【解決手段】繊維強化プラスチック製の管体2と、管体2の端部に接続し、軸線O1方向に貫通する通し孔8が形成されたスタブヨーク3、スタブシャフト4と、を備える動力伝達軸の製造方法であって、砂型20が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3、スタブシャフト4を接続する接続工程と、繊維強化プラスチックを砂型20およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付けて管体2を形成する巻付工程と、管体2を硬化する硬化工程と、砂型20を分解する外的エネルギー付与工程と、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3の通し孔8から引き抜く引抜工程と、マンドレル30を引き抜くことで開いたスタブヨーク3の通し孔8から、崩れた砂型20を排出する排出工程と、を備える。
前記型は、中央部から両端部に向かうに連れて外径が縮径し、外周面が軸線方向に円弧状に形成された型本体部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
前記型は、中央部から他端部まで外径が均一に形成され、前記中央部から一端部に向かうに連れて外径が縮径し、外周面が軸線方向に曲線状に形成された型本体部を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の動力伝達軸の製造方法。
前記巻付工程において、フィラメントワインディング工法により繊維強化プラスチックを前記砂型および前記連結部材に巻き付けることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の動力伝達軸の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
各実施形態について図面を参照しながら説明する。各実施形態では、本発明の動力伝達軸を、FF(Front−engine Front−drive)ベースの四輪駆動車に搭載されるプロペラシャフトに適用した例を挙げる。また、各実施形態で共通する技術的要素には、共通の符号を付し、重複説明は省略する。
【0010】
[第一実施形態]
図1ないし
図8を参照して第一実施形態を説明する。
図1に示すように、動力伝達軸1は、軸線O1を中心軸とする管体2と、管体2の第一接続部120の内側に接続する連結部材としてのスタブヨーク3と、管体2の第二接続部130の内側に接続する連結部材としてのスタブシャフト4とを備えている。管体2は、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で形成されている。本発明において繊維強化プラスチックに使用される強化繊維は、炭素繊維に限られず、ガラス繊維やアラミド繊維であってもよい。
【0011】
管体2は、本体部110と、本体部110の前側に配置された第一接続部120と、本体部110の後側に配置された第二接続部130と、本体部110と第二接続部130との間に位置する傾斜部140と、を備えている。
【0012】
本体部110の外径は、中央部113から両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)に向かうに連れて縮径しており、中央部113の外径は両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)の外径よりも大きい。つまり、軸線O1に沿って本体部110を切った場合には、本体部110の外周面の断面形状は、緩やかな曲線を描き、外側に向けて突出する円弧状となっている。よって、本体部110の外形は、中央部113が径方向外側に膨らんだ樽形状(バレル形状)となっている。また、本体部110の板厚は、両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)から中央部113に向うにしたがい薄くなっており、中央部113の板厚は、両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)の板厚よりも薄く形成されている。
【0013】
第一接続部120の内周面は、スタブヨーク3の多角形状の接続部7(
図2)に倣った多角形状を呈している。第二接続部130の内周面も、スタブシャフト4の多角形状の接続部10(
図3)に倣った多角形状を呈している。
【0014】
傾斜部140の外径は、本体部110側から第二接続部130側に向かうにしたがい次第に縮径し、円錐台形状となっている。傾斜部140の板厚は、第二接続部130側(後側)の端部から本体部110側(前側)の端部に向かうに連れて漸次薄くなっている。このため、傾斜部140のうち前端部の板厚が最も薄く、脆弱部を構成している。以上から、動力伝達軸1に車両が前方から衝突されて衝突荷重が入力すると、軸線O1に対して傾斜する傾斜部140にせん断力が作用する。そして、傾斜部140に作用するせん断力が所定値を超えると、傾斜部140の前端部(脆弱部)が破損する。このため、車両衝突時、車体の前部に搭載されたエンジンや変速機は速やかに後退し、衝突エネルギーは車体の前部により吸収される。
【0015】
スタブヨーク3は、カルダンジョイントを構成する金属製の部材である。
図2において、スタブヨーク3は、軸線O1を中心とする円盤状の基部5と、基部5から前方に延び十字軸を支承する一対のアーム部6と、基部5から後方に延び管体2の第一接続部120(
図1)の内側に接続する接続部7と、を備えている。接続部7は、後端側が開口した筒形状を呈している。接続部7の外周面は、軸線O1方向視で多角形状を呈している。基部5には、後述するマンドレル30を通す通し孔8が軸線O1を中心に貫通形成されている。
【0016】
スタブシャフト4は、等速ジョイントを構成する金属製の部材である。
図3において、スタブシャフト4は、等速ジョイントの動力伝達部材に一体に回転するように連結する連結部9と、連結部9の前端に形成され管体2の第二接続部130(
図1)の内側に接続する接続部10と、を備えている。接続部10の外周面は、軸線O1方向視で多角形状を呈している。接続部10の前端面には、マンドレル30の後端が嵌り込む位置決め穴11が軸線O1を中心に形成されている。
【0017】
図8は、動力伝達軸1の製造方法のフローチャートである。動力伝達軸1の製造方法は、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3およびスタブシャフト4を接続する接続工程(ステップS1)と、繊維強化プラスチックを型およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付けて管体2を形成する巻付工程(ステップS2)と、管体2を硬化する硬化工程(ステップS3)と、型に外的エネルギーを付与して、型を分解または溶解する外的エネルギー付与工程(ステップS4)と、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3の通し孔8から引き抜く引抜工程(ステップS5)と、マンドレル30を引き抜くことで開いたスタブヨーク3の通し孔8から、分解または溶解した型を排出する排出工程(ステップS6)と、を備えている。以下、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型を砂型20とした場合について説明する。
【0018】
「接続工程」
接続工程では、
図4に示すように、砂型20が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3およびスタブシャフト4を接続する。マンドレル30は、軸線O1を中心に配置される丸棒状の心金部材である。砂型20は、マンドレル30で貫通されている。砂型20は、中央部から両端部に向かうに連れて外径が縮径し、外周面が軸線O1方向に円弧状に形成された樽形状の型本体部21を備えている。型本体部21の前端には、スタブヨーク3の接続部7が外嵌する型接続部22が形成されている。型本体部21の後端には、後方に向かうに連れて縮径する略円錐台形状の型傾斜部25が形成されている。マンドレル30の前端周りは型接続部22から前方に延びている。マンドレル30の後端は型傾斜部25の後面から若干突出している。
【0019】
以上のように構成された砂型20およびマンドレル30に対し、スタブヨーク3の接続として、通し孔8にマンドレル30を通してスタブヨーク3をスライドさせ、接続部7を砂型20の型接続部22に外嵌させる。また、スタブシャフト4の接続として、位置決め穴11をマンドレル30の後端に嵌め合わせる。スタブヨーク3、スタブシャフト4をマンドレル30に対して正確に芯出しするため、通し孔8および位置決め穴11の内径はマンドレル30の外径に対して所定の寸法公差で形成されている。
【0020】
「巻付工程」
接続工程の後、
図5に示すように、巻付工程では、繊維強化プラスチックを砂型20とスタブヨーク3とスタブシャフト4とに巻き付けて管体2を形成する。第一実施形態では、フィラメントワインディング工法により繊維強化プラスチックを砂型20とスタブヨーク3とスタブシャフト4とに巻き付ける。
【0021】
図9にフィラメントワインディング工法で用いるワインディング装置の一例を示す。ワインディング装置40は、強化繊維の束であるストランドがそれぞれ巻回された複数のボビン41〜44と、樹脂含浸部45と、集約部46と、移動供給部47と、マンドレル30を回転させる回転装置48A,48Bと、を備えて構成されている。
【0022】
各ボビン41〜44から引き出されたストランドは、樹脂含浸部45で熱硬化性樹脂に含浸処理されたうえで集約部46で1本のロービング49として集約される。移動供給部47は、集約部46とマンドレル30との間に配設され、ロービング49を挿通可能に支持する。移動供給部47は、軸線O1方向に往復動可能に構成されている。回転装置48A,48Bは、マンドレル30の前端とスタブシャフト4の連結部9を支持してマンドレル30を回転させる。
【0023】
以上により、回転装置48A,48Bによってマンドレル30が回転し、移動供給部47が軸線O1方向に往復動することで、ロービング49が、砂型20と、スタブヨーク3の接続部7と、スタブシャフト4の接続部10とにわたり、所定のヘリカル巻きやフープ巻き等の巻回方法により巻かれる。ワインディング装置40は、図示しない制御部を備えており、当該制御部を操作することにより、フィラメントワインディングの巻回方法、ラップ長、巻回速度等を設定できるようになっている。
【0024】
以上の巻付工程により、管体2は、砂型20の樽形状の型本体部21に巻かれた部分が樽形状の本体部110として形成され、型傾斜部25に巻かれた部分が傾斜部140として形成される。そして、スタブヨーク3の多角形状の接続部7に巻かれた部分が、多角形状の内周面を有する第一接続部120として形成される。同様に、スタブシャフト4の多角形状の接続部10に巻かれた部分が、多角形状の内周面を有する第二接続部130として形成される。
【0025】
「硬化工程」
巻付工程の後、硬化工程では、適宜に加熱処理を行い、管体2の含浸樹脂を硬化させる。
【0026】
「外的エネルギー付与工程」
硬化工程の後、外的エネルギー付与工程では、砂型20に外的エネルギーを付与して砂型20を分解させる。例えば、砂型20への外的エネルギーの付与として、管体2を振動させる。これにより、振動が砂型20に伝わり、砂型20が崩れて分解する。
【0027】
「引抜工程」
外的エネルギー付与工程の後、引抜工程では、
図6に示すように、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3から前方に引き抜く。これにより、スタブヨーク3の通し孔8が開いた状態となる。
【0028】
「排出工程」
引抜工程の後、排出工程では、
図7に示すように、マンドレル30を引き抜くことで開いた通し孔8から分解した砂型を外部に排出する。例えば、管体2内にエアを噴射し、分解した砂型を通し孔8から排出する。
【0029】
以上のように、繊維強化プラスチック製の管体2と、管体2の端部に接続し、軸線O1方向に貫通する通し孔8が形成された連結部材(スタブヨーク3)と、を備える動力伝達軸1に関して、前記した接続工程と巻付工程と硬化工程と外的エネルギー付与工程と引抜工程と排出工程とを備える製造方法とすれば、次のような効果が奏される。繊維強化プラスチックを金型に巻き付けて管体2を製造する方法においては、管体2の中央部が大径に形成された場合等、管体2の形状によっては、金型を管体2から取り出すことが困難となる。金型を取り出し可能な中子構造や可変構造にすると、金型の構造が複雑になりやすい。
【0030】
これに対し、本発明によれば、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型(砂型20)を用いることにより、管体2を形状の制約をさほど受けることなく形成でき、マンドレル30を引き抜くことで開いた通し孔8を利用し、砂型20を容易に排出できる。また、繊維強化プラスチックを砂型20と連結部材(スタブヨーク3、スタブシャフト4)とに巻き付けて管体2を形成することで、管体2と連結部材(スタブヨーク3、スタブシャフト4)とを容易に接続させることができる。
【0031】
また、スタブヨーク3の接続部7とスタブシャフト4の接続部10の各外周面を多角形状に形成したことにより、管体2の第一接続部120、第二接続部130の各内周面も多角形状に形成される。つまり、管体2とスタブヨーク3、スタブシャフト4とが多角形状部同士で係合するので、両者間の回転の動力伝達性能が向上する。
【0032】
第一実施形態では、砂型20が、中央部から両端部に向かうに連れて外径が縮径する型本体部21を備えることにより、曲げ応力が集中し易い管体2の本体部110に樽形状部が形成され、所定の曲げ強度を有することとなる。一方で、曲げ応力が集中し難い本体部110の両端部(前端部(他端部)111及び後端部(一端部)112)は、外径が小径に形成されることで軽量化されている。本体部110の中央部113においても、板厚が薄くなっていることで軽量化されている。よって、動力伝達軸1は、中央部113の所定の曲げ剛性を確保しつつ軽量化がなされ、曲げ一次共振点が向上する。
【0033】
また、フィラメントワインディング工法により繊維強化プラスチックを砂型20およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付ける方法とすれば、動力伝達軸1の製造コストを抑えることができる。
【0034】
[第二実施形態]
第二実施形態の動力伝達軸の製造方法も、第一実施形態と同様に、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3およびスタブシャフト4を接続する接続工程と、繊維強化プラスチックを型およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付けて管体2を形成する巻付工程と、管体2を硬化する硬化工程と、型に外的エネルギーを付与して、型を分解または溶解する外的エネルギー付与工程と、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3の通し孔8から引き抜く引抜工程と、マンドレル30を引き抜くことで開いたスタブヨーク3の通し孔8から、分解または溶解した型を排出する排出工程と、を備えている。第一実施形態がフィラメントワインディング工法を用いたのに対し、第二実施形態の動力伝達軸61の製造方法では、シートワインディング工法で管体2を形成することを特徴とする。
【0035】
シートワインディング工法は、例えば、
図10に示すように、回転装置48A,48Bで回転させる砂型20に対し、強化繊維に樹脂(熱硬化性樹脂)を含浸させたシート状のプリプレグ50、例えば複数の圧着ローラ51〜53を利用して巻き付けていく。フィラメントワインディング工法のヘリカル巻きでは強化繊維を軸線O1方向に沿わせて巻くことが困難であるが、シートワインディング工法によれば、プリプレグ50の内部に含まれる強化繊維を軸線O1方向に延在するように容易に配置でき、管体2の軸線O1方向の高弾性化を図れる。なお、周方向に配向する繊維としてPAN系(Polyacrylonitrile)繊維が好ましく、軸線O1方向に配向する繊維としてピッチ繊維が好ましい。
【0036】
[第三実施形態]
第三実施形態の動力伝達軸の製造方法も、第一実施形態と同様に、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3およびスタブシャフト4を接続する接続工程と、繊維強化プラスチックを型およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付けて管体2を形成する巻付工程と、管体2を硬化する硬化工程と、型に外的エネルギーを付与して、型を分解または溶解する外的エネルギー付与工程と、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3の通し孔8から引き抜く引抜工程と、マンドレル30を引き抜くことで開いたスタブヨーク3の通し孔8から、分解または溶解した型を排出する排出工程と、を備えている。第一実施形態では、砂型20が、中央部から両端部に向かうに連れて外径が縮径する型本体部21を備えていたのに対し、第三実施形態の動力伝達軸71の製造方法では、
図11に示すように、砂型20が、一端部から他端部まで外径が均一に形成された型本体部23を備えることを特徴とする。
【0037】
型本体部23の外面に強化繊維プラスチックを巻き付けることにより、管体2には、一端部から他端部まで外径が均一の本体部210が形成される。管体2の本体部210の外径を均一にすることにより、管体2の形状を簡素化でき、成型コストの低減を図れる。
【0038】
[第四実施形態]
第四実施形態の動力伝達軸の製造方法も、第一実施形態と同様に、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型が形成されたマンドレル30にスタブヨーク3およびスタブシャフト4を接続する接続工程と、繊維強化プラスチックを型およびスタブヨーク3、スタブシャフト4に巻き付けて管体2を形成する巻付工程と、管体2を硬化する硬化工程と、型に外的エネルギーを付与して、型を分解または溶解する外的エネルギー付与工程と、マンドレル30を砂型20およびスタブヨーク3の通し孔8から引き抜く引抜工程と、マンドレル30を引き抜くことで開いたスタブヨーク3の通し孔8から、分解または溶解した型を排出する排出工程と、を備えている。第一実施形態では、砂型20が、中央部から両端部に向かうに連れて外径が縮径する型本体部21を備えていたのに対し、第四実施形態の動力伝達軸81の製造方法では、
図12に示すように、砂型20が、中央部から他端部まで外径が均一に形成され、中央部から一端部に向かうに連れて外径が縮径し、外周面が軸線O1方向に曲線状に形成された型本体部24を備えることを特徴とする。
【0039】
型本体部24の外面に強化繊維プラスチックを巻き付けることにより、管体2には、中央部から他端部まで外径が均一に形成され、中央部から一端部に向かうに連れて外径が縮径し、外周面が軸線O1方向に曲線状に形成された本体部310が形成される。このような本体部310を形成すれば、管体2の形状の簡素化と強度の向上との両立を図れる。
【0040】
なお、各実施形態において、繊維強化プラスチックの含浸樹脂として熱硬化性樹脂を用いた例を挙げたが、本発明では熱可塑性樹脂を用いてもよい。熱可塑性樹脂を用いる場合には、硬化工程で行う加熱処理に替えて、熱可塑性樹脂を硬化させる冷却処理を行えばよい。
【0041】
また、外的エネルギーの付与で分解または溶解する型としては、砂型20に限定されることはなく、熱や振動等の外的エネルギーによって分解または溶解し、通し孔8からの排出が可能なものであれば他の型であってもよい。例えば、熱や振動で溶融する樹脂で成型された型などが考えられる。