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特開2020-144146酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出のための装置の製造方法ならびにそのための装置およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-144146(P2020-144146A)
(43)【公開日】2020年9月10日
(54)【発明の名称】酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出のための装置の製造方法ならびにそのための装置およびその使用
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/28 20060101AFI20200814BHJP
   G01N 27/49 20060101ALI20200814BHJP
【FI】
   G01N27/28 331Z
   G01N27/49
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2020-93284(P2020-93284)
(22)【出願日】2020年5月28日
(62)【分割の表示】特願2017-558408(P2017-558408)の分割
【原出願日】2016年4月9日
(31)【優先権主張番号】102015005781.2
(32)【優先日】2015年5月8日
(33)【優先権主張国】DE
(71)【出願人】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ヤクシェンコ・アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】ヴォルフルム・ベルンハルト
(72)【発明者】
【氏名】アドリー・ハッサン・ナウラン・イェヒア
(72)【発明者】
【氏名】オッフェンホイザー・アンドレアス
(57)【要約】      (修正有)
【課題】酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置を製造するための割安で速い方法と装置を提供すること、およびこの装置の使用可能性を示すこと。
【解決手段】酸化還元サイクルを用いた分析物の電気化学検出装置の製造方法は、a)基板上に第1の電気伝導性電極を配置するステップ、b)第1の電極上に、酸化還元活性分子を透過する誘電層を、誘電層に酸化還元活性の分子または分析物が入るための進入口を備えて配置するステップ、c)誘電層上に第2の電気伝導性電極を導体路を備えて配置するステップ、その際、ステップa)〜c)の少なくとも1つが、電気伝導性および/または電気絶縁性の粒子の印刷プロセスによって実施される。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置の製造方法において、
a)基板(1)上に第1の電気伝導性電極(2a)を配置するステップ、
b)第1の電極(2a)上に、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)を、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置するステップ、
c)誘電層(5)上に第2の電気伝導性電極(4a)を配置するステップ、
その際、ステップa)〜c)の少なくとも1つが、電気伝導性および/または電気絶縁性の粒子の印刷プロセスによって実施されることを特徴とする、方法。
【請求項2】
ステップb)では、第1の電極(2a)上に、細孔が第1の電極(2a)の表面にまで通じている多孔質の誘電層(5)が配置されることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ステップc)では、誘電層(5)上に、細孔が誘電層(5)の表面まで通じている多孔質の第2の電気伝導性電極(4a)が導体路を備えて配置されることを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
すべてのステップa)〜c)が印刷プロセスによって実施されることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
第1の電極(2a)を不動態化するための不動態化層(3a、3b)が、第1の電極(2a)と第2の電極(4a)の間に配置され、その際、不動態化層(3a、3b)が、誘電層(5)のための空隙を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
印刷された粒子の、少なくとも1つの焼結ステップを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
ステップa)ではステップb)でよりも小さな粒子が、および/またはステップb)ではステップc)でよりも小さな粒子が印刷されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
第2の電極(4a)中では、誘電層(5)中の細孔より大きな細孔が生成され、かつ/または誘電層(5)中では、第1の電極(2a)中の細孔より大きな細孔が生成される、請求項1〜7のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
ステップc)では、誘電層(5)中の細孔より大きな伝導性粒子が、第2の電極(4a)のために印刷され、かつ/またはステップb)では、第1の電極(2a)中の細孔より大きな絶縁性粒子が、誘電層(5)のために印刷されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
両電極(2a、4a)の少なくとも一方および/または誘電層(5)および/または不動態化層(3a、3b)を配置するためのインクジェット印刷プロセスを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
生体機能化されたインクを、第1の電極(2a)上に誘電層(5)を配置するために選択することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
誘電層(5)の製造のために、酵素、抗体、受容体、またはその他の生体分子を結合させた絶縁性粒子を含有するインクを選択することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
金、白金、銀、炭素、または伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリンから成る伝導性粒子を含有するインクを、両方の電極(2a、4a)の少なくとも一方を製造するために選択することを特徴とする、請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
ステップb)で誘電層(5)を形成するためにゾル−ゲルインクが使用されることを特徴とする、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置であって、基板(1)上に第1の電気伝導性電極(2a)が配置されており、第1の電極(2a)上には、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)が、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置されており、この誘電層(5)上には、第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されており、かつ電極(2a、4a)では、分子の酸化還元反応を行うことができ、これに関し誘電層(5)が、溶液中に存在する分子のための貯留部であり、かつ電極(2a、4a)の少なくとも一方が、印刷された電気伝導性粒子から成っており、かつ/または誘電層(5)が、印刷された電気絶縁性粒子から成っている、装置。
【請求項16】
第1の電極(2a)上には、誘電層(5)中の細孔が第1の電極(2a)の表面まで通じている多孔質の誘電層(5)が配置されている、請求項15に記載の装置。
【請求項17】
誘電層(5)上に、多孔質の第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されていることを特徴とする、請求項15または16に記載の装置。
【請求項18】
装置の両方の電極(2a、4a)が、参照電極および/または対電極と接触している、ポテンショスタット内の作用電極である、請求項15〜17のいずれか一つに記載の装置。
【請求項19】
誘電層(5)の面積が、最小で1μm〜最大で1cmの間であることを特徴とする、請求項15〜18のいずれか一つに記載の装置。
【請求項20】
酸化還元活性分子を含有する溶液を、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)に導入すること、ならびに電極で分子を交互に還元および酸化させる電圧を電極(2a、4a)に印加することを特徴とする、請求項15〜19のいずれか一つに記載の装置の使用。
【請求項21】
酸化還元活性分子が、進入口を経て多孔質の誘電層(5)に導入される、請求項20に記載の装置の使用。
【請求項22】
誘電体中への酸化還元活性分子の進入が、第2の電極(4a)の細孔を経て行われる、請求項20または21に記載の装置の使用。
【請求項23】
請求項1〜19のいずれか一つに記載の酸化還元サイクルを用いた分析物の電気化学検出装置を製造するための印刷プロセスで使用するためのインク。
【請求項24】
活性領域(5)に施した後に硬化し、ナノ多孔質層(5)を形成するゾル−ゲルインクを特徴とする、請求項23に記載のインク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出のための装置の製造方法ならびにそのための装置およびその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化還元サイクルは、電気化学的に活性な分子が何度も酸化および還元される電気化学法である。これらの反応は、互いに近接する2つの電極間で起こる。このためには、電極に相応に酸化電位および還元電位を印加し、これにより、分子は電極と接触すると直接的に酸化または還元される。続いて分子がもう一方の電極に拡散すると、それぞれ逆のプロセス(還元/酸化)が起こる。この反復プロセスにより、各々の個々の分子によって電極間の電荷輸送が行われ、これが測定可能な信号全体を増幅させる。
【0003】
従来技術では、このようなセンサーは光リソグラフィーまたは電子線リソグラフィーを用いて製造される。酸化還元サイクルセンサーおよびその製造方法に関しては複数の設計が公表されている。
【0004】
Goluchら(2009)(非特許文献1)からは、横に相並んだ電極を備えたセンサーが公知である。これらのいわゆる「櫛型電極」は、個々のフィンガー間の間隔がナノメートル〜マイクロメートルの範囲内にある。製造方法は、手間のかかるリフトオフおよびエッチングプロセスを用いる電子線リソグラフィーである。
【0005】
Wolfrumら(2008)(非特許文献2)、Kaetelhoenら(2010)(非特許文献3)、およびZevenbergenら(2011)(非特許文献4)からは、Z軸で、つまり上下に重なり合って配置された電極が公知であり、これらの電極はその間にいわゆる「ナノキャビティ」または「ナノチャンネル」としてのナノスケールの隙間を有している。製造は電子線リソグラフィーまたは光リソグラフィーによって行われ、これには複数のエッチングステップが含まれており、なかでもクロム犠牲層の除去が規定されている。
【0006】
Hueskeら(2014)(非特許文献5)は、Z軸で、つまり上下に重なり合って配置された電極を開示しており、これらの電極は、両方の電極の間にナノスケールの誘電体を有している。電極は、光リソグラフィーおよび電子線リソグラフィーによって製造される。この製造方法は、複数の堆積ステップおよびエッチングステップを含んでおり、しかしアルミニウムの陽極酸化によるいわゆる「自己組織化」ステップも含んでいる。
【0007】
Grossら(2015)(非特許文献6)からは、Z軸で、つまり上下に重なり合って配置され、マイクロスケールの隙間を有する電極が公知である。これらの電極は、2つの別個の電極を、その間の厚膜誘電体と貼り付けることで製造される。
【0008】
従来技術の欠点:
a.生産を経済的に有意義にスケーリングできないフォトリソグラフィーまたは電子線リソグラフィーを利用した手間のかかる作製方法。
b.生産の際の高い費用またはスケーリング不可の生産方法。
c.すべてのこれまでの設計では、例えば抗原、抗体、DNAなどのような生体分子を検出するために、電極および/または中間層を、例えば抗体、アプタマーなどのような認識分子で後修飾するつまりそれらを備え付ける必要がある。これは時間と費用がかかる。 d.マイクロスケールの酸化還元サイクルセンサーの場合の不十分な感度。
e.隙間が非常に小さい場合の機械的不安定性。
f.製造の際のエッチングステップまたは複数の化学的ステップ。
g.既存の方法でのたいていのステップは再現が難しい。
【0009】
これらの方法のさらなる欠点:
1.Goluchら2009(非特許文献1)について:この方法は、使用する電子線リソグラフィーにより製造費用が非常に高くなる。そのうえ、横の間隔が非常に小さい場合は個々のフィンガーの層間剥離が生じる。間隔が比較的大きい場合は、酸化還元サイクルの効率が低いので感度が不十分である。
【0010】
2.Wolfrumら(非特許文献2)、Kaetelhoenら2010(非特許文献3)、およびZevenbergenら(非特許文献4)について:これらの方法も、使用する光リソグラフィーまたは電子線リソグラフィーにより製造費用が高くなる。加えて、複数の非常に良好にアライメントされたリソグラフィープロセスが、センサーが機能するための前提条件である。非常に小さな隙間および/または横に広がった隙間の場合は機械的に不安定になる。そのうえ、犠牲層を除去するためのエッチングステップが必要であり、このステップはエッチング後に中間層の形成を可能にする。
【0011】
3.Hueskeら2014(非特許文献5)について:陽極酸化ステップでのばらつきにより、再現の難しい製造方法である。この方法ではその代わりに電子線リソグラフィーが用いられ、これは製造費用を非常に高くする。製造の際に複数の化学的ステップまたは洗浄ステップが必要である。
【0012】
4.Grossら2015(非特許文献6)について:再現が難しく、酸化還元サイクルの効率が非常に低い製造方法である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Goluch E.D.、Wolfrum B.、Singh P.S.、Zevenbergen M.A.G.、Lemay S.G.(2009)、Redox cycling in nanofluidic channels using interdigitated electrodes、Anal Bioanal Chem 394:447〜456
【非特許文献2】Wolfrum B.、Zevenbergen M.、Lemay S.(2008)、Nanofluidic redox cycling amplification for the selective detection of catechol、Anal Chem 80、972〜977
【非特許文献3】Kaetelhoen E.、Hofmann B.、Lemay S.G.、Zevenbergen M.A.G.、Offenhaeusser A.、Wolfrum B.(2010)、Nanocavity Redox Cycling Sensors for the Detection of Dopamine Fluctuations in Microfluidic Gradients、Anal Chem 82、8502〜8509
【非特許文献4】Zevenbergen M.A.G.、Singh P.S.、Goluch E.D.、Wolfrum B.L.、Lemay S.G.(2011)、Stochastic sensing of single molecules in a nanofluidic electrochemical device、Nano Lett. 11、2881〜2886
【非特許文献5】Hueske M.、Stockmann R.、Offenhaeusser A.、Wolfrum B.(2014)、Redox Cycling in nanoporous electrochemical devices、Nanoscale 6、589〜598
【非特許文献6】Gross A.J.、Holmes S.、Dale S.E.C.、Smallwood M.J.、Green S.J.、Winlove C.P.、Benjamin N.、Winyard P.G.、Marken F.(2015)、Nitrite/Nitrate detection in serum based on dual−plate generator−collector currents in a microtrench、Talanta 131:228〜235
【非特許文献7】「The Sol−Gel Preparation of Silica Gels」Buckley,AM、Greenblatt,M、1994、Journal of Chemical Education、Volume 71、No.7、599〜602
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明の課題は、酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置を製造するための割安で速い方法を提供することである。この方法は、機械的に安定した装置を、再現可能に、速く、少ない費用で提供するべきである。本発明のさらなる課題は、これに関連する酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置を提供すること、およびこの装置の使用可能性を示すことである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
この課題は、特許請求項1に基づく方法ならびにその他の独立請求項に基づく装置および使用によって解決される。これらについての有利な形態は、それらに従属する特許請求項から明らかである。
【0016】
発明の説明
酸化還元サイクルを用いた分析物の電気化学検出装置の製造方法は、
a)基板上に第1の電気伝導性電極を配置するステップ、
b)第1の電極上に、酸化還元活性分子を透過する誘電層を、誘電層に酸化還元活性の分子または分析物が入るための進入口を備えて配置するステップ、
c)誘電層上に第2の電気伝導性電極を導体路を備えて配置するステップ、
その際、ステップa)〜c)の少なくとも1つが、電気伝導性および/または電気絶縁性の粒子の印刷プロセスによって実施されることを特徴とする。
【0017】
これにより、ステップa)〜c)の少なくとも1つが印刷プロセスによって実施される方法を提供することが有利である。印刷プロセスは、速く、割安で、非常に良好に再現可能であることが有利である。
【0018】
したがって酸化還元サイクルセンサーのこの製造方法は、他にもあるがとりわけ、電極および/または誘電層を構造化して上下に重ねて配置できる伝導性および/または絶縁性で印刷可能な粒子の選択を含んでいる。他にもあるがとりわけインクジェット印刷、エアロゾルジェット法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、ナノインプリント印刷、またはホットエンボス加工が適用される。同じ層を施すコーティングステップとアブレーションステップの組合せは、例えばスロットダイ、レーザアブレーションなどのように、様々なコーティング法と組み合わせて実施することができる。
【0019】
本発明の意味における印刷可能な粒子、好ましくはナノ粒子は、例えばインク中にまたはペースト中にまたは粒子のための別の担体媒体中に含有されている。
【0020】
基板としては、例えばガラス、ケイ素、またはポリマーを選択することができる。特に適しているのは、例えばポリエチレンナフタラート、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリメチルメタクリラート、ポリカルボナートなどのような様々なポリマーである。
【0021】
ステップa)によれば、例えば金、銀、白金、カーボン、伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリン、ポリピロール、またはその類似物のような伝導性粒子から成る第1の電極および導体路が、例えばインクジェット印刷プロセスまたは別の印刷プロセスを用いて基板上に配置され、完成構造にされる。第1の電極は、細孔をまったく有さないかまたは非常に小さな細孔しか有さない。第1の電極は、伝導性であって、好ましくは優れた電気化学的特性を示し、つまり例えば標準的な酸化還元メディエータによる速い電極反応速度を示し、かつ吸着および/または腐食による電極汚染に対してできるだけ耐性があるべきである。
【0022】
ステップb)によれば、第1の電極上に、酸化還元活性分子を透過する誘電層が、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置される。
【0023】
ステップb)は、様々な様式で実施することができる。進入口は、例えばステップb)で第1の電極上に、細孔が第1の電極の表面まで通じている多孔質の誘電層を配置することで形成することができる。誘電層は第1の電極上に印刷されるのが好ましい。
【0024】
誘電体を形成するためのナノ粒子が第1の電極の細孔に侵入しないように、誘電層用のナノ粒子のサイズを、第1の電極中に場合によっては存在する細孔より大きく選択することが望ましい。ナノ粒子はここでも、インク、ペースト、または別の担体媒体中に含有されている。
【0025】
次いで任意選択でステップc)でも、多孔質の誘電層上に、細孔が誘電層の表面まで通じている多孔質の第2の電気伝導性電極を、好ましくは導体路を備えて配置することができる。この場合、第2の電極および誘電体の細孔が、酸化還元活性分子のための進入口を成している。溶液中に存在する酸化還元活性分子を第2の電極の表面に施すことにより、酸化還元活性分子は、第2の電極の細孔および誘電層の細孔を経て第1の電極の表面まで達する。電極自体は互いに電気接触していない。
【0026】
第2の電極を形成するためのナノ粒子が誘電体の細孔に侵入しないように、第2の電極用のナノ粒子のサイズを、誘電体中に存在する細孔より大きく選択することが望ましい。ナノ粒子はここでも、インク、ペースト、または別の担体媒体中に含有されている。
【0027】
したがって本発明の有利な一形態では、酸化還元サイクルを用いた酸化還元活性分子の電気化学検出装置の製造方法は、
a)基板上に第1の電気伝導性電極を配置するステップ、
b)第1の電極上に、細孔が第1の電極の表面まで通じている多孔質の誘電層を配置するステップ、
c)誘電層上に、細孔が誘電層の表面まで通じている多孔質の第2の電気伝導性電極を配置するステップ、
その際、ステップa)〜c)の少なくとも1つが、電気伝導性および/または電気絶縁性の粒子の印刷プロセスによって実施されることを特徴とする。
【0028】
電極を接触可能に形成しなければならないことは自明である。
【0029】
したがって少なくとも、第1の電極上に、細孔が第1の電極の表面まで通じている多孔質の誘電層が配置される。その後、誘電層中の細孔は、変換すべき分子または分析物または酸化還元メディエータで満たされる。
【0030】
細孔系のない第2の電極を配置することが考えられる。この場合、誘電層への酸化還元活性分子の進入は、例えば横の進入口によって行われるのが望ましい。その代わりに、このような進入口を、第2の電極における唯一の、例えば針で刺したような開口部によって設けることもできる。
【0031】
本発明による方法のステップb)によれば、誘電性ナノ粒子を含有するインクが、第1の電極の活性領域上に印刷されることが好ましい。このインクは、機能材料として、ポリメチルメタクリラート、ポリスチレン、酸化ケイ素、酸化チタン、またはその類似物のようなナノ粒子を含有している。
【0032】
誘電体のインクのナノ粒子が第1の電極の細孔に侵入しないように、誘電層用のインク中のナノ粒子サイズは、活性領域、つまり第1の電極で分子が転換する領域内では、第1の電極中に場合によっては存在する細孔自体より小さく選択されるのではなく、より大きく選択されることがより望ましい。
【0033】
インクを印刷する場合には、その後、インクを例えば熱、光、UV、または類似のエネルギー入力によって焼結し得ることが有利であり、これによりナノ粒子が、部分的にのみ溶融して、均一に分布した規定サイズの細孔を有する均質な誘電層を成形し、これらの細孔は、第1の電極の表面まで達しており、第1の電極を露出させる。
【0034】
その代わりに第1の電極上の誘電体を焼結しないこともでき、これによりナノ粒子は、変化することなく、こうして第1の電極の表面までの多孔性を保証し続ける。
【0035】
ステップb)でセンサーの誘電性ナノ多孔質層を製造するためにゾル−ゲルインクを使用し得ることが特に有利である。多孔質の誘電層用の材料またはインクは、例えばインクジェット印刷を用いた堆積後に、この層が乾燥および/または硬化し、所望の多孔性を示し、これにより層中につながっている細孔が存在するように準備されるべきである。この層は、液体の進入口を例えば細孔によって有している。このような層は、ゾル−ゲル材料およびゾル−ゲルインクを使用して製造することができる。このために、例えばオルトケイ酸テトラメチル(TMOS)、オルトケイ酸テトラエチル(TEOS)、オルトケイ酸テトライソプロピル(TPOS)を、ゾル−ゲルのためのケイ酸塩として使用することができる。ただし、アルミニウム(2−プロピラート)、アルミニウム(2−ブチラート)、ジルコニウムプロピラート、チタンエチラート、チタン(2−プロピラート)などのようなその他の材料も使用可能である。溶剤またはゾル−ゲルの縮合反応用活性材料として、OH基を有する様々な材料を使用することができる。なかでも、水、アルコール(例えばエタノール、メタノールなど)、様々なグリコール、例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコールなど、さらに例えば200、300、400、またはそれより多いモノマー単位から成る様々な鎖長のポリグリコール、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、さらにグリセロールが使用される。このインクは、上記の溶剤またはそれらの混合物に加えて、表面張力改質剤、タッキファイヤ、付着媒介剤、結合剤、およびその類似物のような添加剤を含有してもよい。
【0036】
これに関し、点状に塗布される誘電体に関するシリカゲルのゾル−ゲル形成は、刊行物「The Sol−Gel Preparation of Silica Gels」(Buckley,AM、Greenblatt,M、1994、Journal of Chemical Education、Volume 71、No.7、599〜602)(非特許文献7)に記載されたようなステップに従い、これをもってこの刊行物のとりわけゾル−ゲルの製造についての内容を、参照により本特許出願に援用する。このインクも、本発明の有利な一形態では既に本発明の課題を解決する。
【0037】
ステップc)によれば、第2の電極が誘電体上に配置される。これに関し、導体路を成すため、伝導性ナノ粒子を含有するインクをナノ多孔質の誘電層上におよびさらに横へと印刷し得ることが有利であり、これによりこの第2の電極も接触することができる。このインクも、例えば金、白金、カーボン、伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリン、またはその類似物から成るナノ粒子を活性材料として含有することが有利である。第2の電極中のナノ粒子サイズは、その下にある誘電層中の細孔より大きいことが好ましい。これにより、第2の電極のナノ粒子は誘電体の細孔に侵入できず、かつ下の電極と短絡できないことが有利である。
【0038】
ここでは、電極の間で分子の貯留部として働く領域だけを誘電体または誘電層と呼び、しかし活性領域外の任意選択で存在する不動態化層はそう呼ばない。誘導体中の細孔系は、溶液中に存在する分子の貯留部である。貯留部内では分子の酸化還元反応が起こる。
【0039】
両方の電極の配置には、分子の酸化還元反応を可能にする適切な電圧が印加できる範囲において、同一のまたは同一でない材料、例えばインクを使用することができる。
【0040】
装置の活性領域内の誘電体は、誘電性ポリマー、例えばポリイミド、ポリメチルメタクリラート、その他のアクリルベースポリマー、ポリビニルフェノール、セラミック材料、および酸化物、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、窒化ケイ素などから製造されることが好ましい。
【0041】
両方の電極の少なくとも一方および/または追加的に誘電層を配置するためにインクジェット印刷プロセスを適用することが特に有利である。インクジェット印刷は、配置すべき電極および誘電層の再現可能性が高くて寸法が小さい場合に、速くて割安である。
【0042】
インクジェット印刷の場合には、例えば、伝導性および/または絶縁性の粒子を含有するインクを印刷する。これらの粒子を、任意選択で例えば熱、光、UV、または類似のエネルギー入力によって焼結する。これにより、均質な伝導性および/または絶縁性の層が成形されることが有利である。コロイド状に溶解した金もしくはカーボンも、または溶解したポリマーも、インクとして使用することが考えられる。
【0043】
一般的に、インクを印刷する場合には、そのインクを任意選択で例えば熱、光、UV、または類似のエネルギー入力によって焼結する。これにより、多くのナノ細孔を有する均質な伝導性または絶縁性の層または領域が成形されることが有利である。これに関し第2の上側の電極は下側の第1の電極に対してオーミック接触または電気接触していない。これにより、この両方の電極は酸化還元サイクル法のための電極対を形成することができる。
【0044】
したがって一般的に、この装置の活性領域は、酸化還元サイクルのための相応のセンサーを速く割安に提供する印刷プロセスによる、少なくとも1つの電極および/または誘電体の配置を規定する。
【0045】
この装置の活性領域は、誘電層または貯留部の上側および下側の両方の電極での、局所的に酸化還元活性分子の転換が起こる領域である。誘電層のこの部分、貯留部は、その面積が約1μm〜1cmに制限されていることが好ましい。好ましいのは、この領域のサイズが100μm〜1mmの間であることである。誘電体の厚さは10nm〜1000nmであることが好ましい。
【0046】
本発明の有利な一形態では、すべてのステップa)〜c)が好ましくはインクジェット印刷による印刷プロセスによって実施される。これにより、センサーの特に割安で、同時に速く、かつ再現可能な製造方法が提供されることが有利である。
【0047】
加えて特に有利なのは、すべてのステップa)〜c)を、粒子を印刷する好ましくはインクジェット印刷による印刷プロセスによって実施することができ、その際、ステップa)ではステップb)でより小さな粒子が、および/またはステップb)ではステップc)でより小さな粒子が印刷されることである。インクジェット印刷プロセスは、高い再現可能性および目標精度の場合に、特に高いスループットを示すので有利である。この場合、印刷可能なインク中にまたはその他の出発材料中に、例えば印刷可能なペースト中に含有される粒子は、装置の活性領域内では、ステップa)からステップc)へと次第に大きくなる。
【0048】
この場合、この方法は、方法のステップa)ではステップb)でより小さな粒子を含有するインクを選択し、かつ/または方法のステップb)ではステップc)でより小さな粒子を含有するインクを選択するように実施することができる。
【0049】
本発明の枠内で、第2の電極中では、誘電層中の細孔より大きな細孔を生成することができ、かつ/または誘電層中では、第1の電極が細孔を仮に有するならば第1の電極中の細孔より大きな細孔を生成することができる。
【0050】
この方法は一般的に、金、白金、銀、炭素、または伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリンから成る伝導性粒子を含有するインクを、両方の電極を製造するために選択することを特徴とすることができる。
【0051】
この方法は、印刷された伝導性および/または絶縁性の粒子の、少なくとも1つの焼結プロセスを有し得ることが有利である。
【0052】
本発明のさらなる一形態では、第1の電極を不動態化するための不動態化層を、第1の電極と第2の電極の間に配置することができる。この不動態化層は、電極間の電気接触がないことも阻止することが有利である。不動態化層は、誘電体のための空隙を有し得ることが好ましい。
【0053】
活性領域内の第1の電極上に、誘電性ナノ粒子から成るさらなる中間層を配置することができ、この誘電性ナノ粒子は例えば、ポリマー、例えばポリイミド、ポリメチルメタクリラート、その他のアクリルベースポリマー、ポリビニルフェノールから成っており、かつセラミック材料および酸化物、例えば二酸化ケイ素、二酸化チタン、窒化ケイ素などからも成っており、しかし多孔質ヒドロゲルからも成っている。
【0054】
本発明の有利な一形態では、生体機能化されたインクを、活性領域内の第1の電極上に誘電層を配置するために選択するかまたは第1の電極上に配置する。これによりセンサーを、生物学的または生化学的な分子の間接的検出に使用できることが有利である。
【0055】
誘電層の製造のために、印刷前に既に抗体、受容体、DNA、酵素、またはその他の生体分子を結合させた絶縁性粒子を含有するインクを選択することにより、相補的な生体分子、例えば抗原を間接的に検出できるかまたは電気化学的に活性の酵素活性生成物を直接的に検出できることが有利である。抗体を結合させた場合には、酸化還元メディエータを用いて間接的な検出が行われる。これに関しては相補的な抗原が細孔を部分的にブロックし、これにより、酸化還元メディエータの酸化還元サイクル電流を減少させる。酸化還元サイクル電流の減少は、ブロックされた面積、つまり抗原の濃度に量的に対応する。酵素を結合させた場合には、基質が処理され、これにより酸化還元活性生成物が生成される。この酸化還元活性生成物は、酸化還元サイクルセンサーの両方の電極の間で還元および酸化することができ、これにより信号を増幅することができる。この場合には、酸化還元サイクル電流は、酵素−基質の濃度に対応する。
【0056】
この最後に挙げた方法の利点は、生体機能性が、印刷前に既に、相応のインクの選択によって生じ、したがって時間と費用のかかる後処理が回避されることに見いだせる。
【0057】
したがって、酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出のための本発明による装置は、基板上に第1の電気伝導性電極を有している。この第1の電極上には、酸化還元活性分子を透過する誘電層が、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置されている。この誘電層上には、第2の電気伝導性電極が、第1の電極に対して電気接触せずに配置されている。
【0058】
電極では、例えば分析物のような分子の酸化還元反応が起こり、これに関し誘電層は、溶液中に存在する分子の貯留部である。
【0059】
本発明によれば、両方の電極の少なくとも一方が、印刷された電気伝導性粒子から成っており、かつ/または誘電層が、印刷された電気絶縁性粒子から成っている。
【0060】
第1の電極上には、誘電層中の細孔が第1の電極の表面まで通じている多孔質の誘電層が配置されている。この場合、変換領域への酸化還元活性物質の進入は、第2の電極の表面および第2の電極の細孔系および誘電体の細孔系を経て直接的に行うことができる。
【0061】
本発明の有利なさらなる一形態では、誘電層上に、多孔質の第2の電気伝導性電極が、第1の電極に対して電気接触せずに配置されている。
【0062】
この装置では、装置の両方の電極が、ポテンショスタット内の、参照電極および/または対電極と接触している作用電極である。
【0063】
この場合、酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出のための本発明による装置は、好ましくは、基板上に第1の電気伝導性電極を有している。この第1の電極上には、誘電層中の細孔が第1の電極の表面まで通じている多孔質の誘電層が配置されている。この誘電層上には、多孔質の第2の電気伝導性電極が、第1の電極に対して電気接触せずに配置されている。両方の電極で、分子または分析物または酸化還元メディエータの酸化還元反応が起こる。誘電層は、溶液中に存在する分子の貯留部である。両方の電極の少なくとも一方は、印刷された電気伝導性粒子から成っており、かつ/または誘電層は、印刷された電気絶縁性粒子から成っている。装置のこの領域は、装置のいわゆる活性領域の特徴を示し、この活性領域が、分子または分析物または酸化還元メディエータを転換する働きをする。
【0064】
この装置では、第2の電極の伝導性粒子は、その下の誘電層中の細孔より大きく、かつ/または誘電層の絶縁性粒子は、その下の第1の電極中の細孔より大きいことが有利である。これによっても、電極および誘電体の電気化学的特性が維持され続ける。
【0065】
この装置の両方の電極は、ポテンショスタット内の作用電極であり、かつ参照電極および/または対電極と接触している。参照電極は、作用電極に印加される電位を規定し、これらの電位は、分子または分析物および/もしくは酸化還元メディエータの酸化還元電位より上および下であり、したがって分子または分析物および/もしくは酸化還元メディエータは、両方の電極で交互に還元および酸化される。発生する電流フローは、対電極による電流測定によって示される。
【0066】
特に有利なのは、センサーの活性領域内の誘電層の面積が、最小で1μm〜最大で1cmの間であることである。これにより、電極への放射方向の物質移行が生成され、かつ定常状態信号を速く達成できることが有利である。
【0067】
好ましいのは、この領域のサイズが100μm〜1mmの間であることである。誘電体の厚さは10nm〜1000nmであることが好ましい。
【0068】
したがって、電極および誘電体のうち分子の酸化還元サイクルが実施される領域を、センサーの活性領域または活性材料と呼ぶ。よって誘電体の活性材料とは、誘電体のうち、電極の活性領域の間に直接的に配置されており、かつ溶液中に存在する分子または溶液中に存在する分析物/酸化還元メディエータの貯留部として働く領域である。
【0069】
本発明の課題は、少なくとも部分的には印刷された酸化還元サイクルセンサーを用いた酸化還元活性分子の好感度の検出によっても解決される。
【0070】
本発明の枠内で、そのようなセンサーの実現には、電極が互いに非常に近くにあるという電極の特殊な配置が必要であることが分かった。分子当たりの酸化還元サイクルまたは信号増幅の効率は、電極間隔の2乗に対応している。それゆえ酸化還元サイクルのための本発明による装置では、第1と第2の電極の、非常に好感度の検出を可能にするナノスケールの間隔を目標とする。
【0071】
このセンサーが、酸化還元活性分子としての分子または分析物または酸化還元メディエータを含有する溶液の導入によって、および酸化還元反応の検出のために、使用可能であることは自明である。酸化還元活性分子は、溶液中に存在し、かつ貯留部内の多孔質の誘電層の上にある第2の電極の細孔上に塗布される。しかしまたは酸化還元活性分子は、例えば横の進入口または別の垂直な進入口を通って誘電体に到達する。分子は、誘電層の細孔間をあちこちに拡散する。第1の電極および第2の電極に印加された電圧が、貯留部の上側および下側の両方の電極で分子または分析物(酸化還元メディエータ)を還元および酸化させ、かつ検出可能な電流フローを生成する。
【0072】
酸化還元活性分子が、別の進入口、例えば横のまたは垂直な進入口を経て誘電体に導かれる場合には、第2の電極の細孔系は必要ない。
【0073】
本発明はまだこれに制限されない。本発明の枠内で、酸化還元サイクルを用いた分析物の電気化学検出装置を製造するための印刷プロセスで使用するために、従来のインクが使用できることが分かった。このインクは生体機能化されているのが好ましい。
【0074】
これによりステップb)で、ステップa)に基づく第1の電極の活性領域上に、生物学的に修飾された誘電性インクを配置し得ることが有利である。一般的に、ステップb)でのこのインクは、場合によっては抗体、DNA、アプタマー、またはその類似物を活性材料として備えたナノ粒子、例えばポリメチルメタクリラート、ポリスチレン、酸化ケイ素、酸化チタンなどを含有している。ナノ粒子サイズは、ナノ粒子が電極層に侵入しないように、第1の電極中の場合によっては存在する細孔より小さくてはならない。生体機能化されたインクは、生化学的単位、例えば抗体、DNA、アプタマー、およびその類似物がその生物学的認識特性を失わず、とりわけ変性させない程度にしか焼結してはならない(熱、光、UV、または別の方法により)。この任意選択のステップを使用する際は、生物学的材料を傷つけない焼結法を利用しなければならない。ここではとりわけ、層の生物学的特性に応じた低い温度に注意を払わなければならない。
【0075】
これについて、インクの誘電性ナノ粒子は、以下の要素によって生体機能化されることが好ましい。
・ 完全な抗体(例えばtotal IgG、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgD、IgA、IgA1、IgA2、IgE)組換え抗体かまたはヒト、マウス、ラット、ヤギ、ウサギ、もしくはブタの抗体。
・ 生物学的認識要素としてのプロテインA、プロテインG、およびプロテインLに結合した抗体。
・ 酵素によって(例えばシステイン、パパイン、ペプシン、フィシン、ブロメライン)または光活性化によって生成されたフラグメント抗体(Fabフラグメント)、F(ab’)。
・ 一本鎖抗体(scFv)。
・ 人工の圧受容器、例えばアプタマーおよび分子インプリントポリマー(MIP)。 ・ 電気化学的に活性な酵素(例えばグルコースオキシダーゼ)か、および後に酸化還元サイクルによって増幅され得る酸化還元活性分子へと基質を転換する酵素。
・ 基板の材料は、ガラス、ケイ素、様々なポリマー、例えばポリエチレンナフタラート、ポリエチレンテレフタラート、ポリイミド、ポリメチルメタクリラート、ポリカルボナートなどから選択されることが好ましい。
・ 電極は、金、白金、銀、様々な形態の炭素(炭素ナノ粒子、グラファイト、グラフェン、カーボンナノチューブ、ダイアモンドなど)、伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリンなどから製造されることが好ましい。
【0076】
したがってさらに、酸化還元サイクルを用い、酸化還元活性でない分子および分析物も間接的に検出することができる。この検出は、両方の電極の一方もしくは両方の電極および/または誘電体もしくは誘電層に、抗体、DNA、アプタマーなどを固定化することで行うことができる。酸化還元活性分子だけでなく相補的な抗原、DNAなども含有する分析物を添加すると、相補的な抗原、DNAなどが、固定化された抗体、DNA、アプタマーなどに特異的に結合する。その結果、電気化学反応が可能な表面積が減少する。その代わりに酸化還元活性分子の拡散経路が、特異的な結合で引き起こされる遮断によって延長される。これが酸化還元サイクル電流を変化させ、この変化はポテンショスタットによって測定することができる。ブロックされる表面積は、相補的な抗原、DNAなどの濃度によって拡大縮小するので、このようなセンサーは、量的な免疫センサーとして使用することができる。
【0077】
ポイントオブケア診断機器として免疫センサーを使用する際には、免疫センサーの価格が重要な基準である。使い捨てセンサーに関してはたいていの場合、1個当たりの価格は1ユーロ未満であるべきである。酸化還元サイクルセンサーの現在の製造方法ではこの価格は達成できない。加えて現在の製造方法では常に、抗体を固定化するための後修飾ステップが必要とされ、このステップが1個当たりの費用をさらに高くする。
【0078】
これに対してここで紹介した方法は、誘電層を配置する際に最初から生物学的に修飾されたナノ粒子を含有するインクを選択し、このナノ粒子がその後、つまり例えば焼結の後でも、その生物学的機能を有することにより問題を解決する。
【0079】
結果としてここでも、酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置が提供され、この装置の場合、基板上に第1の電気伝導性電極が配置されており、第1の電極上には、細孔が第1の電極の表面まで通じており生体機能化されている多孔質の誘電層が配置されており、かつ誘電層上には、好ましくは多孔質の第2の電気伝導性電極が配置されており、これに関し第2の電極または第2の電極用インクのナノ粒子は、誘電体中の細孔より大きい。代替策として、第2の電極に細孔がなく、酸化還元活性分子の進入が、誘電体への別の進入口、例えば横の進入口を経て行われる。
【0080】
一般的には、本特許出願における細孔の概念は以下のように定義されると言うことができる。誘電層中および/または電極中の細孔は、ピンホール状または刺し針状ではないことが好ましい。
【0081】
細孔は、印刷プロセスに起因して、およびとりわけインクジェット印刷プロセスに起因して、および任意選択でその後に行われる焼結に起因して、スポンジ状の性質であることが好ましい。したがって本発明による製造方法は、誘電体中または1つもしくは複数の電極中にスポンジ状の細孔系を生じさせる。
【0082】
細孔は、電極中および/または誘電体中で、できるだけ等しく分布しているべきである。これらの層の1つでの細孔は、例えば管路状の直通の多数の細孔(2つより多数の細孔)によるか、またはさらにナノ粒子を六角形に配置して細孔を形成することにより、秩序だっていることができる。しかし細孔は無秩序であってもよい(例えばスポンジ状の多孔性)。上側の層の粒子は常に、その下にある層の細孔より大きいことが好ましい。
【0083】
第1の電極の細孔サイズは、直径が0〜50nmであることが好ましい。
【0084】
誘電体中の細孔サイズは、直径が10〜1000nmであることが好ましい。
【0085】
第2の電極の細孔サイズは、直径が100〜10000nmであることが好ましい。第2の電極中では、細孔系の代わりに、1つだけの大きな、例えばリング形の開口部を、酸化還元活性分子のための進入口として配置してもよい。
【0086】
詳細には、多孔質の誘電体は、任意選択で部分的に溶融した非伝導性粒子から成るスポンジ状の骨格から成ることができ、この骨格が、誘電体の表面から向かい側の第1の電極の表面まで通じている細孔によって貫かれている。
【0087】
詳細には、任意選択で、誘電体上の多孔質の電極、とりわけ多孔質の第2の電極が、任意選択で部分的に溶融した伝導性粒子から成るスポンジ状の骨格から成ることができ、この骨格が、第2の電極の表面から向かい側の誘電体の表面まで通じている細孔によって貫かれている。この場合の分子の進入は、分子を含有する溶液を第2の電極の表面に施すこと、ならびに第1の電極までの第2の電極および誘電体の細孔系によって可能である。つまり、このようなセンサーの第2の電極の表面に塗布される酸化還元活性分子は、第2の電極の細孔系および誘電体の細孔系を経て第1の電極の表面まで達し、交互に転換され得る。酸化還元活性分子は、両方の電極の表面に印加された電圧に応じて、還元および酸化することができる。
【0088】
請求項1に基づく分子のための別の進入口、例えば不動態化層を経た例えば横の進入口が誘電体に通じている場合には、活性領域内の第2の電極中の細孔は必要ない。
【0089】
少なくとも部分的には印刷された酸化還元サイクルセンサーの使用は、とりわけ抗原を検出するための、化学的分析物の直接的な検出の範囲内にある。
【0090】
以下では、例示的実施形態および添付図に基づいて本発明をより詳しく説明するが、これにより本発明を制限する意図はない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】本発明による方法を示す図である。
図2】本発明による装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0092】
第1の例示的実施形態
第2の電極中および誘電体中にスポンジ状の細孔を有するセンサーを、上述の方法を用いて製造する。
【0093】
ステップa):第1の電極2a用の材料として金インクを選択する。ポリエチレンナフタラート(PEN)基板1上に、金インクから成る伝導性構造をインクジェットプリンターによって印刷し、その後、125℃で1時間焼結する。
【0094】
こうすることで基板1上に、細孔を有さないかまたは最大で20nmサイズの細孔を有する第1の電極2aが形成される。
【0095】
図1では、酸化還元活性物質(図示されていない)を転換するための活性の測定領域を規定している電極の右側の領域2aを示している。さらに基板1上の焼結された金インクから成る左側の領域2bが示されており、領域2bには電圧が印加され、したがって領域2bは導体路である。第1の電極の領域2aは、図面から出て右側へと延びており、かつ電圧を印加するためにポテンショスタットと接触している。
【0096】
不動態化:ポリイミドから成るインクを選択する。このインクを用い、インクジェット印刷において、図1の右側の部分に示したように約100×100μm大の空隙5を電極領域として規定する(活性領域)。ポリイミドインクは、第1の電極2aを不動態化するために配置される。これにより、第1の電極の右側の活性領域2aは、領域5の周りで不動態化される。これに関しては、不動態化インク3a、3bを不動態化層として後の誘電体5の周りに印刷し、つまり領域5を後の誘電体5のために空けておく。
【0097】
さらに、金から成る導体路2bの一部もポリイミドによって不動態化する。こうして図1の左側の不活性領域では、導体路が第1の電極2aに面した側で部分的に露出しており、かつポリイミド3cおよび導体路2bから成る段状の配置が基板1上で生じるように、ポリイミド層3cが導体路2b上に配置されている。
【0098】
不動態化層3a、3b、および3cを1つのプロセスステップで配置する。第1の電極2aおよび導体路2bの図の奥にある領域を全体的に不動態化することは自明である。
【0099】
ステップb)100nmサイズのナノ粒子を含有する生物学的に修飾されていないポリスチレンナノ粒子インクを、センサーの活性領域内の不動態化部3a、3bの空いた領域5に、インクジェット印刷によって配置する。この誘電体5またはこの層5はその多孔性により、溶液中に存在する転換すべき分子または分析物/酸化還元メディエータの貯留部を成している。この層は、高さ500nmで約100μm×100μmの寸法を有している。
【0100】
誘電体5を、粒子の部分融合によって均質なナノ多孔質層5が成形されるように、115℃で5分間焼結する。
【0101】
誘電体では、細孔サイズは直径で約30nmである。
【0102】
ステップc):300〜400nm大のカーボンナノ粒子を含有するカーボンインクを、第2の上側の電極4aとして選択し、不動態化部3a、3bおよび誘電体5上に配置する。このインクを、第1の電極2aの領域では不動態化層3a、3bおよび誘電体5上に、それだけでなく図1の左側に示したセンサーの不活性領域にも部分的に印刷し、これにより導体路2bを介した領域4bでの第2の電極のためのさらなる接触部位が成形される。このインクを125℃で1時間焼結する。
【0103】
第2の電極では、細孔サイズは直径で約100nmである。
【0104】
図1の右側の部分での酸化還元反応のための活性領域と共に、図1の左側の部分では、本方法のおよびこの様式で生成される装置のさらなる特に有利な一形態を示している。この左側の領域は、センサーのいわゆる不活性領域である。不活性領域は、金から成る導体路2bを含んでおり、導体路2bは図面から出て左側へと延びている(図示されていない)。導体路2bはポテンショスタットと接触している(図示されていない)。
【0105】
これにより、導体路2bを介し、例えば分子または分析物/酸化還元メディエータの酸化電位より高い電圧を第2の電極4aの活性領域に印加することができ、これが電極で分子/分析物を酸化させる。これに対応して第1の電極2aの活性領域では、分析物の還元電位より低い電圧が印加され、これにより交互の酸化還元サイクルプロセスが可能になる。しかし検出を逆にしても同様に良好に実施することもでき、つまり還元電位を電極4aに、および酸化電位を電極2aに印加する。
【0106】
例えばフェロセンジメタノールのような分子または分析物を、溶液の形態で電極上にもたらす(酸化または還元)。領域2a内の下側の第1の電極および上側の第2の電極4aを相応に接触させ、Ag/AgCl参照電極に対して+600mVの酸化電位および0mVの還元電位にセットする。様々な濃度の分析物の検出は、酸化および/または還元する電極での酸化還元サイクル電流強度を測定することで行われる。
【0107】
第2の例示的実施形態:オボアルブミンを検出するための印刷された酸化還元サイクルセンサーの使用
誘電体中および第2の電極中にスポンジ状の細孔を有する第2のセンサーを、上述の方法を用いて以下のように製造する(図1)。
【0108】
ステップa)およびc)ならびに不動態化は、例示的実施形態1でのそれに倣う。
【0109】
ステップa):第1の電極2a用の材料として金インクを選択する。ポリエチレンナフタラート(PEN)基板1上に、金インクから成る伝導性構造をインクジェットプリンターによって印刷し、その後、125℃で1時間焼結する。
【0110】
こうすることで基板1上に、細孔を有さないかまたは最大で20nmサイズの細孔を有する第1の電極2aが形成される。
【0111】
図1では、酸化還元活性物質(図示されていない)を転換するための活性の測定領域を規定している電極の右側の領域2aを示している。さらに基板1上の焼結された金インクから成る左側の領域2bが示されており、領域2bは電圧を印加する働きをし、したがって導体路である。第1の電極の領域2aは、図面から出て右側へと延びており、かつ電圧を印加するためにポテンショスタットと接触している。
【0112】
不動態化:ポリイミドから成るインクを選択する。このインクを用い、インクジェット印刷において、図1の右側の部分に示したように約100×100μm大の電極領域を空隙5として規定する(活性領域)。ポリイミドインクは、第1の電極2aを不動態化するために配置される。これにより、第1の電極の右側の活性領域2aは、領域5、後の貯留部の周りで不動態化される。これに関しては、不動態化インク3a、3bを不動態化層として後の誘電体5の周りに印刷し、つまり領域5をこの誘電体5のために空けておく。
【0113】
さらに、金から成る導体路2bの一部もポリイミドによって不動態化する。こうして図1の左側の不活性領域では、導体路が第1の電極2aに面した側で部分的に露出しており、かつポリイミド3cおよび導体路2bから成る段状の配置が基板1上で生じるように、ポリイミド層3cが導体路2b上に配置されている。
【0114】
不動態化層3a、3b、および3cを1つのプロセスステップで配置する。第1の電極2aおよび導体路2bの図の奥にある領域を全体的に不動態化することは自明である。
【0115】
このインクを用いて、ここでも例示的実施形態1でのように、センサーのための約100μm×100μmの電極、導体路、および接触部位を規定する。
【0116】
ステップb):100nmポリスチレンナノ粒子インク、つまり100nm大のナノ粒子を含有するポリスチレンナノ粒子インクを使用する。ポリスチレンナノ粒子に抗オボアルブミン抗体を備え付け、誘電体5または両方の電極2aと4aの間の中間層として使用する。このインクを、電極2a、4aの活性領域を規定するために不動態化層3a、3bによって空けられた領域5に印刷する。溶剤は蒸発するが生物学的材料は傷つかずにその機能を維持するように、誘電体5を40℃で30分間加熱する。
【0117】
細孔サイズは、第1の例示的実施形態の細孔サイズにほぼ相当する。
【0118】
ステップc):300〜400nm大のカーボンナノ粒子を含有するカーボンインクを、上側の電極4aとして、不動態化層3a、3bおよび誘電体5上に配置する。このインクを、第1の電極2aの領域では不動態化層上に、それだけでなく導体路2bを介した領域4bでの接触部位を成形するためにも印刷し、その後、誘電体5の生物学的材料を傷つけないために光によって焼結する。
【0119】
細孔サイズは、第1の例示的実施形態の細孔サイズにほぼ相当する。
【0120】
したがって不活性領域はその他の点では、第1の例示的実施形態の不活性領域に対応しており、第1の電極2aの接触および接触領域4bの下に生成された導体路2bの接触も同一である。
【0121】
したがって、図1の右側の部分での酸化還元反応のための活性領域と共に、図1の左側の部分では、本方法のおよびこの様式で生成される装置のさらなる特に有利な一形態を示している。この左側の領域は、センサーのいわゆる不活性領域である。不活性領域は、金から成る導体路2bを含んでおり、導体路2bは図面から出て左側へと延びている(図示されていない)。導体路2bはポテンショスタットと接触している(図示されていない)。
【0122】
これにより、導体路2bを介し、例えば分子または分析物/酸化還元メディエータの酸化電位より高い電圧を誘電体5の上の第2の電極4aの活性領域に印加することができ、これが電極で分子/分析物を酸化させる。これに対応して第1の電極2aの活性領域では、分析物の還元電位より低い電圧が印加され、これにより酸化還元サイクルプロセスが可能になる。検出を逆に実施することもでき、つまり還元電位を電極4aに、および酸化電位を電極2aに印加する。
【0123】
オボアルブミンおよび酸化還元メディエータ、例えばフェロセンジメタノールを含有する溶液を、第2の電極4aの表面にもたらす。下側の電極2aおよび上側の電極4aを相応に接触させ、Ag/AgCl参照電極に対して+600mVの酸化電位および0mVの還元電位にセットする。様々な濃度の分析物の検出は、酸化還元サイクル電流強度を測定することで行われる。オボアルブミンの濃度がより高ければ、酸化還元サイクル電流強度は下がるであろう。なぜなら利用可能な電気化学的表面も濃度につれて減少するからである。
【0124】
図2は、図1に比べて単純化して概略的に示した装置の活性領域と、第1の電極22aつまりBot.El.および第2の電極24aつまりTop.El.での分析物の循環転換と、ポテンショスタット内での装置の配置を示している。
【0125】
両方の電極の間に多孔質の誘電体25が配置されており、誘電体25は、溶液中に存在する分析物/酸化還元メディエータの貯留部の働きをする。多孔質の第2の電極4aおよび第1の電極2aに電圧が印加され、この電圧が、循環型の酸化還元反応を引き起こす。これに応じ、発生した電流がカウンター電極(対電極)に対して測定される。
【0126】
したがって本発明によれば、追加的なエッチングステップまたは犠牲層なしで印刷技術だけを用い、任意選択で、さらなるステップのない生物学的修飾も伴って、ナノスケールの酸化還元サイクルセンサーを製造する。
【0127】
課題は、Z軸で配置された上下に重なり合う電極を有しており、この電極の間にナノスケールの誘電体を有しており、その電極および/または誘電体をすべて印刷する設計によって解決される。この方法では、エッチングステップがないことが有利である。この方法は、3つの層(1.第1の下側の伝導性電極、2.誘電層、3.第2の上側の伝導性電極)が異なる細孔性を示すことによって達成される。各々の次の層は、その下に配置された層より大きな粒子を有しており、したがって上にある層4aは、液相から施される際に(例えばインクジェット印刷)、下にある層5におよび層5から層2aに流れ込む可能性がない。
【0128】
例示的実施形態には、UniJet社(韓国)のインクジェットプリンターOJ300を使用した。
【0129】
基板−Teonex(PEN)は、DuPont−Teijin Films社(英国)から入手した。
【0130】
金インク−Au25は、UT Dots社(米国)から入手した。
【0131】
ポリマーインク、例えばポリイミド(PI)PMA−1210P−004は、双日(日本)から入手した。
【0132】
ポリスチレンナノ粒子インクは、Polysciences社(米国)の200nmポリスチレンビーズから、自ら混合した。
【0133】
カーボンインク3800は、Methode社(米国)から入手した。
【0134】
さらなる例示的実施形態
さらなる例示的実施形態は、ナノ多孔質の誘電体を形成するためのゾル−ゲルインクの使用に関する。つまり例えば、第1の例示的実施形態でのステップb)でのナノ多孔質の誘電体のように、以下のように提供することができる。
【0135】
ステップb)で、生物学的に修飾されていないゾル−ゲルベースのインクを準備する。このために100mlフラスコ内でTMOSを脱イオン水およびグリセロールと共に1:1:1(重量分率)で混合し、マグネチックスターラを用いてマグネットプレート上で、室温で1時間撹拌する。その後、縮合反応を開始させるため、塩酸の100mM溶液を500:1(ゾル−ゲル:酸、重量分率)でこれに加える。このゾル−ゲルインクをセンサーの活性領域内の不動態化部3a、3bの空いた領域5に、インクジェット印刷によって配置する。誘電体5または層5、25は、加水分解および硬化の後の多孔性により、溶液中に存在する転換すべき分子または分析物/酸化還元メディエータの貯留部を成している。この層は、高さ約500nmで約100μm×100μmの寸法を有している。
【0136】
印刷されたゾル−ゲル層中で縮合反応によって均質なナノ多孔質層5が成形されるように、この誘電体5、25を室温で60分間焼結する。この場合、誘電体中では、細孔サイズは直径で約20〜40nmである。
【0137】
酸触媒および/または塩基触媒による縮合反応および加水分解に投じられるその他のゾル−ゲル材料も当業者によって使用可能であることは自明である。
【0138】
文献リスト
Goluch E.D.,Wolfrum B.,Singh P.S.,Zevenbergen M.A.G.,Lemay S.G.(2009).Redox cycling in nanofluidic channels using interdigitated electrodes.Anal Bioanal Chem 394:447−456
Wolfrum B.,Zevenbergen M.,Lemay S.(2008).Nanofluidic redox cycling amplification for the selective detection of catechol.Anal Chem 80,972−977
Kaetelhoen E.,Hofmann B.,Lemay S.G.,Zevenbergen M.A.G.,Offenhaeusser A.,Wolfrum B.(2010).Nanocavity Redox Cycling Sensors for the Detection of Dopamine Fluctuations in Microfluidic Gradients.Anal Chem 82,8502−8509
Zevenbergen M.A.G.,Singh P.S.,Goluch E.D.,Wolfrum B.L.,Lemay S.G.(2011).Stochastic sensing of single molecules in a nanofluidic electrochemical device.Nano Lett.11,2881−2886
Hueske M.,Stockmann R.,Offenhaeusser A.,Wolfrum B.(2014).Redox Cycling in nanoporous electrochemical devices.Nanoscale 6,589−598
Gross A.J.,Holmes S.,Dale S.E.C.,Smallwood M.J.,Green S.J.,Winlove C.P.,Benjamin N.,Winyard P.G.,Marken F.(2015).Nitrite/Nitrate detection in serum based on dual−plate generator−collector currents in a microtrench.Talanta 131:228−235
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2020年6月5日
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0138
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0138】
文献リスト
Goluch E.D.,Wolfrum B.,Singh P.S.,Zevenbergen M.A.G.,Lemay S.G.(2009).Redox cycling in nanofluidic channels using interdigitated electrodes.Anal Bioanal Chem 394:447−456
Wolfrum B.,Zevenbergen M.,Lemay S.(2008).Nanofluidic redox cycling amplification for the selective detection of catechol.Anal Chem 80,972−977
Kaetelhoen E.,Hofmann B.,Lemay S.G.,Zevenbergen M.A.G.,Offenhaeusser A.,Wolfrum B.(2010).Nanocavity Redox Cycling Sensors for the Detection of Dopamine Fluctuations in Microfluidic Gradients.Anal Chem 82,8502−8509
Zevenbergen M.A.G.,Singh P.S.,Goluch E.D.,Wolfrum B.L.,Lemay S.G.(2011).Stochastic sensing of single molecules in a nanofluidic electrochemical device.Nano Lett.11,2881−2886
Hueske M.,Stockmann R.,Offenhaeusser A.,Wolfrum B.(2014).Redox Cycling in nanoporous electrochemical devices.Nanoscale 6,589−598
Gross A.J.,Holmes S.,Dale S.E.C.,Smallwood M.J.,Green S.J.,Winlove C.P.,Benjamin N.,Winyard P.G.,Marken F.(2015).Nitrite/Nitrate detection in serum based on dual−plate generator−collector currents in a microtrench.Talanta 131:228−235

更に、本発明は下記の実施の態様を包含する:
(1)
酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置の製造方法において、
a)基板(1)上に第1の電気伝導性電極(2a)を配置するステップ、
b)第1の電極(2a)上に、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)を、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置するステップ、
c)誘電層(5)上に第2の電気伝導性電極(4a)を配置するステップ、
その際、ステップa)〜c)の少なくとも1つが、電気伝導性および/または電気絶縁性の粒子の印刷プロセスによって実施されることを特徴とする、方法。
(2)
ステップb)では、第1の電極(2a)上に、細孔が第1の電極(2a)の表面にまで通じている多孔質の誘電層(5)が配置されることを特徴とする、前記(1)に記載の方法。
(3)
ステップc)では、誘電層(5)上に、細孔が誘電層(5)の表面まで通じている多孔質の第2の電気伝導性電極(4a)が導体路を備えて配置されることを特徴とする、前記(1)または(2)に記載の方法。
(4)
すべてのステップa)〜c)が印刷プロセスによって実施されることを特徴とする、前記(1)〜(3)のいずれか一つに記載の方法。
(5)
第1の電極(2a)を不動態化するための不動態化層(3a、3b)が、第1の電極(2a)と第2の電極(4a)の間に配置され、その際、不動態化層(3a、3b)が、誘電層(5)のための空隙を有することを特徴とする、前記(1)〜(4)のいずれか一つに記載の方法。
(6)
印刷された粒子の、少なくとも1つの焼結ステップを特徴とする、前記(1)〜(5)のいずれか一つに記載の方法。
(7)
ステップa)ではステップb)でよりも小さな粒子が、および/またはステップb)ではステップc)でよりも小さな粒子が印刷されることを特徴とする、前記(1)〜(6)のいずれか一つに記載の方法。
(8)
第2の電極(4a)中では、誘電層(5)中の細孔より大きな細孔が生成され、かつ/または誘電層(5)中では、第1の電極(2a)中の細孔より大きな細孔が生成される、前記(1)〜(7)のいずれか一つに記載の方法。
(9)
ステップc)では、誘電層(5)中の細孔より大きな伝導性粒子が、第2の電極(4a)のために印刷され、かつ/またはステップb)では、第1の電極(2a)中の細孔より大きな絶縁性粒子が、誘電層(5)のために印刷されることを特徴とする、前記(1)〜(8)のいずれか一つに記載の方法。
(10)
両電極(2a、4a)の少なくとも一方および/または誘電層(5)および/または不動態化層(3a、3b)を配置するためのインクジェット印刷プロセスを特徴とする、前記(1)〜(9)のいずれか一つに記載の方法。
(11)
生体機能化されたインクを、第1の電極(2a)上に誘電層(5)を配置するために選択することを特徴とする、前記(1)〜(10)のいずれか一つに記載の方法。
(12)
誘電層(5)の製造のために、酵素、抗体、受容体、またはその他の生体分子を結合させた絶縁性粒子を含有するインクを選択することを特徴とする、前記(11)に記載の方法。
(13)
金、白金、銀、炭素、または伝導性ポリマー、例えばポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリスチレンスルホナート、ポリアニリンから成る伝導性粒子を含有するインクを、両方の電極(2a、4a)の少なくとも一方を製造するために選択することを特徴とする、前記(1)〜(12)のいずれか一つに記載の方法。
(14)
ステップb)で誘電層(5)を形成するためにゾル−ゲルインクが使用されることを特徴とする、前記(1)〜(13)のいずれか一つに記載の方法。
(15)
酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置であって、基板(1)上に第1の電気伝導性電極(2a)が配置されており、第1の電極(2a)上には、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)が、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置されており、この誘電層(5)上には、第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されており、かつ電極(2a、4a)では、分子の酸化還元反応を行うことができ、これに関し誘電層(5)が、溶液中に存在する分子のための貯留部であり、かつ電極(2a、4a)の少なくとも一方が、印刷された電気伝導性粒子から成っており、かつ/または誘電層(5)が、印刷された電気絶縁性粒子から成っている、装置。
(16)
第1の電極(2a)上には、誘電層(5)中の細孔が第1の電極(2a)の表面まで通じている多孔質の誘電層(5)が配置されている、前記(15)に記載の装置。
(17)
誘電層(5)上に、多孔質の第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されていることを特徴とする、前記(15)または(16)に記載の装置。
(18)
装置の両方の電極(2a、4a)が、参照電極および/または対電極と接触している、ポテンショスタット内の作用電極である、前記(15)〜(17)のいずれか一つに記載の装置。
(19)
誘電層(5)の面積が、最小で1μm〜最大で1cmの間であることを特徴とする、前記(15)〜(18)のいずれか一つに記載の装置。
(20)
酸化還元活性分子を含有する溶液を、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)に導入すること、ならびに電極で分子を交互に還元および酸化させる電圧を電極(2a、4a)に印加することを特徴とする、前記(15)〜(19)のいずれか一つに記載の装置の使用。
(21)
酸化還元活性分子が、進入口を経て多孔質の誘電層(5)に導入される、前記(20)に記載の装置の使用。
(22)
誘電体中への酸化還元活性分子の進入が、第2の電極(4a)の細孔を経て行われる、前記(20)または(21)に記載の装置の使用。
(23)
前記(1)〜(19)のいずれか一つに記載の酸化還元サイクルを用いた分析物の電気化学検出装置を製造するための印刷プロセスで使用するためのインク。
(24)
活性領域(5)に施した後に硬化し、ナノ多孔質層(5)を形成するゾル−ゲルインクを特徴とする、前記(23)に記載のインク。
【手続補正2】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化還元サイクルを用いた分子の電気化学検出装置であって、基板(1)上に第1の電気伝導性電極(2a)が配置されており、第1の電極(2a)上には、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)が、誘電層に酸化還元活性分子が入るための進入口を備えて配置されており、この誘電層(5)上には、第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されており、かつ電極(2a、4a)では、分子の酸化還元反応を行うことができ、これに関し誘電層(5)が、溶液中に存在する分子のための貯留部であり、かつ電極(2a、4a)の少なくとも一方が、印刷された電気伝導性粒子から成っており、かつ/または誘電層(5)が、印刷された電気絶縁性粒子から成っている、装置
【請求項2】
第1の電極(2a)上には、誘電層(5)中の細孔が第1の電極(2a)の表面まで通じている多孔質の誘電層(5)が配置されている、請求項1に記載の装置
【請求項3】
誘電層(5)上に、多孔質の第2の電気伝導性電極(4a)が、第1の電極(2a)に対して電気接触せずに配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
装置の両方の電極(2a、4a)が、参照電極および/または対電極と接触している、ポテンショスタット内の作用電極である、請求項1〜3のいずれか一つに記載の装置
【請求項5】
誘電層(5)の面積が、最小で1μm〜最大で1cmの間であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つに記載の装置
【請求項6】
酸化還元活性分子を含有する溶液を、酸化還元活性分子を透過する誘電層(5)に導入すること、ならびに電極で分子を交互に還元および酸化させる電圧を電極(2a、4a)に印加することを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一つに記載の装置の使用。
【請求項7】
酸化還元活性分子が、進入口を経て多孔質の誘電層(5)に導入される、請求項6に記載の装置の使用
【請求項8】
誘電体中への酸化還元活性分子の進入が、第2の電極(4a)の細孔を経て行われる、請求項6または7に記載の装置の使用
【外国語明細書】
2020144146000001.pdf