(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-151915(P2020-151915A)
(43)【公開日】2020年9月24日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫金型、タイヤ加硫金型の製造方法及びタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/02 20060101AFI20200828BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20200828BHJP
B29L 30/00 20060101ALN20200828BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-51597(P2019-51597)
(22)【出願日】2019年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】特許業務法人 ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐倉 誠章
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AG28
4F202AH20
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU01
4F202CU02
4F202CU14
4F203AA45
4F203AB03
4F203AG28
4F203AH20
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC01
4F203DL10
(57)【要約】
【課題】ステンシルプレートの傾斜や撓みを抑制できるタイヤ加硫金型を提供する。
【解決手段】タイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接するタイヤ成型面と、前記タイヤ成型面に設けられた装着溝2と、装着溝2に装着され、前記外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部34を有するステンシルプレート3と、装着溝2内の凹部34と干渉しない位置においてステンシルプレート3を支持する嵩上部6Aと、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティにセットされたタイヤの外表面に接するタイヤ成型面と、
前記タイヤ成型面に設けられた装着溝と、
前記装着溝に装着され、前記外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートと、
前記装着溝内の前記凹部と干渉しない位置において前記ステンシルプレートを支持する嵩上部と、を備えるタイヤ加硫金型。
【請求項2】
前記嵩上部は、前記装着溝に取り付けられたスペーサ部材を備える、請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項3】
前記嵩上部は、前記タイヤ成型面と一体形成されている、請求項1に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項4】
前記嵩上部は、前記装着溝の内壁に沿って形成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項5】
前記嵩上部は、前記装着溝の幅方向に対向する一対の内壁を互いに接続するように形成されている部分を含む、請求項1乃至4のいずれか一項に記載のタイヤ加硫金型。
【請求項6】
装着溝を備えたタイヤ加硫金型に、前記装着溝の一部の底面高さを嵩上げするためのスペーサ部材を前記装着溝内に取り付ける取付工程と、
前記スペーサ部材を取り付けた前記装着溝に、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートを装着する装着工程と、を含み、
前記取付工程では、前記スペーサ部材を前記ステンシルプレートの前記凹部と干渉しない位置に取り付ける、タイヤ加硫金型の製造方法。
【請求項7】
タイヤ加硫金型のタイヤ成型面に装着溝を削り出す削出工程と、
前記装着溝に、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートを装着する装着工程と、を含み、
前記削出工程では、前記ステンシルプレートの前記凹部と干渉しない位置に、前記装着溝の一部の底面高さを嵩上げした嵩上部を形成するように前記装着溝を削り出す、タイヤ加硫金型の製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のタイヤ加硫金型、又は、請求項6若しくは7に記載のタイヤ加硫金型の製造方法により製造したタイヤ加硫金型を使用して、タイヤを加硫成型する工程を含む、タイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ成型面にステンシルプレートが装着されたタイヤ加硫金型と、タイヤ加硫金型の製造方法と、これらを使用してタイヤを加硫成型するタイヤの製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤの外表面には、タイヤサイズやロードインデックス、メーカー名、製造年週などを表示した文字や記号からなる識別マークが形成されている。特許文献1〜2に記載されているように、識別マークを形成するために、金属製の薄板からなるステンシルプレート(セリアルプレートとも呼ばれる)が使用されることがある。ステンシルプレートには、識別マークに対応する凹凸がエンボス加工等により形成されている。未加硫タイヤが、タイヤ加硫金型におけるタイヤ成型面の装着溝に装着されたステンシルプレートに押し当てられ、識別マークが、加硫成型後のタイヤ表面に転写によって形成される。
【0003】
従来、識別マーク部分はステンシルプレートの凸部で形成され、識別マーク以外の平坦な部分はステンシルプレートの装着溝の底面に接するように形成されている。凸部を有するステンシルプレートにより、タイヤの外表面に凹状の識別マークが形成される。
【0004】
ところで、近年、識別マークの視認性向上等の理由により、識別マークを凸状にしたタイヤが求められている。タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するには、ステンシルプレートの凹凸を、従来の逆にする必要がある。すなわち、
図8に示すように、識別マーク部分をステンシルプレート3の凹部34で形成し、識別マーク以外の平坦な部分36はステンシルプレート3の装着溝の底面21から浮かせるように形成する必要がある。
【0005】
しかしながら、
図8に示されるタイヤ加硫金型には、次の問題が生じることが判明した。ステンシルプレート3の中央部には、装着溝の底面21に接する識別マーク部分の凹部34が多い一方で、ステンシルプレート3の外縁部は、装着溝の底面21から浮いている識別マーク以外の平坦な部分36のみで構成されている。そのため、ステンシルプレート3が傾斜した状態で装着されたり、ゴムの押圧力によりステンシルプレート3に撓みを生じたりすることがある。そして、ステンシルプレート3に傾斜や撓みがあると、ステンシルプレート3の外縁部とタイヤ成型面1との隙間9が大きくなる。隙間9にゴムが流れ込むと、加硫成型後のタイヤにバリが生じ、隙間9による段差が転写されると、加硫成型後のタイヤにピンチが生じる。バリは、タイヤ表面に余分な被膜が突出形成されたものであり、識別マークの視認性を低下させる原因となる。ピンチは、タイヤの表面に生じる意図しない段差であり、タイヤの外観不良の原因となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−088517号公報
【特許文献2】特開2014−172360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、装着したステンシルプレートの傾斜や撓みを抑制できるタイヤ加硫金型と、当該タイヤ加硫金型の製造方法と、当該タイヤ加硫金型を用いたタイヤの製造方法とを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。すなわち、本発明にかかるタイヤ加硫金型は、キャビティにセットされたタイヤの外表面に接するタイヤ成型面と、
前記タイヤ成型面に設けられた装着溝と、
前記装着溝に装着され、前記外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートと、
前記装着溝内の前記凹部と干渉しない位置において前記ステンシルプレートを支持する嵩上部と、を備える。
【0009】
かかる構成によれば、嵩上部がステンシルプレートの凹部と干渉しないように、該ステンシルプレートを支持するため、ステンシルプレートの傾斜が抑制される。また、ゴムの押圧力によりステンシルプレートが撓みにくい。よって、ステンシルプレートの外縁部とタイヤ成型面との間にゴムの流れ込む隙間が小さくなり、バリの発生を抑制できる。さらに、タイヤ成型面とステンシルプレートとの段差が小さくなり、ピンチの発生を抑制できる。
【0010】
前記嵩上部は、前記装着溝に取り付けられたスペーサ部材を備えてもよいし、前記タイヤ成型面と一体形成されてもよい。
【0011】
前記嵩上部は、前記装着溝の内壁に沿って形成されてもよい。
【0012】
前記嵩上部は、前記装着溝の幅方向に対向する一対の内壁を互いに接続するように形成されている部分を含んでもよい。
【0013】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。すなわち、本発明にかかるタイヤ加硫金型の製造方法は、装着溝を備えたタイヤ加硫金型に、前記装着溝の一部の底面高さを嵩上げするためのスペーサ部材を前記装着溝内に取り付ける取付工程と、
前記スペーサ部材を取り付けた前記装着溝に、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートを装着する装着工程と、を含み、
前記取付工程では、前記スペーサ部材を前記ステンシルプレートの前記凹部と干渉しない位置に取り付ける。
【0014】
さらに、本発明にかかるタイヤ加硫金型の製造方法は、タイヤ加硫金型のタイヤ成型面に装着溝を削り出す削出工程と、
前記装着溝に、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部を有するステンシルプレートを装着する装着工程と、を含み、
前記削出工程では、前記ステンシルプレートの前記凹部と干渉しない位置に、前記装着溝の一部の底面高さを嵩上げした嵩上部を形成するように前記装着溝を削り出す。
【0015】
本発明にかかるタイヤの製造方法は、上記に記載のタイヤ加硫金型、又は、上記に記載のタイヤ加硫金型の製造方法により製造したタイヤ加硫金型を使用して、タイヤを加硫成型する工程を含む。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型の断面図
【
図7】装着溝の第4実施形態を示す、(a)平面図と、(b)(a)におけるY−Y断面図
【
図8】ステンシルプレートが装着された従来のタイヤ加硫金型の問題点を示す図
【発明を実施するための形態】
【0017】
<第1実施形態>
以下、本発明にかかる一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、各図において、図面の寸法比と実際の寸法比とは、必ずしも一致しておらず、また、各図面の間での寸法比も、必ずしも一致していない。
【0018】
図1は、タイヤ子午線断面に沿ったタイヤ加硫金型10(以下、単に「金型10」と呼ぶ場合がある)の断面を示す。この金型10は型閉め状態にある。タイヤTは、タイヤ幅方向を上下に向けてセットされる。
図1において、左方向はタイヤ径方向外側、右方向はタイヤ径方向内側である。
【0019】
金型10は、タイヤTのトレッド部を成型するトレッド型部11と、タイヤTのサイドウォール部を成型する一対のサイド型部12、13と、タイヤTのビード部が嵌合される一対のビードリング14、15とを備える。金型10は、キャビティ16にセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成型面1を備える。タイヤ成型面1は、トレッド型部11の内面、サイド型部12、13の内面、及び、ビードリング14、15の内面を含む。図示を省略しているが、トレッド型部11の内面には、タイヤTのトレッド面にトレッドパターンを形成するための凹凸部が設けられている。
【0020】
トレッド型部11の内面の材料としては、アルミニウム材が例示される。このアルミニウム材は、純アルミ系の材料のみならずアルミニウム合金を含む概念であり、例えばAl−Cu系、Al−Mg系、Al−Mg−Si系、Al−Zn−Mg系、Al−Mn系、Al−Si系が挙げられる。サイド型部12、13の内面及びビードリング14、15の内面の材料としては、一般構造用圧延鋼材(例えばSS400)などの鋼材が例示される。
【0021】
金型10は、キャビティ16にセットされたタイヤTの外表面に接するタイヤ成型面1と、タイヤ成型面1に設けられた装着溝2と、装着溝2に装着され、タイヤTの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部34(
図2,3参照)を有するステンシルプレート3とを備える。装着溝2は、タイヤ成型面1の一部を局所的に窪ませることにより設けられている。本実施形態において、装着溝2は、タイヤ成型面1であるサイド型部12の内面に設けられている。
【0022】
図2は、
図1のX矢視平面図であり、
図1の下側に位置するサイド型部12の内面における、装着溝2に嵌め込まれたステンシルプレート3が示されている。
図2では、左右方向がタイヤ周方向に相当し、上方向がタイヤ径方向外側、下方向がタイヤ径方向内側である。
【0023】
装着溝2及びステンシルプレート3は、タイヤ周方向の長さがタイヤ径方向の幅よりも大きい横長形状を有する。幅W2は、例えば11.3mmである。ステンシルプレート3のタイヤ周方向の長さ及びタイヤ径方向の幅等の寸法は装着溝2の寸法よりも僅かに小さい程度であり、装着溝2とステンシルプレート3との隙間からゴムが入り込まない。
【0024】
装着溝2及びステンシルプレート3の寸法は、識別マークの文字や記号の長さに応じて設定できる。本実施形態において、装着溝2及びステンシルプレート3は、タイヤ周方向に沿って円弧状に湾曲しているが、これに限られず、長手方向LDに直線的に延びた形状でもよい。
【0025】
ステンシルプレート3には、タイヤの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部34が設けられている。本実施形態では、「TT」という文字列からなる識別マークを形成する例を示す。識別マークは、文字に限られず記号などでも構わない。したがって、以降の説明では、識別マークとしての「文字」に言及しているが、これに限られず、当然に「記号」を含んだものであってもよい。
【0026】
ステンシルプレート3における文字形成領域、すなわち、凹部形成領域5(
図2における一点鎖線で示された枠内)は、ステンシルプレート3の寸法サイズよりも小さく、ステンシルプレート3の外縁部と、ステンシルプレート3の両端部にあるねじ4の周辺部とを除く部分に設けられる。凹部形成領域5の幅W5は、例えば、7.6mm以上であるとよく、8.0mm以下であるとよい。幅W5がこの数値範囲にあるとき、7mm程度の文字の大きさ(縦方向長さ)を有する識別マークを形成できる。
【0027】
図3は、ステンシルプレート3の装着された装着溝2の第1実施形態を示す断面を示す。ねじ4を取り付けるための貫通孔33が、ステンシルプレート3の長手方向LDの両端部に設けられている。ねじ4は、貫通孔33を介して装着溝2の底面21にある孔22aの雌ねじに螺着され、ステンシルプレート3が装着溝2に固定される。
【0028】
ステンシルプレート3は、ねじ4を介してタイヤ成型面1に着脱自在に装着される。製造年週を更新するなど識別マークを変更する場合は、タイヤ成型面1からステンシルプレート3を取り外し、異なる識別マークを形成するための凹部が設けられた別のステンシルプレートを装着する。ねじ4の頂面は、タイヤ成型面1と面一に配置されているが、これに限られず、例えば装着溝2の底面21に近付けられていてもよい。
【0029】
ステンシルプレート3は、ステンレスやアルミニウムなどの金属製の板材で形成するとよい。ステンシルプレート3の厚みT3は、加工の容易性等の観点から、例えば、0.6mm以下が好ましい。厚みT3は、ステンシルプレート3に適度な強度を付与するなどの観点から、0.3mm以上が好ましい。
【0030】
ステンシルプレート3は、キャビティ16に対向する正面31と、装着溝2の底面21に対向する背面32と、を有する。加硫成型時には、ステンシルプレート3の正面31にタイヤTの外表面が押し当てられ、転写によって識別マークがタイヤTの外表面に凸状に形成される。正面31は、タイヤ成型面1と面一に配置されていると好ましい。正面31は、転写されたタイヤTのピンチが気にならない程度であれば、タイヤ成型面1との間に段差を有していても構わない。
【0031】
正面31には、タイヤTの外表面に凸状の識別マークを形成するための凹部34が設けられている。凹部34は、例えば、正面31側からのエンボス加工(浮き出し工法)により陥没形成される。背面32には、凹部34に対応した凸部35が設けられている。凸部35は、凹部34を陥没形成したことにより、それに対応して形成されたものである。したがって、凸部35は、ステンシルプレート3の背面32側から凹部34を見たものとなる。凸部35の突出高さH35は、深さD34と実質的に同値になる。突出高さH35は、凸部35でない背面32を基準として求められる。凸部35は、装着溝2の底面21に接するように構成されるとよい。そうすると、突出高さH35は、装着溝2の溝深さD2からステンシルプレート3の厚みT3を減算した値であるとよい。凹部34の深さD34は、例えば、0.6mmに設定されるとよい。装着溝2の溝深さD2は、例えば、1.2mmに設定されるとよい。
【0032】
金型は、さらに、ステンシルプレート3を支持する嵩上部6Aを有する。嵩上部6Aの上面61Aは、装着溝2の底面21よりも高い。すなわち、上面61Aは、装着溝2の底面21よりもタイヤ幅方向内側(キャビティ16側)に位置している。また、上面61Aは、タイヤ成型面1よりも低い。すなわち、上面61Aは、タイヤ成型面1よりもタイヤ幅方向外側に位置している。底面21から上面61Aまでの高さH24は、装着溝の溝深さD2よりも小さい。高さH24は、例えば、0.6mm以上であるとよく、0.9mm以下であるとよい。嵩上部6Aの幅W6は、例えば、1.4mm以上であるとよく、1.8mm以下であるとよい。嵩上部6Aが装着溝2に設けられることで、ステンシルプレート3の背面32が嵩上部6Aの上面61Aに支持される。そうすると、ステンシルプレート3を装着溝2に配置するとき、傾斜や撓みを抑えられ、ステンシルプレート3の外縁部とタイヤ成型面1との隙間が拡大しない。
【0033】
嵩上部6Aは、ステンシルプレート3の凹部34と干渉しない位置に設けられる。言い換えると、嵩上部6Aは、凹部形成領域5の外側に設けられる。嵩上部6Aの高さH24は、突出高さH35と同じ値であるとよい。これにより、ステンシルプレート3を、識別マーク部分と嵩上部6Aとの両方で支持できる。しかしながら、ステンシルプレート3の突出高さH35の製造誤差を考慮して、嵩上部6Aの高さH24は、ステンシルプレート3の突出高さH35より少し大きくしてもよい。また、タイヤ成型面1から嵩上部6Aの上面61Aまでの深さD23は、ステンシルプレート3の厚みT3と同じ値であると好ましい。
【0034】
本実施形態において、嵩上部6Aは、装着溝2にスペーサ部材を取り付ける取付工程により形成されるとよい。スペーサ部材を取り付けて嵩上部6Aを形成する方法は、従来の金型のステンシルプレートの装着溝を活用できるという利点がある。言い換えると、新たな金型の製作や、大掛かりな装着溝の再加工を必要としない。スペーサ部材は、装着溝2の底面21の一部を嵩上げして上面61Aを作り出すことのできる材料であれば、特に限定されないが、ステンレス等の金属製であると好ましい。スペーサ部材の装着溝2への取付方法について、スペーサ部材を溶接により装着溝2に固定すると好ましい。接着剤を使用して固定してもよい。また、スペーサ部材を脱着自在とするため、粘着剤や粘着テープを使用して固定してもよい。スペーサ部材を脱着自在とすることにより、嵩上部を必要としない、タイヤTの外表面に凹状の識別マークを形成するステンシルプレートへの入れ換えが可能となる。
【0035】
スペーサ部材で構成された嵩上部6Aを装着溝2に配置した後で、その装着溝2にステンシルプレート3を装着する装着工程を行う。取付工程では、スペーサ部材をステンシルプレート3の凹部34と干渉しない位置に取り付ける。変形例として、ステンシルプレート3の裏面の所定位置(ステンシルプレート3の裏面の外縁を含む位置)にスペーサ部材を貼り付けて、スペーサ部材付きステンシルプレートを装着溝2に嵌め込んでもよい。
【0036】
図4は、ステンシルプレート及びねじの取り付けられていない装着溝2の平面図である。本実施形態では、嵩上部6Aが装着溝2の内壁24に沿って環状に形成されている。これにより、環状の嵩上部6Aの上面61Aが、ステンシルプレート3の外縁部の全てを背面から支持し得る。したがって、ステンシルプレート3の外縁部の全てにわたって、タイヤ成型面1との隙間が拡大しない。
【0037】
<第2実施形態>
図5を参照しながら第2実施形態を説明する。下に説明する以外の事項は、第1実施形態と同様に実施できる。第3実施形態、第4実施形態についても同様である。
【0038】
図5は、ステンシルプレート3の装着された装着溝2を示す。第2実施形態における嵩上部6Bは、タイヤ成型面1とは別個に形成されたスペーサ部材ではなく、金型の一部として構成される。すなわち、嵩上部6Bは、タイヤ成型面1と一体形成されている。具体的には、例えば、金型のタイヤ成型面1から装着溝2を削り出す削出工程において、ステンシルプレート3の凹部34と干渉しない位置に、装着溝2の一部の底面高さを嵩上げした嵩上部6Bを形成するように装着溝2を削り出すとよい。これによれば、スペーサ部材を配置する必要がないため、例えば、新たな金型を作製するときに有利である。嵩上部6Bの上面61Bの高さや幅等の寸法や形状は、第1実施形態におけるスペーサ部材によって形成された嵩上部6Aの上面61Aと同様である。第2実施形態において、装着溝2は内壁24、25を有する。内壁24は、タイヤ成型面1と嵩上部6Bの上面61Bとの間に形成される。嵩上部6Bは装着溝2の内壁24に沿って形成される。内壁25は嵩上部6Bの側面であり、嵩上部6Bの上面61Bと装着溝2の底面21との間に形成される。
【0039】
<第3実施形態>
図6を参照しながら第3実施形態を説明する。
図6は、ステンシルプレート及びねじの取り付けられていない、装着溝2の平面図である。本実施形態における嵩上部は環状に連続して構成されておらず、装着溝2の内壁24に沿って複数の嵩上部7が配置されている。本実施形態における各嵩上部7は、装着溝2の平面視において三角形状を有している。しかしながら、各嵩上部7の形状は限定されない。
【0040】
本実施形態においても文字形成領域(凹部形成領域)は設定されるが、文字形成領域の内部にも、実際には文字(凹部)の配置されない場所がある。このような場所のうちの一つが、装着溝2の内壁24に沿い、かつ、第1実施形態よりも幅広で、さらに、文字と文字との間に位置する場所である。この場所を各嵩上部7に利用する。これにより、文字形成領域を制限することなく、ステンシルプレート3を支持するために必要な各嵩上部7の上面の面積を確保できる。
【0041】
各嵩上部7は、後に装着されるステンシルプレート3がどのような文字を有していたとしても、当該文字に対応する凹部34に干渉しない位置であることが好ましい。つまり、別の識別マークを有するステンシルプレートに取り換えたとしても、各嵩上部7が凹部34に干渉しないことが好ましい。そのために、異なるステンシルプレートの間で、ステンシルプレートに配置される文字の位置を変更しないように設計しておくとよい。
【0042】
嵩上部7は、スペーサ部材から構成されていてもよく、タイヤ成型面1と一体形成されていてもよい。また、本実施形態の変形例として、嵩上部が、装着溝2の内壁24に沿って環状に形成された部分と、本実施形態の各嵩上部7との両方を備えていてもよい。
【0043】
<第4実施形態>
図7を参照しながら第4実施形態を説明する。
図7(a)は、ステンシルプレート及びねじの取り付けられていない、装着溝2の平面図である。
図7(b)は、
図7(a)において装着溝2の長手方向に延びるY−Y線分での断面図である。本実施形態における嵩上部は、装着溝2の内壁に沿って形成される壁際嵩上部8aと、装着溝の長手方向両端におけるねじ領域嵩上部8bと、文字と文字との間の隙間に形成される文字間嵩上部8cとを含む。壁際嵩上部8aとねじ領域嵩上部8bは、ステンシルプレートの文字形成領域(凹部形成領域)の外側に配置される。文字間嵩上部8cは、文字形成領域の内部ではあるが、実際には文字(凹部)の配置されない場所に配置されている。
【0044】
本実施形態では、孔22bがねじ領域嵩上部8bの中に設けられている。装着溝2の底面21の上部である、ねじ領域嵩上部8bの内部においてもねじ4を支持できるため、ステンシルプレートを安定して固定することができる。各嵩上部8a、8b、8cは、スペーサ部材から構成されていてもよく、タイヤ成型面1と一体形成されていてもよい。また、スペーサ部材及びタイヤ成型面1との一体形成の両方が混在していてもよい。ねじ領域嵩上部8bの中に孔22bを設ける場合は、少なくともねじ領域嵩上部8bは、タイヤ成型面1と一体形成されていることが好ましい。
【0045】
文字間嵩上部8cは、装着溝2の幅方向に対向する一対の壁際嵩上部8aを互いに接続するように形成されている。嵩上部全体の上面の面積が他の実施形態よりも広く、かつ、嵩上部が装着溝2に分散して配置されるため、ステンシルプレートを装着溝に傾斜させることなく適切に装着し易い。また、他の実施形態よりもステンシルプレートの撓みが生じ難い。
【0046】
本発明にかかるタイヤの製造方法は、上記各実施形態のタイヤ加硫金型を使用して、タイヤを加硫成型する工程を含む。また、上記各実施形態は適宜組み合わせたり、適宜変形例を採用したり、一部構成を取捨選択したりできる。
【0047】
本発明は、上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。そして、上述したタイヤ加硫金型を上述の如く構成したこと以外は、通常のタイヤ加硫金型と同等であり、従来公知の形状や材質、機構などがいずれも本発明に採用することができる。
【符号の説明】
【0048】
1 :タイヤ成型面
2 :装着溝
3 :ステンシルプレート
4 :ねじ
5 :凹部形成領域
6、6A、6B、7、8a、8b、8c:嵩上部
10 :タイヤ加硫金型
11 :トレッド型部
16 :キャビティ
21 :(装着溝の)底面
22a、22b:(装着溝の)孔
24、24a、24b:(装着溝の)内壁
34 :(ステンシルプレートの)凹部
35 :(ステンシルプレートの)凸部