【課題】コンクリート面に霧状の水を吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、ノズルからのミストをより広範囲に拡大させて吹き付けること、更にはミストのコンクリート面への付着効率を向上させることによりミスト噴霧の効率化を図るコンクリートの湿潤養生方法を提供する。
【解決手段】脱型後のコンクリート面に向かって霧状の水を散水ノズル31から吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、前記散水ノズル31の噴口部近傍に帯電用電極32,32を配設し、噴霧される水粒子を正又は負に帯電させることにより、帯電した水粒子間の反発力によって噴霧面積の拡大を図るようにする。また、噴霧される水粒子をコンクリートの表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によってコンクリート表面への付着力を向上させるとより好ましい。
噴霧される水粒子をコンクリートの表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によってコンクリート表面への付着力を向上させる請求項1記載のコンクリートの湿潤養生方法。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば山岳トンネル工事では覆工コンクリートを打設するに当たって、長期に亘ってコンクリートの品質を確保し耐久性を維持する構造体とするために、セントルを脱型した後、十分な湿潤養生を行って水和反応を促進させることが重要となる。これは、カルバート、アンダーパスなどの地下構造物の構築に当たっても同様である。
【0003】
前記覆工コンクリートの養生方法の一つとして、散水養生が古くから採用されている。例えば、下記特許文献1には、トンネルの内周でトンネルの長手方向に沿って成形した覆工コンクリートに対し流体を吹き付ける複数の流体出口を有する流体供給管を備え、その流体供給管の各流体出口から出る流体を回収する流体回収トレーを設けたトンネル内の覆工コンクリート養生装置が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記覆工コンクリート養生装置の場合は、多大な設備費用と施工手間が掛かるとともに、更に大量の水を必要とするなどの問題があった。そこで、散水を霧状とすることでコンクリート面に水分を付着させ、散水した水の回収設備を無くすようにした覆工コンクリートの養生装置が幾つか提案されている。
【0005】
具体的に下記特許文献2では、打設されたトンネル覆工コンクリートに水を吹き付けて養生を行なうトンネル覆工コンクリートの養生装置において、トンネル覆工コンクリートに霧状の水を吹き付ける噴霧機構と、該噴霧機構をトンネル内に移動自在に設ける移動機構とを有し、この噴霧機構と移動機構とにより、トンネル覆工コンクリートの表面に前記霧状の水を所定量吹きつけながらトンネル内を移動し得るように構成されているトンネル覆工コンクリートの養生装置が開示されている。
【0006】
また、下記特許文献3では、トンネル内壁面をコンクリートで被覆するトンネル覆工工事で使用され、トンネル内を移動する覆工用の型枠とトンネル内壁面との間の空間に打設されたコンクリートの硬化後、当該硬化した覆工コンクリートの表面にひび割れが発生するのを抑制するようコンクリート表面を湿潤状態にして養生させる覆工コンクリートの湿潤養生装置であって、天井面に設置され前記型枠の後方に向けて延びる軌道と、この軌道に沿って移動可能な移動体と、この移動体に設置され前記覆工コンクリートに向けて噴霧液を噴霧する噴霧装置と、を有し、前記軌道は前記型枠の進行に伴いその進行方向に増設される支持材によって移動自在に支持される覆工コンクリートの湿潤養生装置が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
霧状の水(以下、ミストともいう。)としてコンクリート面に吹き付けることにより、覆工コンクリート面に適量付着するとともに、一部は空気中に浮遊して周辺環境を適温かつ適湿に保つことが可能になる。また、養生水が水滴となってコンクリート壁面を伝いながら落下することがないため、養生装置を小型化できるようになるなどの利点がもたらされるようになる。
【0009】
しかしながら、ノズルから水を霧状にして吹き付ける場合は、覆工コンクリートの表面が乾かないように、すなわちコンクリート表面からミストを絶やさないようにするために、周方向にノズルが配置された養生台車を自動的ないし半自動的に反復的移動させる必要があるが、このミスト噴霧をより効率的に行うためには、(1)ノズルからのミストをより広範囲に拡大させて吹き付けるようにすれば、その吹付け面積の拡大によってミスト噴霧を効果的に行うことが可能となる。
(2)噴霧されたミストの覆工コンクリートへの付着効率を向上させることができれば、ミスト噴霧を効果的に行うことが可能となる。
【0010】
そこで本発明の主たる課題は、コンクリート面に霧状の水を吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、ノズルからのミストをより広範囲に拡大させて吹き付けること、更にはミストのコンクリート面への付着効率を向上させることなどによりミスト噴霧の効率化を図ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために請求項1に係る本発明として、脱型後のコンクリート面に向かって霧状の水をノズルから吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、
前記ノズルの噴口部近傍に帯電用電極を配設し、噴霧される水粒子をプラス又はマイナスに帯電させることにより、帯電した水粒子間の反発力によって噴霧面積の拡大を図るようにすることを特徴とするコンクリートの湿潤養生方法が提供される。
【0012】
上記請求項1記載の発明では、コンクリート表面に向かって霧状の水を吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、霧状の水にプラス又はマイナスの電荷を与えることにより、各帯電水粒子の反発力によって噴霧面積の拡大を図るようにする。従って、噴霧面積の拡大によってミスト噴霧の効率化を図ることができる。
【0013】
請求項2に係る本発明として、噴霧される水粒子をコンクリートの表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によってコンクリート表面への付着力を向上させる請求項1記載のコンクリートの湿潤養生方法が提供される。
【0014】
上記請求項2記載の発明では、噴霧される水粒子をコンクリートの表面電荷と反対側の電荷に帯電させて、コンクリート表面への付着力を向上させるようにする。従って、コンクリート面の付着力向上によってミスト噴霧の効率化を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
以上詳説のとおり本発明によれば、コンクリート面に霧状の水を吹き付けることにより湿潤養生を行うに当たって、ノズルからのミストをより広範囲に拡大させて吹き付けること、更にはミストのコンクリート面への付着効率を向上させることなどによりミスト噴霧の効率化を図ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0018】
図1に示されるように、山岳トンネルの施工では、発破などによる掘進後、掘削されたトンネル内壁面に吹付けによって吹付けコンクリートを施工し、ロックボルトを打ち込んだ後、油圧ショベルなどの掘削機械によってトンネル底部のインバート掘削を行い、インバートコンクリートを打設し埋め戻した後、シート台車2を使用して前記吹付けコンクリートの内周面に防水シートを張設した状態で(この面が地山側壁面となる。)、覆工セントル3(移動式の鋼製型枠)をトンネル軸方向に順次移動させながら、トンネル軸方向に1スパン毎、前記地山側壁面との間に距離を空けて周方向に沿って前記覆工セントル3の型枠を設置し、地山側壁面と型枠との間の空間内に覆工用コンクリート4を打設し硬化を待って脱型した後、散水装置1によって本発明に係る湿潤養生を行うことが行われている。ズリ搬出、コンクリート搬送などのためにダンプカーやコンクリートミキサー車などの車両が絶えず坑内を走行している。
【0019】
前記散水装置1は、前記覆工セントル3の後方に設置され、脱型後からの所定期間、覆工コンクリート4の湿潤養生のために、覆工コンクリート4面に向かって霧状の水を吹き付けることによって湿潤養生を行う装置である。
【0020】
以下、前記散水装置1について図面に基づいて詳述する。
【0021】
前記散水装置1は、
図2及び
図3に示されるように、トンネル内をトンネル軸方向に移動可能な移動架台10と、この移動架台10に支持されるとともに、覆工コンクリート4の表面からトンネル内側に離隔した位置から覆工コンクリート4面に霧状の水を吹き付ける散水設備11とから構成されている。
【0022】
前記移動架台10は、
図3に示されるように、略門型の鉄骨材などからなる門型フレーム12と、この門型フレーム12の外側に支持されるとともに、覆工コンクリート4の表面から所定距離だけ離隔した位置に、トンネル周方向に沿って略アーチ状に形成された鉄骨材などからなるアーチ形フレーム13とを含む構成とされている。
【0023】
前記移動架台10は、トンネル軸方向に沿って配設された2条の走行レール14、14上を車輪と駆動装置により自動で往復移動可能とされている。
【0024】
前記走行レール14は、前記移動架台10の門型フレーム12を走行可能に支持し、トンネルの下面に長手方向に沿って2条敷設されている。前記走行レール14は、詳細には
図4に示されるように、前記門型フレーム12に備えられた車輪15が走行するレール本体14aと、溝内に前記レール本体14aが支持された溝型鋼からなる枕材14bとからなる構成とするのが好ましい。これにより、前記レール本体14aの両側に、前記枕材14bの両側面が起立した状態で設けられるようになる。
【0025】
前記門型フレーム12の下端には、前記走行レール14上を転動する少なくとも4つの車輪15、15…が設けられ、そのうち少なくとも1つの車輪15がギヤードモータ16などによって回転駆動され、前記門型フレーム12が走行レール14、14上を自動で往復移動できるように構成されている。
【0026】
このように散水装置1が走行レール14,14上を移動可能に設けられているため、従来の散水装置のように、散水装置のトンネル軸方向の長さを、覆工コンクリートの打設スパンの全長に亘る長さで形成する必要がなく、覆工コンクリートを打設する1スパンより短い長さで構成することができ、散水装置のコンパクト化を図ることができるようになる。
【0027】
前記散水装置1の移動速度は、任意に設定することができるが、1〜20m/分、特に3〜8m/分程度とするのが好ましい。
【0028】
前記散水装置1が前記走行レーレ14上を自動で往復移動可能とするため、前記移動架台10には、
図5に示されるように、移動方向の前後端部にそれぞれ、移動方向に揺動可能な自由端部17aと、前記自由端部17aの揺動により前記車輪15を逆回転させる信号を発信する切換器17bとからなるリミットスイッチ17が設けられている。また、前記走行レール14の所定の養生区間の前後端部にそれぞれ、前記リミットスイッチ17の前記自由端部17aが当接するリミットスイッチ当接部18が設けられている。これにより、散水装置1が前記リミットスイッチ当接部18、18が設けられた所定の養生区間内を自動で往復移動できるようになっている。
【0029】
前記リミットスイッチ当接部18は、散水装置1を往復移動させたい任意の所定区間の前後端部にそれぞれ設けるようにする。移動区間としては任意に設定できるが、覆工コンクリート4を打設した3〜12スパン(約30〜130m)程度とするのが好ましい。前記リミットスイッチ当接部18の走行レール14に対する固定は、
図5に示されるように、レール長手方向に沿って離隔した2本のボルト18a、18aによって枕材14bの起立した側面に支持することにより行われている。
【0030】
また、前記リミットスイッチ17による移動架台10の逆方向への移動が成されなかった場合の緊急手段として、前記移動架台10の移動方向の両端部にそれぞれ、移動方向の前方側に突出する緊急停止装置19が設けられるとともに、前記走行レール14の前記リミットスイッチ当接部18より外側にそれぞれ、前記緊急停止装置19が当接する緊急停止装置当接部20を設けるのが好ましい(
図2参照。)。これによって、万が一、前記リミットスイッチ17がリミットスイッチ当接部18を乗り越えて外側に移動したときでも、前記緊急停止装置19が前記緊急停止装置当接部20に当接して、移動架台10の移動が完全に停止できるようになる。
【0031】
更に、前記散水装置1の前方及び後方に物体や人を感知できる感知装置(図示せず)を設けることで、散水装置1を自動的に停止する機能を備えるようにしてもよい。
【0032】
図2に示されるように、前記移動架台10には、前記ギヤードモータ16や後段で詳述する散水用の給水ポンプ34などの動力用ケーブル21が接続されている。この動力用ケーブル21は、移動架台10の移動に連動して、自動で延伸と巻取りを行う自動リール22に巻回するのが好ましい。これにより、動力用ケーブル21が弛みなく配線され、動力用ケーブル21が絡まって移動架台10の移動が停止したり、動力用ケーブル21が断線したりするのが防止できる。
【0033】
前記移動架台100の門型フレーム12の内部空間は、ダンプカーやコンクリートミキサー車、ショベルカーなどのトンネル施工機械が通孔可能な空間部となっている。
【0034】
前記移動架台10のアーチ形フレーム13には、
図3に示されるように、トンネル周方向のトンネル肩部に対応する部分にトンネル軸方向に貫通して、トンネルの換気用風管5が通過可能な切欠部23が設けられるようにするのが好ましい。特に、
図3に示されるように、トンネルの換気用風管5がアーチ形フレーム13の内側に配設され、前記切欠部23が換気用風管5を吊り下げる吊り下げボルトを通過できる幅で形成されるようにするのが望ましい。これにより、切欠部23の幅を小さくでき、散水設備11による散水を隙間なく行うことができるようになる。
【0035】
前記アーチ形フレーム13の内側には、防水を兼ねた養生用シート24が配設されている。前記養生シート24は、前記アーチ形フレーム13から突出して設けられた散水設備11にまで達しないアーチ形フレーム13の本体部分のほぼ全面に配設されている。前記養生用シート24を設けることにより、移動方向の前方側に設けられた散水設備11からの散水後すぐに、噴霧されたミストが養生用シート24で覆われるため、覆工コンクリート14面を高湿度の状態に保持できるようになる。このような散水後すぐに養生用シート24で覆われる効果を確実に機能させるため、散水装置1の走行方向の前側及び後側のそれぞれに設けられた散水設備11,11のうち、走行方向の前側に設けられた散水設備11のみから散水を行い、後側に設けられた散水設備11から散水しないようにしてもよい。前記養生用シート24は、前記アーチ形フレーム13の切欠部23において、不連続的に設けてもよいし、換気用風管5を迂回して連続的に設けてもよい。
【0036】
次に、前記散水設備11について説明する。
【0037】
前記散水設備11は、覆工コンクリート4の表面からトンネル内側に離隔した位置に、トンネル周方向に沿って配置される給水管30と、この給水管30に沿って所定の間隔で複数配置されるとともに、覆工コンクリート4の表面に向けて散水する散水ノズル31、31…とを備えている。この散水設備11は、移動架台10の移動方向の両端部又はいずれか一方の端部、図示例では移動方向の両端部に備えられている。
【0038】
前記給水管30は、
図2及び
図3に示されるように、前記アーチ形フレーム13の散水装置走行方向の両端部又はいずれか一方の端部に設けられ、前記アーチ形フレーム13に沿うとともに、前記アーチ形フレーム13より散水装置1の走行方向の外側に突出した位置に配設されている。前記給水管30は、前記アーチ形フレーム13の切欠部23において、不連続的に設けても良いし、換気用風管5を迂回し連続的に設けても良い。
【0039】
前記給水管30に対して、所定の間隔で複数の散水ノズル31、31…が設けられている。前記散水ノズル31は、
図6に示されるように、前記給水管30に対して連結管30aを介して設けられ、ノズルの先端から前記給水管30を通じて供給された水を霧状に噴出する。前記散水設備11による散水は、散水装置1の走行方向の前側及び後側のそれぞれで行われるか、或いはいずれか一方で行われる。前記散水ノズルの噴射水量は、0.01〜1リットル/分、特に0.1〜0.3リットル/分とするのが好ましく、噴射角度は60〜120°程度とするのが好ましい。
【0040】
前記散水ノズル31の配置間隔は、給水管30に沿って10〜100cm、特に30〜70cmとするのが好ましい。散水装置1の前側及び後側にそれぞれ散水設備11を設ける場合、前側及び後側に設けられる散水ノズル31は、散水装置1の前側及び後側で同じ位置に配置してもよいが、半ピッチずつずらして配置することにより、覆工コンクリート4の表面への散水が万遍なくできるようにするのが好ましい。
【0041】
図2及び
図3に示されるように、前記移動架台10には、散水用の水を貯留するタンク33と、前記タンク33の水を給水管30に供給する給水ポンプ34とが備えられ、前記タンクに貯留された水が前記給水ポンプ34によって前記給水管30を通じて圧送され、各散水ノズル31から噴霧状に散水される。
【0042】
前記散水ノズル31には、
図6及び
図7に示されるように、噴霧水を正又は負に帯電させた帯電噴霧水とするために、ノズルの噴出部近傍に、具体的にはノズル噴出を挟む両側にそれぞれ帯電用電極32,32が配設されている。そして、給水管30を通じて供給された水を覆工コンクリート4の表面に向けて散水する際に、前記帯電用電極32,32に高電圧の電流を流すことにより、前記散水ノズル31から噴霧される水粒子に、正(プラス)又は負(マイナス)のいずれかの電荷を帯電させ、帯電水粒子を生成させるようにしている。
【0043】
前記帯電用電極32としては、前記散水ノズル31から噴出させる水粒子を帯電させることができれば任意の形状のものを用いることができるが、図示例では前記給水管30とほぼ平行して配設された2本の棒状電極を用いている。前記帯電用電極32は、散水ノズル31の噴出口の近傍の両側に2条配置するようにするのがよい。前記帯電用電極32を正に通電することにより負の電荷を帯電させた帯電水粒子を生成することができ、前記帯電用電極32を負に通電することにより正の電荷を帯電させた帯電水粒子を生成することができる。前記帯電用電極32は、
図6に示されるように、給水管30(又は移動架台10)に固定するのが好ましい。
【0044】
前記帯電用電極32の材質としては、銅、銅合金、ステンレスなどの一般的に用いられる材質のものを広く採用することができるが、錆びにくいステンレスを用いるのが好ましい。また、帯電用電極32の形状としては、円形断面からなる棒状のものを用いるのが好ましく、直径が2〜20mm、特に8〜12mm程度のものを用いるのが好ましい。前記帯電用電極32は、前記アーチ形フレーム13の切欠部23において、不連続的に設けてもよいし、換気用風管5を迂回して連続的に設けてもよい。
【0045】
前記散水ノズル31から噴霧する水粒子に対して負又は正の電荷を与えることにより、
図7に示されるように、電荷を与えない場合の噴霧面積の直径がφ1だとすると、各帯電水粒子の反発力によって噴霧面積の直径をφ2(>φ1)とすることができ、噴霧した水粒子に電荷を与えることにより噴霧面積が拡大でき、ミスト噴霧の効率化を図ることができるようになる。
【0046】
噴霧面積の拡大の効果は、各帯電水粒子の反発力によって生じるため、水粒子に与える電荷は正又は負のいずれであってもよいが、この際、噴霧される水粒子を覆工コンクリート4の表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によってコンクリート表面への付着力を向上させるとより好ましい。
【0047】
前記覆工コンクリート4の表面は、通常はCa
2+、Na
+、K
+ Ma
2+などの陽イオンの存在によってプラス側に帯電している。従って、噴霧する水粒子をマイナス側に帯電させて噴霧するようにすると、コンクリート表面と噴霧水粒子との間にクローン引力が作用して、水粒子がコンクリート面に吸着されるようになるため、噴霧した水のコンクリート面への付着効率が向上する。
【0048】
なお、通常のコンクリートの表面は、コンクリート中の金属元素の陽イオンの影響によりプラス側に帯電していると思われるが、既往の文献(「高炉スラグ微粉末を用いた改質ビーライト系セメントコンクリートの塩分浸透に及ぼす諸要因の影響」吉田行、田口史雄等 コンクリート工学年次論文集Vol.26,No.1,2004)によれば、高炉スラグ微粉末を用いたセメント硬化の細孔表面は、マイナス側に帯電することが報告されているため、噴霧水に電荷を与える場合には、コンクリート表面の電位を表面電位計(例えば、株式会社コガネイ、非接触型ハンディー表面電位計DTY-KVS11)などにより計測した上で、覆工コンクリートの表面電位と逆側の電荷を噴霧水に与えるようにするのが望ましい。
【0049】
本散水装置1には、前記ギヤードモータ16や前記給水ポンプ34の運転制御などを行う制御盤35が備えられている。この制御盤35は、さらに後述する判定手段などを備え、散水装置1の運転制御を行っている。
【0050】
本散水装置1の運転制御は、
図8に示されるように、まず最初に覆工コンクリート4の表面がプラス側に帯電しているのか、或いはマイナス側に帯電しているかを計測する。覆工コンクリート4の表面電位計測結果に基づいて、前記帯電用電極32の通電状態を切り換える。例えば、前記覆工コンクリート4が正電荷を帯びている場合は、この電荷とは逆の負電荷を帯電させた噴霧水を散水するようにし、前記覆工コンクリート4が負電荷を帯びている場合は、この電荷とは逆の正電荷を帯電させた噴霧水を散水するようにする。
【0051】
散水装置1の稼働か停止の判定は、覆工コンクリート4表面の湿度を計測する湿度計(図示せず)の計測結果に応じて、覆工コンクリート4表面の湿度が所定の閾値を超えた場合、覆工コンクリート4の湿潤養生のため本散水装置1を稼働する。一方、覆工コンクリート4表面の湿度が所定の閾値以下の場合には、本散水装置1の運転を停止するようにしてもよい。前記閾値は例えば相対湿度85%RH程度に設定するのが好ましい。
〔他の形態例〕
(1)上記形態例では、帯電用電極32を外部に露出した状態で配置するようにしたが、漏電及び感電防止のために帯電用電極32を露出しないように配置することも可能である。例えば、
図9に示されるように、散水ノズル31の先端部分に対して、合成樹脂やゴムなどの絶縁材料によって構成された電極保持部材37を取り付ける。前記電極保持部材37は、
図10に示されるように、ノズル先端部分の周囲を囲むように筒状を成し、その内周面に帯電用電極38、38が配設されているものである。前記帯電用電極38に対する電力の供給は、給水管30に沿って電力ケーブル36を配設し、この電力線36から分岐された電線36aから供給されるようになっている。前記電力ケーブル36は供給管30に対して適宜の間隔で配置された結束バンド39によって固定されている。
(2)上記形態例では、山岳トンネルにおける覆工コンクリートの湿潤養生を例に採り本発明を説明したが、本発明に係る湿潤養生方法は、カルバート、アンダーパスなどの地下構造物に対しても同様に適用が可能である。
【実施例】
【0052】
以下、本発明に従って散水ノズルから噴霧されるミストを帯電させた場合の噴霧面積の拡大効果と、噴霧水をコンクリートの表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によるコンクリート表面への付着力向上効果についての検証実験について説明する。実験は、養生面に対して垂直に噴霧水を吹き付ける<垂直噴霧試験>と、養生面に対して平行に噴霧水を吹き付ける<平行噴霧試験>の2つの実験を行い、水滴の付着量の大小によってそれらの効果を検証した。以下に、その試験要領と試験結果について詳述する。
<垂直噴霧試験>
図11に示されるように、吹付けノズルとして、株式会社いけうち製の二流体ノズル(BIMV80075S303+TS303)を使用し、垂直壁面に感水試験紙:縦76mm×横52mm(地色が黄色で水分が付着すると濃青色に変色する。)を張り付け、1500mm離れた位置(データNo.1)と、1000mm離れた位置(データNo.2)とからそれぞれ感水試験紙に向けて、水圧:0.1MPa、空気圧:0.1MPaの条件の下で、30秒間噴霧を行った。
【0053】
試験は、ノズル先端近傍に帯電用電極を配設しておき、帯電無し、プラス帯電、マイナス帯電の3ケースについて行い、感水試験紙の色が変化した面積を算出し比較を行った。面積の比較は、感水試験紙をスキャニングし、専用ソフトを用いて色の変化した部分の面積を算出し、全面積に対する面積比率(被水面積率%)とした。なお、前記感水試験紙は、表面電位計による計測によるとマイナス側に帯電している状態であった。
【0054】
試験結果を同
図11に示す。データNo.1(1500mm)では、プラス帯電及びマイナス帯電の両ケースは、帯電無しのケースに比較して、被水面積率が若干大きくなっており、帯電した場合には、帯電水粒子の反発力によって噴霧面積が拡大していることが判明した。
【0055】
また、プラス帯電とマイナス帯電との比較では、マイナス帯電に対するプラス帯電の割合は111.9%であり、噴霧される水粒子を感水試験紙(マイナス帯電)の表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によって表面への付着力が向上していることが判明した。
【0056】
データNo.2(1000mm)のケースにおいても、プラス帯電及びマイナス帯電の両ケースは、帯電無しのケースに比較して、被水面積率が若干大きくなっており、帯電した場合には、帯電水粒子の反発力によって噴霧面積の拡大が図れることが判明しているが、プラス帯電とマイナス帯電とのケースの比較では、噴霧した水がほとんどが感水試験紙に届く結果となり、有意差は出なかった。
<平行噴霧試験>
図12に示されるように、吹付けノズルとして、株式会社いけうち製の二流体ノズル(BIMV80075S303+TS303)を使用し、垂直壁面に感水試験紙:縦76mm×横52mm(地色が黄色で水分が付着すると濃青色に変色する。)を張り付け、壁面から水平方向に400mm離れた位置(データNo.3)と、200mm離れた位置(データNo.4)との直上位置(感水試験紙の中心から300mm上方)から下向きに向けて、水圧:0.1MPa、空気圧:0.1MPaの条件の下で、30秒間噴霧を行った。
【0057】
試験は、ノズル先端近傍に帯電用電極を配設しておき、帯電無し、プラス帯電、マイナス帯電の3ケースについて行い、感水試験紙の色が変化した面積を算出し比較を行った。面積の比較は、感水試験紙をスキャニングし、専用ソフトを用いて色の変化した部分の面積を算出し、全面積に対する面積比率(被水面積率%)とした。なお、前記感水試験紙は、表面電位計による計測によるとマイナス側に帯電している状態であった。
【0058】
試験結果を同
図12に示す。データNo.3(400mm)では、帯電無しのケースでは感水試験紙は濡れることがなかったが、プラス帯電のケースは被水面積率が3.804%となり、マイナス帯電のケースは被水面積率が2.379%となり、帯電した場合には、帯電水粒子の反発力によって噴霧面積が拡大していることが判明した。
【0059】
また、プラス帯電とマイナス帯電との比較では、マイナス帯電に対するプラス帯電の割合は159.9%であり、噴霧される水粒子を感水試験紙(マイナス帯電)の表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によって表面への付着力が向上していることが判明した。
【0060】
データNo.4(200mm)のケースにおいても、帯電無しのケースでは感水試験紙はほとんど濡れることがなかったが、プラス帯電のケースは被水面積率が90.04%となり、マイナス帯電のケースは被水面積率が79.748%となり、プラス、マイナスのいずれでも帯電した場合には、帯電水粒子の反発力によって噴霧面積が拡大していることが判明した。
【0061】
また、プラス帯電とマイナス帯電との比較では、マイナス帯電に対するプラス帯電の割合は112.9%であり、噴霧される水粒子を感水試験紙(マイナス帯電)の表面電荷と反対側の電荷に帯電させることにより、クーロン引力によって表面への付着力が向上していることが判明した。