RおよびRは、それぞれ独立して炭素原子数1〜4のアルキル基を表し、aは1〜5の整数を表す。RおよびRは、それぞれ独立してメチル基、エチル基であることが好ましい。aは2〜4の整数であることが好ましい。具体的には、鎖状エーテルは、トリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)、ジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)であることが好ましい。
【0040】
溶質は、マグネシウム塩であることが好ましい。マグネシウム塩の例としては、マグネシウムビス(フルオロスルホニル)アミド:Mg(FSA)およびマグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド:Mg(TFSA)が挙げられる。これらのマグネシウム塩は1種を単独で使用してもよいし、2種を組み合わせて使用してもよい。非水電解液25のマグネシウム塩の濃度は、0.1モル/dm以上であることが好ましく、より好ましくは0.1モル/dm以上5.0モル/dm以下の範囲内である。
【0041】
マグネシウム二次電池20の形状としては特に制限はなく、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型などの二次電池の形状として採用されている公知の形状とすることができる。
【0042】
本実施形態のマグネシウム二次電池20は、負極24として、上述のマグネシウム二次電池用の負極材10が使用されるため、負極24の表面に不動態皮膜が形成されることによって過電圧が高くなることが起こりにくい。このため、本実施形態のマグネシウム二次電池20は、ハロゲン化物イオンを含む電解液を使用しなくても、室温で、過電圧が低く、放電容量が大きく、かつ高電圧で高エネルギー密度の充放電が可能である。
【実施例】
【0043】
以下、本発明の作用効果を実施例により説明する。
【0044】
[実施例1]
塩化メチルマグネシウム(CHMgCl)の濃度が1.0モル/dmの塩化メチルマグネシウム含有テトラヒドロフラン溶液(CHMgCl/THF溶液)3.0cmに、平均粒子径が20μmの酸化グラフェン粒子(GO粒子)50mgを投入して、1時間静置することによって、GO粒子の表面をCHMgClとの反応で一部修飾して、表面にMgとClを有する酸化グラフェン粒子(GO−MgCl粒子)の分散液を調製した。調製したGO−MgCl粒子分散液2.5mmを、マグネシウム板(縦:1.5cm、横:1.0cm、厚さ:10μm)の表面に、直径が約7mmの円形状の液膜を形成するように滴下した後、直ちに液膜を400Paの圧力下で減圧乾燥した。マグネシウム板に対して、GO−MgCl粒子分散液の滴下および形成した液膜の減圧乾燥操作を3回繰り返した後、マグネシウム板全体をTHF10cmに浸漬して、残余のCHMgClを除去した。次いで、マグネシウム板をTHFから取り出した後、10Pa以下の圧力下で減圧乾燥した。この一連の操作により、表面にGO−MgCl粒子を含む被覆層が形成された被覆層付きマグネシウム板を得た。
【0045】
[比較例1]
比較例1では、マグネシウム板の表面に被覆層を形成しなかった。すなわち、未処理のマグネシウム板を用意した。
【0046】
[比較例2]
比較例2では、CHMgCl/THF溶液の代わりにTHFを使用したこと以外は、実施例1と同様にして、表面にGO粒子を含む被覆層が形成された被覆層付きマグネシウム板を得た。
【0047】
[評価]
実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板および比較例1で用意したマグネシウム板について、下記の方法により表面の元素分析を行った。また、実施例1、比較例2で得られた被覆層付きマグネシウム板および比較例1で用意したマグネシウム板について、下記の方法によりサイクリックボルタンメトリーを測定した。
【0048】
(元素分析)
被覆層の元素分析は、被覆層表面のX線光電子分光(XPS)スペクトルを測定することにより行った。XPSスペクトルを、図3の(a)と(b)に示す。図3の(a)と(b)において、実線は、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板の被覆層のXPSスペクトルを、破線は、比較例1で用意したマグネシウム板の表面のXPSスペクトルである。
【0049】
図3(a)のXPSスペクトルから、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板の被覆層は、198eVと200eVにMg−Cl結合に由来するピークが観測され、表面にMg−Cl化学種が存在していることが分かる。また、図3(b)のXPSスペクトルから、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板の被覆層は、284.6eV付近の有機物由来のピークに加え、286.0eVにC−O−Mg結合に由来すると見られるピークが観測され、Mg−Cl化学種は、酸化グラフェン粒子の表面の含酸素官能基と反応して結合していることが分かる。
【0050】
(サイクリックボルタンメトリー)
試料のマグネシウム板を作用極、マグネシウム板を対極、銀電極を参照極として、サイクリックボルタンメトリーを測定した。電解液としては、マグネシウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)アミド(Mg(TFSA))を1.5モル/dmの濃度で含むトリエチレングリコールジメチルエーテル(トリグライム)溶液を用いた。走査速度は5mV/秒とし、測定温度は60℃とした。
図4に、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板、図5に、比較例1で用意したマグネシウム板、図6に、比較例2で得られた被覆層付きマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーの測定結果をそれぞれ示す。
【0051】
図4に示すように、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板では、下向きの還元(マグネシウム析出:充電反応)電流が−2.2V(vs.Ag)付近で流れはじめるのに対し、上向きの酸化(マグネシウム溶解:放電反応)電流も−2.2V(vs.Ag)から見られ、過電圧は見られなかった。また、マグネシウムの析出に対する溶解電気量の比も大きくなり、高効率でマグネシウムを電析させることが可能となることが分かる。
【0052】
これに対して、図5に示すように、比較例1で用意したマグネシウム板では、約2Vの過電圧が生じた。これは、用意したマグネシウム板の表面に、不動態皮膜が形成されていたためであると考えられる。また、図6に示すように、比較例2で得られた被覆層付きマグネシウム板は、酸化電流が−0.6Vから見られ、比較例1で用意したマグネシウム板と比較すると、過電流が低減している。しかし、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板と比較すると、その改善効果は十分ではないことが分かる。
【0053】
[実施例2]
実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板のサイクリックボルタンメトリーを、電解液として、Mg(TFSA)を1.5モル/dmの濃度で含むジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)溶液を用いたこと以外は、上記の方法と同様にして測定した。その結果を、図7に示す。
図7に示すように、電解液の溶媒にジグライムを用いた場合でも、実施例1で得られた被覆層付きマグネシウム板は過電圧が低減し、高効率でマグネシウムを電析させることが可能となることが分かる。
【0054】
[実施例3]
正極活物質として、シェブレル相硫化モリブデン(Mo)を用意した。Mo50mgと導電材(気相成長炭素繊維)5mgとを混錬し、得られた混錬物に、8質量%のバインダー(ポリフッ化ビニリデン)を溶解したN−メチルピロリドン溶液50mgを加えて、さらに混錬して、正極活物質ペーストを調製した。調製した正極活物質ペーストを、正極集電体(アルミニウム円板:直径13cm、厚さ100μm)に、電極活物質の質量が20mgとなるように、直径約9cmの円形状に塗布した。塗布後、室温大気圧下で1日間乾燥し、その後110℃で減圧乾燥して、正極を作製した。
【0055】
負極としては、実施例1で作製した被覆層付きマグネシウム板を用いた。上記のようにして作製した正極と実施例1で作製した被覆層付きマグネシウム板とを、正極の正極活物質層と被覆層付きマグネシウム板の被覆層とが対向するようにセパレータ(ガラス繊維ろ紙)を介して積層し、得られた積層体を電解液に浸漬させて、二極式セルを作製した。電解液としては、Mg(TFSA)を1.5モル/dmの濃度で含むジエチレングリコールジメチルエーテル(ジグライム)溶液を用いた。
【0056】
得られた二極式セルについて、室温下、正極活物質(Mo)に対する電流密度が500μA/gとなる条件で定電流の充放電試験を行った。図8に、3サイクル目の充電曲線と放電曲線を示す。図8に示すように、0.6−0.8V付近に平坦部をもつ放電曲線が得られた。また、過電圧は0.4V程度であった。この結果から、ハロゲンとマグネシウムとを表面に有する炭素質材料粒子を含む被覆層で被覆されたマグネシウム材を負極として用いたマグネシウム二次電池は、室温で、過電圧が低く、放電容量が大きく、かつ高電圧で高エネルギー密度の充放電が可能であることが確認された。
【符号の説明】
【0057】
10 負極材
11 マグネシウム材
12 被覆層
13 炭素質材料粒子
20 マグネシウム二次電池
21 正極
22 正極集電体
23 正極活物質層
24 負極
25 非水電解液
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8