(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-152717(P2020-152717A)
(43)【公開日】2020年9月24日
(54)【発明の名称】敏感肌用化粧水
(51)【国際特許分類】
A61K 8/19 20060101AFI20200828BHJP
A61K 8/44 20060101ALI20200828BHJP
A61K 8/36 20060101ALI20200828BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20200828BHJP
A61K 8/02 20060101ALI20200828BHJP
【FI】
A61K8/19
A61K8/44
A61K8/36
A61Q19/00
A61K8/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2020-39219(P2020-39219)
(22)【出願日】2020年3月6日
(31)【優先権主張番号】特願2019-44852(P2019-44852)
(32)【優先日】2019年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
(71)【出願人】
【識別番号】506151235
【氏名又は名称】株式会社ナノエッグ
(74)【代理人】
【識別番号】100078282
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 秀策
(74)【代理人】
【識別番号】100113413
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 夏樹
(72)【発明者】
【氏名】長澤 輝明
(72)【発明者】
【氏名】山口 葉子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AB031
4C083AB271
4C083AB281
4C083AB321
4C083AB341
4C083AB342
4C083AB361
4C083AB381
4C083AC231
4C083AC232
4C083AC241
4C083AC291
4C083AC301
4C083AC311
4C083AC471
4C083AC581
4C083AC582
4C083AC861
4C083AC901
4C083AD631
4C083AD632
4C083BB51
4C083CC04
4C083DD27
4C083EE07
4C083EE12
(57)【要約】
【課題】本発明は、従来品よりも優れた化粧水、特に優れた敏感肌用の化粧水を提供する。特に、本発明の敏感肌用化粧水は、ケラチノサイトの増殖促進、角層水分量の改善、皮膚の再生(ターンオーバーの促進)補助、および/または、皮膚のバリア機能の回復を通じて、敏感肌の改善をもたらす。
【解決手段】本発明の敏感肌用化粧水は、(A)マグネシウム塩、ならびに、(B)アミノ酸、カルボン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される物質を含む。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
敏感肌用化粧水であって、
(A)マグネシウム塩、ならびに
(B)アミノ酸、カルボン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される物質、
を含む、敏感肌用化粧水。
【請求項2】
敏感肌用化粧水であって、
(A)マグネシウム塩、
(B)アミノ酸またはその塩、および
(C)カルボン酸またはその塩
を含む、敏感肌用化粧水。
【請求項3】
前記マグネシウム塩が塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムナトリウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、二クエン酸三マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、亜硫酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、安息香酸マグネシウム、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、乳酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、および、ステアリン酸マグネシウム、ならびにこれらマグネシウム塩の水和物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項4】
前記アミノ酸がメチオニン、システイン、ホモシステイン、シスチン、N−アセチル−L−システイン、タウリン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、スレオニン、アルギニン、および、ヒドロキシプロリンからなる群から選択される、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項5】
前記アミノ酸がシステインである、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項6】
前記カルボン酸またはその塩が、ピルビン酸、リポ酸、ホスホエノールピルビン酸、ホスホグリセリン酸、および、オキサロ酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、d−イソクエン酸、α−ケトグルタル酸(2−オキソグルタル酸)、コハク酸、フマル酸、および、L−リンゴ酸からなる群から選択されるカルボン酸またはその塩である、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項7】
前記カルボン酸がピルビン酸である、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項8】
さらに、ビタミンを含む、請求項1または2に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項9】
前記ビタミンがシアノコバラミン(ビタミンB12)、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、葉酸(ビタミンB9)、ピリドキシン(ビタミンB6)、および、チアミン(ビタミンB1)からなるビタミンから選択される、請求項8に記載の敏感肌用化粧水。
【請求項10】
前記ビタミンがシアノコバラミンである、請求項9に記載の敏感肌用化粧水。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧水、特に敏感肌用の化粧水に関する。
【背景技術】
【0002】
敏感肌は、様々な因子に対する皮膚の自覚的な過剰反応状態である。敏感肌は皮膚のバリア機能が低下して角質の水分量保持能が低下している状態と考えられ、経皮水分蒸散量(TEWL)の上昇などが観察されている。皮膚のバリア機能の低下は、健常な皮膚では刺激とならないような物質でも、反応して刺激を感じてしまうため、一般的な化粧品の使用も困難となりスキンケアが十分にできないため、悪循環を繰り返していると考えられる。
【0003】
化粧水に関しても既存の化粧水は敏感肌に過剰な刺激をもたらし得るという問題がある。敏感肌の肌質を改善すること目的とした化粧料用組成物(特許文献1)も知られているが、アルコール類や界面活性剤は敏感肌では刺激物質となり得る。また、アレルギー性の皮膚疾患を抑制する成分や(特許文献2)、皮膚の掻痒感を抑制する成分(特許文献3)を配合した化粧料が知られているが、これらは皮膚の炎症反応を抑制することで、間接的な肌質の改善を期待している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3503884号
【特許文献2】特開2002−121108
【特許文献3】特開2016−190823
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来品よりも優れた化粧水、特に優れた敏感肌用の化粧水を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
生体から単離された細胞は、それ単体では非常にセンシティブであり環境のわずかな変化に反応する。環境がその細胞に適さない場合、細胞増殖が止まったり、活動を休止したりして、死に至ることが多い。そのため、細胞の種類ごとに最適な培養培地が多種多様に考案され、使用されている。我々はこの細胞培養培地に着目して、皮膚の表皮角化細胞(ケラチノサイト)の増殖を促進する成分であれば、敏感肌の皮膚にも刺激を与えず、かつ皮膚のバリア機能を改善する効果があるのではないかと考え、これを敏感肌用の化粧水に応用する方法を検討し、本発明を完成した。
【0007】
本発明は、例えば、以下を提供する。
(項目1)
敏感肌用化粧水であって、
(A)マグネシウム塩、ならびに
(B)アミノ酸、カルボン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される物質、
を含む、敏感肌用化粧水。
(項目2)
敏感肌用化粧水であって、
(A)マグネシウム塩、
(B)アミノ酸またはその塩、および
(C)カルボン酸またはその塩
を含む、敏感肌用化粧水。
(項目3)
前記マグネシウム塩が塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムナトリウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、二クエン酸三マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、亜硫酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、安息香酸マグネシウム、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、乳酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、および、ステアリン酸マグネシウム、ならびにこれらマグネシウム塩の水和物からなる群から選択される、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目4)
前記アミノ酸がメチオニン、システイン、ホモシステイン、シスチン、N−アセチル−L−システイン、タウリン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、スレオニン、アルギニン、および、ヒドロキシプロリンからなる群から選択される、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目5)
前記アミノ酸がシステインである、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目6)
前記カルボン酸またはその塩が、ピルビン酸、α−リポ酸、ホスホエノールピルビン酸、ホスホグリセリン酸、および、オキサロ酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、d−イソクエン酸、α−ケトグルタル酸(2−オキソグルタル酸)、コハク酸、フマル酸、および、L−リンゴ酸からなる群から選択されるカルボン酸またはその塩である、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目7)
前記カルボン酸がピルビン酸である、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目8)
さらに、ビタミンを含む、項目1または2に記載の敏感肌用化粧水。
(項目9)
前記ビタミンがシアノコバラミン(ビタミンB12)、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、葉酸(ビタミンB9)、ピリドキシン(ビタミンB6)、および、チアミン(ビタミンB1)からなるビタミンから選択される、項目8に記載の敏感肌用化粧水。
(項目10)
前記ビタミンがシアノコバラミンである、項目9に記載の敏感肌用化粧水。
【0008】
本発明において、上記1または複数の特徴は、明示された組み合わせに加え、さらに組み合わせて提供されうることが意図される。本発明のなおさらなる実施形態および利点は、必要に応じて以下の詳細な説明を読んで理解すれば、当業者に認識される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の敏感肌用化粧水は、ケラチノサイトの増殖促進、角層水分量の改善、皮膚の再生(ターンオーバーの促進)補助、および/または、皮膚のバリア機能の回復を通じて、敏感肌の改善をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、MCDB153培地にのみ含まれる成分を4種類に分類して、その成分をグループごとにDMEM培地に添加したときのケラチノサイトの増殖を試験した結果である。
【
図2】
図2は、DMEM培地からMgとFeを除いたベースDMEM(1)培地に、種々の無機塩を添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。各成分について、左は3日目、右は5日目の結果を示す。
【
図3】
図3は、ベースDMEM(1)培地に塩化マグネシウムを加えて作製したベースDMEM(2)に、種々のアミノ酸を添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。各成分について、左は3日目、右は5日目の結果を示す。
【
図4】
図4は、ベースDMEM(1)培地に塩化マグネシウムを加えて作製したベースDMEM(2)に、種々のビタミンを添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。
【
図5】
図5は、ベースDMEM(1)培地に塩化マグネシウムを加えて作製したベースDMEM(2)に、種々のその他の成分を添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。各成分について、左は3日目、右は5日目の結果を示す。
【
図6】
図6は、DMEM培地からMgとFeを除いたベースDMEM(1)培地に、複数の成分を添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。
【
図7】
図7は、DMEM培地からMgとFeを除いたベースDMEM(1)培地に、複数の成分を添加してケラチノサイトの増殖を試験した結果である。
【
図8】
図8は、本発明の敏感肌用化粧水を使用した結果を示す。各成分について、左は処置前(プレ)、右は7日目の結果を示す。
【
図9】
図9は、化粧水(1)と化粧水(2)を比較した結果を示す。
【
図10】
図10は、化粧水(1)と化粧水(3)を比較した結果を示す。
【
図11】
図11は、化粧水(1)と化粧水(4)を比較した結果を示す。
【
図12】
図12は、化粧水(1)と化粧水(5)を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。したがって、他に定義されない限り、本明細書中で使用されるすべての専門用語および科学技術用語は、本発明の属する分野の当業者によって一般的に理解されるのと同じ意味を有する。矛盾する場合、本明細書(定義を含めて)が優先する。
【0012】
(用語の定義)
「敏感肌用化粧水」とは、敏感肌向けの化粧料である。特に、一般的には刺激物質とはならないが、敏感肌の皮膚には刺激を感じさせ得る成分である、アルコール、防腐剤、界面活性剤、香料、着色料、鉱物油等を含まない化粧水をいう。
【0013】
本発明の敏感肌化粧水の成分としては、(A)マグネシウム塩、(B)アミノ酸またはその塩、(C)カルボン酸またはその塩、および、(D)ビタミンが挙げられる。また、これらの物質の、アナログ、類似体、および/または、誘導体もまた、本発明の敏感肌用化粧水の成分として利用可能である。
【0014】
「アナログ」とは、親化合物に構造上類似しているが組成においてわずかに異なる化合物を指す(例えば1つの原子を異なる元素の原子に置き換える場合、または特定の官能基の存在下において、1つの官能基を別の官能基に置き換える場合など)。したがって、アナログは、基準となる親化合物に関して機能および外観は類似または同等であるが異なる構造または起原を有する化合物である。
【0015】
「類似体」とは、元の分子の機能活性に必要な分子化学構造を保持しているが、元の分子とは異なる一定の化学構造を包含する分子を意味する。
【0016】
「誘導体」とは、親化合物に構造的に類似しており、親化合物から(実際にまたは理論的に)誘導できる、化学化合物または低分子阻害物質の化学的または生物学的に改変された種類を意味する。「誘導体」は、親化合物が「誘導体」を作製するための出発原料であり得るという点で、「類似体」または「機能的類似体」と異なり、「類似体」または「機能的類似体」を作製するための出発原料としては親化合物を必ずしも使用しなくてもよい。誘導体は、親化合物と異なる化学的特性または物理的特性を有してよく、または有さなくてもよい。例えば、誘導体の方が親水性が高くてもよく、または、誘導体は親化合物と比べて変化した反応性を有してもよい。誘導体化(すなわち、化学的手段または他の手段による改変)は、分子内の1つまたは複数の部分の置換(例えば、官能基中の変化)を伴ってよい。例えば、水素をフッ素もしくは塩素などのハロゲンで置換してよく、または、ヒドロキシル基(−OH)をカルボン酸部分(−COOH)で置換してもよい。「誘導体」という用語はまた、親化合物の結合体およびプロドラッグ(すなわち、生理的条件下で元の化合物に変換され得る、化学的に改変された誘導体)も含む。例えば、プロドラッグは、活性な作用物質の不活性型でよい。生理的条件下で、プロドラッグは化合物の活性型に変換され得る。プロドラッグは、例えば、窒素原子上の1つまたは2つの水素原子をアシル基(アシルプロドラッグ)またはカルバマート基(カルバマートプロドラッグ)で置換することによって、形成することができる。プロドラッグに関するより詳細な情報は、例えば、Fleisher et al., Advanced Drug Delivery Reviews 19 (1996) 115; Design of Prodrugs, H.Bundgaard(編), Elsevier, 1985;およびH. Bundgaard, Drugs of the Future 16 (1991) 443において見出される。「誘導体」という用語はまた、親化合物のあらゆる溶媒和物、例えば、水和物または付加体(例えば、アルコールの付加体)、活性な代謝産物、および塩を説明するのにも使用される。調製され得る塩のタイプは、化合物内の部分の性質に依存する。例えば、カルボン酸基のような酸性基は、アルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩(例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩、カルシウム塩)、ならびに生理的に許容できる四級アンモニウムイオンとの塩、ならびにアンモニアおよび生理的に許容できるトリエチルアミン、エタノールアミン、またはtris−(2−ヒドロキシエチル)アミンなどの有機アミンとの酸付加塩を形成することができる。塩基性基は、例えば、塩酸(「HCl」)、硫酸、もしくはリン酸などの無機酸と、または有機カルボン酸および酢酸、クエン酸、安息香酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、メタンスルホン酸、もしくはp−トルエンスルホン酸などのスルホン酸と酸付加塩を形成することができる。塩基性基および酸性基、例えば、塩基性窒素原子に加えてカルボキシル基を同時に含む化合物は、双性イオンとして存在することができる。塩は、当業者に公知の習慣的な方法によって、例えば、ある化合物を溶媒もしくは希釈液中の無機もしくは有機の酸もしくは塩基と混合することにより、または陽イオン交換もしくは陰イオン交換によって他の塩から得ることができる。
【0017】
「角層」とは、皮膚の最外部をおおう、表皮角化細胞が角化した扁平な角層細胞が重なった層である。皮膚はおおまかに表皮、真皮と皮下組織からなり、表皮は深部基底膜側より基底層(基底膜上に配列し、円柱状をした1層の基底細胞よりなる層)、有棘層(多角
形の細胞がデスモソームで結合する最も厚い細胞層)、顆粒層(塩基性色素に濃染するケラトヒアリン顆粒をもつ細胞層)、角層(核のない角化細胞層)の4層よりなる。角層は強固なバリアの役割を担っており、外部から異物の侵入を防ぎ、体内から水分が出ていくことを防いでいる。このバリア機能が低下すると、外界からの刺激を受けやすくなり、皮膚の水分も失われて乾燥状態になり、皮膚が刺激に対して過敏になると考えられる。
【0018】
(好ましい実施形態)
以下に好ましい実施形態の説明を記載するが、この実施形態は本発明の例示であり、本発明の範囲はそのような好ましい実施形態に限定されないことが理解されるべきである。当業者はまた、以下のような好ましい実施例を参考にして、本発明の範囲内にある改変、変更などを容易に行うことができることが理解されるべきである。これらの実施形態について、当業者は適宜、任意の実施形態を組み合わせ得る。
【0019】
(化粧水の成分)
一つの局面において本発明の化粧水の基本成分は、
(A)マグネシウム塩、ならびに、
(B)アミノ酸、カルボン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される物質
である。
【0020】
別の局面において本発明の化粧水の基本成分は、
(A)マグネシウム塩、
(B)アミノ酸またはその塩、および、
(C)カルボン酸またはその塩
である。
【0021】
(1.マグネシウム塩)
本発明で使用可能なマグネシウム塩としては、化粧品に利用可能な任意のマグネシウム塩またはその水和物が挙げられる。マグネシウム塩としては、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、アスパラギン酸マグネシウム、グルコン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸アルミン酸マグネシウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、ケイ酸マグネシウムナトリウム、水酸化アルミナマグネシウム、水酸化マグネシウム、酢酸マグネシウム、クエン酸マグネシウム、二クエン酸三マグネシウム、臭化マグネシウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウムマグネシウム、亜硫酸マグネシウム、グルタミン酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、リン酸水素マグネシウム、安息香酸マグネシウム、リン酸L−アスコルビルマグネシウム、乳酸マグネシウム、硝酸マグネシウム、サリチル酸マグネシウム、および、ステアリン酸マグネシウム、ならびに、これらの水和物が挙げられるがこれらに限定されない。
【0022】
(2.アミノ酸)
本発明で使用するアミノ酸は、好ましくは抗酸化能を有するアミノ酸である。本発明で使用するアミノ酸は、例えば、メチオニン、システイン、ホモシステイン、シスチン、N−アセチル−L−システイン、タウリン、チロシン、トリプトファン、ヒスチジン、スレオニン、アルギニン、および、ヒドロキシプロリンからなる群から選択される。さらに好ましいアミノ酸はシステインである。ホモシステインおよび/またはシスチンもまた、本発明のアミノ酸として利用可能である。
【0023】
(3.カルボン酸)
本発明で使用するカルボン酸またはその塩は、好ましくはオキサロ酢酸から先のクエン酸回路に属するカルボン酸またはその塩である。本発明で使用するカルボン酸は、例えば、ピルビン酸、α−リポ酸、ホスホエノールピルビン酸、ホスホグリセリン酸、および、オキサロ酢酸、クエン酸、cis−アコニット酸、d−イソクエン酸、α−ケトグルタル酸(2−オキソグルタル酸)、コハク酸、フマル酸、および、L−リンゴ酸からなる群から選択される。より好ましいカルボン酸の塩は、ピルビン酸ナトリウムである。理論に拘束されることは望まないが、オキサロ酢酸から先のクエン酸回路に属するカルボン酸を本発明の化粧水に添加すると、ピルビン酸を添加した場合と同様の効果が発揮されることが期待される。
【0024】
(4.ビタミン)
本発明の化粧水は、さらにビタミンを含んでもよい。本発明において使用する好ましいビタミンは、ビタミンB群に属するビタミンである。本発明のビタミンとしては、例えば、シアノコバラミン(ビタミンB12)、メチルコバラミン、アデノシルコバラミン、ヒドロキソコバラミン、葉酸(ビタミンB9)、ピリドキシン(ビタミンB6)、および、チアミン(ビタミンB1)からなるビタミン群から選択される。より好ましいビタミンは、シアノコバラミンである。理論に拘束されることは望まないが、ビタミンB6はシステインの合成に関与しているため、ビタミンB6を本発明の化粧水に添加すると、システインを添加した場合と同様の効果が発揮されることが期待される。
【0025】
(5.DMEM培地)
本発明において使用したDMEM培地は、以下の成分を含む培地である。
【0027】
今回使用したDMEM培地は、市販の「DMEM high Glucose w/o L−Glutamine, w/o Calcium」をベースにして、グルタミンとカルシウムを添加したものを使用したものであり、上記の組成からなる。
【0028】
本明細書において引用された、科学文献、特許、特許出願などの参考文献は、その全体が、各々具体的に記載されたのと同じ程度に本明細書において参考として援用される。
【0029】
以上、本発明を、理解の容易のために好ましい実施形態を示して説明してきた。以下に、実施例に基づいて本発明を説明するが、上述の説明および以下の実施例は、例示の目的のみに提供され、本発明を限定する目的で提供するものではない。したがって、本発明の範囲は、本明細書に具体的に記載された実施形態にも実施例にも限定されず、特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0030】
(実施例1)
ケラチノサイトの培養に特化した細胞培養培地MCDB153と、汎用的な細胞培養培地DMEMを選び、ケラチノサイトの培養に必要な成分が何であるかの検討を行った。
まず始めに、細胞培養培地に含まれる成分を無機塩、アミノ酸、ビタミン、その他の成分の4種類に分類して、それぞれのグループごとにスクリーニングを実施した(表1、表2、
図1)。
【0031】
【表2】
【0032】
試薬を混合して、基礎培地となるDMEM(表1)を再構成し、表2で4種類に分類した細胞培養培地の成分のうち、ケラチノサイトの培養培地であるMCDB153にのみ含まれる成分をグループごとに添加して、ケラチノサイトの生存に必要な成分を含んでいるかどうかの確認を行った(
図1)。ケラチノサイト(正常ヒト表皮角化細胞、クラボウ)を12ウェルプレートに播種して一晩前培養し、PBSで洗浄したのち、基礎培地に入れ替え、各成分をグループごとに添加して、3日後または5日後の細胞の生存をCellcounting kit-8(同仁化学研究所)で測定した。
図1の結果が示すように、陰性対照の(6)
群(DMEM培地)と比較して、無機塩群(1)以外の(2)、(3)、(4)は、それぞれMCDB153特有の成分の中に、ケラチノサイト増殖を促進する有効な成分が含まれていると考えられた。
【0033】
次に、DMEM培地からMgとFeを除いたベースDMEM(1)培地に、種々の無機塩を添加してケラチノサイトの増殖を試験した。
図2の結果が示すように、無機塩群(1)に含まれるマグネシウム塩がケラチノサイトの増殖に重要であることが示された(
図2)。
【0034】
ベースDMEM(1)に塩化マグネシウムを添加した培地を、ベースDMEM(2)として、種々のアミノ酸を添加して試験したところ、特にシステインがケラチノサイトの増殖に重要であることが示された(
図3)。
【0035】
ビタミンに分類される成分では、陰性対照と比較するとD−ビオチンもシアノコバラミンも、やや細胞増殖を促進する効果が確認された(
図4)。
【0036】
その他に分類される成分では、ピルビン酸が、ケラチノサイトの増殖に重要であることが示された(
図5)。
【0037】
以上の結果から、ケラチノサイトの増殖(活性化)に必要な成分として、Mg、システイン、ピルビン酸が重要であると考えられる。また、ビオチンやシアノコバラミンもやや弱いが同様の効果があると予想される。ケラチノサイトを活性化して、皮膚を健康な状態へと改善するために、これらの組み合わせが重要であると考えられる。これら成分を組み合わせたことによる優れた効果は、
図6および
図7に示されるとおりである。
図7は、これら成分の組み合わせの効果が相加的ではなく、相乗的であることを実証する。
【0038】
(実施例2)
塩化マグネシウム(Mg)、システイン塩酸塩(システイン)、ピルビン酸ナトリウム(ピルビン酸)とシアノコバラミンを含む化粧水を作製して、ヒトの顔皮膚への塗布し、効果を検討した。化粧水に添加した成分の名称と濃度は、以下のとおりである。
【0039】
【表3】
【0040】
皮膚のバリア機能が低下しているモデルとして、顔頬部の経皮水分蒸散量(TEWL)が高いヒトを対象に試験を実施した。試験の前に顔の角層水分量の測定を行った。朝と夜の1日2回、顔の右半分は化粧水を塗布し、対照として左半分には水を塗布した。これを7日間くりかえした後、再び顔の測定を行った。統計解析はStudent’s t−testを行った。
【0041】
角層水分量を比較したところ、対照の左側と比べて、化粧水を塗布した右側の方が高い数値を示した(
図8)。その結果を以下の表4に示す。
【0042】
【表4】
【0043】
コンディションの良い肌では角層水分量は多くなるので、この化粧水を塗布することで皮膚バリア機能の改善に効果があると考えられた。
【0044】
以上の結果から、Mg、システイン、ピルビン酸、シアノコバラミンを含む化粧水は、ケラチノサイトの増殖を促し、角層水分量を改善したことから、皮膚の再生(ターンオーバーの促進)を助けたと考えられ、バリア機能が低下している敏感肌の改善に効果が期待される。また、上記の結果および
図2〜
図7に示される結果は、敏感肌用化粧水(すなわち敏感肌の改善効果をもたらす化粧水)の必須成分が、
(A)マグネシウム塩、ならびに
(B)アミノ酸、カルボン酸、およびこれらの塩からなる群から選択される物質、
であることを示す。
【0045】
(実施例3)
上記実施例2の結果は、4種類の有効成分マグネシウム、システイン、ピルビン酸、およびシアノコバラミンを配合した化粧水が優れた効果を奏することを実証するものである。次に、上記4有効成分を含む化粧水と、上記4有効成分のなかから1成分ずつ抜いて3成分で構成した化粧水を比較するために、これら化粧水を塗布した時の角層水分量の比較を行った。具体的には、塩化マグネシウム(Mg)、システイン塩酸塩(システイン)、ピルビン酸ナトリウム(ピルビン酸)とシアノコバラミンの4成分全てを含む化粧水と、1成分ずつ抜いた残り3種類の成分で構成された化粧水を作製して、ヒトの顔皮膚へ塗布し、効果を比較検討した。化粧水に添加した各成分の濃度を下記の表5に示す。
【表5】
実施例3で使用した化粧水(1)〜(5)に含まれる成分を以下の表6に示す。表中、「Mg」は塩化マグネシウム(六水和物)を、「Cys」はシステイン塩酸塩を、「Cyano」はシアノコバラミンを、「Pyruv」はピルビン酸ナトリウムを意味する。また、「+」は添加を、「−」は無添加を意味する。
【表6】
皮膚のバリア機能が低下しているモデルとして、顔頬部の経皮水分蒸散量(TEWL)が高いヒトを対象に試験を実施した。試験の前に顔の角層水分量の測定を行った。朝と夜の1日2回、顔の半分に4成分配合の化粧水(1)を塗布し、もう半分には化粧水(2)、(3)、(4)、(5)のいずれかを塗布した。これを10〜12日間繰り返した後、再び顔の測定を行った。統計解析はStudent’s t−testおよびpaired t−testを行った。結果を
図9〜
図12に示す。
【0046】
図9は、化粧水(1)と化粧水(2)を比較した結果を示す。塗布11日後、4成分すべてを配合している化粧水(1)は角層水分量が増加していたが、ピルビン酸を抜いた化粧水(2)は変化が無かった。
【0047】
図10は、化粧水(1)と化粧水(3)を比較した結果を示す。塗布12日後、化粧水(1)は角層水分量が増加する傾向であったが、シアノコバラミンを抜いた化粧水(3)は角層水分量が著しく低下していた。
【0048】
図11は、化粧水(1)と化粧水(4)を比較した結果を示す。塗布10日後、化粧水(1)は角層水分量が著しく増加していた。システインを抜いた化粧水(4)も水分量は増加傾向であったが、塗布前と比較して有意な差ではなかった。
【0049】
図12は、化粧水(1)と化粧水(5)を比較した結果を示す。塗布10日後、化粧水(1)は角層水分量が増加していたが、マグネシウムを抜いた化粧水(5)は水分量が減少する傾向を示した。
【0050】
以上の結果から、マグネシウム、システイン、シアノコバラミン、ピルビン酸の4成分の組み合わせが重要であることが示唆された。
【0051】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。本明細書において引用した特許、特許出願および文献は、その内容自体が具体的に本明細書に記載されているのと同様にその内容が本明細書に対する参考として援用されるべきであることが理解される。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の敏感肌用化粧水は、ケラチノサイトの増殖促進、角層水分量の改善、皮膚の再生(ターンオーバーの促進)補助、および/または、皮膚のバリア機能の回復を通じて、敏感肌の改善をもたらす。