【解決手段】本発明は、繊維強化プラスチック製であって動力伝達軸101に用いられる管体102の製造方法であって、軸方向に延在する基材2を複数製造する基材製造工程と、複数の基材2を組み合わせて筒体12を製造する筒体製造工程と、筒体12の外周面に樹脂を含浸した連続繊維を巻き付ける巻き付け工程と、を備えることを特徴とする。
前記基材製造工程は、プレス成形又はRTM成形により前記基材を製造することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の動力伝達軸に用いられる管体の製造方法。
前記巻き付け工程における巻き付け方法は、フィラメントワインディング法又はシートワインディング法であることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の動力伝達軸に用いられる管体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、各実施形態における動力伝達軸に用いられる管体の製造方法について、図面を参照しながら説明する。各実施形態で共通する技術的要素には、共通の符号を付し、説明を省略する。最初に各製造方法で製造される管体を備えた動力伝達軸について説明する。
【0010】
[動力伝達軸]
図1に示すように、動力伝達軸101は、FF(Front−engine Front−drive)ベースの四輪駆動車に搭載されるプロペラシャフトである。
動力伝達軸101は、車両の前後方向に延在する略円筒状の管体102と、管体102の前端に接合するカルダンジョイントのスタブヨーク103と、管体102の後端に接合する等速ジョイントのスタブシャフト104と、を備えている。
スタブヨーク103は、車体の前部に搭載された変速機と管体102とを連結する連結部材である。スタブシャフト104は、車体の後部に搭載された終減速装置と管体102とを連結する連結部材である。
動力伝達軸101は、変速機から動力(トルク)が伝達されると軸線O1回りに回転し、その動力を終減速装置に伝達する。
【0011】
管体102は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)により形成されている。
管体102の内部において、軸線O1回りに巻回された繊維からなる繊維層と、軸線O1方向に延在する繊維からなる繊維層と、が積層している。このため、管体102は、機械的強度が高く、かつ、軸線O1方向に高弾性化している。
また、周方向に配向する繊維としてPAN系(Polyacrylonitrile)繊維が好ましく、軸線O1方向に配向する繊維としてピッチ繊維が好ましい。
なお、本発明の管体102において繊維強化プラスチックに使用される強化繊維は、炭素繊維に限られず、ガラス繊維やアラミド繊維であってもよい。
管体102は、本体部110と、本体部110の前側に配置された第一接続部120と、本体部110の後側に配置された第二接続部130と、本体部110と第二接続部130との間に位置する傾斜部140と、を備えている。
【0012】
なお、
図2以降の図面においては、管体102の形状を分かり易くするため、管体102の形状を誇張して描写している。
図2に示すように、本体部110の前端部111には、第一接続部120が連続し、本体部110の後端部112には、傾斜部140が連続している。
【0013】
軸線O1を法線とする平面で本体部110を切った場合、本体部110の外周面114の断面形状及び内周面115の断面形状は、円形状となっている。
【0014】
本体部110の外径は、中央部113から両端部(前端部111及び後端部112)に向うに連れて縮径しており、中央部113の外径R1は、両端部(前端部111及び後端部112)の外径R2よりも大きい。
軸線O1に沿って本体部110を切った場合、本体部110の外周面114の断面形状及び内周面115の断面形状は、緩やかな曲線を描き、中央部113が外側に向けて突出する円弧状となっている。よって、本体部110の外形は、中央部113が径方向外側に膨らむ樽形状(バレル形状)となっている。
また、本体部110の内径も、本体部110の中央部113から両端部(前端部111及び後端部112)に向うに連れて縮径している。
また、その断面形状において、本体部110の板厚は、両端部(前端部111及び後端部112)から中央部113に向うに連れて薄くなっており、中央部113の板厚T1は、両端部(前端部111及び後端部112)の板厚T2よりも薄い。
【0015】
図1に示すように、第一接続部120内には、スタブヨーク103のシャフト部103aが嵌め込まれている。シャフト部103aの外周面は、多角形状に形成されている。第一接続部120の内周面は、シャフト部103aの外周面に倣った多角形状に形成されている。このため、スタブヨーク103と管体102が互いに相対回転しないように構成されている。
第二接続部130内には、スタブシャフト104のシャフト部104aが嵌め込まれている。スタブシャフト104のシャフト部104aの外周面は、多角形状に形成されている。第二接続部130の内周面は、スタブシャフト104のシャフト部104aの外周面に倣った多角形状に形成されている。このため、管体102とスタブシャフト104とが互いに相対回転しないように構成されている。
【0016】
傾斜部140の外径は、本体部110から第二接続部130に向かうに連れて次第に縮径し、円錐台形状となっている。傾斜部140の板厚は、第二接続部130側(後側)の端部から本体部110側(前側)の端部に向かうに連れて漸次薄くなっている。このため、傾斜部140のうち前端部の板厚が最も薄く、脆弱部を構成している。
よって、車両が前方から衝突されて管体102に衝突荷重が入力すると、軸線O1に対して傾斜する傾斜部140にせん断力が作用する。そして、傾斜部140に作用するせん断力が所定値を超えると、傾斜部140の前端部(脆弱部)が破損する。このため、車両衝突時、車体の前部に搭載されたエンジンや変速機は速やかに後退し、衝突エネルギーは車体の前部により吸収される。
【0017】
上記管体102において、
図2に示すように、曲げ応力が集中し易い本体部110の中央部113は、外径R1が大径に形成され、所定の曲げ強度を有している。一方で、曲げ応力が集中し難い本体部110の両端部(前端部111及び後端部112)は、外径R2が小径に形成され、軽量化している。また、本体部110の中央部113は、板厚T1が薄く軽量化している。よって、管体102は、中央部113の所定の曲げ剛性を確保しつつ本体部110が軽量化しており、曲げ一次共振点が向上している。
【0018】
[第一実施形態]
図3に示すように、第一実施形態における動力伝達軸101に用いられる管体102の製造方法は、複数の基材2を製造する基材製造工程(ステップS1)と、筒体12を製造する筒体製造工程(ステップS2)と、連続繊維を巻き付ける巻き付け工程(ステップS3)と、樹脂を硬化させる硬化工程(ステップS4)と、を備えている。
【0019】
(基材製造工程)
第一実施形態の基材製造工程は、
図4に示すように、一対の金型(
図4においては一方の下型1のみ図示)で、内部に強化繊維が配置された繊維強化樹脂板をプレス成形し、基材2を製造する。
本実施形態における繊維強化樹脂板の樹脂は、熱可塑性樹脂であり、繊維強化樹脂板を加熱して樹脂が溶融した状態にしてからプレス成形を行う。
【0020】
本工程で製造される基材2は、一方向に長い部品であり、長手方向の一端から他端に向って順に、第一接続部用基部3、本体部用基部4、傾斜部用基部5、並びに第二接続部用基部6が形成されている。
【0021】
第一接続部用基部3、本体部用基部4、傾斜部用基部5、並びに第二接続部用基部6を軸線O1を法線とする平面で切った断面形状は、それぞれ半円弧状に形成されている。
第一接続部用基部3は、管体102の第一接続部120の内周部となる部位である。本体部用基部4は、本体部110の内周部となる部位である。傾斜部用基部5は、傾斜部140の内周部となる部位である。第二接続部用基部6は、第二接続部130の内周部となる部位である。
また、第一接続部用基部3、本体部用基部4、傾斜部用基部5、並びに第二接続部用基部6の各部位の厚みは、一定に形成されている。
【0022】
(筒体製造工程)
第一実施形態の筒体製造工程は、
図5に示すように、2つの基材2の合わせ面7同士を接着剤により接着させて筒状の筒体12を製造する。
本工程で製造される筒体12は、一端側から他端側に向って順に、第一接続部用筒部13、本体部用筒部14、傾斜部用筒部15、並びに第二接続部用筒部16を備えている。
第一接続部用筒部13は、円筒状となっている。本体部用筒部14は、いわゆる樽形状(バレル形状)となっている。傾斜部用筒部15は、円錐台状となっている。第二接続部用筒部16は、円筒状となっている。
【0023】
(巻き付け工程)
第一実施形態の巻き付け工程は、
図6に示すように、フィラメントワインディング法により筒体12に樹脂を含浸した強化繊維21を巻き付ける。これにより、筒体12の外周側には、管体102の外周部を構成する強化繊維層が形成される。
本工程で使用するワインディング装置20は、強化繊維21を構成するストランドがそれぞれ巻回された複数のボビン22と、溶融した熱可塑性樹脂を貯留する樹脂含浸部23と、集約部24と、移動供給部25と、筒体12を回転させる回転装置26と、を備えている。
【0024】
複数のボビン22からストランドを引き出し、そのストランドを樹脂含浸部23で熱可塑性樹脂に含浸処理する。次いで、複数のストランドを集約部24で集約し、1本の強化繊維21とする。また、移動供給部25は、強化繊維21を挿通可能に支持する。
回転装置26は、円柱状の回転軸27を備えており、この回転軸27を筒体12内に挿通させて回転軸27を筒体12に内嵌させる。そして、回転装置26により筒体12を回転させ、強化繊維21を筒体12に巻き付けて強化繊維層を形成する。
【0025】
また、移動供給部25を軸線O2方向に往復動させて、筒体12に対する強化繊維21の巻き付け量を、第一接続部用筒部13、傾斜部用筒部15、並びに第二接続部用筒部16のそれぞれが均一となるように調整する。また、本体部用筒部14に対する強化繊維21の巻き付け量は、中央部から両端側に向かうに連れて次第に巻き付け量が低減するようにする。巻き付け後は、回転軸27から筒体12を取り外す。
【0026】
(硬化工程)
第一実施形態の硬化工程は、放熱によって強化繊維層を冷却し、強化繊維層の樹脂を硬化させる。これによれば、強化繊維層の樹脂の一部が筒体12に溶着して強化繊維層と筒体12とが一体化して動力伝達軸101に用いられる管体102が製造される。
【0027】
以上、第一実施形態によれば、樽形状(バレル形状)の本体部110を備えた管体102を製造でき、樽形状のマンドレルを用いる必要がない。
【0028】
[第二実施形態]
次に第二実施形態の管体102の製造方法について説明する。
第二実施形態における管体102の製造方法は、複数の基材2を製造する基材製造工程(ステップS1)と、筒体12を製造する筒体製造工程(ステップS2)と、樹脂を含浸した連続繊維を巻き付ける巻き付け工程(ステップS3)と、樹脂を硬化させる硬化工程(ステップS4)と、備えている(
図3参照)。以下、第一実施形態との相違点に絞って説明する。
【0029】
図7に示すように、第二実施形態の基材製造工程(ステップS1)において、プレス成形により形成される基材2の合わせ面7には、凸部7aと凹部7bが形成されている。また、筒体製造工程(ステップS2)において、二つの基材2を組み合わせる際、一方の基材2の凸部7aを他方の基材2の凹部7b内に嵌合させる。これにより、接着剤を用いることなく、二つの基材2を一体化させることができる。また、凸部7aと凹部7bにより位置合わせができ、精度良く筒体12を製造できる。
【0030】
図8に示すように、第二実施形態の巻き付け工程(ステップS3)は、回転装置26によって回転する筒体12に対し、強化繊維に樹脂(熱硬化性樹脂)を含浸させてなるシート状のプリプレグ28を複数の圧着ローラ29を利用して巻き付けている。
このようなシートワインディング法によれば、シート内の強化繊維を軸方向に沿って延在させることができ、管体102の曲げ強度の向上を図れる。
【0031】
以上、第二実施形態によれば、樽形状(バレル形状)の本体部110を備えた管体102を製造でき、樽形状のマンドレルを用いる必要がない。
【0032】
[第三実施形態]
第三実施形態における管体102の製造方法は、基材2を複数製造する基材製造工程(ステップS1)と、筒体12を製造する筒体製造工程(ステップS2)と、連続繊維を巻き付ける巻き付け工程(ステップS3)と、樹脂を硬化させる硬化工程(ステップS4)と、備えている(
図3参照)。以下、第一実施形態との相違点に絞って説明する。
【0033】
第三実施形態の基材製造工程(ステップS1)は、プレス成形ではなく、Resin Transfer Molding成形(以下「RTM成形」という)により基材2を製造している。RTM成形は、一対の金型内に強化繊維を配置し、型締めした後に金型内に溶融した樹脂を注入し、強化繊維に樹脂を含浸させながら基材2を製造する方法である。
【0034】
図9に示すように、第三実施形態の基材製造工程(ステップS1)は、両端面から軸方向外側に突出する半円弧状の突出部8が形成された基材2を製造する。この突出部8は、筒体製造工程(ステップS2)において、組み合わせた場合、円筒状の突起18を構成している。
そして、第三実施形態の筒体製造工程(ステップS2)において、二つの基材2を組み合わせた後、突起18をスタブヨーク102の外筒部102aに内嵌させる。また、特に図示しないが、筒体12の後端に形成された突起は、スタブシャフト103の図示しない外筒部内に内嵌される。これにより、接着剤を用いることなく、二つの基材2を一体化させることができる。
第三実施形態の巻き付け工程(ステップS3)は、筒体12の外周側のみならず、スタブヨーク102の外筒部102a及びスタブシャフト103の外筒部(不図示)の外周側にも強化繊維を巻き付けて強化繊維層を形成している。よって、硬化工程(ステップS4)において、強化繊維層がスタブヨーク102やスタブシャフト103と溶着するようになっている。
【0035】
以上、第三実施形態によれば、樽形状(バレル形状)の本体部110を備えた管体102を製造でき、樽形状のマンドレルを用いる必要がない。
【0036】
[第四実施形態]
第四実施形態における管体102の製造方法は、複数の基材2を製造する基材製造工程(ステップS1)と、筒体12を製造する筒体製造工程(ステップS2)と、連続繊維を巻き付ける巻き付け工程(ステップS3)と、樹脂を硬化させる硬化工程(ステップS4)と、備えている(
図3参照)。以下、第一実施形態との相違点に絞って説明する。
【0037】
図10に示すように、第四実施形態の筒体製造工程(ステップS2)は、二つの基材2を組み合わせて筒体12を形成した後に、ゴム製であり筒状の被覆膜40内に筒体12の後部を挿入し、被覆膜40で傾斜部用筒部15を被覆している。
これによれば、二つの基材2の後部側を一体化できる。また、傾斜部用筒部15の外周面が傾斜していることから、巻き付け工程(ステップS3)で傾斜部用筒部15に巻き付ける強化繊維が滑って所望の配向とならないおそれがあるところ、上記した被覆膜40の摩擦により強化繊維が滑り難くなる。
【0038】
以上、第四実施形態によれば、樽形状(バレル形状)の本体部110を備えた管体102を製造でき、樽形状のマンドレルを用いる必要がない。
【0039】
以上、各実施形態について説明したが、本発明は、実施形態で説明した例に限定されない。
例えば、第一接続部用筒部13及び第二接続部用筒部16は、円筒状に形成されているが、多角形状に形成してもよい。これによれば、管体102の第一接続部120及び第二接続部130の内周面が多角形状となる。そして、第一接続部120又は第二接続部130に挿入されるスタブヨーク102又はスタブシャフト103の挿入部を多角形状とすることで、相対回転し難くすることができる。
また、第三実施形態においては、突起18の断面形状を多角形状としてもよい。そして、スタブヨーク102の外筒部102aも多角形状とし、互いに相対回転し難くしてもよい。
【0040】
また、実施形態では、筒体12を構成する樹脂及び強化繊維に含浸される樹脂に熱可塑性樹脂を使用した例を挙げたが、本発明においては、熱硬化性樹脂を使用してもよい。
また、実施形態では、2つの基材2により筒体12が構成されているが、本発明において基材を複数用意できれば特に限定されず、例えば、断面視四分円状の基材を4つ組み合わせて筒体12を製造してもよい。
【0041】
また、実施形態で製造された管体102の本体部110は、中央部113から両端部(前端部111及び後端部112)に向うに連れて縮径する樽形状(バレル形状)であったが、例えば、前端部111から後端部112までの径が一定に形成された本体部であってもよい。または、前端部111から中央部113までの径が一定で、中央部113から後端部112にかけて縮径するように形成されてもよい。
【0042】
また、本発明の製造方法で製造される管体は、上記したものに限定されない。例えば、傾斜部140に関し、板厚が本体部110側(前側)の端部から第二接続部130側(後側)の端部に向かうに連れて漸次薄くなっていてもよい。これによれば、傾斜部140のうち後端部の板厚が最も薄くなり、傾斜部140の後端部が脆弱部を構成する。若しくは、傾斜部140の外周面又は内周面に凹部を設けて一部区間の板厚を変化させて脆弱部を形成してもよい。