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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-155171(P2020-155171A)
(43)【公開日】2020年9月24日
(54)【発明の名称】磁気ディスク装置
(51)【国際特許分類】
   G11B 21/10 20060101AFI20200828BHJP
   G11B 25/04 20060101ALI20200828BHJP
   G11B 33/12 20060101ALI20200828BHJP
   G11B 33/14 20060101ALI20200828BHJP
   G11B 21/21 20060101ALI20200828BHJP
【FI】
   G11B21/10 V
   G11B25/04 101J
   G11B25/04 101F
   G11B33/12 313U
   G11B33/14 501G
   G11B33/14 501A
   G11B21/21 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-51306(P2019-51306)
(22)【出願日】2019年3月19日
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317011920
【氏名又は名称】東芝デバイス&ストレージ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】内田 貴斗
(72)【発明者】
【氏名】池田 直路
【テーマコード(参考)】
5D059
5D096
【Fターム(参考)】
5D059AA01
5D059BA01
5D059CA29
5D059DA26
5D059DA36
5D096VV01
(57)【要約】      (修正有)
【課題】湿度による位置決め精度の低下を抑制した磁気ディスク装置を提供する。
【解決手段】磁気ディスク装置100は、磁気ディスク2と、磁気ヘッド9と、マイクロアクチュエータ7と、収容部(ケース1)と、サーボコントローラ21と、湿度センサ10と、温度センサ11と、制御回路30とを備える。磁気ヘッドは、磁気ディスクにアクセスする。マイクロアクチュエータは、磁気ヘッドを移動させる。収容部は、磁気ディスク、磁気ヘッドおよびマイクロアクチュエータを収容する。サーボコントローラは、マイクロアクチュエータの位置決め制御を実行する。湿度センサは、収容部内の湿度に対応した値を出力する。制御回路は、湿度センサの出力値に基づいて位置決め制御のゲインを調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁気ディスクと、
前記磁気ディスクにアクセスする磁気ヘッドと、
前記磁気ヘッドを移動させるアクチュエータと、
前記磁気ディスク、前記磁気ヘッド、および前記アクチュエータを収容する収容部と、
前記アクチュエータの位置決め制御を実行するサーボコントローラと、
前記収容部内の湿度に対応した値を出力するセンサと、
前記センサの出力値に基づいて前記位置決め制御のゲインを調整する制御回路と、
を備える磁気ディスク装置。
【請求項2】
前記制御回路は、前記アクチュエータの単位電圧あたりの変位量の変化量と、湿度の変化量と、の間の関係、および前記センサの前記出力値に基づいて前記ゲインを計算し、前記位置決め制御の前記ゲインの設定値を前記ゲインの計算値で更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項3】
前記関係を示すパラメータが記録されるメモリをさらに備え、
前記制御回路は、前記メモリに格納された前記パラメータに基づいて前記ゲインを計算する、
請求項2に記載の磁気ディスク装置。
【請求項4】
前記センサは、湿度センサである、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項5】
前記収容部には所定のガスが充填されている、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項6】
前記センサは、温度センサであり、
前記制御回路は、前記センサの出力値に基づいて湿度を推定する、
請求項5に記載の磁気ディスク装置。
【請求項7】
前記アクチュエータは、薄膜圧電素子によって構成されている、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項8】
前記薄膜圧電素子の保護層はポリイミドを含む材料によって構成されている、
請求項7に記載の磁気ディスク装置。
【請求項9】
ボイスコイルモータと、
ボイスコイルモータによって駆動されるアームと、
アームの一端に設けられ、前記磁気ヘッドを保持するジンバル部と、
をさらに備え、
前記アクチュエータは、前記ジンバル部を駆動する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【請求項10】
前記制御回路は、前記アクチュエータの単位電圧あたりの変位量と、湿度と、の間の関係、および前記センサの前記出力値に基づいて前記ゲインを計算し、前記位置決め制御の前記ゲインの設定値を前記ゲインの計算値で更新する、
請求項1に記載の磁気ディスク装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本実施形態は、磁気ディスク装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気ディスク装置においては、磁気ヘッドを移動させるアクチュエータの位置決め精度が湿度によって低下する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第06147434号明細書
【特許文献2】米国特許第09951757号明細書
【特許文献3】特開2009−240043号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一つの実施形態は、湿度による位置決め精度の低下を抑制した磁気ディスク装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
一つの実施形態によれば、磁気ディスク装置は、磁気ディスクと、磁気ヘッドと、アクチュエータと、収容部と、サーボコントローラと、センサと、制御回路と、を備える。磁気ヘッドは、磁気ディスクにアクセスする。アクチュエータは、磁気ヘッドを移動させる。収容部は、磁気ディスク、磁気ヘッド、およびアクチュエータを収容する。サーボコントローラは、アクチュエータの位置決め制御を実行する。センサは、収容部内の湿度に対応した値を出力する。制御回路は、湿度センサの出力値に基づいて位置決め制御のゲインを調整する。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1図1は、第1実施形態の磁気ディスク装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態のマイクロアクチュエータのストローク量の変化量と相対湿度の変化量との関係の一例を示す模式図である。
図3図3は、磁気ディスク装置の製造時に実行される第1の実施形態の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、第1の実施形態の磁気ディスク装置の製造時の各プロセスで測定された温度、湿度およびマイクロアクチュエータのストローク量を示す模式的な図である。
図5図5は、第1の実施形態の磁気ディスク装置の出荷後の動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、第2の実施形態にかかるマイクロアクチュエータのストローク量と湿度との測定結果と、当該測定結果から導き出された2次関数の数式を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下に添付図面を参照して、実施形態にかかる磁気ディスク装置を詳細に説明する。なお、この実施形態により本発明が限定されるものではない。
【0008】
(第1の実施形態)
図1は、第1実施形態の磁気ディスク装置の概略構成を示すブロック図である。
図1において、この磁気ディスク装置100には、磁気ディスク2が設けられ、磁気ディスク2はスピンドル3を介して支持されている。また、磁気ディスク装置100には、磁気ヘッド9が設けられ、磁気ヘッド9は、磁気ディスク2に対向するように配置されている。
【0009】
具体的には、アーム6の一端には、アーム6を駆動するボイスコイルモータ4が設けられ、アーム6の他端にはジンバル部8が設けられている。ジンバル部8には、磁気ヘッド9が保持されている。アーム6は、回転軸5を介して磁気ディスク2上に支持されている。
【0010】
ジンバル部8には、ジンバル部8を駆動するマイクロアクチュエータ7が設けられている。ボイスコイルモータ4、アーム6、ジンバル部8、およびマイクロアクチュエータ7によって、ジンバルマイクロアクチュエータ(Gimbal Micro Actuator : GMA)の方式の2段アクチュエータが構成されている。
【0011】
磁気ヘッド9は、GMA方式の2段アクチュエータによって磁気ディスク2の対象位置に対応した位置まで移動せしめられ、対象位置に対して、データを書き込んだり、対象位置からデータを読み出したりする。換言すると、磁気ヘッド9は、磁気ディスク2にアクセスする。
【0012】
マイクロアクチュエータ7は、例えば薄膜圧電素子によって構成される。ボイスコイルモータ4は、アーム6を磁気ディスク2の記録面に対して水平に粗動させることができることに対し、マイクロアクチュエータ7は、供給される電圧によってジンバル部8を磁気ディスク2の記録面に対して水平に微動させることができる。
【0013】
薄膜圧電素子を利用したマイクロアクチュエータ7の場合、マイクロアクチュエータ7の単位電圧あたりの変位量の変化量は、湿度(より正確には相対湿度)の変化に伴って変化することがある。なお、以降、マイクロアクチュエータ7の単位電圧あたりの変位量を、マイクロアクチュエータ7のストローク量と表記する。
【0014】
図2は、第1実施形態のマイクロアクチュエータ7のストローク量の変化量と相対湿度の変化量との関係の一例を示す模式図である。本図の例では、マイクロアクチュエータ7のストローク量の変化量と、相対湿度の変化量とは、ほぼ線形の関係があることが読み取れる。
【0015】
マイクロアクチュエータ7のストローク量の変化量が湿度変化によって変化することは、薄膜圧電素子そのもの、あるいはその保護材料、担体材料の、弾性に代表される機械的性質が、湿度依存をもつことが要因としてあげられる。例えば、薄膜圧電素子の保護層として、ポリイミドを含む材料が用いられている場合、図2に示されるような特性が生じる。
【0016】
上記のように、マイクロアクチュエータ7の動作が湿度に依存するため、湿度が変動した場合には、位置決め精度が悪化し、磁気ディスク装置100のパフォーマンスが低下する。
【0017】
本実施形態では、マイクロアクチュエータ7の位置決め制御のゲインを、湿度に応じて調整する。これによって、湿度による位置決め精度の悪化を抑制する。
【0018】
なお、マイクロアクチュエータ7は、実施形態のアクチュエータの一例である。
【0019】
図1に説明を戻す。
2段アクチュエータが搭載された基材上には、湿度センサ10および温度センサ11が設けられている。そして、磁気ディスク2、スピンドル3、ボイスコイルモータ4、回転軸5、アーム6、マイクロアクチュエータ7、ジンバル部8、磁気ヘッド9、湿度センサ10、および温度センサ11は、収容部であるケース1に収容されている。ケース1と、ケース1に収容されたこれらの構成要素は、まとめて、ヘッドディスクアセンブリと称される。
【0020】
ケース1内は、ヘリウムガスが充填されている。そして、ヘリウムガスがリークしないように、ケース1は密封されている。
【0021】
なお、ケース1は、ヘリウムガスが充填される際に、ケース1に流入するヘリウムガスの除湿を行うためのデシカントフィルタを備え得る。デシカントフィルタは、活性炭またはシリカゲルのような、吸湿剤を備える。
【0022】
磁気ディスク装置100は、さらに、サーボコントローラ21、ヘッドアンプ22、不揮発性メモリ23、揮発性メモリ24、プロセッサ25、RWC(リードライトチャネル)26、およびHDC(ハードディスクコントローラ)27を備える。プロセッサ25、RWC26、およびHDC27は、実施形態の制御回路30を構成する。なお、制御回路30の構成要素はこれらに限定されない。
【0023】
ヘッドアンプ22は、RWC26から入力されるライトデータに応じたライト信号(電流)を磁気ヘッド9に供給する。また、ヘッドアンプ22は、磁気ヘッド9から出力されたリード信号(磁気ヘッド9により磁気ディスク2から読み出されたリードデータ)を増幅して、RWC26に供給する。
【0024】
不揮発性メモリ23は、例えばフラッシュメモリなどの不揮発性メモリによって構成される。不揮発性メモリ23には、プロセッサ25が実行するプログラムが記録される。また、不揮発性メモリ23には、磁気ディスク装置100が正常に動作するために必要となる各種のパラメータが記録される。不揮発性メモリ23に格納される各種のパラメータについては後述する。
【0025】
揮発性メモリ24は、DRAM(Dynamic RAM)またはSRAM(Static RAM)などの揮発性メモリによって構成される。揮発性メモリ24には、ホスト200からのアクセス処理の際にアクセス対象のデータをバッファリングする領域、磁気ディスク装置100を制御するのに用いられる管理情報を記憶する領域などが設けられる。
【0026】
RWC26は、信号処理回路である。RWC26は、HDC27から入力されたライトデータを符号化してヘッドアンプ22に出力する。また、RWC26は、ヘッドアンプ22から伝送されたリード信号からリードデータを復号化してHDC27に出力する。
【0027】
HDC27は、ホスト200との通信を可能とする通信インタフェースである。具体的には、HDC27は、ホスト200からライトコマンドを受信した場合には、ライトデータを揮発性メモリ24に格納し、書き込み処理が終了するとホスト200に応答を返す。また、HDC27は、ホスト200からリードコマンドを受信した場合には、読み出し処理によって揮発性メモリ24に格納されたリードデータをホスト200に返す。
【0028】
サーボコントローラ21は、スピンドル3を回転させるスピンドルモータに電流または電圧を供給し、スピンドルモータを所定の回転速度で駆動する。
【0029】
また、サーボコントローラ21は、プロセッサ25から指定された位置に磁気ヘッド9を移動させるために、ボイスコイルモータ4およびマイクロアクチュエータ7の位置決め制御を実行する。
【0030】
より具体的には、サーボコントローラ21は、アクチュエータコントローラ28を備える。アクチュエータコントローラ28は、プロセッサ25から磁気ヘッド9の位置が命令される。アクチュエータコントローラ28は、プロセッサ25から命令された位置に磁気ヘッド9を移動させるための、ボイスコイルモータ4の変位量とマイクロアクチュエータ7の変位量とを求める。そして、アクチュエータコントローラ28は、ボイスコイルモータ4の変位量に応じた電流または電圧をボイスコイルモータ4に供給し、マイクロアクチュエータ7の変位量に応じた電圧をマイクロアクチュエータ7に供給する。
【0031】
プロセッサ25は、例えばCPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ25は、磁気ヘッド9によるライトデータの書き込みおよびリードデータの読み出しの制御処理、磁気ディスク2の記録面上におけるアクセス位置を決定する処理、アクセス位置をサーボコントローラ21に命令する処理、などを実行する。なお、プロセッサ25は、不揮発性メモリ23および磁気ディスク2等の不揮発性の記憶媒体に記憶されたプログラムにより、各種処理を実行する。
【0032】
実施形態では、プロセッサ25は、さらに、マイクロアクチュエータ7の電圧制御のゲインの調整を実行する。以下に、マイクロアクチュエータ7の電圧制御の方法の一例と、当該電圧制御におけるゲインの調整の方法の一例とを説明する。ここでは、マイクロアクチュエータ7に供給される電圧Vmaが比例制御されている場合について説明する。なお、電圧Vmaの制御は比例制御に限定されない。
【0033】
電圧Vmaは、下記の式(1)〜(4)によって計算される。
Vma = Gh * dx + C ・・・(1)
Gh = Ghconst + Ghconst * Ghrate * dh ・・・(2)
Ghrate ={(SLh / SHh)/(hHh - hLh)}- 1 ・・・(3)
dh = hs - hr ・・・(4)
【0034】
ただし、式(1)〜(4)に含まれる各パラメータの説明は、下記の通りである。
dx : MAに所望する変位 [m]
Gh : 湿度に応じて変化する制御ゲイン
C : 湿度に依存しない定数項
Ghconst : 一定湿度下での制御ゲイン
Ghrate : 湿度変動ゲイン
SLh : 低湿度の環境下で測定された、単位電圧あたりのマイクロアクチュエータ7の変位量 [m/V]
SHh : 高湿度の環境下で測定された、単位電圧あたりのマイクロアクチュエータ7の変位量 [m/V]
hLh : 低湿度の環境下で測定された湿度 [%RH]
hHh : 高湿度の環境下で測定された湿度 [%RH]
hs : 制御ゲインの調整時の湿度[%RH]
hr : 現在の湿度[%RH]
【0035】
湿度に応じて変化する制御ゲインGhは、式(2)で示されるように、湿度に依存しない項Ghconstと湿度に依存する項Ghconst*Ghrate*dhから構成されている。
【0036】
湿度に依存しない項Ghconstは所定の調整方法で決定される。湿度に依存する項Ghconst*Ghrate*dhのうちのdhは、Ghconstを調整した際の湿度を基準とした湿度の変化量である。
【0037】
Ghrateは、マイクロアクチュエータ7のストローク量の、湿度の変動に対する変動しやすさを表す定数であり、式(3)によって決定される。つまり、Ghrateは、マイクロアクチュエータ7のストローク量の変化量と、湿度の変化量と、の間の関係を示すパラメータである。式(3)に代入される4つの定数SLh,SHh,hLh,およびhHhは、磁気ディスク装置100の製造プロセスにおいて、複数の湿度帯で湿度およびストローク量が測定されることによって決定される。
【0038】
具体的には、まず、製造プロセス内において、Ghconstの調整結果と、Ghconstの調整結果が得られた際の湿度hsが、不揮発性メモリ23に記録される。次に、製造プロセスにおける低湿度下でのプロセスが実行されている際に、SLhおよびhLhが測定され、製造プロセスにおける高湿度下でのプロセスが実行されている際に、SHhおよびhHhが測定される。そして、式(3)に基づいてGhrateが計算され、不揮発性メモリ23に記録される。
【0039】
出荷後の動作状態で位置決め制御が実行される際には、プロセッサ25は、動作時の環境での実測によって得られた湿度hrと、不揮発性メモリ23内に記録された湿度hsと、式(4)と、に基づいてdhを計算する。そして、プロセッサ25は、計算によって得られたdhと、不揮発性メモリ23に記録されたGhconstおよびGhrateと、式(2)と、に基づいて制御ゲインGhを計算する。
【0040】
プロセッサ25は、計算によって得られた制御ゲインGhをアクチュエータコントローラ28に設定する。アクチュエータコントローラ28は、予め設定された定数項Cと、プロセッサ25によって設定された制御ゲインGhと、式(1)と、に基づいて、マイクロアクチュエータ7に供給される電圧Vmaを計算する。
【0041】
つまり、プロセッサ25は、湿度の検出値に応じて制御ゲインGhを変化させる。これによって、湿度に依存しない高精度な位置決めが実現する。
【0042】
例えば、マイクロアクチュエータ7が、湿度が1[%RH]上昇するとストローク量が10倍になる特性を有している場合を考える。 (hHh-hLh)の値が1の時、(SLh/SHh)の値が1/10になるため、式(3)によれば、Ghrateは、-0.9(={(SLh/SHh)/(hHh-hLh)}- 1 = 1/10 - 1)となる。
【0043】
このようなマイクロアクチュエータ7を搭載した磁気ディスク装置100の使用中に、湿度(つまり湿度hr)がGhconstの調整結果が得られた際の湿度hsと等しい場合、式(2)から明らかなように、GhはGhconstと等しくなる。よって、電圧Vmaは、Ghconst*dx+Cの計算によって得られる。
【0044】
一方、湿度(つまり湿度hr)が湿度hsより1[%RH]だけ高い場合は、式(2)によれば、Ghは、0.1*Ghconstとなる。したがって、電圧Vmaは、式(1)により、0.1*Ghconst*dx+Cとなる。その結果、湿度hrが湿度hsと等しい場合と異なり、変位量dxに乗算されるゲインの値が1/10になる。
【0045】
つまり、マイクロアクチュエータ7が、湿度が1[%RH]上昇するとストローク量が10倍になる特性を有している場合であっても、湿度に依存しない位置決め制御を実施することが可能となる。
【0046】
図3は、磁気ディスク装置100の製造時に実行される第1の実施形態の手順を示すフローチャートである。
【0047】
まず、磁気ディスク装置100に対し、低温環境下での動作の調整が実行される(S101)。この処理からS107までは、ケース1が密封される前に実施される。
【0048】
低温環境下での動作の調整の際には、温度、湿度、ストローク量の測定が実行される(S102)。
【0049】
続いて、磁気ディスク装置100に対し、高温環境下での動作の調整が実行される(S103)。高温環境下での動作の調整の際にも、温度、湿度、ストローク量の測定が実行される(S104)。
【0050】
図4は、第1の実施形態の磁気ディスク装置100の製造時の各プロセスで測定された温度、湿度およびマイクロアクチュエータ7のストローク量を示す模式的な図である。
【0051】
図4の例によれば、プロセス#1からプロセス#3までは、低温環境下で実施され、プロセス#4およびプロセス#5は、高温環境下で実施され、プロセス#6は、低温環境下で実施されている。
【0052】
湿度に関しては、プロセス#1からプロセス#3にかけて、湿度が上昇し、プロセス#3からプロセス#6にかけて、湿度がほぼ一定に維持されている。
【0053】
ストローク量に関しては、プロセス#1からプロセス#4にかけて、ストローク量が増加し、プロセス#5からプロセス#6にかけてストローク量が減少している。
【0054】
図3のS101およびS102の処理は、例えばプロセス#1において実施される。図3のS103およびS104の処理は、プロセス#4において実施される。これによって、異なる湿度環境下における湿度およびストローク量が測定される。つまり、SLh、SHh、hLh、およびhHhが測定される。
【0055】
図3に説明を戻す。
S104の後、Ghconst、Ghrate、C、hsなどを含む各種パラメータが取得される(S105)。なお、GhconstおよびCは、所定の方法で決定される。hsは、Ghconstが決定された際に測定される。Ghrateは、S102およびS104によって得られたSLh、SHh、hLh、およびhHhと、式(3)と、に基づく計算によって取得される。
【0056】
S105によって得られた各種パラメータは、不揮発性メモリ23に書き込まれる(S106)。その後、ケース1にヘリウムが充填され(S107)、ケース1が密封される(S108)。S108によって、磁気ディスク装置100の製造時に実行される第1の実施形態の手順が終了する。
【0057】
なお、S101〜S106の処理のうちの一部または全部は、磁気ディスク装置100自身が実行してもよい。例えば、不揮発性メモリ23に、試験用のプログラムが記録される。プロセッサ25は、当該試験用のプログラムに基づいて、S101〜S106の処理のうちの一部または全部を実現してもよい。ただし、環境の温度や湿度は、外部の装置によってコントロールされる。
【0058】
また、磁気ディスク装置100が試験装置に接続され、試験装置による制御の下で磁気ディスク装置100がS101〜S106の処理のうちの一部または全部を実行してもよい。例えば、試験装置は、磁気ディスク装置100に試験用に用意された各種のコマンドを送信し、プロセッサ25またはHDC27が当該コマンドに基づく処理を実行することで、S101〜S106の処理のうちの一部または全部を実現してもよい。
【0059】
図5は、第1の実施形態の磁気ディスク装置100の出荷後の動作、つまりホスト200に接続された状態での動作、の一例を示すフローチャートである。
【0060】
磁気ディスク装置100が使用されている際に、プロセッサ25は、制御ゲインGhの更新のタイミングが到来したか否かを判定する(S201)。
【0061】
なお、制御ゲインGhの更新のタイミングは、任意に設定される。例えば、数秒毎など、所定の周期で制御ゲインGhを更新するタイミングが設定される。プロセッサ25は、制御ゲインGhを更新するタイミングをハードウェアカウンタ(不図示)からのカウント信号に基づいて判断してもよい。
【0062】
別の例では、プロセッサ25は、湿度センサ10の出力値を常時モニタする。そして、湿度センサ10の出力値が、前回の制御ゲインGhの更新のタイミングに測定された値から所定値以上乖離した場合に、制御ゲインGhの更新のタイミングが到来したと判定してもよい。
【0063】
制御ゲインGhの更新のタイミングが到来していない場合(S201:No)、S201の処理が再び実行される。制御ゲインGhの更新のタイミングが到来した場合(S201:Yes)、プロセッサ25は、湿度を測定する(S202)。つまり、プロセッサ25は、湿度センサ10の出力値を、湿度hrとして取得する。
【0064】
続いて、プロセッサ25は、測定によって得られた湿度(湿度hr)と、不揮発性メモリ23に記録されている湿度変動ゲインGhrateと、に基づいて、制御ゲインGhを計算する(S203)。プロセッサ25は、式(1)、(2)、および(4)に基づいて制御ゲインGhを計算する。
【0065】
続いて、プロセッサ25は、S203によって取得された制御ゲインGhの計算値をアクチュエータコントローラ28に送信することによって、制御ゲインGhの設定値を制御ゲインGhの計算値で更新する(S204)。そして、S201の処理が再び実行される。
【0066】
制御ゲインGhが湿度に応じて逐次更新されるので、アクチュエータコントローラ28は、湿度に依存しない高精度な位置決め制御を実行することが可能となる。
【0067】
なお、S201〜S204はプロセッサ25によって実行されることとして説明された。S201〜S204のうちの一部または全部は、HDC27によって実行されてもよい。
【0068】
また、ケース1内にヘリウムを留めておくために、ケース1が密閉されている。つまり、ケース1が破損しない限り、ケース1内の水分の量は、S108の処理が実行されてから一定である。よって、ケース1内の水分の量がわかれば、ケース1内の湿度は、ケース1内の温度から推定することが可能である。つまり、ケース1内の温度は、湿度に対応する情報と見なすことができる。
【0069】
プロセッサ25は、温度センサ11の出力値に基づいてケース1内の湿度を推定してもよい。その場合、湿度センサ10を磁気ディスク装置100から廃することが可能である。
【0070】
湿度に対応する情報が得られる限り、温度センサ11および湿度センサ10に替えて、任意のセンサを採用することが可能である。
【0071】
なお、第1の実施形態の技術は、ケース1にヘリウムが充填された磁気ディスク装置100以外の磁気ディスク装置にも適用することが可能である。例えば、ケース1に空気を取り入れるための孔を有し、ケース1内は空気で満たされた磁気ディスク装置に対しても適用することが可能である。
【0072】
以上述べたように、第1の実施形態によれば、制御回路30は、湿度に対応した値を出力するセンサ(湿度センサ10または温度センサ11)の出力値に基づいてサーボコントローラ21によるマイクロアクチュエータ7の位置決め制御のゲインを調整する。
【0073】
これによって、湿度による位置決め精度の低下を抑制することが可能となる。
【0074】
また、不揮発性メモリ23には、マイクロアクチュエータ7の単位時間あたりの変位量(ストローク量)の変化量と湿度の変化量との間の関係を示すパラメータである湿度変動ゲインGhrateの値が記録されている。制御回路30は、湿度センサ10の出力値と、湿度変動ゲインGhrateと、に基づいてマイクロアクチュエータ7の位置決め制御のゲインを計算する。そして、制御回路30は、マイクロアクチュエータ7の位置決め制御のゲインの設定値を、計算値で更新する。
【0075】
これによって、制御ゲインGhが湿度に応じて逐次更新されるので、アクチュエータコントローラ28は、湿度に依存しない高精度な位置決め制御を実行することが可能となる。
【0076】
なお、第1の実施形態では、マイクロアクチュエータ7の単位時間あたりの変位量(ストローク量)の変化量と湿度の変化量との間の関係を示す情報の一例として、湿度変動ゲインGhrateを挙げて説明した。マイクロアクチュエータ7の単位時間あたりの変位量(ストローク量)の変化量と湿度の変化量との間の関係は、任意の情報として保持され得る。マイクロアクチュエータ7の単位時間あたりの変位量(ストローク量)の変化量と湿度の変化量との間の関係は、関数やテーブルなどの形式の情報であってもよい。
【0077】
(第2の実施形態)
第2の実施形態では、湿度センサ10の出力値に基づく位置決め制御のゲインの調整方法の別の例を説明する。この実施形態では、マイクロアクチュエータ7のストローク量と相対湿度との関係は、2次関数で近似される。
【0078】
磁気ディスク装置100の製造プロセスにおいては、3以上の湿度帯でストローク量と湿度との対が測定される。そして、3以上の湿度帯で測定されたストローク量と湿度との対から、2次関数の近似式が算出される。
【0079】
図6は、第2の実施形態にかかるマイクロアクチュエータ7のストローク量と湿度との測定結果と、当該測定結果から導き出された2次関数の数式を説明する図である。本図の例では、マイクロアクチュエータ7のストローク量と湿度との対が、4点、測定されている。そして、4点の測定結果に基づいて、下記の式(5)の近似式が算出されている。
DMA = a * h^2 + b * h + c ・・・(5)
【0080】
ここで、DMAは、マイクロアクチュエータ7のストローク量であり、第2の実施形態のゲインの一例である。hは湿度である。a、b、およびcは係数であり、ストローク量と湿度との関係を示す情報の一例である。a、b、およびcは、不揮発性メモリ24に格納される。
【0081】
なお、近似式の算出方法は、特定の方法に限定されない。例えば、最小二乗法が近似式の算出方法として採用され得る。
【0082】
磁気ディスク装置100の出荷後において、制御ゲインDMAの更新のタイミングが到来した場合、プロセッサ25は、湿度センサ10の出力値を取得して、取得した出力値を、式(5)のhに代入することによって、制御ゲインDMAを取得する。なお、式(5)に含まれる係数a、b、およびcは、不揮発性メモリ24から読み出される。
【0083】
続いて、プロセッサ25は、取得された制御ゲインDMAをアクチュエータコントローラ28に送信する。
【0084】
アクチュエータコントローラ28は、受信した制御ゲインDMAを用いてマイクロアクチュエータ7の制御を実行する。即ち、アクチュエータコントローラ28は、下記の式(6)を用いて制御を実行する。
Vma = DMA * dx + C ・・・(6)
【0085】
このように、マイクロアクチュエータ7のストローク量と相対湿度との関係は、2次関数で近似することによって、湿度センサ10の出力値に基づく位置決め制御のゲインの調整が実現する。なお、マイクロアクチュエータ7のストローク量と相対湿度との関係の近似式は、2次関数に限定されない。マイクロアクチュエータ7のストローク量と相対湿度との関係は、任意の非線形関数によって近似され得る。
【0086】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0087】
1 ケース、2 磁気ディスク、3 スピンドル、4 ボイスコイルモータ、5 回転軸、6 アーム、7 マイクロアクチュエータ、8 ジンバル部、9 磁気ヘッド、10 湿度センサ、11 温度センサ、21 サーボコントローラ、22 ヘッドアンプ、23 不揮発性メモリ、24 揮発性メモリ、25 プロセッサ、28 アクチュエータコントローラ、30 制御回路、100 磁気ディスク装置、200 ホスト。
図1
図2
図3
図4
図5
図6