【解決手段】タイヤ試験結果の推定方法は、補正検討用タイヤを第1および第2路面上で走行させた際の時系列データとして第1および第2特徴量をそれぞれ取得し、第1および第2特徴量をそれぞれ周波数分析して第1および第2周波数分析結果を取得し、第2周波数分析結果に適用することで第1周波数分析結果に近づけ、第1周波数分析結果と第2周波数分析結果との相関を向上させる補正係数を算出し、試験用タイヤを第2路面上で走行させた際の時系列データとして試験特徴量を取得し、試験特徴量を周波数分析して試験周波数分析結果を取得し、試験周波数分析結果に補正係数を適用することで、試験用タイヤを第1路面上で走行させた際に得られる特徴量の周波数分析結果を推定することを含む。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
タイヤの性能評価試験において、前述のように2つ以上の試験結果が異なる場合があるため、何らかの手段によって試験結果を整合させる方法が求められている。特に、詳細既知な第2路面におけるタイヤ試験結果に基づいて、詳細不明な第1路面におけるタイヤ試験結果を推定する方法が求められている。
【0005】
本発明は、詳細不明な第1路面と、詳細既知な第2路面との相関をとることにより、詳細不明な第1路面におけるタイヤ試験結果を推定する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、補正検討用タイヤと、試験用タイヤと、詳細不明な第1路面と、詳細既知な第2路面とを準備し、前記補正検討用タイヤを前記第1路面上で走行させた際の時系列データとして第1特徴量を取得し、前記補正検討用タイヤを前記第2路面上で走行させた際の時系列データとして第2特徴量を取得し、前記第1特徴量および前記第2特徴量をそれぞれ周波数分析して第1周波数分析結果および第2周波数分析結果を取得し、前記第2周波数分析結果に適用することで前記第1周波数分析結果に近づけ、前記第1周波数分析結果と前記第2周波数分析結果との相関を向上させる補正係数を各周波数において算出し、前記試験用タイヤを前記第2路面上で走行させた際の時系列データとして試験特徴量を取得し、前記試験特徴量を周波数分析して試験周波数分析結果を取得し、前記試験周波数分析結果に前記補正係数を各周波数において適用することで、前記試験用タイヤを前記第1路面上で走行させた際に得られる特徴量の周波数分析結果を推定することを含む、タイヤ試験結果の推定方法を提供する。
【0007】
この方法によれば、性能を評価したい試験用タイヤを詳細不明な第1路面上で走行させた際に得られる特徴量の周波数分析結果を推定できる。特徴量は、例えばタイヤの軸力、モーメント、加速度、または騒音などであり得る。本方法は、第1路面についての詳細情報が得られず、第1路面上で試験用タイヤを実際に試験することができないときに有用である。具体的な方法として、まず、試験用タイヤとは別の補正検討用タイヤを使用して第1路面の試験結果と第2路面の試験結果との相関をとる。第1路面については実際に自身で試験できずとも、第1路面の保有者に試験を依頼してもよいし、過去の試験結果を使用してもよい。そして、得られた相関に基づいて当該相関を向上させるように補正係数を算出する。補正係数は、第2周波数分析結果を第1周波数分析結果に近づけるための補正倍率であり、周波数ごとに設定される。例えば、周波数100Hzにおいて、第1周波数分析結果のスペクトルと第2周波数分析結果のスペクトルとが完全に一致するときには、周波数100Hzにおける補正係数は1.0となる。補正係数を利用することで、第1路面の詳細な情報が得られずとも、第2路面の試験結果(試験特徴量および試験周波数分析結果)から第1路面の試験結果(試験特徴量の試験周波数分析結果)を推定できる。ここで、1組の第1特徴量と第2特徴量とを取得するための補正検討用タイヤ1は、同一であることが好ましいが、完全に同一でなくとも同一スペックを有していればよい。なお、第1特徴量を周波数分析して第1周波数分析結果を取得するのは、自身が実施する必要はなく、第三者が実施した結果を取得してもよい。
【0008】
前記補正係数の算出は、前記第1周波数分析結果の所定の周波数範囲における合計値を第1合計値として算出し、前記第2周波数分析結果の前記所定の周波数範囲における合計値を第2合計値として算出し、前記第1合計値および前記第2合計値の算出を複数の前記補正検討用タイヤについて行い、得られた複数の前記第1合計値および前記第2合計値から相関係数を算出し、前記相関係数を最大化するように前記補正係数を探索することを含んでもよい。
【0009】
この方法によれば、相関係数を最大化する補正係数を探索するので、得られた補正係数は高い相関を実現するものとなる。従って、当該補正係数を利用することで、第2路面の試験周波数分析結果から第1路面の特徴量の周波数分析結果を高精度に推定できる。
【0010】
前記補正係数は、0.3以上かつ1.5以下であってもよい。
【0011】
この方法によれば、補正係数の探索範囲に制限を設けることで探索を簡略化できる。実際上、第1路面の詳細は不明でも、第1路面に関する概要(第1路面の写真や、それを用いた試験の目的など)から、第2路面は一定まで第1路面を模擬した路面を使用できると考えると、補正係数として、ゼロ、マイナス、または著しく大きな値をとることはないと推測できるため、当該補正係数を除外することで、効率的な探索を可能としている。
【0012】
前記補正係数の探索では、前記所定の周波数範囲を複数の周波数帯に分割し、同じ前記周波数帯では同じ前記補正係数を適用し、隣り合う前記周波数帯の前記補正係数同士は、互いに1/3倍以上かつ3倍以下であってもよい。
【0013】
この方法によれば、隣り合う周波数帯において補正係数が急変しないようにすることができる。実際上、第1路面の詳細は不明でも、第1路面に関する概要(第1路面の写真や、それを用いた試験の目的など)から、第2路面は一定まで第1路面を模擬した路面を使用できると考えると、隣り合う周波数帯において補正係数が急変することは考えづらいため、補正係数に制限を設けることで、効率的な探索を可能としている。
【0014】
前記補正係数の算出は、前記第1周波数分析結果を前記第2周波数分析結果で除算して前記補正係数を取得し、複数の前記補正検討用タイヤにて前記除算による前記補正係数の取得を行い、複数の前記補正検討用タイヤごとに取得された前記補正係数を平均化することを含んでもよい。
【0015】
この方法によれば、第1周波数分析結果を第2周波数分析結果で除算して直接的に補正係数を算出しているため、当該補正係数によって高い相関を実現できる。よって、高精度の推定が可能となる。
【0016】
前記補正係数は、0.9以上かつ1.1以下の値を1.0としてもよい。
【0017】
この方法によれば、不必要に補正をかけることがなくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、詳細不明な第1路面と、詳細既知な第2路面との相関をとることにより、補正係数を算出しているため、詳細不明な第1路面におけるタイヤ試験結果を推定できる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0021】
(第1実施形態)
本実施形態のタイヤ試験結果の推定方法は、詳細不明な第1路面と、詳細既知な第2路面との相関をとることにより、詳細不明な第1路面におけるタイヤ試験結果を推定する方法である。本方法によれば、第1路面での試験用タイヤの性能評価試験を行うことができない状況下においても、第2路面での試験タイヤの試験結果を補正することで、第1路面での試験用タイヤの試験結果を推定できる。
【0022】
本実施形態のタイヤ試験結果の推定方法では、複数の補正検討用タイヤと、1本の試験用タイヤとを使用する。
【0023】
複数の補正検討用タイヤは、性能を試験したいタイヤではなく、後述するように補正係数を算出するために用いられるタイヤである。本実施形態では、補正検討用タイヤとして例えば13本のタイヤを使用する。試験用タイヤは、実際に性能を試験したいタイヤである。以降、補正検討用タイヤと試験用タイヤとを区別する必要がないときは、これらを単にタイヤともいう。
【0024】
図1は、本実施形態で使用されるドラム試験装置10の側面図である。
図2は、ドラム試験装置10の平面図である。
【0025】
ドラム試験装置10は、タイヤ1を転動させて様々な特徴量を評価するために使用される装置である。ここで、特徴量とは、例えばタイヤの軸力、モーメント、加速度、または騒音などであり得る。
【0026】
ドラム試験装置10は、ドラム本体11と、タイヤ1を支持する軸部材12と、軸部材12を回転させるモータ13とを備える。なお、本実施形態では、軸部材12を回転させるモータ13を備えるが、ドラム本体11にモータを備え、ドラム本体11が回転することで、ドラム本体11と接地しているタイヤ1も回転する機構でもよい。
【0027】
ドラム本体11は、タイヤ1が接地する部分であり、試験したい形状の路面が貼り付けられている。貼り付けられる路面は、詳細不明な第1路面または詳細既知な第2路面に対応して設けられる。詳細不明とは、第1路面を第三者が保有していることなどによって、表面の凹凸などの情報が得られないことをいう。換言すれば、詳細既知とは、第2路面を自身で保有していることなどによって、表面の凹凸などの情報が正確に取得可能であることをいう。ドラム本体11は、タイヤ1に比して大型であり、たとえば、直径1.7mでもよいし、3.0mでもよい。
【0028】
軸部材12は、タイヤ1の回転軸となる部材である。軸部材12の一端は、タイヤ1の回転中心Cに機械的に接続されている。軸部材12の他端は、モータ13に機械的に接続されている。
【0029】
モータ13は、軸部材12を介してタイヤ1に回転動力を与える。これにより、タイヤ1は、軸部材12に支持された状態でドラム本体11上を転動する。
【0030】
本実施形態では、軸部材12には、センサ14が取り付けられている。センサ14は、軸部材12に付加される上下方向の軸力を測定する。なお、測定するのは、上下方向の軸力に限られず、例えば、左右方向または前後方向の軸力であってもよい。ここで、上下方向とはタイヤ1が車体に取り付けられた際の車高方向であり、左右方向とは車幅方向であり、前後方向とは車長方向である。また、測定するのは、軸部材12に付加されるモーメントであってもよい。当該モーメントは、上下軸回り、左右軸回り、または前後軸回りの任意の方向を測定してよい。また、測定するのは、上下加速度、左右加速度、または前後加速度であってもよいし、さらには騒音であってもよい。このとき、センサ14は
図2のように軸部材12の側面に取り付けることに限らない。たとえば、軸部材12のタイヤ1の回転中心Cに機械的に接続されている端部に取り付けてもよい。また、騒音を計測する場合、タイヤ1から離れた位置にセンサを配置してもよい。
【0031】
以下、本実施形態のタイヤ試験結果の推定方法の具体的な各工程(相関事前判定工程、補正係数算出工程、および試験結果推定工程)について説明する。
【0032】
(相関事前判定工程)
相関事前判定工程は、第1路面と第2路面とにおけるタイヤ試験結果の相関をとる工程である。即ち、本工程では、第1路面と第2路面とがいかに近しいものであるかを判定する。
【0033】
本工程では、まず、第1路面と第2路面とにそれぞれ対応するドラム試験装置10を使用して、13本の補正検討用タイヤについてのタイヤ試験結果を取得する。第1路面については、第三者が行った試験結果を入手してもよいし、過去のデータを使用してもよい。第2路面については、自身で実際に試験を行ってもよいし、過去のデータを使用してもよい。
【0034】
本実施形態の取得データは、同一の補正検討用タイヤを第1路面および第2路面上でそれぞれ走行させた際に得られる時系列的に変化する上下方向の軸力である。この時系列データは、補正検討用タイヤの本数分得られる。本実施形態では、第1路面における上下軸力に関するデータ(第1特徴量)が13個得られるとともに、第2路面における上下軸力に関するデータ(第2特徴量)が13個得られる。即ち、13組の時系列データが得られる。なお、1組の対応する第1特徴量と第2特徴量とを取得するための補正検討用タイヤは、同一であることが好ましいが、完全に同一でなくとも同一スペックを有していればよい。スペックとは、タイヤ1のトレッドパターン、サイズ、材質となるゴムの構造、空気圧、またはドラム試験装置10によってタイヤ1に加えられる荷重などをいう。
【0035】
次いで、上記のように得られた13組の時系列データをそれぞれ周波数分析する。周波数分析されることにより、13組の時系列データ(第1特徴量および第2特徴量)は、13組の周波数ごとのスペクトル(第1周波数分析結果および第2周波数分析結果)に変換される。周波数分析の方法は、公知の様々な方法を使用でき、例えばフーリエ変換を用いてもよい。また、高速フーリエ変換、短時間フーリエ変換、ウィグナー分布、またはウェーブレット変換を採用してもよいし、オクターブ分析によって周波数分析を行ってもよい。
【0036】
次いで、第1周波数分析結果および第2周波数分析結果について、所定の周波数範囲における合計値として第1合計値Yおよび第2合計値Xをそれぞれ算出する。第1合計値Yおよび第2合計値Xは、それぞれ以下の式で求められる。
【0037】
【数1】
f:周波数
f1:所定の周波数の下限値
f2:所定の周波数の上限値
S1:第1周波数分析結果のスペクトル関数
S2:第2周波数分析結果のスペクトル関数
【0038】
代替的には、第1合計値Yおよび第2合計値Xは、積分値として算出されてもよい。
【0039】
上記所定の周波数範囲(f1≦f≦f2)は、測定対象に応じて変わり得るが、本実施形態のように上下軸力を測定対象とする場合には40−150Hzとすることが好ましい。
【0040】
詳細には、上記所定の周波数範囲(f1≦f≦f2)については、測定対象に応じて以下のように好適な範囲を設定できる。
・40−150Hz(上下軸力、上下加速度、または騒音)
・180−220Hz(上下軸力、上下加速度、または騒音)
・0−40Hz(上下軸力、上下加速度、前後軸力、前後加速度、または騒音)
・0−150Hz(上下軸力、上下加速度、前後軸力、前後加速度、または騒音)
・20−50Hz(前後軸力、前後加速度、左右軸力、左右加速度、または騒音)
・50−100Hz(上下軸回りのモーメント、または騒音)
・100−170Hz(左右軸力、左右加速度、前後軸回りのモーメント、または騒音)
・170−250Hz(上下軸力、上下加速度、前後軸力、前後加速度、または騒音)
【0041】
図3は、前述のようにして得られた第1合計値および第2合計値を1組として、13組のデータセットをプロットしたものであり、縦軸が第1合計値Yであり、横軸が第2合計値Xである。
【0042】
図3では、線形回帰した結果を示す線分を合わせて描画している。相関係数は、
図3に示すような第1合計値Yおよび第2合計値Xの共分散を、第1合計値Yの標準偏差と第2合計値Xの標準偏差の積で割った値として求められる。相関係数は1に近いほど、相関が高いことを示し、0に近いほど相関が低いことを示す。具体的には、相関係数をrとして、以下の式で求められる。
【0043】
【数2】
n:相関係数の算出に使用した補正検討用タイヤの総数
Y:変数(第1合計値)
X:変数(第2合計値)
a:データ番号(a=1〜n)
【0044】
このようにして相関事前判定工程では、第1路面と第2路面とにおけるタイヤ試験結果の相関を相関係数という形式で求めている。以下では、この相関係数を最大化する補正係数を求める補正係数算出工程と、求めた補正係数を使用して第1路面における試験用タイヤの試験結果を推定する試験結果推定工程とを説明する。
【0045】
(補正係数算出工程)
補正係数算出工程では、上記相関係数を最大化する補正係数を求める。補正係数は、第2周波数分析結果を第1周波数分析結果に近づけるための補正倍率であり、周波数ごとに設定される。本実施形態では、近似度を評価するために相関係数を用いている。
【0046】
本工程では、上記所定の周波数範囲(f1≦f≦f2)において、様々な補正係数を第2周波数分析結果に対して積算し、当該積算により補正された第2周波数分析結果の合計値と、第1周波数分析結果の合計値との相関を前述と同様にして相関係数によって確認する。そして、様々な補正係数に対して相関係数を確認し、相関係数を最大化する補正係数を探索する。
【0047】
探索する補正係数は、例えば、0.3以上かつ1.5以下とし、変更する刻み幅を0.01としてもよい。この場合、補正係数を0.3から1.5まで0.01ずつ増やしながら各補正係数に対応する相関係数を記録する。そして、相関係数が最大となる補正係数を算出する。このように補正係数の探索範囲に制限を設けることで探索を簡略化できる。実際上、第1路面の詳細は不明でも、第1路面に関する概要(第1路面の写真や、それを用いた試験の目的など)から、第2路面は一定まで第1路面を模擬した路面を使用できると考えると、補正係数として、ゼロ、マイナス、または著しく大きな値をとることはないと推測できるため、当該補正係数を除外することで、効率的な探索が可能となる。
【0048】
上記の補正係数の探索は、周波数ごとに行われる。具体的には、所定の周波数範囲(f1≦f≦f2)を複数の周波数帯に分割し、同じ周波数帯では同じ補正係数を使用してもよい。即ち、所定の周波数範囲(f1≦f≦f2)が例えば40−150Hzであれば、例えば10Hzごとに11個の周波数帯に分割し、周波数帯ごとに補正係数を変更して相関係数を最大化する補正係数を探索する。ただし、周波数帯の幅は、10Hzに限定されず、任意の幅としてよい。
【0049】
例えば、まず、40−50Hzにおいて補正係数を探索する。このとき、50−150Hzにおいては補正係数を1.0とする。探索結果として、例えば補正係数が0.9のときに相関係数が最大となることを確認すると、40−50Hzの補正係数を0.9に設定するとともに60−150Hzの補正係数を1.0に維持し、50−60Hzの補正係数を探索する。探索結果として、例えば補正係数が1.2のときに相関係数が最大となることを確認すると、40−50Hzの補正係数を0.9に維持し、50−60Hzの補正係数を1.2に設定し、70−150Hzの補正係数を1.0に維持し、60−70Hzの補正係数を探索する。このような探索を140−150Hzまで完了すると、再び40−50Hzの探索に戻り、探索をループさせる。このような探索のループを相関係数の最大値が収束するまで行い、相関係数を最大化する補正係数を算出する。ただし、相関係数が収束しない場合は一定回数の探索のループを完了した時点で探索を終了し、それまでの相関係数が最大となったときの補正係数を採用する。探索のループ回数の上限値は、例えば200回としてもよい。なお、40−50Hzのような記載は、40以上、かつ、50未満、あるいは50以下を示す。
【0050】
上記補正係数の探索において、好ましくは、隣り合う周波数帯の補正係数同士は、互いに1/3倍以上かつ3倍以下である。例えば、50−60Hzの補正係数が1.2であるとき、40−50Hzおよび60−70Hzの補正係数は0.4以上かつ3.6以下であることが好ましい。ただし、前述のように補正係数の探索範囲を0.3以上かつ1.5以下としている場合には、好ましくは40−50Hzおよび60−70Hzの補正係数は0.4以上かつ1.5以下となる。このように補正係数の探索を規定することで、隣り合う周波数帯において補正係数が急変しないようにすることができる。実際上、第1路面の詳細は不明でも、第1路面に関する概要(第1路面の写真や、それを用いた試験の目的など)から、第2路面は一定まで第1路面を模擬した路面を使用できると考えると、隣り合う周波数帯において補正係数が急変することは考えづらいため、補正係数に制限を設けることで、効率的な探索を可能としている。
【0051】
図4は、
図3に対応するグラフであり、補正後の相関を示している。グラフの縦軸は、
図3と同様に第1合計値を示している。グラフの横軸は、上記のようにして得られた補正係数を第2周波数分析結果に適用し、所定の周波数範囲における合計値として算出された第2合計値X’を示している。具体的には、第2合計値X’は、以下の式で求められる。
【0052】
【数3】
f:周波数
f1:所定の周波数の下限値
f2:所定の周波数の上限値
S2:第2周波数分析結果のスペクトル関数
H:補正係数
【0053】
図3,4を比較して参照すると、
図4では、線形回帰した結果を示す線分付近にプロットした点が集まっていることから、補正によって相関係数が1に近づき、相関が
図3に示すものに比べて高まっていることが確認できる。
【0054】
(試験結果推定工程)
試験結果推定工程では、補正係数算出工程で算出した補正係数を使用して第1路面上で試験用タイヤを走行させた際の試験結果(試験特徴量の試験周波数分析結果)を推定する。
【0055】
本工程では、まず、試験用タイヤを第2路面上で走行させた際の時系列的に変化する上下軸力(試験特徴量)を取得する。次いで、得られた上下軸力を例えばフーリエ変換により周波数分析して各周波数におけるスペクトル(試験周波数分析結果)を取得する。そして、試験周波数分析結果に対して補正係数算出工程で算出した補正係数を積算することで、試験用タイヤを第1路面上で走行させた際に得られる上下軸力の周波数分析結果を推定する。
【0056】
(作用効果)
本実施形態のタイヤ試験結果の推定方法によれば、以下の作用効果が得られる。
【0057】
性能を評価したい試験用タイヤを詳細不明な第1路面上で走行させた際に得られる特徴量の周波数分析結果を推定できる。本実施形態の方法は、第1路面についての詳細情報が得られず、第1路面上で試験用タイヤを実際に試験することができないときに有用である。本実施形態では、補正係数を利用することで、第1路面の詳細な情報が得られずとも、第2路面の試験結果(試験特徴量および試験周波数分析結果)から第1路面の試験結果を推定できる。
【0058】
また、相関係数を最大化する補正係数を探索しているので、得られた補正係数は高い相関を実現するものとなっている。従って、当該補正係数を利用することで、第2路面の試験周波数分析結果から第1路面の特徴量の周波数分析結果を高精度に推定できる。
【0059】
(第2実施形態)
本実施形態のタイヤ試験結果の推定方法は、補正係数の算出方法が第1実施形態と異なる。これに関する部分以外は、第1実施形態のタイヤ試験結果の推定方法と実質的に同じである。従って、第1実施形態と重複した説明は省略する場合がある。
【0060】
本実施形態の相関事前判定工程および試験結果推定工程は第1実施形態と同じであるため、説明を省略する。
【0061】
本実施形態の補正係数算出工程では、所定の周波数範囲において、第1周波数分析結果を第2周波数分析結果で除算して補正係数を取得する。所定の周波数範囲については、第1実施形態と同様である。従って、第1実施形態のように上下軸力を測定対象とする場合には所定の周波数範囲を40−150Hzとしてもよい。この場合、第1周波数分析結果および第2周波数分析結果は、第1実施形態と同様に上下軸力の時系列データを周波数分析した結果であり、各周波数におけるスペクトルとなる。
【0062】
本工程では、複数の補正検討用タイヤにて上記除算による補正係数の取得を行い、複数の補正検討用タイヤごとに取得された補正係数を平均化する。例えば、1本目の補正検討用タイヤにて補正係数H1(f)が得られ、2本目の補正検討用タイヤにて補正係数H2(f)が得られ、このようにして13本の補正検討用タイヤについて補正係数H1(f)〜H13(f)が得られると、本工程ではこれらの補正係数H1(f)〜H13(f)を平均化する。そして、平均化した補正係数Ht(f)を試験用タイヤに適用する補正係数として採用する。
【0063】
上記平均化した補正係数Ht(f)は、0.9以上かつ1.1以下の値を1.0としてもよい。また、各補正係数H1(f)〜H13(f)についても0.9以上かつ1.1以下の値を1.0としてもよい。これにより、不必要に補正をかけることがなくなる。
【0064】
本実施形態によれば、第1周波数分析結果を第2周波数分析結果で除算して直接的に補正係数を算出しているため、当該補正係数によって高い相関を実現できる。よって、高精度の推定が可能となる。
【0065】
以上より、本発明の具体的な実施形態について説明したが、本発明は上記形態に限定されるものではなく、この発明の範囲内で種々変更して実施することができる。
【0066】
例えば、上記実施形態では、タイヤ試験をドラム試験としているが、タイヤ試験は実車試験であってもよい。即ち、第1路面および第2路面のいずれかまたは両方がドラムに貼り付けられた路面ではなく実際の路面であってもよい。なお、第1特徴量を周波数分析して第1周波数分析結果を取得するのは、自身が実施する必要はなく、第三者が実施した結果を取得してもよい。
【0067】
また、上記実施形態の方法は、コンピュータ上で自動的に解析されるものであってもよいし、手動的に計算で求められるものであってもよい。