【解決手段】溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間Tu中はベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuを通電し、ピーク期間Tp中はピーク電流Ipを通電し、立下り期間Tk中はピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikを通電し、ベース期間Tb中はベース電流Ibを通電し、これらの溶接電流Iwの通電を1パルス周期として繰り返し、溶接ワイヤと母材との間の短絡を溶接電源内の出力電圧によって判別して短絡電流Isを通電するパルスアーク溶接制御方法において、溶接ケーブルの往復長が長くなるほど短絡電流Isの上昇率Sを小とする短絡電流制御を行う。
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
前記溶接ワイヤと母材との間の短絡を溶接電源内の出力電圧によって判別して短絡電流を通電するパルスアーク溶接制御方法において、
溶接ケーブルの往復長が長くなるほど前記短絡電流の上昇率を小とする短絡電流制御を行う、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
前記溶接ワイヤと母材との間の短絡を溶接電源内の出力電圧によって判別して短絡電流を通電するパルスアーク溶接制御方法において、
前記短絡電流の上昇率を、前記立下り期間中は前記ベース期間中よりも小とする短絡電流制御を行う、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、従来技術では、パルスアーク溶接において短絡を判別して溶接電流を上昇させる短絡電流制御が行われている。短絡の判別は、溶接トーチに取り付けられた給電チップと母材との間の溶接電圧Vwを検出し、この電圧値が10V程度の短絡判別値以下である期間を短絡期間とすることによって行っている。溶接電源の出力端子のプラス側と溶接トーチとの間及び出力端子のマイナス側と母材との間は、それぞれ溶接ケーブルによって接続されている。短絡の判別を、上記の溶接電圧Vwによって行うと、正確に判別することができる。しかし、溶接電圧Vwを検出するためには、溶接電源の外部に検出線を敷設する必要があり、設置工数が増大する問題がある。さらには、溶接作業中に検出線が何度も引き回されることによって切断し、溶接不能となる問題がある。このために、通常は、短絡の判別に溶接電源内の出力電圧Voを検出して代用している。
【0006】
ここで、溶接電流をIw、往復の溶接ケーブルの抵抗値をR、往復の溶接ケーブルによるインダクタンス値をLとすると、下式が成立する。
Vo=Vw+R・Iw+L・dIw/dt
抵抗値Rは小さな値であり無視することができるので、下式となる。
Vo=Vw+L・dIw/dt …(1)式
溶接ケーブルの往復長が短いときは、インダクタンス値Lは小さくなるので、VoはほぼVwと等しくなり、溶接電源内の出力電圧Voによっても短絡を正確に判別することができる。
【0007】
溶接ケーブルの往復長が長くなると、インダクタンス値Lが大きくなり、L・dIw/dtによる電圧の影響を受けるようになる。上述したように、短絡は、立下り期間又はベース期間中にほとんど発生する。ベース期間中は一定値のベース電流が通電しているので、L・dIw/dt=0となるので、短絡を正確に判別することができる。しかし、立下り期間中は、ピーク電流からベース電流へと急峻に下降する下降遷移電流が通電する。このために、L・dIw/dtは大きな負の値となり、溶接電源内の出力電圧Voは溶接電圧Vwよりも大幅に小さな値となる。この結果、アーク期間であるにも関わらず短絡期間であると誤判別することになる。
【0008】
上記を整理すると、溶接電源内の出力電圧Voによって短絡を判別する場合において、溶接ケーブルの往復長が長いときに、立下り期間中にアーク期間であるにも関わらず短絡期間であるとの誤判別が生じる。誤判別すると、溶接電流が不用意に上昇し、溶接状態が不安定になる。
【0009】
そこで、本発明では、溶接電源内の出力電圧によって短絡の判別を行う場合において、溶接ケーブルの往復長が長いときに、立下り期間中の短絡の誤判別によって溶接状態が不安定になることを抑制することができるパルスアーク溶接制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述した課題を解決するために、請求項1の発明は、
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
前記溶接ワイヤと母材との間の短絡を溶接電源内の出力電圧によって判別して短絡電流を通電するパルスアーク溶接制御方法において、
溶接ケーブルの往復長が長くなるほど前記短絡電流の上昇率を小とする短絡電流制御を行う、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【0011】
請求項2の発明は、
溶接ワイヤを送給すると共に、立上り期間中はベース電流からピーク電流へと上昇する上昇遷移電流を通電し、ピーク期間中は前記ピーク電流を通電し、立下り期間中は前記ピーク電流から前記ベース電流へと下降する下降遷移電流を通電し、ベース期間中は前記ベース電流を通電し、これらの溶接電流の通電を1パルス周期として繰り返し、
前記溶接ワイヤと母材との間の短絡を溶接電源内の出力電圧によって判別して短絡電流を通電するパルスアーク溶接制御方法において、
前記短絡電流の上昇率を、前記立下り期間中は前記ベース期間中よりも小とする短絡電流制御を行う、
ことを特徴とするパルスアーク溶接制御方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、パルスアーク溶接において、溶接電源内の出力電圧によって短絡の判別を行う場合において、溶接ケーブルの往復長が長いときに、立下り期間中の短絡の誤判別によって溶接状態が不安定になることを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
【0015】
[実施の形態1]
実施の形態1の発明は、パルスアーク溶接において、溶接ケーブルの往復長が長くなるほど短絡電流の上昇率を小とする短絡電流制御を行うものである。
【0016】
図1は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。溶接装置は、主に破線で囲まれた溶接電源PS、ロボット制御装置RC、ロボット(図示は省略)等から構成されている。以下、同図を参照して各ブロックについて説明する。
【0017】
溶接電源PSは、以下の各ブロックから構成されている。但し、溶接ワイヤ1を一定速度で送給制御するための回路については省略している。
【0018】
電源主回路MCは、3相200V等の交流商用電源(図示は省略)を入力として、後述する駆動信号Dvに従ってインバータ制御等の出力制御を行い、溶接に適した出力電圧Vo及び溶接電流Iwを出力する。この電源主回路MCは、図示は省略するが、交流商用電源を整流する1次整流回路、整流された直流を平滑するコンデンサ、平滑された直流を駆動信号Dvに従って高周波交流に変換するインバータ回路、高周波交流を溶接に適した電圧値に降圧するインバータトランス、降圧された高周波交流を整流する2次整流回路を備えている。リアクトルWLは、上記の電源主回路MCの+側出力と溶接電源の出力端子のプラス側との間に挿入されており、電源主回路MCの出力を平滑する。
【0019】
溶接ワイヤ1は、ワイヤ送給機(図示は省略)の送給ロール5の回転によって溶接トーチ4内を送給されて、母材2との間にアーク3が発生する。ワイヤ送給機及び溶接トーチ4は、ロボットに搭載されている。溶接トーチ4内の給電チップ(図示は省略)と母材2との間に溶接電圧Vwが印加され、溶接電流Iwが通電する。溶接電源PSの出力端子のプラス側と溶接トーチ4との間及び出力端子のマイナス側と母材2との間は、それぞれ溶接ケーブルによって接続されている。
【0020】
電圧検出回路VDは、溶接電源内の出力電圧Voをを検出して、電圧検出信号Vdを出力する。電圧平均化回路VAVは、この電圧検出信号Vdを平均化(ローパスフィルタを通す)して、電圧平均信号Vavを出力する。
【0021】
電圧設定回路VRは、予め定めた電圧設定信号Vrを出力する。
【0022】
電圧誤差増幅回路EVは、上記の電圧設定信号Vr(+)と上記の電圧平均信号Vav(−)との誤差を増幅して、電圧誤差増幅信号Evを出力する。
【0023】
V/FコンバータVFは、上記の電圧誤差増幅信号Evに応じた周波数で短時間Highレベルになるトリガ信号であるパルス周期信号Tfを出力する。このパルス周期信号Tfが短時間Highレベルになる周期が1パルス周期となる。
【0024】
立上り期間設定回路TURは、予め定めた立上り期間設定信号Turを出力する。ピーク期間設定回路TPRは、予め定めたピーク期間設定信号Tprを出力する。立下り期間設定回路TKRは、予め定めた立下り期間設定信号Tkrを出力する。
【0025】
ピーク電流設定回路IPRは、予め定めたピーク電流設定信号Iprを出力する。ベース電流設定回路IBRは、予め定めたベース電流設定信号Ibrを出力する。
【0026】
電流設定回路IRは、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記の立下り期間設定信号Tkr、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、電流設定信号Irを出力する。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる期間中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと直線状に上昇する電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと直線状に下降する電流設定信号Irを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでの期間中は、ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0027】
短絡判別回路SDは、上記の電圧検出信号Vdを入力として、この値が短絡判別値未満のときは短絡期間であると判別してHighレベルとなり、以上のときはアーク期間であると判別してLowレベルとなる短絡判別信号Sdを出力する。短絡判別値は、10V程度に設定される。
【0028】
溶接ケーブル往復長設定回路CRは、溶接ケーブルの往復長を設定するための溶接ケーブル往復長設定信号Crを出力する。この設定は、溶接電源のフロントパネルに設けられた溶接ケーブル往復長設定ツマミを溶接作業者が手動で設定するようにしても良い。また、溶接ロボットを使用する場合には、ロボット制御装置RCから設定するようにしても良い。溶接ケーブル往復長設定信号Crは、例えば5〜50mの数値データである。
【0029】
上昇率設定回路SRは、上記の溶接ケーブル往復長設定信号Crを入力として、予め定めた算出関数によって上昇率を算出して、上昇率設定信号Srを出力する。算出関数の一例を以下に示す。
Sr=100−Cr
ここで、Crの範囲は5〜50m程度であるので、上昇率設定信号Srの設定範囲は、95〜50(A/ms)となる。すなわち、溶接ケーブル往復長設定信号Crが長くなるほど、上昇率設定信号Srは小さくなる。上記においては、上昇率設定信号Srの値が連続的に変化する場合であるが、階段状に変化するようにしても良い。例えば、Cr≦25のときはSr=95に設定し、Cr>25のときはSr=50に設定するようにしても良い。
【0030】
電流制御設定回路ICRは、上記の電流設定信号Ir、上記の上昇率設定信号Sr及び上記の短絡判別信号Sdを入力として、短絡判別信号SdがLowレベル(アーク期間)のときは電流設定信号Irを電流制御設定信号Icrとして出力し、短絡判別信号SdがHighレベル(短絡期間)のときは、Highレベルに変化した時点における電流設定信号Irの値を初期値として上昇率設定信号Srによって定まる上昇率で増加する電流制御設定信号Icrを出力する。
【0031】
電流検出回路IDは、上記の溶接電流Iwを検出して、電流検出信号Idを出力する。電流誤差増幅回路EIは、上記の電流制御設定信号Icr(+)と上記の電流検出信号Id(−)との誤差を増幅して、電流誤差増幅信号Eiを出力する。駆動回路DVは、この電流誤差増幅信号Ei及び後述するロボット制御装置RCからの起動信号Onを入力として、起動信号OnがHighレベル(溶接開始)のときは電流誤差増幅信号Eiに基いてPWM変調制御を行ない上記の電源主回路MC内のインバータ回路を駆動するための駆動信号Dvを出力し、起動信号OnがLowレベル(溶接停止)のときは駆動信号Dvを出力しない。
【0032】
ロボット制御装置RCは、予め教示された作業プログラムに従ってロボット(図示は省略)を移動させると共に、溶接開始又は溶接停止を指令する起動信号Onを出力する。
【0033】
図2は、本発明の実施の形態1に係るパルスアーク溶接制御方法を示す
図1の溶接装置における電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。同図は、ロボット制御装置からの起動信号OnがHighレベルであり、溶接中の波形である。以下、同図を参照して説明する。
【0034】
同図(B)に示す溶接電圧Vwは、溶接ワイヤと母材との間の電圧(給電チップ・母材間電圧)であり、溶接ケーブルのインダクタンス値Lの影響を受けない電圧値である。同図(C)に示す短絡判別信号Sdは、溶接電源内の出力電圧Voの値によって短絡期間とアーク期間とを判別した信号である。したがって、溶接ケーブルの往復長が長くなりインダクタンス値Lが大きくなると、(1)式で上述したように、立下り期間中にL・dIw/dtによる大きな負の値が重畳して、短絡判別信号Sdの誤判別が発生する。
【0035】
同図は、時刻t1〜t2のパルス周期Tf及び時刻t2〜t3のパルス周期Tfの2周期分の波形を示している。時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいて、立上り期間Tu中は、同図(A)に示すように、ベース電流Ibからピーク電流Ipへと上昇する上昇遷移電流Iuが通電し、同図(B)に示すように、ベース電圧Vbからピーク電圧Vpへと上昇する上昇遷移電圧が溶接ワイヤと母材との間に印加される。続くピーク期間Tp中は、同図(A)に示すように、溶接ワイヤから溶滴を移行させるために臨界値以上の大電流値のピーク電流Ipが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したピーク電圧Vpが印加される。続く立下り期間Tk中は、同図(A)に示すように、ピーク電流Ipからベース電流Ibへと下降する下降遷移電流Ikが通電し、同図(B)に示すように、ピーク電圧Vpからベース電圧Vbへと下降する下降遷移電圧が印加される。続くベース期間Tb中は、同図(A)に示すように、溶滴を形成しないようにするために臨界値未満の小電流値のベース電流Ibが通電し、同図(B)に示すように、アーク長に比例したベース電圧Vbが印加される。時刻t2〜t3のパルス周期Tf中も同様である。各パラメータは、例えば、ピーク電流Ip=450〜550A、ベース電流Ib=30〜70A、ピーク期間Tp=1.0〜1.5ms、立上り期間Tu=0.5〜1.5ms、立下り期間Tk=0.5〜1.5ms程度に設定される。
【0036】
時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいては、立下り期間Tk中の時刻t11において、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化している。しかし、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは短絡判別値以上のアーク電圧値であるので、短絡を誤判別していることになる。溶接電源は、短絡判別信号SdがHighレベルになると、短絡電流制御を開始する。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡電流制御によって時刻t11から上昇する。この短絡電流Isの上昇率Sは、
図1の上昇率設定信号Srによって設定される。時刻t12において、短絡の誤判別が終了すると、短絡判別信号SdはLowレベルに戻る。これに応動して、溶接電流Iwは、
図1の電流設定信号Irによって設定された電流値まで下降する。
【0037】
図1で上述したように、上昇率設定信号Srの値は、溶接ケーブル往復長設定信号Crの値に応じて、予め定めた算出関数によって自動設定される。
図1で例示した算出関数の場合では、溶接ケーブル往復長設定信号Crの値が5〜50mの範囲で設定されると、上昇率設定信号Srの値は95〜50(A/ms)の範囲で変化する。したがって、溶接ケーブル往復長設定信号Crが長くなるほど、上昇率設定信号Srは小さくなる。
【0038】
このように、溶接ケーブル往復長が長くなり、インダクタンス値Lが大きくなり、立下り期間Tk中に短絡の誤判別が生じたときに、短絡電流Isの上昇率Sが溶接ケーブル往復長が短いときよりも小さくなるように制御される。この結果、短絡の誤判別時に短絡電流Isが急峻に上昇して溶接状態が不安定になることを抑制することができる。但し、立下り期間中に短絡が真に発生したときも、短絡電流Isの上昇率Sは小さいままとなる。このことで、スパッタ発生量が少し増加するが、溶接状態が不安定になるよりも溶接品質は良好である。
【0039】
次に、時刻t2〜t3のパルス周期Tfにおいては、ベース期間Tb中の時刻t21において、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化している。このときは、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwも数Vの短絡電圧値となっており、真に短絡が発生している。上述したように、ベース期間Tb中は、L・dIw/dtはほぼ0であるので、溶接電源内の出力電圧Voによって短絡を正確に判別することができる。溶接電源は、短絡判別信号SdがHighレベルになると、短絡電流制御を開始する。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡電流制御によって時刻t21から上昇する。この短絡電流Isの上昇率Sは、時刻t11からの場合と同様である。時刻t12において、短絡が終了してアーク期間になると、短絡判別信号SdはLowレベルに戻る。これに応動して、溶接電流Iwは、
図1の電流設定信号Irによって設定されたベース電流値Ibまで下降する。
【0040】
溶接ケーブル往復長設定信号Crが大きな値に設定されたときに、ベース期間Tb中に短絡が発生すると短絡電流の上昇率が抑制されることになる。このことで、スパッタ発生量が少し増加するが、立下り期間Tk中の短絡誤判別に伴い溶接状態が不安定になるよりも溶接品質は良好である。
【0041】
[実施の形態2]
実施の形態2の発明は、パルスアーク溶接において、溶接電源内の出力電圧によって短絡を判別したときの短絡電流の上昇率を、立下り期間中はベース期間中よりも小とする短絡電流制御を行うものである。
【0042】
図3は、本発明の実施の形態2に係るパルスアーク溶接制御方法を実施するための溶接装置のブロック図である。同図は、上述した
図1と対応しており、同一ブロックには同一符号を付して、それらの説明は繰り返さない。同図は、
図1の電流設定回路IRを第2電流設定回路IR2に置換し、
図1の上昇率設定回路SRを第2上昇率設定回路SR2に置換したものである。以下、同図を参照して、これらのブロックについて説明する。
【0043】
第2電流設定回路IR2は、上記のパルス周期信号Tf、上記の立上り期間設定信号Tur、上記のピーク期間設定信号Tpr、上記の立下り期間設定信号Tkr、上記のピーク電流設定信号Ipr及び上記のベース電流設定信号Ibrを入力として、パルス周期信号Tfが短時間Highレベルに変化するごとに、以下の処理を行ない、電流設定信号Ir及び立下り期間信号Stkを出力する。立下り期間信号Stkは、立下り期間中はHighレベルとなり、その他の期間中はLowレベルとなる信号である。
1)立上り期間設定信号Turによって定まる期間中は、ベース電流設定信号Ibrの値からピーク電流設定信号Iprの値へと直線状に上昇する電流設定信号Irを出力する。
2)続けて、ピーク期間設定信号Tprによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprを電流設定信号Irとして出力する。
3)続けて、立下り期間設定信号Tkrによって定まる期間中は、ピーク電流設定信号Iprの値からベース電流設定信号Ibrの値へと直線状に下降する電流設定信号Irを出力する。この立下り期間中のみHighレベルとなる立下り期間信号Stkを出力する。
4)続けて、パルス周期信号Tfが再び短時間Highレベルになるまでの期間中は、ベース電流設定信号Ibrを電流設定信号Irとして出力する。
【0044】
第2上昇率設定回路SR2は、上記の立下り期間信号Stkを入力として、立下り期間信号StkがLowレベルのときは予め定めた第1上昇率となり、立下り期間信号StkがHighレベルのときは予め定めた第2上昇率となる上昇率設定信号Srを出力する。ここで、第1上昇率は、第2上昇率よりも大きな値である。したがって、短絡電流の上昇率は、立下り期間中はベース期間中よりも小となる。例えば、第1上昇率=95(A/ms)であり、第2上昇率=50(A/ms)である。
【0045】
図4は、本発明の実施の形態2に係るパルスアーク溶接制御方法を示す
図3の溶接装置における電流・電圧波形図である。同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示し、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示し、同図(C)は短絡判別信号Sdの時間変化を示す。同図は、上述した
図2と対応しており、
図2と異なる点について説明する。以下、同図を参照して説明する。
【0046】
時刻t1〜t2のパルス周期Tfにおいては、立下り期間Tk中の時刻t11において、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化している。しかし、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwは短絡判別値以上のアーク電圧値であるので、短絡を誤判別していることになる。溶接電源は、短絡判別信号SdがHighレベルになると、短絡電流制御を開始する。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡電流制御によって時刻t11から上昇する。この短絡電流Isの上昇率Sは、
図3の第2上昇率設定回路SR2から出力される上昇率設定信号Srによって設定される。本期間は、立下り期間Tk中であるので、上昇率設定信号Srは予め定めた第2上昇率となる。この第2上昇率は、ベース期間Tb中の予め定めた第1上昇率よりも小さな値となる。
【0047】
時刻t12において、短絡の誤判別が終了すると、短絡判別信号SdはLowレベルに戻る。これに応動して、溶接電流Iwは、
図1の電流設定信号Irによって設定された電流値まで下降する。
【0048】
このように、溶接ケーブル往復長が長くなり、インダクタンス値Lが大きくなり、立下り期間Tk中に短絡の誤判別が生じたときに、短絡電流Isの上昇率Sがベース期間Tb中に短絡を判別したときよりも小さくなるように制御される。この結果、短絡の誤判別時に短絡電流Isが急峻に上昇して溶接状態が不安定になることを抑制することができる。但し、立下り期間中に短絡が真に発生したとき、及び、溶接ケーブル往復長が短いために短絡を正確に判別したときに、短絡電流の上昇率は小さいままとなる。このことで、スパッタ発生量が少し増加するが、溶接状態が不安定になるよりも溶接品質は良好である。
【0049】
次に、時刻t2〜t3のパルス周期Tfにおいては、ベース期間Tb中の時刻t21において、同図(C)に示すように、短絡判別信号SdがHighレベルに変化している。このときは、同図(B)に示すように、溶接電圧Vwも数Vの短絡電圧値となっており、真に短絡が発生している。上述したように、ベース期間Tb中は、L・dIw/dtはほぼ0であるので、溶接電源内の出力電圧Voによって短絡を正確に判別することができる。溶接電源は、短絡判別信号SdがHighレベルになると、短絡電流制御を開始する。同図(A)に示すように、溶接電流Iwは、短絡電流制御によって時刻t21から上昇する。この短絡電流Isの上昇率Sは、
図3の第2上昇率設定回路SR2からの出力信号である上昇率設定信号Srによって設定される。本期間は、立下り期間Tkではないので、上昇率設定信号Srは第1上昇率となる。この第1上昇率は、立下り期間Tk中の第2上昇率よりも大きな値となる。
【0050】
時刻t12において、短絡が終了してアーク期間になると、短絡判別信号SdはLowレベルに戻る。これに応動して、溶接電流Iwは、
図1の電流設定信号Irによって設定されたベース電流値Ibまで下降する。
【0051】
上述したように、ベース期間Tb中は、溶接ケーブル往復長の長短に関わらず、短絡を正確に判別することができる。このために、ベース期間Tb中の短絡電流の上昇率は、立下り期間Tk中よりも大とすることで、短絡を早期に解除することができるので、スパッタ発生を少なくすることができる。
【0052】
上述した実施の形態1及び2においては、短絡電流Isの上昇率Sを定電流制御によって行っている場合である。これ以外にも、短絡電流Isの上昇率Sを慣用技術である電子リアクトル制御によって行うようにしても良い。