【実施例】
【0080】
本発明の大比表面積の予備CNF粉末を作成し、従来技術と比較評価した。
【0081】
まず、CNF予備分散液の乾燥方法によって予備CNF粉末の比表面積が変化するかを検証した。
【0082】
(比較例α)
水に分散したCNFを、よく混ぜ合わせてCNF予備分散液とした。恒温槽で乾燥させて粉末化した。
【0083】
(実施例α)
水に分散したCNFを、よく混ぜ合わせてCNF予備分散液とした。冷凍庫に入れて凍らせ、凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。
【0084】
(比較例αおよび実施例αの評価)
比較例αまたは実施例αで作製した予備CNF粉末について、外観観察、BET比表面積、およびFE−SEM観察を行った。
【0085】
図1は、比較例αおよび実施例αの外観を示した写真である。比較例αの予備CNF粉末は、CNF繊維の収縮および表面硬化が起こってCNFが2次元的にフィルム化した(
図1(a))。一方、実施例αの予備CNF粉末は、CNF繊維の収縮が少なく、CNFが3次元的に粉末化した(
図1(b))。
【0086】
また、実施例αの予備CNF粉末のBET比表面積は、セルロース原料粉(未処理)と比較して約3倍、比較例αの予備CNF粉末と比較して約4倍大きくなった(表1)。
<表1>
【0087】
図2は、セルロース原料粉(未処理)、比較例αおよび実施例αのFE−SEM撮影像である。FE−SEM観察の結果、セルロース原料粉(未処理)は、多数の繊維が集合して繊維束を形成している状態であった(
図2(a))。これに対し、実施例αの予備CNF粉末は、繊維が1本1本解れている様子が確認できた(
図2(c))。一方、比較例αの予備CNF粉末は、解れた繊維が2次元的に隙間なく配列してフィルムを形成している様子が観察できた(
図2(b))。
【0088】
本発明によれば、CNF予備分散液を凍結乾燥することによって比表面積が大きい予備CNF粉末を作製することができる。
【0089】
次に、t−ブタノールを添加し湿式微粒化処理によりCNFを分散させることで、より大比表面積の予備CNF粉末を作製できるか検討した。
【0090】
比較として、表1に上述したセルロース原料粉(未処理)と、上述の実施例αで作製した予備CNF粉末の実験結果を利用した。
【0091】
(実施例β)
水に分散したCNFに、t−ブタノールを添加し、よく混ぜ合わせた。湿式微粒化処理によって分散処理し、CNF予備分散液とした。冷凍庫に入れて凍らせた。凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。
【0092】
(セルロース原料粉、実施例α、および実施例βの評価)
セルロース原料粉、実施例αおよび実施例βの予備CNF粉末について、外観観察、BET比表面積、およびFE−SEM観察を行った。
【0093】
図3は、実施例βの外観を示した写真である。実施例αの予備CNF粉末は、鱗片状の粉末が集合してパサついた状態だったのに対し(
図1(b))、実施例βの予備CNF粉末は、外観がふっくらしており3次元的に粉末化した(
図3)。
【0094】
表2に、実施例βの予備CNF粉末のBET比表面積を示す。実施例βの予備CNF粉末のBET比表面積は、セルロース原料粉(未処理)と比較して6.6倍、実施例αの予備CNF粉末と比較して約1.9倍大きくなった(表1,2)。このことから、t−ブタノールを使用することによりCNFの繊維収縮が抑えられることが分かった。
<表2>
【0095】
図4は、実施例βのFE−SEM撮影像である。FE−SEM観察の結果、実施例αの予備CNF粉末(
図2(c))と同様、実施例βの予備CNF粉末(
図4)は、繊維が解れてナノファイバーになっていることが確認できた。
【0096】
本発明によれば、水に分散したCNFに、t−ブタノールを添加し湿式微粒化処理し、凍結乾燥することで、より大きな比表面積を持つ予備CNF粉末を作製することができる。
【0097】
水と有機溶媒が懸濁した場合は、凝固点の差によって部分的な濃縮が起こり、繊維が凝集して比表面積が低下する可能性がある。そこで、遠心分離による溶媒置換や、液体窒素による急速凍結を行うことで、より大比表面積の予備CNF粉末を作製できるか検討した。
【0098】
比較として、表2に上述した実施例βで作製した予備CNF粉末の実験結果を利用した。
【0099】
(実施例γ1)
湿式微粒化による分散処理により水に分散したCNFに、t−ブタノールを添加し、よく混ぜ合わせた。湿式微粒化処理によって分散処理し、CNF予備分散液とした。遠心分離して脱水し、上澄み液を廃棄し、t−ブタノールをCNFに再添加して、よく混ぜ合わせることで溶媒置換した。冷凍庫に入れて凍らせた。凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。
【0100】
(実施例γ2)
湿式微粒化による分散処理により水に分散したCNFに、t−ブタノールを添加し、よく混ぜ合わせた。湿式微粒化処理によって分散処理し、CNF予備分散液とした。液体窒素に浸漬させて混合物を急速凍結させた。凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。
【0101】
(実施例β、実施例γ1、および実施例γ2の評価)
実施例βと、実施例γ1および実施例γ2の予備CNF粉末について、外観観察、BET比表面積を行った。
【0102】
図5は、実施例γ1および実施例γ2の外観を示した写真である。実施例γ1の予備CNF粉末(
図5(a))、および実施例γ2の予備CNF粉末(
図5(b))の外観形状は、発泡スチロールやコットンと類似し、体積は大きく、重量は軽かった。
【0103】
また、実施例β(溶媒置換や急速凍結を行っていないもの)(表2)と比較して、実施例γ1および実施例γ2の予備CNF粉末のBET比表面積は、著しく大きくなった(表3)。
<表3>
【0104】
本発明によれば、t−ブタノールを添加し湿式微粒化処理した後の工程として、遠心分離による脱水および溶媒置換する工程かまたは液体窒素による急速凍結を行う工程かのいずれか一方の工程を行い、その後に凍結乾燥させて粉末化することで、比表面積が大きい予備CNF粉末を作製することができる。
【0105】
次に、湿式微粒化処理による解繊処理においてt−ブタノールを添加するタイミングによって予備CNF粉末の比表面積が変化するか評価した。t−ブタノールを添加するタイミングは、湿式微粒化処理による解繊処理前か、処理中か、処理後とした。
【0106】
比較として、表3に上述した実施例γ2(湿式微粒化処理による解繊処理後にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末)の実験結果を利用した。
【0107】
(実施例δ1)
セルロースと水とt−ブタノールの懸濁液を調整し、該懸濁液を湿式微粒化処理によって分散処理し、CNF予備分散液とした。液体窒素で急速凍結させた後、凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。該粉末は、湿式微粒化処理による解繊処理前にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末である。
【0108】
(実施例δ2)
セルロースと水の懸濁液を調整し、該懸濁液を湿式微粒化処理によって分散処理し、CNF予備分散液とした。CNF予備分散液に、t−ブタノールを添加し、再び、湿式微粒化処理によって分散処理した。液体窒素で急速凍結させた後、凍結乾燥機で乾燥させて粉末化した。該粉末は、湿式微粒化処理による解繊処理中にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末である。
【0109】
(比較例γ2、実施例δ1,実施例δ2の評価)
結果、BET比表面積は、実施例γ2(湿式微粒化処理による解繊処理後にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末)>実施例δ2(湿式微粒化処理による解繊処理中にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末)>実施例δ1(湿式微粒化処理による解繊処理前にt−ブタノールを添加した予備CNF粉末となった)(表4)。
<表4>
【0110】
本発明によれば、水溶媒中のセルロースを湿式微粒化処理により十分に解繊してからt−ブタノールを添加することで、比表面積が最大化した予備CNF粉末を作製することができる。
【0111】
従来技術を用いた有機溶媒に分散したセルロース(湿式微粒化処理による解繊処理したセルロース)を検証するために、比較例1と比較例2を製作および評価した。
【0112】
(比較例1)
セルロース原料と水で2wt%の懸濁液を調製した後、当該懸濁液を湿式微粒化装置で解繊処理(200MPa、10パス以上)することで、水に分散したCNFを製作した。次に、水に分散したCNFを遠心分離(4000rpm、3min)でt−ブタノールに置換後、凍結乾燥(24時間)で粉末化した。
【0113】
(比較例2)
セルロース原料とメチルエチルケトン(以下、MEK)で2wt%の懸濁液を調製した後、当該懸濁液を湿式微粒化装置で解繊処理(200MPa、10パス以上)することで、MEKに分散したセルロースを製作した。次に、MEKに分散したセルロース(湿式微粒化処理による解繊処理したセルロース)を遠心分離(4000rpm、3min)でt−ブタノールに置換後、凍結乾燥(24時間)で粉末化した。
【0114】
(比較例1と比較例2の評価)
製作した比較例1および2を、比表面積測定、FE−SEM撮影により物性値および形状を確認した。なお、比表面積測定には、島津サイエンス東日本株式会社のマイクロメリティックスTriStarIIを使用した。FE−SEMには、日本電子株式会社のJSM−7001FTTLSを使用した。FE−SEM観察では、比表面積測定と同じ粉末に白金蒸着(10mA、10sec)にして観察した。
【0115】
比較例1および比較例2の外観写真を
図6に示す。セルロースは、NF化すると比表面積が大きくなり、粘度が増加する特徴がある。比較例1では、粘度増加が明らかであり、見た目でセルロースがNF化している様子が確認できた(比較例1)。一方、比較例2は、粘度の変化がなく、静置するとMEKとセルロースが分離するため、セルロースはNF化していない様子だった(比較例2)。結果、従来技術を用いた有機溶媒中のNF化の方法では、比較例2のような有機溶媒のセルロースは、NF化できないことが確認できた。
【0116】
比較例1および比較例2の比表面積測定結果を表5に示す。左から未処理(高圧時湿式ジェットミルでの解繊処理をしていないもの)、比較例1、比較例2である。比較例2の比表面積は、比較例1よりも小さく、未処理から2倍程度に留まるため、ほとんどのセルロースがNF化していないことが示唆された。
<表5>
【0117】
比較例1および比較例2のFE−SEM観察結果を
図7に示す。左から未処理(高圧時湿式ジェットミルでの解繊処理をしていないもの)、比較例1、比較例2である。比較例2は、比較例1と異なり、セルロースの繊維が解れず、NF化していないことが確認できた(
図7)。
【0118】
本発明を用いた有機溶媒CNFを検証するために、比較例1と実施例1を製作および評価した。
【0119】
(実施例1)
セルロース原料と水で0.5〜10wt%の懸濁液を調製した後、当該懸濁液を湿式微粒化装置で解繊処理(200MPa、10パス以上)することで、水に分散したCNFを製作した。
【0120】
当該CNFにt−ブタノールを添加し、CNF予備分散液を調整した後、遠心分離(1800rpm、5min)を行った。
【0121】
さらに、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥(6時間)で粉末化し、予備CNF粉末を製作した。なお、前処理として、冷凍庫あるいは液体窒素で予備凍結させることも想定できる。
【0122】
予備CNF粉末をMEKに分散した1wt%の懸濁液を調製し、湿式微粒化装置で再解繊処理(200MPa、3パス以上)する。なお、再解繊処理の前処理として、その懸濁液を回転式のホモジナイザー処理(2000rpm、2min)、さらには、ダイヤフラムポンプ(吐出圧力:0.5MPa)を備えたスプレーノズルで2パス処理する。以上により、CNF分散液を得た。
【0123】
(比較例1と実施例1の評価)
製作した比較例1および実施例1を、粘度測定、比表面積測定、およびFE−SEM撮影により物性値および形状を確認した。なお、粘度測定には、アントンパールのレオメータMCR302−CC27を使用した。比表面積測定には、島津サイエンス東日本株式会社のマイクロメリティックスTriStarIIを使用した。FE−SEMには、日本電子株式会社のJSM−7001FTTLSを使用した。FE−SEM観察では、比表面積測定と同じ粉末に白金蒸着(10mA、10sec)にして観察した。
【0124】
実施例1の外観写真を
図8に示す。実施例1では、比較例1と同程度まで粘度が増加しており、見た目でセルロースがNF化している様子が確認できた。また、実施例1は、静置してもMEKとセルロースの分離が起こらなかった。
【0125】
比較例1と実施例1の粘度測定結果を
図9に示す。溶媒自体の粘度が異なるため、正確な比較は出来ないが、実施例1の粘度は比較例1と同等かそれ以上であることから、MEK中でセルロースがNF化していることが確認できた。
【0126】
比較例1および実施例1の比表面積測定結果を表6に示す。実施例1の比表面積は、比較例1よりも小さいが、未処理から16倍大きくなっているため、ほとんどのセルロースがNF化していることが確認できた。
<表6>
【0127】
未処理、比較例1および実施例1のFE−SEM観察結果を
図10に示す。左から、未処理(
図10(a))、比較例1(
図10(b))、実施例1(
図10(c))である。実施例1は、比較例1と同様にセルロースの繊維が解れてNF化していることが確認できた。
【0128】
実施例1では、有機溶媒としてMEKを使用したが、その他の有機溶媒でも効果が得られるかを確認した。
【0129】
(その他の有機溶媒の評価)
実施例1と同様の手順で、CNF分散液を作成し、粘度測定、比表面積測定、FE−SEM撮影により物性値および形状を確認した。以下表7に比表面積測定の結果を示す。
【0130】
実施例1〜5までの分子量の小さい有機溶媒で作成したCNFは、比表面積が比較例1と同様になることがわかった。一方、実施例6〜8の分子量の大きな有機溶媒は、比表面積が小さかった。この原因は、分子量が大きい溶媒は、凍結乾燥時に揮発せずに残留し、CNF表面をコートしたり、繊維同士を結着したりするためではないか、と推測できる。
<表7>
【0131】
実施例6〜8のCNF分散液のFE−SEM観察結果を
図11に示す。左から、実施例6(
図11(a))、実施例7(
図11(b))、実施例8(
図11(c))である。実施例6〜8のCNF分散液は、一部の繊維がナノファイバーとして存在していたものの、ほとんどの繊維は溶媒がコートしていたり、溶媒によって繊維同士が結着したりしている様子が確認できた。分子量の大きい有機溶媒は、凍結乾燥時に凝集が起こるため、乾式測定では、セルロースが分子量の大きい有機溶媒中でナノファイバーとして存在しているかどうかの評価が困難だとわかった。
【0132】
比較例1および実施例1〜8のCNF分散液の粘度測定結果を
図12に示す。実施例1〜8のCNF分散液の粘度変化の挙動は、評価基準である比較例1と同等であることから、各種有機溶媒中でセルロースがNF化していることが確認できた。
【0133】
粘度変化の挙動がナノファイバーに由来するものか確認するため、比較例3、比較例4、実施例6を製作および評価した。
【0134】
(比較例3,4)
比較例3は、流動パラフィン(実施例6の溶媒)である。比較例4は、流動パラフィンとセルロース原料の懸濁液(実施例6において湿式微粒化処理なし)であり、セルロースがNF化されていない。
【0135】
比較例3、比較例4、および実施例6の粘度測定結果を
図13に示す。比較例3の粘度変化は比較例2と同様になったため、ナノファイバー化していないセルロースには増粘効果がないことがわかった。つまり、実施例6は流動パラフィン中でセルロースがナノファイバーとして存在していることによって増粘したと考えられる。
【0136】
実施例1〜8とは異なる製造方法でも効果が得られるか確認するため、実施例9および実施例10を作製および評価した。比較として上述の比較例2および実施例1の数値を用いた。
【0137】
(実施例9)
水にt−ブタノールを全量に対して10〜50%になるように添加した混合液を作製する。
【0138】
セルロース原料と当該混合液で0.5〜10wt%の懸濁液を調製した後、当該懸濁液を湿式微粒化装置で解繊処理(200MPa、10パス以上)することで、CNF予備分散液を調整する。
【0139】
さらに、凍結乾燥機を用いて凍結乾燥(6時間)で粉末化し、予備CNF粉末を製作した。なお、前処理として、冷凍庫あるいは液体窒素で予備凍結させることも想定できる。
【0140】
予備CNF粉末をMEKで分散した1〜3wt%の懸濁液を調整し、湿式微粒化装置で再解繊処理(200MPa、3パス以上)する。なお、再解繊処理の前処理として、その懸濁液を回転式のホモジナイザー処理(2000rpm、2min)、さらには、ダイヤフラムポンプ(吐出圧力:0.5MPa)を備えたスプレーノズルで2パス処理する。以上により、CNF分散液を得た。
【0141】
(実施例10)
セルロース原料と水で0.5〜10wt%の懸濁液を調製した後、当該懸濁液を湿式微粒化装置で解繊処理(200MPa、10パス以上)することで、水に分散したCNFを製作した。
【0142】
次に、当該CNFにt−ブタノールを添加し、CNF予備分散液を調整した後、遠心分離(1800rpm、5min)を行った。
【0143】
上澄み液を廃棄した後、それと同量のMEKを沈降したCNFに再添加し、よく混ぜ合わせた後に遠心分離(1800rpm、5min)を行う。
【0144】
廃棄した上澄み液と同量のMEKを沈降したCNFに再添加し、よく混ぜ合わせる。これにより、懸濁液を調整する。
【0145】
懸濁液を、湿式微粒化装置で再解繊処理(200MPa、3パス以上)する。以上により、CNF分散液を得た。
【0146】
(実施例9、実施例10の評価)
製作した実施例9および実施例10を、比表面積測定、およびFE−SEM撮影により物性値および形状を確認した。
【0147】
比較例2、実施例1,9,10の比表面積測定結果を表8に示す。実施例9、10は、実施例1より比表面積が小さいものの、従来の比較例2と比べると約5.5〜6.5倍の比表面積を持つことがわかった。
<表8>
【0148】
実施例1,9,10のFE−SEM観察結果を
図14に示す。左から、実施例1(
図14(a))、実施例9(
図14(b))、実施例10(
図14(c))である。実施例9および実施例10は、実施例1と同様にセルロースの繊維が解れてNF化していることが確認できた。
【0149】
本発明の製造方法で作製した樹脂組成物におけるCNF分散液の分散性および補強効果を検証した。以下の比較例A,B、実施例A、およびPLA単体を使用した。
【0150】
(比較例A)
比較例1の製造方法に従って、水溶媒に分散したCNF分散液を作製する。これにより従来の、CNF分散液を得る。
【0151】
ポリ乳酸樹脂(以下、PLAとする)に固形成分濃度が1wt%になるようCNF分散液を添加して、その混合物を撹拌する。
【0152】
ドラフト内で、当該混合物を24時間以上加熱し、水を揮発させ、当該混合物が固形化していることを確認し、真空乾燥機(100℃)で24時間乾燥させ、完全乾燥した混合物を得る。これにより従来の、水に分散させたCNF分散液を添加した樹脂組成物を得る。
【0153】
(比較例B)
比較例2の製造方法に従って、1,4−ジオキサン溶媒に分散したセルロースを作製する。これにより従来の、セルロース分散液を得る。
【0154】
PLAに固形成分濃度が1wt%になるようセルロース分散液を添加して、その混合物を撹拌する。
【0155】
ドラフト内で、当該混合物を24時間以上加熱し、1,4−ジオキサンを揮発させ、当該混合物が固形化していることを確認し、真空乾燥機(100℃)で24時間乾燥させ、完全乾燥した混合物を得る。これにより従来の、水に分散させたセルロースを添加した樹脂組成物を得る。
【0156】
(実施例A)
製造方法1に従って、1,4−ジオキサン溶媒に分散したCNFを作製する。これにより、本発明のCNF分散液を得る。
【0157】
PLAに固形成分濃度が1wt%になるよう当該CNF分散液を添加して、その混合物を撹拌する。
【0158】
ドラフト内で、当該混合物を24時間以上加熱し、1,4−ジオキサンを揮発させ、当該混合物が固形化していることを確認し、真空乾燥機(100℃)で24時間乾燥させ、完全乾燥した混合物を得る。これにより、本発明のCNF分散液を添加した樹脂組成物を得る。
【0159】
(比較例A,B、実施例AおよびPLA単体の評価)
比較例Aまたは実施例Aを射出成型機に投入し、ダンベル型試験片(JIS7162の試験片1B)を作製した。各試験片をX線CTにセットし、透過画像を撮影することで、樹脂中のセルロースまたはCNFの分散状態を確認した。各試験片で引張試験を行い、ヤング率を測定して(N=5)、セルロースまたはCNFの補強効果を確認した。
【0160】
比較例A,B、実施例AおよびPLA単体のX線CT測定結果を
図15に示す。これらを比較すると、比較例BのようにNF化が進んでいないものは繊維が太いため、セルロースの繊維が白く映った。これに対し、実施例AのようにNF化したものは繊維が細く、装置の検出限界であるナノサイズ状態で樹脂中に存在していたと考えられるため、CNFの繊維はほとんど映らなかった。一方、同じNF化した繊維を加えた比較例Aの透過画像では、樹脂中にCNFが白く存在している様子が確認できた。これは、PLAと水は親和性が低く、馴染みにくいため、樹脂中で繊維が凝集したためだと考えられる。
【0161】
比較例A,B、実施例A、PLA単体、および1,4−ジオキサンを加えたPLA(PLA+ジオキサン)の引張試験結果およびヤング率を
図16に示す。測定の結果、PLAに1,4−ジオキサンを添加するとヤング率が増加することがわかった。これは、1,4−ジオキサンの添加によってPLAが一度溶解することにより、射出成型時に空隙のない試験片ができたためだと考えられる。また、実施例Aは、ヤング率がPLA単体の約1.6倍になることがわかった。これに対し、比較例Bは、ヤング率が1,4−ジオキサンを加えたPLAと変わらなかった。このことから、PLAに解れていないセルロースを加えても、補強効果はないが、NF化したセルロース繊維を加えると補強効果があることがわかった。また、NF化したセルロース繊維を加えた場合でも、比較例Aのように水に分散したCNF分散液では、樹脂中でCNFが凝集するため、あまり補強効果がないことがわかった。
【0162】
本発明では、メチルエチルケトンが適用されているが、メチルエチルケトンの代わりに、同じケトン基を持つ化合物が適用され得る。例えば、アセトン、ジエチルケトン、メチルプロピルケトン、イソブチルメチルケトン、メチルビニルケトン、メシチルオキシド、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン、シクロペンタデカノン、アセトフェノン、プロピオフェノン、ベンゾフェノン、アセチルアセトン、ベンジルなどが適用されてもよい。
【0163】
本発明では、ジメチルスルホキシドが適用されているが、ジメチルスルホキシドの代わりに、同じスルフィニル基を持つ化合物が適用され得る。例えば、ジエチルスルホキシド、ジフェニルスルホキシド、ブチルエチルスルホキシド、メチルフェニルスルホキシド、フェニルビニルスルホキシドなどが適用されてもよい。
【0164】
本発明では、ジメチルホルムアミドが適用されているが、ジメチルホルムアミドの代わりに、同じアミド基を持つ化合物が適用され得る。例えば、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、ベンズアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N,N−ジメチルプロピオンアミドなどが適用されてもよい。
【0165】
本発明では、トルエンが適用されているが、トルエンの代わりに、芳香族炭化水素が適用され得る。例えば、ベンゼン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、エチルベンゼン、スチレン、クメン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレンなどが適用されてもよい。
【0166】
本発明では流動パラフィンが適用されているが、流動パラフィンの代わりに、脂肪族炭化水素が適用され得る。例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、イコサン、シクロペンタン、シクロヘキサンなどが適用されてもよい。。
【0167】
本発明では、オレイン酸が使用されているが、オレイン酸の代わりに、同じカルボキシ基を持つ化合物が適用され得る。例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、n−酪酸、イソ酪酸、n−吉草酸、トリメチル酢酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、グリコール酸、マロン酸、アクリル酸、安息香酸などが適用されてもよい。
【0168】
シリコーンとは、ケイ素と酸素からなるシロキサン結合による主骨格を持ち、ケイ素に有機基が結合した化合物をいう。具体的には、環状の揮発性シリコーンや直鎖状の揮発性シリコーン等のシリコーンオイルが挙げられる。環状の揮発性シリコーンとしては、例えばオクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ヘキサデカメチルシクロヘキサシロキサン等が挙げられ、直鎖状の揮発性シリコーンとしては、例えば、オクタメチルトリシロキサン、ヘプタメチルヘキシルトリシロキサン、ヘプタメチルオクチルトリシロキサン等が挙げられる。
【0169】
本発明では、エタノールが使用されているが、エタノールの代わりに、同じ水酸基を持つ化合物が適用され得る。例えば、メタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、シクロプロパノール、シクロブタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、グリセリン、フェノールなどが適用されてもよい。