【解決手段】本発明による酸化インジウムを主成分とする焼結体は、ストロンチウムと、ゲルマニウムとをさらに含有し、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たす。
前記ストロンチウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.35mol%以下の範囲で含有される、請求項1に記載の焼結体。
前記ゲルマニウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.13mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有される、請求項1または2に記載の焼結体。
亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有する、請求項1〜9のいずれかに記載の焼結体。
前記選択される元素は、前記酸化インジウムに対して、前記選択される元素の酸化物換算で、0.5mol%以上15mol%以下の範囲で含有される、請求項10に記載の焼結体。
前記仮焼するステップは、前記酸化インジウム粉末と、前記ストロンチウムを含有する原料粉末との混合粉末を、1200℃以上1400℃以下の温度範囲で焼成する、請求項12に記載の方法。
前記仮焼するステップは、前記混合粉末を、前記温度範囲内で、第1の温度で仮焼し、次いで、前記第1の温度より高い第2の温度で仮焼する、請求項13に記載の方法。
前記焼結するステップは、前記仮焼体と、前記ゲルマニウムを含有する原料粉末との混合粉末を、1200℃以上1500℃以下の温度範囲で焼結する、請求項12〜16のいずれかに記載の方法。
前記焼結するステップは、前記混合粉末を、前記温度範囲内で、第3の温度で焼結し、次いで、前記第3の温度より高い第4の温度で焼結する、請求項17に記載の方法。
前記焼結するステップは、亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する原料粉末をさらに混合する、請求項12〜23のいずれかに記載の方法。
前記選択される元素を含有する原料粉末は、前記酸化インジウム粉末に対して、前記選択される元素の酸化物換算で、0.5mol%以上15mol%以下の範囲を満たすように混合される、請求項24に記載の方法。
前記焼結するステップは、前記仮焼体と、前記ゲルマニウムを含有する原料粉末との混合粉末を、700℃以上1200℃未満の温度範囲で、1時間以上24時間以下の時間、仮焼した後、焼結する、請求項12〜25のいずれかに記載の方法。
前記酸化インジウム薄膜は、亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有する、請求項29に記載のガスセンサ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、酸化インジウムを主成分とする高い相対密度を有する焼結体、その製造方法、それを用いたターゲットおよびガスセンサを提供することである。本発明のさらなる課題は、導電性を制御した酸化インジウムを主成分とする高密度な焼結体、その製造方法、それを用いたターゲットおよびガスセンサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による酸化インジウムを主成分とする焼結体は、ストロンチウムと、ゲルマニウムとをさらに含有し、前記ストロンチウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、前記ゲルマニウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、前記換算された酸化ストロンチウムに対する前記酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記ストロンチウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.35mol%以下の範囲で含有されてもよい。
前記ゲルマニウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.13mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有されてもよい。
前記換算された酸化ストロンチウムに対する前記酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上2以下の範囲を満たしてもよい。
前記換算された酸化ストロンチウムに対する前記酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上1.5以下の範囲を満たしてもよい。
前記ストロンチウムは、粒界相に位置し、前記ゲルマニウムは、前記酸化インジウムに固溶していてもよい。
前記粒界相は、前記ストロンチウムとインジウムと酸素とからなるガラス相を含んでもよい。
前記ガラス相は、SrInO
4で表される相であってもよい。
前記焼結体の相対密度が97%以上であってもよい。
亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有してもよい。
前記選択される元素は、前記酸化インジウムに対して、前記選択される元素の酸化物換算で、0.5mol%以上15mol%以下の範囲で含有されてもよい。
本発明による酸化インジウムを主成分とする焼結体を製造する方法は、酸化インジウム粉末と、ストロンチウムを含有する原料粉末とを混合し、仮焼するステップと、前記仮焼するステップで得られた仮焼体と、ゲルマニウムを含有する原料粉末とを混合し、少なくとも酸素を含有する雰囲気中で焼結するステップとを包含し、前記ストロンチウムを含有する原料粉末は、前記酸化インジウム粉末に対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合され、前記ゲルマニウムを含有する原料粉末は、前記酸化インジウム粉末に対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合され、前記換算された酸化ストロンチウムに対する前記酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記仮焼するステップは、前記酸化インジウム粉末と、前記ストロンチウムを含有する原料粉末との混合粉末を、1200℃以上1400℃以下の温度範囲で焼成してもよい。
前記仮焼するステップは、前記混合粉末を、前記温度範囲内で、第1の温度で仮焼し、次いで、前記第1の温度より高い第2の温度で仮焼してもよい。
前記第1の温度は、1200℃以上1300℃以下の範囲であり、前記第2の温度は、1300℃以上1400℃以下の範囲であってもよい。
前記仮焼するステップは、4時間以上24時間以下の時間、大気中または酸素雰囲気中で行ってもよい。
前記焼結するステップは、前記仮焼体と、前記ゲルマニウムを含有する原料粉末との混合粉末を、1200℃以上1500℃以下の温度範囲で焼結してもよい。
前記焼結するステップは、前記混合粉末を、前記温度範囲内で、第3の温度で焼結し、次いで、前記第3の温度より高い第4の温度で焼結してもよい。
前記第3の温度は、1200℃以上1400℃以下の範囲であり、前記第4の温度は、1400℃以上1500℃以下の範囲であってもよい。
前記焼結するステップは、0.5時間以上24時間以下の時間、大気中または酸素雰囲気中で行ってもよい。
前記焼結するステップは、前記仮焼体と、ゲルマニウムを含有する原料粉末とを混合し、成形し、焼結してもよい。
前記ストロンチウムを含有する原料粉末は、炭酸ストロンチウムおよび/または酸化ストロンチウムであってもよい。
前記ゲルマニウムを含有する原料粉末は、酸化ゲルマニウムであってもよい。
前記焼結するステップは、亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する原料粉末をさらに混合してもよい。
前記選択される元素を含有する原料粉末は、前記酸化インジウム粉末に対して、前記選択される元素の酸化物換算で、0.5mol%以上15mol%以下の範囲を満たすように混合されてもよい。
前記焼結するステップは、前記仮焼体と、前記ゲルマニウムを含有する原料粉末との混合粉末を、700℃以上1200℃未満の温度範囲で、1時間以上24時間以下の時間、仮焼した後、焼結してもよい。
本発明による物理的気相成長法で用いる焼結体からなるターゲットは、前記焼結体が、上述のいずれかに記載の焼結体であり、これにより上記課題を解決する。
前記物理的気相成長法は、スパッタ法、パルスレーザ堆積法および蒸着法からなる群から選択されてもよい。
本発明によるガスセンサは、基板と、前記基板上に位置するガス感応膜と、前記ガス感応膜に位置する一対の電極とを備え、前記ガス感応膜は、酸化インジウムを主成分とし、ストロンチウムと、ゲルマニウムとをさらに含有する酸化インジウム薄膜からなり、前記ストロンチウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、前記ゲルマニウムは、前記酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、前記換算された酸化ストロンチウムに対する前記酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たし、これにより上記課題を解決する。
前記酸化インジウム薄膜は、亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有してもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明による酸化インジウムを主成分とする焼結体は、ストロンチウムと、ゲルマニウムとをさらに含有する。ストロンチウムとゲルマニウムとは、それぞれ、液相となる温度が異なっており、このように液相となる温度の異なる元素を用いることにより、焼結体中に空隙が生じることが抑制される。
【0009】
さらに、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たす。このような特定の条件を満たすことにより、相対密度が95%以上の高密度の焼結体を提供できる。このような焼結体は、物理的気相成長法のターゲットに使用できる。得られた薄膜は、焼結体の組成を反映しており、揮発性有機化合物や水素等のガスと反応し、ガス感応膜として機能するため、ガスセンサを提供できる。
【0010】
本発明による酸化インジウムを主成分とする焼結体を製造する方法は、酸化インジウム粉末と、ストロンチウムを含有する原料粉末とを混合し、仮焼するステップと、それにより得られた仮焼体と、ゲルマニウムを含有する原料粉末とを混合し、少なくとも酸素を含有する雰囲気中で焼結するステップとを包含する。先に酸化インジウムにストロンチウムを固溶させ、次に、ゲルマニウムを反応させることにより、焼結時にストロンチウムとゲルマニウムとの液相となる温度差に起因し、酸化インジウムに固溶したストロンチウムの一部が粒界相へと排出され、ゲルマニウムは酸化インジウムへと固溶するので、焼結体に空隙が発生することが抑制される。
【0011】
さらに、ストロンチウムを含有する原料粉末は、酸化インジウム粉末に対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合され、ゲルマニウムを含有する原料粉末は、酸化インジウム粉末に対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合され、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たす。このような特定の条件を満たすことにより、相対密度が95%以上の固密度の焼結体を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。なお、同様の要素には同様の番号を付し、その説明を省略する。
【0014】
(実施の形態1)
実施の形態1では、本発明の焼結体およびその製造方法について説明する。
図1は、本発明の焼結体の模式図である。
【0015】
本発明の焼結体100は、酸化インジウムを主成分とする焼結体である。詳細には、本発明の焼結体100は、酸化インジウムに加えて、ストロンチウム(Sr)と、ゲルマニウム(Ge)とを含有する。ここで、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有される。さらに、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たす。これにより、95%以上の相対密度を有する焼結体となる。
【0016】
好ましくは、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で0.1mol%以上0.35mol%以下の範囲で含有される。これにより、後述するストロンチウムを含有するガラス相が生成され、95%以上の相対密度を有する焼結体となる。
【0017】
好ましくは、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で0.13mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有される。これにより、後述するゲルマニウムの酸化インジウムへの拡散が進み、95%以上の相対密度を有する焼結体となる。さらに、好ましくは、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で0.18mol%以上0.4mol%以下の範囲で含有される。
【0018】
好ましくは、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上2以下の範囲を満たす。これにより、ストロンチウムおよびゲルマニウムの相互拡散が促進し、95%以上の相対密度を有する焼結体となる。上限は当然に100%以下である。さらに好ましくは、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上1.5以下の範囲を満たす。これにより、ストロンチウムおよびゲルマニウムの相互拡散がさらに促進し、97%以上の相対密度を有する焼結体となる。組成条件によっては98%以上の相対密度も達成できる。
【0019】
なお、相対密度は、得られた焼結体の密度(焼結体の嵩密度)と、酸化インジウムの理論密度との比(嵩密度/理論密度)を百分率で表した比率を意図する。ここで、本発明の焼結体では、酸化インジウムにストロンチウムおよびゲルマニウムが含有されるが、その含有量は上述したとおりきわめて微量であるため、酸化インジウムの理論密度を用い、相対密度を算出する。酸化インジウムの理論密度は、7.18g/cm
3である。
【0020】
本発明の焼結体100は、酸化インジウムを主成分とし、これにストロンチウムおよびゲルマニウムをさらに含有するが、より好ましくは、
図1に模式的に示すように、ゲルマニウムの少なくとも一部は、酸化インジウム粒子110に固溶しており、ストロンチウムの少なくとも一部は、粒界相120に位置する。このように微細組織が構成されることにより、穴(ポア)130の生成が抑制され、95%以上の相対密度を有する焼結体100となる。なお、酸化インジウム粒子110がストロンチウムをさらに含有していてもよいし、粒界相120がゲルマニウムをさらに含有していてもよい。
【0021】
詳細には、粒界相120は、ストロンチウムとインジウムと酸素とからなるガラス相であり得る。このようなガラス相は、SrInO
4である。これにより、95%以上の相対密度を有する焼結体100となる。
【0022】
本発明の焼結体100は、さらに、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、および、ガリウム(Ga)からなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有してもよい。これにより、本発明の焼結体100の導電性を制御できる。例えば、2価または3価の金属元素を添加すれば、本発明の焼結体100を高抵抗化でき、4価の金属元素を添加すれば、本発明の焼結体100を低抵抗化できる。これらの組み合わせにより所望の抵抗率を有する焼結体100を提供できる。
【0023】
このような選択される元素は、好ましくは、0.5mol%以上15mol%以下の範囲で含有される。この範囲であれば、酸化インジウムの結晶構造は安定である。2種以上選択される場合には、元素の合計の含有率が上記範囲となるようにすればよい。このような選択される元素は、好ましくは、1mol%以上10mol%以下の範囲で含有される。
【0024】
上述してきたように、本発明の焼結体100は、酸化インジウムに加えて、そこに固溶するゲルマニウムおよびストロンチウム、さらに粒界に位置するガラス相、必要に応じて、添加元素を含有し得るが、全体としての結晶構造は酸化インジウムの結晶構造(立方晶系、空間群Ia3−、空間群番号206)を維持し得る。このような観点から、本発明の焼結体において、酸化インジウムを主成分とする量は、80質量%以上であり、好ましくは90質量%以上である。
【0025】
本発明の焼結体100は、95%以上の相対密度を有するため、物理的気相成長法におけるターゲットに好適である。ここで、物理的気相成長法とは、スパッタ法、パルスレーザ堆積法、蒸着法が挙げられる。本発明の焼結体100をターゲットに用いれば、酸化インジウム薄膜を提供できる。なお、本発明の焼結体100が上述した導電性制御の元素を含有しない場合には、多元マグネトロンスパッタリング装置などを用いて、導電性制御の元素からなるターゲットを同時に用いてもよい。
【0026】
図2は、本発明の焼結体を製造するステップを示すフローチャートである。
図3は、本発明の焼結体を製造する様子を示す模式図である。
【0027】
ステップS210:酸化インジウム粉末310とストロンチウムを含有する原料粉末320とを混合し、仮焼する。ここで、ストロンチウムを含有する原料粉末320は、酸化インジウム粉末310に対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合される。これにより、ストロンチウムが酸化インジウムに固溶した仮焼体330が得られる。
【0028】
ステップS220:ステップS210で得られた仮焼体330と、ゲルマニウムを含有する原料粉末340とを混合し、少なくとも酸素を含有する雰囲気中で焼結する。ここで、ゲルマニウムを含有する原料粉末340は、酸化インジウム粉末310に対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲を満たすように混合され、さらに、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は1以上3以下の範囲を満たす。これにより、95%以上の相対密度を有する焼結体100(
図1)が得られる。
【0029】
本願発明者は、先に酸化インジウムにストロンチウムを固溶させ(ステップS210)、次に、酸化ゲルマニウムを反応させる(ステップS220)ことにより、焼結時にストロンチウムとゲルマニウムとの液相となる温度差(酸化ストロンチウムの液相になる温度(融点):2531℃、炭酸ストロンチウムの液相になる温度(融点):1497℃、酸化ゲルマニウムの液相になる温度(融点):1115℃)に起因し、焼結体100(
図1)において、酸化インジウムに固溶したストロンチウムの一部が粒界相350へと排出され、ゲルマニウムは酸化インジウムへと固溶し、少なくともゲルマニウムが固溶した酸化インジウム粒子360となる。なお、酸化インジウム粒子360中にストロンチウムの一部がさらに固溶していてもよい。このようなストロンチウムとゲルマニウムとの拡散により、焼結体にポアが発生することが抑制され、95%以上の相対密度を有する焼結体となることを見出した。
【0030】
以降では各ステップについて詳細に説明する。
【0031】
ステップS210において、混合には、乾式または湿式によるボールミルや振動ミルを採用できる。
【0032】
ステップS210において、ストロンチウムを含有する原料粉末320は、ストロンチウムを含有し、焼成により酸化ストロンチウムとなるものであれば特に制限はないが、例示的には、炭酸ストロンチウム、酸化ストロンチウムが挙げられ、これらを単独または混合してもよい。
【0033】
ステップS210において、好ましくは、酸化インジウム粉末310と、ストロンチウムを含有する原料粉末320との混合粉末を、1200℃以上1400℃以下の温度範囲で焼成する。これにより、ストロンチウムを含有する原料320中のストロンチウムが酸化インジウムに固溶した仮焼体330を効率的に得ることができる。
【0034】
ステップS210において、さらに好ましくは、酸化インジウム粉末310と、ストロンチウムを含有する原料粉末320との混合粉末を、1200℃以上1400℃以下の温度範囲内において、第1の温度で仮焼し、次いで、第1の温度より高い第2の温度で仮焼する。このような二段階の仮焼によって、ストロンチウムを含有する原料320中のストロンチウムが酸化インジウムに固溶した仮焼体330を効率的に得ることができる。
【0035】
二段階の仮焼において、第1の温度は、好ましくは、1200℃以上1300℃以下の範囲であり、第2の温度は、1300℃以上1400℃以下の範囲である。これにより、ストロンチウムの酸化インジウムへの固溶を促進できる。
【0036】
ステップS210において、仮焼は、好ましくは、4時間以上24時間以下の時間、大気中または酸素雰囲気中で行う。仮焼時間が4時間未満の場合、十分にストロンチウムが酸化インジウムに固溶しない場合がある。仮焼時間が24時間を超えても、ストロンチウムの酸化インジウムへの固溶はそれ以上促進しないため非効率である。なお、二段階の仮焼をする場合には、合計の仮焼時間が上記範囲となるようにすればよい。
【0037】
ステップS220において、ゲルマニウムを含有する原料粉末340は、焼成により酸化ゲルマニウムとなるものであれば特に制限はないが、例示的には、酸化ゲルマニウムが挙げられる。
【0038】
ステップS220において、仮焼体330と、ゲルマニウムを含有する原料粉末340とを混合し、成形し、焼結する。成形には、金型プレス、一軸ラバープレス、CIPプレス、押出成形、射出成形等の公知の成形法を採用できる。なお、混合後に、乾式または湿式によるボールミルや振動ミル、さらには、分級を行ってもよい。
【0039】
ステップS220において、好ましくは、仮焼体330と、ゲルマニウムを含有する原料粉末340との混合粉末を、1200℃以上1500℃以下の温度範囲で焼結する。これにより、ストロンチウムとゲルマニウムとの拡散が生じ、本発明の焼結体100が得られる。1200℃未満の温度ではゲルマニウムが十分に液相とならない場合がある。1500℃を超えると、高価な高温炉が必要となり、製造コストが増大し得る。特に、この温度範囲ではストロンチウムとゲルマニウムは電気的中性を保つために酸化インジウムに固溶できる。つまり、Sr
2+とGe
4+ではIn
3+の2席を占有できる。また、極僅かな二次相を生成してもその生成物は焼結体内で安定である。
【0040】
ステップS220において、さらに好ましくは、仮焼体330と、ゲルマニウムを含有する原料粉末340との混合粉末を、1200℃以上1500℃以下の温度範囲内において、第3の温度で焼結し、次いで、第3の温度より高い第4の温度で焼結する。このような二段階の焼結によって、高い相対密度を有する焼結体100を効率的に得ることができる。
【0041】
二段階の焼結において、第3の温度は、好ましくは、1200℃以上1400℃以下の範囲であり、第4の温度は、1400℃以上1500℃以下の範囲である。これにより、ストロンチウムとゲルマニウムとの拡散が促進し、高い相対密度を有する焼結体100を効率的に得ることができる。
【0042】
ステップS220において、焼結は、好ましくは、0.5時間以上24時間以下の時間、大気中または酸素雰囲気中で行う。焼結時間が0.5時間未満の場合、十分に焼結しない場合がある。焼結時間が24時間を超えても、焼結はそれ以上促進しないため非効率である。なお、二段階の焼結をする場合には、合計の焼結時間が上記範囲となるようにすればよい。
【0043】
さらに、ステップS220において、仮焼体330およびゲルマニウムを含有する原料粉末340に加えて、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、および、ガリウム(Ga)からなる群から少なくとも1種選択される元素を含有する原料粉末をさらに混合してもよい。これにより、得られる焼結体100の導電性を制御できる。ここでも、選択される元素を含有する原料粉末は、焼成によって選択される元素の酸化物となるものであれば特に制限はなく、選択される元素の金属、酸化物、炭酸塩等がある。
【0044】
ステップS220において、さらに好ましくは、選択される元素の原料粉末は、酸化インジウム粉末310に対して、その酸化物換算で0.5mol%以上15mol%以下の範囲を満たすように混合される。この範囲であれば、酸化インジウムの結晶構造は安定である。2種以上選択される場合には、元素の合計の含有率が上記範囲となるようにすればよい。選択される元素の原料粉末は、好ましくは、1mol%以上10mol%以下の範囲で含有される。
【0045】
ステップS220において、仮焼体330とゲルマニウムを含有する原料粉末340との混合粉末を、700℃以上1200℃未満の温度範囲で、1時間以上24時間以下の時間、仮焼した後、成形し、焼結してもよい。これにより、その後に行う焼結の焼結温度を下げることができる。
このようにして本発明の焼結体100を得ることができる。
【0046】
(実施の形態2)
実施の形態2では、実施の形態1で説明した本発明の焼結体から得た酸化インジウムを主成分とする酸化インジウム薄膜を用いたガスセンサについて説明する。
【0047】
図4は、本発明のガスセンサを示す模式図である。
【0048】
本発明のガスセンサ400は、基板410と、その上に位置するガス感応膜420と、ガス感応膜420に位置する一対の電極430、440とを備える。
図4では、一対の電極430、440は、電源450に接続されている。図示しないが、ガスセンサ400は、一対の電極430、440を介して、ガス感応膜420の電気抵抗値の変化を測定するよう電流計または電圧計等の検出手段に接続され得る。
【0049】
基板410は、絶縁性を有する基板であれば特に制限はないが、例示的には、サファイア、アルミナ、ガラス、PET(ポリエチレンテレフタレート)、PI(ポリイミド)などの有機材料等からなる材料からなる基板である。これらであれば、その上にガス感応膜420を製造できる。
【0050】
ガス感応膜420は、上述した本発明の焼結体100をターゲットとして用い、スパッタリング等の物理的気相成長法によって得られる膜である。すなわち、ガス感応膜420は、焼結体100と同様に、酸化インジウムを主成分ととし、ストロンチウム(Sr)と、ゲルマニウム(Ge)とを含有する酸化インジウム薄膜からなる。ここで、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有される。さらに、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たす。さらにガス感応膜420を構成する酸化インジウム薄膜は、鉛(Zn)、スズ(Sn)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、および、ガリウム(Ga)からなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有し、導電性が制御されていてもよい。このようなガス感応膜420を構成する酸化インジウム薄膜の組成や添加元素の濃度については、本発明の焼結体100の組成および添加元素の濃度と同様であるため、説明を省略する。
【0051】
ガス感応膜420は、多結晶であってもよいし、単結晶であってもよい。ガス感応膜420の厚さは、特に制限はないが、例示的には、50nm以上10μm以下であってよく、好ましくは、50nm以上300nm以下の範囲である。この範囲であれば、各種ガスに対する感度がよい。
【0052】
一対の電極430、440は、金、白金、ITO(Indium Tin Oxide)等の公知の材料であり、シート抵抗が例えば100Ω/□以下の電気抵抗を有する材料であればよい。一対の電極430の電極間距離は、特に制限はないが、例示的には、0.3mm以上10mm以下であればよい。
【0053】
このようなガスセンサ400の動作を説明する。
ガスセンサ400は一対の電極430、440を介して電源450に接続され、一対の電極430、440に電圧が印加される。ここで、エタノール、アセトン等の揮発性有機化合物、水素等の被検知ガスにガスセンサ400のガス感応膜420が接触すると、被検知ガスとガス感応膜420とが反応し、感応膜430の電気抵抗値が低下する。被検知ガスとガス感応膜420との接触がなくなると、ガス感応膜430の電気抵抗値が増加する。このような電気抵抗値の変化を検出手段(図示せず)が検出することにより、本発明のガスセンサ400は、被検知ガスの存在を検知するガスセンサとして機能する。
【0054】
次に具体的な実施例を用いて本発明を詳述するが、本発明がこれら実施例に限定されないことに留意されたい。
【実施例】
【0055】
[例1〜例36]
例1〜例36では、原料粉末として、酸化インジウム(高純度化学研究所製、純度99.99%)、酸化ゲルマニウム(Sigma−Aldrich製、純度99.999%)および/または炭酸ストロンチウム(高純度化学研究所製、純度99.9%)、必要に応じて、酸化亜鉛(関東化学製、特級)、酸化スズ(高純度化学研究所製、純度99.9%)、酸化ジルコニウム(東ソー製、TZ−0)、酸化ガリウム(高純度化学研究所製、純度99.9%)、酸化イットリウム(日本イットリウム株式会社製、純度99.9%)および酸化アルミニウム(住友化学製、純度99.99%、AKP−53)を用い、酸化インジウムを主成分とする焼結体を製造した。
【0056】
表1に示すモル比となるように、炭酸ストロンチウムと酸化インジウムとを秤量し、混合した。例1では、酸化インジウムと酸化ゲルマニウムを混合し、アルミナ乳鉢で30分混合し、表2に示す条件で成形し、焼成した。例2〜例36では、酸化インジウムと炭酸ストロンチウムとを混合し、溶媒にエタノールを用い、ボールミルにより湿式混合した。乾燥後、表2に示す仮焼条件で仮焼した(
図2のステップS210)。得られた仮焼体に二次イオン質量分析装置(SIMS、AMETEK株式会社CAMECA事業部、型番145)を用いた測定を行ったところ、わずかに不純物や第二相が観察されたが、90質量%以上が酸化インジウムであることを確認した。
【0057】
例3〜例36の仮焼体に、表1に示すモル比となるように、酸化ゲルマニウムおよび必要に応じて酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化ガリウムまたは酸化アルミニウムを添加し、溶媒にエタノールを用い、ボールミルにより湿式混合した。乾燥後、表2に示す条件で成形し、焼成した(
図2のステップS220)。
【0058】
例35の仮焼体は、酸化ゲルマニウムと混合後、大気中、860℃、10時間仮焼した後、表2に示す条件で成形し、焼成した。なお、例1〜例36の成形体は、直径10mm、厚さ数mmの大きさであった。なお、予備実験として、窒素雰囲気にて焼成を行ったところ、焼結が進まないことを確認した。
【0059】
ここでも、得られた焼結体にSIMSを行ったところ、わずかに不純物や第二相が観察されたが、90質量%以上が酸化インジウムであることを確認した。このことから、得られた焼結体は、いずれも酸化インジウムを主成分とすることが確認された。さらに、例1〜例36の焼結体について組成分析を行ったところ設計組成を実質的に満たしていることを確認した。
【0060】
【表1】
【0061】
【表2】
【0062】
例1〜例36で得られた焼結体の相対密度を算出した。相対密度は、焼結体の嵩密度(焼結体の質量と体積との比)と、酸化インジウムの理論密度との比(百分率)で表す。結果を表3および表4に示す。また、例1〜例36で得られた焼結体を観察した。例36では酸化イットリウムを考慮した密度補正を行った。観察結果を
図5〜
図7に示す。例3の焼結体の元素分布を、上述の二次イオン質量分析装置を用いて評価した。結果を
図8に示す。
【0063】
例13の焼結体の酸素欠陥評価を行った。詳細には、得られた焼結体を、ダイヤモンドペーストを用いて鏡面研磨した後、1000℃、1時間、大気中で熱処理し、研磨時に表面に導入された研磨損傷を回復させた。次いで、この焼結体を
18O
2ガス雰囲気中で、800℃、900℃、1000℃の温度範囲で10時間、2時間30分、2時間熱処理した。次いで、熱処理後の焼結体をSIMSで分析し、焼結体表面から内部へ
16Oと
18Oとの強度を測定した。結果を
図9に示す。
図9から得られた酸素の拡散係数をアレニウスプロットした。結果を
図10に示す。
【0064】
以上の結果をまとめて説明する。
【0065】
【表3】
【0066】
【表4】
【0067】
表3によれば、例3、4〜7、11、13、14、16〜17、20〜21、23〜33および35〜36の焼結体が、95%以上の相対密度を有することが分かった。例3〜26の焼結体の相対密度の結果から換算されたGeO
2のモル%と、換算されたSrOのモル%と、相対密度との関係を表4に示す。これらの結果から、本発明の酸化インジウムを主成分とする焼結体は、ストロンチウムと、ゲルマニウムとをさらに含有し、ストロンチウムは、酸化インジウムに対して、酸化ストロンチウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、ゲルマニウムは、酸化インジウムに対して、酸化ゲルマニウム換算で、0.1mol%以上0.5mol%以下の範囲で含有され、換算された酸化ストロンチウムに対する酸化ゲルマニウムのモル比は、1以上3以下の範囲を満たし、相対密度は95%以上であることが示された。
【0068】
また、上述の焼結体を得るために、
図2に示す、酸化インジウム粉末と、ストロンチウムを含有する原料粉末とを混合し、仮焼するステップと、仮焼するステップで得られた仮焼体と、ゲルマニウムを含有する原料粉末とを混合し、少なくとも酸素を含有する雰囲気中で焼結するステップとを包含するが有効であり、二段階の仮焼、さらには、二段階の焼結が有効であることが示された。また、例21の焼結体と例35の焼結体とを比較すると、焼結に先立って、仮焼することによって、焼結温度を低減できることが示された。
【0069】
また、例27〜33および36の焼結体によれば、95%以上の高い相対密度を有したまま、亜鉛、スズ、ジルコニウム、イットリウム、および、ガリウムからなる群から少なくとも1種選択される元素をさらに含有でき、導電率の制御が可能であることが示された。
【0070】
図5は、例1〜例3の焼結体の様子を示す図である。
図6は、換算されたGeO
2のモル%と、換算されたSrOのモル%と、焼結体の様子との関係を示す図である。
【0071】
図5には、研磨していない例1の焼結体(ゲルマニウム添加のみ)、研磨した例2の焼結体(ストロンチウム添加のみ)、および、研磨した例3の焼結体(ストロンチウムとゲルマニウムとの共添加)の外観を示す。研磨は、9μmのダイヤモンドスラリーを用いて行った。例1の焼結体は、焼固まったのみであり、収縮していないことが分かる。例2の焼結体は、わずかながら収縮が見られたが、黒い領域と白い領域とが混在しており、焼結が進んでいないことが分かる。例3の焼結体は、全体に収縮しており、焼結が進んでいることが分かる。また、例3の焼結体は、全体に黒く、これは、ゲルマニウムが固溶したことにより電子(ドナー)が発生し、黒く色づいているためである。このことからもストロンチウムとゲルマニウムとの共添加は高密度化に有効であることが分かる。
【0072】
図6によれば、換算された酸化ストロンチウムに対する換算された酸化ゲルマニウムのモル比(GeO
2/SrO)が、1以上3以下の範囲(主として、
図6の対角線から右側の領域)において、特に焼結が進んで黒化していることが分かる。
【0073】
図7は、例2および例3の焼結体のレーザ顕微鏡観察の結果を示す図である。
【0074】
図7の画像は、いずれも、200μm×200μmのサイズである。例2の焼結体(ストロンチウム添加のみ)は、網目状の組織を示しており、黒く見える領域は、穴(ポア)であり、全体の70%に存在した。一方、例3の焼結体(ストロンチウムとゲルマニウムとの共添加)は、ごくわずかにポアが見られたが、緻密な焼結体であることが分かる。図示しないが、その他の相対密度95%以上を有する焼結体も同様の様態を示した。
【0075】
図8は、例3の焼結体のSIMSによる二次イオン像を示す図である。
【0076】
図8(A)〜(B)は、それぞれ、ゲルマニウム(Ge)、ストロンチウム(Sr)およびインジウム(In)の二次イオン像を示す。
図8(A)によれば、ゲルマニウムは、一部濃集している領域(コントラストが明るく示される領域)があるものの、焼結体全体に分布していた。
図8(B)によれば、ストロンチウムは、一部に濃集している領域があるもののほとんどが粒界に位置していた。また、
図8(C)によれば、インジウムは、全体に均一に分布していた。また、
図8(A)や
図8(B)のゲルマニウム/ストロンチウムの濃集領域にインジウムは存在しないことが分かった。図示しないが、その他の相対密度95%以上を有する焼結体も同様の様態を示した。
図8の縦軸は信号強度を示す。
【0077】
このことから、本発明の焼結体の製造メカニズムを以下のように推定できる。ストロンチウムが固溶した酸化インジウム(
図3の仮焼体330)と酸化ゲルマニウム(
図3のゲルマニウムを含有する原料340)とを焼結すると、焼結温度が酸化ゲルマニウムの融点(1115℃)に達すると、酸化ゲルマニウムが溶融し、仮焼体330の界面を濡らす。さらに昇温とすると、酸化インジウムの粒成長とともに、固溶していたストロンチウムが酸化ゲルマニウムの液相に向かって拡散する。次いで、ゲルマニウムが酸化インジウムに固溶・拡散する(
図3の少なくともゲルマニウムが固溶した酸化インジウム360)。ストロンチウムが粒界に拡散し、ポアとなることなく、ガラス相350となる。このようにして、緻密で高い相対密度を有する焼結体が得られる。
【0078】
図9は、例13の焼結体の
18Oの拡散プロファイルを示す図である。
【0079】
SIMSで得られた
16Oおよび
18Oの強度と時間との関係、ならびに、分析後の焼結体のクレータの深さを、表面濃度一定の解で解析することにより、
18Oの拡散係数を決定した。
【0080】
図9において、焼結体表面からの
18Oの濃度勾配が体積拡散領域で
18Oが格子内部を拡散している領域である。
18Oの濃度が、0.15から0.03領域は、図中のイオン強度像から見ると、焼結体内に存在する液相の領域の強度が大きく、この影響が見えている。さらに低濃度領域では、
18Oの濃度が比較的緩やかに減少している。この領域は、ガラス相内部の
18Oの濃度の減少と酸化インジウムの粒界に沿った
18Oの濃度現象が合わさっている領域である。
【0081】
図10は、例13の焼結体の
18Oの拡散係数のアレニウスプロットを示す図である。
【0082】
図10には、フラックス法で合成した酸化インジウム単結晶の
18Oの拡散係数のアレニウスプロットを併せて示す。
図10によれば、例14の焼結体の1000℃〜800℃で得られた酸素拡散係数Dは、1×10
−15〜1×10
−17cm
2/sを有した。この値は、おおよそフラックス法で合成した酸化インジウム単結晶のそれの外挿線上にあり、合成法の違いを考慮しても、おおむね、同様の酸素拡散係数が得られていることが分かった。このことから、本発明の焼結体は、単結晶と同程度の酸素欠陥量を有し、高品質といえる。また、アレニウスプロットの傾きが小さい事から、酸素欠陥はGe等の不純物によって支配されている。
【0083】
[例37]
例37では、例36で得られた焼結体をターゲットに用いてガスセンサを製造した。例36の焼結体をRFスパッタリング装置のターゲット位置に配置し、以下のスパッタリング条件にて、c面サファイア基板上に酸化インジウム薄膜を成長させた。
【0084】
スパッタリング条件;
ベース圧力:2×10
−4Pa
RF出力:40W
基板−ターゲット間距離:45mm
基板温度:400℃
Arガス流量:15sccm
成膜時間:15分
【0085】
サファイア基板上に無色透明の薄膜が形成されたことを確認した。得られた薄膜の膜厚を表面プロファイラ(KLA Techno製、D−120)で測定した。得られた薄膜をラマン分光装置(Thermo electron 社製、Nicolet Almega XR)により同定し、SIMSによりストロンチウム、ゲルマニウムおよびイットリウムの存在、濃度等を調べた。
【0086】
この結果、薄膜の膜厚は87nmであった。ラマンスペクトルによれば、303m
−1に酸化インジウムを示すピーク、418cm
−1にサファイアを示すピークが観察され、主成分が酸化インジウムである薄膜が得られたことが分かった。またX線回折によれば、酸化インジウムは多結晶であることを確認した。さらに、SIMSによれば、薄膜中にゲルマニウム、ストロンチウムおよびイットリウムが存在し、その濃度は、ターゲットに含有される濃度を反映していた。このことから、本発明の焼結体は物理的気相成長法におけるターゲットとして有利であり、焼結体の組成を反映した薄膜を製造できることが示された。
【0087】
次に、得られたサファイア上の酸化インジウム薄膜の一部をマスクし、一対の金電極をスパッタリングし、ガスセンサ(
図4のガスセンサ400に相当)を得た。ガスセンサのガス検知特性を次のようにして調べた。ガスセンサを炉内の石英管にセットし、石英管の一方の端部からエタノール(50ppm)、アセトン(50ppm)、水素(300ppm)、乾燥エアーをそれぞれ流入し、他端から流出させ、酸化インジウム薄膜の電気抵抗値の変化を測定した。なお、水素を検知する際には、石英管を350℃〜500℃で、エタノールおよびアセトンを検知する際には、石英管を400℃〜500℃で加熱した。結果を
図11および表5に示す。
【0088】
図11は、例37のガスセンサを用いて乾燥エアー/エタノールを流入した際の電気抵抗値の経時変化を示す図である。
【0089】
図11には、ガスセンサに乾燥エアーを300秒間流入し、その後エタノールを200秒間流入し、再度乾燥エアーを流入し、その際の酸化インジウム薄膜の電気抵抗値の変化が示される。
図11によれば、酸化インジウム薄膜の電気抵抗値は、乾燥エアーに対しては高い値を示したが、エタノールを含有するガスに対しては低い値を示した。アセトンおよび水素を含有するガスに対しても、同様の傾向を示した。
【0090】
さらに、表5にエタノール、アセトンおよび水素を流入した際の電気抵抗値(R
gas)に対する乾燥エアーを流入した際の電気抵抗値(R
air)をガスセンサ応答(R
air/R
gas)として調べた結果を示す。
【0091】
【表5】
【0092】
表5によれば、酸化インジウム薄膜は、エタノール、アセトンおよび水素に対して高いガスセンサ応答を示すことが確認された。
【0093】
以上から、本発明の焼結体を用いて得られた酸化インジウム薄膜は、揮発性有機化合物や水素等のガスを検知でき、ガスセンサ用のガス感応膜として機能し、ガスセンサを提供できることが示された。