【実施例】
【0056】
以下に実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0057】
まず、典型例であるRh−Ti触媒に解離吸着したプロトンへの光励起電子の結合性の良さを確認するため、反応条件を模した、Rh−Ti触媒とRh−Si触媒システムの局所密度近似に基づく局所密度汎関数理論による第一原理量子分子動力学と電子構造計算を行い比較した。
【0058】
計算モデル:
比較を容易にするため、TiとSiが表面にドープされたRh金属スラブ(190Rh,1Ti,1Si原子)で構成され、反応物質分子はメタン2分子と水4分子が用いられた(
図2)。詳細は以下のとおりである。
【0059】
格子定数3.803Å(オングストローム、1オングストロームは0.1nm、以下同じ)の面心立方格子のRh金属結晶(無機結晶構造データベース、ICSDcode650222)が、4a(15.212Å)×4a×3a(11.409Å)のサイズで切り出され、4a×4a×24Åのサイズのシミュレーションセルの底部に設置された。その(001)表面のRh原子の内二つのRh原子が、TiとSiに置換された。
そして、メタン2分子と水分子4個が、望まれない不均衡をさけるためそれぞれの分子同士の距離や、分子とRhスラブ表面の距離が適度な距離を保つようにして、シミュレーションセルの空間(厚み約14Å)に置かれた。結局、シミュレーションセル中に含まれるRh,Ti,Si,C,O,そして,Hの原子数はそれぞれ、190,1,1,2,4,16であった。
【0060】
計算手法詳細:
第一原理量子分子動力学シミュレーションはスピン自由度をもつカー・パリネロ法(CPMD)でなされ、Becke−Lee−Yang−Parr(BLYP)にちなむ一般化された勾配補正が施された交換相関ポテンシャルが用いられている。Rh、Ti、Si、C、O、及び、Hの価電子とコアの相互作用は、ノルム保存型のTroullier−Martins(TM)擬ポテンシャルによってモデル化されている。Rhの5s、4d、Tiの4s、3d、Siの3s、3p、Cの2s、2p、Oの2s、2p、Hの1s電子が価電子として扱われ、Rhの5p、Siの3dポテンシャルも計算に勘案されている。RhとTiについては非線形コア補正された擬ポテンシャルが用いられている。計算では、波動関数は、カットオフ値80Ryのエネルギーまでの平面波基底セットで展開され、ブリルアンサンプリングはΓ点のみである。仮想電子質量は1200原子ユニット、逐次計算ステップ幅は5.0原子ユニット時間として計算し、各保存量は良好に制御された。
【0061】
247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを
図3と
図4に示す。メタン分子は247℃で表面で自然解離した。電子構造の性質では重要成分だけを表示している。実線で示されているように、−6.2eVまで電子が占有されている。占有状態と非占有状態の両方が主にRh4d軌道成分で構成されている。
【0062】
非占有状態のTi3d成分と、この解離吸着による吸着物の非占有状態のH1s成分について調べると、非占有Ti3dバンドは−5.0eV〜−3.0eVのエネルギー領域に位置しており、Rh基金属スラブ上に吸着したH由来の非占有H1s成分はちょうどそのTi3dバンドの付近に位置しているのである。したがって、Rh4d軌道の電子は、可視光照射で、励起され非占有4d、5s、あるいは、5p軌道に励起されることができ、同時に非占有Ti3dあるいは非占有H1s軌道にも励起されることを示している。このことはTi3d軌道成分が光励起された電子を解離吸着したプロトンに移動することに大きく寄与していることを意味する。また、この計算結果は、触媒中のTiの濃度が大変小さい(原子数比で1/192)にも関わらず、Ti3d成分が大きく(エネルギー範囲−5EeVから−3eVまでで、最大約0.15)、エネルギー軸におけるそのバンド位置はH1s非占有バンドの位置とよく合っていることを示していて(
図3、図中の黒く帯状に示され、バンドの表示が白く反転している部分)、少量でもその効果が高いことを示唆している。ところが、Si3sとSi3pの成分はそれぞれ0.01、0.025より小さく、このことは光励起された電子がSiを介して解離吸着したプロトンに移動することはほとんどできないことを意味している(
図4)。したがって、Siをドープすることは、表面吸着プロトンの還元(水素の生成)に対して効果は小さい。
【0063】
上記と同様の方法により確かめた本発明の他の実施形態に係る触媒について説明する。
図5は、Rhに対して、高濃度(具体的には原子%として13%)でTiをドープした場合の247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Ti3d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なり(図中、黒く帯状に示した部分)から、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。しかしながら、
図3と比較すると、
図5はH1s成分が小さく、重なる領域がより狭い。したがって、高濃度にドープすることは必ずしも好ましくないことが分かる。
【0064】
図6は、Rhに対して、Hfを0.5原子%の濃度でドープした場合の247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Hf5d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なり(図中、黒く帯状に示した部分)から、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0065】
図7は、Rhに対して、Taを0.5原子%の濃度でドープした場合の247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Ta5d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0066】
図8は、Rhに対して、Moを0.5原子%の濃度でドープした場合の247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Mo4d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0067】
図9は、Rhに対して、Wを0.5原子%の濃度でドープした場合の247℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有W5d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0068】
図10は、Niに対して、Tiを0.8原子%の濃度でドープした場合の400℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Ti3d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0069】
図11は、Coに対して、Tiを0.8原子%の濃度でドープした場合の400℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Ti3d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0070】
図12は、Cuに対して、Tiを0.9原子%の濃度でドープした場合の400℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。非占有Ti3d軌道バンドと、非占有H1s軌道バンドとの重なりから、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0071】
図13は、Rhに対して、Coを0.5原子%の濃度でドープした場合の400℃における平衡状態での電子構造のスナップショットを示した。図中、破線は占有最高準位を示している。バンドに重複する領域がほとんどなく、所望の効果が得られないことがわかる(比較例)。
【0072】
上記は、M2金属のd軌道の例を挙げたが、f軌道でも同様の効果が期待できる。Rh−Ce触媒、Rh−Pr触媒、Rh−Tb触媒、のそれぞれにプロトンが吸着した場合の概念図を
図14に示す。非占有準位のH1s軌道成分のバンドとの重なり(図中、黒く帯状に示された部分)から、Rh−Pr触媒が可視域での活性が期待できる。
上記のf電子をもつ希土類元素をドープされた金属触媒の電子構造も第一原理で計算されているが、その具体的な手法は原子球近似を用いたリニアマフィンティン軌道法(LMTO−ASA)によるものである。f電子軌道に関するバンドのエネルギー位置はまず、希土類元素をドープされた金属(例えばRh)のバルクにおける電子構造を求め、そのf電子軌道の状態密度プロファイルとその系の占有最高準位(Aとする)を得る。次に、CPMD法により求めた原子配置状態(例えばRh金属スラブにプロトン等が吸着した状態)のコーンシャム方程式を解いて得られた電子構造とその系の占有最高準位(Bとする)を得る。AとBが一致するように両者の電子構造を並べることで、近似的に各構成原子軌道由来のバンド位置(4f軌道のエネルギー位置と吸着プロトン由来のバンド位置等)を比較することが可能となり、好適な触媒を見つけることができる。
【0073】
図15は、Rh−Ho触媒、Rh−Yb触媒、のそれぞれにプロトンが吸着した場合の電子構造の概念図である。いずれの場合も、非占有準位のH1s軌道成分のバンドと4f電子軌道のバンドが重ならないため、もともとのRhを大きく超える高活性は期待できないことがわかる。
【0074】
図16は、Cu−Ce触媒にプロトンが吸着した場合の電子構造の概念図である。非占有準位のH1s軌道成分のバンドと4f電子軌道のバンドに重なり(図中、黒く帯状に示した部分)があるため、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0075】
図17は、Ni−Ce触媒にプロトンが吸着した場合の電子構造の概念図である。非占有準位のH1s軌道成分のバンドと4f電子軌道のバンドに重なり(図中、黒く帯状に示した部分)があるため、光による反応促進効果がより増強されることがわかる。
【0076】
以上は、第2金属元素がドープされた第1材料による触媒単体に関するもので、その反応促進効果は、第2金属元素の非占有d軌道あるいは非占有f軌道成分と触媒に解離吸着したプロトンの非占有H1s軌道成分の重なり(カップリング、混成)に起因するものであった。別の形態として、触媒に加え、触媒とそれを担持する担体との協働作用(触媒担持担体を用いた形態)により更に反応促進効果を高める例について説明する。
【0077】
図18は、最高酸化数の金属イオンで構成される酸化物でできた担体に、第1材料に第2金属原子がドープされた触媒を担持させた場合の、触媒と担体の複合体(触媒担持担体)の電子構造の概念図である。破線は占有最高準位。担体の伝導帯の底(CBM)より少し下に占有最高準位Xが位置する場合であってXが、CBMより下にあり、かつ、CBMより300meV低い位置Yより高い位置にある場合。熱励起により担体にもキャリアが現れる。VBMは担体の占有準位(価電子帯)の最高値を表す。
なお、18−Aは、第1材料の電子構造、18−Bはドープされた第2金属原子の電子構造成分、18−Cは金属酸化物担体の電子構造を表し、CBMは、非占有準位(伝導帯)最小値、VBMは占有準位(価電子帯)最高値を表す。
【0078】
図19は、最高酸化数の金属酸化物の表面に酸素欠損を設けた担体(最高酸化数未満の金属イオンを含む金属酸化物)に、第1材料に第2金属原子がドープされた触媒を担持させた場合の触媒と担体の複合体(触媒担持担体)の電子構造の概念図である。破線は占有最高準位。酸素欠損量を調整し、占有最高準位Xを、担体の伝導帯の底(CBM)より少し上に位置させた場合。熱励起なしでも担体にもキャリアが存在する。そのため金属に似ているが、イオン結合物質としての性質もあるため、担体表面では、極性分子を静電気的な電界で引きつけることができる。
なお、19−Aは第1金属原子を含有する第1材料の電子構造、19−Bは第1材料にドープされた第2金属原子の電子構造、19−Cは触媒に吸着したプロトンのH1s成分、19−Dは最高酸化数の金属酸化物と酸素欠損を有する金属酸化物とを含有する担体の電子構造を表す。CBMは、非占有準位(伝導帯)最小値、VBMは占有準位(価電子帯)最高値を表す。
【0079】
具体的に、酸素欠損のないTiO
2担体にTiドープRh金属触媒を担持している物質の電子構造を
図20に示す。破線は占有最高準位X。Xが、CBMより下にあり、かつ、CBMより300meV低い位置Yより高い位置にあることがわかる。熱励起により担体にもキャリアが現れ、反応促進効果が期待できる。(実施例)
【0080】
図20の計算は次のように行われた。まず、アナターゼ型TiO
2の(101)面にRh金属を接触させ全体の温度を数百度以上に設定してTiとRhに拡散を起させ、TiO
2担体表面にTiドープされたRh金属状態を作ることで、Rh−Ti触媒を担持したTiO
2担体のスラブモデルをシミュレーションセル内に作る。次に、メタン分子、水分子をそのスラブ上の少し離れた位置に配置し、実際の反応温度に設定して暫く分子を運動させ、反応分子が一部吸着した状態で、その温度における全系の平衡状態を得る。しかる後に、その一コマの電子構造の詳細を計算し、
図20を得た。
【0081】
更に、先に用いたシミュレーションモデルの酸化チタン表面の酸素原子の一部を取り去り、TiO
2−δ担体にTiドープのRh金属触媒を担持させた複合体(触媒担持担体)に反応分子の一部が吸着した熱平衡状態を得る。同様にその一コマの電子構造の詳細を計算する。
【0082】
その複合体(触媒担持担体)の電子構造を
図21に示す。破線は占有最高準位。占有最高準位Xが、担体の伝導帯の底(CBM)より少し上に位置しており、熱励起なしでも担体にもキャリアが存在する。そのため金属に似ているが、イオン結合物質としての性質もあるため、担体表面では、極性分子を静電気的な電界で引きつけることができ、解離吸着を促進できる。つまりこの系では、光励起された電子は、TiドープのRh金属触媒上に吸着したプロトンや、担体に吸着したプロトンの両方を還元し、その相乗効果のために高い水素生成能力を有する触媒担持担体となる。(実施例)
【0083】
一方、酸素欠損のないSiO
2担体にSiドープRh金属触媒を担持し、反応分子の一部が複合体に吸着した状態の電子構造ついても前述同様の計算手続きで求められた。
図22にその全系の電子構造を示す。破線は占有最高準位X。XがCBMよりずっと低い位置にあるため、通常の熱励起では、担体にキャリアを存在させることができない。担体物質がプロトンの還元に寄与することはできず、また、SiドープRh金属触媒におけるSiのプロトンの還元促進作用もほとんどないため、SiドープRh金属触媒に解離吸着したプロトンのみをRh金属のみの触媒作用で還元することになり、その効率は低いものになるということが容易に推測される。(比較例)
【0084】
図21と
図22の理論予測は実験でも確認できる。
【0085】
有機化合物の分解:
実施例
フルウチ化学市販品CuWO
4粉末(CUC−26222A、99.9%、−200mesh(粒径<75μm))をアルゴン希釈の水素雰囲気中で400℃1時間、還元処理して粒子表面に酸素欠損を作ったCuWO
4−δ担体自体を触媒として、有機化合物であるイソプロピルアルコール(IPA)と空気(酸素だけでもよい)の混合ガスを可視光照射(>420nm)で分解した。
【0086】
IPA分解に関するCuWO
4−δ担体自体の触媒活性に関する評価は、可視光照射対応可能な手製の石英窓付反応容器(高さ約4cm、直径約13cm)で常温常圧で測定された(
図23)。典型例では、3〜4mgのCuWO
4ーδ担体が反応容器内に設置された試料用シャーレに均一に分散された。その後、反応容器は乾燥空気で数分フラッシングし、容器内を乾燥空気で満たして密封した。
【0087】
続いて、IPAガスをシリンジを使って約190〜200ppm程度の濃度になるようにセルに注入し、その後、光を照射。光照射による温度上昇をさけるため、反応容器の温度は水冷装置により室温に保った。生成された炭酸ガスは、定期的にシリンジにてサンプリングし、熱電動式検出器と火炎イオン化検出器を装備したガスクロマトグラフで定量測定された。
なお、
図23において、230は反応容器、231は触媒、232は石英窓、233はIPA、及び、乾燥空気を満たした空間、234はサンプリング用シリコンゴム栓、235はサンプリング用シリンジを表す。
【0088】
Xeランプが光源として使用された。L42フィルタが紫外光(λ<420nm)を取り除くために使用された。
上記測定手法によるCO
2生成量の時間変化を
図24に示す。この測定では、初期IPA濃度189ppm、触媒量0.50g。1時間当たりのCO
2生成量は約3.4ppm/hであった。
【0089】
比較例
同様に、フルウチ化学市販品CuWO
4粉末を空気中で400℃、1時間加熱した、特に酸素欠損を導入しないCuWO
4 担体自体を触媒として、有機化合物であるイソプロピルアルコール(IPA)と乾燥空気の混合ガスに可視光(>420nm)を照射し、IPAを分解した。初期濃度198ppm、触媒量0.40gであった。上記同様の測定方法によって得られたCO
2生成速度を
図25に示す。
図24における測定条件との僅かな違いは補正してある。1時間当たりのCO
2生成量は約0.46ppm/hであった。
酸素欠損を導入した場合に比べ、CO
2生成速度は数分の1以下であることが分かる。
【0090】
水素の生成:
【0091】
材料:塩化ロジウム(III)水和物(RhCl
3・3H
2O)はシグマアルドリッチ社から供給されている。TiO
2(AEROXIDE TiO
2 P25, Lot No. 614041498)はEvonik−Degussa社から購入した。
【0092】
触媒の調製:全ての触媒は、含浸法により調製された。
まず、1gのTiO
2がRhCl
3・3H
2O水溶液(2.43、4.86、7.29、9.72、14.58、と、24.23mM)20mLに加えられた。
次に、1時間の撹拌後、上記試料は60℃で乾燥され、400℃で2時間焼成された。昇温速度は毎分5度であった。
その後、試料はすり潰され、水素雰囲気で400℃で1時間還元処理された。昇温速度は毎分5度であった。
【0093】
上記の様にして、TiO
2−δを担体として、上記担体に担持されたTiがドープされたRh粒子(本発明の実施形態に係る触媒に該当する。以下、「TiO
2−δ担体担持Rh−Ti触媒」ともいう。)が得られた。
得られたTiO
2−δ担体担持Rh−Ti触媒は、製造工程におけるTiO
2原料重量に対するRh重量に応じて、x%Rh−Ti(x=0.5〜5重量%)と命名した。
また、2%Rh−M2という「2重量%」という表現は、それぞれ相応する担体担持された、異種元素(第2金属原子M2)ドープされたRh触媒、に対して上記同様の方法で作成した触媒を意味する。すなわち、本明細書では、特に明言しない限り、2%Rh−M2とは、原料の担体(TiO
2等)の質量に対してRhを原料重量比として2重量%添加して作製した触媒であることを表す。
ここでは、TiO
2を担体原料とし、それに含まれるTiをRh金属にドープしているが、例えば、TiO
2を担体原料とし、Rh金属にTiの他更に別の金属(M3)をドープしたい場合は、RhCl
3・3H
2O水溶液にM3を含む水溶液をまぜ、同様に含浸法で製造することにより、M3もRh金属にドープさせることができる場合もある。
【0094】
なお、上記濃度の定義は、触媒の製造時に原料として投入したRhの質量を原料である担体(酸化チタン等)の質量に対する割合で表示したもので、ドープ量を示していない。すなわち、仕込み原料としての担体質量に対する、Rhの仕込み原料の質量の比を示している。
【0095】
触媒活性測定:水蒸気メタン改質による水素生成触媒活性に関する評価は、可視光照射対応可能な手製の石英窓付底固定フロータイプの反応容器(高さ3cm、直径8.5cm)で常圧で測定された。典型例では、20mgの触媒担持担体が反応セル内に均一に分散された。その後、反応セルは純水なArガスで2時間フラッシングし、セル内の空気を取り除いた。
続いて、触媒はまず400℃で2時間還元性のガス、CH
4(10%)とH
2O蒸気(3%)の混合ガスを毎分10mL流して活性化された。その後、活性化された触媒は所望の反応温度まで冷却され、安定した触媒性能に到達した。全ての生成物は、熱電動式検出器と火炎イオン化検出器を装備したガスクロマトグラフで定量測定された。
LA−251 Xeランプが光源として使用された。HA30フィルタとL42フィルタが赤外光と紫外光(λ<420nm)を取り除くためそれぞれ使用された。温度は反応容器下の熱電対で検出され、光照射による加熱効果を軽減するため、TC−1000温度制御装置(JASCO)で制御された。
【0096】
触媒特性:TiO
2担持x%Rh−Ti(xは触媒を製造過程におけるRhの重量%、x=0.5〜5)触媒は含浸法により準備され、400℃、1時間の水素還元処理が施された(この工程でTiO
2−δが形成されるが、触媒反応中も還元雰囲気にさらされるため、δの値は製造直後の値と触媒反応中の値とが同じとは限らない。)。X線回折(XRD)測定の結果、全ての試料が、担体であるTiO
2がアナターゼ相とルチル相でできていることを示していた。
【0097】
2%Rh−Ti触媒の透過型電子顕微鏡(TEM)像(
図26)から、触媒が、平均粒径約2.5nmの酸化チタン表面上に均一に分散していることが判明した。なお、
図26において、Aで示した領域は、TiO
2−δ担体粒子に対応しており、Bで示した領域は、Rh−Ti触媒に対応している。
【0098】
触媒活性の光増強効果:水蒸気メタン改質による水素生成速度の測定は、石英窓付の底部固定反応容器を使い、常圧下、可視光(420〜800nm、580mW/cm
−2)照射のもとで行われた(
図27)。
なお、
図27中、271は反応容器を示し、272は石英窓を示し、273は触媒担持担体を示す。
【0099】
図28は、TiO
2−δ担体担持Rh−Ti触媒における、水素生成速度のRh担持量の依存度を示す(260℃で観測)。黒が光照射しない場合を示し、白が光照射した場合である。いずれも、Rh仕込み量が、0.5重量%から2.0重量%に増えるにつれ、水素生成速度は増加するが、2.0重量%から5.0重量%の範囲ではその増加は緩やかであった。
【0100】
上記の結果から、酸化チタン担体をRh金属が活性化しているが、一定量以上のRhでその活性化は飽和することが示唆される。一方Rh−Ti触媒はその量が増えるほど反応は促進されるはずであるが、もともとTiO
2−δ担体の活性が高いため、Rh−Tiの増加の効果が見えにくく、飽和したように見えるものと推測される。
【0101】
光照射時、水素生成量は、(光照射のない)純粋な熱触媒作用のそれの、およそ3倍に増加していることが分かる。この、Rh−Ti触媒に関する水素生成速度の可視光照射増強効果は再現性があった。測定温度範囲220℃から300℃でも同様の測定を行ったが、水素生成速度は、暗反応条件のそれより常に高かった。この反応促進効果は、CO
2とCO生成でも観測された。(副反応としての水ガスシフト反応(CO+H
2O−>H
2+CO
2)が存在する。しかしながら、CO
2が主要生成物である。)また、反応ガス(CH
4)のガス流量を増やすと、それに応じて、反応速度もまた改善された。
【0102】
一方、可視光照射のもとでの反応速度を達成しようとすると、光なしの純粋な熱的反応条件では温度を20〜30℃高める必要があることが分かった。つまり、同じ水素生成速度を得ようとする場合、Rh−Ti触媒を利用して、可視光照射すれば、より低温で、SMR反応が実現できることが分かった。また、Rh−Ti触媒は暗反応と明反応の条件で優れた触媒安定性を示していた。
【0103】
同様の方法で、酸化ケイ素(SiO
2、Wako Co.から購入した。)、酸化ジルコニウム(ZrO
2、Wako Co.から購入した。)、酸化タンタル(Ta
2O
3、Wako Co.から購入した。)を担体原料とした系についても検討を行った。Si、Zr、及びTaがドープされたRh触媒(Rh仕込原料重量比として2%))、すなわち、2%Rh−Si、2%Rh−Zr、2%Rh−Ta、をそれぞれ担持させ、同様の反応方法、同様の測定方法で水素生成速度を観測した。その結果を表1に示す。2%Rh−Si、2%Rh−Zrの粒子の平均サイズは、3〜4nmである。
【0104】
【表1】
【0105】
なお、表1中、2%Rh−Tiの、2%とは、Rhの原料と担体も含む全原料重量に対するRhの原料の質量比を意味する。
また、2%Rh−Tiにおいて、母体Rh金属に微量に含まれるTiの実際の量は、Rh原子数に対し概ね2〜5原子%程度と推定される。
【0106】
L/Dの値から担体がSiO
2のとき最も照光射の影響が少ない。これはRhにドープされたSi原子の反応促進能力が小さく、触媒機能が殆どRh金属単独の作用で果たされているためと考えられる。
【0107】
一方、Rh−TaやRh−Zr触媒は、Ta5dやZr4dの非占有状態の軌道成分がプロトンの還元反応を促進していると考えられる。
しかしながら、以上3者はともに担体自体は触媒機能に殆ど寄与していないと考えられる。
【0108】
高い位置に伝導帯を有するSiO
2、ZrO
2、Ta
2O
5は光励起された電子のRhからそれらの伝導帯への遷移を抑える。そのため、担体側では仮に解離吸着によるプロトンが存在してもそのプロトンに光励起電子を結合させることができないため、担体はプロトン還元(水素生成)に関し不活性となったものと推定される。
【0109】
ところが、酸化チタン担体にRh−Tiを担持させた系では、Rh−Ti触媒中のTi3d非占有状態の軌道成分によるプロトン還元反応の促進効果のみならず、担体が酸素欠損によりTiO
2−δ状態(TiO
2担体のごく表面近くの領域において概ね8%程度の酸素欠損と推測される。)となり、Rh−Ti触媒より遥かに大きな表面積をもつTiO
2−δ担体自体も吸着プロトンの還元作用を促進する(主に酸素欠損が原因で、その担体の伝導帯に多数電子キャリア存在するため)こととなり、水素生成速度が他者をより遥かに大きくなったと考えられる。