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特開2020-138189ガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層
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  • 特開2020138189-ガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層 図000003
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-138189(P2020-138189A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】ガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20200807BHJP
   B05D 1/36 20060101ALI20200807BHJP
   C09D 183/14 20060101ALI20200807BHJP
   C08J 7/04 20200101ALI20200807BHJP
【FI】
   B05D7/24 302A
   B05D1/36 Z
   B05D7/24 302Y
   B05D7/24 303B
   C09D183/14
   C08J7/04 KCER
   C08J7/04CEZ
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-140625(P2019-140625)
(22)【出願日】2019年7月31日
(62)【分割の表示】特願2019-34863(P2019-34863)の分割
【原出願日】2019年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】508022816
【氏名又は名称】アーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001885
【氏名又は名称】特許業務法人IPRコンサルタント
(72)【発明者】
【氏名】笹川 透
(72)【発明者】
【氏名】名取 孝司
【テーマコード(参考)】
4D075
4F006
4J038
【Fターム(参考)】
4D075AE05
4D075BB16X
4D075CA02
4D075CA03
4D075CA04
4D075CA13
4D075DA06
4D075DB01
4D075DB13
4D075DB16
4D075DB18
4D075DB21
4D075DB31
4D075DB35
4D075DC24
4D075DC31
4D075DC38
4D075EA06
4D075EA07
4D075EB42
4D075EB43
4D075EC03
4D075EC10
4D075EC37
4F006AA01
4F006AA04
4F006AA11
4F006AA31
4F006AB39
4F006AB67
4F006BA02
4F006CA05
4F006DA04
4J038DL161
4J038MA07
4J038MA09
4J038NA11
4J038NA12
4J038PC02
4J038PC03
4J038PC06
4J038PC07
4J038PC08
4J038PC10
(57)【要約】      (修正有)
【課題】プラスチック成形品、金属成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木工品及び紙製品等の物品(なかでも特にガラス成形品)の表面に優れた耐衝撃変形性等の特性を付与し得るガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層の提供。
【解決手段】(1)ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌し、有機溶媒中の水分と、ポリシラザン及びケイ酸塩とを反応させ、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を得る工程、(2)前処理液に、更にポリシラザンを混合して、コーティング組成物を得る工程、並びに、(3)コーティング組成物を被塗布物に複数回塗布して石垣構造を有するガラスコーティング層を形成する工程、を含むガラスコーティング層形成方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌し、前記有機溶媒中の水分と、前記ポリシラザン及び前記ケイ酸塩とを反応させ、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を得る工程、
(2)前記前処理液に、更に前記ポリシラザンを混合して、コーティング組成物を得る工程、並びに、
(3)前記コーティング組成物を被塗布物に複数回塗布して石垣構造を有するガラスコーティング層を形成する工程、
を含むこと、
を特徴とするガラスコーティング層形成方法。
【請求項2】
前記ポリシラザンが有機ポリシラザン及び無機ポリシラザンを含むこと、
を特徴とする請求項1に記載のガラスコーティング層形成方法。
【請求項3】
前記工程(1)及び/又は前記工程(2)において、更に触媒を混合すること、
を特徴とする請求項1又は2に記載のガラスコーティング層形成方法。
【請求項4】
前記触媒がPd触媒であること、
を特徴とする請求項1〜3のうちのいずれかに記載のガラスコーティング層形成方法。
【請求項5】
前記被塗布物の被塗布面が、プラスチック、金属、ガラス、ゴム、樹脂、革、木又は紙で構成されていること、
を特徴とする請求項1〜4のうちのいずれかに記載のガラスコーティング層形成方法。
【請求項6】
請求項1〜5のうちのいずれかのガラスコーティング層形成方法によって形成されるガラスコーティング層であって、
石垣構造を有することを特徴とするガラスコーティング層。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種物品(被塗布物)の表面改質に有用であるガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層に関する。
【背景技術】
【0002】
私たちの身の回りにおいては、従来から、樹脂成形品、金属成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木工品及び紙製品等、種々の材質の表面を有する物品が多量に使用されている。
【0003】
これらの物品において、樹脂成形品は、成形容易性、着色容易性、電気絶縁性及び耐候性等の各種物性に優れているという利点があるが、金属成形品やガラス成形品等に比較して表面が本質的に柔らかく、表面耐擦傷性やガスバリヤー性が劣ることがある。
【0004】
また、金属成形品やガラス成形品にあっては、表面耐擦傷性やガスバリヤー性に優れるが、地面に落としたり、硬いものにぶつけたりした場合、金属成形品は凹んだりし、また、ガラス成形品はヒビが入ったり割れたりすることがある。
【0005】
これ対し、例えば特許文献1では、「基材上にシランカップリング剤を下塗りして固体膜を形成させたのち、この上にポリシラザン含有液の層を形成し、シリカ転化反応させる、シリカ膜被覆成形体の製造法。」が、特許文献2では、「ポリシラザンとポリスチレンの混合溶液を樹脂成形体の表面に塗布するか、又は樹脂成形体をポリシラザンとポリスチレンの混合溶液に浸漬し、大気中で乾燥するようにしたことを特徴とする親水性シリカ膜樹脂成形品の製造方法。」が提案されている。
【0006】
また、ポリシラザン塗料を用いる方法では、被膜形成に高温を要し、耐熱性の低いプラスチック成形品には適用が困難であるということから、特許文献3においては、「ポリ(アルキル)化シラザン化合物とペルヒドロポリシラザンとを、これら2者の合計として1〜40質量%の濃度で不活性有機溶剤中に溶解してなることを特徴とするコーティング液。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−183016号公報
【特許文献2】特開2006−89674号公報
【特許文献3】特許第4767317号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献3のコーティング剤を用いて鉄板やアクリル板の表面にコーティング層を形成した場合、当該コーティング層は十分な硬度を有し、曲げ剥離性、衝撃変形性及び成膜性に優れるものの、落下させた場合にはコーティング層が破壊されることがある。
【0009】
また、特に昨今、広く普及しているスマートフォン等の携帯端末は、ディスプレイ(表示部)がガラス板で構成されているため、落下したりぶつけたりした場合に、ディスプレイにヒビが入ったり割れたりすることが多発しているが、上記特許文献3のコーティング剤を用いてガラス板の表面にコーティング層を形成しても、十分には抑制できない。
【0010】
そこで、本発明の目的は、プラスチック成形品、金属成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木工品及び紙製品等の物品(なかでも特にガラス成形品)の表面に優れた耐衝撃変形性等の特性を付与し得るガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決すべく、本発明は、
(1)ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌し、前記有機溶媒中の水分と、前記ポリシラザン及び前記ケイ酸塩とを反応させ、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を得る工程、
(2)前記前処理液に、更に前記ポリシラザンを混合して、コーティング組成物を得る工程、
(3)前記コーティング組成物を被塗布物に複数回塗布して石垣構造を有するガラスコーティング層を形成する工程、
を含むこと、
を特徴とするガラスコーティング層形成方法、を提供する。
【0012】
上記本発明のガラスコーティング層形成方法においては、前記ポリシラザンが有機ポリシラザン及び無機ポリシラザンを含むこと、が好ましい。
【0013】
また、上記本発明のガラスコーティング層形成方法においては、前記工程(1)及び/又は前記工程(2)において、更に触媒を混合すること、が好ましい。
【0014】
また、上記本発明のガラスコーティング層形成方法においては、前記触媒がPd触媒であること、が好ましい。
【0015】
また、上記本発明のガラスコーティング層形成方法においては、前記被塗布物のうちの被塗布面が、プラスチック、金属、ガラス、ゴム、樹脂、革、木又は紙で構成されていること、が好ましい。
【0016】
更に本発明は、上記本発明のガラスコーティング層形成方法によって形成されるガラスコーティング層であって、石垣構造を有することを特徴とするガラスコーティング層をも提供する。
【発明の効果】
【0017】
本発明のガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層によれば、プラスチック成形品、金属成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木工品及び紙製品等の物品(なかでも特にガラス成形品)の表面に優れた耐衝撃変形性等の特性を付与できる。
【0018】
また、本発明のガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層によれば、使用時に他の添加剤や薬液を混合させる必要が無く、各種成形品表面に常温下・短時間でガラスコーティング層を形成できる。更に、本発明のガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層においては、幾重にも重ね塗りをすることができ、各種成形品表面に1〜10μm以上のガラスコーティング層を形成して屈曲させても、剥離せず耐剥離性にも優れる。加えて、鉛筆硬度で6〜9H或いはそれ以上のガラスコーティング層が得られ、優れた成膜性、可撓性、耐衝撃性及び密着性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例におけるガラスコーティング層の断面の透過電子顕微鏡(TEM)像である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下において、本発明の一実施形態に係るガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層について説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0021】
1.ガラスコーティング層形成方法
本実施形態のガラスコーティング層形成方法は、(1)ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌し、前記有機溶媒中の水分と、前記ポリシラザン及び前記ケイ酸塩とを反応させ、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を得る第一工程、(2)前記前処理液に、更に前記ポリシラザンを混合して、コーティング組成物と得る第二工程、並びに、(3)前記コーティング組成物を被塗布物に回塗布して石垣構造を有するガラスコーティング層を形成する第三工程、を含むこと、を特徴とする。
【0022】
(1)第一工程
まず、第一の工程において、ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌し、前記有機溶媒中の水分と、前記ポリシラザン及び前記ケイ酸塩とを反応させ、ガスの発生が止まるまで攪拌を継続し、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を得る。混合は従来公知の方法により行えばよく、常温(例えば15〜30℃、好ましくは20〜25℃)及び大気圧の環境下で混合すればよい。
【0023】
本発明者は、ポリシラザンと、ケイ酸塩と、有機溶媒とを混合及び攪拌すれば、有機溶媒に含まれる水分が、ポリシラザン及びケイ酸塩と反応し、コロイド状シリカ微粒子が形成されることを見出し、後述する第二工程及び第三工程を経れば、従来に無い構造及び特性を有するガラスコーティング層を形成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0024】
(A)ポリシラザン
ポリシラザンとしては、下記のような有機ポリシラザン及び/又は無機ポリシラザンを使用することができる。
【0025】
・有機ポリシラザン
本発明における有機ポリシラザンは、例えば下記式(1):
―(SiRNR− ・・・(1)
(式中、R、R及びRは、それぞれ独立して水素原子、アルキル基又はビニル基であり、R、R及びRが全て水素原子である場合を除く。nは正の整数)
で示される単位からなる主骨格を有する化合物である。
【0026】
式(1)で示される単位からなる主骨格を有する有機ポリシラザンの例としては、R及びRがそれぞれ独立して水素原子又はメチル基であり、Rが水素原子又はトリ(C1−6アルコキシ)シリルC2−6アルキル基、例えば3−(トリC1−6アルコキシシリル)プロピル基である、式(1)で示される単位からなる主骨格を有する化合物が挙げられる。
【0027】
式(1)における(R、R、R)の具体的な組合せの例としては、(R、R、R)が、(メチル基、水素原子、水素原子)、(メチル基、メチル基、水素原子)、(メチル基、メチル基、メチル基)、(メチル基、メチル基、3−(トリエトキシシリル)プロピル基)、(水素原子、メチル、3−(トリエトキシシリル)プロピル基)等である組合せが挙げられる。
【0028】
また、有機ポリジシラザンは同じ繰り返し単位からなるものであってもよく、異なる繰り返し単位を含んでいてもよい。
【0029】
有機ポリシラザンは溶媒に可溶であるか、又は溶媒中に均一に分散可能であるものを使用することができる。また、使用する有機ポリシラザン(A)の数平均分子量は、好ましくは100〜50000であるもの、より好ましくは数平均分子量が300〜10000である。
【0030】
更に、有機ポリシラザンには、通常鎖状、環状、又は架橋構造を有するもの、或いは分子内にこれらの複数の構造を同時に有するものがあり、本発明においては、これらのいずれであっても使用でき、それぞれ単独で又は任意に組み合わせて使用できる。
【0031】
有機ポリシラザンの例としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、オクタメチルシラザン、シクロテトラシラザン及びテトラメチルジシラザンから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらは市場から入手して使用することができる。特に好ましいのは信越化学工業(株)からHMDS3の商品名で入手できるヘキサメチルジシラザンである。
【0032】
また、登録商標「トレスマイル」の商品名で、商品番号HTA1500系等などで、サンワ化学(株)から市販されており、この商品も有機溶剤溶液として入手して使用することができる。
【0033】
・無機ポリシラザン
本発明においては、上記有機ポリシラザンとともに、下記式(2):
―(SiHNH)− ・・・(2)
で示される単位からなる主骨格を有する化合物である無機ポリシラザン、即ちパーヒドロポリシラザンを使用することが好ましい。
【0034】
無機ポリシラザンは、珪素、窒素及び水素のみから構成される化合物であり、炭素等の有機成分を含まない無機のポリマーであり、その例としては、例えば、登録商標「アクアミカ」の商品名で、商品番号NN110、NN310、NL110A、NL120A、NL150A、NL160A、NP110、NP140、SP140、UP140等で、AZエレクトロニックマテリアルズ(株)から市販されており、これらの商品は各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。特に好ましいものはジブチルエーテルの溶液となっている商品番号NL120Aである。
【0035】
また、登録商標「トレスマイル」の商品名で、商品番号ANN100系、ANAX系、ANP140系、ANP300系等などで、サンワ化学(株)から市販されており、これらの商品も各種の固形分濃度の有機溶剤溶液として入手して使用することができる。
【0036】
(B)ケイ酸塩
ケイ酸塩(シリケート)は、それ自身が水分と加水分解するとともにポリシロキサンとも反応してコロイド状シリカ微粒子の形成を促進する役割を果たす。かかるケイ酸塩としては、いわゆるアルコキシシラン(いわゆる無機系バインダ)を使用することができる。
【0037】
例えば、上記アルコキシシランは、3〜4個のアルコキシ基がケイ素に結合した化合物であって、水に溶解させると、重合して−OSiO−で繋がれた高分子量SiO体になるものを使用できる。
【0038】
上記アルコキシシランとしては、テトラアルコキシシラン、トリアルコキシシラン、ジアルコキシシラン及びアルコキシシランオリゴマーからなる群から選ばれる少なくとも1種の多官能アルコキシシランを含むものを使用できる。アルコキシシランオリゴマーとは、アルコキシシランのモノマー同士が縮合することで形成される高分子量化されたアルコキシシランであり、シロキサン結合(−OSiO−)を1分子内に2個以上有するオリゴマーのことをいう。
【0039】
上記テトラアルコキシシランの例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラiso−プロポキシシラン、テトラt−ブトキシシラン等の炭素数1〜4のアルコキシ基でテトラ置換されたシランが挙げられる。具体的には、コルコート社製の「エチルシリケート28(分子量208)」等が挙げられる。
【0040】
上記トリアルコキシシランの例としては、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、トリプロポキシシラン、トリブトキシシラン、トリiso−プロポキシシラン、トリL−ブトキシシラン等の炭素数1〜4のアルコキシ基でトリ置換されたシラン、「KBM−13(メチルトリメトキシシラン)」、「KBE−13(メチルトリエトキシシラン)」等の一部がアルキル基で置換されたシランが挙げられる。
【0041】
上記ジアルコキシシランの例としては、ジメチルジメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン等の炭素数1〜4のアルコキシ基でジ置換されたシラン、「KBM−22(ジメチルジメトキシシラン)」、「KBE−22(ジメチルジエトキシシラン)」等の一部がアルキル基で置換されたシランが挙げられる。
【0042】
更に、上記アルコキシシラン低分子オリゴマーの例としては、アルコキシシリル基単独、または有機基とアルコキシシリル基を併せ持つ比較的低分子のアルコキシシランオリゴマーが挙げられる。具体的には、コルコート社製の「メチルシリケート51(分子量470)」、「エチルシリケート40(分子量745)」、信越化学社製の「X−40−2308(分子量683)」等が挙げられる。
【0043】
上記アルコキシシランの具体例のうち、より高い硬度のガラスコーティング層を形成するためには、テトラアルコキシラン、テトラアルコキシシラン及びトリアルコキシシランの併用、一部がアルキル基で置換されたトリアルコキシシランやジアルコキシシラン、官能基がアルコキシシリル基であるアルコキシシランオリゴマーが好ましい。これらを用いることにより、バインダ分子間のシロキサン結合を促進させた3次元架橋によりガラスコーティング層の硬度が強くなり、経時変化によって亀裂が発生するような危険性をより一層無くし、かつ被塗布面の密着性をより高めることができる。
【0044】
(C)有機溶媒
本発明における前処理液は、上記ポリシラザン(A)及び上記ケイ酸塩(B)とともに有機溶媒を含んでいる。かかる有機溶媒としては、上記有機ポリシラザン(A)及び上記無機ポリシラザン(B)に対して不活性な有機溶媒であれば特に限定されない。
【0045】
プラスチック成形品などの表面に対する適度の膨潤性、揮発性、環境衛生等の観点からは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール等が挙げられる。また、エーテル系有機溶剤、例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル及びリモネンから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。本発明者は、第一工程ではイソプロピルアルコールが好適であることを実験的に見出している。
【0046】
(D)触媒
また、上記前処理液は、低温乃至は常温での硬化促進のための触媒を含めることができる。触媒の種類や量により低温で硬化でき、場合によっては常温(例えば15〜30℃、好ましくは20〜25℃)でも硬化ができる。触媒を含み、この触媒は、溶液の形態であるのがよく、塩基触媒及び金属触媒等が挙げられる。
【0047】
塩基触媒としては、例えば、アミン類(モノアルキルアミン、ジアルキルアミン、トリアルキルアミン、ジエチルプロピルアミン、モノアリールアミン、ジアリールアミン、環状アミン等)及び含窒素ヘテロ環類(2,6−ルチジン、4−メチルモルホリン等)等が挙げられる。
【0048】
また、金属触媒としては、例えば、ニッケル、スズ、チタン、白金、ロジウム、コバルト、鉄、ルテニウム、オスミウム、パラジウム、イリジウム又はアルミニウムを含む化合物等が挙げられる。なかでも、本発明者はパラジウムを含む塩化パラジウム水溶液等が好適であることを実験的に見出している。
【0049】
なお、上記前処理液における各成分の濃度(配合割合)は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよいが、例えば有機ポリシラザンを20〜40cc、無機ポリシラザンを40〜60cc、イソプロピルアルコールを含むシリケート28を300〜500ccであればよい。
【0050】
(2)第二工程
次に、上記のようにして得たコロイド状シリカ微粒子を含む前処理液に、更に前記ポリシラザンを混合して、コーティング組成物と得る。混合は従来公知の方法により行えばよく、常温(例えば15〜30℃、好ましくは20〜25℃)及び大気圧の環境下で混合すればよい。
【0051】
このときに混合されるポリシラザンは、ガラスコーティング層形成時に、上記前処理液中のコロイド状シリカ微粒子が大きいガラス粒子を形成するが、そのガラス粒子の間を埋めてかつ結合する役割を果たすと、本発明者は推測している。
【0052】
当該コーティング組成物は、上記の有機溶媒及び上記の触媒を含んでいるのが好ましいことを、本発明者は実験的に見出している。特に、本発明者は、第二工程ではt−ブチルエーテル及びパラジウム触媒が好適であることを実験的に見出している。
【0053】
なお、上記コーティング組成物における各成分の濃度(配合割合)は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜決定すればよいが、例えば上記のようにして得た前処理液に、ジブチルエーテルを3〜4リットル、有機ポリシラザンを200〜300cc、無機ポリシラザンを20〜40cc、塩化パラジウム触媒の20%ジブチルエーテル溶液を3〜6ccであればよい。
【0054】
なお、得られたコーティング組成物について、粘度が高いと、得られるガラスコーティング層の強度が上がり、粘度が低いと、得られるガラスコーティング層の強度が下がる傾向にある。
【0055】
(3)第三工程
そして、前記コーティング組成物を被塗布物に塗布して石垣構造を有するガラスコーティング層を形成する。塗布回数は1回でも複数回でもよいが、高い硬度及び強度とともに、緩衝性及び柔軟性を有するガラスコーティング層を形成するためには、可能な限り均質に複数回塗布するのが好ましい。
【0056】
本発明者は、第一工程で調製した前処理液中のコロイド状シリカ微粒子が硬化する速度及び硬度と、第二工程で追加したポリシラザンが硬化する速度及び硬度と、を利用し、コロイド状シリカ微粒子からなる石部分と、複数の石部分の間を埋めつつ結合させるポリシラザンからなる目地部分と、によって、相対的に硬い部分と柔らかい部分が混在する石垣構造を有するコーティング層が反応生成物として形成されると推測している。
【0057】
この石垣構造においては、異なる形態のガラスシリカが複合化しており、いわば複合化コーティング層が形成されているともいえる。そして、相対的に硬い部分と柔らかい部分とが混在して互いに緩衝し合う関係にあるため、得られたガラスコーティング層を表面に有する被塗布物は、例えばガラス板であっても、落下させたりぶつけたりしても、ヒビが入ったり割れたりすることがない。
【0058】
なお、塗布の対象となる物品(被塗布物品)は、特に制限がなく、種々の物品を使用することができる。そして、塗布の対象となる表面(被処理表面)は、プラスチック、金属、ガラス、ゴム、樹脂、革、木又は紙のいずれによって構成されていてもよい。また、上記の物品や表面の形状についても特に制限はない。なかでも、本発明者は、スマートフォン等の携帯端末においてガラス板からなるディスプレイ(表示部)の表面が、被処理表面として特に好適であることを実験的に見出している。
【0059】
上記のコーティング組成物の塗布方法は特に限定されず、被塗布物品や被処理表面の形状に適した塗布方法、例えば、ハンドコート(手塗り)法、スプレー法、ディッピング法、刷毛塗り法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ法、インクジェット法等が挙げられる。
【0060】
従来と異なり、上記のとおり硬化速度の観点から、ハンドコート法を使用でき、例えば、高価は被塗布物品や複雑な形状の被処理表面であっても、容易に均一なコーティング層を形成することができる。
【0061】
塗布量についても特に限定されないが、被塗布物品に要求される表面性能に対応して塗布量を決定すればよい。一般的には、固形分換算にて0.1〜100g/mであり、好ましくは1〜20g/mである。塗布量が0.1g/m以上であると充分な特性を有するコーティング層を形成でき、塗布量が100g/m以下であると、コーティング層の透明性を確実に維持でき、被塗布物品及び被処理表面のデザインを損なわないで済む。
【0062】
本発明のガラスコーティング層形成方法の顕著な特徴は、上記のようにコーティング組成物を塗布した後に、硬化のために特別の加熱を必要としないことである。塗布層を加熱することによってコーティング層の形成が促進されるが、被塗布物品や被処理表面に影響を及ぼす可能性があるため好ましくないため、静置しておくのが好ましい。
【0063】
静置による硬化は、コーティング組成物の有機溶媒の蒸発とともに、空気中の水分の吸収による水との反応であり、静置後の硬化速度は、例えば、2時間で指触乾燥し2〜3日程度で鉛筆硬度6〜9H又はそれ以上の硬度を有する膜となる。
【実施例】
【0064】
<調製>
(1)有機ポリシラザンとしてのヘキサメチルジシラザン(信越化学工業(株)製、商品名HMDS3)のジブチルエーテル10%溶液を50ccと、無機ポリシラザンとしてのペルヒドロポリシラザンのジブチルエーテル10%溶液(商品名アクアミカNL120A、クラリアントジャパン(株)製の希釈品)を30ccと、コルコート社製のイソプロピルアルコールを含むエチルシリケート28を400ccとを、混合して10分間攪拌した。これにより、コロイド状シリカ微粒子を含む前処理液を調製した。コロイド状シリカ微粒子が形成されていることは電子顕微鏡により確認した。
【0065】
(2)次に、上記の前処理液に、ジブチルエーテルを4リットルと、同じ有機ポリシラザンを200cc及び無機ポリシラザンと30ccと、塩化パラジウムの20%ジブチルエーテル溶液を5ccとを、混合して、分散液状のコーティング組成物を調製した。
【0066】
(3)使用済みのスマートフォンである米アップル社製のiPhone4(登録商標)を17台準備し、そのディスプレイに、上記のようにして調製したコーティング組成物を、不織布を用いてハンドコート法で塗布した。具体的には、室温(20℃)及び大気圧の環境下、コーティング組成物を浸した不織布で、ディスプレイ全体を左右略円状に擦って塗布し、これを繰り返して、数gのコーティング組成物を塗布して、2日間静置して乾燥・硬化させて、ガラスコーティング層を形成した。ついで、下記の評価試験を行った。
【0067】
<評価試験>
(1)表面硬度(H)
得られたガラスコーティング層の表面硬度をJIS規定による鉛筆硬度として測定した。表面硬度は9Hであった。
(2)落下試験
ガラスコーティング層を形成したiPhone4(登録商標)を、高さ1mの位置からコンクリート製の地面に落下させ、ディスプレイにクラックやヒビが入ったり、割れたりしないか、耐落下特性を目視により観察した。クラックやヒビ、割れは一切見受けられなかった。
(3)耐衝撃変形性
ガラスコーティング層を形成したディスプレイに対し、デュポン衝撃変形試験を実施し、ディスプレイにクラックやヒビが入ったり、割れたりしないかを目視により観察した。クラックやヒビ、割れは一切見受けられなかった。
(4)成膜性
透明性を有する平滑なガラスコーティング層が形成されているか否か、成膜性を目視により観察した。良好な膜(ガラスコーティング層)が形成されていた。
(5)構造観察
上記のようにして形成したガラスコーティング層について、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、FEI Technai G2、F30(300kV)、Gatan Enfina使用、ビーム集束径0.7nmの条件で、断面構造を観察した。その結果を図1に示した。なお、スケールバーの寸法は200nmである。
【0068】
上記の結果から、本発明のガラスコーティング層形成方法によれば、十分な硬度を有し、耐落下特性、耐衝撃変形性及び成膜性に優れるガラスコーティング層が得られ、かつ、特にスマートフォン等の携帯端末におけるガラス製ディスプレイ(表示部)の対落下性及び衝撃変形性に効果的であることがわかった。
【0069】
また、図1に示すように、コロイド状シリカ微粒子からなる部分(石部分)と、その間を埋めるガラスシリカからなる部分(目地部分)と、複合化した石垣のような構造が形成されており、いわゆる複合化コーティング層ともいえるガラスコーティング層が形成されていることが認められた。これに起因して、ガラス製ディスプレイの耐落下特性及び耐衝撃変形性が向上するものと推認される。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のガラスコーティング層形成方法及びこれにより得られるガラスコーティング層は、プラスチック成形品、金属成形品、ガラス成形品、ゴム成形品、革成形品、木工品及び紙製品等の物品(なかでも特にガラス成形品)の表面に優れた耐衝撃変形性等の特性を付与できる。


図1