【実施例】
【0028】
以下、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0029】
実施例1〜15及び比較例1〜5:
[ポリプロピレン系重合体及び予備組成物]
実施例及び比較例において、ポリプロピレン系重合体及び予備組成物として下記のPP−1〜PP−12を使用した。なお、ポリプロピレン系重合体のMFRの測定は、重合体99.5質量%に酸化防止剤としてBASF社製B225を0.5質量%ドライブレンドした後にJIS K7210−1に準じて温度230℃、荷重2.16kgで行った。他の重合体として用いたα−オレフィン系共重合体のMFRの測定は、JIS K7210−1に準じて温度190℃、荷重2.16kgで行った。
【0030】
PP−1:重合に用いる固体触媒を、欧州特許第674991号公報の実施例1に記載された方法により調製した。当該固体触媒は、MgCl
2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを上記の特許公報に記載された方法で担持させたものである。当該固体触媒と、トリエチルアルミニウム(TEAL)及びジシクロペンチルジメトキシシラン(DCPMS)を、固体触媒に対するTEALの質量比が11、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、−5℃で5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃において5分間保持することによって予重合を行った。得られた予重合物を重合反応器に導入した後、水素とプロピレンをフィードし、重合温度、水素濃度、圧力を調整することよってMFRが30g/10分のホモタイプのポリプロピレン系重合体PP−1を製造した。
【0031】
PP−2:MgCl
2上にTiと内部供与体化合物としてジエチル−2,3−(ジイソプロピル)スクシネートを担持させた固体触媒を、特開平7−2925号公報の実施例1に記載された方法によって調製した。固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてTEALと、外部電子供与体化合物としてDCPMSを用い、固体触媒に対するTEALの質量比が18、TEAL/DCPMSの質量比が10となるような量で、室温において5分間接触させた。得られた触媒系を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行った。
得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入してプロピレン単独重合体を製造し、二段目の重合反応器でプロピレン−エチレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。さらに一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFRが30g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量19.0質量%、エチレン−プロピレン共重合体中のエチレン含有量40質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP−2を製造した。
【0032】
PP−3:PP−2と同様の製造プロセスにより、重合中は温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用い、また一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFR40g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量23.0質量%、エチレン−プロピレン共重合体中のエチレン含有量46質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP−3を製造した。
【0033】
PP−4:PP−1に対し、MFR2g/10分のエチレン−ブテン共重合体(三井化学社製、A−1050S)10質量%を混合した予備組成物。
【0034】
PP−5:PP−1に対し、MFR2g/10分のエチレン−ブテン共重合体(三井化学社製、A−1050S)30質量%を混合した予備組成物。
【0035】
PP−6:PP−1に対し、MFR10g/10分のエチレン−オクテン共重合体(ダウケミカル社製、ENGAGE8200)30質量%を混合した予備組成物。
【0036】
PP−7:PP−5に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)10質量%を混合した予備組成物。
【0037】
PP−8:PP−4に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)30質量%を混合した予備組成物。
【0038】
PP−9:PP−6に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)10質量%を混合した予備組成物。
【0039】
PP−10:PP−6に対し、タルク(ネオライト興産株式会社製UNI05)20質量%を混合した予備組成物。
【0040】
PP−11:MgCl
2上にTiと内部ドナーとしてのジイソブチルフタレートを担持した固体触媒を、特開2004−27218公報の段落0032の21〜36行に記載された方法により調製した。次いで、上記固体触媒と、有機アルミニウム化合物としてTEALと、外部電子供与体化合物としてDCPMSを用い、固体触媒に対するTEALの質量比が20、DCPMSに対するTEALの質量比が10となる量で、12℃において24分間これらを接触させて触媒を得た。得られた触媒を、液体プロピレン中において懸濁状態で20℃にて5分間保持することによって予重合を行い、予重合物を得た。得られた予重合物を、二段の重合反応器を直列に備える重合装置の一段目の重合反応器に導入し、液相状態のプロピレンをフィードしてプロピレン単独重合体を製造し、二段目の気相重合反応器でエチレン−プロピレン共重合体を製造した。重合中は、温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用いた。一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFRが7g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量19.5質量%、エチレン−プロピレン共重合体中のエチレン含有量55質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP−11を製造した。
【0041】
PP−12:PP−11と同様の製造プロセスにより重合中は温度と圧力を調整し、水素を分子量調整剤として用い、また一段目と二段目の滞留時間分布を調整することによって、MFR110g/10分、エチレン−プロピレン共重合体含有量22.5質量%、エチレン−プロピレン共重合体中のエチレン含有量46質量%のブロックタイプのポリプロピレン系重合体PP−12を製造した。
【0042】
[添加剤]
下記の添加剤を各例のポリプロピレン系樹脂組成物の製造時に配合した。
・グリセリンモノステアレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−100)
・ジグリセリンモノステアレート(理研ビタミン株式会社製、リケマールS−71−D)
・ステアリルジエタノールアミンモノステアレート(花王株式会社製、エレクトロストリッパーTS−6B)
・ステアリルジエタノールアミン(東邦化学工業株式会社製、アンステックスSA−20)
・M
2+=Mg
2+、M
3+=Al
3+、M
n-=CO
32- の合成品ハイドロタルサイト類(協和化学工業株式会社製、DHT−4A)
・カルシウムステアレート(淡南化学工業株式会社製)
【0043】
[ポリプロピレン系樹脂組成物の調製]
ドアトリム等の自動車内装部品を想定したポリプロピレン系樹脂組成物として、上記PP−1〜PP−12に対し、酸化防止剤(BASF社製B225)0.2質量%と耐候剤(株式会社ADEKA製LA502XP)0.3質量%と無機顔料(キャボット社製カーボンブラックIP−1000が60質量%、石原産業株式会社製チタンホワイトCR−60が40質量%の混合物)0.5質量%の合計1.0質量%に加え、グリセリンモノステアレートと、ジグリセリンモノステアレートと、ステアリルジエタノールアミンと、ステアリルジエタノールアミンモノステアレートと、ハイドロタルサイト類と、カルシウムステアレートと、を表1に示す配合量(樹脂組成物全体で100質量%)で添加し、ドライブレンドした。得られたポリプロピレン系樹脂組成物を直径30mmの2軸押出機(株式会社日本製鋼所製TEX30α)を用いて、スクリュー回転数500rpm、シリンダー温度200℃、吐出量30kg/hrの条件で溶融混練した。押出したストランドを水中で冷却した後、ペレタイザーでカットし、ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを得た。なお、表中の「−」は配合していないことを示す。
【0044】
[MFRの測定]
各例で製造したポリプロピレン系樹脂組成物について、JIS K7210−1に準拠し、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定した。
【0045】
[エチレン−プロピレン共重合体成分のエチレン含有量]
ブロックタイプのポリプロピレン系重合体のエチレン−プロピレン共重合体成分のエチレン含有量は、1,2,4−トリクロロベンゼン/重水素化ベンゼンの混合溶媒に溶解した試料について、Bruker社製 AVANCE III HD 400(
13C共鳴周波数100MHz)を用い、
13C−NMR法で測定した。
【0046】
[帯電防止性(表面抵抗率)の評価]
ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、ファナック株式会社製射出成形機ROBOSHOT α−100Cにより、シリンダー設定温度190℃、金型設定温度40℃の条件下で100×100×2mmの鏡面平板を5枚以上射出成形し、自動車内装部品を想定した成形体としての試験片とした。試験片は23℃±2℃、相対湿度50±5%に管理された室内で1週間保管した後、試験に供した。JIS C2139−3−2に基づき、日置電機株式会社製SM−8220(超絶縁計)及びSME−8311(平板試験用電極)を用いて各試験片の表面抵抗率を計測した。試験片5枚の測定値の平均値として表面抵抗率を算出した。結果を表に示す。
【0047】
[ブリード性の評価]
帯電防止性評価で用いた試験片と同一の操作で得た100×100×2mmの鏡面平板1枚をポリエチレン製シートに包み、50℃のオーブン中に1週間静置した後に取り出し、試験片の表面状態を目視により観察して、以下の5段階の基準で評価した。結果を表に示す。
1:白濁が極めて多い
2:白濁が多い
3:白濁を確認できる
4:白濁が少なく目立たない
5:白濁が全く見られない
【0048】
[ガラス霞性の評価]
ポリプロピレン系樹脂組成物のペレットを用い、東芝機械株式会社製射出成形機EC−160NIIにより、シリンダー設定温度230℃、金型設定温度40℃の条件化で140×300×3mmの鏡面平板を射出成形し、自動車内装部品を想定した成形体としての試験片とした。試験片を23℃±2℃、相対湿度50±5%に管理された室内で24時間以上保管した後、SAE J1756に基づき評価を実施した。すなわち、140×300×3mmの平板からφ80mmの寸法に切削した試験片3枚以上を準備し、これを温度23℃±2℃の室内に置かれたデシケータ中で24時間以上保管し除湿した。スガ試験機株式会社製ウィンドウスクリーンフォギングテスター(型式WSF−2)を用いて、槽内湿度を80℃、冷却プレートを20℃に設定、試験ビン内にφ80mmの試験片を入れ清浄な透明ガラスプレートで蓋をし、3時間後にガラスプレートを取り出し、株式会社村上色彩研究所社製光沢計(GM−26PRO)を用いて入射角60°の鏡面光沢度(%)を測定した。
ガラス霞度(%)=(試験後の鏡面光沢度)/(試験前の鏡面光沢度)×100
をガラスプレート1枚あたり4箇所計測するとともにφ80mmの試験片3枚に対して行い、平均値として算出した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
実施例1においては、ポリプロピレン系樹脂組成物の総質量に対して、グリセリンモノステアレートからなる帯電防止剤を0.18質量%、ジグリセリンモノステアレートからなる帯電防止剤を0.07質量%、ハイドロタルサイト類を0.05質量%の割合で配合している。実施例1の樹脂組成物を射出成形して得られた成形体においては、良好な帯電防止性、優れたブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
【0054】
実施例1に対し、グリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノステアレートの配合量を増加した実施例2〜3においては、優れた帯電防止性、良好なブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例2に対し、ポリプロピレン系重合体とα−オレフィン共重合体の種類と量、及びタルクの量を変更した実施例4〜12においても、実施例2と同様に、優れた帯電防止性、良好なブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例1に対し、ポリプロピレン系重合体の種類を変更した実施例13〜14においても、実施例1と同様に、良好な帯電防止性、優れたブリード性、優れたガラス霞性が発揮された。
実施例2に対し、ハイドロタルサイト類を配合せず、カルシウムステアレートを0.05質量%の割合で配合した実施例15においては、優れた帯電防止性、良好なブリード性、良好なガラス霞性が発揮された。
【0055】
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.2質量%で配合し、ジグリセリンモノステアレートを配合しなかった比較例1においては、実施例1と比べて、ブリード性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.1質量%で配合し、ジグリセリンモノステアレートを配合せず、ステアリルジエタノールアミンを0.1質量%で配合した比較例2においては、実施例1と比べて、ガラス霞性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレート及びジグリセリンモノステアレートを配合せず、ステアリルジエタノールアミンモノステアレートを0.3質量%で配合した比較例3においては、実施例1と比べて、ガラス霞性が悪化していた。
実施例1に対し、グリセリンモノステアレートを0.07質量%、ジグリセリンモノステアレートを0.03質量%で配合した比較例4においては、実施例1と比べて、帯電防止性が悪化していた。
実施例2に対し、グリセリンモノステアレートを0.12質量%、ジグリセリンモノステアレートを0.28質量%で配合した(グリセリンモノステアレートとジグリセリンモノステアレートの配合量を逆にした)比較例5においては、実施例2と比べて、帯電防止性が悪化していた。
【0056】
以上の試験結果から、本発明に係る成形体は、帯電防止性、ブリード性、及びガラス霞性がバランスよく優れていることが明らかである。一方、成分(B)が欠ける場合はブリード性又はガラス霞性が不良となり、成分(A)と成分(B)の合計量が少ない場合は帯電防止性が不良となり、成分(A)と成分(B)の合計量に対する成分(B)の質量比が高すぎる場合は帯電防止性が悪化することが理解される。また、ハイドロタルサイト類は、特に優れたガラス霞性を発揮するうえで有用であることが分かる。