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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-159078(P2020-159078A)
(43)【公開日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】座屈拘束ブレース
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/58 20060101AFI20200904BHJP
   E04H 9/02 20060101ALN20200904BHJP
【FI】
   E04B1/58 D
   E04H9/02 311
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2019-60247(P2019-60247)
(22)【出願日】2019年3月27日
(11)【特許番号】特許第6745371号(P6745371)
(45)【特許公報発行日】2020年8月26日
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】吉田 文久
(72)【発明者】
【氏名】中川 学
(72)【発明者】
【氏名】西 拓馬
(72)【発明者】
【氏名】薮田 智裕
【テーマコード(参考)】
2E125
2E139
【Fターム(参考)】
2E125BB08
2E125BC09
2E125BD06
2E125BE08
2E125CA05
2E139AA01
2E139AC02
2E139AC19
2E139AC22
2E139BA04
2E139BD14
(57)【要約】
【課題】木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材に作用して破損することを解消できる座屈拘束ブレースを提供すること。
【解決手段】鋼製の芯材10と、木製で一対の拘束板21と一対の側板22とにより形成される木製拘束材20とを備えた座屈拘束ブレース100であり、芯材10は狭幅部13と広幅部12を有し、広幅部12の側面と側板22の間に隙間G1を有しており、一対の拘束板21には第一ボルト孔21aが開設されて第一ボルト孔ユニット21bを形成し、第一ボルト孔ユニット21bに第一長ボルト31が挿通されてナット締めされ、一対の側板22と拘束板21には第二ボルト孔22a,21cが開設されて第二ボルト孔ユニット22bを形成し、第二ボルト孔ユニット22bに第二長ボルト41が挿通されてナット締めされている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている木製で一対の拘束板と、前記芯材の有する二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束板に接続されている木製で一対の側板と、により形成される木製拘束材と、を備え、
前記芯材は、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記芯材の前記広幅部の側面と前記側板の間に隙間を有しており、
前記一対の拘束板の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
前記一対の側板と前記拘束板の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする、座屈拘束ブレース。
【請求項2】
前記拘束板と前記側板の当接面が接着剤により接合され、前記第二長ボルトにより締付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項3】
前記芯材の長手方向の端部の前記広幅面には、該広幅面に直交する補強リブが接合されて断面十字状を呈しており、
前記木製拘束材のうち、前記補強リブに対応する位置には該補強リブに干渉しないスリットが設けられていることを特徴とする、請求項1又は2に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項4】
前記芯材の前記狭幅部の側面と前記側板の壁面の間にスペーサーが介在しており、
前記スペーサーには、前記第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔が開設され、該ボルト孔に前記第一長ボルトが挿通されていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項5】
平面視において、前記スリットと前記補強リブとの間に隙間を有していることを特徴とする、請求項3、又は請求項3に従属する請求項4に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項6】
前記芯材の前記狭幅部の周面から突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束材に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項7】
前記芯材の前記広幅面と前記拘束板の間に内挿板が介在していることを特徴とする、請求項1乃至6のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【請求項8】
以下の式(A)を満たすように、前記木製拘束材と前記芯材の仕様が設定されていることを特徴とする、請求項1乃至7のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【数1】
【請求項9】
前記第一長ボルトは、前記芯材の弱軸方向に延設するボルトであり、
前記第二長ボルトは、前記芯材の強軸方向に延設するボルトであり、
以下の式(B)を満たすように、前記第一長ボルト及び前記第二長ボルトの仕様が設定されていることを特徴とする、請求項1乃至8のいずれか一項に記載の座屈拘束ブレース。
【数2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、座屈拘束ブレースに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の架構(柱・梁架構、屋根架構等)を形成するブレースとして、座屈防止措置が講じられた座屈拘束ブレースが適用されている。座屈拘束ブレースとしては、鋼製の芯材の周囲を鋼板のみで補剛した形態、鋼製の芯材の周囲をRC(Reinforced Concrete:鉄筋コンクリート)で補剛した形態、鋼製の芯材の周囲を鋼材とモルタルで被覆した形態など、多様な補剛形態が存在する。
【0003】
ところで、昨今、木造建築物(木造住宅、木造の倉庫、木造の競技場など)の耐火性能や耐震性能の向上が図られている。木造住宅は本来的に、間取りやデザインの自由度の高さ、自然物の木材による癒し効果、木材の有する調湿効果、住宅などの建物用途によっては鉄骨造やRC造に比べて建設費用が一般に安価であるといった利点を備えているが、上記する耐火性や耐震性の向上が木造住宅をはじめとする木造建築物の注目度を高めている一つの要因である。このような木造住宅の架構内に上記する従来の座屈拘束ブレースを組み込む場合、木製の柱や梁と、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を有する座屈拘束ブレースとが混在することになり、不釣合いな外観となることが否めない。
【0004】
そこで、座屈拘束ブレースの全体を木製もしくは紙製のパネル等で覆うことにより、金属製もしくはコンクリート製の補剛材を外部から視認できないようにする方策が考えられるが、この方策には多大な作業手間を要することから建設費の増加が懸念される。また、従来の座屈拘束ブレースは、金属やコンクリート、モルタル等が多用されていることから、重量が重くなる傾向にあり、木造住宅を構成する軽量な木製の梁や柱の中に重量のある座屈拘束ブレースを取り付けることは構造的にも不釣合いである。
【0005】
そこで、木造住宅をはじめとする木造建築物の架構内に組み込んで使用するのに適した座屈拘束ブレースが提案されている。具体的には、芯材と、芯材の両面に沿って配置した一対の拘束材とを有する座屈拘束ブレースであり、芯材を鋼材にて形成し、一対の拘束材を木材にて形成し、この拘束材に集成材を適用し、集成材は芯材と平行にラミナが積層されたものとした座屈拘束ブレースである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4901491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
鋼製の芯材が木製の拘束材にて包囲された座屈拘束ブレースに対して、例えば大地震時に架構が大きく変形した際に、この変形に起因する、所謂、付加曲げモーメント(あるいは、単に、付加曲げ)が拘束材に作用し得る。この付加曲げモーメントが木製の拘束材に作用することにより、拘束材が破損に至る可能性が生じる。そして、拘束材が破損することにより、拘束材による芯材の座屈拘束機能が低下し、芯材が座屈に至り得る。特許文献1には、このような所謂付加曲げモーメントが拘束材に作用することを防止する措置についての言及がない。
【0008】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材に作用して破損することを解消できる座屈拘束ブレースを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている木製で一対の拘束板と、前記芯材の有する二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束板に接続されている木製で一対の側板と、により形成される木製拘束材と、を備え、
前記芯材は、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記芯材の前記広幅部の側面と前記側板の間に隙間を有しており、
前記一対の拘束板の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
前記一対の側板と前記拘束板の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、芯材がその長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有していて、広幅部の側面と木製拘束材を構成する側板の間に隙間を有していることにより、構面が大きく変形した場合においてもこの隙間にて芯材の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材に作用することを解消できる。例えば大地震時における構面の変形量は設計者の裁量に委ねられ、例えば層間変形角1/100の際の構面の変形量や層間変形角1/75の際の構面の変形量などに基づいて、座屈拘束ブレースの芯材の端部の変形量が算定される。そして、例えばこの算定された変形量よりも大きな隙間が設定されることにより、付加曲げモーメントが木製拘束材に作用することを解消できる。
【0011】
また、芯材が、その長手方向の中央側に狭幅部を有し、長手方向の端部側に広幅部を有することにより、中央側の狭幅部を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部に限定させることができる。さらに、広幅部と狭幅部の境界領域は芯材の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。このように、本態様においては、芯材に作用する付加曲げモーメントは芯材の広幅部と狭幅部の境界領域にて効果的に吸収し、芯材と木製拘束板の側板の間に設けられた隙間により、芯材に作用する付加曲げモーメントを木製拘束板の側板に作用させないようにすることができる。
【0012】
また、一対の拘束板が複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、一対の側板がその間にある拘束板とともに複数の第二長ボルトをナット締めすることにより接合されていることにより、一対の拘束板と一対の側板の拘束性の高い木製拘束材を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束材を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0013】
また、本態様においては、一対の拘束板同士は一対の側板にて接続されて、四つの面材による閉合構造を有する木製拘束材が形成され、鋼製の芯材が木製拘束材にて包囲されている。この構成により、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、木製の拘束材と側板は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材により形成されてもよい。
【0014】
さらに、本態様においては、木製拘束材が、一対の拘束板に対して一対の側板が接続される構成を有していることから、木製拘束材の加工が容易となる。例えば、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の2つの拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する加工を要する。これに対して、本態様の座屈拘束ブレースは、一対の拘束板に対して一対の側板を接続して木製拘束材を製作し、例えばこの木製拘束材の有する中空に芯材を挿通することにより座屈拘束ブレースを製作することができる。そのため、座屈拘束ブレースの製作がより一層容易になる。
【0015】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記拘束板と前記側板の当接面が接着剤により接合され、前記第二長ボルトにより締付けられていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、拘束板と側板の当接面が接着剤により接合され、さらに第二長ボルトにより締付けられていることにより、拘束板と側板の当接面である接着面が第二長ボルトにて圧着され、拘束板と側板の接続強度がより一層高い木製拘束材を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の長手方向の端部の前記広幅面には、該広幅面に直交する補強リブが接合されて断面十字状を呈しており、
前記木製拘束材のうち、前記補強リブに対応する位置には該補強リブに干渉しないスリットが設けられていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、芯材の長手方向の端部においては、芯材の広幅面に直交する補強リブが接合されることにより断面十字状を呈していることから、芯材の広幅面が建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレースがガセットプレートに取り付けられる場合、芯材が構面に平行な広幅面に直交する補強リブを有することにより、芯材の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。このように断面十字状の芯材が取り付けられる構面のガセットプレートにおいては、ガセットプレートに対してフィンスチフナが取り付けられ、座屈拘束ブレースの芯材とガセットプレート、補強リブとフィンスチフナがそれぞれスプライスプレートを介してハイテンションボルト等により接合される。本態様においては、木製拘束材の補強リブに対応する位置においてスリットが設けられ、このスリットにより木製拘束材と補強リブが干渉しないように構成されている。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の前記狭幅部の側面と前記側板の壁面の間にスペーサーが介在しており、
前記スペーサーには、前記第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔が開設され、該ボルト孔に前記第一長ボルトが挿通されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、芯材の中央側に狭幅部を設けたことにより狭幅部と側板の間に存在する比較的大きな隙間(芯材の端部側の広幅部と側板の間の隙間よりも大きな隙間)に対して、この隙間にスペーサーを介在させて隙間を閉塞することにより、芯材の強軸方向(芯材の広幅面に平行な方向)の座屈を防止することができる。既述するように、芯材の中央側の狭幅部は塑性化領域であるが、芯材と側板の間にスペーサーを介在させることにより、芯材の座屈(強軸方向の座屈)を抑制しながら、地震時等における振動エネルギーを芯材の狭幅部の塑性化によって効果的に吸収することができる。尚、スペーサーは、鋼製部材、木製部材のいずれを適用してもよい。
【0021】
また、スペーサーが第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔を有し、このボルト孔にも第一長ボルトが挿通されていることにより、スペーサーが芯材の長手方向に移動することが抑止される。一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサーは斜め下方に移動し易く、このスペーサーの移動によって斜め上方にはスペーサーの端部と広幅部の間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサーの存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、本態様によれば、このようなスペーサーの移動が解消され、スペーサーの移動に起因する強度上の弱部は生じない。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、平面視において、前記スリットと前記補強リブとの間に隙間を有していることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、スリットと補強リブとの間に隙間が存在することにより、構面の変形に応じて芯材が伸縮した際に、この芯材の伸縮を隙間が吸収することができ、伸縮する芯材がスリットの壁面に接触して木製拘束材が破損に至るといった課題を解消することができる。ここで、この隙間の設定も設計者の裁量に委ねられ、設定された層間変形角に基づいて芯材の伸縮量が算定され、例えば隙間が芯材の伸縮量以上に設定される。尚、ここでの「隙間」は、スリットの長手方向の端部と補強リブの間の隙間の他、スリットの側面と補強リブの間の隙間が含まれ、スリットの側面と補強リブの間の隙間としては、上記する芯材の広幅部の側面と側板の間の隙間と同じ隙間が設定できる。
【0024】
また、本態様による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の周面から突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束材に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、芯材の狭幅部の周面から張り出す突起が木製拘束材に開設されている係合孔に係合していることにより、木製拘束材の内部に差し込まれている芯材が木製拘束材の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材が木製拘束材の一方の端部に偏った際に、芯材が存在しない木製拘束材の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題を解消することができる。ここで、芯材の狭幅部の周面が左右の側面と、左右の側面に直交する上下の平面とを有する場合に、左右の側面からそれぞれ突起が張り出す形態、上下の平面から突起が張り出す形態のいずれかの形態が適用できる。
【0026】
また、本態様による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の前記広幅面と前記拘束板の間に内挿板が介在していることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、芯材の高次の座屈変形により、芯材から拘束板に局所的に圧縮力等が作用し、この局所的な力に起因して拘束板が破損することを抑制することができる。芯材の広幅面と拘束板の間に内挿板を介在させることにより、芯材の高次の座屈変形の凸部から作用する力は内挿板にまず伝達され、伝達された力は内挿板内に広がり、内挿板内に拡散された力が木製の拘束板に作用することになる。このことにより、芯材から作用する複数の局所的な力による木製の拘束板の破損が効果的に抑制される。
【0028】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、以下の式(A)を満たすように、前記木製拘束材と前記芯材の仕様が設定されていることを特徴とする。
【0029】
【数1】
【0030】
本態様によれば、木製拘束材に特有のめり込み耐力と補剛力との関係に基づき、木製拘束材と芯材の各仕様を適切に設定することができる。ここで、「仕様」とは、芯材の幅や板厚、芯材の降伏耐力、木製拘束材の設計用軸力(に堪え得る木製拘束材の断面寸法や断面剛性、ヤング係数(材質)等)が挙げられる。
【0031】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一長ボルトは、前記芯材の弱軸方向に延設するボルトであり、
前記第二長ボルトは、前記芯材の強軸方向に延設するボルトであり、
以下の式(B)を満たすように、前記第一長ボルト及び前記第二長ボルトの仕様が設定されていることを特徴とする。
【0032】
【数2】
【0033】
本態様によれば、座屈拘束ブレースを、芯材の強軸方向と弱軸方向のいずれの方向に対しても座屈させないような第一長ボルトと第二長ボルトの仕様を設定することができる。尚、ここでの「仕様」は、数2に記載がある通り、第一長ボルトや第二長ボルトの降伏応力度や本数、有効断面積(一本当たりの有効断面積と本数による総有効断面積)等が挙げられる。
【発明の効果】
【0034】
以上の説明から理解できるように、本発明の座屈拘束ブレースによれば、木造建築物等の架構内に組み込んで使用するのに好適であり、例えば大地震時に架構が大きく変形し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材に作用して破損することを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
図1】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
図2】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の斜視図である。
図3】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図である。
図4図3のIV方向矢視図である。
図5図3のV方向矢視図である。
図6図3のVI−VI矢視図である。
図7】第1実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。
図8】大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。
図9】第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
図10】第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の縦断面図である。
図11図10のXI部の拡大図であって、芯材の表面の凸部から局所的に作用する力が内挿板を介して拡散されて拘束板に伝達されることを説明する図である。
図12】座屈拘束ブレースの全体座屈曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、各実施形態に係る座屈拘束ブレースについて添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0037】
[第1実施形態に係る座屈拘束ブレース]
<芯材>
はじめに、図1を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、図1は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図である。
【0038】
芯材10は、細長でプレート状の平鋼により形成されており、その長手方向の中央側において広幅面11aの幅が相対的に狭い狭幅部13を有し、その長手方向の端部側において広幅面11aの幅が相対的に広い広幅部12を有している。また、芯材10の長手方向の端部の広幅面11aには、広幅面11aに直交する補強リブ14が溶接にて接合されて断面十字状を呈している。
【0039】
芯材10がその長手方向の中央側に狭幅部13を有し、長手方向の端部側に広幅部12を有することにより、中央側の狭幅部13を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部13に限定させることができる。
【0040】
また、広幅部12と補強リブ14にはそれぞれ、以下で説明するように、構面に設けられているガセットプレートやガセットプレートに取り付けられているフィンスチフナ(図7参照)にスプライスプレートを介してボルト接合されるためのボルト孔12a、14aが開設されている。芯材10の広幅面11aが建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレース100がガセットプレートに取り付けられる場合、芯材10が構面に平行な広幅面11aに直交する補強リブ14を有することにより、芯材10の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。
【0041】
芯材10は、SN材(建築構造用圧延鋼材)や、LYP材(極低降伏点鋼材)等の降伏点の低い鋼材にて形成されているのが好ましく、芯材10の降伏による地震エネルギー吸収性が良好になる。
【0042】
芯材10の狭幅部13の中央位置において、狭幅部13の左右の側面(狭幅部13の周面の一例)から鋼製で円柱状の突起15が張り出している。突起15は、狭幅部13の側面に対して溶接等により接合されている。この突起15は、以下で説明する木製拘束材(図2参照)に開設されている係合孔に係合する。尚、突起15が狭幅部13の上下の平面から張り出している形態であってもよく、この場合は、木製拘束材(図2参照)において拘束板21の対応する位置に係合孔が開設され、ここに突起15が係合する。
【0043】
狭幅部13の左右の側方に対して、細長の四角柱状のスペーサー16がX1方向に配設され、狭幅部13の左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が以下に示す木製拘束材の内部に収容される。スペーサー16は、鋼製部材と木製部材のいずれであってもよい。また、スペーサー16は、円柱状等、図示例以外の形態であってもよい。尚、スペーサー16には、以下に示す第一長ボルトが挿通される複数(図示例は三つ)のボルト孔16aが、その長手方向に間隔を置いて開設されている。
【0044】
<木製拘束材>
次に、図2を参照して、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例について説明する。ここで、図2は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する木製拘束材の一例の斜視図である。
【0045】
木製拘束材20は、一対の拘束板21と、一対の拘束板21を繋ぐ一対の側板22とを有し、一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設されるようになっている。木製で一対の拘束板21は、芯材10の有する二つの広幅面11a(図1参照)に対向するように配設されており、一対の拘束板21に接続されている木製で一対の側板22は、芯材10の有する二つの狭幅面11b(図1参照)に対向するように配設されている。
【0046】
一対の拘束板21の対応する位置には、それぞれ座ぐりを有する第一ボルト孔21aが開設されており、対応する二つの第一ボルト孔21aにより第一ボルト孔ユニット21bが形成されている。図示例では、第一ボルト孔ユニット21bは、拘束板21の幅方向に二つ設けられ、拘束板21の長手方向に六つ設けられて、総計十二の第一ボルト孔ユニット21bがある。
【0047】
そして、一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設された際に、スペーサー16に開設されている各ボルト孔16aが各第一ボルト孔ユニット21bに対応する位置に位置決めされており、このボルト孔16aも第一ボルト孔ユニット21bを形成する。第一ボルト孔ユニット21bに対して第一長ボルト31が挿通され、ナット33にて締付けられるようになっている。より具体的には、第一ボルト孔ユニット21bを形成する一方の第一ボルト孔21aの座ぐりに座金32が配設され、座金32を介して第一長ボルト31が第一ボルト孔ユニット21bに挿通され、他方の第一ボルト孔21aの座ぐりに座金34が配設され、座金34から外側に張り出した第一長ボルト31の先端の螺子溝にナット33が締付けられるようになっている。
【0048】
一方、一対の側板22と拘束板21の対応する位置には、それぞれ第二ボルト孔22a、21cが開設されており、対応する第二ボルト孔22a、21cにより第二ボルト孔ユニット22bが形成されている。第二ボルト孔ユニット22bは、第一ボルト孔ユニット21bと干渉しない位置に設けられており、図示例では、側板22の幅方向に二つ設けられ、側板22の長手方向に七つ設けられて、総計十四の第二ボルト孔ユニット21bがある。
【0049】
そして、各第二ボルト孔ユニット22bに第二長ボルト41が挿通され、ナット43にて締付けられるようになっている。より具体的には、第二ボルト孔ユニット22bを形成する一方の第二ボルト孔22aの座ぐりに座金42が配設され、座金42を介して第二長ボルト41が第二ボルト孔ユニット22bに挿通され、他方の第二ボルト孔22aの座ぐりに座金44が配設され、座金44から外側に張り出した第二長ボルト41の先端の螺子溝にナット43が締付けられる。
【0050】
また、第二長ボルト41をナット43にて締め付けるに当たり、拘束板21と側板22の当接面には、接着剤が塗布され、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工が行われる。
【0051】
ここで、接着剤には、ウレタン系接着剤とエポキシ系接着剤等があるが、拘束板21と側板22の当接面に接着剤を塗布した後、接着剤が硬化する前に第二長ボルト41をナット43にて締め付ける加工を行うことを可能とするべく、硬化までにある程度の時間を要する(例えば24時間程度)ウレタン系接着剤を適用するのが好ましい。接着剤が硬化することにより形成される接着面は、第二長ボルト41がナット43にて締め付けられる締付け力により強固に圧着される。
【0052】
このように、一対の拘束板21同士が、複数の第一長ボルト31をナット33にて締付けることにより拘束され、一対の側板22と拘束板21が、接着面を介して第二長ボルト41をナット43にて締付けることにより拘束されることにより、拘束板21と側板22が強固に接合された閉合構造の木製拘束材20が形成される。
【0053】
左右の側板22には、その長手方向の中央位置において、芯材10の有する突起15が係合する係合孔22cが開設されている。芯材10の有する突起15が木製拘束材20に開設されている係合孔22cに係合することにより、木製拘束材20の内部に差し込まれている芯材10が木製拘束材20の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材10が木製拘束材20の一方の端部に偏った際に、芯材10が存在しない木製拘束材20の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題は生じない。
【0054】
さらに、スペーサー16が第一ボルト孔ユニット21bを構成するボルト孔16aを有し、このボルト孔16aにも第一長ボルト31が挿通されていることにより、スペーサー16が芯材10の長手方向に移動することが抑止される。以下、図7を参照して説明するように、一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサー16は斜め下方に移動し易く、このスペーサー16の移動によって斜め上方にはスペーサー16の端部と芯材10の広幅部12の間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサー16の存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、図示するようにスペーサー16のボルト孔16aに第一長ボルト31が挿通されることにより、このようなスペーサー16の移動が解消され、スペーサー16の移動に起因した強度上の弱部は生じない。
【0055】
拘束板21と側板22は、無垢材、又は、ラミナが積層された集成材を含む木質材料のいずれにより形成されてもよい。以下で詳説するように、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止できるように、木製拘束材20の断面積や断面剛性、ヤング係数等が設定される。そして、このヤング係数は木材の材質により決定される。木材の材質としては、ヒノキやアカマツ、カラマツ、モミ、エゾマツ等が挙げられる。
【0056】
拘束板21の端部のうち、隙間25に芯材10が収容された際に補強リブ14に対応する位置には、補強リブ14に干渉しないスリット24が設けられている。
【0057】
<座屈拘束ブレース>
次に、図3乃至図6を参照して、これまでに説明した芯材10と木製拘束材20にて形成される、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例について説明する。ここで、図3は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の斜視図であり、図4図5、及び図6はそれぞれ、図3のIV方向矢視図、V方向矢視図、及びVI−VI矢視図である。
【0058】
座屈拘束ブレース100は、芯材10の狭幅部13と広幅部12の一部を包囲するように木製拘束材20が配設され、広幅部12の端部の十字状の部分が木製拘束材20の端部から張出すようにしてその全体が構成されており、外側に張り出している広幅部12と補強リブ14の有するボルト孔12a、14aが外部に臨んでいる。
【0059】
一対の拘束板21の間の隙間25に芯材10が配設され、一対の拘束板21とスペーサー16に対して複数の第一長ボルト31が挿通されてナット33にて締付けられ、一対の側板22と拘束板21に対して第二長ボルト41が挿通されてナット43にて締付けられることにより、座屈拘束ブレース100が形成される。図示するように、第一長ボルト31の延設方向は芯材10の弱軸方向となり、第二長ボルト41の延設方向は芯材10の強軸方向となる。
【0060】
座屈拘束ブレース100によれば、一対の拘束板21と一対の側板22が複数の第一長ボルト31と第二長ボルト41をナット締めすることによって強固に閉合されてなる木製拘束材20により、芯材10が包囲されている構成を有することから、座屈強度の高い座屈拘束ブレースとなる。さらに、鋼製の芯材10が木製拘束材20にて包囲されていることにより、座屈拘束ブレース100を木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与えない。
【0061】
図示する座屈拘束ブレース100において、木製拘束材20の隙間25内には、狭幅部13の左右の側方にスペーサー16が配設された状態で芯材10が収容され、狭幅部13の側面から側方に張り出す突起15が係合孔22aに係合されている。
【0062】
芯材10の広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間には、幅t1の隙間G1が設けられている。さらに、補強リブ14と木製拘束材20の拘束板21の有するスリット24の間には、補強リブ14の長手方向に幅t2であり、補強リブ14の側方に幅t1の隙間G2が設けられている。このように、広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間に隙間G1を有していることにより、座屈拘束ブレース10が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G1にて芯材10の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材20に作用することを解消できる。一方、スリット24と補強リブ14との間に隙間G2が存在することにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G2が吸収することができ、伸縮する芯材10がスリット24の壁面に接触して木製拘束材20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0063】
また、図6に示すように、広幅部12と狭幅部13の境界領域Aは芯材10の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材10に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる付加曲げ吸収エリアとなっている。このように、芯材10に作用する付加曲げモーメントを芯材10の広幅部12と狭幅部13の境界領域Aにて効果的に吸収し、芯材10と木製拘束板20の側板22の間に設けられた隙間G1により、芯材10に作用する付加曲げモーメントを木製拘束板20の側板22に作用させないようにすることができる。
【0064】
さらに、芯材10の中央側に狭幅部13を設けたことにより、狭幅部13と側板22の間に存在する比較的大きな隙間G3(芯材10の端部側の広幅部12と側板22の間の隙間G1よりも大きな隙間)に対して、この隙間G3にスペーサー16を介在させて隙間G3を閉塞することにより、芯材10の強軸方向(芯材10の広幅面11aに平行な方向)の座屈を防止することができる。そのため、座屈拘束ブレース100の全体座屈が抑制され、座屈拘束ブレース100の圧縮耐力が向上することにより、座屈拘束ブレース100が組み込まれた架構とこの架構を含む建築物に対して優れた耐震補強効果を付与できる。
【0065】
<架構への座屈拘束ブレースの適用例>
次に、図7及び図8を参照して、架構への座屈拘束ブレースの適用例について説明する。ここで、図7は、第1実施形態に係る座屈拘束ブレースが木造建物等の架構に組み込まれた状態を示す図である。また、図8は、大地震時における架構の変形態様と、架構の変形に起因する座屈拘束ブレース接合部における付加曲げモーメントを説明する図である。尚、図示例の座屈拘束ブレースは、木造建物の架構以外にも、S造(S:Steel)建物の架構、RC造建物の架構、SRC造(SRC:Steel Reinforced Concrete)建物の架構に組み込まれてもよい。
【0066】
図7に示す架構Sは、木造建築物等を構成する木製の柱Cと梁Bにより形成されている。対角線位置にある2つの隅角部には、平鋼により形成されるガセットプレートGPが取付けられている。ガセットプレートGPの表面には、該表面に直交するようにフィンスチフナFSが溶接にて接合されている。柱Cの柱芯L1と梁Bの梁芯L2の交点Oに対して、フィンスチフナFSの芯L3が交差するようにしてフィンスチフナFSがガセットプレートGPに接合される。そして、座屈拘束ブレース100も、対角位置にある双方の交点Oを通る線状に配設される。
【0067】
ガセットプレートGPと芯材10の広幅部12は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合され、フィンスチフナFSと補強リブ14は、スプライスプレートSPを介してハイテンションボルトにより接合される。
【0068】
図8に示すように、大地震時において構面が変形することにより、座屈拘束ブレース接合部においては、接合部を剛と見なした場合に、以下の式(1)に示す付加曲げモーメントが作用し得る。
【0069】
【数3】
【0070】
座屈拘束ブレース100によれば、芯材10の広幅部12の側面と木製拘束材20の側板22の間に幅t1の隙間G1が設けられていることにより、座屈拘束ブレース100が取り付けられている構面が大きく変形した場合に、この隙間G1にて芯材10の変形を吸収し、付加曲げモーメントが木製拘束材20に作用することを解消できる。また、補強リブ14と木製拘束材20の拘束板21の有するスリット24の間において、補強リブ14の長手方向に幅t2であり、補強リブ14の側方に幅t1の隙間G2が設けられていることにより、構面の変形に応じて芯材10が伸縮した際に、この芯材10の伸縮を隙間G2が吸収することができ、伸縮する芯材10がスリット24の壁面に接触して木製拘束材20が破損に至るといった課題を解消できる。
【0071】
[第2実施形態に係る座屈拘束ブレース]
次に、図9乃至図11を参照して、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例について説明する。ここで、図9は、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースを形成する芯材の一例をスペーサーとともに示す斜視図であり、図10は、第2実施形態に係る座屈拘束ブレースの一例の縦断面図である。また、図11は、図10のXI部の拡大図であって、芯材の表面の凸部から局所的に作用する力が内挿板を介して拡散されて拘束板に伝達されることを説明する図である。
【0072】
座屈拘束ブレース100Aは、芯材10の広幅面11aと拘束板21の間に内挿板17が介在している点において、座屈拘束ブレース100と相違している。内挿材17としては、鋼製プレート、木製プレートのいずれを適用してもよく、木製プレートとしては、例えばLVL(Laminated Veneer Lumber:単板積層材)が適用できる。尚、本実施形態においても、突起15が狭幅部13の上下の平面から張り出している形態であってもよい。
【0073】
内挿材17の広幅面において、その長手方向の端部には、芯材10の有する補強リブ14と対応する位置において、補強リブ14と干渉しないようにスリット18が開設されている。また、内挿材17には、スペーサー16に開設されているボルト孔16aに対応する位置にボルト孔17aが開設されており、図2に示す第一長ボルト31が挿通されるようになっている。
【0074】
座屈拘束ブレース100Aによれば、芯材10の高次の座屈変形により、図11に示すように、芯材10から拘束板21に局所的に圧縮力Pが作用し、この局所的な力に起因して拘束板21が破損することが抑制できる。このように局所的な力Pが作用することにより、木製の拘束板21が破損に至り得る。そこで、芯材10の広幅面11aと拘束板21の間に内挿板17を介在させることにより、芯材10の高次の座屈変形の凸部10aから作用する力Pは内挿板17にまず伝達され、伝達された力Pは内挿板17内に広がり、内挿板17内に拡散された力が木製の拘束板21に分散力qとして作用することになる。このことにより、芯材10から作用する複数の局所的な力Pによる木製の拘束板21の破損が効果的に抑制される。
【0075】
[全体座屈の検討]
次に、座屈拘束ブレースの全体座屈を防止するための設計方法について説明する。
【0076】
座屈拘束ブレースの設計においては、以下の式(2)を満足して座屈拘束ブレースの全体座屈が生じないように設計する。
【0077】
【数4】
【0078】
ここで、拘束板の中央に作用する曲げモーメントは、以下の式(3)で示すことができる。
【0079】
【数5】
【0080】
木製拘束材の全体座屈を防止する条件は、以下の式(4)を満足することとなる。
【0081】
【数6】
【0082】
式(4)を座屈拘束ブレースの全体座屈曲線として図12に示す。図12において、全体座屈曲線の上側は安全域であり、下側は危険域であり、安全域に入るように木製拘束材の設計用軸力、オイラー荷重、芯材の一般部の長さ、及び木製拘束材の降伏曲げ耐力が設定される。尚、図12に示す座屈拘束ブレースの全体座屈曲線は、芯材の弱軸方向の全体座屈、強軸方向の全体座屈の双方に妥当する。
【0083】
上記する木製拘束材の降伏曲げ耐力と作用する曲げモーメントとの関係を照査することの他にも、短期の木製拘束材の許容曲げ耐力が芯材降伏時に作用する曲げモーメントよりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0084】
<木製拘束材のめり込み破壊の検討>
次に、木製拘束材のめり込み破壊の検討方法について説明する。芯材が木製拘束材に対してめり込むことにより、木製拘束材が破壊することを防止するには、以下の式(5)を満足することを検証する。
【0085】
【数7】
【0086】
尚、上記する拘束板のめり込み耐力と作用する補剛力との関係を照査することの他にも、短期の拘束板の許容めり込み耐力が芯材降伏時に作用する補剛力よりも大きくなることも合せて照査するのがよい(数式は省略)。
【0087】
<第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と、第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様検討>
次に、第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と、第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様の設定方法について説明する。
【0088】
第一長ボルト(弱軸方向ボルト)と第二長ボルト(強軸方向ボルト)の仕様の設定に際しては、各長ボルトの降伏耐力の総和が、木製拘束材に作用する補剛力の総和以上となるように設定するものとし、以下の式(6)を満足するように各長ボルトの仕様(第一長ボルトや第二長ボルトの降伏応力度や本数、有効断面積(一本当たりの有効断面積と本数による総有効断面積)等)を決定する。
【0089】
【数8】
【0090】
尚、上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、ここで示した構成に本発明が何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0091】
10:芯材、11a:広幅面、11b:狭幅面、12:広幅部、12a:ボルト孔、13:狭幅部、14:補強リブ、14a:ボルト孔、15:突起、16:スペーサー、16a:ボルト孔、17:内挿板、17a:ボルト孔、20:木製拘束材、21:拘束板、21a:第一ボルト孔、21b:第一ボルト孔ユニット、21c:第二ボルト孔、22:側板、22a:第二ボルト孔、22b:第二ボルト孔ユニット、22c:係合孔、24:スリット、25:隙間、31:第一長ボルト、32:座金、33:ナット、34:座金、41:第二長ボルト、42:座金、43:ナット、44:座金、100,100A:座屈拘束ブレース、G1,G2、G3:隙間、A:付加曲げ吸収エリア(境界領域)、S:架構(構面)、C:柱、B:梁、GP:ガセットプレート、FS:フィンスチフナ、SP:スプライスプレート
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12