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特開2020-136522導電性シールドおよびマイクロ波回路素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-136522(P2020-136522A)
(43)【公開日】2020年8月31日
(54)【発明の名称】導電性シールドおよびマイクロ波回路素子
(51)【国際特許分類】
   H05K 9/00 20060101AFI20200803BHJP
【FI】
   H05K9/00 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-29134(P2019-29134)
(22)【出願日】2019年2月21日
(71)【出願人】
【識別番号】000219004
【氏名又は名称】島田理化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087000
【弁理士】
【氏名又は名称】上島 淳一
(72)【発明者】
【氏名】會見 春樹
(72)【発明者】
【氏名】小川 二良
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA05
5E321AA14
5E321BB44
5E321BB53
5E321CC09
5E321CC22
5E321GG01
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に影響されることがないようにした導電性シールドを提供する。
【解決手段】蓋部とにより形成される空間内に配置される導電性シールドであって、導電性材料、または、少なくとも表面が導電性コーティングを施されている材料により形成され、導電性筐体の底部側に配置される底板部と、底板部から立ち上がり形成され、底板部を導電性筐体の底部側に配置したときに弾性変形して導電性蓋部と当接する上方接触部を備えた立ち上がり板部とを有する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体と前記導電性筐体の開口部を密閉する導電性蓋部とにより形成される空間内に配置される導電性シールドであって、
導電性材料、または、少なくとも表面が導電性コーティングを施されている材料により形成され、
前記導電性筐体の底部側に配置される底板部と、
前記底板部から立ち上がり形成され、前記底板部を前記導電性筐体の前記底部側に配置したときに弾性変形して前記導電性蓋部と当接する上方接触部を備えた立ち上がり板部と
を有することを特徴とする導電性シールド。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性シールドにおいて、
前記立ち上がり板部は、少なくとも上方接触部が可撓性を備える
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項3】
請求項1または2のいずれか1項に記載の導電性シールドにおいて、
前記上方接触部は、湾曲形状を備えるとともに先端部が櫛歯状に形成されている
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項4】
請求項1、2または3のいずれか1項に記載の導電性シールドにおいて、
前記底板部から立ち下がり形成され、前記底板部を前記導電性筐体の前記底部側に配置したときに前記導電性筐体の前記底部側と弾性変形して当接する下方接触部を備えた立ち下がり板部と
を有することを特徴とする導電性シールド。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性シールドにおいて、
前記立ち下がり板部は、少なくとも下方接触部が可撓性を備える
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項6】
請求項4に記載の導電性シールドにおいて、
前記立ち下がり板部は、前記立ち上がり板部の一部を下方へ折曲して形成した
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項7】
請求項4、5または6のいずれか1項に記載の導電性シールドにおいて、
前記下方接触部は、湾曲形状を備えるとともに先端部が櫛歯状に形成されている
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項8】
請求項1、2、3、4、5、6または7のいずれか1項に記載の導電性シールドにおいて、
前記底板部は締結具を挿通する孔部を備え、
前記孔部に前記締結具を挿通して、前記締結具により前記底板部を前記導電性筐体の前記底部側に固定する
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項9】
請求項8に記載の導電性シールドにおいて、
前記底板部と前記導電性筐体の前記底部側との間に配置されるスペーサを備え、
前記スペーサを介して前記締結具により前記底板部を前記導電性筐体の前記底部側に固定する
ことを特徴とする導電性シールド。
【請求項10】
上方に開口部を備えた導電性筐体と、
前記開口部を密閉する導電性蓋部と、
前記導電性筐体と前記導電性蓋部とにより形成される空間内において、前記導電性筐体の底部側に配置された誘電体基板と、
前記誘電体基板上に形成されたマイクロ波回路パターンと
を有するマイクロ波回路素子において、
前記導電性筐体と前記導電性蓋部とにより形成される前記空間内に、請求項1、2、3、4、5、6、7、8または9のいずれか1項に記載の導電性シールドを配置した
ことを特徴とするマイクロ波回路素子。
【請求項11】
請求項10に記載のマイクロ波回路素子において、
前記マイクロ波回路パターンは、マイクロ波増幅回路パターンである
ことを特徴とするマイクロ波回路素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シールドおよびマイクロ波回路素子に関する。さらに詳細には、本発明は、マイクロ波回路素子内に構成される空間による回路動作への影響を軽減しようとする際に用いて好適な導電性シールドおよびそうした導電性シールドを備えたマイクロ波回路素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、マイクロ波回路素子の一例として、マイクロ波帯の波長の電波を増幅するマイクロ波回路素子たるマイクロ波増幅器が知られている。
【0003】
こうしたマイクロ波増幅器は、一般に、導電性を備えた筐体(導電性筐体)内に誘電体基板を搭載し、当該誘電体基板上や導電性筐体に増幅素子や受動素子などを実装して、導電性筐体に実装された入出力端子ととともにマイクロ波増幅回路を構築するようにして構成されている。
【0004】
ここで、上記した導電性筐体は、当該導電性筐体を導電性を備えた蓋部(導電性蓋部)により密閉することによって形成される内部空間の寸法に応じて、当該導電性筐体内に特定の周波数における電波伝搬の強弱(導波管モード)が発生することが知られている。
【0005】
即ち、マイクロ波増幅器においては、この導電性筐体内の空間(内部空間)に起きている特定の周波数における電波伝搬の強弱によって、特定の周波数の電波が空間を伝わりやすいという現象が発生し、増幅する信号強度が不安定になったり、入出力間の空間結合によって出力信号の一部が入力に戻り異常発振を起こしたりするなど、安定した性能を得ることが困難になるという問題点があった。
【0006】
こうした問題点に鑑みて、従来のマイクロ波増幅器においては、例えば、導電性筐体の内部に電波吸収体を実装し、この電波吸収体により導電性筐体内における電波伝搬環境を変化させることによって、上記した導波管モードによる影響を軽減したり、あるいは、導電性筐体の内部に金属製のセパレータを配置して、入出力を簡易的に分離したりするなどするようにした改良技術が提案されている。
【0007】
また、上記した改良技術を発展させたものとして、例えば、特許文献1として提示する特開平5−121975号公報に開示されているように、金属製セパレータと金具とを併用したものや、あるいは、特許文献2として提示する特開平7−235846号公報に開示されているように、蓋部とセパレータとを一体化して動作の安定性を高めたものなどが知られている。
【0008】
しかしながら、特開平5−121975号公報に開示された技術においては、金属製セパレータが弾性を利用した金具を押圧することによって、導電性蓋部と金属製セパレータとを導通させているが、導電性蓋部や金属製セパレータの加工精度が良くないと一部が接触しないおそれがあるという問題点や、金属製セパレータが機械的に固定されているものではないので、振動や衝撃などによって入出力方向と垂直方向に微動して接触点が変わってしまい性能が安定しないおそれがあるという問題点などがあった。
【0009】
また、特開平7−235846号公報に開示された技術においては、蓋部の内側に突出した壁部を利用して空間制御が行われているため、筐体と蓋部との一体化を図って接触面精度を確保するためには、極めて精密な機械加工を行う工程が必要になるという問題点などがあった。
【0010】
なお、誘電体基板の板厚はロット毎に違いが発生するおそれがあるので、特開平7−235846号公報に開示された技術においては、蓋部側の加工精度のバラツキや誘電体基板の板厚のバラツキを吸収するための加工の手法が別途必要になるという問題点などもあった。
【0011】
また、特開平7−235846号公報に開示された技術においては、誘電体基板側に弾性を有する場合にも、温度変化などによる機械的な変化や蓋部側の加工精度に依存して誘電体基板を押圧する程度が変化するため、そうした変化を吸収するための加工の手法が別途必要になるという問題点などもあった。
【0012】
即ち、上記した特開平5−121975号公報や特開平7−235846号公報に開示された従来の技術においては、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に大きく影響するおそれがあるという問題点があった。
【0013】
また、上記した特開平5−121975号公報や特開平7−235846号公報に開示された従来の技術においては、振動や衝撃などによっても性能の安定性が大きく損なわれるおそれがあるという問題点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平5−121975号公報
【特許文献2】特開平7−235846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記したような従来の技術の有する種々の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に影響されることがないようにした導電性シールドおよびマイクロ波回路素子を提供しようとするものである。
【0016】
また、本発明の目的とするところは、振動や衝撃などによっても性能の安定性が損なわれることがないようにした導電性シールドおよびマイクロ波回路素子を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するために、本発明による導電性シールドは、マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体内に配置したときに、弾性変形して導電性筐体を密閉する導電性蓋部と当接するようにしたものである。
【0018】
従って、本発明による導電性シールドによれば、構成部品の加工方法や加工精度に影響されることなく、導電性筐体内に配置された導電性シールドと導電性筐体を密閉する導電性蓋部との接触状態を維持することができ、動作の安定性を確保することができる。
【0019】
即ち、本発明による導電性シールドは、その構成が生み出す反発力によって導電性蓋部により密閉された導電性筐体内の空間制御を行う遮断構造を提供するものであり、導電性シールドと導電性蓋部との接触状態が加工方法や加工精度に影響されることはない。
【0020】
また、本発明による導電性シールドは、締結具により導電性筐体の底部側に固定するようにしたものである。
【0021】
従って、本発明による導電性シールドによれば、締結具により導電性筐体の底部側に機械的に固定されるものであるので、振動や衝撃などが生じても導電性筐体内における導電性シールドの配置位置にズレが生じることはなく、性能の安定性を維持することができる。
【0022】
即ち、本発明による導電性シールドにおいては、締結具によりマイクロ波回路素子の導電性筐体の底部側に機械的に安定して固定することにより、マイクロ波回路素子の導電性筐体や誘電体基板上における接地部位と導電性筐体を密閉する導電性蓋部とを確実に接地することができる。
【0023】
また、本発明によるマイクロ波回路素子は、マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体と導電性蓋部とにより形成される空間内に、上記した本発明による導電性シールドを配置したものである。
【0024】
従って、本発明によるマイクロ波回路素子によれば、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に影響されることがなく、また、振動や衝撃などによっても性能の安定性が損なわれることはない。
【0025】
即ち、本発明によるマイクロ波回路素子において、上記した本発明による導電性シールドにより導電性蓋部により密閉された導電性筐体内の空間を制御することができ、不要な共振や発振を防ぐことができるようになる。
【0026】
即ち、本発明による導電性シールドは、マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体と上記導電性筐体の開口部を密閉する導電性蓋部とにより形成される空間内に配置される導電性シールドであって、導電性材料、または、少なくとも表面が導電性コーティングを施されている材料により形成され、上記導電性筐体の底部側に配置される底板部と、上記底板部から立ち上がり形成され、上記底板部を上記導電性筐体の上記底部側に配置したときに弾性変形して上記導電性蓋部と当接する上方接触部を備えた立ち上がり板部とを有するようにしたものである。
【0027】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記立ち上がり板部は、少なくとも上方接触部が可撓性を備えるようにしたものである。
【0028】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記上方接触部は、湾曲形状を備えるとともに先端部が櫛歯状に形成されているようにしたものである。
【0029】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記底板部から立ち下がり形成され、上記底板部を上記導電性筐体の上記底部側に配置したときに上記導電性筐体の上記底部側と弾性変形して当接する下方接触部を備えた立ち下がり板部とを有するようにしたものである。
【0030】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、 上記立ち下がり板部は、少なくとも下方接触部が可撓性を備えるようにしたものである。
【0031】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記立ち下がり板部は、上記立ち上がり板部の一部を下方へ折曲して形成するようにしたものである。
【0032】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記下方接触部は、湾曲形状を備えるとともに先端部が櫛歯状に形成されているようにしたものである。
【0033】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記底板部は締結具を挿通する孔部を備え、上記孔部に上記締結具を挿通して、上記締結具により上記底板部を上記導電性筐体の上記底部側に固定するようにしたものである。
【0034】
また、本発明による導電性シールドは、上記した本発明による導電性シールドにおいて、上記底板部と上記導電性筐体の上記底部側との間に配置されるスペーサを備え、上記スペーサを介して上記締結具により上記底板部を上記導電性筐体の上記底部側に固定するようにしたものである。
【0035】
また、本発明によるマイクロ波回路素子は、上方に開口部を備えた導電性筐体と、上記開口部を密閉する導電性蓋部と、上記導電性筐体と上記導電性蓋部とにより形成される空間内において、上記導電性筐体の底部側に配置された誘電体基板と、上記誘電体基板上に形成されたマイクロ波回路パターンとを有するマイクロ波回路素子において、上記導電性筐体と上記導電性蓋部とにより形成される上記空間内に、上記した本発明による導電性シールドを配置するようにしたものである。
【0036】
また、本発明によるマイクロ波回路素子は、上記した本発明によるマイクロ波回路素子において、上記マイクロ波回路パターンは、マイクロ波増幅回路パターンであるようにしたものである。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、以上説明したように構成されているので、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に大きく影響されることがないという優れた効果を奏するものである。
【0038】
また、本発明は、以上説明したように構成されているので、振動や衝撃などによっても性能の安定性が大きく損なわれることがないという優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1図1(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態の一例による導電性シールドを示す説明図である。図1(a)は、図1(b)のIA矢視図である。図1(b)は、図1(a)のIB矢視図である。図1(c)は、図1(b)のIC矢視図である。
図2図2は、本発明の実施の形態の一例によるマイクロ波回路素子を示す分解斜視構成説明図である。
図3図3は、図2のIII矢視による要部構成説明図である。
図4図4は、従来の技術による導電性シールドまたは金属セパレータと導電性蓋部との接触部分に発生する間隙を示す説明図である。
図5図5は、本発明による導電性シールドと導電性蓋部との接触部分を示す説明図である。
図6図6(a)(b)(c)は、本発明の実施の形態の他の例による導電性シールドを示す説明図である。図6(a)は、図6(b)のVIA矢視図である。図6(b)は、図6(a)のVIB矢視図である。図6(c)は、図6(b)のVIC矢視図である。
図7図7は、本発明の実施の形態の他の例によるマイクロ波回路素子を示す図3に相当する要部構成説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明による導電性シールドおよびマイクロ波回路素子の実施の形態の一例を詳細に説明するものとする。
【0041】
なお、以下の説明においては、各図において同一または相当する構成については、それぞれ同一の符号を付して示すことにより、その詳細な構成ならびに作用の説明は適宜に省略する。
【0042】
ここで、図1(a)(b)(c)には、本発明の実施の形態の一例による導電性シールドを示す説明図があらわされている。なお、図1(a)には図1(b)のIA矢視図があらわされており、また、図1(b)には図1(a)のIB矢視図があらわされており、また、図1(c)には図1(b)のIC矢視図があらわされている。
【0043】
この図1(a)(b)(c)に示す本発明の実施の形態の一例による導電性シールド10は、導電性材料から構成されるか、あるいは、少なくとも表面が導電性コーティングを施されている材料により形成されている。
【0044】
こうした導電性シールド10は、マイクロ波増幅器などのマイクロ波回路素子における導電性の筐体や誘電体基板などの固定系の部材に固定される板状(厚さの薄い長方体形状、即ち、厚さよりも幅広く長い平行する面を備えた形状)体の底板部12と、底板部12の幅広く長い平行する面における対向する側部12a、12bから斜め上方に拡開するようにそれぞれ立ち上がり形成された一対の立ち上がり板部14、16を備えている。
【0045】
なお、底板部12と立ち上がり板部14、16とは、例えば、金属プレス加工などにより一体的に形成されている。
【0046】
ここで、側部12aから立ち上がり形成された立ち上がり板部14は、側部12bから徐々に離れる方向で上方に向かうように形成されている。
【0047】
一方、側部12bから立ち上がり形成された立ち上がり板部16は、側部12aから徐々に離れる方向で上方に向かうように形成されている。
【0048】
立ち上がり板部14の上方部位には、側部12bから徐々に離れる方向で上方に向かった後に下方へ向かう湾曲形状を備えるとともに、先端部が櫛歯状に形成された上方接触部14aが形成されている。
【0049】
同様に、立ち上がり板部16の上方部位には、側部12aから徐々に離れる方向で上方に向かった後に下方へ向かう湾曲形状を備えるとともに、先端部が櫛歯状に形成された上方接触部16aが形成されている。
【0050】
なお、立ち上がり板部14、16は、それぞれ少なくとも上方接触部14a、16aが可撓性を備えて弾性変形可能に形成されている。
【0051】
従って、図2乃至図4を参照しながら後述するように、導電性シールド10をマイクロ波増幅器100の導電性筐体102内に配置しときに、導電性蓋部104の内面104aに上方接触部14a、16aが弾発力(反発力)を有して接触する。
【0052】
また、底板部12の側部12a、12bとは異なる対向する一対の側部12c、12dの近傍には、マイクロ波回路素子の導電性筐体内における固定系部材である導電性筐体の底部や誘電体基板に対して、ネジやボルトなどの締結具を挿通して固定するため円形の孔部20、22がそれぞれ穿設されている。
【0053】
ここで、図2には、上記した導電性シールド10を備えたマイクロ波回路素子を示す分解斜視構成説明図があらわされている。
【0054】
このマイクロ波回路素子は、誘電体基板106上にマイクロ波回路パターンとしてマイクロ波増幅回路パターンを構築したマイクロ波増幅器100として構成されている。
【0055】
より詳細には、マイクロ波増幅器100は、上方に開口部102aを備えた導電性筐体102と、開口部102aを密閉する導電性蓋部104と、導電性筐体102の底部側に固定された誘電体基板106と、誘電体基板106上に配置されたマイクロ波増幅回路パターンを構成する要素としてのマイクロ波能動素子108と、入出力端子110、112とを有している。
【0056】
これら、マイクロ波増幅器100の導電性筐体102、導電性蓋部104、誘電体基板106、マイクロ波能動素子108ならびに入出力端子110、112は、従来より公知のマイクロ波増幅器と異なるところはないので、その詳細な構成ならびに作用の説明は省略する。
【0057】
このマイクロ波増幅器100は、導電性シールド10により、導電性筐体102を導電性蓋部104により密閉することによって形成される内部空間の空間制御を行う点において、従来のマイクロ波増幅器とは異なる。
【0058】
マイクロ波増幅器100において導電性シールド10を配置する位置は、マイクロ波能動素子108の入出力端子110と入出力端子112との間である。
【0059】
ここで、導電性シールド10を導電性筐体102内に実装するに際しては、導電性蓋部104により導電性筐体102の開口部102aを塞いで、導電性筐体102を導電性蓋部104により密閉した状態において、上方接触部14a、16aが弾性変形して導電性蓋部104の内面104aと当接するように配置する。
【0060】
図2に示すマイクロ波増幅器100においては、導電性シールド10の底板部12と導電性筐体102の底部102bとの間にスペーサ114を配置して、まず、スペーサ114を誘電体基板106に取り付けた後に、スペーサ114を介してネジ116により底板部12を底部102bに固定している。
【0061】
より詳細には、スペーサ114には、導電性シールド10の底板部12に穿設された孔部20、22と連通する貫通孔(図示せず。)が形成されており、この貫通孔内に孔部20、22の上方からネジ116を挿通して底部102bに締め付けることにより、導電性筐体102における導電性シールド10を配置する上下方向の位置調整を行って、導電性シールド10を導電性筐体102に固定している。
【0062】
なお、導電性シールド10の寸法を適宜の大きさに形成して、スペーサ114を用いることなく導電性シールド10を導電性筐体102に固定するようにしてもよいことは勿論である。
【0063】
導電性シールド10ならびにマイクロ波増幅器100は、上記において説明したように構成されているので、導電性蓋部104の内面104aが平滑面でなく凹凸があるように変形していても、従来の技術とは異なり上方接触部14a、16aが弾性変形して内面104aと当接する。
【0064】
例えば、図4に示すように、導電性蓋部104の内面104aに凹部104aaがある場合には、従来のシールド板300や金属セパレータ302では、凹部104aaとシールド板300や金属セパレータ302との間に間隙G(図4における斜線部分)が発生し、電波の遮蔽効果が安定しない現象が起こり、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に大きく影響されるものとなっていた。
【0065】
しかしながら、導電性シールド10によれば、図5に示すように、導電性蓋部104の内面104aに凹部104aaがあっても、凹部104の表面形状の変化に対して上方接触部14a、16aにおける櫛歯状を形成する各櫛歯14aa、16aaが弾性変形して追随して当接するため電波の遮蔽効果が安定する。
【0066】
即ち、導電性シールド10においては、櫛歯状に形成された上方接触部14a、16aにおける弾性変形の作用によって、接触部位である導電性蓋部104の内面104aの凹凸、変形あるいは傾斜などを吸収して、導電性シールド10を導電性蓋部104に当接することができる。
【0067】
しかも、上方接触部14a、16aにおける櫛歯状を形成する各櫛歯14aa、16aaは、弾性変形して凹部104の表面形状の変化に追随して当接するため、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に大きく影響されることはない。
【0068】
また、導電性シールド10は、ネジ116により機械的に導電性筐体102に固定されているので、振動や衝撃などによっても導電性シールド10が移動するおそれがなく、振動や衝撃などにより性能の安定性が大きく損なわれることはない。
【0069】
次に、図6(a)(b)(c)には、本発明の実施の形態の他の例による導電性シールドを示す説明図があらわされている。なお、図6(a)には図6(b)のVIA矢視図があらわされており、また、図6(b)には図6(a)のVIB矢視図があらわされており、また、図6(c)には図6(b)のVIC矢視図があらわされている。
【0070】
この図6(a)(b)(c)に示す本発明の実施の形態の他の例による導電性シールド200は、側部12aから斜め上方に拡開するように立ち上がり形成された立ち上がり板部14の一部を下方へ折曲して、側部12aから斜め下方に拡開するように立ち下がり形成された立ち下がり板部202を設けている点において、上記において説明した導電性シールド10と異なる。
【0071】
ここで、側部12aから立ち下がり形成された立ち下がり板部202は、側部12bから徐々に離れる方向で下方に向かうように形成されている。
【0072】
立ち下がり板部202の下方部位には、側部12bから徐々に離れる方向で下方に向かった後に上方へ向かう湾曲形状を備えるとともに、先端部が櫛歯状に形成された下方接触部202aが形成されている。
【0073】
なお、立ち下がり板部202は、立ち上がり板部14の一部を下方へ折曲して形成されているものであるので、立ち上がり板部14と同様に、少なくとも下方接触部202aは可撓性を備えて弾性変形可能に形成されている。
【0074】
この導電性シールド200によれば、図7に示すように、下方接触部202aにおける櫛歯状を形成する各櫛歯202aaが、接地面の凹凸、変形あるいは傾斜などに追随して弾性変形して当接するので、導電性筐体102の底部102b側でも安定して接地することができる。
【0075】
以上において説明したように、上記した導電性シールド10、200ならびにマイクロ波回路100によれば、導電性筐体102の内部空間を制御することができる。
【0076】
しかも、櫛歯状に形成された上方接触部14a、16aや下方接触部202aが弾性変形して導電性蓋部104や導電性筐体102の底部102b側と当接するので、動作の安定性が構成部品の加工方法や加工精度に大きく影響されることはない。
【0077】
さらには、導電性筐体102、誘電体基板106およびマイクロ波能動素子108がネジ116により機械的に固定され、安定して接地面と接触し導通するため、導電性筐体102内の空間を分離でき、不要な発振や共振を防止することができる。
【0078】
また、上記したようにネジ116により各構成部材を固定するため、各構成部材の取り付けや取り外し作業を簡単に行うことができる。
【0079】
なお、上記した各実施の形態は例示に過ぎないものであり、本発明は他の種々の形態で実施することができる。即ち、本発明は、上記した各実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の省略、置き換え、変更などを行うことができる。
【0080】
例えば、上記した各実施の形態は、以下の(1)乃至(14)に示すように変形するようにしてもよい。
【0081】
(1)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10の底板部12に2個の円形の孔部20、22を配設するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。導電性シールドの底板部に形成する孔部の形状や大きさあるいは個数などは、設計条件などに応じて適宜に選択して任意の形状(例えば、四角形や長円形などである。)や大きさ(例えば、ネジの径に合わせて適宜に変更すればよい。)あるいは個数(例えば、1個あるいは3個以上の複数個である。)などを設定すればよい。
【0082】
(2)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10の底板部12を板状(厚さの薄い長方体形状、即ち、厚さよりも幅広く長い平行する面を備えた形状)体としたが、これに限られるものではないことは勿論である。導電性シールドの底板部の形状や大きさなどは、設計条件などに応じて適宜に選択して任意の形状(例えば、厚さの薄い円筒体形状などである。)や大きさ(例えば、マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体の大きさに合わせて適宜に変更すればよい。)などに設定すればよい。
【0083】
(3)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10の立ち上がり板部14、16を底板部12の側部12a、12bからそれぞれ立ち上がり形成するようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。導電性シールドの立ち上がり板部は、例えば、底板部の側部の一つのみから立ち上がり形成するようにしてもよいし、底板部の側部の全てから立ち上がり形成するようにしてもよく、設計条件などに応じて適宜の個数を設けるようにすればよい。同様に、導電性シールドの立ち下がり板部についても、設計条件などに応じて適宜の個数を設けるようにすればよい。
【0084】
(4)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10における立ち上がり板部14、16や立ち下がり板部202を、底板部12から離れる方向に拡開するように形成したが、これに限られるものではないことは勿論である。導電性シールドにおける立ち上がり板部や立ち下がり板部は、例えば、底板部に対して垂直に上方に立ち上がりまたは立ち下がるようにしてもよく、設計条件などに応じて底板部に対して任意の方向(角度)に延長するようにしてもよい。
【0085】
(5)上記した各実施の形態においては、立ち上がり板部14は側部12bから徐々に離れる方向で上方に向かうように形成し、また、立ち上がり板部16は側部12aから徐々に離れる方向で上方に向かうように形成したが、これに限られるものではないことは勿論である。例えば、立ち上がり板部14は側部12bへ徐々に近づく方向で上方に向かうように形成し、また、立ち上がり板部16は側部12aへ徐々に近づく方向で上方に向かうように形成してもよい。同様に、上記した実施の形態においては、立ち下がり板部202は側部12bから徐々に離れる方向で下方に向かうように形成したが、これに限られるものではなく、立ち下がり板部202は側部12bへ徐々に近づく方向で下方に向かうように形成してもよい。
【0086】
(6)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10における立ち上がり板部14、16の上方接触部14a、16aや立ち下がり板部202の下方接触部202aを湾曲形状を備えるように形成したが、これに限られるものではないことは勿論である。導電性シールドにおける立ち上がり板部の上方接触部や立ち下がり板部の下方接触部は、例えば、屈曲したように形成したもよく、設計条件などに応じて弾性変形可能な任意の形状とするようにしてもよい。
【0087】
(7)上記した各実施の形態においては、櫛歯14aa、16aa、202aaの間隔S(図1ならびに図6を参照する。)や幅W(図1ならびに図6を参照する。)についての詳細な説明は省略したが、櫛歯14aa、16aa、202aaの間隔Sや幅Wは、設計条件などに応じて適宜の値に設定してよい。間隔Sや幅Wは、例えば、櫛歯と導電性蓋部の内面や導電性筐体の底部側との接触状態に応じて適宜の値に設定すればよい。具体的には、櫛歯の弾性変形量に応じて、櫛歯の弾性変形量が多い場合には間隔Sと幅Wとを短くし、一方、櫛歯の弾性変形量が少ない場合には間隔Sと幅Wとを長くするなどする。また、マイクロ波帯の周波数に応じて、周波数が高い場合には間隔Sと幅Wとを短くし、一方、周波数が低い場合には間隔Sと幅Wとを長くするなどする。
【0088】
(8)上記した各実施の形態においては、スペーサ114を用いて導電性筐体102における導電性シールド10を配置する上下方向の位置調整を行うようにしたが、これに限られるものではないことは勿論である。スペーサに代えて、例えば、シムなどのその他の位置調整手段を用いるようにしてもよい。
【0089】
(9)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10、底板部12、立ち上がり板部14、16、上方接触部14a、16a、立ち下がり板部202あるいは下方接触部202aの寸法についての詳細な説明は省略したが、これらの寸法は、マイクロ波回路素子を構成する導電性筐体の大きさやマイクロ波帯の周波数などの設計条件などに応じて、適宜の寸法に設定すればよい。
【0090】
(10)上記した各実施の形態においては、導電性シールド10の底板部12と立ち上がり板部14、16とは、例えば、金属プレス加工などにより一体的に形成されるものと説明したが、これに限られるものではないことは勿論である。底板部12と立ち上がり板部14、16とは、例えば、溶接により一体化してもよい。
【0091】
(11)上記した各実施の形態においては、マイクロ波回路素子として、マイクロ波増幅回路パターンを構成する要素としてマイクロ波能動素子108を備えたマイクロ波増幅器100について説明したが、これに限られるものではないことは勿論である。本発明は、マイクロ波能動素子やマイクロ波受動素子などの各種の素子を実装した各種のマイクロ波回路素子に適用することができる。
【0092】
(12)上記した各実施の形態においては詳細な説明は省略したが、ネジ116により導電性シールド10を導電性筐体102底部102b側に固定する際に、ネジ116により導電性シールド10とともにマイクロ波能動素子108を導電性筐体102の底部102b側に固定するようにしてもよい。
【0093】
(13)上記した各実施の形態においては詳細な説明は省略したが、マイクロ波回路素子を構成するマイクロ波回路パターンを構築するマイクロ波能動素子108は、導電性筐体102の底部102b側にネジ116で直接取り付ける可能なフランジ部を備えるタイプのものに限られるものではなく、基板搭載型のマイクロ波能動素子であってもよいことは勿論である。
【0094】
(14)上記した各実施の形態ならびに上記した(1)乃至(13)に示す各実施の形態や変形例は、適宜に組み合わせるようにしてもよいことは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、マイクロ波回路素子内に構成される空間による回路動作への影響を軽減しようとする際に利用することができる。
【符号の説明】
【0096】
10 導電性シールド
12 底板部
12a 側部
12b 側部
12c 側部
12d 側部
14 立ち上がり板部
14a 上方接触部
14aa 櫛歯
16 立ち上がり板部
16a 上方接触部
16aa 櫛歯
20 孔部
22 孔部
100 マイクロ波増幅器
102 導電性筐体
102a 開口部
102b 底部
104 導電性蓋部
104a 内面
104aa 凹部
106 誘電体基板
108 マイクロ波能動素子
110 入出力端子
112 入出力端子
114 スペーサ
116 ネジ
200 導電性シールド
202 立ち下がり板部
202a 下方接触部
202aa 櫛歯
300 従来のシールド板
302 従来の金属セパレータ
S 櫛歯の間隔
W 櫛歯の幅
G 間隙
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7