(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-139947(P2020-139947A)
(43)【公開日】2020年9月3日
(54)【発明の名称】SGLT2阻害薬の感受性の判定方法及びSGLT2阻害薬に対する感受性マーカー
(51)【国際特許分類】
G01N 33/50 20060101AFI20200807BHJP
C12Q 1/28 20060101ALI20200807BHJP
C12Q 1/26 20060101ALI20200807BHJP
A61K 45/00 20060101ALN20200807BHJP
A61P 43/00 20060101ALN20200807BHJP
A61P 3/10 20060101ALN20200807BHJP
【FI】
G01N33/50 Z
C12Q1/28
C12Q1/26
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P3/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2020-28154(P2020-28154)
(22)【出願日】2020年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2019-31366(P2019-31366)
(32)【優先日】2019年2月25日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(71)【出願人】
【識別番号】519064894
【氏名又は名称】大崎市
(71)【出願人】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】高山 忠輝
(72)【発明者】
【氏名】薄井 正寛
(72)【発明者】
【氏名】工藤 恵子
【テーマコード(参考)】
2G045
4B063
4C084
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045CA25
2G045DA31
4B063QA01
4B063QA19
4B063QA20
4B063QQ03
4B063QQ68
4B063QR02
4B063QR03
4B063QR04
4B063QS36
4B063QX01
4C084AA17
4C084ZC35
(57)【要約】
【課題】SGLT2阻害薬の感受性を判定する方法、及びSGLT2阻害薬に対する感受性マーカーを提供すること。
【解決手段】被験者の生体試料におけるバイオマーカーを測定し、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することを含む、SGLT2阻害薬の感受性を判定する方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者の生体試料におけるバイオマーカーを測定し、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することを含む、SGLT2阻害薬の感受性を判定する方法。
【請求項2】
バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
生体試料が血液である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
生体試料が、他の糖尿病治療薬を処方しているかどうかに関わらずSGLT2阻害薬を服用していない被験者のものである、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項5】
バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用していない被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が5μg/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定する、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用していない被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10 μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者のものである、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項8】
バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が5μg/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬が、スルホニル尿素薬、DPP−4阻害薬、チアゾリジン薬またはメトホルミンである、請求項7から9の何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
SGLT2阻害薬の服用の後におけるバイオマーカー値を指標にしてSGLT2阻害薬の感受性を判定する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項12】
SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値を指標にしてSGLT2阻害薬の感受性を判定する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、請求項11または12に記載の方法。
【請求項14】
SGLT2阻害薬の服用の開始後におけるバイオマーカー値の変化を指標にして、SGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定する、請求項1から3の何れか一項に記載の方法。
【請求項15】
SGLT2阻害薬の服用の開始後における1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上であることを指標にして、SGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定する、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
被験者が、糖尿病患者である、請求項1から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
1,5−アンヒドログルシトールからなる、SGLT2阻害薬に対する感受性マーカー。
【請求項18】
請求項1から16の何れか一項に記載の方法において使用するためのSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
【請求項19】
1,5−アンヒドログルシトールまたはその誘導体をピラノースオキシダーゼまたはL−ソルボースオキシダーゼまたは1,5−アンヒドログルシトール脱水素酵素または1,5−アンヒドログルシトール−6−リン酸脱水素酵素を用いて定量する1,5−アンヒドログルシトール定量用試薬を含む請求項18に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
【請求項20】
ピラノースオキシダーゼ(PROD)、ペルオキシダーゼ(POD)および発色試薬を含む、請求項18に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
【請求項21】
発色試薬が、4−アミノアンチピリン(4−AAP)およびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンナトリウム二水和物(TOOS)である、請求項20に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者の生体試料におけるバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することを含む、SGLT2阻害薬の感受性を判定する方法に関する。本発明はさらに、SGLT2阻害薬に対する感受性マーカーに関する。
【背景技術】
【0002】
SGLT2(ナトリウム−グルコース共輸送タンパク2:sodium glucose co−transporter type 2)阻害薬は、糖尿病治療薬として日本で見いだされ、現在では世界的に開発及び販売されている。SGLT2阻害薬は、腎臓にあるSGLT2を特異的に阻害することにより、腎臓でのグルコース再吸収を抑制する。血中のグルコースは、腎臓で濾過された後、腎尿細管にあるトランスポーター(SGLT2など)を介して再吸収される。SGLT2阻害薬は、グルコースと拮抗することで、この再吸収を阻害し、グルコースは尿中に排泄されることで血中のグルコース濃度を下げる。
【0003】
一方、糖尿病マーカーとしては、血糖値、ヘモグロビンA1c(HbA1c)、グリコアルブミン(glycoalbumin:GA)、フルクトサミン、および1,5−アンヒドログルシトール(以下、1,5−AGと記載することがある)などが知られている。
【0004】
1,5−AGは、天然に存在するポリオールである。1,5−AGは、人体で生合成または代謝されることは少なく、主に食物と共に腸から吸収されて、腎臓から排出されることで、体内濃度はほぼ一定量に保たれている。1,5−AGはグルコースに類似した構造を有することから、その吸収および排泄は、グルコーストランスポーターにより行われている。特に、1,5−AGは、主に腎細尿管上にあるSGLT4を介して、尿中より再吸収されると考えられている。糖尿病において、尿中に過剰にグルコースが存在する場合には、1,5−AGの再吸収はグルコースに阻害され、1,5−AGは尿中に排泄される。そのため、尿糖の出現に応じて血中1,5−AG値が低下することを利用して、1,5−AGは、糖尿病の症状を把握するためのマーカーとして使用されている。1,5−AGは糖尿病マーカーとして、その測定試薬が開発され、体外診断用医薬品として販売されている(ラナ1,5AGオート リキッド、日本化薬製:およびデタミナーL 1,5−AG、協和メデックス製)。特許文献1〜3には、1,5−アンヒドログルシトール定量用試薬キット、1,5−アンヒドログルシトール測定用キット、および1,5−アンヒドログルシトールの測定方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2812676号公報
【特許文献2】特許第4544598号公報
【特許文献3】特許第5301156号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】D.A.Balisら、J.Diabetes、2014年、vol.6、p.378−381
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の通り、1,5−AGは、血糖指標として使用されてきたが、SGLT2阻害薬の使用例においては、そのメカニズムにより、血糖値に関わらず、1,5−AG値が低下することが推測され、糖尿病のコントロールにおける測定意義についての検討は行われていない。例えば、非特許文献1に記載のようにD.A.BalisらはSGLT2阻害薬の一つであるカナグリフロジン水和物を投与した患者における血中1,5−AG値を測定し、その結果を報告している。彼等は、SGLT2阻害薬投与患者の場合、1,5−AGは血糖指標としては不正確な結果を示す可能性があると結論している。また、SGLT2阻害薬は、糖尿病治療薬として使用されているが、SGLT2阻害薬の感受性の判定方法についてはこれまで知られていない。本発明は、臨床で使用可能なSGLT2阻害薬の感受性を判定する方法、及びSGLT2阻害薬に対する感受性マーカーを提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、被験者の生体試料におけるバイオマーカーを測定し、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明によれば、以下の発明が提供される。
<1> 被験者の生体試料におけるバイオマーカーを測定し、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することを含む、SGLT2阻害薬の感受性を判定する方法。
<2> バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールである、<1>に記載の方法。
<3> 生体試料が血液である、<1>または<2>に記載の方法。
<4> 生体試料が、他の糖尿病治療薬を処方しているかどうかに関わらずSGLT2阻害薬を服用していない被験者のものである、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<5> バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用していない被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が5μ g/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定する、<4>に記載の方法。
<6> バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用していない被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、<4>に記載の方法。
<7> 生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者のものである、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<8> バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が5μg/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定する、<7>に記載の方法。
<9> バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、<7>に記載の方法。
<10> SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬が、スルホニル尿素薬、DPP−4阻害薬、チアゾリジン薬またはメトホルミンである、<7>から<9>の何れか一に記載の方法。
<11> SGLT2阻害薬の服用の後におけるバイオマーカー値を指標にしてSGLT
2阻害薬の感受性を判定する、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<12> SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値を指標にしてSGLT2阻害薬の感受性を判定する、<11>に記載の方法。
<13> SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定する、<11>または<12>に記載の方法。
<14> SGLT2阻害薬の服用の開始後におけるバイオマーカー値の変化を指標にして、SGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定する、<1>から<3>の何れか一に記載の方法。
<15> SGLT2阻害薬の服用の開始後における1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上であることを指標にして、SGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定する、<14>に記載の方法。
<16> 被験者が、糖尿病患者である、<1>から<15>の何れか一に記載の方法。<17> 1,5−アンヒドログルシトールからなる、SGLT2阻害薬に対する感受性マーカー。
<18> <1>から<16>の何れか一に記載の方法において使用するためのSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
<19> 1,5−アンヒドログルシトールまたはその誘導体をピラノースオキシダーゼまたはL−ソルボースオキシダーゼまたは1,5−アンヒドログルシトール脱水素酵素または1,5−アンヒドログルシトール−6−リン酸脱水素酵素を用いて定量する1,5−アンヒドログルシトール定量用試薬を含む<18>に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
<20> ピラノースオキシダーゼ(PROD)、ペルオキシダーゼ(POD)および発色試薬を含む、<18>に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
<21> 発色試薬が、4−アミノアンチピリン(4−AAP)およびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンナトリウム二水和物(TOOS)である、<20>に記載のSGLT2阻害薬の感受性判定キット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SGLT2阻害薬の感受性を簡便に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、SGLT2阻害薬の投与前と投与後における1,5−AG値の度数分布を示す図である。
【
図2】
図2は、SGLT2阻害薬の有効群と無効群における投与前の1,5−AG値の箱ひげ図である。
【
図3】
図3は、SGLT2阻害薬投与前の1,5−AG値、GA値、eGFR値をSGLT2阻害薬有効群の診断に用いた場合のROC曲線である。
【
図4】
図4は、SGLT2阻害薬投与前の1,5-AG値を10μg/mL、7.5μg/mL、5μg/mLでわけた場合の、HbA1c改善率の箱ひげ図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について更に詳細に説明する。
本発明によるSGLT2阻害薬の感受性を判定する方法は、被験者の生体試料におけるバイオマーカーを測定し、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することを含む方法である。
【0013】
被験者としては、特に限定されないが、SGLT2阻害薬の感受性を判定することが必要な被験者が好ましい。SGLT2阻害薬は、現在は糖尿病治療薬として使用されていることから、被験者としては糖尿病患者であることが好ましい。
【0014】
生体試料としては、血液や間質液、唾液、涙、汗、尿など、特に限定されないが、血液や尿などが好ましい。血液としては、いかなる組織由来の血液でもよいが、通常は末梢血が好ましい。血液の採取方法としては常法(例えば静脈採血、指先 刺など)により行うことができる。採取した血液はそのまま使用してもよいし、常法(例えば遠心分離、濾過など)により細胞成分(赤血球、白血球、血小板など)と分離した液体成分(血漿)を使用してもよい。血液を凝固させて血小板や凝固因子を分離した液体成分(血清)を使用してもよい。
【0015】
生体試料としては、SGLT2阻害薬を服用していない被験者のものでもよいし、SGLT2阻害薬を服用している被験者のものでもよい。
【0016】
また、生体試料としては、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者のものでもよいし、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用していない被験者のものでもよい。
【0017】
SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬としては、スルホニル尿素薬(例えばグリベンクラミド、グリクラジド、グリメピリドなど)、DPP−4阻害薬(例えばシタグリプチンリン酸塩水和物、ビルタグリプチン、アログリプチン安息香酸塩、リナグリプチン、テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物、アナグリプチン、サキサグリプチン水和物、トレラグリプチン水和物、オマリグリプチンなど)、チアゾリジン薬(例えばピオグリタゾン塩酸塩など)、ビグアナイド薬(例えばメトホルミン塩酸塩、ブホルミン塩酸塩など)、速効型インスリン分泌促進薬(例えばナテグリニド、ミチグリニドカルシウム水和物、レパグリニド)、α−グルコシダーゼ阻害薬(例えばアカルボース、ボグリボース、ミグリトールなど)など経口薬のほか、インスリン、GLP−1受容体作動薬(例えばリラグルチド、エキセナチドなど)などの注射薬も挙げることができる。上記の中でも、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬としては、スルホニル尿素薬、DPP−4阻害薬、チアゾリジン薬またはメトホルミンが好ましい。
【0018】
本発明において測定するバイオマーカーとしては、その測定値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することができるものであれば特に限定されない。本発明の実施例においては、SGLT2阻害薬の感受性を判定することができるマーカーとして、1,5−アンヒドログルシトールが見出された。
【0019】
バイオマーカーの測定は、常法により行うことができる。バイオマーカーとして、1,5−アンヒドログルシトールを使用する場合には、1,5−アンヒドログルシトールの測定方法は特に限定されず文献公知の方法が使用できるが、例えば特許文献1〜3に記載された方法に準じて測定することができる。また1,5−アンヒドログルシトールは、ラナ(登録商標)1,5AGオート リキッド(日本化薬製)およびデタミナー(登録商標)L 1,5−AG(協和メデックス製)などの市販の診断薬を用いて測定することもできる。またGcell 1,5−anhydroglucitol(北京九強生物技術股▲ ふん▼有限公司)、Diazyme 1,5−anhydroglucitol assay(Diazyme Laboratories Inc.)等、海外で販売されている診断薬を用いて測定することもできる。
【0020】
SGLT2阻害薬としては、イプラグリフロジンL−プロリン(スーグラ(登録商標))、ダパグリフロジンプロピレングリコール水和物(フォシーガ(登録商標))、ルセオグリフロジン水和物(ルセフィ(登録商標))、トホグリフロジン水和物(アプルウェイ(登録商標)、デベルザ(登録商標))、カナグリフロジン水和物(カナグル(登録商標))、エンパグリフロジン(ジャディアンス(登録商標))などを挙げることができる。また、これらSGLT2阻害薬と他の糖尿病治療薬との配合剤としては、カナグリフロジン/テネリグリプチン配合錠(テネリア(登録商標))、イプラグリフロジン/シタグリプチン配合錠(スージャヌ(登録商標))、エンパフリグロジン/リナグリプチン配合錠(トラディアンス(登録商標))、などを挙げることができる。さらに、SGLT2と同時にSGLT1を阻害するものも含め、SGLT2阻害能を有するものであれば、特に限定されない。
【0021】
本発明においては、測定されたバイオマーカー値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定する。
本発明において、感受性とは、SGLT2阻害薬の薬効が得られることを意味する。例えば、SGLT2阻害薬を投与した場合のHbA1c値が投与前におけるHbA1c値と比較して10%以上改善する場合には、SGLT2阻害薬に感受性を有すると判定することができる。感受性が低い原因としては、尿糖閾値が高く尿糖が出難い等、患者自身の特性に起因することもあり得るが、腎機能の低下による場合、他の糖尿病治療薬により血糖値が十分改善されている場合等も考えられ、特定の要因によるものに限るものではない。
【0022】
本発明の一例においては、バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用していない被験者の血液であり、測定されたバイオマーカー値が5μg/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定することができ、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定することができる。
【0023】
本発明の別の例においては、バイオマーカーが、1,5−アンヒドログルシトールであり、生体試料が、SGLT2阻害薬を服用せず、SGLT2阻害薬以外の糖尿病治療薬を服用している被験者の血液で、測定されたバイオマーカー値が5μg/mL以下である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が高いと判定することができ、測定されたバイオマーカー値が7.5〜10μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定することができる。ただし、この指標とするバイオマーカー値は患者の状態または併用する糖尿病治療薬の種類等により、医師が個々に設定してもよい。
【0024】
本発明のさらに別の例においては、SGLT2阻害薬の服用の後におけるバイオマーカー値を指標にしてSGLT2阻害薬の感受性を判定することができる。即ち、SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値を指標にしてSGLT2阻害薬の感受性を判定することができる。例えば、SGLT2阻害薬の服用開始の1週間後またはそれ以降における1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上である場合に、SGLT2阻害薬の感受性が低いと判定することができる。
【0025】
本発明のさらに別の例においては、SGLT2阻害薬の服用の開始後におけるバイオマーカー値の変化を指標にして、被験者におけるSGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定することができる。SGLT2阻害薬の服用により、例えば2μg/mL未満であった1,5−アンヒドログルシトール値が、2μg/mL以上に上昇した場合に、SGLT2阻害薬の効果が減弱していることを判定することができる。このバイオマーカー値は、患者の状態等により、医師が個々に設定すればよい。効果の減弱は、尿糖閾値や腎機能等患者の状態変化による場合、他の糖尿病治療薬の影響、薬の服用忘れ等、様々な原因によりもたらされるものであり、その原因は特に限定されるものではない。
【0026】
本発明によれば、測定したバイオマーカー値を指標にすることにより、SGLT2阻害薬の感受性を判定することができる。従って、本発明によれば、SGLT2阻害薬による効果を期待できる被験者を効率的に選別することができる。その結果、SGLT2阻害薬による治療を適切に行うことができる被験者に、SGLT2阻害薬を投与することができる。
【0027】
本発明において、SGLT2阻害薬の感受性を有すると判定された場合には、被験者に対してSGLT2阻害薬を投与することが好ましい。
【0028】
本発明において、SGLT2阻害薬の感受性を有さないと判定された場合には、SGLT2阻害薬の効果を期待することができず、効果が期待できないSGLT2阻害薬の投与を続けた場合には、副作用の増大が懸念される。本発明によるSGLT2阻害薬の感受性の判定方法は、そのようなSGLT2阻害薬の投与に伴う副作用の増大を防ぐことにも貢献する。
【0029】
[SGLT2阻害薬の感受性判定キット]
本発明はさらに、上記した本発明によるSGLT2阻害薬の感受性を判定する方法において使用するためのSGLT2阻害薬の感受性判定キットに関する。該キットとしては、1,5−アンヒドログルシトール定量用試薬を含むキットが挙げられる。該1,5−アンヒドログルシトール定量法としては、例えば酵素比色法、電気化学法などが知られている。即ち、1,5−アンヒドログルシトールまたはその誘導体をピラノースオキシダーゼ(PROD)またはL−ソルボースオキシダーゼまたは1,5−アンヒドログルシトール脱水素酵素または1,5−アンヒドログルシトール−6−リン酸脱水素酵素等を使用して1,5−アンヒドログルシトールを定量する。さらにペルオキシダーゼ(POD)を使用してもよい。また発色試薬を用いてもよく、該発色試薬としては、以下の表に示す酸化カップリング発色型色原体、酸化発色型色原体、還元発色型色原体を使用することができる。酸化カップリング発色型色原体の例としては、表1と表2であり、表1に記載の色素のいずれかと表2に記載の色素のいずれかを組み合わせて使用することができる。または、酸化発色型色原体、還元発色型色原体としては、例として表3、表4に記載の色素を使用することができる。
電気化学法では電子メディエーターを使用してもよく、該電子メディエーターとしては、例えば特開2017−134063に記載のようにフェリシアン系化物、キノン系化合物、オスミウム錯体またはそのポリマー体、フェロセン系化合物、フェノチアジン系化合物、フェノキサジン系化合物、フェナジン系化合物、インドフェノール系化合物、ジフェニルアミン系化合物又はフェノール系化合物が挙げられる。
【0034】
本発明のSGLT2阻害薬の感受性判定キットには、上記の酵素、発色試薬または電子メディエーターが適宜選ばれて含まれていればよい。
【0035】
即ち、1,5−AGの酸化酵素としてPRODを用いて1,5−AGの2位の水酸基を酸化し、発生する過酸化水素を、PODを用いる比色法で検出する発色試薬を含むキットが好ましい。該発色試薬としては、過酸化水素の検出に使用される公知の試薬が挙げられ、例えば、4−アミノアンチピリン(4−AAP)およびN−エチル−N−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)−3−メチルアニリンナトリウム二水和物(TOOS)の使用が好ましい。
【0036】
本発明のキットには、必要により上記以外の構成要素が含まれていてもよい。上記以外の構成要素としては、例えば、ポジティブコントロール、ネガティブコントロール、キャリブレーション用標準溶液、本発明のキットを使用して1,5−AGを測定する方法を記載した取扱説明書などが挙げられる。更に、SGLT2阻害薬の感受性の判定方法に関する説明書または添付文書が含まれることが好ましい。
【0037】
本発明によれば、上記のSGLT2阻害薬の感受性判定キットを使用して、被験者の生体試料における1,5−アンヒドログルシトールを測定し、測定された1,5−アンヒドログルシトール値を指標としてSGLT2阻害薬の感受性を判定することができる。
【0038】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1:
外来で通院中の2型糖尿病合併の冠動脈疾患患者で、経口血糖降下薬のみでは十分な血糖管理が得られない30例(男性28例・女性2例、平均年齢70.5±8.1歳)を対象とした。投与前の随時尿糖が陽性の患者は対象外とした。SGLT2阻害薬(イプラグリフロジン50mg:30例)を単独あるいは他の経口血糖降下薬に追加して3ヶ月間投与した。追加投与群の併用糖尿病治療薬の内訳は、SU薬10例、DPP−4阻害薬19例、チアゾリジン9例、メトホルミン4例であり、平均併用薬数は2.4種類であった。
観察期間中、他の糖尿病治療薬は変更しなかった。
【0040】
SGLT2阻害薬投与前および投与3ヶ月後に、1,5−AG、HbA1c、随時尿糖(U−Sugar)、LDLコレステロール(LDL−C)、ヘマトクリット(Ht)、NT−proBNP、eGFR(推算糸球体濾過値)を測定し、各指標の投与前後の変化を検討した。また、SGLT2阻害薬投与前の1,5−AG値が13μg/mL未満の症例(男性19例)について、各指標の投与前後の変化を検討した。
【0041】
1,5−AGは酵素法(前記のラナ1,5AGオート リキッド、日本化薬株式会社製)、HbA1cはHPLC法(東ソー株式会社製)、随時尿糖は試験紙法(栄研化学株式会社製)、LDLコレステロールは酵素法(積水メディカル株式会社製)、NT−proBNPはELC−EIA法(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社製)で測定した。
【0042】
測定の結果を、表5及び表6、
図1に示す。
表5及び表6において、結果はmean±SDで示し、統計解析は対応のあるt検定を行い、p<0.05を統計学的に有意とした。
【0043】
【表5】
【0044】
【表6】
【0045】
上記の結果からSGLT2阻害薬の非投与時における1,5−AGの測定意義としては以下を挙げることができる。
(1)薬物治療開始時または変更時の短期間の治療効果の判定
(2)HbA1cが良好な患者の食後高血糖(食事後に血糖値が異常に上昇すること)の把握
(3)食後高血糖を改善する薬剤の治療効果の判定
【0046】
またSGLT2阻害薬の投与時における1,5−AGの測定意義としては以下を挙げることができる。
(1)投与1週間後の1,5−AG測定による薬効の確認
投与1週間後の1,5−AG値が1μg/mL付近まで低下していれば、尿糖排泄が行われており、SGLT2阻害薬の効果があると判断できる。
(2)服用中の1,5−AGの上昇
血中1,5−AG値の上昇は、腎尿細管での再吸収を示すので、SGLT2以外における糖の再吸収亢進など、薬剤効果の減弱の可能性が考えられる。
(3)過食の可能性
1,5−AG低値が持続しているにも関わらず、HbA1cが悪化している場合には、過食の可能性も考えられる。
【0047】
実施例2:
単独あるいは他の血糖降下薬に追加してSGLT2阻害薬を新規に投与された2型糖尿病患者149例(男性82例・女性67例、平均年齢56.7±13.4歳)を対象とし、投与後32週間の経過を後ろ向きに観察した。患者背景と併用薬剤は表7及び表8に示した通りであり、平均併用薬数は2.6剤であった。経過中のすべての薬剤投与において、開始・変更・中止は主治医の判断に任されている。
【0048】
投与開始32週までの間にHbA1cが投与前値と比して10%以上改善し、薬剤の増量がなかった群を有効群、HbA1cが投与前値と比して10%未満の改善にとどまったか、SU薬やインスリンの増量を必要とした群を無効群とし、2群間の臨床指標の差異を検討した。
【0049】
評価項目として、年齢・性別・体重・HbA1c・グリコアルブミン・1,5−AG・肝機能・脂質・eGFR・尿中アルブミン・糖尿病薬以外の併用薬についてカルテ上から情報を収集した。体重測定・採血・尿検査は外来毎に施行していた。グリコアルブミン、1,5−AGは検査会社(株式会社ビー・エム・エル)で測定し、他の項目は院内で測定した。
結果はmean±SDで示し、2群間の比較についての統計解析は対応のあるt検定を行い、p<0.001を統計学的に有意とした。
【0050】
【表7】
【0051】
【表8】
【0052】
その結果を表9、及び
図2〜4に示す。有効群は、無効群と比べて、投与前のグリコアルブミン(GA)が有意に高く、投与前の1,5−AGが有意に低値であった。年齢やBMI、eGFRとの有意な相関は認められなかった。また、有効群では、ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)、γGTP(γ−グルタミルトランスペプチダーゼ)も有意な改善を認めていた。ROC曲線からは投与前の1,5−AGが、効果判定の最も有意な指標と考えられ、GAをマッチさせても、1,5−AGはSGLT2阻害薬投与における効果判定の有意な指標であった。食事療法励行下においても、SGLT2阻害薬投与前に1,5−AGを測定することにより、データ改善が期待できる患者を予測できると考えられる。またSGLT2阻害薬服用1年後の1,5−AG値が2μg/mL以上の患者17名のHbA1c値は平均で7.18であり、投与前7.82から0.64の改善であった。同様に1年後の1,5−AG値が2.5μg/mL以上の患者10名のHbA1cは、服用前7.40から7.15の0.25の改善に留まった。
【0053】
【表9】