【解決手段】Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる銅合金棒材であって、引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされ、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる銅合金棒材であって、
引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされ、
軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σZの正規化半径方向分布における極大値σZmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内であることを特徴とする銅合金丸棒材。
さらに、Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の元素を合計で0.02mass%以上0.7mass%以下の範囲内で含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の銅合金丸棒材。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、上述の丸棒材においては、特許文献4及び特許文献5に示すような方法によって同軸度を向上させた場合であっても、切削前の丸棒材に蓄積された残留応力によって切削加工時に変形が生じ、切削加工後の部品の同軸度が低下するといった問題があった。
最近では、ソレノイドバルブ等の車載用部品においては、従来よりも高い寸法精度が求められることから、従来にも増して、切削加工後の部品の同軸度をさらに向上させる必要がある。
【0007】
この発明は、前述した事情に鑑みてなされたものであって、切削加工時における変形が抑えられ、切削加工後の同軸度を向上させることが可能な銅合金丸棒材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、矯正後で切削加工前の銅合金丸棒材における軸方向残留応力σ
Zの径方向分布と、切削加工後の同軸度との間に一定の関係が存在することを見出し、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置を規定することで、切削加工後の同軸度を十分に向上させることが可能であるとの知見を得た。
【0009】
本発明は、上述の知見に基づいてなされたものであって、本発明の銅合金丸棒材は、Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる銅合金棒材であって、引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされ、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内であることを特徴としている。
【0010】
上述の構成の銅合金丸棒材によれば、Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、耐食性に優れ、かつ被削性に優れている。
また、引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされており、強度にも優れている。
【0011】
そして、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置をr/φ≦0.42の範囲内としているので、切削加工後の同軸度の向上を図ることができる。
なお、Heyn−Bauer法とは、丸棒材の一定長さ領域の外周面を段階的に切削し、丸棒材の長さの変化を測定することにより、軸方向残留応力σ
Zの径方向分布を求めるものである。
【0012】
図1(a)に、ロール矯正前(引抜加工後)の丸棒材の軸方向残留応力σ
Zの径方向分布を示す。また、
図1(b)に、ロール矯正後の丸棒材の軸方向残留応力σ
Zの径方向分布(b)を示す。
ロール矯正した丸棒材においては、
図1(b)に示すように、軸方向残留応力σ
Zの径方向分布は、軸中心部が圧縮(−)となり、径方向外側に向かって引張(+)となって極大値を取り、径方向外周端では圧縮(−)となる。本発明では、この軸方向残留応力σ
Zの極大値σ
Zmaxの径方向位置を制御することによって、切削加工後の同軸度を向上させているのである。
【0013】
ここで、本発明の銅合金丸棒材においては、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxが100MPa以下であることが好ましい。
この場合、切削加工前の銅合金丸棒材に蓄積された残留応力が比較的少なく、切削加工時における銅合金丸棒材の変形をさらに抑制することができる。
【0014】
また、本発明の銅合金丸棒材においては、さらに、Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の元素を合計で0.02mass%以上0.7mass%以下の範囲内で含有してもよい。
この場合、上述の元素を含有することにより、銅合金丸棒材の各種特性をさらに向上させることが可能となる。このため、要求される特性に応じて、適宜選択して添加することが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、切削加工時における変形が抑えられ、切削加工後の同軸度を向上させることが可能な銅合金丸棒材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に、本発明の一実施形態である銅合金丸棒材について説明する。
本実施形態である銅合金丸棒材は、Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成とされている。
なお、本実施形態である銅合金丸棒材においては、さらに、Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の元素を合計で0.02mass%以上0.7mass%以下の範囲内で含有してもよい。
【0018】
また、本実施形態である銅合金丸棒材においては、引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされている。
【0019】
そして、本実施形態である銅合金丸棒材においては、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内とされている。
なお、本実施形態である銅合金丸棒材においては、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxが100MPa以下とされていてもよい。
【0020】
ここで、上述のように成分組成、引張強度、残留応力を規定した理由について以下に説明する。
【0021】
(Cu,Zn)
本実施形態である銅合金丸棒材は、CuとZnとを主成分としている。
ここで、Cuの含有量が69mass%未満である場合、すなわち、Zn等に対してCuの含有量が少ない場合には、β相が多く存在することになり、結晶粒の微細化を図ることができなくなるおそれがある。また、延性、冷間加工性、耐変色性、耐応力腐食割れ性、プレス性といった特性が低下することになる。
一方、Cuの含有量が79mass%を超える場合、すなわち、Zn等に対してCuの含有量が多い場合には、強度、耐摩耗性が低下するとともに、結晶粒の微細化効果が低減するおそれがある。
このような理由から、Cuの含有量を69mass%以上79mass%以下の範囲内に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Cuの含有量の下限を72mass%以上とすることが好ましく、74mass%以上とすることがさらに好ましい。また、Cuの含有量の上限を78mass%以下とすることが好ましく、77mass%以下とすることがさらに好ましい。
また、Znは、引張強度、耐力等の機械的特性に影響を与える元素であるが、他の含有元素との関係から、Cu等の他の元素の残部として含有量を規定している。
【0022】
(Si)
Siは、被削性を向上させる作用を有する元素である。また、引張強度、耐力、衝撃強さ、疲労強度等の機械的特性を向上させる作用も有する。さらに、溶湯の流動性を向上させ、溶湯の酸化を防ぎ、融点を下げる作用も有する。
ここで、Siの含有量が2.0mass%未満である場合には、上述の作用効果を奏することができなくなる。すなわち、被削性を確保することができなくなる。
一方、Siの含有量が4.0mass%を超える場合には、初晶としてβ相が生成することになり、結晶粒の微細化効果を得ることができなくなる。
このような理由から、Siの含有量を2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内に設定している。
なお、上述の作用効果を確実に奏功せしめるためには、Siの含有量の下限を2.5mass%以上とすることが好ましく、2.7mass%以上とすることがさらに好ましい。また、Siの含有量の上限を3.5mass%以下とすることが好ましく、3.2mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0023】
(Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の添加元素)
これらの添加元素は、銅合金丸棒材の各種特性を向上させる作用を有するものであり、要求特性に応じて、適宜、添加することができる。
ここで、Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の添加元素の合計含有量が0.02mass%未満では、これらの添加元素の作用効果が得られないおそれがある。一方、添加元素の合計含有量が0.7mass%を超えると、銅合金丸棒材の基本特性を確保できなくなるおそれがある。
なお、上述の添加元素の合計含有量の下限は0.025mass%以上とすることがさらに好ましい。一方、上述の添加元素の合計含有量の上限は0.2mass%以下とすることが好ましく、0.1mass%以下とすることがさらに好ましい。
また、上述の添加元素について意図的に添加しない場合には、不純物として0.02mass%未満で含有されていてもよい。
【0024】
(不可避不純物:0.05mass%以下)
その他の不可避的不純物としては、Ag、B、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、希土類元素、Ti、(Zr)、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、(Mn)、Re、Fe、Ru、Os、Co、(Se)、(Te)、Rh、Ir、(Ni)、Pd、Pt、Au、Cd,Hg、(Al)、Ga、In、Ge、(Sn)、(As)、(Sb)、Tl、(Pb)、(Bi)、Be、N、C、Li、H、O、(P)、S等が挙げられる。これらの不可避不純物は、銅合金丸棒材の各種特性を劣化させるおそれがあるため、総量で0.05mass%以下とすることが好ましく、0.02mass%以下とすることがさらに好ましい。
【0025】
(引張強度:540MPa以上800MPa以下)
本実施形態である銅合金丸棒材において、引張強度が540MPa未満の場合には、強度が不足し、各種部品の素材として不適である。一方、引張強度が800MPaを超える場合には、延性が不足して耐衝撃性が低くなり、各種部品の素材として不適である。
よって、本実施形態である銅合金丸棒材においては、引張強度を540MPa以上800MPa以下の範囲内に設定している。
なお、本実施形態である銅合金丸棒材においては、引張強度の上限を750MPa以下とすることが好ましく、700MPa以下とすることがさらに好ましい。
【0026】
(軸方向残留応力σ
Zの極大値σ
Zmaxの径方向位置:r/φ≦0.42)
本実施形態である銅合金丸棒材においては、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内とされている場合には、切削加工後の同軸度の向上を図ることが可能となる。
【0027】
ロール矯正した従来の丸棒材においては、軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ>0.42となっており、極大値σ
Zmaxの径方向位置が径方向外側に位置している。この状態で切削加工を施すと、切削加工時に変形が生じやすく、切削加工後の部品の同軸度が低下することになる。
本実施形態においては、後述する矯正工程S07における矯正条件を適正化することにより、軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置をr/φ≦0.42の範囲内とし、切削加工後の部品の同軸度を向上させているのである。
【0028】
また、軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置をr/φ≦0.40とすることがさらに好ましい。
なお、ロール矯正した丸棒材においては、軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置をr/φ<0.3とすることは、丸棒材に表面キズが生じやすく、また、矯正後の丸棒材の直径が軸方向でバラつきやすくなるため、現実的ではない。
【0029】
(軸方向残留応力σ
Zの極大値σ
Zmax:100MPa以下)
本実施形態である銅合金丸棒材において、軸方向残留応力σ
Zの極大値σ
Zmaxが100MPa以下とされている場合には、切削加工前の銅合金丸棒材に蓄積された残留応力が比較的少なく、切削加工時における銅合金丸棒材の変形をさらに抑制することが可能となる。
したがって、軸方向残留応力σ
Zの極大値σ
Zmaxの上限は100MPa以下とすることが好ましく、75MPa以下とすることがさらに好ましい。
【0030】
ここで、Heyn−Bauer法による軸方向残留応力σ
Zの測定方法について説明する。
まず、
図2(a)に示すように、円柱形状の測定試料10を準備する。この測定試料10においては、その一端(
図2において上端)側に形成された固定部11と、他端(
図2において下端)側に形成された切削部12と、固定部11と切削部12との間に形成された非切削部13と、を有している。このとき、切削部12は、所定の初期長さL
0(
図2においてはL
0=50mm)に設定しておく。
そして、以下に示す(1)〜(11)を実施して、軸方向残留応力σ
Zの軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置を求める。
(1):マシニングセンタのチャック部に、測定試料10の固定部11を配置して取り付ける。
(2):切削インサートを固定する。
(3):測定試料10の切削部12の先端をツールセッタに接触させて、切削前の測定試料10の切削部12の先端位置をゼロ点として決定する。
(4):測定試料10を所定の回転数(本実施形態では3000rpm)で回転させるとともに、一定の送り速度(本実施形態では0.1mm/rev.)でインサートに接触させ、切削部12の外周面を0.1mm(直径変化0.2mm)切削する。
(5):切削後の測定試料10の切削部12の先端をツールセッタに接触させて、ゼロ点からの長さ変化量ΔLを記録する。
(6):(4)及び(5)を、切削部12の直径が6mmとなるまで繰り返し実施する。
【0031】
(7):切削部12の切削前の直径をφ、切削後の直径変化をΔφとして、切削毎の断面積fを、f=0.25×π×(φ+Δφ)
2、から求める。
(8):切削部12の初期長さL
0、ゼロ点からの長さ変化量ΔLから、切削毎に軸方向の真ひずみε
Zを、ε
Z=ln(1+(ΔL/L
0))、から求める。
(9):上記の(7)及び(8)で求めたfとε
Zの関係をグラフ化し、切削箇所毎の傾きdε
Z/dfを求める。なお、傾きは、3〜6次の多項式近似によって求めることが好ましい。
(10):測定試料10のヤング率E(本実施形態では、E=105000MPa)から、σ
Z=−E×(ε
Z+f×(dε
Z/df))により軸方向残留応力σ
Zを求める。
(11):正規化半径r/φ=0.5×(φ+Δφ)/φ(0<r/φ<0.5)と、軸方向残留応力σ
Zとの関係をグラフ化し、軸方向残留応力σ
Zが極大値を取る位置r/φを特定する。
【0032】
次に、このような構成とされた本実施形態である銅合金丸棒材の製造方法について、
図3に示すフロー図を参照して説明する。
【0033】
(溶解・鋳造工程S01)
まず、銅合金溶湯を製出する。なお、元素の添加には、元素単体や母合金等を用いることができる。また、これらの元素を含む原料を銅原料とともに溶解してもよい。
そして、成分調整された銅合金溶湯を鋳型に注入して鋳塊を製出する。なお、量産を考慮した場合には、連続鋳造法または半連続鋳造法を用いることが好ましい。以上のようにして、円柱形状の鋳塊(ビレット)を得る。
【0034】
(加熱工程S02)
次に、得られた鋳塊(ビレット)に対して加熱処理を行う。この加熱工程S02により、鋳塊(ビレット)を均質化させる。
なお、鋳塊(ビレット)の加熱温度は、500℃以上750℃以下の範囲内とすることが好ましく、加熱温度における保持時間を0.2時間以上12時間以下の範囲内とすることが好ましい。
【0035】
(押出工程S03)
次に加熱工程S02で加熱された鋳塊(ビレット)に対して押出加工を実施し、所定の直径に加工する。
【0036】
(焼鈍工程S04)
必要に応じて、加工性向上のための軟化を目的として焼鈍を実施する。焼鈍条件は特に限定はないが、好ましくは400℃以上650℃以下の保持温度で、0.5時間以上8時間以下の保持時間で実施する。
【0037】
(引抜工程S05)
次に、押出加工材(又は焼鈍を実施した押出加工材)に対して、所定の直径となるように、引抜加工を実施する。このとき、皮剥きを実施してもよい。この引抜工程S05における加工率は0.5%以上25%以下の範囲内とすることが好ましい。
【0038】
(切断工程S06)
次に、得られた長尺棒材を所定の長さに切断する。
【0039】
(矯正工程S07)
そして、所定の長さに切断された棒材に対して、同軸度を向上させるために、ロール矯正を実施する。本実施形態では、
図4に示すように、2ロール矯正機によって棒材の矯正を実施する。
図4に示す2ロール矯正機20においては、凸ロール21と凹ロール22とを、互いの軸線が所定の角度で交差するように配置し、棒材1を回転させながら凸ロール21と凹ロール22との間を通過させ、凸ロール21と凹ロール22で挟持して圧下することにより、棒材1の同軸度を向上させる。
【0040】
ここで、本実施形態においては、
図4に示すように、ロール矯正機20の凸ロール21と凹ロール22の入側での棒材1の温度をt
0、ロール矯正機20の凸ロール21と凹ロール22の出側での棒材1の温度をt
1とした場合に、温度差t
1−t
0が10℃以上となるように、矯正条件を設定している。すなわち、ロール矯正機20における加工発熱量を、上述の温度差t
1−t
0によって規定しているのである。
【0041】
上述の温度差t
1−t
0を10℃以上とすることにより、棒材に対して十分な曲げによる塑性変形が付与されて矯正が行われており、軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置をr/φ≦0.42の範囲内とすることが可能となる。
したがって、上述の温度差t
1−t
0の下限は10℃以上とすることが好ましく、15℃以上とすることがさらに好ましい。
【0042】
上述した工程により、本実施形態である銅合金丸棒材が製造されることになる。
【0043】
以上のような構成とされた本実施形態である銅合金棒材によれば、Cuを69mass%以上79mass%以下の範囲内、Siを2.0mass%以上4.0mass%以下の範囲内で含み、残部がZnおよび不可避的不純物からなる組成を有しているので、耐食性に優れ、かつ被削性に優れている。
また、引張強度が540MPa以上800MPa以下の範囲内とされており、強度にも優れている。
【0044】
本実施形態である銅合金丸棒材において、さらに、Zr,Sn,Pb,Te,Se,Bi,Al,P,As,Sb,Mn,Niから選択される一種又は二種以上の元素を合計で0.02mass%以上0.7mass%以下の範囲内で含有する場合には、銅合金丸棒材の各種特性をさらに向上させることが可能となる。
【0045】
そして、本実施形態である銅合金丸棒材においては、軸線方向に直交する断面において、直径をφ(mm)、軸中心からの径方向距離をr(mm)としたときに、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内とされているので、切削加工後の同軸度の向上を図ることができる。
【0046】
さらに、本実施形態である銅合金丸棒材において、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxが100MPa以下である場合には、切削加工前の銅合金丸棒材に蓄積された残留応力が比較的少なく、切削加工時における銅合金丸棒材の変形をさらに抑制することができる。
【0047】
以上、本発明の実施形態である銅合金丸棒材について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、上述の実施形態では、2ロール矯正機によって棒材の矯正を実施するものとして説明したが、これに限定されることはなく、3ロール式、5ロール式、6ロール式、7ロール式、ロータリーハウジング式等の他のロール矯正法を用いてもよい。
【0048】
また、本実施形態においては、
図3のフロー図に示す製造方法によって銅合金丸棒材を製造するものとして説明したが、これに限定されることはなく、他の製造方法を適用してもよい。例えば、溶解・鋳造工程S01において、長尺の棒状鋳塊を連続鋳造するアップワード法、アップキャスト法等を適用した場合には、加熱工程S02、押出工程S03及び焼鈍工程S04を省略し、溶解・鋳造工程S01で得られた棒状鋳塊に対して引抜加工工程S05を実施してもよい。
【実施例】
【0049】
以下に、本発明の効果を確認すべく行った確認実験の結果について説明する。
本実施形態に記載した工程により、表1に示す組成の銅合金丸棒材を得た。なお、比較例1においては、矯正工程後に完全焼鈍を実施した。
【0050】
(軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmax)
得られた銅合金丸棒材に対して、本実施形態に記載したように、Heyn−Bauer法によって軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置、極大値σ
Zmaxを求めた。本発明例1及び比較例2の測定結果を
図5に示す。
【0051】
(引張強度)
銅合金丸棒材からJIS Z2241に規定される4号試験片を採取し、JIS Z2241に規定される引張試験方法により引張強度を測定した。
【0052】
(同軸度)
得られた銅合金丸棒材に対して切削加工を実施し、切削加工前の銅合金丸棒材の直径が20mm未満の場合には、
図6(a)に示す形状の部品を、切削加工前の銅合金丸棒材の直径が20mm以上の場合には、
図6(b)に示す形状の部品を、それぞれ10個ずつ作製した。
そして、
図7に示す測定部A、測定部Bおよび測定部Cにおいて、株式会社ミツトヨ製RA−H5100AHを用いて、測定部Bと測定部Cより構成される軸に対する測定部Aの同軸度を測定した。
測定部Aの同軸度(1か所)×部品数(10個)=10点の測定結果の平均値を算出した。
【0053】
【表1】
【0054】
完全焼鈍を実施した比較例1においては、引張強度が526MPaと低くなった。このため、軸方向残留応力σ
Z、及び、同軸度については、評価しなかった。
Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ>0.42の範囲内とされた比較例2−5においては、同軸度が22.5μm以上であった。
【0055】
これに対して、Heyn−Bauer法によって測定された軸方向残留応力σ
Zの正規化半径方向分布における極大値σ
Zmaxの径方向位置がr/φ≦0.42の範囲内とされた本発明例1−4においては、同軸度が19.3μm以下となった。
【0056】
以上のことから、本発明例によれば、切削加工後における同軸度を向上させることが可能な銅合金丸棒材を提供できることが確認された。