【実施例】
【0019】
以下実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものでないことに注意されたい。
【0020】
<銅一価錯体[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6の合成>
使用した銅一価錯体の固体の作製は非特許文献3に記載の合成方法の条件を変更して行った。(±)−BINAP(313mg、0.503mmol)とテトラキス(アセトニトリル)銅(I)ヘキサフルオロホスファート(186.4mg、0.500mmol)との混合物に大気下室温の7.5mLのジクロロメタンを加えた。この混合物をスターラーチップで攪拌した後にphen(90.2mg、0.501mmol)を加え、室温大気下で60分間攪拌した。3mLのジエチルエーテルを加えると黄色粉末が生成した。この合成過程の化学反応式を以下に示す。
【0021】
【化3】
【0022】
この黄色粉末をろ過し、乾燥させた。収量は297.2mg、収率は59%であった。1H NMR(acetone−d
6,300.40MHz) δ=9.30(d,J=5Hz,2H),8.93(d,J=8Hz,2H),8.36(s,2H),8.15(dd,J=5,8Hz,2H),7.90(d,J=8Hz,2H),7.78(d,J=8Hz,2H),7.5−7.2(m,20H),6.96(d,J=8Hz,2H),6.85(2H),6.70(4H)(
図1)。1H NMRはAL300BX(JEOL)分光器を用いて行った。CDCl
3中の1H NMRスペクトル(
図2)の化学シフトはテトラメチルシラン(δ=0.00ppm)、acetone−d
6中の1H NMRスペクトルの化学シフトは溶媒残留ピーク(δ=2.05ppm)を用いて規格化を行った。
【0023】
テトラメチルシランの入った重クロロホルム(CDCl
3)中における1H NMRの化学シフト値が既知化合物である[Cu(phen)((±)−BINAP)]BF
4と一致していることから、得られた黄色固体の妥当な化学式は[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6であると考えられる。
【0024】
図3に示すように、このようにして得られた[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6のアセトン−d
6の溶液と、このアセトン−d
6の溶液を6日間室温大気下で静置した後のものと、このアセトン−d
6の溶液を6日間室温大気下で静置した後のものとは芳香族領域の信号において化学シフト値の変化がないことから、得られた錯体は室温大気下のアセトン−d
6中で安定であることが確認された。また、これも
図3に示すように、[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6のアセトン−d
6−メタノール−d
4(1:100=v/v)と、そのアセトン−d
6−メタノール−d
4(1:100=v/v)の溶液を8日間室温大気下で静置した後のものと、そのアセトン−d
6−メタノール(1:100=v/v)とのスペクトルがアセトン−d
6中とよく一致していることから、メタノール及びメタノール−d
4の添加による錯体部分の変化は無視できるほど小さいと考えられる。更に、これも
図3からわかるように、[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6の作製直後の黄色固体をアセトン−d
6に溶解した溶液とこの黄色固体を室温大気下で半年静置した後でアセトン−d
6に溶解したものとでスペクトルが十分一致していることから、[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6の作製直後の状態である黄色固体は室温大気下での長期保存が可能であることも確認された。
【0025】
<銅一価錯体[Cu(phen)((±)−BINAP)]PF
6を受容体層とするMSSの作成及びそれを使用したメタノール検出>
得られた固体は0.72mgの1を2.5mLのDMAを加えて室温で5分間超音波を使用して作製した溶液(0.3mg/mL)を、インクジェットマシンを使用して353KのMSS本体上に300回滴下することでセンサを作製した。このようにして作製したMSSを陽圧測定装置に取り付けて、純窒素ガスと、水、種々のVOC、メタノール/n−ヘキサン混合物(1:500=v/v、1:200=v/v、1:50=v/v、ガソリン、メタノール/ガソリン混合物(1:100=v/v)に流すことによりこれらの蒸気を含ませた窒素ガスとをMSSに30秒毎に切り替えて供給する操作を4回繰り返し、これに応答したMSSの出力電圧の経時変化を測定した。0秒における出力電圧を0mVとしてグラフの作製および解析を行った。得られた出力電圧の60秒後と90秒後の差を用いてその応答性を調査した。このように、MSSに純窒素ガスとn−ヘプタンが含まれる窒素ガスとを30秒ごとに交互に通すことにより、
図4の最上段左のグラフに示すように出力電圧が繰り返し変化した。この傾向は、同じく
図4に示すように、水や他のVOCであるベンゼン、メタノール、酢酸エチル、n−ヘキサン、アセトン、エタノール、トルエン、2−プロパノールでも同様に観測された。また、
図5に示すように、メタノールをわずかに含有するn−ヘキサン(メタノール/n−ヘキサン混合物の混合比は1:500=v/v、1:200=v/v、1:50=v/v)でも観測された。更に、
図6に示すように、メタノールをわずかに含有するガソリン(メタノール/ガソリン混合物の混合比は1:100=v/v)でもこの傾向が観測された。以上のようにして得られたMSS出力電圧の差を
図7に棒グラフとして示す。なお、この実験ではガソリンとしてJXTGエネルギー株式会社から供給されているENEOSハイオクガソリンを使用した。
【0026】
以上の測定結果からわかるように、メタノールの時のMSS出力電圧の差はエタノール、アセトン、トルエン、n−ヘプタン、ベンゼン、酢酸エチル、2−プロパノールに比べて大きい。またメタノール/n−ヘキサン混合物(1:500=v/v、1:200=v/v、1:50=v/v)の時のMSS出力電圧の差はn−ヘキサン単独の場合に比べて大きく、メタノールよりも小さい。またメタノール/ガソリン混合物(1:100=v/v)の時のMSS出力電圧の差もガソリン単独の場合に比べて大きい。更には、
図5及び
図6から明らかなように、n−ヘキサン及びガソリンの何れの場合でも、メタノールを混合していない場合のMSS出力電圧に対するメタノール混合物のMSS出力信号の変化率はメタノールの混合比(0.5%〜2%)に比べてはるかに大きい値となった。これらの結果から、メタノールを1%程度のわずかな量含むガソリンあるいはn−ヘキサンとメタノールを含まないガソリンあるいはn−ヘキサンとを十分に識別できることが確認された。