【解決手段】減衰力発生装置(10)は、油の流れによって生じる減衰力を調節する弁棒(56)を駆動させるコイル(54)と、コイル(54)を収納するケース(51)と、ケース(51)の少なくとも一部を覆うとともにケース(51)との間に断熱室(92)を形成するカバー(91)と、を備えている。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔実施形態1〕
本発明の一実施形態について、
図1〜3に基づいて説明すれば、以下のとおりである。
【0011】
本実施形態では、減衰力発生装置を備える油圧緩衝器の一実施形態としてフロントフォークを例示して以下の説明を行う。なお、本発明の減衰力発生装置は、リアダンパーに搭載されてもよい。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態に係る減衰力発生装置10を備える油圧緩衝器1の構成を示す断面図である。本実施形態における油圧緩衝器1は、二輪車や三輪車等の鞍乗型車両において車輪4(
図4参照)の両側面に左右一対に取り付けられる装置であり、車輪4を懸架する懸架装置として機能する。一対の懸架装置のうちの一方は、コイルばねを有しダンパーが内蔵されていないものであってもよい。
【0013】
図1に示すように、油圧緩衝器1は、テレスコピック型であり、車体側ブラケット(図示せず)に連結される円筒状のチューブ11(車体側チューブ)と、車輪側ブラケット13が連結された円筒状のチューブ12(車軸側チューブ)とを備えている。チューブ12は、ロッド16を軸としてチューブ11に対して相対的に移動し、チューブ11の内部に出入りする。チューブ12の内部には、チューブ11とチューブ12とを伸長方向に付勢するコイルばね14が配置されている。
【0014】
油圧緩衝器1は、路面の凹凸による衝撃が車輪4に入力されると、チューブ12がチューブ11に出入りして伸縮する。油圧緩衝器1が縮む行程を圧縮行程と称し、油圧緩衝器1が伸びる行程を伸長行程と称する。本実施の形態では、チューブ11にチューブ12が出入りする倒立型の油圧緩衝器1について説明するが、油圧緩衝器1を、チューブ11がチューブ12に出入りする正立型にすることは当然可能である。
【0015】
油圧緩衝器1は、チューブ12の中心軸を軸としてチューブ12の車軸側に取り付けられるシリンダ15と、前記中心軸を軸としてチューブ11の車体側に取り付けられたロッド16(中空ロッド)とを備えている。
【0016】
シリンダ15の車体側の開口部は、ロッドガイド17によって閉塞され、ロッド16の車軸側はロッドガイド17を貫通する。ロッドガイド17は、ロッド16を摺動可能に支持する。ロッドガイド17の車軸側に突出したロッド16には、チューブ11およびチューブ12の最伸長時に反力を発生するリバウンドばね18が移動可能に配されている。
【0017】
シリンダ15の内部は油(作動油)が充満し、ロッド16の車軸側端部に取り付けられた囲い部材42に対して設けられたピストン19が、チューブ11およびチューブ12の伸縮時にシリンダ15の内周面を摺動する。ピストン19は下方室20と上方室21とにシリンダ15を区画する。
【0018】
図1に示すように、ロッド16は、油を流通させる流路22(内部流路)を内部に有する中空の軸部材である。ロッド16は、車軸側端部において開口する開口部23(車軸側開口部)と、車体側端部において開口する開口部24(車体側開口部)とを有している。本実施の形態では開口部23は、シリンダ15内の上方室21の内部に位置している。上方室21とは、シリンダ15の内部を摺動するピストン19によって区画される油室のうちの車体側の油室である。
【0019】
油圧緩衝器1では、圧縮行程および伸長行程の両方において、油は上方室21から流路22に流入し、流路22の内部を車軸側から車体側へ向かって流れ、ロッド16の車体側に配された減衰力発生装置10を通過する。
【0020】
シリンダ15の車軸側の端部にはベースバルブ27が配され、チューブ11の車体側に配されたキャップ部材25に減衰力発生装置10が配される。減衰力発生装置10は、ロッド16の開口部24から流出する油の流れによって減衰力を発生させる装置(減衰力発生機構)であり、可変絞り弁の開口面積を電子制御することにより、当該可変絞り弁を油が通過するときに生じる減衰力の大きさを制御する。
【0021】
チューブ11の車体側の開口はキャップ部材25によって塞がれており、チューブ12の車軸側の開口は車輪側ブラケット13によって塞がれている。チューブ11およびチューブ12の内部に封入される気体や油が漏れ出ないように、チューブ11とチューブ12とが重複する部分に形成される筒状の隙間はオイルシール等で塞がれる。
【0022】
油圧緩衝器1は、チューブ11およびチューブ12に囲まれたシリンダ15の外側の空間に油を貯留し、貯留された油の液面(図示せず)から車体側に気室が形成される。当該空間がリザーバ26として機能する。
【0023】
なお、油圧緩衝器1における、減衰力発生装置10以外の部分の構造については、特に限定されるものではなく、公知の構造および部品を適宜採用することができる。
【0024】
(従来の油圧緩衝器における減衰力発生装置および本発明の概要)
従来、電子制御式の減衰力発生装置が車軸側に配置された油圧緩衝器が知られている。一般に、電子制御式の減衰力発生装置では、装置内に設けられたコイルを用いて鉄芯を移動させる機構を有しており、このコイルの発熱により、減衰力発生装置の表面温度が上昇し得る。
【0025】
前述の特許文献1に記載のように、電子制御式の減衰力発生装置を車体側に配置した場合、減衰力発生装置はハンドルの付近に存在する。そのため、車軸側に配置する場合には配慮が不要であった減衰力発生装置の発熱への対処を求められるという新たな課題が生じる。
【0026】
鞍乗型車両の走行中に、減衰力発生装置を空冷する方策も考えられる。しかし、鞍乗型車両のハンドル付近には走行風を整流するための風防(いわゆるカウル)が設けられていることが多く、そのため、減衰力発生装置の発熱について、走行中の空冷のみによって対処することは難しい。
【0027】
そこで本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。減衰力発生装置のケースを熱伝導性の低い物質にて製造することが考えられるが、その場合、減衰力発生装置の、物理的強度、耐熱性、外観、屋外環境下での耐久性、等の点で問題が生じ得る。
【0028】
更なる検討の結果、減衰力発生装置の筐体を部分的に2重構造とするとともに、コイルにて発生した熱の外側表面への伝達を抑制する断熱室を設ける構造とすることにより、減衰力発生装置の表面温度の上昇を抑制することを着想し、本発明の減衰力発生装置を想到した。この減衰力発生装置は、減衰力発生装置を車体側に配置する構造の油圧緩衝器に好適に用いることができる。
【0029】
(減衰力発生装置の詳細)
本実施形態の減衰力発生装置10について、
図2を用いて以下に詳細に説明する。
図2は、減衰力発生装置10の構成を示す断面図である。
【0030】
図2に示すように、減衰力発生装置10は、キャップ部材25に形成された孔部58に挿着されて、キャップ部材25に固定される。キャップ部材25には、ロッド16の開口部24に連通する流路35が形成されている。流路35は、その中心軸がロッド16の中心軸C1と一致する円筒状の通路である。減衰力発生装置10は、ロッド16の流路22およびキャップ部材25の流路35を通って車体側へ移動してきた油の流れによって減衰力を発生させる。
【0031】
始めに、減衰力発生装置10の内部構造について説明する。減衰力発生装置10は、駆動部50を備えている。駆動部50は、円筒状のケース(筐体)51の内側に収容されたコア52および有底筒状のコア53と、コア53とケース51との間に配置されたコイル54と、コア53の内側に配置されたヨーク55と、ヨーク55に支持された弁棒56と、弁棒56の両端を移動自在に支持するブッシュ57とを備えている。
【0032】
コイル54は、ソレノイドコイルであり、磁界を発生させることができる。コア53は固定鉄芯であり、ヨーク55は可動鉄芯であるため、コイル54に通電して磁界が発生すると、弁棒56の中心軸C2に沿う軸方向の操作力がヨーク55に与えられる。前記操作力によって弁棒56が駆動する。弁棒56の先端には、弁体64が接続されており、弁棒56が中心軸C2の方向に移動することに伴い弁体64も移動する。
【0033】
減衰力発生装置10は、キャップ部材25に形成された凹部61に挿入される先端カバー90を備えている。先端カバー90は、流路35を通ってきた油を上流側流路80に流入させる開口部63を備えている。上流側流路80は、先端カバー90によって画定される流路であり、その下流に、中心軸C2を含む下流側流路81が形成されている。
【0034】
開口部63から流入した油は、上流側流路80、下流側流路81および流路62を通り、リザーバ26に流出する。この油の流れにおいて、弁体64の先端部と、下流側流路81の入口を形成する開口部84との間の隙間流路の開口面積が弁体64の移動によって調節されることによって、減衰力の発生量が調節される。
【0035】
また、減衰力発生装置10は、押圧力発生部82およびばね83を備えている。ここで、中心軸C2の軸方向における、キャップ部材25から遠ざかる方向を一端側とし、チューブ11に近づく方向を他端側とする。電源の喪失等によって駆動部50からの操作力が消失したときには、ばね83により押圧力発生部82が他端側へ移動する。この動作によって上流側流路80と下流側流路81とが短絡し(フェイルオープン)、流路22からリザーバ26への作動油の流れを確保できるようになっている。
【0036】
鞍乗型車両のハンドル等に駆動部50を操作するスイッチ(図示せず)を配置することにより、操縦者による駆動部50の操作を可能にし、操縦者の好みに合わせて車両の乗り心地を改善できる。また、鞍乗型車両に入力される振動、車体の速度や加速度、ブレーキ操作、懸架装置の伸縮状態等を検出し、その検出結果に応じて駆動部50が作動するようにしてもよい。
【0037】
なお、減衰力発生装置10は、作動油へ付与する流路抵抗を調節可能となっていればよく、具体的な態様は特に限定されるものではない。減衰力発生装置10の内部構造として、公知の構成を適宜採用することができる。
【0038】
(減衰力発生装置が備えるカバー)
減衰力発生装置10では、駆動部50におけるコイル54の発熱に起因して、コイル54を収容するケース51の温度が上昇する。そこで、本実施形態の減衰力発生装置10は、ケース51の少なくとも一部を覆うカバー91をさらに備えている。
【0039】
減衰力発生装置10がキャップ部材25に挿着された状態において、減衰力発生装置10の大気に露出している部分を露出部10aとし、キャップ部材25に埋没している部分を埋没部10bと称する。また、ケース51は、弁棒56の中心軸C2に沿う方向における一端側と他端側とを有している。露出部10aにはケース51の一端側の一部が含まれ、埋没部10bにはケース51の一端側の残部およびケース51の他端側が含まれる。
【0040】
カバー91は、ケース51の側面の少なくとも一部を覆う筒形状を有している。より詳細には、カバー91は、ケース51の側面のうち、露出部10aの略全体を覆うとともに、埋没部10bの大半を覆っている。ただし、カバー91は、埋没部10bの全部を覆っているわけではない。
【0041】
ケース51は、磁性体材料によって形成されていることが好ましい。コイル54の周りの部品を透磁性の高い磁性体とすることにより大きな磁束密度を発生させることができ、固定鉄芯であるコア52が、可動鉄芯であるヨーク55を吸着する力(電磁力)を高めることができる。そのため、コイル54によって弁棒56へ操作力を付与しやすくなる。
【0042】
カバー91は、ケース51とは異なる種類の材料で形成されていてもよい。カバー91は、例えばアルマイト(表面処理によって酸化アルミニウムの被膜で覆われたアルミニウム)からなるものであってもよい。カバー91をアルマイトで形成することによって、表面の色を美麗なものとすることができる。そのため、外観が美観な減衰力発生装置10を実現することができる。
【0043】
略円筒形状であるカバー91は、本体91C、本体91Cの一端側に形成された脚部91A、および本体91Cの他端側に形成された脚部91Bを有している。脚部91Aおよび脚部91Bは、カバー91が有する略円筒形状の内側に向かって突出している。そのため、ケース51とカバー91の本体91Cとの間に断熱室92が形成されている。
【0044】
断熱室92は、一部が露出部10aに位置するとともに、残部が埋没部10bに位置している。また、断熱室92は、コイル54の一端側の周囲を覆うように形成されている。
ただし、断熱室92を形成する位置は、図示したものに限定されず、断熱室92は、コイル54の周囲の一部に形成されていればよい。
【0045】
減衰力発生装置10は、ケース51の一端側開口部に挿入されたキャップ95を備えており、キャップ95の、ケース51から突出している部分の側面には凹部102が形成されている。キャップ95は、減衰力発生装置10の筐体の一部を構成する部材であるといえる。カバー91の脚部91Aの先端には、さらに内側に突出する突起部101が形成されており、突起部101は、凹部102と嵌合する。この嵌合によってケース51とカバー91との相対位置が固定される。突起部101の先端と凹部102の底部との間にOリングが挿入されていてもよい。
【0046】
断熱室92の内部には空気が存在しており、断熱室92は、ケース51およびカバー91よりも熱伝導率が低くなっている。そのため、ケース51からカバー91への伝熱を効果的に抑制することができる。断熱室92は、気密性を有していてもよいし、外部空間と連通していてもよい。
【0047】
コイル54の発熱によって温度が上がり易いケース51の一部を断熱室92が覆うことにより、減衰力発生装置10の表面(すなわちカバー91)の温度の上昇を効果的に抑制することができる。通常、減衰力発生装置10におけるコイル54から比較的遠い部分(例えば、減衰力発生装置10における一端側の先端部)の温度は、問題にならない程度にしか上昇しない。そのため、ケース51の全体をカバー91および断熱室92で覆う必要はない。
【0048】
本実施形態では、埋没部10bにおいて、コイル54の他端側の周囲は、カバー91および断熱室92によって覆われていない。これにより、コイル54からの熱の一部が、キャップ部材25に伝熱し易くすることができる。そのため、コイル54の周辺に熱が貯まることを抑制することができる。その結果、減衰力発生装置10の内部の電子制御部品が熱により動作不良を起こす可能性を低減し、減衰力発生装置10の安全性を高めることができる。
【0049】
また、コイル54は樹脂でモールドされている。仮にモールドの不良等が生じた場合であっても、断熱室92の内部に空気(絶縁体)が存在していることにより、減衰力発生装置10の安全性をより一層高めることができる。
【0050】
なお、コイル54をモールドしている樹脂材料は、コイル54に最大許容電流を流した場合のコイル54の発熱に対して耐久性を有するように選択されている。また、仮にコイル54が異常な発熱をした場合には、コイル54への通電を停止する制御を行う制御手段が機能する。
【0051】
断熱室92を空気が含まれている空間とする場合、断熱室92を比較的容易に形成することができるため、減衰力発生装置10の製造コストを比較的安価にすることができる。このような効果を得ることを意図しないのであれば、断熱室92に空気以外の熱伝導率が低い材質を充填してもよい。例えば、断熱室92を密閉空間とし、その内部に熱伝導率が低い気体、液体または粉体を充填してもよい。断熱室92に充填する物質は、基本的に熱伝導率が低いほどふさわしい。
【0052】
(その他の構成)
また、減衰力発生装置10は、シリンダ15の上方に斜めに配置されているので、斜めに配置しない場合に比べて、チューブ11の上部(キャップ部材25から上の部分)の軸方向(中心軸C1方向)の寸法を短縮できる。その結果、油圧緩衝器1を車両に取り付けたときの操縦者の違和感を軽減できる。
【0053】
(油圧緩衝器1における油の流れ)
図3は油圧緩衝器1の油圧回路を示す図である。
図3に示すように油圧緩衝器1は、ピストン19に減衰弁28(伸側減衰弁)およびチェック弁30(圧側チェック弁)を備え、ベースバルブ27に減衰弁31(圧側減衰弁)およびチェック弁33(伸側チェック弁)を備えている。
【0054】
減衰弁28は、伸長行程において、上方室21から下方室20へ流通する油が絞り流路29を通るときに減衰力を発生させるための弁である。減衰弁31は、圧縮行程において、下方室20からリザーバ26へ流通する油が絞り流路32を通るときに減衰力を発生させるための弁である。
【0055】
チェック弁30は、圧縮行程において、下方室20から上方室21へ油を流通させるための弁である。チェック弁33は、伸長行程において、リザーバ26から下方室20へ油を流通させるための弁である。
【0056】
ロッド16に配置されるチェック弁構造の整流装置34は、上方室21の圧力がリザーバ26の圧力に比べて高いときに、上方室21から流入路43を介して流路22へ入る油の流れを許容し、リザーバ26の圧力が上方室21の圧力に比べて高いときに、流路22から上方室21への油の流出を阻止する装置である。減衰力発生装置10は可変絞り弁として機能する。
【0057】
伸長行程では、上方室21の容積の縮小に伴い上方室21の圧力がリザーバ26の圧力に比べて高くなるため、整流装置34は、上方室21から流路22へと向かう油の流れを許容し、上方室21の油は、流路22を通って車体側へ流れ、リザーバ26へ流出する。その途中において減衰力発生装置10が油に流路抵抗を付与することにより減衰作用が生じる。
【0058】
上方室21の余剰の作動油の一部は、減衰弁28を通過して下方室20へ流出する。このとき、絞り流路29による減衰作用が生じる。膨張する下方室20には、リザーバ26の油がチェック弁33から流入する。
【0059】
一方、圧縮行程では、上方室21の容積の増大に伴い、チェック弁30を介して下方室20から上方室21へ油が流入することに加え、整流装置34の働きにより、流路22から上方室21への油の流出が阻止される。
【0060】
さらに、下方室20ではロッド16の浸入した体積に相当する量の油が余剰となるため、余剰の油は減衰弁31を通過してリザーバ26に流出する。このとき、絞り流路32による減衰作用が生じる。しかし、絞り流路32を通過する油の流路抵抗は、チェック弁30を通過する油の流路抵抗より大きいので、下方室20で余剰となった油の一部は、チェック弁30から上方室21へ流入する。
【0061】
上方室21では、下方室20から流入した油の一部が余剰となるため、余剰の油は整流装置34を通過して流路22を車体側へ流れ、リザーバ26に流出する。その途中において減衰力発生装置10が油に流路抵抗を付与することにより減衰作用が生じる。
【0062】
このように油圧緩衝器1では、圧縮行程および伸長行程の両方において、油は上方室21から流路22に流入し、流路22の内部を車軸側から車体側へ向かって流れる。
【0063】
(作用効果)
以上のように減衰力発生装置10は、油の流れによって生じる減衰力を調節する弁棒56と、磁界を発生させることにより弁棒56を駆動させるコイル54と、コイル54を収納するケース51と、ケース51の少なくとも一部を覆うカバー91であって、カバー91とケース51との間に断熱室92を形成するカバー91とを備えている。
【0064】
断熱室92は、ケース51およびカバー91よりも熱伝導率が低くなっている。そのため、コイル54の発熱に起因してケース51の温度が上昇した場合において、ケース51からカバー91へコイルの熱が伝達することを断熱室92によって効果的に抑制することができる。したがって、減衰力発生装置10の表面温度が上昇することを抑制できる。
【0065】
また、断熱室92の内部には、空気が存在していてもよい。この構成により、減衰力発生装置10の製造が容易になる。
【0066】
さらに、ケース51は、磁性体であり、カバー91は、ケース51とは異なる種類の材料で形成されていてもよい。
【0067】
従来、外観の美麗な減衰力発生装置を実現する場合、減衰力発生装置のケースの材料としてアルミニウムを用いることが考えられるが、この場合、減衰力発生装置の表面温度が上昇し易くなってしまう。これに対して、減衰力発生装置10では、例えばアルマイトで形成されたカバー91を備えることにより、外観を美麗なものとしつつ、かつコイルの熱の伝達を抑制して表面温度の上昇を効果的に抑制することができる。
【0068】
また、カバー91は、ケース51の周囲を覆う筒形状を有していてよい。ケース51の全周を覆うことにより、より確実にコイル54の熱から操縦者を保護することができる。
【0069】
〔実施形態2〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。なお、説明の便宜上、前記実施形態にて説明した部材と同じ機能を有する部材については、同じ符号を付記し、その説明を繰り返さない。
【0070】
図4は、本実施形態に係る減衰力発生装置100を備える油圧緩衝器1Aの構成を示す断面図である。実施形態1の減衰力発生装置10では、カバー91は、ケース51の側面の大部分を覆っていた。これに対して、本実施形態の減衰力発生装置100では、
図4に示すように、ケース51は、弁棒56の軸方向に沿う方向における一端側と、弁棒56の軸方向に沿う方向における他端側とを有しており、カバー91は、ケース51の前記一端側のみを覆っている。換言すれば、カバー91は、ケース51の他端側を覆っていない。前記一端側とは、ケース51における、露出部10aの側であり、前記他端側とは、ケース51における、埋没部10bの側を意味する。
【0071】
このように、キャップ部材25から露出しているために操縦者の体が触れやすい露出部10aをカバー91によって覆うことにより、コイル54の熱から操縦者を保護することができるとともに、カバー91によって覆われていないケース51の部分を介して、コイル54の熱を外部に放熱することができる。
【0072】
〔実施形態3〕
本発明の他の実施形態について、以下に説明する。油圧緩衝器1が搭載される鞍乗型車両として、例えば自動二輪車が挙げられる。油圧緩衝器1は、例えば、自動二輪車が備えるフロントフォークである。油圧緩衝器1を備える自動二輪車の一実施形態について、
図5〜
図7を用いて説明すれば、以下のとおりである。
図5は、油圧緩衝器1を搭載した自動二輪車2を示す側面図である。
図6は、自動二輪車2の要部を示す正面図である。
【0073】
図5および
図6に示すように、油圧緩衝器1は、自動二輪車2が備える2本のフォークのうちの少なくとも一方である。なお、自動二輪車2が備えるフロントフォークの具体的な形式としては様々な種類のものを採用することが可能であり、2本のフォークのうちの両方が油圧緩衝器1にて形成されていてもよい。
【0074】
本実施形態における自動二輪車2が備える油圧緩衝器1は、減衰力発生装置10を車体側の端部に備えている。減衰力発生装置10のケース51は、大気に露出している露出部10aと、露出していない埋没部10bとを有しており、カバー91は露出部10aの少なくとも一部を覆っている(
図2、
図4参照)。
【0075】
図7は、減衰力発生装置10が、ハンドル3の近傍に配置された状態を示す斜視図である。
図7に示すように、減衰力発生装置10は、自動二輪車2におけるハンドル3の近くに位置しており、露出部10a(
図2、
図4参照)が自動二輪車2の進行方向に傾くように突出している。しかし、減衰力発生装置10は、カバー91によって表面温度の上昇が抑制されているため、仮に、自動二輪車2の操縦者の体(例えば手または腕)が減衰力発生装置10に接触した場合であっても、搭乗者が熱さを感じることを防止することができる。その結果、前記搭乗者の快適性を向上させることができる。
【0076】
また、減衰力発生装置10が操縦者の体に触れないように減衰力発生装置10の位置を考慮して自動二輪車2の構造を設計することを要しない。したがって、自動二輪車2におけるフロントフォーク周辺の設計の自由度を高くすることができる。なお、減衰力発生装置100をハンドル3の近傍に配置する場合にも同様の効果が得られる。
【0077】
以上のように、油圧緩衝器1は、自動二輪車2に配されるフロントフォークであって、減衰力発生装置10を車体側の端部に備えている。このようなフロントフォークにおいて、減衰力発生装置10のケース51は、一端側と他端側とを有し、前記一端側の一部が外部に露出するように車体側の端部に配されている。そして、カバー91は、露出している前記一端側の少なくとも一部を覆っている。この構成により、コイル54が発熱した場合でも安全に搭乗できる自動二輪車を実現できる。
【0078】
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、前記説明において開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
前記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る減衰力発生装置は、油の流れによって生じる減衰力を調節する弁棒と、磁界を発生させることにより前記弁棒を駆動させるコイルと、前記コイルを収納する筐体と、前記筐体の少なくとも一部を覆うカバーであって、前記カバーと前記筐体との間に断熱室を形成するカバーとを備え