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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-139528(P2020-139528A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】ガスケット用素材
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/12 20060101AFI20200807BHJP
   F16J 15/10 20060101ALI20200807BHJP
   B32B 9/04 20060101ALI20200807BHJP
   B32B 15/06 20060101ALI20200807BHJP
【FI】
   F16J15/12 P
   F16J15/12 F
   F16J15/10 Y
   B32B9/04
   B32B15/06 Z
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-33793(P2019-33793)
(22)【出願日】2019年2月27日
(71)【出願人】
【識別番号】000110804
【氏名又は名称】ニチアス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002538
【氏名又は名称】特許業務法人あしたば国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大日向 鉄夫
(72)【発明者】
【氏名】北嶋 菜穂子
【テーマコード(参考)】
3J040
4F100
【Fターム(参考)】
3J040EA15
3J040EA17
3J040EA43
3J040EA47
3J040EA48
3J040FA05
3J040FA07
3J040HA17
4F100AA08B
4F100AA08E
4F100AA17B
4F100AA17E
4F100AA18B
4F100AA18E
4F100AA19B
4F100AA19E
4F100AA20B
4F100AA20E
4F100AA21B
4F100AA21E
4F100AA24B
4F100AA24E
4F100AA27B
4F100AA27E
4F100AB00C
4F100AB04C
4F100AK17A
4F100AK17D
4F100AK27A
4F100AK27D
4F100AK33E
4F100AK53E
4F100AN00A
4F100AN00D
4F100AN02A
4F100AN02D
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA05
4F100BA06
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10D
4F100CB00E
4F100EH46A
4F100EH46B
4F100EH46D
4F100EH46E
4F100EJ05A
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4F100EJ08E
4F100EJ42A
4F100EJ42B
4F100EJ42D
4F100EJ42E
4F100EJ86B
4F100EJ86E
4F100GB32
4F100GB51
4F100JB01
4F100JK06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】金属板からなる基材の片面又は両面に、ノンクロメート金属表面コーティング層を介して、ゴム層が形成されているガスケット用素材であって、水及び不凍液に対する耐液密着性が高いガスケット用素材を提供する。
【解決手段】金属板からなる基材の片面又は両面の少なくとも一部に、該金属板側から順に、金属表面コーティング層と、プライマー層と、ゴム層と、が形成されているか、又は金属表面コーティング層と、ゴム層と、が形成されており、該金属表面コーティング層は、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有すること、を特徴とするガスケット用素材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、金属板からなる基材と、該基材の片側又は両側の表面に形成されている金属表面コーティング層と、該金属表面コーティング剤を介して形成されているゴム層と、を有し、
該金属表面コーティング層は、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有すること、
を特徴とするガスケット用素材。
【請求項2】
前記金属表面コーティング層と前記ゴム層の間に形成されているプライマー層を有し、該プライマー層が、フェノール樹脂の硬化物又はエポキシ樹脂の硬化物からなることを特徴とする請求項1記載のガスケット用素材。
【請求項3】
前記ゴム層を形成するゴムがニトリルゴムであることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のガスケット用素材。
【請求項4】
前記ゴム層を形成するゴムがフッ素ゴムであることを特徴とする請求項1又は2いずれか1項記載のガスケット用素材。
【請求項5】
前記金属表面コーティング層が、前記基材の表面に、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有する金属表面コーティング層形成用処理液を、塗布した後、乾燥させることにより形成された表面コーティング層であることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項記載のガスケット用素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスケット用素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、自動車等のエンジンに用いられるガスケット、特にヘッドガスケット用として、鋼板の片面又は両面に、クロム化合物、リン酸、シリカからなるクロメートコーティング層が形成され、クロメートコーティング層の上にゴム層が積層されているガスケット材が広く用いられてきた(特許文献1)。
【0003】
ところが、近年、環境上の問題から、クロメートコーティング層の代わりにノンクロメートコーティング層が設けられているガスケット材も用いられるようになってきた(特許文献2)。
【0004】
そして、ノンクロメートコーティング層が設けられているガスケット材は、クロメートコーティング層が設けられているガスケット材と比較しても、遜色ない程度に、水や不凍液に対して耐液密着性を有していることが必要である。具体的には、自動車などのエンジン使用環境下において、エンジンの冷却液として使用される水や不凍液に接触する箇所のゴム層が長時間剥離しないことが必要である。
【0005】
そこで、耐液密着性が高いノンクロメートコーティング層が設けられているガスケット材としては、例えば、特許文献3に、鋼板の片面又は両面に、ノンクロメート皮膜と、フェノール樹脂プライマー層と、ポリオール架橋フッ素ゴム層と、が、該鋼板側から順に形成されており、該ポリオール架橋フッ素ゴム層は、フッ素ゴムと、ポリオール系架橋剤と、アミン系架橋促進剤と、シリカと、を含有するフッ素ゴム組成物を、該フェノール樹脂プライマー層に塗布し、次いで、加熱して得られるゴム層であり、該アミン系架橋促進剤が、三級アミン又は三級アミンと酸の反応により得られる三級アミンの塩であるガスケット用素材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平3−227622号公報
【特許文献2】特開2002−264253号公報
【特許文献3】特許第6059664号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献3では、ガスケット用素材のゴム層にシリカを含有させることにより、ゴム層がシリカを含有していないガスケット用素材に比べ、飛躍的に、不凍液に対する耐液密着性が改善されている。
【0008】
しかし、近年は、走行距離の延長、燃費向上を目的とした高温化、不凍液の長寿命化による防錆剤やpH調整剤、安定化剤の添加剤変更や増量などでガスケットに対しての使用環境が厳しくなってきている。特に、高温化に伴い不凍液中の成分がゴム層に浸透しやすくなり、接着界面への到達が早まることで接着力の低下が早まる。そのため、更なる改良が、ガスケット用素材に要求されている。
【0009】
従って、本発明の目的は、金属板からなる基材の片面又は両面に、ノンクロメート金属表面コーティング層を介して、ゴム層が形成されているガスケット用素材であって、水及び不凍液に対する耐液密着性が高く、自動車等のエンジンの実使用環境下において、水や不凍液と接触する部分のゴム剥離が生じ難いガスケット用素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下に示す本発明により解決される。
すなわち、本発明(1)は、少なくとも、金属板からなる基材と、該基材の片側又は両側の表面に形成されている金属表面コーティング層と、該金属表面コーティング剤を介して形成されているゴム層と、を有し、
該金属表面コーティング層は、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有すること、
を特徴とするガスケット用素材を提供するものである。
【0011】
また、本発明(2)は、前記金属表面コーティング層と前記ゴム層の間に形成されているプライマー層を有し、該プライマー層が、フェノール樹脂の硬化物又はエポキシ樹脂の硬化物からなることを特徴とする(1)のガスケット用素材を提供するものである。
【0012】
また、本発明(3)は、前記ゴム層を形成するゴムがニトリルゴムであることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのガスケット用素材を提供するものである。
【0013】
また、本発明(4)は、前記ゴム層を形成するゴムがフッ素ゴムであることを特徴とする(1)又は(2)いずれかのガスケット用素材を提供するものである。
【0014】
また、本発明(5)は、前記金属表面コーティング層が、前記基材の表面に、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有する金属表面コーティング層形成用処理液を、塗布した後、乾燥させることにより形成された表面コーティング層であることを特徴とする(1)〜(4)いずれかのガスケット用素材を提供するものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、金属板からなる基材の片面又は両面に、ノンクロメート金属表面コーティング層を介して、ゴム層が形成されているガスケット用素材であって、水及び不凍液に対する耐液密着性が高く、自動車等のエンジンの実使用環境下において、水や不凍液と接触する部分のゴム剥離が生じ難いガスケット用素材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明のガスケット用素材は、少なくとも、金属板からなる基材と、該基材の片側又は両側の表面に形成されている金属表面コーティング層と、該金属表面コーティング剤を介して形成されているゴム層と、を有し、
該金属表面コーティング層は、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有すること、
を特徴とするガスケット用素材である。
【0017】
本発明のガスケット用素材は、少なくとも、金属板からなる基材と、基材の片側又は両側の表面に形成されている金属表面コーティング層と、金属表面コーティング剤を介して形成されているゴム層と、を有する。本発明のガスケット用素材では、金属板からなる基材のうち、金属表面コーティング層及びゴム層が形成されている部分は、基材の片面側の少なくとも一部又は基材の両面側の少なくとも一部である。なお、本発明において、「基材に、金属表面コーティング剤を介してゴム層が形成されている。」とは、基材とゴム層の間に金属表面コーティング層が存在していることを指し、金属表面コーティング剤の表面に直接接してゴム層が形成されている場合と、金属表面コーティング剤とゴム層との間に他の層が形成されており、金属表面コーティング剤の表面に直接には接触せずにゴム層が形成されている場合の両方を含む。
【0018】
本発明のガスケット用素材において、基材の表面に形成されている層の積層形態としては、例えば、金属板側から順に、金属表面コーティング層と、ゴム層と、が形成されている2層構造のもの、金属板側から順に、金属表面コーティング層と、プライマー層と、ゴム層と、が形成されている3層構造のものが挙げられる。本発明のガスケット用素材では、基材の一方の面側の積層形態と他方の面側の積層形態は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
【0019】
本発明のガスケット用素材のうち、(1)基材と、基材の表面に形成されている金属表面コーティング層と、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に形成されているプライマー層と、プライマー層の表面且つ金属表面コーティング層側とは反対側の面に形成されているゴム層と、を有するガスケット素材を、以下、本発明の第一の形態のガスケット用素材とも記載し、また、(2)基材と、基材の表面に形成されている金属表面コーティング層と、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に形成されているゴム層と、を有するガスケット素材を、以下、本発明の第二の形態のガスケット用素材とも記載する。本発明の第一の形態のガスケット用素材及び本発明の第二の形態のガスケット用素材は、いずれも、金属表面コーティング層を介して、ゴム層が基材の表面に形成されている。
【0020】
なお、本発明の第一の形態のガスケット用素材と本発明の第二の形態のガスケット用素材とは、金属表面コーティング層とゴム層との間に、プライマー層を有するか否かの点で、異なるものの、共通する点も多い。そこで、本発明の第一の形態のガスケット用素材と本発明の第二の形態のガスケット用素材とに共通する点については、本発明の第一の形態のガスケット用素材及び本発明の第二の形態のガスケット用素材の総称として、本発明のガスケット用素材と記載して、説明する。
【0021】
本発明のガスケット用素材に係る基材は、金属板からなる。基材を構成する金属としては、特に制限されないが、フェライト系、マルテンサイト系、オーステナイト系等のステンレス鋼、鉄、アルミニウム等が挙げられ、これらのうち、ステンレス鋼が好ましい。
【0022】
本発明のガスケット用素材に係る基材を構成する金属板としては、複数の金属板が貼り合されて接合されたものであってもよい。このような複数の金属板が貼り合されて接合された金属板としては、ステンレス鋼板及び鉄板の接合物が好ましい。
【0023】
本発明のガスケット用素材において、基材である金属板の厚さは、特に制限されないが、通常、0.15〜0.50mm、好ましくは0.20〜0.30mmである。
【0024】
本発明のガスケット用素材に係る金属表面コーティング層は、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有する。
【0025】
成分(A)のMg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩は、正塩であっても、塩基性塩であってもよい。成分(A)の炭酸塩は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0026】
成分(A)の炭酸塩が正塩である場合、正塩としては、例えば、炭酸マグネシウム、炭酸コバルト、炭酸マンガン、炭酸ニッケル、炭酸銅が挙げられる。
【0027】
成分(A)の炭酸塩が塩基性塩である場合、塩基性塩としては、例えば、塩基性炭酸マグネシウム、塩基性炭酸コバルト、塩基性炭酸ジルコニウム、炭酸ジルコニウムアンモニウム、塩基性炭酸マンガン、塩基性炭酸ニッケル、塩基性炭酸銅が挙げられる。
【0028】
成分(A)の炭酸塩としては、Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩のうちのいずれか1種又は2種以上であれば、いずれの炭酸塩であってもよいが、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高くなる点で、特にZr炭酸塩が好ましい。
【0029】
成分(B)のシリカとしては、湿式法で合成された湿式シリカ、乾式法で合成された乾式シリカのいずれでもよい。成分(B)のシリカとしては、金属表面コーティング層形成用処理液中での分散性に優れるシリカ含有物に由来するもの、例えば、コロイダルシリカ等の水分散性シリカに由来するもの、気相シリカの水分散性シリカに由来するものが好ましい。成分(B)のシリカは、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0030】
成分(B)に係る湿式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、Nipsil AQ、Nipsil VN3、Nipsil LP、Nipsil ER、Nipsil NA、Nipsil K−500、Nipsil E−200、Nipsil E−743、Nipsil E−74P、Nipsil SS−10、Nipsil SS−30P、Nipsil SS−100(何れも東ソー・シリカ社製)等が挙げられる。
【0031】
成分(B)に係るコロイダルシリカとしては、特に限定されないが、市販品であってもよく、例えば、スノーテックスC、スノーテックスN、スノーテックスS、スノーテックスUP、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−L、スノーテックス20、スノーテックス30、スノーテックス40(いずれも日産化学工業社製)等が挙げられる。
【0032】
成分(B)に係る乾式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(いずれも日本アエロジル社製)等が挙げられる。
【0033】
成分(B)のアルミナとしては、粉末状のもの、水分散性のものが挙げられる。また、成分(B)のアルミナとしては、気相反応で得られたもの、液相反応で得られたものが挙げられる。
【0034】
成分(B)のジルコニアとしては、粉末状のもの、水分散性のものが挙げられる。また、成分(B)のジルコニアとしては、気相反応で得られたもの、液相反応で得られたものが挙げられる。
【0035】
成分(B)のチタニアとしては、粉末状のもの、水分散性のものが挙げられる。また、成分(B)のチタニアとしては、気相反応で得られたもの、液相反応で得られたものが挙げられる。
【0036】
成分(B)は、シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアのうちのいずれか1種又は2種以上の組み合わせである。
【0037】
本発明に係るガスケット用素材において、金属表面コーティング層の皮膜量は、成分(B)の皮膜量に換算した場合に、成分(B)の皮膜量が、好ましくは50〜1000mg/m、特に好ましくは50〜800mg/m、より好ましくは50〜500mg/mとなる皮膜量である。なお、金属表面コーティング層の皮膜量は、測定試料の皮膜面積及び成分(B)の質量から算出される。金属表面コーティング層の皮膜量が、上記範囲にあることにより、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高く且つ密着性が高くなる。
【0038】
金属表面コーティング層中の成分(A)と成分(B)の含有割合であるが、成分(A)100質量部に対し、成分(B)の含有量が、30〜400質量部であることが好ましく、50〜300質量部であることがより好ましい。金属表面コーティング層中の成分(A)と成分(B)の含有割合が、上記範囲にあることにより、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高くなる。
【0039】
金属表面コーティング層が、成分(A)及び成分(B)を含有することにより、クロメート処理を施すことなく、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高く、且つ、基材に対する金属表面コーティング層の密着性が高くなる。
【0040】
金属表面コーティング層の形成方法は、特に制限されない。金属表面コーティング層としては、例えば、基材の表面に、(A)Mg炭酸塩、Co炭酸塩、Zr炭酸塩、Mn炭酸塩、Ni炭酸塩及びCu炭酸塩からなる群から選ばれる1種以上の炭酸塩と、(B)シリカ、アルミナ、ジルコニア及びチタニアからなる群から選ばれる1種以上と、を含有する金属表面コーティング層形成用処理液を、塗布した後、乾燥させることにより形成された金属表面コーティング層が挙げられる。
【0041】
金属表面コーティング層形成用処理液は、水、エタノール、イソプロピルアルコール、メタノール等の分散媒に、成分(A)及び成分(B)が分散されている分散液である。金属表面コーティング層形成用処理液に係る分散媒としては、水が好ましい。また、金属表面コーティング層形成用処理液の固形分濃度は、作業性、使用可能時間、塗布の際の均一性等により、適宜選択され、好ましくは1〜50質量%、特に好ましくは5〜20質量%である。また、金属表面コーティング層形成用処理液は、アンモニア、分散剤等を含有することができる。
【0042】
基材の表面に、金属表面コーティング層を形成させる方法としては、例えば、金属表面コーティング層形成用処理液を、ロールコーター、ディッピング法、スプレー法等の塗布手段を用いて、塗布し、次いで、例えば、100〜250℃で加熱することや、常温で風乾すること等で、分散媒等の揮発分を乾燥させることにより、基材の表面に、金属表面コーティング層を形成させる方法が挙げられる。
【0043】
本発明の第一の形態のガスケット用素材では、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に、プライマー層が形成されている。
【0044】
プライマー層は、ガスケット用素材のプライマー層として用いられるものであれば、特に制限されず、例えば、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂の硬化物、エポキシ樹脂の硬化物、フェノール樹脂とエポキシ樹脂の混合物の硬化物などの熱硬化性樹脂の硬化物;熱硬化性樹脂とゴム組成物の混合物の硬化物;金属酸化物等の充填材、カップリング剤などを含有する熱硬化性樹脂の硬化物;金属酸化物等の充填材、カップリング剤などを含有する熱硬化性樹脂とゴム組成物の混合物の硬化物からなるものが挙げられる。プライマー層に含有されるゴム組成物としては、ゴム層がフッ素ゴムの場合は、フッ素ゴムを含有するゴム組成物、ゴム層がNBRの場合、NBRを含有するゴム組成物等が挙げられる。これらのうち、プライマー層としては、ノボラック型フェノール樹脂の硬化物又はエポキシ樹脂の硬化物からなるものが好ましい。
【0045】
プライマー層は、金属表面コーティング層とゴム層間の接着性やエンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性を高くする機能を有する。
【0046】
プライマー層は、充填材、カップリング剤等を含有することができる。
【0047】
プライマー層の形成方法は、特に制限されない。プライマー層としては、例えば、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に、プライマー層形成用樹脂組成物を、塗布した後、加熱することにより形成されたプライマー層が挙げられる。
【0048】
プライマー層形成用樹脂組成物は、ノボラック型フェノール樹脂、レゾール型フェノール樹脂等のフェノール樹脂、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂を含有する。プライマー層形成用樹脂組成物は、熱硬化性樹脂の他に、金属酸化物などの充填材、カップリング剤、ゴム層がフッ素ゴムの場合は、フッ素ゴムを含有するゴム組成物、ゴム層がNBRの場合、NBRを含有するゴム組成物等を含有することができる。熱硬化性樹脂は、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0049】
金属表面コーティング層の表面に、プライマー層を形成させる方法としては、例えば、プライマー層形成用樹脂組成物を、ロールコーター、ディッピング法、スプレー法等の塗布手段を用いて、塗布し、次いで、100〜250℃で加熱して、硬化させることにより、金属表面コーティング層の表面に、プライマー層を形成させる方法が挙げられる。
【0050】
本発明の第一の形態のガスケット用素材では、プライマー層の表面且つ金属表面コーティング層側とは反対側の面に、ゴム層が形成されている。また、本発明の第二の形態のガスケット用素材では、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に、ゴム層が形成されている。
【0051】
ゴム層を構成するゴム材としては、ニトリルゴム(NBR)、フッ素ゴム、シリコンゴム、アクリロブタジエンゴム、水素化ニトリルゴム(HNBR)、エチレン・プロピレン・ジエンゴム(EPDM)等が挙げられる。本発明のガスケット用素材が、自動車のエンジン周りに使用されるガスケット用の場合は、耐油性や耐熱性を求められるため、ゴム材としては、NBR又はフッ素ゴムが好ましい。
【0052】
ニトリルゴム(NBR)は、モノマーとして、少なくともアクリロニトリルと1,3−ブタジエンを用いて得られる共重合体の総称である。ニトリルゴム(NBR)には、アクリロニトリルと1,3−ブタジエンの共重合体の他、アクリロニトリル及び1,3−ブタジエンに加え、種々のコモノマーを共重合させた共重合体も含まれる。
【0053】
ニトリルゴム(NBR)の架橋剤としては、硫黄が挙げられる。ニトリルゴム(NBR)の架橋剤の含有量は、ニトリルゴム(NBR)の種類等により、適宜選択されるが、通常、ニトリルゴム(NBR)100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは2〜8質量部である。
【0054】
フッ素ゴムは、ポリオール架橋剤でポリオール架橋可能なフッ素ゴムである。このようなフッ素ゴムとしては、例えば、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン系共重合体、フッ化ビニリデン/ヘキサフルオロプロピレン/テトラフルオロエチレン系共重合体、テトラフロロエチレン/プロピレン/フッ化ビニリデン系共重合体等が挙げられる。
【0055】
フッ素ゴムのポリオール架橋剤は、フッ素ゴムと反応して架橋するものであれば、特に制限されない。フッ素ゴムのポリオール架橋剤としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)パーフルオロプロパン[ビスフェノールAF]、1,3−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等のポリヒドロキシ芳香族化合物や、これらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が挙げられ、ビスフェノールA、ビスフェノールAF等のビスフェノール類や、これらのアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩が好ましい。
【0056】
フッ素ゴムのポリオール架橋剤の含有量は、フッ素ゴムの種類等により、適宜選択されるが、通常、フッ素ゴム100質量部に対して、0.5〜10質量部、好ましくは2〜8質量部である。
【0057】
ゴム層は、シリカを含有することが、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高くなる点で、好ましい。ゴム層に含有されるシリカとしては、湿式法で合成された湿式シリカ、乾式法で合成された乾式シリカのいずれでもよい。ゴム層に含有されるシリカは、1種であっても、2種以上の組み合わせであってもよい。
【0058】
ゴム層に係る湿式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、Nipsil AQ、Nipsil VN3、Nipsil LP、Nipsil ER、Nipsil NA、Nipsil K−500、Nipsil E−200、Nipsil E−743、Nipsil E−74P、Nipsil SS−10、Nipsil SS−30P、Nipsil SS−30V、Nipsil SS−100(いずれも東ソー・シリカ社製)等が挙げられる。
【0059】
ゴム層に係る乾式シリカとしては、特に制限されないが、例えば、アエロジル50、アエロジル130、アエロジル200、アエロジル300、アエロジル380、アエロジルR972、アエロジルTT600、アエロジルMOX80、アエロジルMOX170(いずれも日本アエロジル社製)等が挙げられる。
【0060】
ゴム組成物がシリカを含有する場合、ゴム層中のシリカの含有量は、ゴム材100質量部に対して、好ましくは1〜200質量部、特に好ましくは10〜100質量部、より好ましくは3〜100質量部である。ゴム層中のシリカの含有量が上記範囲にあることにより、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高くなる。
【0061】
ゴム層の形成方法は、特に制限されない。本発明の第一の形態のガスケット用素材に係るゴム層としては、例えば、プライマー層の表面且つ金属表面コーティング層側とは反対側の面に、ゴム組成物を、塗布した後、加熱して架橋させることにより形成されたゴム層が挙げられる。また、本発明の第二の形態のガスケット用素材に係るゴム層としては、例えば、金属表面コーティング層の表面且つ基材側とは反対側の面に、ゴム組成物を、塗布した後、加熱して架橋させることにより形成されたゴム層が挙げられる。
【0062】
ゴム組成物は、ゴム材と架橋剤と、を含有する。また、ゴム組成物は、必要に応じて、架橋促進剤、架橋促進助剤、シリカ、充填材、カップリング剤等のうちの1種又は2種以上と、を含有することができる。そして、ゴム組成物の各成分を、有機溶剤に分散又は溶解させて、ゴム組成物液を調製し、得られるゴム組成物液を、プライマー層又は金属表面コーティング層に塗布することにより、プライマー層又は金属表面コーティング層の表面にゴム組成物を塗布する。ゴム組成物液は、有機溶剤と共に、ゴム組成物の各成分を混練することにより得られる。
【0063】
フッ素ゴム用のポリオール架橋の架橋促進剤としては、市販されているものであれば特に制限されず、三級アンモニウム塩、四級アンモニウム塩、四級ホスホニウム塩等が挙げられ、三級アンモニウム塩が好ましい。また、NBR用の硫黄加硫用の促進剤としては、グアニジン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオウレア系、チウラム系、ジチオカルバメート系などが挙げられる。
【0064】
必要に応じて、ゴム組成物に含有される架橋促進助剤としては、酸化マグネシウム、水酸化カルシウムが挙げられる。また、必要に応じて、ゴム組成物に含有される充填材としては、カーボンブラック、炭酸カルシウム、クレー、ワラストナイト、マイカ、タルク、硫酸バリウム等が挙げられる。
【0065】
必要に応じて、ゴム組成物に含有されるカップリング剤は、プライマー層とゴム層との密着性を向上させるために用いられる。ゴム組成物に含有されるカップリング剤としては、特に制限されないが、アミン系シランカップリング剤が好ましい。アミン系シランカップリング剤としては、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ジブチデン)プロピルアミン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。ゴム組成物中のシランカップリング剤の含有量は、ゴム材100質量部に対して0.5〜5質量部が好ましい。
【0066】
ゴム組成物の分散媒又は溶媒となる有機溶剤としては、例えば、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン等のケトン系有機溶剤、トルエン、酢酸ブチル、酢酸エチル等が挙げられる。これらのうち、ケトン系有機溶剤が好ましい。ゴム組成物液中の固形物の含有量、すなわち、ゴム組成物液中のゴム組成物の含有量は、塗工性が良好になる点で、ゴム組成物液全量に対して、10〜50質量%が好ましい。
【0067】
本発明の第一の形態のガスケット用素材において、プライマー層の表面に、ゴム層を形成させる方法としては、例えば、ゴム組成物液を、ロールコーター、ディッピング法、スプレー法等の塗布手段を用いて、塗布し、次いで、目的とするゴムの架橋度に適合するように、150〜230℃の範囲で1〜10分程度加熱して、架橋させることにより、プライマー層の表面に、ゴム層を形成させる方法が挙げられる。また、本発明の第二の形態のガスケット用素材において、金属表面コーティング層の表面に、ゴム層を形成させる方法としては、例えば、ゴム組成物液を、ロールコーター、ディッピング法、スプレー法等の塗布手段を用いて、塗布し、次いで、目的とするゴムの架橋度に適合するように、150〜230℃の範囲で1〜10分程度で加熱して、架橋させることにより、金属表面コーティング層の表面に、ゴム層を形成させる方法が挙げられる。
【0068】
ゴム組成物液の塗工厚さは、特に制限されないが、加熱架橋後のゴム層の厚みが5〜100μm、好ましくは10〜50μmとなるように、ゴム組成物液を塗工する。また、ゴム組成物を加熱して、架橋反応を行うときの加熱条件は、好ましくは加熱温度が150〜200℃であり、加熱時間が5〜30分間である。
【0069】
本発明のガスケット素材は、必要に応じて、適宜、切断、切削、加工等が施されて、目的とするガスケットの形状に加工される。
【0070】
本発明のガスケット素材によれば、クロメート処理を施すことなく、エンジン冷却水として使用される水及び不凍液に対する耐液密着性が高いガスケット用素材を提供することができる。
【0071】
次に、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、これらは例示であって、本発明を制限するものではない。
【0072】
(実施例及び比較例)
(1)表1に示す金属表面コーティング層形成用処理液を、ロールコーターを用いて、B成分が固形分換算で片面あたり300mg/mとなるように塗布した後、加熱処理して、基材の表面に金属表面コーティング層を形成させた。
(2)次いで、上記で形成させた金属表面コーティング層の表面全面に、フェノール樹脂を有機溶剤(メチルエチルケトンMEK)で固形分濃度が10%になるように溶解したプライマー層形成用樹脂液を、ロールコーターを用いて、片面あたり150mg/m塗布した後、加熱して硬化させて、金属表面コーティング層の表面にプライマー層を形成させた。
(3)次いで、上記で形成させたプライマー層の表面全面に、表1に示すゴム組成物と有機溶剤(メチルエチルケトンMEK)とを、固形分濃度が40質量%となるように、混合し、ゴム組成物液を得た。次いで、得られたゴム組成物液を、ロールコーターを用いて、ゴム層の厚みが25μmとなるように塗布した後、加熱して架橋させることにより、プライマー層の表面に厚さ25μmのゴム層を形成させ、ガスケット用素材を得た。
得られたガスケット用素材の一部を切断、切削、加工したところ、精度よく容易に加工し得る加工性に優れたものであった。
また、得られたガスケット用素材に対し、以下の方法で耐液密着性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0073】
(耐液密着性試験)
25mm×100mmサイズの耐液密着性試験用の試料を準備し、1.5質量%のリン酸水素二カリウム水溶液中に半浸漬状態で、95℃で500時間保持した。その後、試料の表面に対し、セロハンテープで数回剥離を行った後、更に描画試験機にて、JIS K6894に準拠して描画試験を行い、ゴムの残存性を確認した。
なお、リン酸水素二カリウムは、不凍液中に含まれている成分の一つであり、主にpHの調整、防腐、安定剤などの役割として添加されている成分である。本薬品を添加することでより剥離が促進されるため、剥離促進試験用の液として、リン酸水素二カリウム水溶液を用いた。
【0074】
<評価基準>
5点:ゴム層の剥離がない。
4点:ゴム層が90%以上残存している。
3点:ゴム層が50%以上90%未満残存している。
2点:ゴム層が50%未満であるが、残存している。
1点:ゴム層の残存が無い、または取り出し後にゴム層に膨れ有。
【0075】
【表1】
1)FKM:フッ化ビニリデン系フッ素ゴム組成物、NBR:ニトリルゴム組成物
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明によれば、クロメート処理を施すことなく、水及び不凍液に対する耐液密着性が高く、自動車等のエンジンの実使用環境下において、水や不凍液と接触する部分のゴム剥離が生じ難いガスケット用素材を提供することができる。