【解決手段】粒子径が85nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が100nm以上である分散樹脂(A)と、粒子径が75nm以下の粒子群からなり、平均粒子径D50が50nm以下である分散樹脂(B)とを含む水性塗料組成物であって、分散樹脂(A)と分散樹脂(B)の質量比(A:B)が50:1〜5:1であり、分散樹脂(A)のガラス転移点Tg(a)と分散樹脂(B)のガラス転移点Tg(b)が、式(1):0℃≦Tg(a)−Tg(b)≦40℃の関係を満たす、水性塗料組成物である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の水性塗料組成物を詳細に説明する。本発明の水性塗料組成物は、粒子径が85nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が100nm以上である分散樹脂(A)と、粒子径が75nm以下の粒子群からなり、平均粒子径D50が50nm以下である分散樹脂(B)とを含む水性塗料組成物であって、分散樹脂(A)と分散樹脂(B)の質量比(A:B)が50:1〜5:1であり、分散樹脂(A)のガラス転移点Tg(a)と分散樹脂(B)のガラス転移点Tg(b)が、下記式(1):
0℃≦Tg(a)−Tg(b)≦40℃・・・式(1)
の関係を満たすことを特徴とする。
【0017】
本明細書において「水性塗料組成物」とは、主溶媒として水を含有する塗料組成物である。
本明細書において「分散樹脂」とは、水性塗料組成物の溶媒中に分布して不均質な系(例えば乳濁液又は懸濁液)を形成している樹脂である。
本明細書において「水溶性樹脂」とは、水性塗料組成物の溶媒中に溶解している樹脂である。
【0018】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂(A)は、粒子径が85nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が100nm以上である。分散樹脂(A)は、粒子径の大きい粒子群からなり、塗膜を形成する樹脂母材として好適である。しかしながら、粒子径及び平均粒子径の大きい粒子群からなるので、分散樹脂(A)単独では分散樹脂粒子間の融着した部分に隙間が生じるため、成膜性が悪く、十分な防食性を得ることができない。このため、本発明の水性塗料組成物においては、分散樹脂(A)と共に、後述する分散樹脂(B)を併用することで、成膜性を改善し、防食性に優れた塗膜を形成させることができる。
【0019】
上記分散樹脂(A)を構成する粒子群は、粒子径が85nm以上、好ましくは100nm以上であり、上限について特に制限はないものの、粒子径が700nm以下であることを例示することができる。また、上記分散樹脂(A)の平均粒子径D50は、100nm以上、好ましくは150nm以上であり、上限について特に制限はないものの、平均粒子径D50が500nm以下であることを例示することができる。分散樹脂(A)の粒子径が85nm未満であったり、平均粒子径D50が100nm未満であったりすると、粘度が高くなる傾向があり、塗膜の製造も困難になる場合がある。また、分散樹脂(A)の粒子径や平均粒子径が大きすぎるものは成膜する工程でエマルジョンが融着するときに隙間を生じやすく、防食性が低下する恐れがあるため、分散樹脂(A)の粒子径は好ましくは700nm以下であり、平均粒子径D50は好ましくは500nm以下である。
【0020】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂(B)は、粒子径が75nm以下の粒子群からなり、平均粒子径D50が50nm以下である。分散樹脂(B)は、粒子径及び平均粒子径の小さい粒子群からなるため、成膜時に生じる融着した分散樹脂(A)粒子間の隙間を埋めることが可能であり、水等の外的因子の侵入を防ぐ緻密な塗膜が得られることで、塗膜の防食性を向上させることができる。また、上記分散樹脂(B)は、水溶性樹脂と比較して、親水性が低いことから耐水性が高く、塗膜の乾燥も速い。
【0021】
上記分散樹脂(B)を構成する粒子群は、粒子径が75nm以下、好ましくは50nm以下であり、下限について特に制限はないものの、粒子径が1nm以上であることを例示することができる。また、上記分散樹脂(B)の平均粒子径D50は、50nm以下、好ましくは40nm以下であり、下限について特に制限はないものの、平均粒子径D50が2nm以上であることを例示することができる。
【0022】
本明細書において、平均粒子径D50は、体積基準粒度分布の50%粒子径(D
50)を指し、レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置(例えばSALD−7000:株式会社島津製作所社製)を用いて測定される粒度分布から求めることができる。そして、本明細書における粒子径は、レーザ回折・散乱法による球相当径で表される。
【0023】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂(A)と分散樹脂(B)の質量比(A:B)は、50:1〜5:1であり、好ましくは40:1〜7:1である。質量比(A:B)が上記特定した範囲内であれば、分散樹脂(B)による防食性の向上効果を発揮することができる。一方、分散樹脂(B)の割合が質量比(A:B)=50:1よりも下回ると、防食性の向上効果を十分に確保することができない。また、分散樹脂(B)の割合が質量比(A:B)=5:1よりも上回ると、乾燥性が低下する。
【0024】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂(A)のガラス転移点Tg(a)と分散樹脂(B)のガラス転移点Tg(b)は、下記式(1):
0℃≦Tg(a)−Tg(b)≦40℃・・・式(1)
の関係を満たし、下記式(1’):
10℃≦Tg(a)−Tg(b)≦35℃・・・式(1’)
の関係を満たすことが好ましい。Tg(a)−Tg(b)の値が0℃以上であれば、分散樹脂(b)が分散樹脂(a)の隙間を埋めて緻密な塗膜をつくりやすくなる。また、Tg(a)−Tg(b)の値が40℃以下であれば、成膜不良を生じ難く、安定して高い防食性を得ることが出来る。
【0025】
上記分散樹脂(A)は、ガラス転移点Tg(a)が30〜60℃であることが好ましい。ガラス転移点Tg(a)が30℃以上であると、耐傷付き性を向上させることができるものの、成膜性及び防食性の観点から、ガラス転移点Tg(a)は60℃以下であることが好ましい。上記分散樹脂(A)のガラス転移点Tg(a)が30℃よりも低いと塗膜硬度が低くなる。また、ガラス転移点Tg(a)が60℃より高いと成膜不良により光沢および防食性が低下する場合がある。なお、上記分散樹脂(B)は、0〜60℃であることが好ましい。
【0026】
本明細書において、ガラス転移温度Tgは、次のFOX式を用いて計算されるものをいう。
1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+・・・+Wi/Tgi+・・・+Wn/Tgn
上記FOX式において、Tgは、n種類のモノマーからなるポリマーのガラス転移温度(K)であり、Tg(1、2、i、n)は、各モノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)であり、W(1、2、i、n)は、各モノマーの質量分率であり、W1+W2+・・・+Wi+・・・+Wn=1である。
【0027】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂(A)の重量平均分子量Mw(a)が100,000以下であり、分散樹脂(B)の重量平均分子量Mw(b)が20,000〜50,000であり、かつ、Mw(a)とMw(b)が、下記式(2):
Mw(a)>Mw(b)・・・式(2)
の関係を満たすことが好ましい。
分散樹脂(A)は分散樹脂(B)の重量平均分子量よりも大きい重量平均分子量を有することが好ましく、更に、重量平均分子量Mw(a)が100,000以下であることで、成膜性及び防食性をより向上させることができる。分散樹脂(A)の重量平均分子量Mw(a)は、60,000より高く100,000以下であることが好ましい。
また、分散樹脂(B)の重量平均分子量Mw(b)が20,000以上であると、分散樹脂(B)の親水性は低くなり、耐水性が向上する。一方、重量平均分子量Mw(b)が50,000以下であると、被塗物への密着性及び防食性を向上させることができる。
【0028】
本明細書において、重量平均分子量Mwは、ゲル浸透クロマトグラフィーで測定した値であり、標準物質にはポリスチレンが使用される。
【0029】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂として使用できる樹脂は、塗料業界において通常使用されている樹脂を例示することができ、具体的には、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコーン樹脂、ポリエステル樹脂、ふっ素樹脂、ロジン樹脂、石油樹脂、クマロン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、エポキシ樹脂、セルロース樹脂、キシレン樹脂、アルキッド樹脂、脂肪族炭化水素樹脂、ブチラール樹脂、マレイン酸樹脂、フマル酸樹脂、ビニル樹脂、アミン樹脂、ケチミン樹脂等が挙げられる。これらの樹脂を一種単独で用いても良く、二種以上組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、分散樹脂(A)は、耐候性、防食性および価格のバランスの観点から、アクリル樹脂が好ましい。また、分散樹脂(B)は、分散樹脂(A)と同じ理由から、アクリル樹脂が好ましい。
【0030】
本明細書において、アクリル樹脂は、アクリル酸エステル類又はメタクリル酸エステル類の重合体であり、例えば、アクリル酸、メタクリル酸並びにそのエステル、アミド及びニトリル等から選択されるアクリル成分の1種又は複数種を重合させて得られる重合体が挙げられ、更には、アクリル成分と、例えば、スチレン等の非アクリル成分とを重合させて得られる重合体も含まれる。アクリル樹脂がアクリル成分と非アクリル成分とから構成される場合、アクリル樹脂を構成するアクリル成分の割合は、通常、50質量%より大きい。
【0031】
上記アクリル成分としては、アクリル酸やメタクリル酸の他、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、sec−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、tert−ブチルアクリレート、メチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、ノニルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、ラウリルアクリレート、ステアリルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec−ブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート系単量体や、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、3−アミノプロピル(メタ)アクリレート、2−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル等の官能基含有モノマー等が挙げられる。また、アクリル酸アミド、メタクリル酸アミド等のアミド系モノマー;γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体等もアクリル成分に含まれる。
【0032】
非アクリル成分としては、スチレンの他、例えば、フマル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、ビニルバーサチック酸等のカルボキシル基含有単量体;メチルスチレン、クロロスチレン、メトキシスチレン、ビニルトルエン等の芳香族系モノマー;エチレン、プロピレン等のオレフィン系モノマー;酢酸ビニル、塩化ビニル等のビニル系モノマー;マレイン酸アミド等のアミド系モノマー;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン等のアルコキシシリル基含有単量体;ジアルキルフマレート、アリルアルコール、ビニルピリジン、ブタジエン等が挙げられる。
【0033】
本発明の水性塗料組成物において、分散樹脂の含有量は、合計で、加熱残分中、20〜60質量%であることが好ましい。本明細書において、加熱残分とは、最終的に塗膜を形成することになる成分であり、本発明においては、塗料組成物を130℃で60分間乾燥させた際に残存する成分を加熱残分として取り扱う。
なお、本発明の水性塗料組成物において、加熱残分の含有量は、40〜90質量%であることを例示することができ、50〜70質量%であることが好ましい。なお、乾燥性や厚膜塗装性の観点から、上記加熱残分の含有量は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることが更に好ましい。
【0034】
上記分散樹脂は、塗料組成物の調製の際に分散液の形態で使用されることが好ましい。樹脂分散液は、例えば、高速攪拌機等を使用することにより強制的なせん断力を加えながら、必要に応じて界面活性剤を用いて、水分散性樹脂を水中で乳化させることによって調製できる。或いは、有機溶剤媒体中にて重合してなる水分散性樹脂に対して、必要に応じて界面活性剤を加えて、水中への相転換を行うことによって樹脂分散液を調製でき、必要に応じて蒸留等によって樹脂分散液中に含まれる有機溶剤を除去してもよい。また、水を媒体とし、水中で重合を行うことによっても、樹脂分散液を調製できる。
【0035】
本発明の水性塗料組成物は、水溶性樹脂を含んでいてもよい。水溶性樹脂は、分散樹脂(B)と比較して親水性が高く、耐水性の面で劣るものの、塗膜表面が滑らかになり、光沢を向上させることができる。水溶性樹脂は、ガラス転移点Tgが0〜60℃であることが好ましく、重量平均分子量Mwが20000〜50000であることが好ましい。また、水溶性樹脂として使用できる樹脂は、上述の分散樹脂と同様に、塗料業界において通常使用されている樹脂を例示することができ、例えば、アクリル樹脂が好ましい。
本発明の水性塗料組成物において、加熱残分中における水溶性樹脂の含有量は、0.1〜3.0質量%であることが好ましい。
【0036】
本発明の水性塗料組成物は、防錆顔料を含むことが好ましい。防錆顔料は、公知の材料が使用でき、例えば、亜鉛粉末、酸化亜鉛、メタホウ酸バリウム、珪酸カルシウム、リン酸アルミニウム、縮合リン酸アルミニウム、トリポリリン酸アルミニウム、リン酸亜鉛、亜リン酸亜鉛、亜リン酸カリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸アルミニウム、リン酸亜鉛カルシウム、リン酸亜鉛アルミニウム、リンモリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミニウム、リン酸マグネシウム、バナジン酸/リン酸混合顔料等が挙げられる。これら防錆顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。また、本発明の水性塗料組成物において、加熱残分中における防錆顔料の含有量は、1〜8質量%であることが好ましい。
【0037】
本発明の水性塗料組成物は、体質顔料を含むことが好ましい。体質顔料は、公知の材料が使用でき、例えば、シリカ、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム等が挙げられる。これら体質顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。体質顔料は、低コストであると共に、塗膜の光沢を落とし難い。本発明の水性塗料組成物において、加熱残分中における体質顔料の含有量は、1〜40質量%であることが好ましい。
【0038】
本発明の水性塗料組成物は、着色顔料、光輝顔料等の、塗料業界において通常使用されている他の顔料を含んでもよい。具体的には、二酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等の着色顔料、アルミニウム、ニッケル、クロム、錫、銅、銀、白金、金、ステンレス、ガラスフレーク等の光輝顔料等が挙げられる。これら顔料は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本発明の水性塗料組成物において、成膜助剤の含有量は、5質量%未満であることが好ましく、3質量%未満であることが好ましく、成膜助剤を含まないことが特に好ましい。上記分散樹脂(A)に該当するような粒子径及び平均粒子径の大きい分散樹脂を含む水性塗料組成物は、成膜性が悪いため、成膜助剤が配合される場合も多い。しかしながら、成膜助剤を用いると、塗料組成物の乾燥性を低下させる恐れがある。一方、本発明の水性塗料組成物は、分散樹脂(A)と共に分散樹脂(B)を併用しているため、成膜助剤を含まなくても、成膜性を改善することができる。
【0040】
成膜助剤を用いる場合は、公知の材料が使用でき、例えば、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGMME)、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso−ブチルエーテル、エチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノn−ブチルエーテル、エチレングリコールモノiso−ブチルエーテル、ジエチレングリコールモノtert−ブチルエーテル、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオールモノイソブチレート等が挙げられる。これら成膜助剤は、一種単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
本発明の水性塗料組成物において、水の含有量は、10〜60質量%であることが好ましく、30〜50質量%であることがより好ましい。
【0042】
本発明の水性塗料組成物には、その他の成分として、有機溶剤、表面調整剤、湿潤剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、沈降防止剤、皮張り防止剤、たれ防止剤、消泡剤、色分かれ防止剤、レベリング剤、乾燥剤、可塑剤、防カビ剤、抗菌剤、殺虫剤、光安定化剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤及び導電性付与剤等を目的に応じて適宜配合することができる。これら成分は、市販品を好適に使用することができる。なお、これら成分には有機溶剤が使用されている場合もある。本発明の水性塗料組成物中において、有機溶剤の含有量は、好ましくは15質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0043】
本発明の水性塗料組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製できる。
【0044】
本発明の水性塗料組成物は、せん断速度0.1(1/s)における粘度が1〜1000(Pa・s、23℃)であり、せん断速度1000(1/s)における粘度が0.05〜10(Pa・s、23℃)であることが好ましい。上述の特定した範囲内に粘度を調整することにより、塗装作業性を向上させることができる。それぞれのせん断速度での粘度が上記の範囲内にあることで、塗装作業性、タレ性に優れるため、膜厚の均一な塗膜を容易に形成することが可能となる。なお、本発明において、粘度は、TAインスツルメンツ社製レオメーターARESを用い、液温を23℃に調整した後に測定される。
【0045】
本発明の水性塗料組成物の塗装手段は、特に限定されず、既知の塗装手段、例えば、刷毛塗装、ローラー塗装、コテ塗装、ヘラ塗装、フローコーター塗装、スプレー塗装(例えばエアースプレー塗装、エアレススプレー塗装など)等が利用できる。
【0046】
本発明の水性塗料組成物の乾燥手段は、特に限定されず、周囲温度での自然乾燥や乾燥機等を用いた強制乾燥のいずれであってもよい。
【0047】
また、本発明の水性塗料組成物により塗装できる基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、鉄鋼、亜鉛めっき鋼(例えばトタン板)、錫めっき鋼(例えばブリキ板)、ステンレス鋼、マグネシウム合金、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属又は合金を少なくとも一部に含む金属系基材が好適に挙げられる。
なお、基材には、各種表面処理、例えば酸化処理やプライマー処理が施された基材が含まれ、基材表面の少なくとも一部に旧塗膜(本発明の水性塗料組成物の塗装を行う前に既に形成されている塗膜)が存在していてもよい。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0049】
≪分散樹脂(A)の合成≫
<アクリル樹脂分散体A−1>
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器中に、イオン交換水25.92質量部、及びポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)オルキルエーテル硫酸アンモニウム(第一工業製薬株式会社製;アクアロンKH−10)0.3質量部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した後、過硫酸カリウム(重合開始剤)0.13質量部を加えた。
続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(日油株式会社性;ノフマーMSD)0.15質量部、スチレン15.5質量部、メチルメタクリレート15.5質量部、n−ブチルアクリレート16.2質量部、メタクリル酸0.5質量部、イオン交換水25質量部、及びポリオキシエチレン−1−(アリルオキシメチル)オルキルエーテル硫酸アンモニウム(第一工業製薬株式会社製;アクアロンKH−10)0.5質量部の混合物A−1を、3時間かけて滴下した。
滴下終了後、これをさらに2時間80℃に保持した後、40℃に降温した。
次いで25質量%アンモニア水0.26質量部でpH9.0に調整し、消泡剤0.02質量部、防腐剤0.02質量部を加えて、加熱残分48質量%のアクリル樹脂分散体A−1を得た。
なお、分散体A−1中に含まれる樹脂は、粒子径が150nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が289nm、ガラス転移点Tgが30℃、重量平均分子量Mwが90000であった。
【0050】
<アクリル樹脂分散体A−2〜A−4>
上記混合物A−1を表1に示す配合の混合物A−2〜A−4に変更した以外は上記アクリル樹脂分散体A−1の合成例と同様に、アクリル樹脂分散体A−2〜A−4を調製し、アクリル樹脂を合成した。アクリル樹脂分散体A−2に含まれる樹脂は、粒子径が150nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が289nm、ガラス転移点Tgが46℃、重量平均分子量Mwが95000であり、アクリル樹脂分散体A−3に含まれる樹脂は、粒子径が170nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が302nm、ガラス転移点Tgが10℃、重量平均分子量Mwが90000であり、アクリル樹脂分散体A−4に含まれる樹脂は、粒子径が100nm以上の粒子群からなり、平均粒子径D50が242nm、ガラス転移点Tgが70℃、重量平均分子量Mwが120000であった。アクリル樹脂分散体A−2〜A−4の加熱残分はいずれも48質量%であった。
【0051】
【表1】
【0052】
≪分散樹脂(B)の合成≫
<アクリル樹脂分散体B−1>
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器中に、メチルエチルケトン10質量部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、90℃まで昇温した。
続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(日油株式会社性;ノフマーMSD)0.3質量部、スチレン7.9質量部、メチルメタクリレート7.9質量部、n−ブチルアクリレート9.2質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート1質量部、及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3質量部の混合物B−1を、3時間かけて滴下した。
滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3質量部、及びメチルエチルケトン1質量部の混合物を、1時間かけて滴下した。
得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート0.5質量部、メチルエチルケトン1質量部を加え、更に2時間攪拌を続けた。
続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、スチレン1.3質量部、メチルメタクリレート1.3質量部、n−ブチルアクリレートを3.9質量部、メタクリル酸2質量部、及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2質量部の混合物B−2を、1時間かけて滴下した。
滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.2質量部とメチルエチルケトン1質量部の混合物を、1時間かけて滴下した。
得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、冷却した。
得られた混合物に、トリエチルアミン2.3質量部を加えて攪拌し、更にイオン交換水47.86質量部を加えた。
このものから、エバポレーターを用いて減圧下(約50mmHg)、50℃にてメチルエチルケトン12質量部を留去し、次いでイオン交換水7.5質量部、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル5質量部、消泡剤0.02質量部、防腐剤0.02質量部を加えて、加熱残分35質量%のアクリル樹脂分散体B−1を得た。
アクリル樹脂分散体B−1に含まれる樹脂は、粒子径が45nm以下の粒子群からなり、平均粒子径D50が14nm、ガラス転移点Tgが21℃、重量平均分子量Mwが40000であった。
【0053】
<アクリル樹脂分散体B−2>
混合物B−1を表2に示す配合の混合物B−3に、混合物B−2を表2に示す配合の混合物B−4に、それぞれ変更した以外は、上記アクリル樹脂分散体B−1と同様に加熱残分35質量%のアクリル樹脂分散体B−2を調製し、アクリル樹脂を合成した。アクリル樹脂分散体B−2に含まれる樹脂は、粒子径が55nm以下の粒子群からなり、平均粒子径D50が21nm、ガラス転移点Tgが45℃、重量平均分子量Mwが45000であった。
【0054】
【表2】
【0055】
≪水溶性樹脂の合成≫
撹拌装置、温度計、還流冷却管、滴下装置および窒素導入管を備えた反応器中に、メチルエチルケトン15質量部を仕込み、反応器内部を窒素で置換しながら、90℃まで昇温した。
続いて、予め別容器にて攪拌混合しておいた、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(日油株式会社性;ノフマーMSD)0.05質量部、スチレン5質量部、メチルメタクリレート5質量部、n−ブチルアクリレート13質量部、2−ヒドロキシエチルメタクリレート8.3質量部、メタクリル酸3.85質量部、及びtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3質量部の混合物を、5時間かけて滴下した。
滴下終了後、同温度を保持したまま、更に予め別容器にて攪拌混合しておいた、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(重合開始剤)0.3質量部とメチルエチルケトン2質量部の混合物を、1時間かけて滴下した。
得られた混合物を、同温度を保持したまま、6時間攪拌を続けて反応させた後、冷却した。
得られた混合物に、トリエチルアミン4.5質量部を加えて攪拌し、更にイオン交換水42.66質量部を加えた。
このものから、エバポレーターを用いて減圧下(約50mmHg)、50℃にてメチルエチルケトン15質量部を留去し、次いでイオン交換水10質量部、エチレングリコールモノn−ブチルエーテル5質量部、消泡剤0.02質量部、防腐剤0.02質量部を加えて、加熱残分35質量%のアクリル樹脂水溶液を調製し、アクリル樹脂を合成した。
アクリル樹脂水溶液に含まれる水溶性樹脂は、ガラス転移点Tgが22℃、重量平均分子量Mwが45000、酸価が70mgKOH/g、水酸基価が100mgKOH/gであった。
【0056】
≪水性塗料の調製≫
調製したアクリル樹脂分散体A−1〜A−4、アクリル樹脂分散体B−1〜B−2、及びアクリル樹脂水溶液を用いて、表3に示す配合処方に従う成分をディスパーにより攪拌して、水性塗料を調製した。
次いで、水性塗料の防食性、乾燥性、塗膜硬度及び光沢について評価を行った。結果を表3に示す。なお、評価方法は後述する。
【0057】
【表3】
【0058】
・体質顔料…「沈降性バリウム100」、堺化学工業(株)製
・防錆顔料…「K−WHITE #140W」、テイカ(株)製
・着色顔料…酸化チタン「R−32」、堺化学工業(株)製
・顔料分散剤…「DISPERBYK−194N」、ビックケミージャパン(株)製
・成膜助剤…「ブチルセロソルブ」、三菱ケミカル(株)製
・消泡剤…「ノプコNXZ」、サンノプコ(株)製
【0059】
≪評価方法≫
<防食性>
SS400のブラスト板を用いて、乾燥膜厚が100μmとなるように塗装を行った後、塗膜にクロスカットを入れて、試験板を作製した。作製した試験板を、JIS Z2371:2015の方法に従って1週間塩水を噴霧した。試験後の試験板を以下の評価基準に基づいて評価した。
◎:一般部(クロスカットを入れていない塗膜部分)に錆・膨れがなく、カット部(クロスカットを入れた塗膜部分)には切り込みから1mm未満の個所にしか膨れがない。
○:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから3mm未満の個所にしか膨れがない。
△:一般部に錆・膨れがなく、カット部の切り込みから5mm未満の個所にしか膨れがない。
×:カット部の切り込みから5mm以上の部分にも膨れが生じ、一般部に錆・膨れがある。
【0060】
<乾燥性>
50℃の試験板に乾燥膜厚が50μmとなるように塗装を行い、「JIS K 5600−1−1の4.3.5 硬化乾燥性」に従い、評価を行った。
◎:1分以内に硬化乾燥状態になった。
○:1分を超え2分未満の時間で硬化乾燥状態になった。
×:2分以上で硬化乾燥状態になった。
【0061】
<塗膜硬度>
乾燥性の評価で用いた試験板を23℃で一日間養生した後に、塗膜硬度を「JIS K5600−5−4 引っかき硬度(鉛筆法)」により評価を行った。
◎:鉛筆硬度が2H以上
○:鉛筆硬度がH
△:鉛筆硬度がBからF
×:鉛筆硬度が2B以下
【0062】
<光沢>
乾燥性の評価で用いた試験板を23℃で一日間養生した後に、「JIS K5600−4−7(1999) 鏡面光沢度」(60度)に準じて各塗面の光沢度を測定した。測定した光沢度を下記基準により評価した。
◎:鏡面光沢度が40以上
○:鏡面光沢度が30以上40未満
△:鏡面光沢度が25以上30未満
×:鏡面光沢度が25未満。
【0063】
表3から明らかなように、比較例1は樹脂の配合比率が本発明の範囲外であるため、比較例2、比較例3、比較例4は、Tgの関係が式(1)を満たさないため、それぞれ防食性、乾燥性、塗膜硬度及び光沢の少なくともいずれかが劣る結果となった。これらに比べて実施例1〜4は防食性、乾燥性、塗膜硬度、光沢に優れることがわかる。