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特開2020-145977肉製品の食感改良剤および食感改良方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-145977(P2020-145977A)
(43)【公開日】2020年9月17日
(54)【発明の名称】肉製品の食感改良剤および食感改良方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 13/40 20160101AFI20200821BHJP
   A23L 13/00 20160101ALI20200821BHJP
   A23L 13/60 20160101ALI20200821BHJP
   A23L 13/50 20160101ALN20200821BHJP
【FI】
   A23L13/40
   A23L13/00 A
   A23L13/60 A
   A23L13/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2019-46851(P2019-46851)
(22)【出願日】2019年3月14日
(71)【出願人】
【識別番号】591021028
【氏名又は名称】奥野製薬工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100207136
【弁理士】
【氏名又は名称】藤原 有希
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖子
(72)【発明者】
【氏名】森川 彩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 健太
(72)【発明者】
【氏名】近藤 克紀
【テーマコード(参考)】
4B042
【Fターム(参考)】
4B042AC05
4B042AD03
4B042AE03
4B042AG03
4B042AG07
4B042AH01
4B042AK01
4B042AK08
4B042AP03
4B042AP13
4B042AP14
(57)【要約】
【課題】リン酸塩不使用の場合であっても、ソーセージなどの肉製品に対して好ましい食感を付与することができ、かつ当該肉製品の他の品質に影響を及ぼさない食感改良剤を提供すること。
【解決手段】肉製品の食感改良剤が開示される。この食感改良剤は、キシロースとアルカリ塩とを含み、該アルカリ塩は、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である。1つの実施形態では、この食感改良剤は、鶏生肉をさらに含む。肉製品の食感を改良する方法およびリン酸塩を含まない肉製品の製造方法がさらに開示される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
肉製品の食感改良剤であって、
キシロースとアルカリ塩とを含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である、食感改良剤。
【請求項2】
前記アルカリ塩と前記キシロースとを0.05〜0.5:1の重量比で含む、請求項1に記載の食感改良剤。
【請求項3】
前記アルカリ塩が、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩である、請求項1または2に記載の食感改良剤。
【請求項4】
鶏生肉をさらに含む、請求項1から3のいずれかに記載の食感改良剤。
【請求項5】
リン酸塩を含まない、請求項1から4のいずれかに記載の食感改良剤。
【請求項6】
肉製品の食感を改良する方法であって、
キシロース、アルカリ塩、鶏生肉および該肉製品の原料肉を混合して混合物を得る工程、ならびに
該混合物を加熱する工程を含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である、方法。
【請求項7】
前記原料肉が、鶏生肉以外の肉である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記混合物を得る工程における前記鶏生肉と前記原料肉との重量比が0.05〜1:1である、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記キシロースの含有量が、前記鶏生肉および前記原料肉の合計重量100重量部に対して0.2〜6重量部である、請求項6から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記肉製品がリン酸塩を含まない、請求項6から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
前記肉製品がソーセージの形態を有する、請求項6から10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項5に記載の食感改良剤と原料肉とを原材料として含む、リン酸塩を含まない肉製品。
【請求項13】
ソーセージの形態を有する、請求項12に記載の肉製品。
【請求項14】
リン酸塩を含まない肉製品の製造方法であって、
請求項5に記載の食感改良剤と原料肉とを混合して混合物を得る工程
を含む、方法。
【請求項15】
前記肉製品がソーセージの形態を有する、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肉製品の食感改良剤および食感改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リン酸塩は、保水性向上のため、または結着剤として、肉製品の製造の際に幅広く使用されている。
【0003】
肉製品の保水性および結着性は加塩操作によって発現するようになる。結着性は保水性と密接に関連しており、保水性の向上と共に向上し得る。例えば、ソーセージの製造の際に塩漬すると、細切(カッティング)工程後の食肉は、保水性および結着性の発現により粘稠性が非常に高くなり、加熱すると弾力感のある肉塊が形成される。これには筋原線維に局在する塩溶性タンパク質であるミオシンが重要な役割を果たす。弾力感のある良質な肉製品(例えば、ハムやソーセージ)を得るには、適正濃度として2.5重量%程度の食塩が必要とされる。しかし、日本人の嗜好から市販のハムやソーセージ等の肉製品における食塩含有量は多くて食塩1.5重量%程度であり、この量の食塩の添加では、肉製品に良好な弾力感を付与する結着性を発現させることは難しい。
【0004】
良好な弾力感のある肉製品を得るために、上記のような高濃度の食塩の添加に代えて、肉製品の製造の際に重合リン酸塩のようなリン酸塩が添加されている。リン酸塩は、0.3重量%程度の低濃度での添加で十分な結着性を発現し、良好な弾力感のある肉製品を得ることができる。
【0005】
しかし、近年、リン酸塩の過剰摂取による腎臓への影響や、リン酸塩によるミネラル類の吸収阻害などが注目されている。このため、肉製品について、リン酸塩の量を削減するかまたはリン酸塩を使用しない代替技術が求められている。
【0006】
特に、ソーセージでは、リン酸塩がその物性および食感に大きく影響を及ぼすため、ソーセージをリン酸塩不使用で製造することは大変難しい。リン酸塩不使用ソーセージでは、従来のリン酸塩使用品よりも保水性、硬さ、弾力感、結着性が不十分であった。このため、リン酸塩不使用ソーセージの場合、本来の好ましい硬さや弾力を持つ食感(いわゆる「プリッと感」)が損なわれてしまう。
【0007】
例えば、リン酸塩不使用ソーセージの製造方法として、塩化ナトリウム、塩化カルシウムおよび塩化マグネシウムを用いる方法(特許文献1)、ならびにトランスグルタミナーゼを用いる方法(特許文献2)が報告されている。
【0008】
しかし、リン酸不使用であっても、リン酸塩使用品に匹敵するような食感を有するソーセージがなお求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−242674号公報
【特許文献2】国際公開第2012/060470号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、リン酸塩不使用の場合であっても、ソーセージなどの肉製品に対して好ましい食感を付与することができ、かつ当該肉製品の他の品質に影響を及ぼさない食感改良剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、肉製品の食感改良剤を提供し、この食感改良剤は、
キシロースとアルカリ塩とを含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である。
【0012】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、上記アルカリ塩と上記キシロースとを0.05〜0.5:1の重量比で含む。
【0013】
1つの実施形態では、上記アルカリ塩は、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムからなる群より選択される少なくとも1つの塩である。
【0014】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、鶏生肉をさらに含む。
【0015】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、リン酸塩を含まない。
【0016】
本発明はさらに、肉製品の食感を改良する方法を提供し、この方法は、
キシロース、アルカリ塩、鶏生肉および該肉製品の原料肉を混合して混合物を得る工程、ならびに
該混合物を加熱する工程を含み、
該アルカリ塩が、非リン酸系のアルカリ金属塩およびアルカリ土類金属塩からなる群から選択される少なくとも1つの塩である。
【0017】
1つの実施形態では、上記原料肉は、鶏生肉以外の肉である。
【0018】
1つの実施形態では、上記混合物を得る工程における上記鶏生肉と上記原料肉との重量比は0.05〜1:1である。
【0019】
1つの実施形態では、上記キシロースの含有量は、上記鶏生肉および上記原料肉の合計重量100重量部に対して0.2〜6重量部である。
【0020】
1つの実施形態では、上記肉製品は、リン酸塩を含まない。
【0021】
1つの実施形態では、上記肉製品は、ソーセージの形態を有する。
【0022】
本発明はさらに、上記リン酸塩を含まない食感改良剤と原料肉とを原材料として含む、リン酸塩を含まない肉製品を提供する。
【0023】
1つの実施形態では、上記肉製品は、ソーセージの形態を有する。
【0024】
本発明はさらに、リン酸塩を含まない肉製品の製造方法を提供し、この方法は、
上記リン酸塩を含まない食感改良剤と原料肉とを混合して混合物を得る工程
を含む。
【0025】
1つの実施形態では、上記肉製品は、ソーセージの形態を有する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、リン酸塩不使用であっても、例えば、食感に影響する保水性、および結着性、ならびに硬さ、弾力感などの物性が良好または改善された肉製品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】糖または糖アルコールの添加によるソーセージの食感改良効果に関する検討例1の各ソーセージの破断試験の結果を示すグラフである。
図2】キシロースとアルカリ塩との併用の効果に関する検討例2の各ソーセージの破断試験の結果を示すグラフである。
図3】キシロースと併用するアルカリ塩の量の変化の効果に関する検討例3の各ソーセージの破断試験の結果を示すグラフである。
図4】鶏生肉による物性改良効果に関する検討例4の各ソーセージの破断試験の結果を示すグラフである。
図5】キシロースおよびアルカリ塩と併用する鶏生肉比率変化の効果に関する検討例5の各ソーセージの破断試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
まず、本明細書に用いる用語について定義する。
【0029】
本明細書における「肉製品」とは、食用肉を含む原材料に所定の加工を施して得られる製品をいい、単に食用肉を切断、削切、挽く等の物理的な分離操作のみを施して得られるもの(例えば、精肉)に関しては「肉製品」には含まない。「食用肉」は、ヒトの喫食のために供される肉をいい、肉製品の原材料として含有される食用肉を「原料肉」ともいう。例えば、食用肉を切断、削切、挽く等の物理的な分離操作のみを施した精肉についても原料肉に含まれる。
【0030】
本明細書における「加工」は、切断、削切、挽く等の物理的な分離操作、および原料肉と他の原材料との混合操作を含み、そしてそれらと調味、塩漬、乾燥、くん煙、加熱、冷却などの操作とをさらに組み合わせたものも含む。「混合」は、原料肉と、肉製品の他の原材料(例えば、食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)とが接触して合わさる状態にすることをいう。他の原材料が調味料を含む場合、この他の原材料と原料肉との「混合」により「調味」を行うこともできる。「加工」はまた、食品工場、食品店舗(スーパーマーケットのバックヤードなどを含む)での食用肉を原材料とする肉製品の製造段階における処理に加えて、家庭および飲食店における調理も包含する。
【0031】
「肉製品」は、これを構成する原材料の合計重量(加熱前の全原材料の合計重量)に対して、例えば、少なくとも30重量%の生肉に相当する食用肉を原料肉として含有する原材料から製造された製品である。
【0032】
肉製品の形態としては、例えば、ソーセージ、プレスハム、ハム、ベーコン、ローストビーフなどの畜肉加熱加工品、チキンナゲット、ハンバーグ、ミートボール、つくね、餃子の具などの畜肉練り製品、ならびに、唐揚げ、焼き肉、焼き鳥などの畜肉惣菜品が挙げられる。畜肉練り製品や畜肉加熱加工品のソーセージ、プレスハムなど、例えば、ミンサー等で細かくすり潰すことによって調整された挽き肉を使用する肉製品では、原料肉の肉粒子同士の混合(例えば、挽き肉の練り合わせによる)によって、当該肉粒子同士の接合が生じ得る。このような肉粒子同士の接合を「結着」ともいう。
【0033】
本明細書において、「肉製品」はまた、「加熱肉製品」または「非加熱肉製品」のいずれかに分類される。例えば、畜肉加熱加工品は「加熱肉製品」に分類され、そして畜肉練り製品および畜肉惣菜品は、それらの一連の加工工程における加工の程度応じて「加熱肉製品」または「非加熱肉製品」のいずれかに分類される。本明細書において「加熱」とは、熱エネルギーの付加を通じて原材料の性状を不可逆的に変動させることを言い、例えば、嗜好性に応じてこのような不可逆的な変動を伴わず、単に肉製品(例えば、「加熱肉製品」)の温度を上昇させる加温とは明確に区別される。
【0034】
「加熱肉製品」は、原料肉に加熱を含む加工が施され、生肉の状態を保持しておらず、かつヒトがそのまま食することが可能なものをいい、これらを満たす限り、冷蔵品および冷凍品も包含する。その製品が、上記のようにヒトがそのまま食することが可能なものである場合、例えば、ヒトが食する前に、加温の目的で電子レンジ、湯煎などで温められる製品は、温められる前の製品が既に「加熱肉製品」に該当する。加熱肉製品は、ヒトが食するまでにさらに加工されてもよい。
【0035】
「非加熱肉製品」は、加熱肉製品以外の肉製品であり、原料肉に加工が施され、かつヒトが食するにはさらに加熱を必要とするものをいい、これらを満たす限り、冷蔵品および冷凍品も包含する。「非加熱肉製品」では、原料肉に施す加工は、加熱を含まないか、または、ヒトが食するには製品に対する加熱を必要とする程度の加熱(半加熱)を含む。加工が加熱を含まない「非加熱肉製品」は、食用肉が未だ生肉の状態を保持している。例えば、フライパン、フライヤー、電子レンジなどでの加熱によりヒトが食することが可能な状態となる製品は、「非加熱肉製品」に該当する。
【0036】
「肉製品の食感」とは、肉製品のうち加工および/または加熱を通じてヒトが食することが可能となった肉製品に対して、当該ヒトが口腔内で感知可能な味覚、触覚、嗅覚およびそれらの組合せから得ることができる感覚をいう。本発明において、肉製品の食感は、例えば、原料肉の保水性が関与し得る。例えば、肉製品の食感としては、硬さ、弾力感などが挙げられる。
【0037】
肉製品の食感改良は、本発明の食感改良剤を含まない以外は同組成の肉製品(肉製品のうち加工および/または加熱を通じてヒトが食することが可能となった肉製品)において生じ得る望ましくない食感を、より望ましい食感に変更することをいう。例えば、リン酸塩不使用の肉製品は、製造する際、保水性が悪くなり結着性も低下する。保水性および結着性の低下した肉製品は、加熱時の離水が激しくなってパサつきあるボソボソした食感を生み、肉粒子同士の接合が緩いため、か弱く弾力のない食感となる。本発明によれば、肉製品の保水性と結着性を向上させることができ、それによって適度な硬さと弾力感を付与することができる。結着性が高いほど良好な硬さを感じることができ、喫食時に弾力を感じることができる。
【0038】
1つの実施形態では、肉製品はソーセージの形態である。ソーセージは、例えば、食肉(例えば、豚肉、牛肉)を挽き肉にして練り合わされ、ケーシングチューブ(例えば、羊腸および豚腸のような動物の腸、あるいは人工ケーシング)に充填され、加熱されることにより得られる製品である。ソーセージは、ケーシングの材料およびソーセージの太さによって、ウインナーソーセージ、フランクフルトソーセージおよびボロニアソーセージに分けられるが、本発明において肉製品はそのいずれでもよい。ソーセージは、ケーシングに充填されずに成型されたものであってもよい。ソーセージなどの畜肉加熱加工品、および畜肉練り製品の食感改良効果は、例えば、以下の実施例に記載のように、肉製品の食感(硬さ、弾力感など)の評価、保水性評価(例えば、歩留まり測定)、結着性評価などによって評価することができる。
【0039】
本発明は、肉製品の食感改良剤を提供する。この食感改良剤は、キシロースとアルカリ塩とを含む。キシロースは、食品または食品添加剤に通常用いられるものを用いることができる。
【0040】
本発明に用いられる「アルカリ塩」は、非リン酸系のアルカリ化合物、好ましくは、非リン酸系のアルカリ金属塩および/または非リン酸系のアルカリ土類金属塩である。アルカリ金属塩としては、カリウム塩、ナトリウム塩などが挙げられる。アルカリ土類金属塩としては、カルシウム塩などが挙げられる。非リン酸系の化合物は、リン酸系化合物ではない化合物をいう。「リン酸系化合物」とは、リン原子を含むオキソ酸をベースとする化合物をいい、リン酸塩を包含する。本明細書において「リン酸塩」は、食品添加物として用いられるオルトリン酸塩(例えば、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素カリウムおよびリン酸三カルシウム)、ならび重合リン酸塩(例えば、ピロリン酸、ポリリン酸、メタリン酸などの塩)を包含していう。非リン酸系の塩としては、非リン酸系化合物である有機酸および無機酸の塩が挙げられ、例えば、炭酸、塩酸、硫酸、酢酸、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、乳酸、アジピン酸などの塩が挙げられる。本発明に用いられるアルカリ塩としては、非リン酸系化合物である限り、食品に通常用いられるアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩を用いることができる。本発明に用いられるアルカリ塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、貝殻焼成カルシウム、塩化カルシウム、クエン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウム、ならびにこれらの任意の組合せが挙げられる。
【0041】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、アルカリ塩とキシロースとを0.05〜0.5:1、好ましくは0.1〜0.3:1の重量比で含む。本発明の食感改良剤は、このような重量比の範囲内で、キシロースによる肉製品の褐変や甘味の影響を受けることなく、肉製品の食感(例えば、硬さ、弾力感など)をより良好に改善し得る。
【0042】
本発明の食感改良剤は、アルカリ塩とキシロースとを含む製剤として調製することができる。本発明の食感改良剤は、固形剤として、または水等に溶解させて液剤として調製することができる。本発明の食感改良剤は、必要に応じて、肉製品の製造上許容され得る他の成分(例えば、食塩、糖類、香辛料、酸化防止剤、発色剤など)をさらに含有してもよい。このような他の成分の含有量は、肉製品の食感改良効果を阻害しない範囲にて当業者によって適宜設定され得る。例えば、食塩は、嗜好の点で、肉製品の原材料全体の重量に対し、1.5重量%程度の添加が好ましい。
【0043】
1つの実施形態では、本発明の食感改良剤は、鶏生肉をさらに含む。鶏生肉とは、ニワトリの食肉であって、非加熱のものをいう。鶏生肉が由来するニワトリの種類には、ブロイラー(若鶏)、銘柄鶏および地鶏があるが、安価で、手に入りやすいという理由から、本発明においてはブロイラー由来の鶏生肉を好適に用いることができる。鶏生肉の由来部位として、ムネ、モモ、ささみなどが挙げられるが、好ましくは、ムネ肉である。加工性の点から、鶏生肉は、挽き肉の形態に調整されていることが好ましい。肉製品が目的とする硬さまたは弾力感の程度、肉製品の種類に依存して、挽目の細かさ(例えば、粗挽き、中挽きまたは細挽き)および挽く回数(例えば、一度挽きまたは二度挽き)は適宜選択され得る。
【0044】
本発明の食感改良剤は、鶏生肉をさらに含むことにより、肉製品の食感をより良好に改善し得る。鶏生肉は、例えば、原料肉の加熱前の重量に対する割合にて、原料肉と混合する量が決定され得る。本発明の食感改良剤に関して、鶏生肉は、アルカリ塩およびキシロースの合計量とで対比すると、例えば、鶏生肉の重量:アルカリ塩およびキシロースの合計重量が2〜50:1の重量比である。
【0045】
本発明の食感改良剤は、鶏生肉と、食感改良剤の他の成分であるキシロースおよびアルカリ塩とが予め混合されることを要しない。本発明の食感改良剤は、これらの成分が予め混合されていても、あるいは、別々に分けられて使用の際にして混合されてもよい。
【0046】
本発明の食感改良剤は、必ずしもリン酸塩を併用することを要しない。すなわち、本発明の食感改良剤は、リン酸塩を含有していてもよく、あるいは含有しなくてもよい。リン酸不使用の肉製品の製造が求められる市場要求に応えるには、食感改良剤はリン酸塩を含まないことが好ましい。
【0047】
本発明の食感改良剤は、肉製品の食感改良のために、その原料肉に付与され得る。原料肉への付与は、例えば、食感改良剤と原料肉との混合工程によって行うことができる。混合工程は、肉製品の形態に応じて、例えば、ミキシング、細切(カッティング)、タンブリング、インジェクション、塩漬などの操作によって行われる。例えば、塩漬は、ソーセージ、ハムなどの畜肉加熱加工品の製造の際に、例えば、風味、発色および保存性の向上を目的として食塩および発色剤(亜硝酸ナトリウムなど)を含む液中に原料肉を漬け込むことを意味し、この液中に食感改良剤を加えることにより、食感改良剤と原料肉との混合を行うこともできる。
【0048】
本発明はさらに、肉製品の食感を改良する方法を提供する。この方法は、キシロース、アルカリ塩、鶏生肉および該肉製品の原料肉を混合して混合物を得る工程、ならびに該混合物を加熱する工程を含む。肉製品の食感改良は、上記混合工程および加熱工程を経ることによって達成され得る。
【0049】
原料肉としては、例えば、食肉(例えば、豚肉、牛肉、鶏肉、羊肉、馬肉、山羊肉、猪肉、鴨肉など)、魚肉などの食用肉が挙げられる。1つの実施形態では、原料肉は豚肉である。原料肉の部位は特に限定されず、例えば、肩、ロース、肩ロース、ヒレ、モモ、外モモ、バラ、ムネ、ささみなどが挙げられる。肉製品の形態に応じて、例えば、畜肉練り製品や畜肉加熱加工品のソーセージ、プレスハムなどの場合は、原料肉として挽き肉を用いることができる。挽き肉は、食感改良の硬さまたは弾力感の程度、肉製品の種類、原料肉の種類などに依存して、挽目の細かさ(例えば、粗挽き、中挽きまたは細挽き)および挽く回数(例えば、一度挽きまたは二度挽き)を適宜選択し得る。挽き肉は、単独の食用肉からなるものであってもよく(例えば、豚挽き肉、牛挽き肉)、2種以上の食用肉の混合物であってもよい(例えば、牛豚合挽き肉)。
【0050】
上記混合工程においては、キシロース、アルカリ塩および鶏生肉の個々の成分と、原料肉とを混合することができるが、混合される成分の添加の順序は問わない。混合工程は、肉製品の形態に応じて、例えば、ミキシング、細切(カッティング)、タンブリング、インジェクション、塩漬などの操作によって行われる。キシロース、アルカリ塩および鶏生肉は、これらの成分を含む食感改良剤の形態で原料肉と混合されてもよい。例えば、キシロースおよびアルカリ塩を含む製剤と鶏生肉とが別に分けられて含む食感改良剤を、原料肉との混合の際に当該製剤と鶏生肉とを混合して用いてもよく;あるいは、キシロース、アルカリ塩および鶏生肉とがそれぞれ別々に分けられて含む食感改良剤を、原料肉との混合の際にこれらの各成分を混合して用いてもよい。また、本混合工程の前に原料肉を塩漬してもよい。本混合工程においては、肉製品の製造に通常用いられ得る他の成分(食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)をさらに加えて混合してもよく、本混合工程において、塩漬および/または調味を同時に行ってもよい。混合工程では、例えば、キシロースおよびアルカリ塩の各固形状物またはこれらの混合物と、ともに挽き肉に加工した鶏生肉および原料肉と練り合わせてもよい。鶏生肉と原料肉とは挽き肉調整の際に混合して、鶏生肉と原料肉との混合物としておいてもよい。あるいは、上記固形状物を予め水等に溶解した水溶液を鶏生肉と原料肉との混合物に注入するか、または鶏生肉と原料肉との混合物の表面に塗布して内部に浸透させてもよい。
【0051】
加熱工程は、食感改良目的の肉製品の製造または調理において通常用いられる方法を用いることができる。加熱方法としては、原材料に熱を加える方法である限り、例えば、焼く、煮る、蒸す、炒める、揚げるなど、ならびにそれらの組合せが挙げられる。加熱工程の後に、冷却を行ってもよい。
【0052】
上記原料肉が鶏生肉以外の肉である場合、鶏生肉と原料肉との重量比は、混合の際に加熱前の重量を基準として、例えば、0.05〜1:1、好ましくは、0.2〜0.4:1である。このような重量比であることにより、肉製品の食感としてより良好な硬さおよび弾力感が付与され得、肉製品の食感において硬さと弾力感をより強く感じることができる。肉製品がソーセージの形態を有し、その原料肉が豚肉である場合、このような重量比であることにより、ソーセージの保水性および結着性が高まり、その食感により良好な硬さと弾力感が付与され得る。
【0053】
1つの実施形態では、キシロースの添加量は、鶏生肉および原料肉の合計重量100重量部(本発明の混合工程における重量を基準)に対して0.2〜6重量部である。キシロースがこのような範囲内での添加量であることにより、キシロースによる肉製品の褐変の発生および甘味をより抑えることができる。アルカリ塩の添加量は、鶏生肉および原料肉の合計100重量部(本発明の混合工程における重量を基準)に対して0.01〜2重量部である。アルカリ塩がこのような範囲内での添加量であることにより、肉製品の保水性の低下(離水)をより抑制することができ、特にキシロースの上記添加量と組み合わせられることにより、より有効に肉製品の保水性の低下(離水)の抑制および結着性の向上を行うことができ、肉製品の食感により良好な硬さと弾力感が付与され得る。
【0054】
上記の肉製品の食感改良方法は、必ずしもリン酸塩を併用することを要しない。すなわち、本発明の食感改良方法は、リン酸塩を用いてもよく、あるいは用いなくてもよい。リン酸不使用の肉製品の製造が求められる市場要求に応えるには、リン酸塩を用いないことが好ましい。したがって、1つの実施形態では、上記肉製品は、リン酸塩を含まない肉製品である。
【0055】
本発明の食感改良剤がリン酸塩を含まない場合、本発明はさらに、そのような食感改良剤と原料肉とを原材料として含む、リン酸塩を含まない肉製品を提供する。このような肉製品は、リン酸塩を除いて、その肉製品の製造に通常用いられ得る他の成分(食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)をさらに含んでもよい。
【0056】
本発明の食感改良剤がリン酸塩を含まない場合、本発明は、リン酸塩を含まない肉製品の製造方法をさらに提供する。この製造方法は、そのようなリン酸塩を含まない食感改良剤と原料肉とを混合して混合物を得る工程を含む。混合工程は、肉製品の形態に応じて、例えば、ミキシング、細切(カッティング)、タンブリング、インジェクション、塩漬などの操作によって行われる。本発明の製造方法では、混合工程は、その成分が予め混合された食感改良剤と原料肉とを混合してもよく、あるいは、食感改良剤の成分が別々に分けられた形態であれば、各成分と原料肉とを混合してもよい。混合工程の前に、原料肉の塩漬工程を含んでもよい。肉製品が畜肉加熱加工品の場合、混合工程の前に、塩漬工程を行うことができる。本混合工程においては、肉製品の製造に通常用いられ得る他の成分(食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)をさらに加えて混合してもよく、本混合工程において、塩漬および/または調味を同時に行ってもよい。製造方法は、整形、成型、充填などの肉製品の形成工程をさらに含むことができる。このような形成工程は、肉製品の種類に依存して行われ、例えば、整形は混合工程前、そして成型、充填は混合工程後に行われ得る。
【0057】
本発明の製造方法は、混合工程に加えて、加熱工程をさらに含むことができる。加熱工程は、その肉製品の製造において通常用いられる方法を用いることができ、原材料に熱を加える方法である限り、例えば、焼く、煮る、蒸す、炒める、揚げるなど、ならびにそれらの組合せが挙げられる。食用肉に肉製品の種類に依存して、上記加熱工程の前または後に、例えば風味付けおよび/または保存性向上のために、くん煙および/または乾燥を行ってもよい。整形、成型、充填などの肉製品の形成工程は、通常、加熱工程より前に行われる。加熱工程後に、冷却(放冷、冷蔵など)、包装などの工程を行ってもよく、本発明の製造方法は、これらの工程もまた含むことができる。
【0058】
肉製品が、食用肉が未だ生肉の状態を保持している非加熱肉製品である場合、本発明の製造方法は、加熱工程を省略してもよい。
【0059】
肉製品がソーセージの形態を有する場合、肉製品は、例えば、原料肉の塩漬、混合、充填(ケーシングへの充填)または成形(ケーシングなしの場合)、加熱および冷却によって製造することができる。必要に応じて乾燥、くん煙などを行うこともできる。塩漬は、例えば混合の際に食塩および発色剤(硝酸ナトリウムなど)を含むことによって代替的に行ってもよい。ソーセージは、本発明の食感改良剤および原料肉以外に、リン酸塩を除いて、ソーセージの製造に通常用いることができる他の成分(例えば、食塩、糖類、調味料、香辛料、発色剤、酸化防止剤など)を含んでもよい。
【0060】
本発明によれば、リン酸塩を用いない場合であっても、肉製品の保水性および結着性の低下が抑制され、そして肉製品に硬さおよび弾力感のような良好な食感を付与することができる。例えば、肉製品がソーセージの形態を有する場合は、本発明の食感改良剤または食感改良方法によって、リン酸塩を用いて製造した場合とほぼ匹敵するか、またはより良好な食感(より良好な硬さ、弾力感など)を有するソーセージを提供することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0062】
ソーセージの作製方法および評価方法をそれぞれ以下に示す。なお、本実施例中、配合割合の%および配合比率はいずれも重量を基準とする。
【0063】
<ソーセージ作製方法>
1.生肉をミンサーで粗挽きにし、粗挽き肉を調製し、原料肉とした。
2.粗挽き肉、水(氷)、副原料および食品改良剤(ある場合)をフードカッターで1分間混合した。
3.ラードを入れて、さらにフードカッターで40秒間混合した。
4.ケーシングチューブに充填し、密封した。
5.充填したケーシングチューブを85℃にて40分間ボイル加熱した。
6.30分間氷冷することで冷却した。
【0064】
<評価方法>
(1)官能評価
パネリスト10名にて、上記作製方法の第6工程後(冷却後)のソーセージを喫食し、その食感を硬さおよび弾力感の観点から各自が評価し、協議して結論づけた。硬さおよび弾力感は、歯ごたえの程度に基づきそれらの有無、または強く感じられたかもしくは弱く感じられたかを判断した。
(2)歩留まり測定
上記作製方法の第6工程後(冷却後)に重量を測定し(「加熱後重量」)、加熱前重量を100とした場合の加熱後重量を算出し、歩留まり率(%)とした。
(3)物性評価
上記作製方法の第6工程後(冷却後)にソーセージを15mm幅にカットし、レオメーターにて破断試験力を測定した(使用機器:レオメーター(株式会社島津製作所:EZ−Test)/プランジャー:球状型プランジャー(直径4mm))。破断試験力が大きいほど破断強度が強く、ソーセージに硬さがあることが示される。上記作製方法の第5工程の加熱時に著しい離水があり、結着性が悪く物性評価不能だったものについては、「N.D.」とした。
(4)結着性評価
結着性評価について、歩留まり率と官能評価結果を総合して以下のように基準を設け、評価した。結着性不良なものは上記作製方法の第5工程の加熱時に著しい離水が見られて歩留まり率が低く、結着性良好なものは保水性が高く、歩留まり率は高くなる傾向があることから、歩留まり率が90%未満のものを「結着性が悪い」と判断した。歩留まり率が90%以上であるが、官能評価において「硬さ、弾力感がない」もしくは「硬さ、弾力感が弱い」と評価されたものは、「結着性が弱い」と判断した。歩留まり率が90%以上でかつ官能評価において、「硬さと弾力感がややある」ものは「結着性がやや良好」と判断し、「硬さ、弾力感がある」と評価されたものは、「結着性が良好」と判断した。
【0065】
<検討例1:糖または糖アルコールの添加によるソーセージの食感改良の検討>
ソーセージに通常用いられるリン酸塩の添加に代えて、種々の糖または糖アルコールの添加を検討した。ソーセージの原材料配合を表1に示す。通常のリン酸塩使用ソーセージの配合としてピロリン酸四ナトリウムを添加した場合(P1)と、リン酸塩不使用配合(N1)とをそれぞれコントロールとして用いた。
【0066】
以下は、表1に示した食感改良効果を検討した物質とその添加量を示す(「%」はソーセージ原材料合計重量に対する割合):
リン酸塩使用区(P1):ピロリン酸四ナトリウム0.2%(ポジティブコントロール)。
リン酸塩不使用区(N1):リン酸塩不使用配合(ネガティブコントロール)。
グルコース添加区(G1−1、1−2、1−3):順に、グルコース0.5%、1.0%、2.0%。
フルクトース添加区(F1−1、1−2、1−3):順に、フルクトース0.5%、1.0%、2.0%。
キシリトール添加区(Xt1−1、1−2、1−3):順に、キシリトール0.5%、1.0%、2.0%。
キシロース添加区(Xl1−1、1−2、1−3、1−4):順に、キシロース0.5%、1.0%、2.0%、3.0%。
【0067】
【表1】
【0068】
評価について、歩留まり結果、官能評価および結着性評価の結果を表2および物性評価(破断試験)の結果を図1に示す。
【0069】
【表2】
【0070】
・リン酸塩使用区(P1):硬さと弾力感があり、結着性良好である。
・リン酸塩不使用区(N1):保水性が悪く、離水がみられて歩留まりが著しく低下した。また、硬さと弾力感のない食感になり、結着性が悪い。
・グルコース添加区(G1−1〜1−3):グルコースの濃度を増すとわずかに硬さが増す傾向が見られたが、リン酸塩使用区(P1)と比べると硬さ、弾力感はなく、結着性も悪い。
・フルクトース添加区(F1−1〜1−3):フルクトースの濃度を増すとわずかに硬さが増す傾向が見られたが、リン酸塩使用区(P1)と比べると硬さ、弾力感はなく、結着性も悪い。
・キシリトール添加区(Xt1−1〜1−3):キシリトール添加は、濃度に依存せず、硬さ、弾力感、結着性向上効果は見られなかった。
・キシロース添加区:
(Xl1−1):キシロース0.5%添加では、硬さおよび弾力感がなく、結着性が悪かった。
(Xl1−2):キシロース1.0%添加では、硬さおよび弾力感がなく、結着性が悪かった。作製されたソーセージにやや甘味が感じられた。
(Xl1−3):キシロース2.0%添加では、離水は大幅に改善されて歩留まり良好で、結着性も良好であった。硬さと弾力感があり、物性は良好であった。しかし得られたソーセージの外観は褐変し、甘味も感じられた。
(Xl1−4):キシロース3.0%添加では、離水がほとんどなく歩留まり良好で、強い硬さ、弾力感を持つ良好な物性が確認され、結着性も良好であったが、得られたソーセージは褐変し、強い甘味が感じられた。
【0071】
上記のように、キシロースを添加した場合、濃度依存的にリン酸塩不使用ソーセージ(N1)の物性を改善する効果が観察された。しかし、キシロース単独の場合、添加量が多くなると、得られたソーセージに褐変や甘味が生じるという問題があった。
【0072】
<検討例2:キシロースとアルカリ塩との併用検討>
検討例1の結果に基づいてキシロースを食感改良剤の成分として選択し、そしてソーセージの褐変および甘味の問題の解消のため、アルカリ塩との併用を検討した。ソーセージの原材料配合を表3に示す。
【0073】
食感改良剤として、キシロースとアルカリ塩とを含む製剤を調製した(実施例2−1(NX2−1)および2−2(NX2−2))。アルカリ塩として炭酸ナトリウムを用いた。比較のため、ピロリン酸四ナトリウム(P2)、炭酸ナトリウム単独(Na2)ならびにキシロース単独(Xl2−1〜Xl2−3)を食感改良剤として用いた(それぞれ比較例2−1〜2−5)。
【0074】
以下は、表3に示した食感改良剤の組成とその添加量を示す(「%」はソーセージ原材料合計重量に対する割合):
<比較例>
2−1(P2):ピロリン酸四ナトリウム0.2%添加。
2−2(Na2):炭酸ナトリウム0.1%添加。
2−3(Xl2−1):キシロース0.5%添加。
2−4(Xl2−2):キシロース1.0%添加。
2−5(Xl2−3):キシロース2.0%添加。
<実施例>
2−1(NX2−1):炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。
2−1(NX2−2):炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース1.0%添加。
【0075】
【表3】
【0076】
評価について、歩留まり結果、官能評価および結着性評価の結果を表4および物性評価(破断試験)の結果を図2に示す。
【0077】
【表4】
【0078】
炭酸ナトリウム単独(比較例2−1(Na2))では、離水が防止され歩留まりが高くなるが、官能評価で硬さおよび弾力感が弱かった。また、結着性が弱く、破断強度がリン酸塩使用区(比較例2−1(P2))と比べて低いことが観測された。
【0079】
キシロース単独の場合、添加量の増大と共に歩留まり率が向上したが、各添加量で以下のような結果が確認された:
0.5%添加では、官能評価で硬さと弾力感がなく、かつ結着性が悪く、破断強度は低い(比較例2−3(Xl2−1));
1.0%添加では、硬さと弾力感がなく、かつ結着性が悪く、破断強度は0.5%添加に比べると高いもののなお低く、そしてやや甘みが感じられた(比較例2−4(Xl2−2));そして
2.0%添加では、硬さと弾力感があり、かつ結着性が良好となり、破断強度も図2に見られるように相当に上昇したが、ソーセージに褐変が生じ、比較例2−4よりも強い甘みが感じられた(比較例2−5(Xl2−2))。
【0080】
これらに対して、キシロースと炭酸ナトリウムとを併用した場合は、以下の結果が得られた:
実施例2−1(NX2−1)では、キシロース0.5%単独添加(比較例2−3(Xl2−1))および炭酸ナトリウム単独(比較例2−1(Na2))と比べて歩留まり率が高くなり、そして官能評価の硬さ、弾力感と結着性とが改善された。また破断強度は、図2に見られるように、キシロース2.0%単独添加(比較例2−5)と同等程度に高くなった;そして
実施例2−2(NX2−2)では、やや甘みが感じられたが、歩留まり率が高く、結着性は良好であり、かつ官能評価で硬さと弾力感があり、破断強度も高かった。
【0081】
以上のように、炭酸ナトリウムを併用すると、キシロース0.5%添加の際に、ソーセージの味覚および外観のような他の品質に大きな問題を与えることなく比較的良好な食感および物性を得ることができた。
【0082】
<検討例3:キシロースと併用するアルカリ塩の量変化検討>
キシロース0.5%添加条件で炭酸ナトリウムの添加量の変化を検討した。ソーセージの原材料配合を表5に示す。
【0083】
以下は、表5に示した食感改良剤の組成とその添加量を示す(「%」はソーセージ原材料合計重量に対する割合):
<比較例>
3−1(P3):ピロリン酸四ナトリウム0.2%添加。
<実施例>
3−1(NX3−1):キシロース0.5%および炭酸ナトリウム0.05%添加。
3−2(NX3−2):キシロース0.5%および炭酸ナトリウム0.1%添加。
3−3(NX3−3):キシロース0.5%および炭酸ナトリウム0.2%添加。
【0084】
【表5】
【0085】
評価について、歩留まり結果、官能評価および結着性評価の結果を表6および物性評価(破断試験)の結果を図3に示す。
【0086】
【表6】
【0087】
実施例3−1〜3−3の結果に見られるように、炭酸ナトリウムの量の増加につれて歩留まり率は高くなり、保水性が高まる傾向を示した。他方で炭酸ナトリウム0.2%添加(実施例3−3(NX3−3))の場合、硬さに関してやや弱まる傾向が示された。実施例3−2(炭酸ナトリウム0.1%添加(NX3−2))において、官能評価で硬さ、弾力性があり、かつ結着性が良好で、物性評価(破断試験)でも高い破断強度が観測された。
【0088】
<検討例4:鶏生肉による物性改良検討>
炭酸ナトリウム0.1%添加条件でキシロースの量の変化を検討した。さらに原料肉の豚モモ肉に鶏生肉を併用した場合についても検討した。鶏生肉は、ブロイラーの生のムネ肉を用い、上記のソーセージの作製方法の第1工程で豚モモ肉と共にミンサーで粗挽きにした。ソーセージの原材料配合を表7に示す。
【0089】
以下は、表7に示した食感改良剤の組成とその添加量を示す(「%」はソーセージ原材料合計重量に対する割合であり、鶏ムネ肉は原料肉の豚モモ肉との重量比にて表す):
<比較例>
4−1(P4):ピロリン酸四ナトリウム0.2%添加。鶏ムネ肉使用なし。通常のリン酸塩使用ソーセージの配合に対応する。
4−2(N4):リン酸塩不使用。鶏ムネ肉使用なし。
4−3(NC4):豚モモ肉:鶏ムネ肉=80:20。
4−4(NaC4):炭酸Na0.1%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=80:20。
4−5(XC4):キシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=80:20。
<実施例>
4−1(NX4):炭酸Na0.1%およびキシロース0.5%添加。鶏ムネ肉使用なし。
4−2(NXC4):炭酸Na0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=80:20。
【0090】
【表7】
【0091】
評価について、歩留まり結果、官能評価および結着性評価の結果を表8および物性評価(破断試験)の結果を図4に示す。
【0092】
【表8】
【0093】
鶏生肉配合のみ(比較例4−3(NC3))では、リン酸不使用品(比較例4−2(N4))と同様に、加熱時に離水が発生し、結着性ならびに硬さおよび弾力感は改善されなかった。鶏生肉を配合した炭酸ナトリウム添加(比較例4−4(NaC4))では、歩留まり率が高いが、硬さおよび弾力感がいずれも弱く、結着性は弱かった。鶏生肉を配合したキシロース添加(比較例4−5(XC4))では、リン酸不使用品(比較例4−2(N4))より歩留まり率が若干向上したが、加熱時に離水が発生し、結着性が悪かった。
【0094】
キシロースと炭酸Naとの併用の場合、鶏生肉非配合系(実施例4−1(NX4))で歩留まり率が高く、官能評価で硬さと弾力感がややあり、結着性がやや良好であった。鶏生肉を配合することで(実施例4−2(NXC4))、保水性が高く、かつ硬さと弾力感があり、より結着性に優れたソーセージを得ることができた。
【0095】
<検討例5:鶏生肉比率変化の検討>
炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加として、原料肉に対する鶏生肉(生の鶏ムネ肉)の比率変化を検討した。ソーセージの原材料配合を表9に示す。
【0096】
以下は、表9に示した食感改良剤の組成とその添加量を示す(「%」はソーセージ原材料合計重量に対する割合であり、鶏ムネ肉は原料肉の豚モモ肉との重量比にて表す):
<比較例>
5−1:ピロリン酸四ナトリウム0.2%添加。鶏ムネ肉使用なし。通常のリン酸塩使用ソーセージの配合に対応する。
<実施例>
5−1:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。鶏ムネ肉使用なし。
5−2:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=95:5。
5−3:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=90:10。
5−4:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=80:20。
5−5:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=70:30。
5−6:炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加。豚モモ肉:鶏ムネ肉=50:50。
5−7:炭酸ナトリウム0.1%、キシロース0.5%添加。鶏ムネ肉のみ使用。
【0097】
【表9】
【0098】
評価について、歩留まり結果、官能評価および結着性評価の結果を表10および物性評価(破断試験)の結果を図5に示す。
【0099】
【表10】
【0100】
炭酸ナトリウム0.1%およびキシロース0.5%添加の際、鶏生肉を原料肉に対して5%配合させた場合(実施例5−2)、鶏生肉非配合の場合(実施例5−1)と比べて、官能評価で硬さと弾力感が若干強くあり、結着性がやや良好で、物性評価(破断試験)でもより高い破断強度が観測された。原料肉に対して10%の割合で鶏生肉を配合した場合(実施例5−3)、歩留まり率が高く、官能評価で硬さと弾力感があり、かつ結着性が良好で、よりソーセージらしい物性が得られた。鶏生肉比率20%〜50%(実施例5−4、実施例5−5および実施例5−6)により、リン酸塩使用ソーセージ(比較例5−1)により近い食感となり、ソーセージのプリッと感がより感じられた。実施例5−6では、リン酸塩使用ソーセージ(比較例5−1)よりも強い弾力感のソーセージが得られた。原料肉に豚モモ肉を用いずに鶏ムネ肉を用いた場合(実施例5−7)、硬さが少し軟らかかったが、弾力感があり、結着性は良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明は、例えば、食品添加剤および食品の製造分野、ならびに食品加工分野において有用である。
図1
図2
図3
図4
図5