特開2020-139863(P2020-139863A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ミルボンの特許一覧

特開2020-139863ケラチン用組成物に配合される成分の評価方法、ケラチン用組成物の製造方法
<>
  • 特開2020139863-ケラチン用組成物に配合される成分の評価方法、ケラチン用組成物の製造方法 図000005
  • 特開2020139863-ケラチン用組成物に配合される成分の評価方法、ケラチン用組成物の製造方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-139863(P2020-139863A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】ケラチン用組成物に配合される成分の評価方法、ケラチン用組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/15 20060101AFI20200807BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20200807BHJP
   A61K 8/9789 20170101ALI20200807BHJP
   A61Q 5/00 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 5/02 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 5/06 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 5/12 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 3/00 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 1/12 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 1/04 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 1/02 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 1/10 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20200807BHJP
   A61Q 19/10 20060101ALI20200807BHJP
【FI】
   G01N33/15 Z
   G01N33/68
   A61K8/9789
   A61Q5/00
   A61Q5/02
   A61Q5/06
   A61Q5/12
   A61Q3/00
   A61Q1/12
   A61Q1/04
   A61Q1/02
   A61Q1/10
   A61Q19/00
   A61Q19/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-36216(P2019-36216)
(22)【出願日】2019年2月28日
(71)【出願人】
【識別番号】592255176
【氏名又は名称】株式会社ミルボン
(72)【発明者】
【氏名】西田 桃子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 廉
【テーマコード(参考)】
2G045
4C083
【Fターム(参考)】
2G045DA36
4C083AA122
4C083CC02
4C083CC04
4C083CC05
4C083CC06
4C083CC11
4C083CC12
4C083CC13
4C083CC14
4C083CC23
4C083CC28
4C083CC31
4C083CC32
4C083CC33
4C083CC38
4C083CC39
4C083DD23
4C083DD27
4C083DD30
4C083DD31
4C083EE12
4C083EE13
4C083EE28
4C083EE29
(57)【要約】
【課題】ケラチン変性の抑制、又は、未変性ケラチンへの再生を促進するものであるかの評価に適した成分の評価方法、及び、ケラチン用組成物の製造方法の提供。
【解決手段】成分の評価方法は、溶液(I)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(I)と、この処理後の溶液(I)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(I)を定める定量処理(I)と、溶液(II)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(II)と、この処理後の溶液(II)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(II)を定める定量処理(II)と、量(I)に基づく値及び量(II)に基づく値を比較する比較処理(I−II)と、を備え、変性処理(I)における溶液(I)又は変性処理(I)と定量処理(I)の間の溶液(I)に被験成分(I)を配合するものであり、ケラチン用組成物の製造方法は、評価した成分をその組成物に配合する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケラチンを処理するためのケラチン用組成物に配合される成分の評価方法であって、
溶液(I)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(I)と、
前記変性処理(I)後の溶液(I)における未変性の前記ケラチン及びその誘導体の量(I)を定める定量処理(I)と、
溶液(II)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(II)と、
前記変性処理(II)後の溶液(II)における未変性の前記ケラチン及びその誘導体の量(II)を定める定量処理(II)と、
前記量(I)に基づく値及び前記量(II)に基づく値を比較する比較処理(I−II)と、を備え、
前記変性処理(I)における溶液(I)又は前記変性処理(I)と定量処理(I)の間の溶液(I)が、被験成分(I)が配合されたものであることを特徴とする
ケラチン用組成物に配合される成分の評価方法。
【請求項2】
前記変性処理(II)における溶液(II)又は前記変性処理(II)と定量処理(II)の間の溶液(II)が、被験成分(II)が配合されたものである請求項1に記載のケラチン用組成物に配合される成分の評価方法。
【請求項3】
前記比較処理(I−II)の比較の結果、より高い値であれば、前記溶液(I)又は前記溶液(II)におけるケラチン及び/又はその誘導体の維持率が高いと判断する請求項1又は2に記載のケラチン用組成物に配合される成分の評価方法。
【請求項4】
前記維持率が、ケラチン及び/又はその誘導体の変性状態から未変性状態への再生に基づくものである請求項3に記載のケラチン用組成物に配合される成分の評価方法。
【請求項5】
前記定量処理(I)で定める量(I)及び前記定量処理(II)で定める量(II)が、αヘリックスの測定に基づく量である請求項1〜4のいずれか1項に記載のケラチン用組成物に配合される成分の評価方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載のケラチン用組成物に配合される成分の評価方法により評価された成分を配合するケラチン用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪、皮膚などのケラチンに対して使用される組成物に配合される成分のスクリーニングなどに適したケラチン用組成物に配合される成分の評価方法、及び当該方法で評価した成分を配合するケラチン用組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ケラチンを構成に有している毛髪や皮膚に適用されるヘアトリートメント、化粧水などのケラチン用組成物に配合される成分について、公知の成分のみならず、新規成分の研究開発においては、いかなる効能が得られるかの関心の度合いは高い。一般消費者にとって、その効能は官能的に評価されるのが通常であるが、官能評価では、毛髪や皮膚のケラチンンに対する影響を評価するには困難である場合が生じるため、官能評価によらない成分の評価方法が必要となる。
【0003】
例えば特許文献1は、毛髪、爪、皮膚に対する原料の相互作用を予想可能とするべく、所定のペプチドの溶液の蛍光強度と、同ペプチドと共に被験原料が配合された溶液の蛍光強度と、を比較するスクリーニング方法を開示する。また、毛髪への浸透性を蛍光顕微鏡で観察するといった原料の評価も知られている。このように、官能評価では得られない情報を得るための評価方法も必要とされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−59252号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、公知の通り、熱、光によってケラチンは変性し、変性したケラチンは、タンパク質本来の構造が乱れた状態であり、変性の抑制、又は、変性した後にタンパク質本来の構造を有する未変性ケラチンへの再生を促進する成分であるかの評価が可能であれば、ケラチン用組成物の研究開発に有用である。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、ケラチン用組成物に配合される成分が、ケラチン変性の抑制、又は、未変性ケラチンへの再生を促進するものであるかの評価に適した成分の評価方法、及び、当該方法で評価した成分を配合するケラチン用組成物の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るケラチンを処理するためのケラチン用組成物に配合される成分の評価方法は、
溶液(I)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(I)と、
前記変性処理(I)後の溶液(I)における未変性の前記ケラチン及びその誘導体の量(I)を定める定量処理(I)と、
溶液(II)におけるケラチン及び/又はその誘導体を変性させる変性処理(II)と、
前記変性処理(II)後の溶液(II)における未変性の前記ケラチン及びその誘導体の量(II)を定める定量処理(II)と、
前記量(I)に基づく値及び前記量(II)に基づく値を比較する比較処理(I−II)と、を備え、
前記変性処理(I)における溶液(I)又は前記変性処理(I)と定量処理(I)の間の溶液(I)が、被験成分(I)が配合されたものであることを特徴とする。
【0008】
本発明に係る評価方法において、前記変性処理(II)における溶液(II)又は前記変性処理(II)と定量処理(II)の間の溶液(II)が、被験成分(II)が配合されたものであっても良い。被験成分(II)が配合されていれば、ケラチン変性の抑制又は変性ケラチンから未変性ケラチンへの再生に関して、被験成分(I)と被験成分(II)との直接比較が可能である。
【0009】
本発明に係る評価方法において、前記比較処理(I−II)における比較の結果、より高い値であれば、前記溶液(I)又は前記溶液(II)におけるケラチン及び/又はその誘導体の維持率が高いと判断すると良い。ここで、「ケラチン及び/又はその誘導体の維持率」とは、ケラチン及び/若しくはケラチン誘導体の変性抑制に基づくもの、並びに/又は、ケラチン及び/若しくはケラチン誘導体の変性状態から未変性状態への再生に基づくものを意味する。
【0010】
本発明に係る評価方法において、前記定量処理(I)で定める量(I)及び前記定量処理(II)で定める量(II)は、例えば、αヘリックスの測定に基づく量である。
【0011】
本発明に係るケラチン用組成物の製造方法は、本発明に係る評価方法により評価された成分を配合するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る評価方法によれば、変性処理(I)、(II)後の溶液(I)、(II)における被験成分(I)、(II)の有無又は相違がある場合の量(I)及び(II)に基づく値の比較を比較処理(I−II)で行うから、被験成分(I)によるケラチンの変性抑制、ケラチンの変性から未変性への再生を評価できる。
【0013】
また、本発明の製造方法によれば、被験成分(I)又は(II)によるケラチンの変性抑制作用、ケラチンの変性から未変性への再生作用の評価を把握した上で、毛髪、皮膚などに使用するケラチン用組成物の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例における溶液(II)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。
図2】実施例における被験成分(I)を配合した溶液(I)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態に基づき、本発明を以下に説明する。
本実施形態の成分の評価方法(以下、「本評価方法」と称することがある。)は、変性処理(I)及び定量処理(I)を経て得られる所定量(I)と、変性処理(II)及び定量処理(II)を経て得られる所定量(II)と、に基づく値を比較処理(I−II)で比較するものであって、本評価方法で評価される成分は、ケラチンを処理するためのケラチン用組成物に配合されるものである。そして、上記評価された成分を配合してケラチン用組成物を製造すれば、ケラチン変性の抑制、又は、未変性ケラチンへの再生促進の予測が可能である。
【0016】
(変性処理(I))
本評価方法の変性処理(I)は、被験成分(I)、並びに、ケラチン及び/又はケラチン誘導体が配合された溶液(I)におけるケラチン及び/又はケラチン誘導体を変性させる処理である。ここで、本評価方法での溶液(I)は、水溶液である。
【0017】
被験成分(I)は、ケラチン変性の抑制、又は、未変性ケラチンへの再生を促進する作用を有するかの評価対象となる成分である。被験成分(I)は、植物抽出物などのケラチン用組成物に配合可能な成分であれば特に限定されず、一種又は二種以上の成分を被験成分(I)として溶液(I)に配合する。
【0018】
上記の通り、ケラチン、ケラチン誘導体、又は、ケラチン及びケラチン誘導体が溶液(I)に配合され、ケラチンを配合する場合、加水分解されていないケラチン及び加水分解ケラチンから選ばれた一種又は二種以上を配合すると良く、ケラチン誘導体(「ケラチン誘導体」とは、ケラチン又は加水分解ケラチンを、カチオン化、シリル化、カルボキシメチル化などにより化学修飾したもの。)を配合する場合、ケラチン誘導体から選ばれた一種又は二種以上を配合すると良い。加水分解されていないケラチンを含む市販品が化粧品原料として流通しており、その化粧品原料としては、ケラチンを含むクローダジャパン社製「ケラテック IFP−HMW」などが挙げられる。加水分解ケラチンを含む市販の化粧品原料としては、一丸ファルコス社製「プロティキュート Hガンマ」、成和化成社製「プロモイス KR−30」などが挙げられる。ケラチン誘導体を含む市販の化粧品原料としては、カチオン化された加水分解ケラチンであるヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチンを含む一丸ファルコス社製「プロティキュート Cガンマ」などが挙げられる。また、カルボキシメチル化などのカルボキシ基を有する基により化学修飾されたケラチン誘導体は、例えば、特開2012−121831号公報、特開2010−132595号公報で開示されている。その他、ヒト表皮由来ケラチンなどを、ケラチン及び/又はケラチン誘導体として溶液(I)に配合しても良い。
【0019】
ケラチン及び/又はケラチン誘導体の変性は、タンパク質の変性方法として公知の方法により行うと良い。熱、光によりタンパク質が変性することが知られており、本評価方法においても、同様の変性方法が適宜選定される。例えば、溶液(I)を90℃以上100℃以下に加熱させれば、その変性が可能である。
【0020】
(定量処理(I))
本評価方法の定量処理(I)は、変性処理(I)後の溶液(I)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(I)を定めるものである。
【0021】
αヘリックス、β構造、βターンといったケラチン及びその誘導体の二次構造が変性により変化するから、その二次構造を測定すれば、量(I)が定まる。当該二次構造の測定方法は、円偏光二色性(CD)スペクトル測定、赤外線スペクトル測定、旋光分散測定などの公知の測定方法から選択される。例えばCDスペクトル測定による場合、測定波長例は、αヘリックスでは208〜209nm、222nm、又は191〜193nm、β構造では216〜218nmである。
【0022】
(変性処理(II))
本評価方法の変性処理(II)は、ケラチン及び/又はケラチン誘導体が配合された溶液(II)におけるケラチン及び/又はケラチン誘導体を変性させる処理である。ここで、本評価方法での溶液(II)は、水溶液である。
【0023】
溶液(II)には、溶液(I)と同様にケラチン、ケラチン誘導体、又は、ケラチン及びケラチン誘導体を配合すると良い。ケラチンを配合する場合、加水分解されていないケラチン及び加水分解ケラチンから選ばれた一種又は二種以上を配合すると良く、ケラチン誘導体を配合する場合、ケラチン誘導体から選ばれた一種又は二種以上を配合すると良い。加水分解されていないケラチンを含む市販品が化粧品原料として流通しており、その化粧品原料としては、ケラチンを含むクローダジャパン社製「ケラテック IFP−HMW」などが挙げられる。加水分解ケラチンを含む市販の化粧品原料としては、一丸ファルコス社製「プロティキュート Hガンマ」、成和化成社製「プロモイス KR−30」などが挙げられる。ケラチン誘導体を含む市販の化粧品原料としては、カチオン化された加水分解ケラチンであるヒドロキシプロピルトリモニウム加水分解ケラチンを含む一丸ファルコス社製「プロティキュート Cガンマ」などが挙げられる。また、カルボキシメチル化などのカルボキシ基を有する基により化学修飾されたケラチン誘導体は、例えば、特開2012−121831号公報、特開2010−132595号公報で開示されている。その他、ヒト表皮由来ケラチンなどを、ケラチン及び/又はケラチン誘導体として溶液(II)に配合しても良い。
【0024】
溶液(II)には、本評価方法の目的に応じて、被験成分(II)が配合される。被験成分(II)を配合しない場合、上記被験成分(I)の配合有無による評価が可能であり、被験成分(II)を配合する場合、上記被験成分(I)と被験成分(II)の配合の相違による評価が可能である。
【0025】
被験成分(II)は、上記被験成分(I)と同様、ケラチン変性の抑制、又は、未変性ケラチンへの再生を促進する作用を有するかの評価対象となる成分である。被験成分(II)は、植物抽出物などのケラチン用組成物に配合可能な成分であれば特に限定されず、一種又は二種以上の成分を被験成分(II)として溶液(II)に配合する。また、被験成分(II)と被験成分(I)について、同じ成分を選定し、かつ、異なる配合量とすれば、配合量依存によるケラチン変性の抑制等の評価が可能である。
【0026】
変性処理(II)におけるケラチン及び/又はケラチン誘導体の変性は、変性処理(II)と同じ変性方法を選択すると良い。
【0027】
(定量処理(II))
本評価方法の定量処理(II)は、変性処理(II)後の溶液(II)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(II)を定めるものである。量(II)は、上記定量処理(I)における量(I)と同じ測定方法により、定めると良い。
【0028】
(比較処理(I−II))
本評価方法の比較処理(I−II)は、定量処理(I)で定めた量(I)に基づく値と定量処理(II)で定めた量(II)に基づく値を比較する。この比較の結果、より高い値であれば、ケラチン及び/又はその誘導体の維持率が高いと判断する。当該「維持率」は、ケラチン及び/若しくはケラチン誘導体の変性抑制に基づくもの、並びに/又は、ケラチン及び/若しくはケラチン誘導体の変性状態から未変性状態への再生に基づくものを意味する。そして、変性抑制に基づく維持率が高いと判断された成分は、ケラチン用組成物においても、ケラチン変性の抑制に優れると評価され、変性状態から未変性状態への再生に基づく維持率が高いと判断された成分は、ケラチン用組成物においても、未変性ケラチンへの再生促進に優れると評価される。
【0029】
比較処理(I−II)での上記比較では、変性処理(I)前の溶液(I)及び変性処理(II)前の溶液(II)におけるケラチン及びその誘導体の種類、濃度を同じくした場合には、量(I)と量(II)を直接比較しても良い。この直接比較であれば、ケラチン用組成物における成分のケラチン変性抑制を評価できる。
【0030】
また、比較処理(I−II)での上記比較では、変性処理(I)の前の溶液(I)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(Ia)、及び、変性処理(II)の前の溶液(II)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(IIa)を、量(I)及び量(II)と同様に定めておき、例えば、量(Ia)に対する量(I)の比率と量(IIa)に対する量(II)の比率との比較によって、ケラチン用組成物における成分のケラチン変性抑制を評価できる。
【0031】
また、ケラチン用組成物における成分の未変性ケラチンへの再生促進の評価を行うには、変性処理(I)、(II)における溶液(I)、(II)の未変性のケラチン及びその誘導体の量に基づく比較により可能となる。例えば、次の比較を行うと良い。変性処理(I)の前の溶液(I)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(Ia)、変性処理(I)中の溶液(I)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(Ib)、変性処理(II)の前の溶液(II)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(IIa)、及び、変性処理(II)中の溶液(II)における未変性のケラチン及びその誘導体の量(IIb)を、量(I)及び量(II)と同様に定めておき、下記数式1で算出される値と、下記数式2で算出される値とを比較する。
【数1】
【数2】
【0032】
本評価方法は、以上の通りである。本評価方法では、被験成分(I)の有無又は被験成分(I)、(II)の比較を、変性処理における溶液に被験成分を配合するものであったが、これに替えて、変性処理と定量処理の間の溶液に被験成分を配合し、被験成分(I)の有無又は被験成分(I)、(II)の比較を行うことも可能である。例えば、被験成分(I)、(II)の比較を行う場合、変性処理(I)と定量処理(I)の間の溶液(I)に被験成分(I)を配合し、変性処理(II)と定量処理(II)の間の溶液(II)に被験成分(II)を配合する。
【0033】
(ケラチン用組成物)
本実施形態におけるケラチン用組成物は、毛髪、皮膚、爪などのケラチンを処理するものであれば、特に限定されない。このケラチン用組成物としては、例えば、ヘアトニック、ヘアクリーム、シャンプー、リンス、コンディショナー、整髪料等の頭皮又は毛髪用の化粧料;化粧水、乳液、クリーム、美容液、化粧油、リップクリーム、ハンドクリーム、洗顔料、クレンジング料等のスキンケア化粧料;ファンデーション、メイクアップ下地、ほほ紅、アイシャドウ、マスカラ、アイライナー、アイブロウ、オーバーコート剤、口紅、リップグロス等のメイクアップ化粧料;が挙げられる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。
【0035】
(被験成分(I))
果径20mm以内の北海道産ハックナイン種の落花後1月以内の幼果(未熟果)に対し、13倍量の20%(w/w)1,3−ブチレングリコール(1,3−Butylene Glycol)水溶液を加え、低温(1〜15℃)にて2日間抽出した。溶媒を除去した固形分濃度は0.3質量%であった。
【0036】
(溶液(I)、溶液(II))
ヒト表皮由来ケラチン(SIGMA−ALDRICH社製)を5mM NaPO/NaHPO buffer,50mM NaCl,pH 7.4の緩衝液にて十分に透析した後、測定可能な濃度まで同緩衝液で希釈したもの。溶液(II)サンプルは、緩衝液で希釈したのみであるのに対し、リンゴ幼果抽出物添加の溶液(I)は、溶液中に1容量%となるよう成分を添加した。
【0037】
(変性処理(I)、変性処理(II))
溶液(I)、(II)を20.0〜98.0℃まで1.0℃/minで昇温させ、10分間静置した後、ペルチェ温調により20.0℃まで冷却した。
【0038】
(CDスぺクトル測定)
溶液(I)、(II)における未変性ヒト表皮由来ケラチンを、円偏光二色性(CD)スペクトル測定により行った。この測定では、円二色分散計J−720(日本分光株式会社)及びペルチェ式恒温キュベットホルダーPTC−423L(日本分光株式会社)を用い、分光光度計用の石英セルで光路長1mmのものを使用した。測定条件は以下のとおりとした。
測定セル:石英1mmセル
測定波長:190〜250nm
感度:スタンダード
温度範囲:20.0〜98.0℃
昇温速度:1.0℃/min
【0039】
溶液(I)、(II)に関して、下記手順(1)〜(3)に従って、変性処理(I)、(II)前と定量処理(I)、(II)では波長190〜250nmのCDスペクトル測定を行い、変性処理(I)、(II)前、変性処理(I)、(II)の97.6〜98.0℃の温度範囲、定量処理(I)、(II)では波長222nmのCDスペクトル測定を行った。
(1)変性処理(I)、(II)前のCDスペクトル測定
20.0℃にて波長190〜250nmでのCDスペクトル測定を行った。
(2)変性処理(I)、(II)中のCDスペクトル測定
測定波長を222nmに固定して、溶液(I)、(II)を20.0〜98.0℃まで1.0℃/minで昇温測定し、98.0℃での測定終了時から10分間静置した後、ペルチェ温調により20.0℃まで冷却した。
(3)定量処理(I)、(II)でのCDスぺクトル測定
20.0℃で10分間静置した後、20.0℃にて波長190〜250nmのCDスペクトル測定を行った。
【0040】
図1は、CDスペクトル測定において、溶液(II)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、変性処理(II)前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、定量処理(II)でのチャートを示す。
【0041】
図2は、CDスペクトル測定において、被験成分(I)を配合した溶液(I)についてCDスペクトル測定を行ったときの波長(nm)に対するθobs(mdeg)のチャートである。バツ印及びこれらを結ぶ曲線は、変性処理(I)前のチャートを示し、黒丸印及びこれらを結ぶ曲線は、定量処理(I)でのチャートを示す。
【0042】
下記表1は、溶液(I)、(II)について、αヘリックスを対象とした波長222nmのCDスペクトル測定値、及びケラチンの変性から未変性ケラチンの再生促進を評価するための算出値(最下段)である。表1の算出値は、被験成分(I)を配合した溶液(I)の値が大きく、未変性ケラチンの再生を促進させたことを示している。
【表1】

図1
図2