【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的を達成すべく、本発明による座屈拘束ブレースの一態様は、
鋼製でプレート状の芯材と、
前記芯材の有する二つの広幅面に対向するように配設されている木製で一対の拘束板と、前記芯材の有する二つの狭幅面に対向するように配設され、前記一対の拘束板に接続されている木製で一対の側板と、により形成される木製拘束材と、を備え、
前記芯材は、その長手方向の中央側において前記広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において前記広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有し、
前記芯材の前記広幅部の側面と前記側板の間に隙間を有しており、
前記一対の拘束板の対応する位置には第一ボルト孔が開設され、対応する該第一ボルト孔により第一ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第一ボルト孔ユニットにそれぞれ第一長ボルトが挿通されてナット締めされており、
前記一対の側板と前記拘束板の対応する位置には第二ボルト孔が開設され、対応する該第二ボルト孔により第二ボルト孔ユニットが形成され、複数の該第二ボルト孔ユニットにそれぞれ第二長ボルトが挿通されてナット締めされていることを特徴とする。
【0010】
本態様によれば、芯材がその長手方向の中央側において広幅面の幅が相対的に狭い狭幅部を有し、その長手方向の端部側において広幅面の幅が相対的に広い広幅部を有していて、広幅部の側面と木製拘束材を構成する側板の間に隙間を有していることにより、構面が大きく変形した場合においてもこの隙間にて芯材の変形を吸収し、所謂付加曲げモーメントが木製拘束材に作用することを解消できる。例えば大地震時における構面の変形量は設計者の裁量に委ねられ、例えば層間変形角1/100の際の構面の変形量や層間変形角1/75の際の構面の変形量などに基づいて、座屈拘束ブレースの芯材の端部の変形量が算定される。そして、例えばこの算定された変形量よりも大きな隙間が設定されることにより、付加曲げモーメントが木製拘束材に作用することを解消できる。
【0011】
また、芯材が、その長手方向の中央側に狭幅部を有し、長手方向の端部側に広幅部を有することにより、中央側の狭幅部を塑性化し易い領域とすることができ、さらに、塑性化領域を中央側の狭幅部に限定させることができる。さらに、広幅部と狭幅部の境界領域は芯材の平面積及び断面積が変化する変化領域であることから、芯材に作用する付加曲げモーメントをこの変化領域にて吸収することができる。このように、本態様においては、芯材に作用する付加曲げモーメントは芯材の広幅部と狭幅部の境界領域にて効果的に吸収し、芯材と木製拘束板の側板の間に設けられた隙間により、芯材に作用する付加曲げモーメントを木製拘束板の側板に作用させないようにすることができる。
【0012】
また、一対の拘束板が複数の第一長ボルトをナット締めすることにより接合され、一対の側板がその間にある拘束板とともに複数の第二長ボルトをナット締めすることにより接合されていることにより、一対の拘束板と一対の側板の拘束性の高い木製拘束材を形成することができる。このことにより、作用し得る付加曲げモーメントに対して破損の生じ難い、高剛性の木製拘束材を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0013】
また、本態様においては、一対の拘束板同士は一対の側板にて接続されて、四つの面材による閉合構造を有する木製拘束材が形成され、鋼製の芯材が木製拘束材にて包囲されている。この構成により、本態様の座屈拘束ブレースを木造建築物の架構に適用した場合でも、架構構成部材と不釣合いな外観を与える恐れはない。ここで、木製の拘束材と側板は、無垢材により形成されてもよいし、ラミナが積層された集成材により形成されてもよい。
【0014】
さらに、本態様においては、木製拘束材が、一対の拘束板に対して一対の側板が接続される構成を有していることから、木製拘束材の加工が容易となる。例えば、特許文献1に記載の座屈拘束ブレースは、集成材を加工して断面L型の2つの拘束材を製作し、これらを相互に逆さまにして、芯材を挟んだ状態で接続する加工を要する。これに対して、本態様の座屈拘束ブレースは、一対の拘束板に対して一対の側板を接続して木製拘束材を製作し、例えばこの木製拘束材の有する中空に芯材を挿通することにより座屈拘束ブレースを製作することができる。そのため、座屈拘束ブレースの製作がより一層容易になる。
【0015】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記拘束板と前記側板の当接面が接着剤により接合され、前記第二長ボルトにより締付けられていることを特徴とする。
【0016】
本態様によれば、拘束板と側板の当接面が接着剤により接合され、さらに第二長ボルトにより締付けられていることにより、拘束板と側板の当接面である接着面が第二長ボルトにて圧着され、拘束板と側板の接続強度がより一層高い木製拘束材を有する座屈拘束ブレースを形成することができる。
【0017】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の長手方向の端部の前記広幅面には、該広幅面に直交する補強リブが接合されて断面十字状を呈しており、
前記木製拘束材のうち、前記補強リブに対応する位置には該補強リブに干渉しないスリットが設けられていることを特徴とする。
【0018】
本態様によれば、芯材の長手方向の端部においては、芯材の広幅面に直交する補強リブが接合されることにより断面十字状を呈していることから、芯材の広幅面が建物の構面に平行に配設されるようにして座屈拘束ブレースがガセットプレートに取り付けられる場合、芯材が構面に平行な広幅面に直交する補強リブを有することにより、芯材の端部において構面外方向の剛性を高めることができる。このように断面十字状の芯材が取り付けられる構面のガセットプレートにおいては、ガセットプレートに対してフィンスチフナが取り付けられ、座屈拘束ブレースの芯材とガセットプレート、補強リブとフィンスチフナがそれぞれスプライスプレートを介してハイテンションボルト等により接合される。本態様においては、木製拘束材の補強リブに対応する位置においてスリットが設けられ、このスリットにより木製拘束材と補強リブが干渉しないように構成されている。
【0019】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の前記狭幅部の側面と前記側板の壁面の間にスペーサーが介在しており、
前記スペーサーには、前記第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔が開設され、該ボルト孔に前記第一長ボルトが挿通されていることを特徴とする。
【0020】
本態様によれば、芯材の中央側に狭幅部を設けたことにより狭幅部と側板の間に存在する比較的大きな隙間(芯材の端部側の広幅部と側板の間の隙間よりも大きな隙間)に対して、この隙間にスペーサーを介在させて隙間を閉塞することにより、芯材の強軸方向(芯材の広幅面に平行な方向)の座屈を防止することができる。既述するように、芯材の中央側の狭幅部は塑性化領域であるが、芯材と側板の間にスペーサーを介在させることにより、芯材の座屈(強軸方向の座屈)を抑制しながら、地震時等における振動エネルギーを芯材の狭幅部の塑性化によって効果的に吸収することができる。尚、スペーサーは、鋼製部材、木製部材のいずれを適用してもよい。
【0021】
また、スペーサーが第一ボルト孔ユニットを構成するボルト孔を有し、このボルト孔にも第一長ボルトが挿通されていることにより、スペーサーが芯材の長手方向に移動することが抑止される。一般に、座屈拘束ブレースは構面に斜め方向に配設されるため、スペーサーは斜め下方に移動し易く、このスペーサーの移動によって斜め上方にはスペーサーの端部と広幅部の間に大きな隙間が生じ易くなる。そのため、座屈拘束ブレースのうち、スペーサーの存在しない斜め上方の領域が強度上の弱部となり易いが、本態様によれば、このようなスペーサーの移動が解消され、スペーサーの移動に起因する強度上の弱部は生じない。
【0022】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、平面視において、前記スリットと前記補強リブとの間に隙間を有していることを特徴とする。
【0023】
本態様によれば、スリットと補強リブとの間に隙間が存在することにより、構面の変形に応じて芯材が伸縮した際に、この芯材の伸縮を隙間が吸収することができ、伸縮する芯材がスリットの壁面に接触して木製拘束材が破損に至るといった課題を解消することができる。ここで、この隙間の設定も設計者の裁量に委ねられ、設定された層間変形角に基づいて芯材の伸縮量が算定され、例えば隙間が芯材の伸縮量以上に設定される。尚、ここでの「隙間」は、スリットの長手方向の端部と補強リブの間の隙間の他、スリットの側面と補強リブの間の隙間が含まれ、スリットの側面と補強リブの間の隙間としては、上記する芯材の広幅部の側面と側板の間の隙間と同じ隙間が設定できる。
【0024】
また、本態様による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の周面から突起が張り出しており、該突起が前記木製拘束材に開設されている係合孔に係合していることを特徴とする。
【0025】
本態様によれば、芯材の狭幅部の周面から張り出す突起が木製拘束材に開設されている係合孔に係合していることにより、木製拘束材の内部に差し込まれている芯材が木製拘束材の一方の端部に偏ることを防止できる。そのため、このように芯材が木製拘束材の一方の端部に偏った際に、芯材が存在しない木製拘束材の他方の端部が強度上の弱部になるといった課題を解消することができる。ここで、芯材の狭幅部の周面が左右の側面と、左右の側面に直交する上下の平面とを有する場合に、左右の側面からそれぞれ突起が張り出す形態、上下の平面から突起が張り出す形態のいずれかの形態が適用できる。
【0026】
また、本態様による座屈拘束ブレースの他の態様は、前記芯材の前記広幅面と前記拘束板の間に内挿板が介在していることを特徴とする。
【0027】
本態様によれば、芯材の高次の座屈変形により、芯材から拘束板に局所的に圧縮力等が作用し、この局所的な力に起因して拘束板が破損することを抑制することができる。芯材の広幅面と拘束板の間に内挿板を介在させることにより、芯材の高次の座屈変形の凸部から作用する力は内挿板にまず伝達され、伝達された力は内挿板内に広がり、内挿板内に拡散された力が木製の拘束板に作用することになる。このことにより、芯材から作用する複数の局所的な力による木製の拘束板の破損が効果的に抑制される。
【0028】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様は、以下の式(A)を満たすように、前記木製拘束材と前記芯材の仕様が設定されていることを特徴とする。
【0029】
【数1】
【0030】
本態様によれば、木製拘束材に特有のめり込み耐力と補剛力との関係に基づき、木製拘束材と芯材の各仕様を適切に設定することができる。ここで、「仕様」とは、芯材の幅や板厚、芯材の降伏耐力、木製拘束材の設計用軸力(に堪え得る木製拘束材の断面寸法や断面剛性、ヤング係数(材質)等)が挙げられる。
【0031】
また、本発明による座屈拘束ブレースの他の態様において、前記第一長ボルトは、前記芯材の弱軸方向に延設するボルトであり、
前記第二長ボルトは、前記芯材の強軸方向に延設するボルトであり、
以下の式(B)を満たすように、前記第一長ボルト及び前記第二長ボルトの仕様が設定されていることを特徴とする。
【0032】
【数2】
【0033】
本態様によれば、座屈拘束ブレースを、芯材の強軸方向と弱軸方向のいずれの方向に対しても座屈させないような第一長ボルトと第二長ボルトの仕様を設定することができる。尚、ここでの「仕様」は、数2に記載がある通り、第一長ボルトや第二長ボルトの降伏応力度や本数、有効断面積(一本当たりの有効断面積と本数による総有効断面積)等が挙げられる。