【課題】信号光の帯域以外のASEを低減することにより、ASE間のビート雑音と、信号光とASEとの間のビート雑音とを低減してNFを減少させることができる半導体光増幅器を提供する。
【解決手段】半導体基板11と、半導体基板11上に積層された活性層14を含み、入射端面1aから入射された信号光を導波するとともに増幅して出射端面1bから出射する光導波路30と、活性層14の近傍に形成され、特定の反射波長帯域の光を選択的に反射する複数の回折格子32と、を備え、反射波長帯域の中心波長は信号光の波長と異なっており、複数の回折格子32は、光導波路30で発生する自然放出光のうち各回折格子32の反射波長帯域の光を、光導波路30の信号光の導波方向と異なる方向に反射する。
前記光導波路の前記信号光の導波方向に沿った前記複数の回折格子の配置順序は、各前記回折格子の前記反射波長帯域の中心波長に関して昇順又は降順であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の半導体光増幅器。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る半導体光増幅器(SOA)の実施形態について、図面を用いて説明する。なお、各図面上の各構成の寸法比は、実際の寸法比と必ずしも一致していない。
【0023】
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態に係るSOA1の斜視図であり、
図2(A)は平面図、
図2(B)は
図2(A)のA−A線断面図である。
【0024】
図1に示すように、SOA1は、例えば、n型InP(インジウム・リン)からなるn型半導体基板11と、n型半導体基板11の上に形成されるn型InPからなるn型クラッド層12と、n型クラッド層12の上に形成されるInGaAsP(インジウム・ガリウム・砒素・リン)からなる光分離閉じ込め(SCH:Separate Confinement Heterostructure)層13と、SCH層13の上に形成されるInGaAsPからなる活性層14と、活性層14の上に形成されるInGaAsPからなるSCH層15と、SCH層15の上に形成されるp型InPからなるp型クラッド層18と、が順次積層されてなる。また、半導体基板11をp型InPとする構成では、n型クラッド層12をp型InPに置き換え、p型クラッド層18をn型InPに置き換えればよい。
【0025】
なお、n型クラッド層12、SCH層13、活性層14、SCH層15、及びp型クラッド層18はメサ型の光導波路30を構成しており、このメサ型の光導波路30の両側方にp型InPからなる下部埋め込み層16及びn型InPからなる上部埋め込み層17が形成されている。
【0026】
p型InPからなるp型クラッド層18はSCH層15の上側及び上部埋め込み層17の上面に形成されており、このp型クラッド層18の上面には、p型InGaAsPからなるp型コンタクト層19が形成されている。さらに、このp型コンタクト層19の上面には、p型金属電極20が設けられている。また、n型半導体基板11の下面にはn型金属電極21が設けられている。
【0027】
SOA1の入射端面1a及び出射端面1bは、例えば劈開によって形成されており、反射率はいずれも低いものとする。さらに、入射端面1a及び出射端面1bには、反射防止膜がそれぞれ施されていてもよい。例えば、反射防止膜が施された入射端面1a及び出射端面1bの反射率は0.5%以下となる。
【0028】
図2(A)に示すように、光導波路30は、入射端面1aから入射された信号光を導波するとともに増幅して出射端面1bから出射するようになっている。なお、光導波路30を基本横モード光が伝搬する方向を光導波路30の光(信号光又はASE)の導波方向とする。図中の破線で示す光導波路30の光の導波方向は、入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いている。
【0029】
図2(B)に示すように、活性層14の近傍にあるn型クラッド層12の表面には、特定の反射波長帯域の光を選択的に反射する複数の回折格子32(32−1〜32−n)が光導波路30の光の導波方向に沿って連続的に形成されている。これら複数の回折格子32は、いわゆる分布ブラッグ反射器(Distributed Bragg Reflector:DBR)を構成している。回折格子32−1〜32−nのブラッグ波長(λ
B−j:j=1,2,・・・n)は、入射端面1aから出射端面1bに向かって離散的に変化している。これらのブラッグ波長λ
B−jは、信号光の波長と異なっており、例えば信号光の波長よりも数ナノメートル以上離れている。
【0030】
このような回折格子構造により、
図2(A)に示すようにASEが光導波路30の外側に散乱されるため、SOA1の出射端面1bからの出力光に含まれるASEが減少し、NFが低減される。
【0031】
図3は、ブラッグ波長λ
Bが1254nm,1257nm,1260nm,1263nm,1266nmである5つの回折格子32それぞれの反射スペクトラムの一例を示すグラフである。各回折格子32の結合係数κは120cm
−1、各回折格子32の領域長L
DBRは60μm、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは3nmである。ここで、結合係数κとは、回折格子が形成された光導波路を光が単位距離だけ伝搬する際に、反射される光の割合を示すパラメータである。
図3に示すように、各回折格子32の反射波長帯域はブラッグ波長λ
Bを中心に広がりを持っている。
【0032】
図4は、
図3の5つの回折格子32を含む13個の回折格子32それぞれの反射スペクトラムの和として与えられる反射スペクトラムの一例を示すグラフである。
図4(A)は縦軸の反射率を線形スケールで表示したものであり、
図4(B)は対数スケールで表示したものである。
図3と同様に、各回折格子32の結合係数κは120cm
−1、各回折格子32の領域長L
DBRは60μm、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは3nmである。このように、裾が急峻なほぼ矩形の反射スペクトラムが複数の回折格子32により生成される。このようなほぼ矩形の反射スペクトラムにより、反射波長帯域の端を信号光の波長の付近に設定することで回折格子による信号光の反射を回避しながら効率的にASEを低減することが可能である。
【0033】
図5(A)〜(C)は、光導波路30の出射端面1b付近の構造例を示す図である。既に述べたように、図中の破線で示す光導波路30の光の導波方向は、入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いている。また、各回折格子32のピッチ方向(y方向)は、入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に平行である。
【0034】
複数の回折格子32は、光導波路30で発生するASEのうち各回折格子32の反射波長帯域の光を、光導波路30の光の導波方向と異なる方向に反射する。各回折格子32−jにおける回折方向は、下記の式(1)のように与えられる。ここで、Λ
jは回折格子32−jのピッチ、θは回折格子32−jでの光の入射角及び反射角、mは自然数、λ
B−jは回折格子32−jのブラッグ波長、n
eq―jは光導波路30の回折格子32−jが形成された領域の等価屈折率である。
【数1】
【0035】
回折格子32−jに式(1)を満たす入射角θで入射したASEのうち、λ
B−jを中心波長とする回折格子32−jの反射波長帯域に含まれる波長成分の光が反射角θで反射されて光導波路30の外部に散乱される。よって、各回折格子32のピッチ方向が光導波路30の光の導波方向に対して成す角度(以下、「傾斜角度」とも称する)は、式(1)を満たす角度θであることが望ましい。
【0036】
なお、上記の説明では、光導波路30の長さ方向全体にわたって回折格子32が形成されるとしたが、本発明はこれに限定されず、光導波路30の長さ方向の一部のみに回折格子32が形成されていてもよい。ただし、ASEは光導波路30の長さ方向全体から発生するため、入射端面1aに近いところのみに回折格子32が形成されていると、出射端面1b側で発生するASEを低減できなくなってしまう。このため、少なくとも出射端面1b側には回折格子32が形成されることが重要である。
【0037】
図6は、波長λが1300nmの信号光がSOA1に入射された場合に、複数の回折格子32により反射されて光導波路30の外部に散乱された光のうち、再び光導波路30の内部に戻る光のパワーの割合をシミュレーションにより求めた結果を示すグラフである。スポットサイズω
Spotが比較的大きい光は、回折格子32による回折で波面が余り広がらないため、光導波路30に戻りにくい。また、傾斜角度θが大きいほど、光導波路30に戻る光の割合が小さくなる。例えば、傾斜角度θを8°とした場合には、スポットサイズω
Spotが1μm〜2μmの範囲の値である場合に光導波路30に戻る光のパワーの割合を10
−8以下にすることができる。
【0038】
なお、光のスポットサイズω
Spotは、例えば、
図5(B)に示すように光導波路30の幅(活性層14の幅)が出射端面1bに向かってフレア状に広がるフレア部を設けることや、
図5(C)に示すように光導波路30の幅(活性層14の幅)が出射端面1bに向かってテーパ状に狭まるテーパ部を設けることで制御することができる。
【0039】
図7は、入射端面1aから出射端面1bに向かう光導波路30の光の導波方向に沿ってN個形成された回折格子32の透過率を縦軸方向にずらして表示したグラフである。なお、
図7では、(N=)16個の回折格子32のうち、入射端面1a側から0,2,4,6,8,10,12,14,15番目の回折格子の透過率を示している。各回折格子32の結合係数κは125cm
−1、光導波路30の長さL
WGは1000μm、各回折格子32の領域長L
DBRは66.66μm、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは3nmである。
【0040】
図7(A)は、入射端面1aから出射端面1bに向かう光導波路30の光の導波方向に沿った複数の回折格子32の配置順序が、各回折格子32−jの反射波長帯域の中心波長、すなわちブラッグ波長λ
B−jに関して昇順である場合(以下、「順配列」とも称する)の各回折格子32−jの透過率を示している。また、
図7(B)は、入射端面1aから出射端面1bに向かう光導波路30の光の導波方向に沿った複数の回折格子32の配置順序が、各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して降順である場合(以下、「逆配列」とも称する)の各回折格子32−jの透過率を示している。
【0041】
図8(A)に、SOA1が
図7(A)に示したような順配列の複数の回折格子32を有する場合のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1243nm≦λ
B≦1285nmである。
図8(A)において点線は、回折格子を持たないSOAのASEスペクトラム(以下、「比較用ASEスペクトラム」とも称する)を示している。なお、比較用ASEスペクトラムの半値全幅は実測値を参照して46nmとし、ASEピークにおけるゲインは5065.7m
−1である。比較用ASEスペクトラムと比較して、順配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.516dB低減されている。
【0042】
図8(B)に、SOA1が
図7(B)に示したような逆配列の複数の回折格子32を有する場合のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1243nm≦λ
B≦1285nmである。比較用ASEスペクトラム(点線)と比較して、逆配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.202dB低減されている。
【0043】
図9及び
図10は、入射端面1aから出射端面1bに向かう光導波路30の光の導波方向に沿ってN個形成された回折格子32の透過率を縦軸方向にずらして表示したグラフである。なお、
図9及び
図10では、(N=)20個の回折格子32のうち、入射端面1a側から0,2,4,6,9,10,13,15,17,19番目の回折格子の透過率を示している。各回折格子32の結合係数κは125cm
−1、光導波路30の長さL
WGは1000μm、各回折格子32の領域長L
DBRは50μm、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは4nm、最大ゲインGは5065.7m
−1である。
【0044】
図9は、入射端面1a側の1番目からn番目までのn個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して昇順であり、n+1番目からN番目までの(N−n)個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して降順である場合(以下、「回帰型配列」とも称する)の各回折格子32−jの透過率を示している。
【0045】
図10は、入射端面1a側の1番目からn番目までのn個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して昇順であり、n+1番目からN番目までの(N−n)個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して昇順であり、n番目の回折格子32−nのブラッグ波長λ
B−nがn+1番目の回折格子32−(n+1)のブラッグ波長λ
B−(n+1)よりも大きい場合(以下、「繰返し型配列」とも称する)の各回折格子32−jの透過率を示している。
【0046】
図11(A)に、SOA1が
図9に示したような回帰型配列の複数の回折格子32を有する場合のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1249nm≦λ
B≦1285nmである。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、回帰型配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.596dB低減されている。
【0047】
また、
図11(B)は、入射端面1a側の1番目からn番目までのn個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して降順であり、n+1番目からN番目までの(N−n)個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して昇順である場合(以下、「反転回帰型配列」とも称する)のSOA1のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示している。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1249nm≦λ
B≦1285nmである。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、反転回帰型配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.433dB低減されている。
【0048】
図12(A)に、SOA1が
図10に示したような繰返し型配列の複数の回折格子32を有する場合のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1249nm≦λ
B≦1285nmである。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、繰返し型配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEスペクトラム(実線)は、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.607dB低減されている。
【0049】
また、
図12(B)は、入射端面1a側の1番目からn番目までのn個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して降順であり、n+1番目からN番目までの(N−n)個の回折格子32の配置順序が各回折格子32−jのブラッグ波長λ
B−jに関して降順であり、n番目の回折格子32−nのブラッグ波長λ
B−nがn+1番目の回折格子32−(n+1)のブラッグ波長λ
B−(n+1)よりも小さい場合(以下、「反転繰返し型配列」とも称する)のSOA1のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示している。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1249nm≦λ
B≦1285nmである。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、反転繰返し型配列の複数の回折格子32を有するSOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.423dB低減されている。
【0050】
図13は、各回折格子32の結合係数κを125cm
−1、光導波路30の長さL
WGを1000μmとして、回折格子32の個数を変化させた場合のASEスペクトラムをシミュレーションにより求めた一例を示している。ここで、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1237.5nm≦λ
B≦1285nmである。
図13に示す3種類のASEスペクトラムについて、各回折格子32の領域長L
DBRと、回折格子32の個数N
DBRと、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bの値を
図14に示す。
【0051】
図13の結果から、個数N
DBRが増えて複数の回折格子32全体がいわゆるチャープドグレーティング構造に近づくほど、比較用ASEスペクトラム(点線)のピークの周波数付近のASEと、信号光の波長(例えば1300nm)の付近のASEとを急峻に切り取ることができなくなることが分かる。
【0052】
なお、上記の説明では、複数の回折格子32が活性層14の下方のみに形成された例を示したが、本発明はこれに限定されず、
図15に示すように複数の回折格子32と同様の複数の回折格子31(31−1〜31−n)が活性層14の上方のみに形成されてもよい。複数の回折格子31は、活性層14の近傍にあるSCH層15の表面に光導波路30の光の導波方向に沿って連続的に形成される。あるいは、p型クラッド層18の中に回折格子を設ける構造としてもよい。また、複数の回折格子31が活性層14の上方のみに形成された構成も、複数の回折格子32が活性層14の下方のみに形成された構成と同様の効果を奏することができる。
【0053】
また、上記の説明では、光導波路30の光の導波方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いており、各回折格子32のピッチ方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に平行であるとしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図16に示すように、光導波路30の光の導波方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して平行であり、各回折格子32のピッチ方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いていてもよい。あるいは、光導波路30の光の導波方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いているとともに、各回折格子32のピッチ方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して0°以外の角度で傾いていてもよい。
【0054】
上述のように、
図16には、各回折格子32のピッチ方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して一定の傾斜角度で傾いている例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図17に示すように、光導波路30の光の導波方向に沿って隣り合う回折格子32,32'のブラッグ波長λ
B,λ
B'が互いに異なる場合、回折格子32のピッチ方向と回折格子32'のピッチ方向とが異なっていてもよい。例えば、回折格子32において同一位相を有する回折格子の山(もしくは谷)が導波路中心線(破線)に立てた垂直線(ここでは境界線L−L')に対して成す角度θの符号と、回折格子32'において同一位相を有する回折格子の山(もしくは谷)がL−L'に対して成す角度θ'の符号とは、互いに逆となってもよい。なお、後述する曲り導波路部分において隣り合う回折格子についても、各回折格子において同一位相を有する回折格子の山(もしくは谷)が導波路中心線に立てた垂直線に対して成す角度の符号は、互いに逆となっていてもよい。
【0055】
また、
図16等には、光導波路30の光の導波方向が入射端面1a及び出射端面1bの法線方向に対して一定の角度を成している例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図18(A)〜(C)に示すように、入射端面1a又は出射端面1bにおける端面反射を抑制するために、光導波路30が所定の曲率半径の曲り導波路部分を含んでいてもよい。例えば、
図18(A),(B)は、出射端面1b側に曲率半径R
1の曲り導波路が形成されるとともに、入射端面1a側に曲率半径R
2の曲り導波路が形成される例を示している。
図18(A)は、曲率半径R
1の曲率円の中心O
1と、曲率半径R
2の曲率円の中心O
2とが、導波路中心線に対して同じ側に位置する例である。一方、
図18(B)は、曲率半径R
1の曲率円の中心O
1と、曲率半径R
2の曲率円の中心O
2とが、導波路中心線に対して異なる側に位置する例である。
【0056】
また、
図18(C)は、光導波路30が、入射端面1a側において光の導波方向が入射端面1aに垂直な直線導波路を有する一方で、出射端面1b側において曲率半径R
1の曲り導波路を有する例を示している。あるいは、光導波路30が、出射端面1b側において光の導波方向が出射端面1bに垂直な直線導波路を有する一方で、入射端面1a側において曲り導波路を有する構成であってもよい。
【0057】
以下、
図19を用いて、本実施形態における曲り導波路における回折格子32の形成法を述べる。
図19(A)に示すように、曲線A−A'及び曲線B−B'を曲り導波路の境界とする。また、これら両曲線の間に存在する曲り導波路の導波路中心線C−C'中の任意の点Dにおける接線をP−P'とし、これに垂直な線分をQ−Q'とする。このとき、回折格子32において同一位相を有する山(もしくは谷)T−T'が線分Q−Q'に対して成す角度が+θとなるように、回折格子32を形成する。あるいは、回折格子32において同一位相を有する山(もしくは谷)S−S'が線分Q−Q'に対して成す角度が−θとなるように、回折格子32を形成する。ただし、ブラッグ波長が同一の回折格子ユニット内では、この角度の符号は同一とする。
【0058】
また、回折格子中の、ある山と隣接した山、もしくは、ある谷と隣接した谷の間隔をピッチと呼ぶことにすると、所望のピッチを導波路中心線C−C'上で作製することが望ましいが、例えば曲線A−A'上でピッチを設定してもよい。この場合、
図19(B)に示すように、曲り導波路の点Dにおける曲率半径をR、導波路幅をWとすると、ピッチを導波路中心線C−C'上で作製したものに対して(1+W/2R)倍にすればよい。一方、曲線B−B'上でピッチを設定する場合、ピッチを導波路中心線C−C'上で作製したものに対して(1−W/2R)倍にすればよい。
【0059】
図20に曲り導波路に形成される回折格子の例を示す。
図20(A)は、曲率半径Rの曲り導波路において、回折格子の同一位相を有する山(もしくは谷)が、導波路中心線の接線に垂直な直線に対して成す角度が+θとなる構成を示している。また、
図20(A)に示すように、直線導波路において、回折格子の同一位相を有する山(もしくは谷)が、導波路中心線の接線に垂直な直線に対して成す角度が−θとなってもよい。一方、
図20(B)は、曲率半径Rの曲り導波路と直線導波路において、回折格子の同一位相を有する山(もしくは谷)が、導波路中心線の接線に垂直な直線に対して成す角度が−θとなる構成を示している。
【0060】
図21は、
図18に示した光導波路30の構成の変形例を示している。
図18に示した例では、回折格子のピッチが、曲り導波路の曲率中心に近い内側よりも曲率中心から遠い外側で僅かに広がっている。このため、曲り導波路の内側から外側に向かってブラッグ波長が連続的に高くなる方向に変化しており、曲り導波路の幅方向にチャープドグレーティング構造が形成されたような構造となっている。これを避けるために、
図21の例では、曲り導波路の部分に回折格子を形成しない構成としている。
【0061】
以上説明したように、本実施形態に係るSOA1は、光導波路30で生じて増幅されたASEを、複数の回折格子32により光導波路30の外に回折させることにより、信号光の帯域以外のASEを低減することができる。これにより、本実施形態に係るSOA1は、ASE間のビート雑音と、信号光とASEとの間のビート雑音とを低減してNFを減少させることができる。
【0062】
また、本実施形態に係るSOA1は、各回折格子32のピッチ方向が光導波路30の光の導波方向に対してゼロではない角度を成すため、光導波路30で発生するASEを信号光の導波方向と異なる方向に反射させて、出射端面1bから出射されるASEを低減することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るSOA1はNF特性が向上しているため、SOA1をプリアンプとして用いる場合には光伝送系の構築が容易となり、コスト削減をもたらすことができる。
【0064】
また、本実施形態に係るSOA1は、光導波路30内のASEの光子密度を抑圧できるため、活性層14内のキャリア密度の低下を抑圧することができる。また、本実施形態に係るSOA1は、活性層14内のキャリア密度の低下を抑圧できることにより、活性層14の反転分布パラメータの増大を抑制して、NF特性を更に向上させることができる。さらに、本実施形態に係るSOA1は、活性層14内のキャリア密度の低下を抑圧できることにより、飽和利得特性の改善も期待できる。
【0065】
(第2の実施形態)
続いて、本発明の第2の実施形態に係るSOA2について図面を参照しながら説明する。なお、第1の実施形態と同様の構成については同一の符号を付して適宜説明を省略する。また、第1の実施形態と同様の動作についても適宜説明を省略する。
【0066】
第1の実施形態では、複数の回折格子31,32が活性層14の上方又は下方のみに形成されたSOA1(以下、「単層型SOA」とも称する)を示したが、本発明はこれに限定されず、複数の回折格子31,32が、
図22に示すように活性層14の上方及び下方に形成されてもよい。
【0067】
図22は、複数の回折格子32−1〜32−nが活性層14の下方に形成され、複数の回折格子31(31−1〜31−n)が活性層14の上方に形成されたSOA2(以下、「積層型SOA」とも称する)の構成例を示している。
【0068】
第1の実施形態と同様に、活性層14の下方に形成された回折格子32−1〜32−nは、順配列、逆配列、回帰型配列、反転回帰型配列、繰返し型配列、反転繰返し型配列のいずれかの配列で配置される。また、活性層14の上方に形成された回折格子31−1〜31−nは、回折格子32−1〜32−nの配列に合わせて、順配列、逆配列、回帰型配列、反転回帰型配列、繰返し型配列、反転繰返し型配列のいずれかの配列で配置される。
【0069】
ただし、活性層14の上方及び下方に形成された回折格子31,32のピッチが全く同じ場合、回折格子の山と谷の位置が上下で完全に逆になってしまうと、等価屈折率の分布を打ち消し合ってしまう。このため、
図22の構成では、上下の回折格子31,32のピッチを異ならせることにより、等価屈折率の変化が全体的にゼロにならないようにしている。
図23に、上側の回折格子31−jのブラッグ波長λ
LB−jが1285nm、下側の回折格子32−jのブラッグ波長λ
SB−jが1245nm、各回折格子31−j,32−jの結合係数κが100cm
−1である場合の、SOA2の等価屈折率n
eq―jの分布例を示す。
【0070】
図24は、本実施形態のSOA2における進行波の増幅特性(○印)と、第1の実施形態のSOA1における進行波の増幅特性(□印)を示すグラフである。着目する回折格子31−j,32−jの結合係数κは100cm
−1、領域長L
DBRは100μm、ゲインGは50.66cm
−1、ブラッグ波長λ
Bは1285nmである。横軸のδλは、着目する回折格子31−j,32−jに入射する光の波長λとブラッグ波長λ
Bとの差を表している。
【0071】
図24の結果から、回折格子の結合係数κが同一であれば、単層型SOA1と積層型SOA2の進行波増幅特性は、ほぼ同一であることが分かる。
【0072】
図25(A)に、単層型SOA1のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、単層型SOA1のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては0.9944dB低減されている。ここで、単層型SOA1の各回折格子32の結合係数κは100cm
−1、光導波路30の長さL
WGは1000μm、各回折格子32の領域長L
DBRは100μm、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは2.5nmである。また、複数の回折格子32のブラッグ波長λ
Bの範囲は、1267.5nm≦λ
B≦1283.25nmである。また、
図25におけるASEのピーク波長は1290nmであり、ASEスペクトラムの半値全幅は46nmである。
【0073】
図25(B)に、積層型SOA2のASEスペクトラム(実線)をシミュレーションにより求めた一例を示す。比較用ASEスペクトラム(点線)に対して、積層型SOA2のASEは、信号光の波長(例えば1300nm)よりも短波長側が低減されており、全体としては1.548dB低減されている。ここで、積層型SOA2の各回折格子31,32の結合係数κは100cm
−1、光導波路30の長さL
WGは1000μm、各回折格子31,32の領域長L
DBRは100μm、複数の回折格子31,32のブラッグ波長λ
Bの間隔Δλ
Bは1.75nmである。また、活性層14の下方に形成された回折格子32のブラッグ波長λ
SBの範囲は、1260nm≦λ
SB≦1275.75nmである。また、活性層14の上方に形成された回折格子31のブラッグ波長λ
LBの範囲は、1274.25nm≦λ
LB≦1290nmである。
【0074】
図25の結果から、回折格子の結合係数κ、光導波路30の長さL
WG、回折格子の領域長L
DBRが等しい場合には、積層型SOA2が単層型SOA1よりも効果的にASEを低減できることが分かる。
【0075】
なお、上記の説明では、活性層14の上方及び下方に複数の回折格子31,32が2層形成されるとしたが、本発明はこれに限定されず、活性層14の上方及び/又は下方に複数の回折格子が3層以上形成されていてもよい。
【0076】
図26は、信号光の波長を1300nm、SOAに対する入射側光ファイバ内の信号光パワーを−25dBmとした場合に、複数のDBRが形成されていない従来のSOA(○印)、本実施形態の単層型SOA(□印)、本実施形態の積層型SOA(△印)における信号光のNFをそれぞれシミュレーションにより求めた結果を示すグラフである。
図26の横軸は、各SOAの入射端面側における光ファイバと光導波路との光結合効率である。
【0077】
例えば、光結合効率が−3dBの場合、単層型SOAのNFは従来のSOAに対して1dB程度減少し、積層型SOAのNFは従来のSOAに対して1.3dB程度減少する。これに対して、従来のSOAにおいて、光結合効率を−3dBから−1dBに向上させた場合のNFの減少は、0.7dB程度である。つまり、SOAに複数のDBRを設ける本発明の構成は、従来のSOAにおいて光結合効率を向上させる試みよりも効果的にNFを低減できると言える。さらに、積層型SOAにおいて光結合効率を−1dBとした場合には、4.8dB程度の非常に良好なNFを達成することができる。
【0078】
以下、本発明に係るSOA2の製造方法の一例を説明する。
【0079】
まず、有機金属気相成長(MOVPE)法を用いてn型InPからなるn型半導体基板11上に、n型InPからなるn型クラッド層12をエピタキシャル成長する。
【0080】
次に、フォトレジスト又は電子ビームレジストをn型クラッド層12の表面に塗布し、干渉露光法又は電子ビーム描画法によって回折格子パターン露光を行い、現像及びウェットエッチングによって複数の回折格子32を作製する。回折格子32のピッチは希望するブラッグ波長によって異なる。
【0081】
次に、回折格子32が形成されたn型クラッド層12上に、InGaAsPからなるSCH層13をエピタキシャル成長する。
【0082】
次に、SCH層13の上に、MQW構造又はSQW構造の活性層14を形成する。このようにして形成された活性層14の上にSCH層15を形成する。
【0083】
次に、フォトレジスト又は電子ビームレジストをSCH層15の表面に塗布し、干渉露光法又は電子ビーム描画法によって回折格子パターン露光を行い、現像及びウェットエッチングによって複数の回折格子31を作製する。回折格子31のピッチは希望するブラッグ波長によって異なる。
【0084】
次に、回折格子31が形成されたSCH層15の上に、p型InPからなるp型クラッド層18の下層部を成長形成する。さらに、プラズマCVD法を用いてSiN
x膜又はSiO
2膜からなる絶縁膜をp型クラッド層18の下層部の上面に積層した後、レジストを塗布し、フォトリソグラフィによってストライプ状のマスクパターンを露光して現像する。
【0085】
このストライプ状のマスクパターンを用いて、絶縁膜の両側をフッ酸によるエッチングで除去する。続いて残ったレジストを剥離除去して、ストライプ状のマスクパターンの形状が転写された絶縁膜のエッチングマスクを形成する。
【0086】
そして、上記により設定された絶縁膜のエッチングマスクと、塩酸、過酸化水素水、及び水の混合液からなるエッチング液を用いて、p型クラッド層18の下層部、SCH層15、活性層14、SCH層13、n型クラッド層12をウェットエッチングして、メサストライプを形成する。
【0087】
次に、ウェットエッチングで除去された部分にMOVPE法を用い、絶縁膜のエッチングマスクを成長阻害マスクとして利用して、p型InPからなる下部埋め込み層16及びn型InPからなる上部埋め込み層17を順次積層して埋め込む。
【0088】
次に、絶縁膜のエッチングマスクをフッ酸で除去して、メサストライプの上面を表出し、p型クラッド層18の下層部と組成の等しいp型InPからなる埋め込み層を積層してp型クラッド層18を完成し、その上部にp型InGaAsPからなるp型コンタクト層19をMOVPE法によって積層する。
【0089】
そして、p型コンタクト層19上にp型金属電極20を、n型半導体基板11の底面にn型金属電極21を蒸着法で形成して、アロイ、メッキ工程を行い、半導体ウエハを完成する。
【0090】
次に、この半導体ウエハに対して所定位置で劈開やダイシングを行うことにより、個々のチップに分離する。さらに、分離されたチップの入射端面1a及び出射端面1bに反射防止膜を形成する。これで本実施形態のSOA2が完成する。
【0091】
以上説明したように、本実施形態に係るSOA2は、複数の回折格子31,32を活性層14の上方及び下方に形成した構成とすることにより、更にASEを低減することができる。