特開2020-14411(P2020-14411A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-14411(P2020-14411A)
(43)【公開日】2020年1月30日
(54)【発明の名称】糞量低減のための家禽用飼料
(51)【国際特許分類】
   A23K 50/75 20160101AFI20191227BHJP
   A23K 10/30 20160101ALI20191227BHJP
   A23K 10/20 20160101ALI20191227BHJP
   A23K 10/22 20160101ALI20191227BHJP
【FI】
   A23K50/75
   A23K10/30
   A23K10/20
   A23K10/22
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2018-139244(P2018-139244)
(22)【出願日】2018年7月25日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 販売日 平成29年12月18日〜平成30年1月13日(別紙参照) 〔刊行物等〕 鶏卵肉情報 2018年2月10日号 〔刊行物等〕 鶏の研究 2018年3月号 〔刊行物等〕 鶏鳴新聞 平成30年2月15日付第2019号、第6面、及び鶏鳴新聞ウェブページ 〔刊行物等〕 日本農業新聞東北版 平成30年2月21日号、第17面 〔刊行物等〕 ちくさんクラブ21 vol.114、第13頁 〔刊行物等〕 養鶏の友 2018年3月号、第67頁 〔刊行物等〕 養鶏の友 2018年4月号、第16頁〜第19頁 〔刊行物等〕 平成30年5月30日〜6月1日 国際養鶏養豚総合展2018ポートメッセなごや(名古屋市国際展示場、愛知県名古屋市港区金城ふ頭2丁目2) 〔刊行物等〕 鶏鳴新聞 平成30年7月25日付第2034号、第13面及び鶏鳴新聞ウェブページ 〔刊行物等〕 鶏鳴新聞 平成30年7月25日付第2034号、第3面
(71)【出願人】
【識別番号】000201641
【氏名又は名称】全国農業協同組合連合会
(71)【出願人】
【識別番号】503011745
【氏名又は名称】JA全農北日本くみあい飼料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】特許業務法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】谷東 修
(72)【発明者】
【氏名】江崎 尚二
【テーマコード(参考)】
2B005
2B150
【Fターム(参考)】
2B005DA02
2B005DA03
2B150AA05
2B150AB12
2B150AB20
2B150CD10
2B150CD30
2B150CE02
2B150CE05
(57)【要約】
【課題】鶏等の家禽の糞量を従来技術よりもさらに低減できる手段を提供すること。
【解決手段】粗繊維含量が2.7%以下であり、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された、糞量低減のための家禽用飼料を提供した。飼料中の粗繊維含量を低減することで鶏糞量を低減するという技術は知られていたが、粗繊維含量を低減することに加え、さらに上記した原料を配合することにより、上記原料を配合しない低粗繊維飼料よりもさらに糞量を低減することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗繊維含量が2.7%以下であり、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された、糞量低減のための家禽用飼料(ただし、前記少なくとも1種の原料として魚粉のみが配合された飼料を除く)。
【請求項2】
コーングルテンミールの配合割合が2%以上である、請求項1記載の飼料。
【請求項3】
小麦の含量が5%以上である、請求項1又は2記載の飼料。
【請求項4】
動物由来蛋白質原料の配合割合が3%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項5】
動物由来蛋白質原料が、魚粉、ポークミール、チキンミール、及びポークチキンミールから選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項6】
粗繊維含量が2.5%以下である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項7】
コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される2種以上が配合された、請求項1〜6のいずれか1項に記載の飼料。
【請求項8】
家禽が鶏である、請求項1〜7記載の飼料。
【請求項9】
粗繊維含量が2.7%以下であり、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された飼料(ただし、前記少なくとも1種の原料として魚粉のみが配合された飼料を除く)を家禽に給与することを含む、家禽の糞量を低減する方法。
【請求項10】
家禽が鶏である、請求項9記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鶏等の家禽の糞量を低減するための飼料及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内では年間に約250万トンの鶏卵が生産されており、これにともない年間に約800万トンの鶏糞が発生する。鶏糞は主にたい肥に加工されるが、加工中に臭気や害虫等が発生して周辺地域の環境問題になる事例や、たい肥の価格が安く加工コストが回収できない事例がしばしばみられる。鶏卵の生産現場は鶏糞の処理に課題を抱えており、発生量を減らす手段が求められている。
【0003】
鶏糞の低減に関しては、これまでに、飼料中の粗繊維含量を低減することや、飼料に繊維分解酵素を配合することにより、鶏糞量を低減できることが報告されている(非特許文献1)。養鶏飼料原料の粗繊維含量について、非特許文献1では、魚粉やチキンミールなどの動物由来蛋白質原料と比べてトウモロコシや大豆粕などの植物性原料の方が粗繊維含量が高いことが記載されている。また、非特許文献2には、繊維質が比較的少ない原料は穀類や動物質であり、繊維質が多い原料は糟糠類や植物性油粕であることが記載されている。さらに、非特許文献2には、魚粉の配合割合を増やして粗繊維含量を2%まで抑えた飼料を鶏に給与することで、生糞量が12%減少したことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】谷東修、「鶏ふん量の低減について」、養鶏の友、2014年9月号、p.31〜33
【非特許文献2】鈴木和明、「飼料栄養素の基礎8〜飼料と鶏糞〜」、鶏の研究、2016年、第91巻、第11号、p.16〜20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、鶏等の家禽の糞量を従来技術よりもさらに低減できる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、飼料中の粗繊維含量を低く抑えるだけではなく、特定の原料を配合することによって、さらに大幅に家禽の糞量を低減できることを見出し、本願発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、粗繊維含量が2.7%以下であり、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された、糞量低減のための家禽用飼料(ただし、前記少なくとも1種の原料として魚粉のみが配合された飼料を除く)を提供する。また、本発明は、粗繊維含量が2.7%以下であり、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された飼料(ただし、前記少なくとも1種の原料として魚粉のみが配合された飼料を除く)を家禽に給与することを含む、家禽の糞量を低減する方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来技術よりもさらに家禽の糞量を低減できる飼料が提供される。飼料中の粗繊維含量を低減することで鶏糞量を低減するという技術は知られていたが、粗繊維含量を低減することに加え、さらに、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料を配合することにより、これらの原料を配合しない低粗繊維飼料よりもさらに糞量を低減することができる。採卵鶏に給与した場合にも、飼料摂取量や産卵率、卵質等の生産成績にはほとんど影響がなく、今まで使用していた通常の飼料に差し替えるだけで鶏糞量を明らかに低減できる。これにより、悪臭等の発生の問題を改善できるほか、鶏糞を運搬する車両の燃費向上、鶏糞発酵機械の稼働時間短縮による電気代の節約等により生産コストも削減できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の家禽用飼料は、粗繊維含量が低く、かつ、コーングルテンミール、小麦、及び動物由来蛋白質原料から選択される少なくとも1種の原料が配合された飼料である。以下、本明細書において、これら3種類の原料を「特定原料」と呼ぶ。特定原料は、任意の2種以上を組み合わせて配合してもよく、3種類すべてを配合してもよい。
【0010】
家禽の種類は特に限定されないが、典型的には鶏である。糞量低減の要望が強いのは採卵鶏であるが、肉用鶏に給与してもよい。
【0011】
粗繊維含量は2.7%以下であり、例えば2.5%以下、2.4%以下、2.3%以下、又は2.2%以下としてもよい。
【0012】
コーングルテンミールを用いる場合、その配合割合(飼料全体の重量に占める当該原料の配合重量、以下同じ)は好ましくは2%以上であり、例えば3%以上、4%以上、5%以上、又は7%以上としてよい。特定原料としてコーングルテンミールのみを配合する場合には配合量を多めにすることが好ましく、具体的には、例えば5%以上、又は7%以上とすることが好ましい。
【0013】
小麦を用いる場合、その配合割合は好ましくは5%以上であり、例えば7%以上、10%以上、15%以上、又は17%以上としてもよい。特定原料として小麦のみを配合する場合には配合量を多めにすることが好ましく、具体的には、例えば15%以上、又は17%以上とすることが好ましい。
【0014】
動物由来蛋白質原料には、哺乳動物由来蛋白質、家禽由来蛋白質、魚介類由来蛋白質が包含される。哺乳動物由来蛋白質、家禽由来蛋白質の具体例として、ポークミール、チキンミール、ポークチキンミール等を挙げることができる。魚介類由来蛋白質の具体例として、魚粉等を挙げることができる。2種類以上の動物由来蛋白質原料を使用してもよい。動物由来蛋白質原料を用いる場合、その配合割合(2種以上の当該原料を用いる場合はそれらの合計の配合割合)は好ましくは3%以上であり、例えば4%以上としてもよい。なお、「動物由来蛋白質」という語は、「飼料及び飼料添加物の成分規格等に関する省令」において用いられている文言であり、本発明においても同様に「ほ乳動物由来たん白質(ほ乳動物に由来するたん白質をいい、乳及び乳製品を除く)、家きん由来たん白質(家きんに由来するたん白質をいい、卵及び卵製品を除く)又は魚介類由来たん白質(魚介類に由来するたん白質をいう)」を意味する。
【0015】
本発明の飼料は、上記の条件を満たす限り、さらなる原料や添加剤等が配合されていてもよい。例えば、繊維質を分解する酵素をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0016】
以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0017】
実証試験1:低繊維+コーングルテンミール配合による鶏糞低減効果
(1) 試験方法
下記の試験区分を設定し、産卵鶏成鶏(マリア種、194日齢、30羽/区)にそれぞれの試験飼料を不断給餌・給水条件で6週間給与した。産卵成績及び1日あたりの排泄量を調べ、各区間で比較した。
1区:対照飼料
2区:低繊維飼料
3区:低繊維+グルテンミール多配飼料
【0018】
(2) 試験飼料の配合割合と成分
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
(3) 試験結果
表中の数値は各区内の個体の平均値である。異符号間で有意差あり(P<0.05)。
【0021】
【表3】
【0022】
【表4】
【0023】
(4) 試験結果から分かること
栄養価が同一な1区〜3区の飼料は、1区のみ粗繊維含量が多く、2区と3区は粗繊維含量が低い。また2区と3区は粗繊維含量が同じだが、3区はグルテンミールの配合割合が多い。
【0024】
これらの飼料を給与したところ産卵率や卵重、卵殻強度に区間の差はほぼなかった。飼料摂取量は1区より若干2区と3区が多かったが大きな差ではなかった。
【0025】
鶏糞については、1区と比較して2区は排泄直後で何らの処理もしていない生糞の量が少なく、さらにこの生糞中の乾物量も水分量もともに少なくなる傾向であった。3区は2区よりもさらに生糞量が減少し、生糞中の乾物・水分量もさらに減少した。
【0026】
これらの結果から、飼料の粗繊維含量を抑えることで鶏糞の量が減ることがわかった。また飼料の粗繊維含量を抑えつつコーングルテンミールを使用することで鶏糞の量を減らすことが可能であることがわかった。
【0027】
実証試験2:低繊維+小麦配合による鶏糞低減効果
(1) 試験方法
下記の試験区分を設定し、産卵鶏成鶏(ジュリア種、198日齢、50羽/区)にそれぞれの試験飼料を不断給餌・給水条件で12週間給与した。産卵成績及び1日あたりの排泄量を調べ、各区間で比較した。
1区:低繊維飼料(小麦無配合)
2区:低繊維+小麦30%配合飼料
3区:低繊維+小麦50%配合飼料
【0028】
(2) 試験飼料の配合割合と成分
【表5】
【0029】
【表6】
【0030】
(3) 試験結果
表中の数値は各区内の個体の平均値である。
【0031】
【表7】
【0032】
【表8】
【0033】
(4) 試験結果から分かること
栄養価が同一な1区〜3区の飼料は、1区と2区は粗繊維含量が同一で、2区は小麦を30%配合している。3区は2区より粗繊維含量が低く、さらに小麦を50%配合している。
【0034】
これらの飼料を給与したところ、小麦の配合割合を増やすにつれて産卵率がやや低下するとともに飼料摂取量が増える傾向が認められた。卵重と卵殻強度には区間の差はほぼなかった。
【0035】
鶏糞については、1区と比較して2区は生糞の量が少なく、さらにこの生糞中の乾物量も水分量もともに少なくなる傾向であった。3区は2区よりもさらに生糞量が減少し生糞中の乾物・水分量もさらに減少した。
【0036】
これらの結果から、飼料の粗繊維含量が同じでも小麦を使用することで鶏糞の量が減ることがわかった。またさらに粗繊維含量を抑え小麦の配合割合も増やすことによって、さらに鶏糞の量を減らすことが可能であることがわかった。
【0037】
実証試験3:小麦配合による鶏糞低減効果
(1) 試験方法
下記の試験区分を設定し、産卵鶏成鶏(ジュリア種、254日齢、50羽/区(20羽×2反復+10羽×1反復))にそれぞれの試験飼料を不断給餌・給水条件で4週間給与した。産卵成績及び1日あたりの排泄量を調べ、各区間で比較した。
1区:対照飼料(低繊維、小麦無配合)
2区:小麦20%配合飼料
3区:小麦40%配合飼料
【0038】
(2) 試験飼料の配合割合と成分
【表9】
【0039】
【表10】
【0040】
(3) 試験結果
【表11】
【0041】
【表12】
【0042】
(4) 試験結果から分かること
栄養価が同一な1区〜3区の飼料は、1区を基準にすると、2区は小麦を配合したうえで粗繊維含量を増やしており、3区は2区よりもさらに小麦の配合割合を増やした上で粗繊維含量を増やしている。
【0043】
これらの飼料を給与したところ産卵率や卵重、飼料摂取量、卵殻強度に区間の差はほぼなかった。
【0044】
鶏糞については、1区と比較して2区は生糞の量が少なく、さらにこの生糞中の乾物量も水分量もともに少なくなる傾向であった。3区の生糞量は2区と同等の結果となった。
【0045】
これらの結果から、飼料の粗繊維含量が増えている条件下でも、小麦を配合することで鶏糞の量が減ることがわかった。
【0046】
実証試験4:低繊維+動物由来蛋白質原料多配による鶏糞低減効果
(1) 試験方法
下記の試験区分を設定し、産卵鶏成鶏(ジュリアライト種)を各区10羽割り当てた。各試験飼料を馴致期間として14日間自由給餌し、15日目以降に個体別に105g/日の定量給餌を行なった。試験開始21、29及び30日目に個体別に24時間の排泄量を測定した。産卵成績評価は試験開始15〜30日目の期間に行なった。
1区:対照飼料(低繊維)
2区:低繊維+魚粉多配飼料
【0047】
(2) 試験飼料の配合割合と成分
【表13】
【0048】
【表14】
【0049】
(3) 試験結果
【表15】
【0050】
【表16】
【0051】
(4) 試験結果から分かること
栄養価が同一な1区、2区の飼料は、1区を基準にすると、2区は動物由来蛋白質原料(本試験では魚粉)の配合割合を増やしたうえで粗繊維含量を減らしている。
【0052】
これらの給与時、産卵率や卵重、飼料摂取量、卵殻強度に区間の差はほぼなかった。
【0053】
鶏糞については、1区と比較して2区は生糞の量が少なくなり、その効果は鶏糞の正味重量にして11.4g、割合にして10.6%となり、この効果は実証試験1で飼料の粗繊維のみを0.5%減らした場合の効果(鶏糞の正味重量にして9.5g、割合にして10.6%)に匹敵している。
【0054】
これらの結果から、飼料の動物由来蛋白質原料の配合割合を増やすことで鶏糞の量が減ることがわかった。動物由来蛋白質原料としては、魚粉等の魚介類由来蛋白質のほかに哺乳動物由来蛋白質、家禽由来蛋白質も利用可能である。