(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-144103(P2020-144103A)
(43)【公開日】2020年9月10日
(54)【発明の名称】質量分析によるSDHBタンパク質発現の評価
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20060101AFI20200814BHJP
C12Q 1/32 20060101ALI20200814BHJP
C07K 1/16 20060101ALI20200814BHJP
C07K 1/26 20060101ALI20200814BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20200814BHJP
A61K 31/506 20060101ALI20200814BHJP
A61K 31/4164 20060101ALI20200814BHJP
A61K 31/4188 20060101ALI20200814BHJP
G01N 33/68 20060101ALI20200814BHJP
G01N 33/48 20060101ALI20200814BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20200814BHJP
【FI】
G01N27/62 VZNA
G01N27/62 X
C12Q1/32
C07K1/16
C07K1/26
A61P35/00
A61K31/506
A61K31/4164
A61K31/4188
G01N33/68
G01N33/48 R
G01N30/88 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2020-2917(P2020-2917)
(22)【出願日】2020年1月10日
(31)【優先権主張番号】62/791,493
(32)【優先日】2019年1月11日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】517069284
【氏名又は名称】ナントオミックス, エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100172557
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 啓靖
(72)【発明者】
【氏名】ヨン、ジン、キム
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー、ジー.チャンバース
【テーマコード(参考)】
2G041
2G045
4B063
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA04
2G041EA04
2G041FA12
2G041GA03
2G041GA06
2G041GA08
2G041GA09
2G041HA01
2G041HA02
2G041JA02
2G041LA08
2G045AA26
2G045CB02
2G045DA20
4B063QA01
4B063QQ02
4B063QQ24
4B063QS16
4B063QS17
4C086AA01
4C086AA02
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4C086BC42
4C086BC50
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4C086CB05
4C086GA07
4C086GA08
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4C086GA12
4C086MA01
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4C086ZB26
4H045AA30
4H045BA10
4H045CA41
4H045EA28
4H045GA21
4H045GA25
4H045GA30
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コハク酸脱水素酵素鉄硫黄サブユニット(SDHB)タンパク質の発現を検出及び定量するための方法を提供する。
【解決手段】特定のタンパク質フラグメントペプチドが、対象、例えば、癌患者から取得された腫瘍組織から回収された腫瘍細胞において、直接、データ独立取得(DIA)−質量分析により正確に検出及び定量される。この方法からの結果は、癌療法の選択の補助に使用可能である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルマリン固定組織の生体試料中のミトコンドリアタンパク質であるコハク酸脱水素酵素鉄硫黄サブユニット(SDHB)タンパク質の発現を検出するための方法であって、
質量分析を使用して、前記生体試料から調製されたタンパク質消化物中の前記SDHBタンパク質由来の1種以上のフラグメントペプチドを検出及び/又は定量すること、並びに、
前記試料中の前記タンパク質のレベルを計算すること
を含む、前記方法。
【請求項2】
前記1種以上のフラグメントペプチドを検出及び/又は定量する前に、前記タンパク質消化物を分画する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分画工程が、ゲル電気泳動、液体クロマトグラフィー、キャピラリー電気泳動、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、及び逆相高速液体クロマトグラフィーからなる群から選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記タンパク質消化物が、プロテアーゼ消化物、好ましくはトリプシン消化物を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記質量分析が、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極質量分析、イオントラップ/四重極ハイブリッド質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、及び/又は飛行時間型質量分析を含む、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
使用される質量分析のモードが、データ独立取得(DIA)である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記1種以上のフラグメントペプチドが、配列番号1〜12からなる群から選択される、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記組織が、パラフィン包埋組織である、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記組織が、腫瘍、例えば、原発性又は続発性腫瘍から取得される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記1種以上のフラグメントペプチドの定量が、前記生体試料中の前記1種以上のフラグメントペプチドの量を、異なる別個の生体試料中の同一の1種以上のフラグメントペプチドの量と比較することを含む、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記タンパク質消化物中の前記1種以上のフラグメントペプチドの検出及び/又は定量が、対応するタンパク質の存在を示すとともに、対象における癌の診断上のステージ/グレード/ステータスとの関連を示す、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記1種以上のフラグメントペプチド又は前記対応するタンパク質の検出及び/又は定量の結果を相関させ、前記対象に対する最適な癌処置療法の情報を提供することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記結果を相関させることが、マルチプレックスフォーマットにおいて、他のタンパク質又は他のタンパク質由来のペプチドを検出又は定量することと組み合わされる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記生体試料中の前記SDHBタンパク質由来の前記1種以上のフラグメントペプチドの量が、前記生体試料と同一起源に由来する健康な組織試料中のSDHBタンパク質由来の前記1種以上のフラグメントペプチドの量より多いか、その量と実質的に同等である、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ダカルバジン、テモゾロミド、及びそれらの組合せからなる群から選択される薬剤を、患者に投与することをさらに含む、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
この特許出願は、2019年1月11日に出願された米国仮特許出願第62/791,493号の優先権を主張し、その内容の全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
SDHBタンパク質の発現を測定するための新たな改善された方法が提供される。その方法は、データ独立取得(DIA:Data Independent Acquisition)モードにおいて実施される液体クロマトグラフィー−質量分析(LC−MS)を使用する。その方法は、癌患者の腫瘍組織、特に消化管間質腫瘍(GIST)において、特定のSDHBフラグメントペプチドの検出を可能にし、癌処置の改善された方法の一部として使用され得る。例えば、その方法を使用して、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ダカルバジン及びテモゾロミドを含むが、これらに限定されないレジメン(regimen)による処置に対して応答するか、あるいは、応答する可能性が非常に高い患者を特定することができる。
【背景技術】
【0003】
ミトコンドリアのコハク酸脱水素酵素鉄硫黄サブユニット(SDHB)(複合体IIの鉄硫黄サブユニット(Ip)としても知られる)は、ヒトにおいて、コハク酸の酸化を触媒(コハク酸+ユビキノン⇒フマル酸+ユビキノール)するコハク酸脱水素酵素(SDH又は複合体IIとも呼ばれる)タンパク質複合体の一部であるタンパク質である。SDHBは、まとまってコハク酸脱水素酵素を形成する4つのタンパク質サブユニットの1つであり、他の3つは、SDHA、SDHC及びSDHDである。SDHBサブユニットは、SDH複合体の親水性かつ触媒作用のある末端でSDHAサブユニットと結合している。SDHBはまた、複合体のミトコンドリア膜にアンカーされた疎水性末端においてSDHC/SDHDサブユニットと結合している。SDHBサブユニットは、3つの鉄硫黄クラスターを有する鉄硫黄タンパク質である。
【0004】
SDHBタンパク質は、ミトコンドリアの内膜において発現されるが、SDHB遺伝子は、ミトコンドリアではなく、核に存在する。発現されたタンパク質は、18.6kDaであり、180個のアミノ酸から構成される。SDHBは、複合体を介した電子のトンネリング(tunneling)に必要な鉄硫黄クラスターを有している。SDHBは、SDHAと、2つの膜貫通型サブユニットSDHC及びSDHDとの間に位置する。SDH複合体は、ミトコンドリアの内膜上に位置し、クエン酸回路及び呼吸鎖の両方に関与している。SDHBは、基本となるSDH酵素において仲介役(intermediate)として機能する。SDHBは、腫瘍抑制遺伝子であり、変異による遺伝子の欠損及び/又はタンパク質発現の減少は、腫瘍形成を開始及び進行させる。したがって、タンパク質発現の減少を判定する方法は、腫瘍形成のレベルを潜在的に決定する補助となるだけでなく、療法の選択を決定する際にも使用可能である。
【発明の概要】
【0005】
フラグメントペプチド分析のデータ独立取得(DIA)モードを使用する質量分析によって、SDHBタンパク質由来の1種以上のフラグメントペプチドの存在を検出するための方法が提供される。フラグメントペプチドは、配列番号1〜12のペプチドであってもよく、これらのペプチドは、全長のSDHBタンパク質に由来する。
【0006】
ホルマリン固定組織の生体試料中のSDHBタンパク質の発現を検出するための方法であって、質量分析を使用して前記生体試料から調製されるタンパク質消化物中のSDHBタンパク質由来の1種以上のフラグメントペプチドを検出及び/又は定量すること、並びに、前記試料中の前記タンパク質のレベルを計算することを含む方法が提供される。フラグメントペプチドは、配列番号1〜12のペプチドから選択されてもよく、配列番号1〜12のうちの1種以上、2種以上、3種以上、4種以上、5種以上、6種以上、7種以上、8種以上、9種以上、10種以上、11種以上又は12種全てのいずれの組合せであってもよい。タンパク質消化物は、場合により、1種以上のフラグメントペプチドを検出及び/又は定量する前に分画されてもよい。分画工程は、例えば、液体クロマトグラフィー、ナノ逆相液体クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー、又は逆相高速液体クロマトグラフィーであってもよい。タンパク質消化物は、プロテアーゼ消化物、例えば、トリプシン消化物であってもよく、有利には、生体試料のタンパク質消化物は、Liquid Tissue(登録商標)プロトコルによって調製されてもよい。
【0007】
組織は、ホルマリン固定組織であってもよく、場合により、パラフィン包埋されてもよい。組織は、腫瘍、例えば、原発性又は続発性腫瘍から取得されてもよい。
【0008】
質量分析は、タンデム質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極質量分析、イオントラップ/四重極ハイブリッド質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、及び飛行時間型質量分析のうちの1種以上を含み得る。有利には、使用される質量分析のモードは、データ独立取得(DIA)である。
【0009】
1種以上のフラグメントペプチドは、例えば、ある生体試料中のフラグメントペプチドの量を、異なる別個(different and separate)の生体試料中の同一のフラグメントペプチドの量と比較することによって定量可能である。タンパク質消化物中の少なくとも1種のフラグメントペプチドの検出及び/又は定量は、SBHBタンパク質の存在を示すとともに、試料が取得された対象における癌の診断上のステージ/グレード/ステータスとの関連を示す。少なくとも1種のフラグメントペプチド又は対応するタンパク質を検出及び/又は定量することは、対象に対する癌処置療法の改善された方法の一部として使用可能である。相関は、マルチプレックスフォーマットにおいて、他のタンパク質又は他のタンパク質由来のペプチドの検出及び/又は定量と組み合わされ、対象に対する癌処置の改善された方法を提供することもできる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
コハク酸脱水素酵素(SDH)複合体は、4つのサブユニット、すなわち、SDHA、SDHB、SDHC及びSDHDから構成される極めて重要な呼吸酵素である。注目すべきことに、SDHBに対する免疫組織化学は、SDHのいずれかの構成要素が両アレルで不活化している場合はいつも陰性となり、これは、症候性疾患がない際には非常に珍しいことである。したがって、SDHB免疫組織化学の消失は、症候性疾患、通常は、SDHサブユニットの1つの生殖細胞系列変異のマーカーとして役立つ。SDHB発現の減少を示す腫瘍は、コハク酸脱水素酵素欠損性と呼ばれる。SDHBの減少に加えて、SDHA変異に関連する腫瘍もまた、SDHA発現の減少を示す。褐色細胞種及び傍神経節腫(PHEO/PGL)の15パーセントは、生殖細胞系列のSDH変異、したがって、SDH欠損に関連している。SDH欠損性の消化管間質腫瘍(GIST)は、顕著な特徴、例えば、KIT癌原遺伝子受容体チロシンキナーゼ/血小板由来増殖因子受容体A(KIT/PDGFRA)変異(しかし、cKIT及びDOG1に対する染色は陽性)の不存在、発生部位は実質的には排他的に胃であること、分葉状の増殖(lobulated growth)、多病巣(multi-focality)、サイズ及び分裂速度により予想されない予後、リンパ節への頻繁な転移、及びイマチニブ療法に対する一次耐性を示す。30パーセントは、SDHAの生殖細胞系列変異に関連し、50%は、SDHCエピ変異(接合後のプロモーターの過剰なメチル化)に関連する。SDHCエピ変異は、症候性であるが、非遺伝性のCarney triad(SDH欠損性のGIST、SDH欠損性の傍神経節腫、及び肺軟骨腫)の特徴である。SDH欠損性の腎癌は、空胞化した好酸性の細胞質及び細胞質の封入体(vacuolated eosinophilic cytoplasmic and cytoplasmic inclusions)を示す。それは、特にSDHB変異に関連しているが、SDHC及びSDHA変異も起きている。SDH欠損性の下垂体腺腫が認知されているが、最も珍しいSDH欠損性腫瘍であると考えられる。
【0011】
傍神経節腫は、SDHB変異により引き起こされ、SDHBタンパク質発現の欠損が実証されるとともに、いくつかのその他の際立った特徴を有する。悪性腫瘍は、一般的であり、変異の保因者の38〜83%に及ぶ。対照的に、SDHD変異によって引き起こされる腫瘍は、ほとんどの場合、良性である。孤発性傍神経節腫は、症例の10%以下で悪性である。SDHBによって引き起こされる悪性の傍神経節腫は、通常、副腎外であり(全症例の92%)、一方で、孤発性の褐色細胞種/傍神経節腫は、症例の10%以下で副腎外である。遺伝子の浸透度は、50歳で77%(すなわち、保因者の77%が、50歳までに少なくとも1種の腫瘍を有する)として、頻繁に報告されている。発病の平均年齢は、SDHBと非SDHB関連疾患とでほぼ同一である(およそ36歳)。
【0012】
SDHC及びSDHD遺伝子と同様に、SDHBは、腫瘍抑制遺伝子であり、変異による遺伝子の欠損及び/又はタンパク質発現の減少は、腫瘍形成を開始及び進行させる。SDHA遺伝子は、腫瘍抑制遺伝子ではない。
【0013】
腫瘍の形成は、一般的に、クヌードソンの「ツーヒット」説に従う。遺伝子の第一のコピーは、全細胞において変異しているが、第二のコピーは、通常、機能する。第二のコピーが、偶発的な出来事のために、ある細胞において変異する場合、ヘテロ接合性の消失(LOH)が発生し、SDHBタンパク質はもはや産生されない。次いで、腫瘍の形成が、起こり得る。全ての細胞機能におけるSDHBタンパク質の基本的性質を考慮すると、傍神経節細胞だけが影響を受ける理由は、現在のところ理解されていない。しかしながら、酸素レベルに対するこれらの細胞の感受性が、役割を果たしている可能性がある。
【0014】
SDHB変異から腫瘍形成に至る正確な経路は、十分に理解されていないが、いくつかのメカニズムが提唱されている。第一の可能性のあるメカニズムは、コハク酸−ユビキノン活性が阻害されると、通常、SDHBサブユニットを通してユビキノンプールに伝達される電子が、代わりにO
2に伝達され、活性酸素種(ROS)、例えば、スーパーオキシドを生成することである。ROSが、蓄積し、HIF1−αの産生を安定させる。HIF1−αは、HIF1−βと結合して、安定なHIFヘテロ複合体を形成し、次いで、細胞核において抗アポトーシス遺伝子の誘導に至る。第二の可能性のあるメカニズムは、SDHの不活化が、コハク酸の酸化を阻害して、以下の反応カスケード:1)ミトコンドリアマトリックス中に蓄積されたコハク酸が、ミトコンドリアの内膜及び外膜を通って細胞質に拡散され、2)正常な細胞機能の下で、細胞質中のHIF1−αは、プロリルヒドロキシラーゼ(PHD)によって直ちにヒドロキシル化され、3)HIF1−αは安定し、細胞核に移動し、そこで、HIF1−αはHIF1−βと結合して、活性型のHIF複合体を形成することにより、腫瘍を引き起こす遺伝子の発現を誘導する反応カスケードを開始する。
【0015】
SDHBに関連する細胞内経路は、治療処置の可能性を提起する。コハク酸の蓄積は、PHDの活性を阻害する。PHDの作用は、通常、酸素と、補基質としてのα−ケトグルタル酸と、鉄イオンと、補因子としてのアスコルビン酸とを必要とする。コハク酸は、PHD酵素に対する結合において、α−ケトグルタル酸と競合する。したがって、α−ケトグルタル酸レベルの上昇は、コハク酸の蓄積の作用を相殺することができる。しかしながら、α−ケトグルタル酸は、細胞壁(cell wall)を効率的に通過しないため、細胞に浸透する誘導体(例えば、α−ケトグルタル酸エステル)の開発を必要とする。In−vitro試験は、この補給的なアプローチ(supplementation approach)によって、HIF1−αレベルを減少させることができるとともに、SDH欠損から生じる腫瘍に対する治療アプローチとなり得ることを示している。
【0016】
傍神経節組織は、胚に存在する神経堤細胞由来である。腹部の副腎外の傍神経節細胞は、カテコールアミンを分泌し、カテコールアミンは、胎児の発生に重要な役割を果たす。出生後、これらの細胞は、通常、死滅する。そのプロセスは、神経成長因子(NGF)の減少により誘発されるプロセスであって、アポトーシス(細胞死)を惹起するプロセスである。この細胞死プロセスは、プロリルヒドロキシラーゼEglN3と呼ばれる酵素によって調節される。SDHの不活化によって引き起こされるコハク酸の蓄積は、プロリルヒドロキシラーゼEglN3を阻害する。その最終結果は、出生後に通常は死滅する傍神経節組織が残存することであり、この組織が、後に褐色細胞種/傍神経節腫を誘発することができる可能性がある。したがって、クエン酸回路の阻害は、その必要なエネルギーを生成するために、細胞にATPを解糖的に産生させる。誘導される解糖系の酵素は、潜在的に細胞のアポトーシスを阻害し得る。
【0017】
患者の腫瘍細胞における、SDHB遺伝子の変異状態の検討は、現在、技術的によく知られる遺伝学的方法を使用する臨床業務において、利用されている。しかしながら、SDHB遺伝子の核酸配列を知ることによって、SDHBタンパク質の発現状態を決定することはできない。今回記載の方法は、DIAモードにおける質量分析により、1種以上のフラグメントペプチド、例えば、配列番号1〜12の存在を検出することによって、患者の腫瘍細胞において発現されるSDHBタンパク質の発現を検出することを可能にする。
【0018】
質量分析は、全長タンパク質から特定のフラグメントペプチドを検出することによって、患者の腫瘍組織において直接的にタンパク質を分析するための有益なアプローチになっている。質量分析機器の複数のタイプが、複数のモードにおいて運用可能であり、それにより、タンパク質由来のフラグメントペプチドの異なる側面が、分析可能である。
【0019】
質量分析は、例えば、タンデム質量分析、Q−TOF質量分析、イオントラップ質量分析、トリプル四重極質量分析、MALDI−TOF質量分析、MALDI質量分析、ハイブリッドイオントラップ/四重極質量分析、及び/又は飛行時間型質量分析を含み得るが、これらに限定されない。質量分析のモードは、データ独立取得(DIA)である。
【0020】
液体クロマトグラフィーとタンデム質量分析との接続により(LC−MS/MS)、標的化され、発見ベースの(targeted and discovery-based)網羅的なタンパク質/ペプチド、翻訳後修飾及びアイソフォームバリアントの同定を可能にする。患者組織からのタンパク質溶解液の網羅的タンパク質プロファイルを取得するために広く使用される質量分析アプローチは、非標識のショットガンプロテオミクスであり、この場合、質量分析計は、データ依存取得(Data Dependent Acquisition)(DDA)モードにおいて操作される。この方法において、サーベイスキャンからの最も強度の高いプリカーサーイオンは、タンデム質量スペクトル(tandem mass spectra)(MS/MS又はMS2)を生成するために単離及び断片化され、次いで、ペプチドの同定のために、既知配列のデータベースに対して照合される。しかしながら、ショットガンプロテオミクスは、2つの主要な欠点;アンダーサンプリング(under-sampling)と、溶出ピーク外のMS/MSスペクトルの分析とが、頻繁に発生するという欠点を抱えている。これは、再現性の低下につながり、そこでは、検出可能なペプチドの僅かなフラクションのみが、確実に同定及び配列決定されているであろう。
【0021】
ショットガンプロテオミクスに対する補完的なアプローチは、ターゲット質量分析アプローチであり、それは、選択反応モニタリング(SRM)モードを利用する。このアプローチは、トリプル四重極質量分析計の性能を使用して、特定分子のイオン、及び衝突解離によって生成されるそれらの対応するフラグメントイオンをフィルターにかけ、選択的にモニターする。SRMトランジションと呼ばれる、これらのプリカーサーフラグメントイオンのペアは、繰り返し測定され、何度も計測されることにより、ターゲットペプチドの再現可能な定量を可能にする。しかしながら、SRMは、目的の各ペプチドに対するアッセイを開発する必要性、分析処理能力の低さ、及び数百から数千のペプチドにわたって多重化するための能力の限界という欠点を抱えている。
【0022】
データ独立取得(DIA)は、SRMの再現性と、ショットガンプロテオミクスにおいて同定される膨大なタンパク質/ペプチドとを組み合わせることにより、ショットガン法及びターゲット法(targeted methods)の両方の長所を利用する。一般にDIA法には、分析中に個々のプリカーサーイオンを検出する必要がなく、それは、MS/MSスキャンが、取得プロセスを通して体系的に(先行する情報なしに独立して)収集されるからである。マルチプルDIAフォーマットが、使用中及び/又は現在開発中である。本明細書に記載の方法は、いかなる特定のDIAフォーマットにも限定されない。
【0023】
DIAのデータ作成は、DDA又はSRM実験と比較して、より柔軟かつ単純である。サーベイスキャン(survey scan)又は全MSスキャン(full MS scan)からのプリカーサーイオンの選択に関係なく、DIAは、全てのMS/MSスキャンを収集する一方で、DDAはその選択を必要とする。ターゲットリストの事前定義(predefinition)は、SRM/PRMにおいて必要とされるが、DIA実験に必要ない。プリカーサー及び対応するトランジションの広い範囲が、データの入手後に抽出可能である。したがって、ターゲットプロテオミクスにおいて、DIAは、ターゲットデータ抽出戦略を使用する包括的なプロテオーム規模の定量を目標とする。しかしながら、SRMと比較する場合、DIAベースのターゲット法は、一般に、より低い感度、特異性及び再現性に加えてタンパク質の定量におけるより狭いダイナミックレンジを提供する。
【0024】
DIA法は、元々、事前定義されたm/z範囲の連続的な単離及び断片化を実施するために広いプリカーサー単離ウインドウ(10m/z)の適用を備えるLTQリニアイオントラップ(LIT)質量分析計を使用して導入された。MSレベルの定量と比較して、S/N比は、良好な線形ダイナミックレンジで大幅に改善された(350%より高い)ことが見出された。DIA定量のMS/MSレベルにおけるイオン抽出(ion extractions)の適用も、実施された。しかしながら、広いプリカーサー単離ウインドウを備えるそのような低分解能のDIA MS/MSは、質量確度(mass accuracy)、及びペプチド同定における信頼性を低下させ、それにより、潜在的に偽陽性率(false positive discovery rate)を増加させる結果となった。
【0025】
その他の修正されたDIAが、続いて、導入されている。MSEは、QqTOF機器で効率的に作動可能である。より狭い単離ウインドウ(2.5u)の使用により、タンパク質の同定の改善につながったが、標的の質量範囲全体を対象にする全データ取得には、複数回のインジェクション(5日間で67インジェクション)を必要とした。非常に速くスキャンするイオントラップMS(例えば、LTQオービトラップ Velos MS)によって、全データ取得時間が約2日まで短縮された。卓上のExactive MSの導入は、全イオン断片化(all-ion fragmentation)(AIF)の適用を実施するために使用された。そこでは、ペプチドが、プリカーサーの選択なしに、断片化のためにHCD衝突セル(HCD collision cell)に注入され、フラグメントが、C−トラップに戻され、オービトラップ質量分析部によって分析された。共溶出するプリカーサーイオンに対するフラグメントイオンの割当(assignment)は、高分解能(m/z 200において100000)及び高い質量確度によって増強された。このコンセプトは、デューティサイクル時間を大幅に減少させるが、ある程度の保持時間において、AIFからのより大きな干渉をもたらす。別のDIAアプローチが、続いて導入され、拡張独立データ取得(extended data-independent acquisition)(XDIA)と呼ばれ、電子移動解離(ETD)機能を備えた様々なタイプのオービトラップMSで実施された。DDAベースのETD解析と比較した場合、DIAベースのETDアプローチは、スペクトルの同定数(約250%)及び固有のペプチド数(約30%)を有意に増加させた。これは、低存在量のPTM研究を促進することができる可能性があった。
【0026】
最近、DIAにおける大きな改善が、高速スキャンHR/AM機器の開発と併せて達成された。そこでは、SWATHと呼ばれるDIAのバリエーションが、QqTOF MSを使用して実施され、概念的には、複数のスペクトルからなる広い単離ウインドウ(典型的には25m/z)の利用が言及されている。QqTOF MSを使用する一つの重要な特徴は、最速のデータ取得速度である。別のDIA戦略が、QqOrbi MSの使用によって導入された。そこでは、新規の取得法、すなわち、MSXが、取り入れられ、機器の速度、選択性及び感度を改善した。
【0027】
DIAデータ取得及びプロセスにおける最近の改善は、新しいバージョンのオービトラップMS機器によって支援されている。pSMARTと呼ばれるその最初の一つは、Q Exactive MSで実施され、質量範囲にわたって、非対称の(asymmetric)単離ウインドウ:400〜800m/zを対象にする5Daウインドウ、800〜1000m/zを対象にする10Daウインドウ、及び1000〜1200m/zを対象にする20Daウインドウを利用する。広選択イオンモニタリングDIA(wide selected-ion monitoring DIA)(wiSIM−DIA)と呼ばれ、新しいハイブリッドQ−HCD−オービトラップ−LIT MS(すなわち、オービトラップFusion及びLumos)で実施される別のDIA法では、200Daの単離ウインドウによる3回のHR/AM SIMスキャンが、400〜1000m/zの全プリカーサーイオンを対象にして使用される。各SIMスキャンと平行して、12Daの単離ウインドウによる17回の連続したイオントラップMS/MSが、関連する200DaのSIM質量範囲を対象にして取得された。
【0028】
標準的な広いウインドウのMS/MSのみのDIA法とは異なる、pSMART及びwiSIM−DIAのためのMS1データ(すなわち、より長い充填時間(fill time)によるHR/AMプリカーサーデータ、及びLC溶出プロファイルにわたって十分なプリカーサーイオンのデータポイント)が、高感度の検出及び定量のために使用され、一方で、高速イオントラップMS/MSスキャンからのMS/MSデータが、ペプチドの同定/確認にのみ使用される。検出可能なペプチドプリカーサーの全フラグメントイオンの完全な記録を有するが、高度なデータ解析を伴う標準的なDIA法と比較して、pSMART及びwiSIM−DIAは、比較的簡単なデータ解析によって、検出可能なペプチドプリカーサーに対する小数のMS/MSスペクトルのみを提供することができ、その理由は、デューティサイクル時間の大部分が、高品質のMS1データを生成するために使用されるためである。したがって、それらの感度及び精度は、標準的なDIA法によって提供されるものよりも高く、一方で、それらの定量確度(quantification accuracy)(すなわち、特異性又は選択性)は、標準的なDIA法の定量確度よりもいくらか低く、それは、MS1からの共溶出による干渉(co-eluting interference)を有する機会がMS/MSよりも増加するためである。
【0029】
ごく最近、ハイパー反応モニタリング(hyper reaction monitoring)(HRM)と呼ばれる新規のDIA法が、実施された。それは、Q Exactive MS(ハイブリッド四重極/イオントラップ)プラットフォ−ムによる包括的なDIA取得と、保持時間の標準化された(iRT)スペクトルライブラリを有するターゲットデータ解析とからなる。HRMは、複数の測定にわたって、一致して同定されるペプチド数、及び異なる多くのタンパク質の定量の信頼性の両方において、ショットガンプロテオミクスより優れていることが実証されている。DIA分析のためのより効果的なバイオインフォマティクスツールが、現在開発中であり、今回記載の方法において適用され得る。
【0030】
DIAスペクトルは、高度に多重化され、そのために、より精巧なデータ解釈アルゴリズムが、DDA又はSRM/PRMと比較して必要とされる。現在、3つのアプローチが、DIAスペクトルを解釈するために使用されている。最初のアプローチは、DIAスペクトルから疑似DDAスペクトル(pseudo-DDA spectra)を構築することである(例えば、Demux、MaxQuant、XDIAプロセッサー及びComplementary Finder)。これらの再構築された疑似DDAスペクトルは、次いで、通常の検索エンジンツール、例えば、MSGF+、MaxQuant、MASCOT、又はその他のスペクトルライブラリを使用して処理される。スキームのいくつかは、クロマトグラフの溶出プロファイルを使用して、ペプチドの同定を改善した。Tsou et al.による最近の発表には(“DIA−Umpire:comprehensive computational framework for data−independent acquisition proteomics,”Nat Methods 12:258−264(2015))、DIA−Umpireと呼ばれるコンピュータによるアプローチの開発が記載されていた。DIA−Umpireは、2つの側面(m/z及び保持時間)の特徴検出アルゴリズム(feature-detection algorithm)から開始して、MS及びMS/MSデータ中の全ての可能性のあるプリカーサー及びフラグメントイオンのシグナルを見出す。フラグメントイオンは、LC溶出ピークとピークの頂点における保持時間との相関を有するプリカーサーイオンによってグループ化される。次いで、各プリカーサー−フラグメントグループに対して生成された疑似MS/MSスペクトルが、上記のツールを含む通常のデータベース検索エンジンにより処理される。残りのアプローチは、多重化されたMS/MSを、ペプチドの理論上のスペクトルに照合することである(例えば、ProbIDtree、Ion Accounting、M−SPLIT、MixDB、及びFT−ARM)。スコアリングアルゴリズム(scoring algorithms)は、配列データベース又はスペクトルライブラリからペプチドの理論上のフラグメントイオンが、高い質量確度を備える多重化されたスペクトルに関して見出される数に、直接的に基づいている。初めの2つのアプローチは、さらなる定量の前の、DIAスペクトルからのペプチドの同定に大いに取り組んできた。無償で利用可能な自動化又は半自動化されたツール、例えば、Skyline、mProphet、OpenSWATH及びDI−ANA、並びに、2つの市販のソフトウェア、AB/Sciex社のPeakView(登録商標)及びBiognosys社のSpectronaut(商標)が、ターゲットデータ抽出戦略を使用する定量的なターゲットDIAデータを処理するために使用されている。
【0031】
これらの方法において、特定のSDHBフラグメントペプチドは、配列番号1(YLGPAVLMQAYR)、配列番号2(IYPLPHMYVIK)、配列番号3(AGDKPHMQTYEVDLNK)、配列番号4(QQYLQSIEER)、配列番号5(NEVDSTLTFR)、配列番号6(SIEPYLK)、配列番号7(IDTNLNK)、配列番号8(DLVPDLSNFYAQYK)、配列番号9(LQDPFSLYR)、配列番号10(DDFTEER)、配列番号11(RIDTNLNK)及び配列番号12(IKNEVDSTLTFR)として記載されるアミノ酸配列を含み得る。
【0032】
腫瘍試料は、例えば、細胞、一群の細胞、又は固形組織であってもよい。腫瘍試料は、ホルマリン固定された固形組織であってもよく、パラフィン包埋組織であってもよい。
【0033】
処置に使用される薬剤の選択に関する処置決定が、生体試料における他のペプチド/タンパク質と組み合わされた特定のSDHBフラグメントペプチドの特定のレベルに基づくように、特定のSDHBフラグメントペプチドの検出及び定量を、マルチプレックスフォーマットにおいて他のタンパク質由来の他のペプチドの検出及び定量と組み合わせてもよい。特定のSDHBペプチドが、検出されない、したがって、そのタンパク質が発現されていない場合、治療戦略は、1種以上の抗Kit薬剤を含み得る。
【0034】
SDHBフラグメントペプチドを検出する方法において、その方法は、さらに、フラグメントペプチドを検出及び/又は定量する前に、タンパク質消化物を分画する工程を含み得る。
【0035】
これらの方法において、タンパク質消化物中のタンパク質フラグメントペプチドを検出及び定量することは、対応するタンパク質の存在を示すとともに、対象の癌との関連を示し、その結果は、癌の診断上のステージ/グレード/ステータスと相関させることができる。相関させる工程は、マルチプレックスフォーマットにおいて、他のタンパク質又は他のタンパク質由来のフラグメントペプチドを検出及び/又は定量することと組み合わされて、癌の診断上のステージ/グレード/ステータスに関連する追加の情報を提供することができる。
【0036】
測定後、及び、場合により、相関させる工程の後に、生体試料が患者から取得され、その患者は、治療上有効な量の治療薬を投与され、このとき、治療薬、及び/又は投与される治療薬の量は、フラグメントペプチドの量又はタンパク質のレベルに基づく。
【0037】
具体的には、患者からの1つ又は複数の腫瘍試料中のSDHBの発現を検出及び測定するための診断上の方法が提供される。腫瘍試料は、有利には、ホルマリン固定試料である。1種以上の特定のSDHBペプチドフラグメントを測定するDIAアッセイ、及びペプチドに関連する特定の特徴を使用して、ホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織由来の細胞中のSDHBタンパク質の存在及び量を決定する。ペプチドフラグメントは、全長SDHBタンパク質に由来し、SDHBに対して使用される特定のペプチド配列は、配列番号1〜12のペプチドから選択される。
【0038】
FFPE組織の消化物中のこれらのペプチドの検出及び正確な定量は、全く予測不能であり、それは、タンパク質のホルマリン固定の間に起こるランダムなタンパク質のクロスリンクによるためである。しかしながら、驚くことに、これらの特定のSDHBペプチドは、腫瘍組織のFFPE試料から調製される消化物中で確実に検出及び定量可能であることが見出されている。例えば、米国特許出願第13/993,045号参照。その内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0039】
より具体的には、このDIAアッセイは、患者組織試料(例えば、ホルマリン固定された癌患者組織)から得られた細胞から調製された複雑なタンパク質溶解液試料中のペプチドを直接的に測定することができる。ホルマリン固定組織からタンパク質試料を調製する方法は、米国特許第7,473,532号に記載されており、その内容の全体が、参照により本明細書に組み込まれる。米国特許第7,473,532号に記載の方法は、Expression Pathology Inc.(Rockville,Md.)から市販されているLiquid Tissue試薬及びプロトコルを使用して簡便に実行することができる。
【0040】
癌患者からの組織及び癌組織の最も広範かつ有利に利用可能な形態は、ホルマリン固定され、パラフィン包埋された組織である。外科的に切除された組織のホルムアルデヒド/ホルマリン固定は、世界中で、群を抜いて最も一般的な癌組織試料を保存する方法であり、標準的な病理プラクティス(pathology practice)において許容される慣例である。ホルムアルデヒドの水溶液はホルマリンと呼ばれる。「100%」ホルマリンは、ホルムアルデヒドの飽和水溶液(体積基準で約40%又は質量基準で37%)からなる。少量の安定剤(通常はメタノール)が、酸化及び重合度を制限するために添加される。組織を保存する最も一般的な方法は、組織全体を長時間(8時間〜48時間)、ホルムアルデヒド水溶液(一般的に10%中性緩衝ホルマリンと呼ばれる)に浸漬し、次いで、室温での長期間保存のために、固定された組織全体をパラフィンワックスに包埋する。
【0041】
DIAアッセイからの結果を使用して、組織が患者から回収及び保存されたその患者の特定の癌中のSDHBタンパク質の正確かつ精密な相対的な定量レベルを、相関させることができる。ある実施形態において、腫瘍のSDHBレベルの比較は、同一患者、特に腫瘍組織と同一の器官又は組織源から取得された健康な組織からのSDHBレベルに対して比較される。他の実施形態において、比較は、様々な健康な患者における測定値、又は、腫瘍患者が属する健康な患者の部分母集団(subpopulation)(例えば、女性、年齢55〜60の患者、KSHV
+患者等)からの測定値から計算される標準化された「正常の」SDHBレベルに対して比較される。これにより、癌に関連する診断情報が提供されるだけでなく、医師又は他の医療専門家が患者に対する好適な治療を決定することもできる。この場合、このアッセイを利用すると、患者からの癌組織における特定のレベルのSDHBタンパク質発現に関連する情報を提供することができ、患者が、Kitタンパク質の機能を特異的に阻害する抗Kit薬剤による治療に対して好ましく応答するか否かを決定することができる。
【0042】
現在、癌患者の組織、特にFFPE組織におけるタンパク質の存在を決定するために適用され、最も広範に使用される方法は、免疫組織化学(IHC)である。IHC法では、抗体を利用して目的のタンパク質を検出する。IHC試験の結果は、ほとんどの場合、病理医又は病理検査技師によって解釈される。この解釈は主観的なものであり、特定の癌タンパク質(oncoprotein)ターゲットを標的とする治療薬に対する感受性を予測する定量的なデータを提供するものではない。
【0043】
他のIHCアッセイ(例えば、Her2のIHC試験)に関連する研究は、そのような試験から得られた結果が誤っている又は判断を誤らせる可能性があることを示唆している。これは、おそらく、異なる研究室が、陽性及び陰性のIHC状態を分類するために異なるルールを使用するためである。試験を行う各病理医も、異なる基準を使用して、結果が陽性か陰性かを判断する可能性もある。ほとんどの場合、これは試験結果が境界線である場合、すなわち、結果が強い陽性でも強い陰性でもない場合に起こる。他の場合では、癌組織のある領域の組織が陽性と判定することができる一方、その癌の異なる領域の組織は陰性と判定される。
【0044】
不正確なIHC試験結果は、癌を有すると診断された患者が最善の可能なケアを受けないことを意味し得る。癌の全体又は一部が、特定の標的癌タンパク質に対して陽性であるが、試験結果が、癌を陰性と分類する場合、患者がその癌タンパク質を標的とする薬剤から利益を得る見込みがあるとしても、医師が正しい治療処置を実施する可能性は低い。癌が、癌タンパク質標的陰性であるが、試験結果が、癌を陽性と分類する場合、患者が利益を受ける見込みがなく、薬剤の二次リスクに曝露される場合でも、医師は特定の治療処置を使用する可能性がある。例えば、患者が、イマチニブ、ダサチニブ、ニロチニブ、ダカルバジン、テモゾロミド、及びそれらの組合せからなる群から選択される薬剤による処置を開始する前に、SDHBレベルが測定される処置法が、本明細書に記載されている。ある実施形態において、その薬剤が、患者に投与され、その場合、SDHBレベルは、同一患者由来の健康な組織の釣り合う試料中のSDHBレベルと実質的に同等であるか、そのレベルより高い。
【0045】
したがって、患者が、良好な処置計画を受ける一方で、不必要な毒性及びその他の副作用を減少させる最大限の機会を有するように、腫瘍中のSDHBタンパク質の定量レベルを正しく評価可能であることには大きな臨床的価値が存在する。
【0046】
SDHBフラグメントペプチドに対するDIAアッセイを開発するために、単なるペプチド配列以外の追加の情報が必要であり、質量分析計によって使用される。その追加の情報は、質量分析計(例えば、トリプル四重極質量分析計)を方向付けし、指示することにより、特定のフラグメントペプチドの正確かつ重点的な分析を実行するために使用される。DIAアッセイは、ハイブリッド四重極/イオントラップ質量分析計で効果的に実行可能である。そのタイプの質量分析計を、細胞内に含まれる総タンパク質からの数十万から数百万の個々のペプチドからなり得る非常に複雑なタンパク質溶解液内の多くの標的ペプチドを分析するために最適な機器の一つであると考えることができる。追加の情報は、質量分析計、例えば、ハイブリッド四重極/イオントラップ質量分析計に、正しい指示を提供し、非常に複雑なタンパク質溶解液内の多くの標的ペプチドを分析可能にする。DIAアッセイはまた、その他のタイプの質量分析計、例えば、MALDI、イオントラップ、イオントラップ/四重極ハイブリッド又はトリプル四重極機器で開発及び実施可能であるが、現在、DIAアッセイのための最も有利な機器プラットフォームは、ハイブリッド四重極/イオントラップ機器プラットフォ−ムであると大抵考えられる。一般的に、標的ペプチド、特に、特定のフラグメントペプチドに関連する追加情報には、各ペプチドのモノアイソトピック質量、そのプリカーサー電荷状態、プリカーサーm/z値、m/z遷移イオン及び各遷移イオンのイオンタイプのうちの1つ以上が含まれ得る。この方法に記載の特定のSDHBフラグメントペプチドのペプチド配列は、表1に示される。
【0048】
核酸及びタンパク質の両方を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物から分析することができるため、タンパク質が分析された同一の試料の核酸から疾患診断及び薬剤の処置決定に関連する追加の情報を生成することができる。例えば、DIA法によりアッセイした際に、SDHBタンパク質の発現が検出される場合、データは、細胞の状態、細胞の制御されない増殖の可能性、最適な治療法の選択、及び潜在的な薬剤耐性に関連する情報を提供することができる。同時に、遺伝子並びに/又はそれらがコードする核酸及びタンパク質の状態(例えば、mRNA分子及びそれらの発現レベル又はスプライスバリエーション)に関連する情報を、同一のLiquid Tissue生体分子調製物に存在する核酸から取得することができる。核酸を、SDHBタンパク質を含むタンパク質のDIA分析と同時に評価することができる。一実施形態において、SDHBタンパク質及び/又は1種、2種、3種、4種又は5種以上の追加のタンパク質に関連する情報を、それらのタンパク質をコードする核酸を試験することにより評価してもよい。それらの核酸を、例えば、配列決定法、ポリメラーゼ連鎖反応法、制限断片多型解析、欠失もしくは挿入の同定、及び/又は一塩基対の多型、転移、塩基転換又はそれらの組合せを含むが、それらに限定されない変異の存在の判定のうちの1種以上、2種以上、又は3種以上によって試験することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]
【外国語明細書】