【解決手段】鍔部(21)とテーパ外周部(20)を有するスピンドル(2)を非接触で支持する静圧流体軸受装置は、外周にねじ溝(33)を形成し鍔部の一方の面を非接触で支持する第1スラスト軸受部(3)と、外周に第1スラスト軸受部のねじ溝よりも大きなねじピッチ(P2)のねじ溝(43)を形成し鍔部の他方の面を非接触で支持する第2スラスト軸受部(4)と、テーパ外周部を非接触で支持するラジアル軸受部(5)と、ラジアル軸受部を固定し、第1スラスト軸受部のねじ溝に螺合する第1ねじ溝(63)と第2スラスト軸受部のねじ溝に螺合する第2ねじ溝(64)が内周にそれぞれ形成されているハウジング(6)と、第1スラスト軸受部に対する第2スラスト軸受部の回転を規制する回転規制部(9)と、を備える。
前記テーパ外周部と前記テーパ内周部の間の距離と、第1スラスト軸受部の前記他端側の面と前記鍔部の前記一端側の面の間の距離と、第2スラスト軸受部の前記一端側の面と前記鍔部の前記他端側の面の間の距離と、が同じである、請求項1の静圧流体軸受装置。
【背景技術】
【0002】
静圧流体軸受装置は、回転するスピンドルを流体によって非接触で支持する。スピンドルに掛かるスラスト荷重とラジアル荷重の負荷を支持する静圧流体軸受装置は、例えば、特許文献1および特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1の静圧流体軸受は、回転軸に鍔部とテーパ部とが形成されている。テーパ部は、鍔部の両側に形成されている。スラスト荷重は、鍔部の両側に配置されているスラスト荷重ブッシュから供給される流体によって支持されている。ラジアル荷重は、各テーパ部にそれぞれ対面するラジアル荷重ブッシュから供給される流体によって支持されている。スラスト荷重ブッシュは、スラスト隙間調整ライナを挟んでハウジングに収容されている。ラジアル荷重ブッシュは、ラジアル隙間調整ライナを挟んでスラスト荷重ブッシュに収容されている。回転軸は、ラジアル荷重ブッシュに収容されている。鍔部とスラスト荷重ブッシュの間の隙間の距離は、スラスト隙間調整ライナの大きさによって決まる。テーパ部とラジアル荷重ブッシュの間の隙間の距離は、ラジアル隙間調整ライナの大きさによって決まる。スラスト隙間調整ライナおよびラジアル隙間調整ライナは、装置を組み立てる際にそれぞれ必要な大きさのものが適宜選択されている。
【0004】
特許文献2の静圧型流体軸受装置は、主軸のテーパ外周部に対面する可動スリーブから供給される流体によって主軸のラジアル荷重を支持している。可動スリーブは、主軸の軸方向に移動することができる。テーパ外周部と可動スリーブの間の隙間の距離は、可動スリーブを移動させることで可変することができる。主軸のラジアル荷重が大きい場合に主軸の剛性を一時的に高めるために、テーパ外周部と可動スリーブの間の隙間の距離を短くする。主軸のラジアル荷重が小さい場合に主軸の発熱を抑えるために、テーパ外周部と可動スリーブの間の隙間の距離を長くする。主軸のスラスト荷重は、流体によって支持されている。流体は、主軸のスラスト受圧フランジの一方の側に固定されているブッシュと他方の側に固定されている位置決め部材のそれぞれから供給されている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図を用いて本発明の実施の形態に係る静圧流体軸受装置について詳細に説明する。
図1は、スラスト荷重側の隙間の距離およびラジアル荷重側の隙間の距離が大きいときの本発明の第1の実施形態に係る静圧流体軸受装置の概略を示す正面断面図である。
図2は、スラスト荷重側の隙間の距離およびラジアル荷重側の隙間の距離が小さいときの本発明の第1の実施形態に係る静圧流体軸受装置の概略を示す正面断面図である。
図3は、スラスト荷重側の隙間の距離およびラジアル荷重側の隙間の距離が大きいときの本発明の第2の実施形態に係る静圧流体軸受装置の概略を示す正面断面図である。
図4は、スラスト荷重側の隙間の距離およびラジアル荷重側の隙間の距離が小さいときの本発明の第2の実施形態に係る静圧流体軸受装置の概略を示す正面断面図である。
図5は、スラスト荷重側の隙間の距離およびラジアル荷重側の隙間の距離が大きいときの本発明の第3の実施形態に係る静圧流体軸受装置の概略を示す正面断面図である。なお、各図に示されている構成部材およびそれらの間の空間は、寸法および形状が説明のために一部強調されて示されている。
図1、
図2および
図5は、スピンドルの一端側をスピンドルの先端側とし、スピンドルの他端側をスピンドルの基端側とする場合の例を示す。
図3および
図4は、スピンドルの一端側をスピンドルの基端側とし、スピンドルの他端側をスピンドルの先端側とする場合の例を示す。スピンドルの前進は、スピンドルが先端側に向って移動する場合を示す。スピンドルの後退は、スピンドルが基端側に向って移動する場合を示す。
【0014】
スピンドル2は、ハウジング6の中で軸周りに回転しかつハウジング6の中で軸方向に前後に移動する。スピンドル2は、先端側に工具7が取り付けられている。工具7は、スピンドル2と一緒に回転しかつスピンドル2と一緒に前後に移動する。スピンドル2は、基端側にスピンドル回転駆動装置8の回転ロッド80が接続されている。スピンドル回転駆動装置8は、スピンドル2を回転させる。スピンドル回転駆動装置8は、電動式モータに限定されず、エアスピンドルなど各種方式の回転駆動装置を採用することができる。
【0015】
スピンドル2は、例えば、基端側に回転ロッド80を挿入する取り付け穴24が形成されている。スピンドル2は、取り付け穴24の内周にキー部材25を備えている。回転ロッド80は、取り付け穴に挿入する部分の外周にスピンドル2の軸方向にキー部材25を案内する案内溝81が形成されている。キー部材25と案内溝81は、一方でスピンドル2が回転ロッド80に対して相対的に軸方向に前後に移動することを許容し、他方でスピンドル2が回転ロッド80に対して相対的に回転することを規制している。スピンドル2は、回転ロッド80に対して軸方向に前後に移動できる。スピンドル2は、回転ロッド80と一緒に回転できる。
【0016】
スピンドル2は、外周の一部に鍔部21が形成されている。例えば
図1の第1の実施の形態に示すように、スピンドル2は、胴部の外周に鍔形状の鍔部21が形成されている。
【0017】
スピンドル2は、外周の一部にテーパ外周部20が形成されている。スピンドル2は、例えば、先端側の外周に先端側から基端側に向って外径が漸増するテーパ形状のテーパ外周部20が形成されている。テーパ外周部20は、外径が最小の部分を上面とし、外径が最大の部分を下面とする円錐台の形状に形成されている。テーパ外周部20のテーパ比Tは、下面の外径d2と上面の外径d1の差を高さhで除算して求められる(T=(d2−d1)/h)。テーパ外周部20のテーパ比Tは、1/50〜1/10であるとよい。
【0018】
静圧流体軸受装置1は、ハウジング6の中でスピンドル2を支持する。静圧流体軸受装置1は、主に第1スラスト軸受部3と第2スラスト軸受部4によって、スピンドル2のスラスト方向の荷重を非接触で静圧軸受けする。静圧流体軸受装置1は、主にラジアル軸受部5によってスピンドル2のラジアル方向の荷重を非接触で静圧軸受けする。
【0019】
第1スラスト軸受部3は、ハウジング6の中に収容されている。第1スラスト軸受部3は、円筒形状または円環形状である。第1スラスト軸受部3は、スピンドル2の鍔部21の外径よりも小さい内径の内孔の中に隙間をあけてスピンドル2の軸部が貫通する。第1スラスト軸受部3の基端側の面30は、鍔部21の先端側の面22に隙間S1をあけて対面する。第1スラスト軸受部3の基端側の面30と鍔部21の先端側の面22は、平行している。第1スラスト軸受部3の基端側の面30と鍔部21の先端側の面22の間の隙間S1の距離は、第1スラスト軸受部3の基端側の面30と鍔部21の先端側の面22の両方に対して垂直な方向の距離である。
【0020】
第1スラスト軸受部3は、例えば
図1に示すように、内孔の先端側に鍔部21の外径よりも小さい内径の小内径部35が形成されて、内孔の基端側に鍔部21の外径よりも大きな内径の大内径部36が形成されてもよい。このとき第1スラスト軸受部3の基端側の面30は、内孔の小内径部35と内孔の大内径部36の間の段差で形成される面である。
【0021】
第1スラスト軸受部3の基端側の面30は、鍔部21の先端側の面22に向って流体を噴出する少なくとも1つの流体噴出口31が形成されている。流体噴出口31は、第1スラスト軸受部3の中に形成されている流体供給配管32に接続されている。流体供給配管32は、例えば、第1スラスト軸受部3の外周に形成されている円環形状の溝など、必要な形状の配管を必要に応じて組み合わせて形成されている。流体供給配管32は、ハウジング6の外周に開口する流体供給口61に接続されている。流体供給口61は、図示省略される流体供給装置に接続されている。流体供給装置は、流体を供給する。流体は、例えば、エアであるとよい。
【0022】
第1スラスト軸受部は、内孔の大内径部36の中の流体をハウジング6の外に排出するための流体排出配管38を形成してもよい。流体排出配管38は、ハウジング6の外周面に開口する流体排出口65に接続されている。
【0023】
第1スラスト軸受部3は、外周の一部にねじ溝33が形成されている。第1スラスト軸受部3のねじ溝33は、ハウジング6の内周の一部に形成されている第1ねじ溝63に螺合する。
【0024】
第1スラスト軸受部3は、例えば
図1に示すように、内孔の基端側に大内径部36が形成されている。大内径部36は、第2スラスト軸受部4の一部を挿入する。第1スラスト軸受部3は、内孔の大内径部36に案内溝34が形成されている。案内溝34は、第2スラスト軸受部4のキー部材44をスピンドル2の軸方向に案内する。キー部材44と案内溝34は、後述される回転規制部9の一例である。
【0025】
第2スラスト軸受部4は、ハウジング6の中に収容されている。第2スラスト軸受部4は、円筒形状または円環形状である。第2スラスト軸受部4は、スピンドル2の鍔部21の外径よりも小さい内径の内孔の中に隙間をあけてスピンドル2の軸部が貫通する。第2スラスト軸受部4の先端側の面40は、鍔部21の基端側の面23に隙間S2をあけて対面する。第2スラスト軸受部4の先端側の面40と鍔部21の基端側の面23は、平行している。第2スラスト軸受部4の先端側の面40と鍔部21の基端側の面23の間の隙間S2の距離は、第2スラスト軸受部4の先端側の面40と鍔部21の基端側の面23の両方に対して垂直な方向の距離である。
【0026】
第2スラスト軸受部4は、例えば
図1に示すように、外周の先端側に小外径部45が形成されて、外周の基端側に小外径部45よりも大きな外径の大外径部46が形成されてもよい。小外径部45は、第1スラスト軸受部3の内孔の大内径部36に挿入される。このとき第2スラスト軸受部4の先端側の面40は、小外径部45の先端側の面である。
【0027】
第2スラスト軸受部4の先端側の面40は、鍔部21の基端側の面23に向って流体を噴出する少なくとも1つの流体噴出口41が形成されている。流体噴出口41は、第2スラスト軸受部4の中に形成されている流体供給配管52に接続されている。流体供給配管42は、例えば第2スラスト軸受部4の外周に形成されている円環形状の溝など、必要な形状の配管を必要に応じて組み合せて形成されている。流体供給配管42は、ハウジング6の外周に開口する流体供給口62に接続されている。流体供給口62は、流体供給口61と同じあるいは異なる図示省略の流体供給装置に接続されている。
【0028】
第2スラスト軸受部4は、外周の一部にねじ溝43が形成されている。第2スラスト軸受部4は、例えば
図1に示すように、大外径部46の外周の一部にねじ溝43が形成されている。第2スラスト軸受部4のねじ溝43は、ハウジング6の内周の一部に形成されている第2ねじ溝64に螺合する。
【0029】
第2スラスト軸受部4は、例えば
図1に示すように、外周の先端側に小外径部45が形成されている。小外径部45は、第1スラスト軸受部の内孔に挿入される。第2スラスト軸受部4は、外周の小外径部45に、第1スラスト軸受部3の案内溝34にスピンドル2の軸方向に案内されるキー部材44が固定されている。キー部材44と案内溝34は、回転規制部9の一例である。回転規制部9は、第2スラスト軸受部4に対して相対的に第1スラスト軸受部3がスピンドル2の軸方向に前後に移動することを許容し、第2スラスト軸受部4に対して相対的に第1スラスト軸受部3が回転することを規制することができれば各種方法および各種機構を採用することができる。第1スラスト軸受部3は、第2スラスト軸受部4に対してスピンドル2の軸方向に前後に移動できる。第1スラスト軸受部3は、第2スラスト軸受部4と一緒に回転できる。
【0030】
第2スラスト軸受部4は、外周の一部に歯形47が形成されている。第2スラスト軸受部4の歯形47は、スラスト軸受部回転駆動装置10の駆動軸の歯形に歯合する。スラスト軸受部回転駆動装置10は、第2スラスト軸受部4を回転させる。回転する第2スラスト軸受部4は、回転規制部9によって第1スラスト軸受部3を回転させる。
【0031】
スラスト軸受部回転駆動装置10は、後述される
図5に示すように歯形37を外周の一部に形成した第1スラスト軸受部3を歯車等の回転伝動部を介して回転させてもよい。第1スラスト軸受部3は、回転規制部9によって第2スラスト軸受部4を回転させてもよい。スラスト軸受部回転駆動装置10は、電動式モータに限定されず、流体式モータや人力による回転駆動機構部などの各種方式の回転駆動装置を採用することができる。スラスト軸受部回転駆動装置10は、制御部11によって制御されてもよい。
【0032】
ラジアル軸受部5は、ハウジング6の中に固定されている。ラジアル軸受部5は、円筒形状または円環形状である。ラジアル軸受部5は、内孔の中に隙間S3をあけてスピンドル2のテーパ外周部20を貫通させる。ラジアル軸受部5の内孔は、内周に先端側から基端側に向って内径が漸増するテーパ形状のテーパ内周部50が形成されている。テーパ内周部50は、スピンドル2のテーパ外周部20に対面する。ラジアル軸受部5のテーパ内周部50とスピンドル2のテーパ外周部20は、平行している。ラジアル軸受部5のテーパ内周部50とスピンドル2のテーパ外周部20の間の隙間S3の距離は、ラジアル軸受部5のテーパ内周部50とスピンドル2のテーパ外周部20の両方に対して垂直な方向の距離である。テーパ内周部50のテーパ比は、テーパ外周部20のテーパ比Tと同じであるとよい。
【0033】
ラジアル軸受部5のテーパ内周部50は、テーパ外周部20に向って流体を噴出する少なくとも1つの流体噴出口51が形成されている。流体噴出口51は、ラジアル軸受部5の中に形成されている流体供給配管52に接続されている。流体供給配管52は、例えば円環形状の配管など、必要な形状の配管を必要に応じて組み合わせて形成されている。流体供給配管52は、ハウジング6の外周に開口する流体供給口60に接続されている。流体供給口60は、流体供給口61および流体供給口62と同じあるいは異なる図示省略の流体供給装置に接続されている。
【0034】
ハウジング6は、例えば、円筒形状である。ハウジング6は、内孔にスピンドル2、第1スラスト軸受部3、第2スラスト軸受部4、およびラジアル軸受部5を収容する。ハウジング6は、内部の流体供給配管32、42、52に外部から流体を供給するための流体供給口60、61、62が外周に形成されている。流体供給口60、61、62は、図示省略されている流体供給装置に接続されている。ハウジング6は、内部の流体を外部に排出するための流体排出口65、66が外周に形成されている。流体排出口65は、例えば
図1に示すように、流体排出配管38に接続するようにしてもよい。流体排出配管38は、第1スラスト軸受部3を貫通するように形成されている。ハウジング6は、適宜に流体排出口を外周に形成するとよい。
【0035】
ハウジング6は、内周の一部に第1ねじ溝63と第2ねじ溝64が形成されている。第1ねじ溝63は、第1スラスト軸受部3のねじ溝33に螺合する。第1ねじ溝63と第1スラスト軸受部3のねじ溝33は、同じねじピッチP1である。第2ねじ溝64は、第2スラスト軸受部4のねじ溝43に螺合する。第2ねじ溝64と第2スラスト軸受部4のねじ溝43は、同じねじピッチP2である。
【0036】
図1および
図2に示す第1の実施の形態における静圧流体軸受装置1は、スピンドル2の一端側を先端側とし、スピンドルの他端側を基端側としている。スピンドル2のテーパ外周部20のテーパ形状は、先端側から基端側に向って外径が漸増している。第1スラスト軸受部3の基端側の面30は、鍔部21の先端側の面22に対向している。第2スラスト軸受部4の先端側の面40は、鍔部21の基端側の面23に対向している。第2ねじ溝64のねじピッチP2は、第1ねじ溝のねじピッチP1よりも大きく形成されている(P2>P1)。
【0037】
第2スラスト軸受部4は、スラスト軸受部回転駆動装置10によって所定の回転方向に所定の回転数Rだけ回転し、先端側に向って所定の距離L2(=P2・R)を前進する。第1スラスト軸受部3は、回転規制部9によって第2スラスト軸受部4と同じ回転方向に同じ回転数Rだけ回転し、先端側に向って所定の距離L1(=P1・R)を前進する。第2スラスト軸受部4が前進する距離L2は、第1スラスト軸受部3が前進する距離L1よりも大きい(L2>L1)。
【0038】
第1スラスト軸受部3の基端側の面30と鍔部21の先端側の面22の間の隙間S1第2スラスト軸受部4が前進した距離L2から第1スラスト軸受部3が前進した距離L1を差し引いた距離の2分の1の距離ΔL(=(L2−L1)/2=R・(P2−P1)/2)だけ小さくなる。また、第2スラスト軸受部4の先端側の面40と鍔部21の基端側の面23の間の隙間S2も前述の距離ΔLだけ小さくなる。静圧流体軸受装置1は、隙間S1と隙間S2が小さくなるとスラスト荷重に対する大きな剛性を得ることができる。
【0039】
スピンドル2は、第1スラスト軸受部3と第2スラスト軸受部4によって非接触で支持されているので、第1スラスト軸受部3と第2スラスト軸受部4と一緒に前進する。スピンドル2は、第1スラスト軸受部3が前進した距離L1に前述の距離ΔLを加えた距離L3(=L1+ΔL)あるいは第2スラスト軸受部4が前進した距離L2から前述の距離ΔLを減じた距離L3(=L2−ΔL)だけ前進する。ラジアル軸受部5のテーパ内周部50とスピンドル2のテーパ外周部20は、スピンドル2が前進する方向に対してどちらも傾いている。テーパ内周部50とテーパ外周部20の間の隙間S3は、テーパ外周部20のテーパ比Tとスピンドル2が前進する距離L3に基づき算出される距離だけ小さくなる。一般的に隙間S1と隙間S2と隙間S3の大きさは、同じであることが好まれる。スピンドル2を前進させたあとの隙間S3は、隙間S1と隙間S2と同じように前述の距離ΔLだけ小さくなるようにするとよい。静圧流体軸受装置1は、隙間S3が小さくなるとラジアル荷重に対する大きな剛性を得ることができる。
【0040】
隙間S1と隙間S2と隙間S3は、同じ距離であるとよい。スピンドル2を移動させた際の隙間S1と隙間S2と隙間S3は、それぞれ同じ距離ΔLだけ増減するようにするとよい。第1ねじ溝63のねじピッチP1と第2ねじ溝64のねじピッチP2は、スピンドル2を移動させた際に隙間S1と隙間S2と隙間S3の距離がそれぞれ同じ距離ΔLだけ増減するように形成されるとよい。このときの第1ねじ溝63のねじピッチP1と第2ねじ溝64のねじピッチP2の関係は、以下の式(1)の通りである。
【数1】
【0041】
例えば、テーパ比T=1/50、第1ねじ溝63のねじピッチP1=1.000(mm)であれば、第2ねじ溝64のねじピッチP2は、1.020(mm)である。また例えば、テーパ比T=1/10、第1ねじ溝63のねじピッチP1=1.000(mm)であれば、第2ねじ溝64のねじピッチP2は、1.105(mm)である。
【0042】
図3および
図4に示す第2の実施の形態のように、静圧流体軸受装置1は、スピンドル102の一端側を基端側とし、スピンドル2の他端側を先端側としてもよい。スピンドル102のテーパ外周部120のテーパ形状は、基端側から先端側に向って外径が漸増している。ラジアル軸受部105のテーパ内周部150のテーパ形状は、基端側から先端側に向って外径が漸増している。第1スラスト軸受部103の先端側の面130は、鍔部121の基端側の面123に対向している。第1スラスト軸受部103は、外周の一部にねじ溝133が形成されている。第2スラスト軸受部104の基端側の面140は、鍔部121の先端側の面122に対向している。第2スラスト軸受部104は、外周の一部にねじ溝143が形成されている。ハウジング6は、内周の一部に第1ねじ溝163と第2ねじ溝164が形成されている。第2スラスト軸受部104のねじ溝143に螺合する第2ねじ溝164のねじピッチP102は、第1スラスト軸受部103のねじ溝133に螺合する第1ねじ溝163のねじピッチP101よりも大きく形成されている(P102>P101)。
【0043】
第1スラスト軸受部103と第2スラスト軸受部104は、所定の回転方向に所定の回転数rだけ回転し、基端側に向って後退する。第2スラスト軸受部104が後退する距離L102(=r・P102)は、第1スラスト軸受部103が後退する距離L101(=r・P101)よりも大きい(L102>L101)。スピンドル102は、第1スラスト軸受部103と第2スラスト軸受部104によって非接触で支持されているので、第1スラスト軸受部103と第2スラスト軸受部104と一緒に後退する。スピンドル102は、第1スラスト軸受部103が後退する距離L101と第2スラスト軸受部104が後退する距離L102に基づき算出される距離L103(=L101+((L102−L101)/2)=L102−((L102−L101)/2))だけ後退する。その他、前述の実施形態と同様の構成は、説明を省略する。
【0044】
本発明の静圧流体軸受装置1は、小型でかつ構成が簡単でありながら、スラスト荷重側の隙間S1、S2の距離およびラジアル荷重側の隙間S3の距離の両方を容易に調整可能である。したがって、本発明の静圧流体軸受装置1は、多種多様な加工に対応して、一方で、加工負荷が小さくかつスピンドル2が高速回転している場合において、高速回転によって軸受から発生する大きな摩擦熱を下げるためにスピンドル2を移動させて各隙間S1、S2、S3の距離をそれぞれ大きくし、他方で、加工負荷が大きくかつスピンドル2が低速回転している場合において、高い加工負荷に抗する大きな剛性を保持するためにスピンドル2を移動させて各隙間S1、S2、S3の距離をそれぞれ小さくすることを容易に切り換えることができる。
【0045】
また
図5に示す第3の実施の形態のように、本発明の静圧流体軸受装置1は、スピンドル2にテーパ外周部20,20を2つ以上形成し、それぞれのテーパ外周部を非接触で支持するラジアル軸受部5,5を2つ以上備えてもよい。2つ以上のラジアル軸受部5,5のそれぞれの隙間S3,S3は、同じ距離であるとよい。2つ以上のラジアル軸受部5,5は、さらに大きなラジアル荷重を支持することを可能にする。その他、前述の実施形態と同様の構成は、説明を省略する。
【0046】
以上説明した本発明は、この発明の精神および必須の特徴的事項から逸脱することなく他のいろいろな形態で実施することができる。したがって、本明細書に記載した実施例は例示的なものであり、これに限定して解釈されるべきものではない。