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特開2020-158566潤滑組成物の製造方法およびそれにより製造された潤滑組成物、ならびにそれを用いた圧縮機および冷凍システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-158566(P2020-158566A)
(43)【公開日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】潤滑組成物の製造方法およびそれにより製造された潤滑組成物、ならびにそれを用いた圧縮機および冷凍システム
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/04 20060101AFI20200904BHJP
   C10N 20/00 20060101ALN20200904BHJP
   C10N 30/06 20060101ALN20200904BHJP
   C10N 30/08 20060101ALN20200904BHJP
   C10N 40/30 20060101ALN20200904BHJP
【FI】
   C10M169/04
   C10N20:00 Z
   C10N30:06
   C10N30:08
   C10N40:30
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2019-56822(P2019-56822)
(22)【出願日】2019年3月25日
(11)【特許番号】特許第6651664号(P6651664)
(45)【特許公報発行日】2020年2月19日
(71)【出願人】
【識別番号】516299338
【氏名又は名称】三菱重工サーマルシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112737
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 考晴
(74)【代理人】
【識別番号】100140914
【弁理士】
【氏名又は名称】三苫 貴織
(74)【代理人】
【識別番号】100136168
【弁理士】
【氏名又は名称】川上 美紀
(74)【代理人】
【識別番号】100172524
【弁理士】
【氏名又は名称】長田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】宮本 善彰
(72)【発明者】
【氏名】洞口 典久
(72)【発明者】
【氏名】石本 孝生
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104CB02A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EA01C
4H104EB08
4H104LA03
4H104LA04
4H104PA20
(57)【要約】
【課題】高油温低速運転時のオルダムリンクの耐摩耗性を向上した冷凍機油(潤滑組成物)およびその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本開示の潤滑組成物の製造方法は、熱重量変化が0.675%以上0.825%以下となる温度を分解開始温度とし、潤滑特性を向上させる添加剤として、分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する選択工程と、選択された潤滑試薬を基油に対して1重量%以上5重量%以下配合する配合工程とを備える。
【選択図】図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量変化が0.675%以上0.825%以下となる温度を分解開始温度とし、潤滑特性を向上させる添加剤として、前記分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する選択工程と、
選択された前記潤滑試薬を基油に対して1重量%以上5重量%以下配合する配合工程とを備える潤滑組成物の製造方法。
【請求項2】
前記選択工程は、潤滑特性を向上させる前記添加剤の中から、前記分解開始温度が90℃を超える温度域にある高温用潤滑試薬を選択するステップを含み、
前記配合工程は、選択された前記高温用潤滑試薬を基油に配合するステップを含む請求項1に記載の潤滑組成物の製造方法。
【請求項3】
突出するキーを有し、鉄またはアルミニウム合金製のオルダムリンクと、
前記キーが挿入されるキー溝が形成され、前記オルダムリンクとは異なる材質の部材と、を備え、
前記部材はアルミニウム合金または鉄製である請求項1または2に記載の製造方法で製造した潤滑組成物が供給された圧縮機。
【請求項4】
請求項3に記載の圧縮機を備えた冷凍システム。
【請求項5】
基油と、
潤滑特性を向上させる添加剤から選択された、70℃以上90℃以下の温度域において熱重量変化が0.675%以上0.825%以下を示す潤滑試薬と、
を含み、前記潤滑試薬が、
基油に対して1重量%以上5重量%以下配合されている潤滑組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑組成物の製造方法およびそれにより製造された潤滑組成物、ならびにそれを用いた圧縮機および冷凍システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
冷凍装置は、少なくとも圧縮機、凝縮器、膨張弁および蒸発器で構成される。冷凍装置では、各構成要素が冷媒配管により閉回路として連結されており、冷媒および冷凍機油が相溶した混合液が密閉された系内を循環する構造となっている。
【0003】
地球温暖化対策の一環として、冷媒のGWP(地球温暖化係数、Global Warming Potential)の低減が必須となり、HFC(ハイドロフルオロカーボン)系の代替冷媒に移行して久しい。HFC冷媒としては、R410A,R32などが知られている。R32のGWPはR410Aの1/3程度である。
【0004】
HFC系冷媒は、以前使用されていたCFC(クロロフルオロカーボン)系あるいはHCFC(ハイドロクロロフルオロカーボン)系冷媒よりも高い圧力下での使用が前提とされる。HFC系冷媒を使用する冷凍装置の圧縮機においては圧力負荷が高くなる。
【0005】
冷凍機油は、圧縮機の潤滑を担うものである。特許文献1に記載されるように、冷凍機油には、基油および潤滑剤を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−108033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
圧縮機の一種に固定スクロールと旋回スクロールとを備えたスクロール圧縮機がある。スクロール圧縮機は、旋回スクロールの自転を防止しつつ公転旋回運動を行わせるためにオルダムリンクを備えている。オルダムリンクは、旋回スクロールの旋回運動に伴い、溝に沿って往復摺動する。
【0008】
高負荷の冷凍装置におけるHFC冷媒の使用では、低速運転時のオルダムリンクの摩耗低減が課題である。特に、低速時には油膜が形成されにくく、潤滑状態が厳しくなる。加えて、高油温時は油粘度が低くなり、さらに潤滑特性が悪くなることが課題であった。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、高油温低速運転時のオルダムリンクの耐摩耗性を現状よりも向上できる冷凍機油(潤滑組成物)およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本開示の潤滑組成物の製造方法およびそれにより製造された潤滑組成物、ならびにそれを用いた圧縮機および冷凍システムは以下の手段を採用する。
【0011】
本開示は、熱重量変化が0.675%以上0.825%以下となる温度を分解開始温度とし、潤滑特性を向上させる添加剤として、前記分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する選択工程と、選択された前記潤滑試薬を基油に対して1重量%以上5重量%以下配合する配合工程とを備える潤滑組成物の製造方法を提供する。
【0012】
潤滑特性を向上させる添加剤は、熱により分解され重量が変化(減少)する。本発明者は鋭意検討の結果、熱重量が初期状態から0.675%以上0.825%以下、好ましくは0.7125%以上0.7875%以下、さらに好ましくは0.75%減少する際の温度を分解開始温度と定義し、分解開始温度に基づき潤滑試薬を選択する。
【0013】
本発明者らは鋭意検討の結果、オルダムリンクにトライボ膜が形成される場合、熱重量変化が0.75%を中心として±10%程度となる条件で評価すればよいことを見出した。熱重量変化率は熱重量分析チャートから得られる。熱重量変化が少なすぎると(例えば0.3%)変曲点が判りづらい。多すぎる場合には、耐摩耗性が改善されない潤滑試薬が選択肢に含まれる可能性が高くなる。
【0014】
本発明者らの検討によれば、摩耗が顕著であった高油温低速運転時の油温は70〜90℃であり、オルダムリンクの摺動部温度は90℃強であった。この温度域(70℃以上90℃以下)で分解が開始される潤滑試薬は、高油温低速運転時のオルダムリンクにおいて極圧剤/摩耗防止剤としての機能が発現されうる。分解開始温度が低温すぎると酸化安定性等、潤滑試薬の化学的安定性に問題が生じうる。また、分解開始温度が高温すぎると低速運転時のオルダムリンク表面でトライボ膜が形成されにくく、十分な潤滑性能が発現されない。
【0015】
上記開示の一態様において、前記選択工程は、潤滑特性を向上させる前記添加剤の中から、前記分解開始温度が90℃を超える温度域にある高温用潤滑試薬を選択するステップを含み、前記配合工程は、選択された前記高温用潤滑試薬を基油に配合するステップを含むことができる。
【0016】
潤滑試薬よりも高い温度で分解が開始される(トライボ膜が形成される)高温用潤滑試薬をさらに配合することで、幅広い温度域で潤滑性能が発現されうる潤滑組成物となる。
【0017】
また本開示は、突出するキーを有し、鉄またはアルミニウム合金製のオルダムリンクと、前記キーが挿入されるキー溝が形成され、前記オルダムリンクとは異なる材質の部材と、を備え、前記部材はアルミニウム合金または鉄製である上記態様に記載された製造方法で製造した潤滑組成物が供給された圧縮機を提供する。
【0018】
オルダムリンクとキー溝を異なる材質にすることで、摺動時の同一材質による凝着を防止できる。
【0019】
また本開示は、上記圧縮機を備えた冷凍システムを提供する。
【0020】
また本開示は、基油と、潤滑特性を向上させる添加剤から選択された、70℃以上90℃以下の温度域において熱重量変化が0.675%以上0.825%以下を示す潤滑試薬と、を含み、前記潤滑試薬が、基油に対して1重量%以上5重量%以下配合されている潤滑組成物を提供する。
【発明の効果】
【0021】
分解開始温度に基づいて使用環境に適した潤滑試薬を選択して、配合することで、高油温低速運転時のオルダムリンクの耐摩耗性を向上した潤滑組成物を製造できる。製造した潤滑組成物が供給された圧縮機では、オルダムリンク部分での摩耗量を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機を示した縦断面図である。
図2図1のオルダムリンクと上部軸受を示した平面図である。
図3図2オルダムリンクのキーの位置で切断した縦断面図である。
図4】冷凍システムのブロック図である。
図5】試薬Aの熱重量分析チャート図である。
図6】試薬Bの熱重量分析チャート図である。
図7】試薬Cの熱重量分析チャート図である。
図8】冷媒/冷凍機油に対する摩耗深さの関係を示す図である。
図9】TBP添加量と摩耗深さの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本開示に係る潤滑組成物の製造方法およびそれにより製造された潤滑組成物、ならびにそれを用いた圧縮機および冷凍システムの一実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
本実施形態に係る潤滑組成物の製造方法は、潤滑試薬を選択する選択工程と、選択された潤滑試薬を基油に配合する配合工程とを備えている。
【0024】
(選択工程)
選択工程では、潤滑特性を向上させる冷凍機油の添加剤として、分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する。
【0025】
分解開始温度は、潤滑試薬が熱により重量変化(減少)し始める温度である。潤滑試薬の分解開始温度は、熱重量分析により得ることができる。熱重量分析では、サンプルと基準物質を同じように温度変化させ、それに要する電気エネルギーを測定して、酸化・分解等の反応温度を特定する。熱重量分析は、示差熱分析装置(DTA)により実施できる。試薬の分解開始温度がカタログなどで公開されている場合は、それを利用してもよい。
【0026】
本実施形態では、潤滑試薬の初期状態からの重量変化(減少)量が0.675%以上0.825%以下、好ましくは0.7125%以上0.7875%以下、さらに好ましくは0.75%となる温度を「分解開始温度」と定義する。
【0027】
(配合工程)
配合工程では、基油に対して潤滑試薬を1wt%以上5wt%以下、好ましくは1wt%以上3wt%以下で配合する。基油に潤滑試薬が配合されたものが潤滑油組成物(冷凍機油)となる。
【0028】
基油は、ポリオールエステル(POE)、ポリビニルエーテル(PVE)、ポリアルキレングリコール(PAG)、鉱物油等であってよい。基油は、分子構造内にエステル結合を有するとよい。
【0029】
配合工程では、熱安定性を向上させる添加剤等をさらに配合してもよい。
【0030】
(圧縮機への適用)
上記実施形態に従って製造された潤滑組成物は、オルダムリンクを備えたスクロール圧縮機での使用に好適である。
【0031】
オルダムリンクの材質は、鉄またはアルミニウム合金であるとよい。
【0032】
図1は、潤滑組成物が供給されうるスクロール圧縮機縦断面図である。
スクロール圧縮機(スクロール流体機械)1は、空気調和装置の冷媒回路(冷凍システム)に設けられ、蒸発器から供給されたガス冷媒を圧縮して凝縮器へと高圧ガス冷媒を供給するものである。スクロール圧縮機1は、図1に示すように、ハウジング2内に、固定スクロール3と、固定スクロール3に対して公転旋回される旋回スクロール4とを備えている。
【0033】
固定スクロール3は、上部軸受21を介して、ハウジング2に対して固定されており、端板31上に立設されたスクロール形状の壁体33を備えている。旋回スクロール4は、端板41上に立設されたスクロール形状の壁体43を備えている。固定スクロール3の壁体33と旋回スクロール4の壁体43とは略同一形状となっている。固定スクロール3に対して旋回スクロール4を180°回転させて壁体33,43同士を噛み合わせることによって複数の密閉された圧縮空間R1が形成されるようになっている。
【0034】
旋回スクロール4は、オルダムリンク23により自転が規制された状態で、固定スクロール3に対して公転旋回運動するようになっている。
【0035】
旋回スクロール4は、駆動させるモータ6によって回転させられる。モータ6によって回転させられる回転軸5は、クランクピン27を介して旋回スクロール4に接続されている。クランクピン27は、回転軸5の中心軸線に対して偏心して設けられている。クランクピン27は、ドライブブッシュやドライブ軸受52を介して、旋回スクロール4の端板41の裏面(図において下面)に形成されたボスに対して回転可能に接続されている。回転軸5は、ハウジング2に固定された上部軸受21と下部軸受24により回転可能に支持されている。
【0036】
ハウジング2の下部には、潤滑組成物(潤滑油O)を貯留する貯留領域26が設けられている。潤滑油Oは、回転軸5の下端に設けられたポンプ54により、回転軸5の内部の給油経路53を通じて汲み上げられ、下部軸受24、上部軸受21、クランクピン27周りに設けられたドライブ軸受52、旋回スクロール4、オルダムリンク23などの摺動部へと供給される。
【0037】
ハウジング2には、低圧ガス冷媒を吸入する吸入配管28と、圧縮後の高圧ガス冷媒を吐出する吐出配管29とが設けられている。吸入配管28および吐出配管29は、図示しない空気調和機の冷媒回路に接続されている。
【0038】
上述したスクロール圧縮機1は、以下のように動作する。
図示しない電源よりモータ6のステータ61に駆動電流が供給されると、モータ6のロータ62が回転して、駆動力が回転軸5に出力される。
回転軸5が回転されると、回転軸5の上端に回転軸5の中心軸から径方向の外側の一方向(偏心方向)に偏心して設けられたクランクピン27を介して駆動力が旋回スクロール4に伝達される。これにより、旋回スクロール4は、オルダムリンク23の作用によって、固定スクロール3に対して自転を阻止されつつ公転旋回される。
【0039】
旋回スクロール4の旋回により、吸入配管28から流入した冷媒が旋回スクロール4と固定スクロール3の間に吸入される。そして、旋回スクロール4の旋回に伴い、旋回スクロール4と固定スクロール3の間の圧縮空間R1の容積が減少することにより、圧縮空間R1内で冷媒が圧縮される。
【0040】
圧縮された冷媒は、固定スクロール3の吐出ポート32およびディスチャージカバー37の吐出ポート38を経て、吐出配管29により冷媒回路へと吐出される。固定スクロール3にはマルチポート32Aが形成されており、マルチポート32Aには、固定スクロール3の端板31にリテーナ35を介して取り付けられたリード弁36が設けられている。ディスチャージカバー37の吐出ポート38にも、ディスチャージカバー37にリテーナ37Aを介して取り付けられたリード弁37Bが設けられている。圧縮された冷媒の圧力が所定値に達すると、リード弁36,37Bを押し開いた冷媒が冷媒回路の凝縮器側へと吐出される。
【0041】
図2および図3には、図1に示したオルダムリンク23が示されている。オルダムリンク23は、上部軸受21の上方に設けられている。また、図1に示したように、オルダムリンク23は、旋回スクロール4の端板41の裏面側に設けられている。
【0042】
図2に示したように、オルダムリンク23は、平面視した場合に略リング形状とされている。図2のように平面視した場合に、左右の両側すなわち3時と9時の位置には、下方(上部軸受21側)に突出するキー23Aが設けられている。また、図2のように平面視した場合に、上下の両側すなわち6時と12時の位置には、上方(旋回スクロール4側)に突出するキー23Bが設けられている。すなわち、2つのキー23Aが設けられた方向と、2つのキー23Bが設けられた方向は、直交するように設けられている。下方へ突出する各キー23Aは、図3に示すように、上部軸受21に形成されたキー溝21Aに挿入されている。上方へ突出する各キー23Bは、図示しないが、旋回スクロール4の端板41に形成されたキー溝に挿入されている。
【0043】
上部軸受21および旋回スクロール4は、オルダムリンク23と異なる材質で構成されているとよい。オルダムリンク23の材質が鉄である場合、上部軸受21および旋回スクロール4に形成されたキー溝の材質はアルミニウムであるとよい。オルダムリンク23の材質がアルミニウムである場合、上部軸受21および旋回スクロール4に形成されたキー溝の材質は鉄であるとよい。
【0044】
図4は、上記スクロール圧縮機1を含む冷凍システムのブロック図である。冷凍システムは、例えば図4に示すように、スクロール圧縮機1と、凝縮器12と、膨張弁13と、蒸発器14とを備え、各要素が冷媒を流通搬送する配管15a〜15dを介して接続されている。
【0045】
冷凍システム内では、凝縮器12が、高温高圧の冷媒ガスを凝縮/液化して放熱し、膨張弁13が、凝縮器12を経た高温高圧の液冷媒を断熱膨張させて減圧し、蒸発器14が、膨張弁13を経た低温低圧の液冷媒を蒸発/気化して吸熱し、スクロール圧縮機1が、蒸発器14を経た低温低圧の冷媒ガスを断熱圧縮する。スクロール圧縮機1を経た高温高圧の冷媒ガスは凝縮器12に供給される。このように閉じた系内で熱搬送媒体としての冷媒を循環させることで、蒸発器14から凝縮器12への熱の移動を実現し、室内の空調(暖房および冷房)を可能にする。
【0046】
スクロール圧縮機1に供給された潤滑組成物は、冷媒に混ざった状態で蒸発器14、膨張弁13および凝縮器を含む冷凍システムを廻り、圧縮機に戻ってくる。冷凍システムの潤滑組成物は冷媒と共に系内に密閉された状態で、冷凍システムが使用される期間はまず交換されることなく使用される。
【0047】
実機環境において、高油温低速運転時のオルダムリンク23付近の潤滑組成物の温度は80℃±10℃である。70℃以上90℃以下の温度域に分解開始温度がある潤滑試薬は、低速運転時のオルダムリンクの摺動面に低せん断なトライボ膜を形成し、摺動部の摩擦係数を下げ、結果として、摩耗量を低減する効果を有している。
【0048】
〔第2実施形態〕
本実施形態において、選択工程は、高温用潤滑試薬を選択するステップをさらに含んでもよい。配合工程は、選択された高温用潤滑試薬を基油に配合するステップをさらに含んでもよい。
【0049】
高温用潤滑試薬は、極圧剤または潤滑剤として機能する添加剤の中から、90℃を超える温度域に分解開始温度があるものが1つまたは複数選択される。
【0050】
高温用潤滑試薬は、基油に対して0.1wt%以上5wt%、好ましくは0.1wt%以上3wt%以下で配合される。
【0051】
〔試験〕
(潤滑試薬の選択)
以下の試薬A〜Cについて、熱重量分析により分解開始温度を得た。
【0052】
A:トリフェニルホスフェート(TPP)
B:エチルジエチルホスホノアセテート(JC−224)
C:トリブチルホスフェート(TBP)
【0053】
結果を図5から図7および表1に示す。
【0054】
図5は試薬A(TPP)の熱重量変化を示す図である。図6は試薬B(JC−224)の熱重量変化を示す図である。図7は試薬C(TBP)の熱重量変化を示す図である。図5から図7において、横軸は時間(分)、左縦軸は熱重量変化(%)、右縦軸は温度(℃)である。
【0055】
表1には、図5図6図7から熱重量変化が0.75%となる時点における温度を読み取り分解開始温度として記載した。
【0056】
【表1】
【0057】
表1によれば、試薬A,B,Cは酸価が低かった。試薬B,Cの分解温度は数度しか変わらないが、分解開始温度には約85℃の差がみられた。
【0058】
(耐摩耗性)
リングオンディスクの冷媒雰囲気摩擦試験装置を用いて、JIS K 7218に準じ、固定片と回転片とを摺動させて耐摩耗性を評価した。
【0059】
固定片は、材質をAl−Si−Cu系合金のADC12とし、表面に硬質アルマイトをコーティングした。回転片は、材質を片状黒鉛鋳鉄(FC200)としたものを使用した。
【0060】
実機では高油温低速時にオルダムリンクの摩耗が認められている。試験条件は、実機の運転条件に合わせて設定した。
【0061】
表2に試験条件を示す。
【表2】
【0062】
図8,9に結果を示す。図8は、冷媒/冷凍機油に対する摩耗深さの関係を示す図である。図9は、試験3のTBP添加量と固定片の摩耗深さの関係を示す図である。同図において、横軸はTBP添加量(wt%)、縦軸は固定片の摩耗深さ(μm)である。
【0063】
図8によれば、試験2のTBP(1wt%,5wt%添加)の摩耗深さは3μm程度であり、試験1,3と比較して摩耗量が最も低かった。JC−224を添加した試験3の摩耗量は、試験2のTBP添加なしと比較すると摩耗量は低下したが、R410A冷媒を使用した試験1よりも摩耗量は多かった。
【0064】
図9によれば、TBPを添加した試験2では、TBPの添加量が1%以上とすることで、耐摩耗性の向上効果が認められた。TBPを1wt%〜5wt%添加した試験では、固定片の摩耗深さが2.5〜3.2μm程度であった。一方、TBPを0.75wt%、0.25wt%添加した試験では、固定片の摩耗深さは20μm,19μmであった。上記結果から、TBPを1wt%以上添加することにより耐摩耗性は顕著に向上することが確認された。
なお、図8によれば、JC−224を添加した試験3では、固定片の摩耗深さが55μmであった。R410A冷媒を使用し、添加剤を添加しなかった試験1では、固定片の摩耗深さは43μmであり、JC−224を5wt%添加した油での耐摩耗性向上効果は認められなかった。
【0065】
JC−224およびTBPは共にリン系化合物であるが、両者は分解開始温度が異なる。TBPの分解開始温度は、本試験の試験開始時の油温度と同等以下である。そのため、TBPは試験中に分解されトライボ膜を形成し、一方で分解開始温度が本試験の試験開始温度よりも約85℃高いJC−244では、トライボ膜が形成されなかったものと予想される。
【0066】
なお、上記実施形態では、オルダムリンクについて述べたが、ロータリー圧縮機のブレード摺動部においても、同様の効果が期待できる。
【符号の説明】
【0067】
1 スクロール圧縮機(スクロール流体機械)
2 ハウジング
3 固定スクロール
4 旋回スクロール
12 凝縮器
13 膨張弁
14 蒸発器
15a〜15d 配管
21 上部軸受
21A キー溝
23 オルダムリンク
23A キー
23B キー
24 下部軸受
26 貯留領域
27 クランクピン
28 吸入配管
29 吐出配管
31 端板
32,38 吐出ポート
32A マルチポート
33 壁体
35 リテーナ
36 リード弁
37 ディスチャージカバー
37A リテーナ
37B リード弁
41 端板
43 壁体
52 ドライブ軸受
R1 圧縮空間
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
【手続補正書】
【提出日】2019年10月31日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱重量変化が0.675%以上0.825%以下となる温度を分解開始温度とし、潤滑特性を向上させる添加剤として、前記分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する選択工程と、
選択された前記潤滑試薬を基油に対して1重量%以上5重量%以下配合する配合工程とを備える冷凍機油の製造方法。
【請求項2】
前記基油は、分子構造内にエステル結合を有する請求項1に記載の冷凍機油の製造方法。
【請求項3】
前記選択工程は、潤滑特性を向上させる前記添加剤の中から、前記分解開始温度が90℃を超える温度域にある高温用潤滑試薬を選択するステップを含み、
前記配合工程は、選択された前記高温用潤滑試薬を基油に配合するステップを含む請求項1または2に記載の冷凍機油の製造方法。
【請求項4】
突出するキーを有し、鉄またはアルミニウム合金製のオルダムリンクと、
前記キーが挿入されるキー溝が形成され、前記オルダムリンクとは異なる材質の部材と、を備え、
前記部材はアルミニウム合金または鉄製である請求項1から3のいずれかに記載の製造方法で製造した冷凍機油が供給された圧縮機。
【請求項5】
請求項4に記載の圧縮機を備えた冷凍システム。
【請求項6】
基油と、
潤滑特性を向上させる添加剤から選択された、70℃以上90℃以下の温度域において熱重量変化が0.675%以上0.825%以下を示す潤滑試薬と、
を含み、前記潤滑試薬が、
基油に対して1重量%以上5重量%以下配合されている冷凍機油。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0005
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0005】
冷凍機油は、圧縮機の潤滑を担うものである。特許文献1に記載されるように、冷凍機油は、基油および潤滑剤を含む。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
本開示は、熱重量変化が0.675%以上0.825%以下となる温度を分解開始温度とし、潤滑特性を向上させる添加剤として、前記分解開始温度が70℃以上90℃以下の温度域にある潤滑試薬を選択する選択工程と、選択された前記潤滑試薬を基油に対して1重量%以上5重量%以下配合する配合工程とを備える冷凍機油の製造方法を提供する。
前記基油は、分子構造内にエステル結合を有していてよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0022
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0022】
図1】第1実施形態に係るスクロール圧縮機を示した縦断面図である。
図2図1のオルダムリンクと上部軸受を示した平面図である。
図3図2オルダムリンクのキーの位置で切断した縦断面図である。
図4】冷凍システムのブロック図である。
図5】試薬Aの熱重量分析チャート図である。
図6】試薬Bの熱重量分析チャート図である。
図7】試薬Cの熱重量分析チャート図である。
図8】冷媒/冷凍機油に対する摩耗深さの関係を示す図である。
図9】TBP添加量と摩耗深さの関係を示す図である。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0057
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0057】
表1によれば、試薬A,B,Cは酸価が低かった。試薬B,Cの分解温度は数しか変わらないが、分解開始温度には約85℃の差がみられた。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0062
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0062】
図8,9に結果を示す。図8は、冷媒/冷凍機油に対する摩耗深さの関係を示す図である。図9は、試験のTBP添加量と固定片の摩耗深さの関係を示す図である。同図において、横軸はTBP添加量(wt%)、縦軸は固定片の摩耗深さ(μm)である。