【解決手段】放射線を検出し、検出データをフレームごとに外部へ転送する放射線検出器100であって、露光により放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させるセンサ110と、発生したパルスを計数する複数のカウンタ140a、140bと、カウンタ140a、140bでなされた計数値を読み出し記憶する複数のメモリ150a、150bと、記憶された計数値を外部へ転送させる制御回路170と、を備え、制御回路は、複数のメモリ150a、150bのうち異なるメモリを用いて、計数値の読み出しおよび転送を重なる時間帯に行なう。
前記制御回路は、外部機器からトリガ信号を受けたタイミングで、前記複数のカウンタのうち前記パルスを計数するカウンタを切り換え、連続露光を行なうことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の放射線検出器。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
[第1の実施形態]
(放射線検出器の構成)
図1は、放射線検出器100の構成を示す概略図である。放射線検出器100は、フォトンカウンティング型の半導体検出器であり、2次元のデータバッファ機能を有する。放射線検出器100は、放射線を検出し、検出データをフレームごとに外部へ転送する。後述の応用例のように、検出対象となる放射線は、X線である場合に機能を発揮しやすいが、これに限定されずα線、β線、γ線、中性子線等であってもよい。なお、放射線検出器100は、1次元検出器であってもよい。
【0018】
図1に示すように、放射線検出器100は、センサ110、読み出し回路120、複数のメモリ150a、150b、切り換え回路125、154、155、転送回路160および制御回路170を備えている。なお、
図1では便宜上一つのセンサ110に対する構成を示しているが、放射線検出器100は、基本的に複数のセンサを備えている。読み出し回路120は、パルスの読み出しの機能を有し、さらに複数の検出回路130a、130bおよび複数のカウンタ140a、140bを備えている。
【0019】
センサ110は、露光により放射線の粒子が検出されたときにパルスを発生させる。センサ110は、受光面に入射するX線束の強度を、面情報として検出できる。検出回路130a、130bは、パルスがそれぞれの基準値より高いか否かを判定し、高い場合には電圧信号としてカウンタ140a、140bへ送出する。
図1に示す例では、検出回路130aの基準値の方が検出回路130bの基準値より低く設定されているが、高く設定されていてもよい。
【0020】
カウンタ140a、140bは、パルスを計数することができる。メモリ150a、150bは、カウンタ140a、140bでなされた計数値をカウンタ140a、140bから読み出し記憶する。読み出しのタイミングは制御回路170による切り換えによる。基本的に直前に計数を終えたカウンタ140a、140bから読み出すが、待ち時間をおいて読み出すことも可能である。メモリ150a、150bは、読み出された整列していないデータを実空間配置へ変換し、後段へデータの転送を可能にする。
【0021】
複数のメモリ150a、150bのそれぞれは、互いに独立し、かつ、同一アドレスに対する書込みおよび読出しを同時にできない。これにより、放射線検出器をコンパクトにすることができ、構成の費用も低減できる。また、データが書き換わっていないことの担保にもなる。メモリ150a、150bには、リングバッファやQDRメモリは用いられない(詳細は後述)。
【0022】
なお、メモリは1つのセンサに対して書き込み用に切り換え可能な複数のメモリがあればよい。複数のセンサを備える場合に、それぞれのセンサに対して独立に複数のメモリを設けてもよいが、複数のメモリは共用であってもよい。例えば、2つのセンサに対して2つのメモリのみを設け、各センサからの書き込みに対してその2つのメモリが切り換え可能に存在すれば十分である。
【0023】
切り換え回路125、154は、計数値の読み出しのための切り換え動作を行なう。切り換え回路155は、計数値の転送のための切り換え動作を行なう。いずれも制御信号により動作する。
【0024】
制御回路170は、切り換え回路125、154、155の接続を制御し、計数値の読み出しおよび記憶を制御し、記憶された計数値の外部への転送を制御する。制御回路170は、複数のメモリ150a、150bのうち異なるメモリを用いて、計数値の読み出しおよび転送を重なる時間帯に行なう。このようにして、異なるフレームの計数値の読み出しおよび転送を同時に行なう時間があることで、露光、読み出しおよび転送の一連の動作を短縮でき、フレームレートを向上できる。制御回路は、外部機器からトリガ信号を受けたタイミングで、複数のカウンタのうちパルスを計数するカウンタを切り換え、連続露光を行なってもよい(詳細は後述)。
【0025】
(放射線検出器の動作)
(1)従来の動作
図2(a)〜(c)は、いずれも従来の放射線検出器800の動作を示す概略図である。
図2(a)〜(c)に示すように、従来の放射線検出器800は、センサ810、読み出し回路820、切り換え回路825、メモリ850および転送回路860を備えている。読み出し回路820は、さらに検出回路830a、830bおよびカウンタ840a、840bを備えている。
【0026】
放射線検出器800は、1つのメモリ850しか有していないため、
図2(a)、(b)に示すように、回路の切り換えによりカウンタ840a、840bからの計数値をそれぞれメモリ850で読み出す。このカウンタの切り換えにより、同時に撮影したフレームの計数値を一つのメモリ850で受け付けている。次に、
図2(c)に示すように、メモリ850から転送回路860へ計数値を転送する。そして、以上の動作を繰り返す。
【0027】
このような場合には、メモリ850から1つのフレームの計数値を転送している間に、次のフレームの計数値をメモリ850へ読み出すことは不可能であり、読み出しと転送とを交互に行なう必要がある。
【0028】
(2)本発明の動作
一方、放射線検出器100は、2つのメモリ150a、150bを有しており、読み出しと転送とを同時に行なえる。
図3(a)〜(c)、
図4(a)〜(c)は、いずれも放射線検出器の一連の動作を示す概略図である。
【0029】
図3(a)、(b)に示すように、まずメモリ150aはカウンタ140a、140bから計数値を読み出す。その際に、カウンタ140a、140bは切り換え回路125で切り換える。そして、
図3(c)に示すように、切り換え回路155を切り換え、メモリ150aは転送回路160に計数値を転送する。同時に切り換え回路154を切り換え、カウンタ140aからメモリ150bへの計数値の読み出しを可能にする。
【0030】
次に、
図4(a)、(b)に示すように、メモリ150aは計数値を転送回路160へ転送しつつ、メモリ150bは新たなフレームの計数値をカウンタ140a、140bから読み出す。カウンタ140a、140bは切り換え回路125で切り換える。このとき、転送と読み出しを同時に行なえる。
【0031】
そして、
図4(c)に示すように、切り換え回路154、155を切り換える。これにより、メモリ150bから転送回路160に計数値を転送する。同時にカウンタ140aからメモリ150aへの計数値の読み出しを可能にする。以上の動作を繰り返すことで、データの転送と読み出しを同時に行なえ、フレーム処理の効率化を図ることができる。
【0032】
(フローチャート)
上記の放射線検出器100の動作をフローチャートで説明する。
図5は、放射線検出器100の動作を示すフローチャートである。まず、シャッタを開けて、試料に対して放射線を照射する(ステップS1)。検出面に入った放射線の粒子がセンサ110により検出されるとパルスが発生する。そして、カウンタ140a、140bで放射線のパルスを計数し、計測を開始する(ステップS2)。メモリ150a、150bのいずれかで、計数を終了したカウンタ140a、140bから計数データの読み出しを開始する(ステップS3)。
【0033】
次に、測定が終了したか否かで分岐し(ステップS4)、測定が終了していない場合には、
図3(c)に示すように、読み出したメモリ150aが計数値を転送するとともに、カウンタ140a、140bが次のフレームの計数を開始する(ステップS5)。カウンタ140a、140bの計数が終了したら、
図4(a)、(b)に示すように、計数を読み出したメモリ150aが転送を続けながら、もう一方のメモリ150bがカウンタ140a、140bから計数を読み出し(ステップS6)、ステップS4に戻る。
【0034】
ステップS4において、測定が終了した場合には、最後に計数値を読み出したメモリ150bが計数値を転送し(ステップS7)、一連の動作を終了する。なお、以上の動作は、例えば外部のPCで行なうことも可能であるが、放射線検出器100内の回路により行なうことが好ましい。
【0035】
(タイミングチャート)
このような動作を、タイミングチャートを用いて、従来の動作と比較して説明する。
図6(a)は、従来の放射線検出器における各動作タイミングチャートである。
図6(a)においては、縦軸が各種機能を表し、横軸が時間を表している(
図14(a)、(b)についても同様)。
【0036】
(1)従来の回路
従来の回路は、1つの放射線検出器に対してメモリを一つのみ備えている。
図6(a)において、まず制御回路からの制御信号があると、シャッタを開けて露光し、カウンタにより計数する。露光時間eが終わり次第、カウンタ840a、840bで得られた計数値をメモリ850で読み出す。この際の読み出し時間はRtで表される。
【0037】
「Exposure」は、放射線への露光を表しており、「e」は、各フレームの露光時間を表している。基本的に放射線への露光は、制御回路からの制御信号で行なう。図に示すように、「e」の間、放射線のパルスを計数し、その時間が終わり次第、同時にメモリ850は計数値を読み出す。読み出しが終了したら、メモリ850内で計数値のデータを整列し、実空間配置へ変更する。このデータの整列の時間は、図中に表示しているものの、他の動作に比べて著しく短いため無視してよい。その後、メモリ850は、計数値を転送回路に送り、転送回路は、計数値を外部のPC等に転送する。この転送時間は、図中のTtで表される。メモリ850が読み出しをしている間は、次のフレームの露光はできない。フレーム転送の一周期はRt+Tt、フレームレートは1/(Rt+Tt)で表される。
【0038】
(2)本発明の回路
図6(b)は、放射線検出器100における各動作のタイミングチャートである。放射線検出器100は、2つのメモリ150a、150bを備えている。制御回路からの制御信号があると、シャッタを開けて露光し、カウンタ140a、140bにより計数する。
【0039】
基本的に放射線のシャッタの開閉は、制御回路170からの制御信号で行なう。図に示すように、「e」の間、放射線のパルスを計数し、その時間が終わり次第、同時にメモリ150aは計数値を読み出す。この際の読み出し時間はRtで表される。読み出しが終了したら、メモリ内で計数値のデータを整列する。この時間は、図中に表示しているものの、他の動作に比べて著しく短く無視して考えてよい。その後、メモリは、計数値を転送回路に送り、転送回路は、計数値を外部のPC等に転送する。この転送時間は、図中のTtで表される。
【0040】
放射線検出器100では、メモリ150aが転送の動作で占められている時間、次のフレームの露光を進めることができる。すなわち、メモリ150aが計数値の転送中に、メモリ150bが次のフレームを読み出すことが可能である。フレーム転送の一周期はRtまたはTtに短縮でき、フレームレートは1/(Rt)または1/(Tt)となる。露光の最小間隔時間についてもフレーム転送の一周期と同様である。
【0041】
(リングバッファ利用の場合との相違)
リングバッファ(Ring Buffer)とは、概念的に環状に配置された1つのメモリ領域を指す。リングバッファには、リングバッファ上を時計回りに進む書き込みポインタと読み込みポインタがある。書き込みポインタ経由でリングバッファにデータを書き込むと、書き込みポインタが進む。読み込みポインタ経由でリングバッファからデータを読み込むと、読み込みポインタが進む。リングバッファに保存された情報は複数のバンクに分けて管理される。
【0042】
このように構成されるリングバッファを利用して放射線検出器100と同等の構成が可能かを考察する。
図7(a)、(b)は、いずれもリングバッファを用いた放射線検出器900の動作を示す概略図である。放射線検出器900は、読み出し回路920、メモリ950、インタフェース965を有している。メモリ950は、リングバッファであり、バンク950a、950bが設けられている。
【0043】
図7(a)に示すように、1枚目のフレームをバンク950aへ書き込むことは可能である。また、
図7(b)に示すように、2枚目の画像をバンク950bへ書き込むことも可能である。しかし、基本的にリングバッファへの書き込みと読み出しは同時にできない。したがって、メモリは同時に読み書きができず、バンク950bへの書き込みと同時にバンク950aから1枚目のフレームをインタフェース965へ転送はできない。
【0044】
これに対し、放射線検出器100は、物理的に複数個の独立したメモリを用い、並列化している。
図8(a)〜(c)は、いずれも放射線検出器100の動作を示す概略図である。放射線検出器100は、読み出し回路120、メモリ150a、150b、インタフェース165を有するものとして簡略的に表されている。インタフェース165は、転送回路160と外部をつなぐ接続部を示している。
【0045】
図8(a)〜(c)に示すように、放射線検出器100は、1枚目の画像をメモリ150aへ書き込み、2枚目の画像をメモリ150bへ書き込みつつ、メモリ150aから1枚目の画像をインタフェース165へ転送する。そして、3枚目の画像はメモリ150aへ書き込みつつ、メモリ150bから2枚目の画像をインタフェース165へ転送する。このように、放射線検出器100では、1つのメモリにアクセスして書き込んでいるときでも違うメモリでは読み出しができる。
【0046】
(QDRメモリ利用の場合との相違)
QDR(Quad Data Rate、登録商標)メモリは、通信ネットワーク向け高速SRAMとして開発された記憶保持動作が不要な随時書き込み読み出しメモリである。QDRメモリは、読み出しと書き込みが同時にできる。
【0047】
メモリ150a、150bに代えてQDRメモリを用いても同じ機能を実現できるが、QDRメモリを制御する特殊な回路、例えば書き込みと読み出しが同一アドレスにできないような排他回路等が必要になり、基本的には外付けのデバイスとしてしか入手できない。したがって、QDRメモリを用いる場合には、一定の基板面積およびバス幅が必要となる。例えばリガク製HyPix(登録商標)のようなコンパクトな放射線検出器の筐体には入らない。また、QDRメモリを用いると、書き込みにより必要な情報が書き換わる可能性があり、その点でも放射線検出器への利用は好ましくない。
【0048】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、2つのメモリが設けられ、それらの間で計数の読み出しまたは転送をするメモリが切り換えられているが、3以上のメモリで切り換えてもよい。これにより、転送時間が長くかかる場合であっても次々に読み出しを進めることができ、フレームレートが向上する。その結果、転送時間に依存する可能性は低くなる。
【0049】
図9(a)〜(c)は、いずれも4つのメモリを備える放射線検出器200の動作を示す概略図である。放射線検出器200は、読み出し回路120、メモリ250a〜250d、インタフェース165を有するものとして簡略的に表されている。
【0050】
まず、1枚目のフレームをメモリ250aへ書き込む。次に、2枚目のフレームをメモリ250bへ書き込みつつ、メモリ250aから1枚目のフレームをインタフェース165へ転送する。3枚目のフレームをメモリ250cへ書き込みつつ、メモリ250aから転送終了後にメモリ250bから2枚目のフレームをインタフェース165へ転送する。
【0051】
このように、読み出し時間Rtが転送時間Ttに比べて短い場合には、読み出しが4つのメモリ250a〜250dを2巡、3巡していずれ転送時間がネックになるときまではフレームレートを速くすることができる。その結果、フレームレートが転送時間に依存する可能性は低くなる。
【0052】
[第3の実施形態]
(単結晶構造解析装置への応用)
上記のような放射線検出器をX線分析装置に組み込むことができる。
図10は、X線分析装置300の構成を示す平面図である。X線分析装置300は、回折X線像を撮影するための単結晶構造解析装置であり、X線源310、試料台320、アーム330、制御部340および放射線検出器100を備えている。X線源310は、X線を試料S0に照射している。
【0053】
試料台320およびアーム330は、連動しており、制御部340の制御により一定の速度で試料S0回りを回転させることができる。放射線検出器100は、アーム330の端部に設けられており、アーム330とともに試料S0回りの移動が制御されている。
【0054】
制御回路170により切り換え回路を制御し、複数のメモリ150a、150bのうち計数値を読み出すメモリと転送するメモリを切り換える。これにより、高い時間分解能で単結晶構造解析が可能になる。
【0055】
[第4の実施形態]
(製造ラインへの応用)
図11は、放射線検出器を用いたX線分析装置の構成を示す側面図である。X線分析装置400は、X線による検査が可能な製造ラインであり、X線源410、ローラ420、ベルト425、制御部440および放射線検出器100を備えている。X線源410は、シャッタレスであり、連続してX線を製品S1に照射している。
【0056】
ローラ420の回転によりベルト425が動き、図中矢印の方向に製品S1が移動する。制御部440の制御によりベルト425は一定の速度で移動する。放射線検出器100は、ベルト425および製品S1を挟んでX線源410の反対側に設けられており、ベルト425とともに製品S1の移動が制御されている。
【0057】
X線分析装置400は、上記のような放射線検出器100を有することで、例えば、制御部440から移動速度に応じた制御信号を受けて製品S1の画像を撮影できる。その場合、フレームレートを大きくすることができるため、製品の移動速度を上げ、工程の処理効率を上げることができる。
【0058】
[第5の実施形態]
(放射線検出器の構成)
上記の実施形態では、1つの検出回路に対して1つのカウンタが設けられているが、1つの検出回路に対して複数のカウンタが切り換え可能に設けられていてもよい。この場合には、カウンタを切り換えることで露光のデッドタイムをゼロにでき、連続露光が可能となる。
図12は、2つのカウンタを備える放射線検出器の構成を示す概略図である。
【0059】
放射線検出器500は、カウンタ541、542、切り換え回路544、545および制御回路570以外は、放射線検出器100と同様に構成される。カウンタ541、542は、それぞれ同等の機能を有し、パルスを計数することができる。なお、
図12に示す例では、一つの検出回路130に対して2つのカウンタ541、542が設けられているが、3以上のカウンタが設けられていてもよい。
【0060】
制御回路570は、外部機器700から同期信号を受けたときに、一つの検出回路に対して複数のカウンタ541、542の中でパルスを計数するカウンタを切り換える。これにより、連続的に放射線が入射する露光状態を維持しデッドタイムを生じさせずに放射線を検出できる。制御回路570は、制御回路170と同様に、切り換え回路154、155の接続を制御し、計数値の読み出しおよび記憶、記憶された計数値の外部への転送を制御する。
【0061】
外部機器700からの同期信号としては、例えば、時間または位置を特定するトリガ信号を受けることができる。これにより、例えば外部機器の動作タイミング、ゴニオメータのアームの移動指示信号や所定時間ごとの信号または解析対象の位置に応じたカウンタ切り換えが可能になる。
【0062】
(放射線検出器の動作)
図13(a)〜(d)は、いずれも放射線検出器の動作を示す概略図である。なお、実際には
図12に示す構成と同様であるが、簡単のため単一の検出回路で表している。
図13(a)、(b)に示すように、切り換え回路544の接続によりカウンタ542はパルスを計数し、すでにカウンタ541で計数された計数値は、切り換え回路545の接続によりメモリ150aが読み出す。
【0063】
次に、
図13(c)に示すように、切り換え回路544、545、154、155の接続をいずれも切り換える。これにより、検出回路130に接続されたカウンタ541がパルスを計数し、すでにカウンタ542で計数された計数値は、メモリ150bが読み出す。同時に、メモリ150aは読み出した計数値を転送する。
【0064】
そして、
図13(d)に示すように、切り換え回路544を切断し、切り換え回路545、154、155の接続をいずれも切り換える。これにより、カウンタ541で計数した計数値は、メモリ150aが読み出す。一方、メモリ150bは読み出した計数値を転送する。このような動作を繰り返すことで、フレームレートを向上しつつ連続露光を行なうことができる。
【0065】
(タイミングチャート)
図14は、2つのカウンタ541、542を備える放射線検出器の動作のタイミングチャートである。
図14に示す共通制御信号は、放射線のシャッタの開閉の信号と外部機器からのトリガ信号を示している。図に示すように、シャッタは常に開いている状態を維持している。
【0066】
図13(a)〜(d)に示す例では、2つのカウンタを用いてそれらを交互に切り換え、デッドタイムなく連続露光して放射線を検出している。カウンタ541がトリガ信号の立ち上がりエッジで計数を開始している。また、カウンタ542は、最初は待機し、次のトリガ信号の立ち上がりエッジでカウンタの切り換えを行ない、計数を開始している。また、切り換えと同時に、計数を終えたカウンタ541の読み出しを開始している。以降、トリガ信号の立ち上がりエッジを利用して、交互にカウンタの切り換えおよび計数データの読み出しを行なうことができる。カウンタ541とカウンタ542の計数時間がデッドタイム無く連続している。
【0067】
図15(a)、(b)は、それぞれ従来の放射線検出器および放射線検出器500における各動作タイミングチャートである。従来の放射線検出器に対して放射線検出器500がメモリを切り換える点は、
図6(a)、(b)に示す例と同様である。また、いずれのタイミングチャートにおいてもカウンタの切り換えにより露光が途切れない。これにより、フレームレートを向上しつつ、連続露光を行なうことができるため、例えば後述のように従来は困難だった電子ビームのバンチ構造の観測が容易になる。
【0068】
[第6の実施形態]
本発明の放射線検出器は、X線光子相関分光法(X-ray photon correlation spectroscopy (XPCS))に用いるのに好適である。物質に位相の揃ったコヒーレントX線を入射すると、局所的な構造情報に対応した斑点状の散乱像(スペックルパターン)が現れる。測定中に平均的な構造は変わらなくとも、局所的な構造の変化や揺らぎが生じることでスペックルパターンは揺らぐ。このスペックルパターンを時分割測定することで、構造の時間変化に関する情報が得られる。X線光子相関分光法とは、このような原理で運動性を評価する手法である。
【0069】
X線光子相関分光法では、自己相関関数を用いて散乱強度の時間揺らぎを解析し、試料中の電子密度分布の時間揺らぎを解析する。これにより、ナノメータースケールの構造揺らぎ(ダイナミクス)を生じる系において、不均一領域のサイズ分布や運動の平均速度に関する情報が得られる。
【0070】
自己相関関数は、任意の時間(t)における散乱強度I(t)を基準とし、(T)時間後の散乱強度I(t+T)との相関を表している。強度は粒子の位置パターンに関係するので、異なる2つの時間における強度間に高い相関関係がある場合、その2測定間で粒子がそれほど離れた位置へ移動していないことを意味する。
【0071】
Tが小さい時には粒子はあまり移動していないので、散乱光強度の変化は小さくなり相関は高くなる。Tが大きくなると粒子の位置は不確定になるので、散乱強度もランダムになり、相関は低くなる。このため、測定で得られる自己相関関数は指数関数的な減衰曲線になる。
【0072】
図16(a)、(b)は、それぞれフレームレートの低い検出器で測定した時間に対する散乱強度およびその自己相関関数g2を示すグラフである。また、
図17は、自己相関関数におけるTが小さい領域を示すグラフである。Tが限りなく小さいときの自己相関関数値は測定が不可能なため、粒子があまり移動していないと推測できるが、フレームレートの早い検出器があれば、
図17に示すTが小さい領域600が実測可能となる。このようなTが小さい領域はフレームレートが早ければ早いほど、自己相関関数の値として確認できる。
【0073】
図18(a)、(b)は、それぞれフレームレートの高い検出器で測定した時間に対する散乱強度およびその自己相関関数g2を示すグラフである。
図18(a)、(b)に示すように、本発明の検出器によれば、フレームレートが向上することで、今まで実測できなかったTの小さい領域が確認できることになる。
【0074】
[第7の実施形態]
(大型放射光施設への応用)
本発明の放射線検出器は、電子を加速・貯蔵するための加速器群と発生した放射光を利用するための実験施設および各種付属施設を備えるSpring−8のような大型放射光施設で利用するのに適している。その場合には、大型放射光施設の放射光検出装置の一部として本発明の放射線検出器が組み込まれる。
【0075】
例えば、Spring−8では、電子銃から発生した電子ビームを、線型加速器により1GeVまで加速した後、シンクロトロンに導入して8GeVまで加速する。この電子ビームを蓄積リングに導入し、8GeVのエネルギーを維持させながら、偏向電磁石や挿入光源により放射光を発生させる。発生した放射光は、ビームラインを通して、蓄積リング棟内外に設けられた実験ステーションに導かれる。なお、電子ビームは、基本的にリングの中に連続的に存在するのではなく、バンチと呼ばれる塊となって存在している。
【0076】
図19は、蓄積リング中のフィリングパターンの一例を示す図である。また、
図20は、時間に対してバンチの検出電流を示す図である。具体的にはSpring−8の2018A(2018年前期)セベラルバンチ運転モード(Eモード)のフィリングパターンを示している。
図19に示すフィリングパターンには、点状の電子の塊であるシングルバンチSB1と線状に電子の塊が連なったトレインバンチTB1が現れている。この運転モードでのバンチの飛来間隔は165.2nsecであり、
図20に示すように、上記の時間間隔で台形状のトレインバンチとピーク状のシングルバンチが表れている。
【0077】
本発明の放射線検出器では、露光の最小間隔時間を短縮できることから、放射光施設のバンチ構造と検出器の動作の同期を取ることにより、バンチ構造を確認することが可能となる。
【0078】
[実験]
本発明の放射線検出器を用いてSpring−8の放射光を検出した。放射光の1周時間は4.7908μsec、カウント率は約100Mcpsである。このようなバンチ運転モードに対し、1回の最少露光時間110nsecの放射線検出器、読み出し時間が95.816μsecの読み出し回路(ROIC)および1または2個のメモリを備える放射線検出器でバンチを検出した。
【0079】
その結果、1個のメモリの放射線検出器を用いた場合には、40周(191.632usec)に5.2kfpsのフレームレートで1回の露光を検出できた。一方、2個のメモリの放射線検出器を用いた場合には、20周(95.816usec)に10.4kfpsのフレームレートで1回の露光を検出できた。
【0080】
図21は、フィリングパターンに対し2個のメモリを用いた場合に検出されたX線強度ピークを示す図である。
図21に示すように、平坦なバンチ間のX線強度に対し、十分な精度でシングルバンチSB1およびトレインバンチTB1のX線強度ピークを撮影できた。