特開2020-139605(P2020-139605A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-139605(P2020-139605A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】ピストン構造体、緩衝器
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/508 20060101AFI20200807BHJP
   F16F 9/32 20060101ALI20200807BHJP
   F16F 9/348 20060101ALI20200807BHJP
【FI】
   F16F9/508
   F16F9/32 L
   F16F9/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2019-37319(P2019-37319)
(22)【出願日】2019年3月1日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(72)【発明者】
【氏名】内藤 力
【テーマコード(参考)】
3J069
【Fターム(参考)】
3J069AA54
3J069CC13
3J069EE28
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】ピストン速度の低速から高速に渡る全域で適正な減衰力となるピストン構造及び緩衝器を提供すること。
【解決手段】作動流体が封入されたシリンダ3と、前記シリンダに摺動可能に挿入されて該シリンダの内部を第1室7および第2室8に画成するピストンボディ50とを備え、前記ピストンボディは、第1室と第2室を連通する流路51,52を備え、前記流路の出口側がピストンの外縁側に向いて開口しているピストン構造体5である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体が封入されたシリンダと、前記シリンダに摺動可能に挿入されて該シリンダの内部を第1室および第2室に画成するピストンボディとを備え、
前記ピストンボディは、前記第1室と前記第2室とを連通する流路を備え、
前記流路の出口側がピストンボディの外縁側に向いて開口している、ピストン構造体。
【請求項2】
前記ピストンボディの軸方向端面の前記流路の開口を囲むように突出した環状のシート部が、前記ピストンボディの周方向に配置され、
前記ピストンボディは、前記ピストンの半径方向内周側に、前記シート部と連接するボス部を備え、
前記ピストンボディの端面で、前記シート部と前記ボス部とに弁が着座し、
前記流路は、前記弁の半径方向外側に向いた開口を有している、請求項1に記載のピストン構造体。
【請求項3】
前記シート部は、互いに分離された複数の受圧部を有している、請求項1又は2に記載のピストン構造体。
【請求項4】
前記ボス部は、前記受圧部から前記ピストンボディの半径方向内側に向けて伸びた溝を有する、請求項3記載のピストン構造体。
【請求項5】
前記シート部に対し前記弁が前記シート部の半径方向外側に張り出している、請求項3記載のピストン構造体。
【請求項6】
前記シート部に複数の前記流路が開口し、複数の前記流路の開口向きが、前記ピストンボディの半径方向外側でそれぞれ異なっている、請求項5記載のピストン構造体。
【請求項7】
請求項1〜6記載のピストン構造体を備える、緩衝器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、ピストン構造体及び緩衝器に関する。
【背景技術】
【0002】
ピストンに流路を設け、シート面を有するピストン構造体として例えば、特許文献1がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
特開平10−274272号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に開示されたピストン構造体を使用すると、ピストン速度の高速域で減衰力が高くなり過ぎる傾向にある。一方、従来知られたピストン円周に円環状をなすシート面のピストンを使用すると、ピストン速度の低速域で減衰力が低くなってしまう傾向にある。
本発明は、ピストン速度の低速から高速に渡る全域で適正な減衰力となるピストン構造体及び緩衝器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、鋭意検討の結果、独立したシート面のピストンで、流体の流路の向きを出口側に向けることにより流体がより流れ易くなり、その結果、ピストン速度の低速から高速に渡る全域で適正な減衰力となる最適なピストン構造体を提供できることを知見して、発明を完成させた。
【0006】
第1実施態様は、作動流体が封入されたシリンダ(2、3)と、前記シリンダに摺動可能に挿入されて該シリンダの内部を第1室(7)および第2室(8)に画成するピストンボディ(50)とを備え、前記ピストンボディは、前記第1室と前記第2室とを連通する流路(51,52)を備え、前記流路の出口側がピストンボディの外縁側に向いて開口している、ピストン構造体(5)である。
また、前記ピストンボディの軸方向端面の前記流路(51,52)の開口を囲むように突出した環状のシート部(53,55)が、前記ピストンボディの周方向に配置され、前記ピストンボディは、前記ピストンの半径方向内周側に、前記シート部と連接するボス部(54,56)を備え、前記ピストンボディの端面で、前記シート部と前記ボス部(54,56)とに弁(57,58)が着座し、前記流路は、前記弁の半径方向外側に向いた開口が設けられていても良い。
前記シート部(53,55)は、互いに分離された複数の受圧部(531、551)を有していてもよい。
前記ボス部(56)は、前記受圧部(531、551)から前記ピストンボディの半径方向内側に向けて伸びた溝(561)を有してもよい。
前記シート部(53,55)に対し前記弁(57,58)が前記シート部(53,55)の半径方向外側に張り出していてもよい。
前記シート部(53、55)に複数の前記流路が開口し、複数の前記流路の開口向きが、前記ピストンボディの半径方向外側でそれぞれ異なっていてもよい。
また、第2実施態様は、上記第1実施形態のピストン構造体(5)を備える、緩衝器(1)である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ピストン速度の低速から高速に渡る全域で適正な減衰力となるピストン構造体及び緩衝器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】緩衝器の全体構成を説明する図である。
図2】第1実施形態のピストン構造体を示す縦断面図である。
図3】(A)は第1実施形態のピストン構造体を示す上面図であり、(B)は第1実施形態のピストン構造体を示すA−A断面図であり、(C)は第1実施形態のピストン構造体を示す下面図である。
図4】第1実施形態のピストン構造体を拡大して示す断面図である。
図5】(A)は第2実施形態のピストン構造体を示す上面図であり、(B)は第2実施形態のピストン構造体を示すB−B断面図であり、(C)は第2実施形態のピストン構造体を示す下面図である。
図6】減衰力特性を示す図である。
図7】第2実施形態の油の流れを示す図である。
図8】従来のピストン構造体を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
<実施形態1>
図1は、第1実施形態の緩衝器1の全体構成を説明する図である。
なお、以下の説明において、図1に示す緩衝器1の長手方向を軸方向と称する、また、軸方向において、緩衝器1の上側を第1方向と称し、緩衝器1の下側を第2方向と称して説明を行う、また、図1に示す緩衝器1の左右方向を半径方向と称し、中心軸側を内側、中心軸に対して離れる方向を外側と称する。
【0010】
第1実施形態の緩衝器1について説明する。
図1に示すように、第1実施形態の緩衝器1は、オイルを収容する第1シリンダ3及び第2シリンダ2と、一部が第1シリンダ3の内部に入り、軸方向に移動可能なピストンロッド4と、ピストンロッド4に固定され、第1シリンダ3の内側を摺動するピストン構造体5と、第1シリンダ3の第2方向側の底部に設けられたボトムバルブ6を有する。
【0011】
図1に示すように、緩衝器1は、半径方向に第1シリンダ3と第2シリンダ2を備える、二重管構造である。
第1シリンダ3には、内周を摺動するピストンロッド4が挿入され、第2方向側の底部にボトムバルブ6が配置される。有底の第2シリンダ2内に配置される第1シリンダ3の第1方向端には、ロッドガイド11とシール10によって、ピストンロッド4が摺動可能に封止され、ロッドガイド11とシール10は、第2シリンダ2の第1方向端部に加締めによって固定されている。また第1シリンダ3内には、流体(オイル)で満たされるとともに、第1シリンダ3と第2シリンダ2との間には、流体(オイル)とガスが収容されているリザーバ室9が形成される。
【0012】
[ピストンロッド4の構成]
ピストンロッド4は、第2方向側の端部にピストン構造体5が固定されている。ピストン構造体5が第1シリンダ3内を第1室7と第2室8に区画し、ピストン構造体5の移動に伴いピストンロッド4が第1シリンダ3の軸方向に移動可能に配置されている。
【0013】
図2はピストン構造体5の拡大図である。
図2に示すように、ピストン構造体5には、ピストンロッド4が挿入される貫通孔61が設けられ、ナット62等によりピストンロッド4にピストン構造体5が固定される。
【0014】
ピストン構造体5は、第1シリンダ3内に挿入され、第1シリンダ3内に第1室7及び第2室8を画成する。
ピストン構造体5は、ピストンボディ50と、その第1方向側に配置される弁58と、第2方向側に配置される弁57とを備えている。ピストンボディ50には、弁58が着座するシート部53が第1方向側の端面に、弁57が着座するシート部55が第2方向側の端面に、それぞれ設けられている。シート部53は、弁58を開弁させる受圧部531を形成し、シート部55は、弁57を開弁させる受圧部551を形成している。
【0015】
そして、ピストンボディ50内部には、第1室7と第2室8とを連通する複数の流路51、52が備えられている。流路51はシート部53に、流路52はシート部55にそれぞれ連通しており、流路51はピストンボディ50の第2方向から第1方向への流体の流れを、流路52は第1方向から第2方向への流体の流れを形成している。前記シート部53に着座している弁58を押し開いて流体が流れることで、減衰力を発生させる。また、シート部55に着座している弁57を押し開いて流体が流れることで、減衰力を発生させる。
【0016】
[ピストン部詳細]
図3(A)は、ピストンボディ50の上面図、図3(B)はピストンボディ50の断面図、図3(C)はピストンボディ50の下面図である。
図3(B)に示すように、ピストンボディ50は、内部を連通する流路51,52の開口側がピストン径方向外側に向けて開口している。
【0017】
流路51、52の開口部の角度は、シート部53、55に着座する弁57,58の開口側に流体の噴流が作用するような角度に、設定されており、ドリル等を用いて形成されるものである。
【0018】
また、図3(A)、図3(C)に示すようにピストンボディ50の端面には、環状のシート部53、55が形成されている。シート部53、55は、扇形状であり、ボス部54、56から半径方向外側に連続して成形され、例えばシート部53は、3つの受圧部531を有するように放射状に複数形成されている。
【0019】
環状のシート部53には、流路51が接続され、受圧部531が形成されている。また、環状のシート部55には、流路52が接続され、受圧部551が形成されている。
【産業上の利用可能性】
【0020】
図8に示す従来のピストン9には、扇形状の環状シート部94が流路91を囲むように形成され、弁92が環状シート部94に当接している構造である。流路91は弁92に対し直角に形成されているため、流路91を流れる噴流が弁92に直角に当たり乱流が発生し、流路抵抗となる恐れがある。
【0021】
図6に示す減衰力特性について説明する。
図8に示す従来構造のピストン9では、図6に破線で示すYのように、減衰力特性が、中・高速域で高くなる特性となる傾向にある。
【0022】
また、従来周知の円環形状シート部を有するピストン(図示無し)では、減衰力特性が図6に破線で示すZにように低速域で2乗孔特性となり、立ち上がりが遅い特性となる傾向にある。
【0023】
これに対し、本実施形態のピストン構造体5によれば、図6にXで示すように、低速域では従来のYで表される減衰力特性と同等となり、中・高速域では飽和特性の減衰力が得られる。
【0024】
このように、本実施形態によれば、低速からスムーズに立ち上がり、高速では飽和した減衰力特性が得られることで、低速域からしっかりした応答性と中・高速域での乗り心地の良さが得られ、その結果、最適な減衰力特性が得られる。
【0025】
<第2実施形態>
図5(A)は、第2実施形態のピストンボディ150の上面図、図5(B)はピストンボディ150の断面図、図5(C)はピストンボディ150の下面図である。図5(A)〜図5(C)において、図1〜4と同様の構成には、これらの図で使用した符号と同符号を付し、その説明を適宜省略する。
【0026】
図5(B)に示すように第2実施形態のピストンボディ150も、弁57の開口側に向いて噴流が当たるため、弁57の初期の受圧面積に対し、弁開口後は、弁57のシート部55に当接していた部分にも噴流が直接当たる。これにより、弁57の受圧面積を実質拡大させることができ、弁57が開きやすくなる。また、弁57の開口へ流体が直接流れ込むので、従来よりも流体が流れ易くなる。
【0027】
また、図2に示すように、弁57には、シート部55より半径方向外側にせり出す張出部57aが設けられており、弁58には、シート部53より半径方向外側にせり出す張出部58aが設けられている。張出部57a、58aにより弁57、58の開弁時に噴流があたる部分が増加し、受圧面積を実質広げることができるので、弁57、58がより開き易くなる。第1実施形態のピストンボディ50及び第2実施形態のピストンボディ150の何れのピストンボディを弁57、58と共に用いた場合であっても、この効果を奏することができる。
【0028】
ピストンボディ50のボス部54、56には、ピストン径方向内側に向けた溝541、561がそれぞれ設けられている。この溝541、561により、弁57、58の張付きを防止すると共に、弁57、58の受圧面積を拡大させることができるので、弁57、58の全体を開弁させる方向に作用させやすくなる。
【0029】
また、弁57には、シート部55より半径方向外側にせり出す張出部57aが設けられており、弁58には、シート部53より半径方向外側にせり出す張出部58aが設けられている。張出部57a、58aにより弁57、58の開弁時に噴流があたる部分が増加し、受圧面積を実質広げることができるので、弁57、58がより開き易くなる。
【0030】
上記説明では、環状のシート部53、55が備えられる形態について説明したが、本発明は当該形態に限定されない。本発明において、シート部53、55の形状は独立した扇形状とすることが好ましいが、従来周知の円環形状のシート部でも適用できる。
【0031】
[減衰力特性]
図6にYで示すように、従来構造である図8の扇形状シート部のピストンボディ90では、減衰力の特性が、低速域から中・高速域までほぼ直線状となり、高速域では減衰力が高く硬い乗り心地となる。
【0032】
また、図6にZで示すように、従来周知の円環形状のシート部のピストンボディ(図示なし)では、減衰力特性が、低速域では急激に上がり、中・高速域では飽和特性となり屈曲点のあるブロー特性となるため、低速域での応答性が低下する。
【0033】
これに対し、図6にXで示すように、本案提供のピストン構造では、低速域から応答性が良く、高速域の減衰力を下げることが可能となり飽和特性に近づけることができる。
【0034】
また、開口側がピストン径方向外側に向けて開口している流路を内部に有するピストンに、従来周知の円環シート部形状を適用した場合であっても、弁57、58の開き出しを早くでき、減衰力の屈曲点が解消されるため、低速域から中高速域への繋がりがスムーズとなり、より乗り心地を良くすることができる。
【0035】
また、本案ピストンボディ50は、弁57、58の積層構造(枚数)や、流路51、52の大きさ、ピストン径、シート部53、55の面積に応じて、大きさを適宜変化させることができるので、これを適宜選択することで車の仕様にあった設定が行える。
【0036】
また、本案ピストンボディ150も、弁57、58の積層構造(枚数)や、流路151、152の大きさ、ピストン径、シート部53、55の面積に応じて、大きさを適宜変化させることができるので、これを適宜選択することで車の仕様にあった設定が行える。
【0037】
また、上記第2の実施形態では、ピストンボディ150内の流路151,152を複数設ける。例えば流路152として、3つ流路152a、152b、152cを設ける場合、図7に示すように、各流路152a、152b、152cの開口向きを、流路152a、152b、152cが開口している受圧部に臨む弁の円周方向にそれぞれ角度を付けて(広角度に)設けることが好ましく、ドリル等を用いて穴加工することで、任意の角度に穴向きを設定できる。
【0038】
これにより、流路152から流れ出た噴流を、受圧部551に臨む弁57の全面に直接当てやすくなるので、弁57がより一層開き易くなる。その結果、流体が更に流れ易くなるので、中・高域の減衰力を下げる効果が期待できる。
【0039】
また、流路151、152を複数設ける場合、流路151、152へと流体を導く導入口は1つでも良く、流路151、152の数と同数であっても良い。導入口が1つであっても、開口側を3つに分割することで、流路151、152を複数設けることによって得られる上記効果を奏することができる。
【0040】
なお、本発明において、シート部の形状や数は、上記形態に限定されない。本発明は、例えば第1実施形態のピストンボディ50のシート部53、55、及び、弁57、58からなる群より選択された何れか1以上にスリットを設けても良く、シート部53、55の数を4以上とする変形を行うなど、シート部形状や数は、必要とされる仕様に応じて適宜変更することができる。
【0041】
例えば、3つのシート部53、55の大きさを、それぞれ大、中、小とすることにより、受圧面積が大、中、小の3つのシート部53、55を有する形態にしたり、各シート部53、55に連通する流路51,52の内径をそれぞれ変えたりすることも可能である。
【0042】
このほか、第1実施形態と第2実施形態とを組み合わせる等の変形は容易に行えるものであり、本発明の範囲は図示された又は説明された詳細そのものに限定されないことは勿論である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8