【解決手段】単結晶状態で構成される金属試料S0の劣化診断方法であって、金属試料S0に白色X線を照射するステップと、照射により生じた回折スポットSP1を検出器140により検出するステップと、検出された回折スポットSP1における特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出するステップと、算出された係数から金属試料S0の劣化状態を特定するステップと、を含む。このように、白色X線を用いて単結晶状態の金属試料S0による回折スポットSP1を利用し配列の歪みを特定できるため、4軸ゴニオメータを用いた角度調整のような難度の高い作業が不要となり、一般のユーザでも容易に劣化診断できる。
前記金属試料の劣化状態は、前記回折スポットの強度分布の分散にかかる係数から算出されるクリープ寿命消費率であることを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属試料の劣化診断方法。
前記検出器の位置合わせ後は、各測定系の機器を静止したまま回折スポットを検出することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の金属試料の劣化診断方法。
前記照射により生じた回折スポットのうち、2θが90°以下である回折スポットにおいて前記特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の金属試料の劣化診断方法。
前記金属試料は、ニッケル固溶体母相内にニッケル基金属間化合物析出相が整合的に散在して単結晶状態を構成するニッケル基超合金であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の金属試料の劣化診断方法。
前記検出された回折スポットのうち、少なくとも2以上の格子面による回折スポットに基づいて前記金属試料の劣化状態を特定することを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の金属試料の劣化診断方法。
前記金属試料の複数の位置に白色X線を照射し、前記複数の位置に対して検出された回折スポットに基づいて前記金属試料の劣化状態を特定することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれかに記載の金属試料の劣化診断方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の方法のようにロッキングカーブを測定する場合、測定する結晶面をω軸に平行に軸立てしなければならない。この測定法は4軸ゴニオメータを用いる等かなり煩雑な作業を要し、技術レベルの高い熟練したユーザでないと利用できない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特別の作業なしで特定方向の結晶の不規則性を特定でき、一般のユーザでも容易に利用できる単結晶状態の金属試料の劣化診断方法、装置およびシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)上記の目的を達成するため、本発明の金属試料の劣化診断方法は、単結晶状態で構成される金属試料の劣化診断方法であって、前記金属試料に白色X線を照射するステップと、前記照射により生じた回折スポットを検出器により検出するステップと、前記検出された回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出するステップと、前記算出された係数から前記金属試料の劣化状態を特定するステップと、を含むことを特徴としている。
【0008】
このように、白色X線を用いて単結晶状態の金属試料による回折スポットを利用し結晶構造の劣化を特定できるため、4軸ゴニオメータを用いた角度調整のような難度の高い作業が不要となり、一般のユーザでも容易に劣化診断できる。
【0009】
(2)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記回折スポットの強度分布の分散にかかる係数が、前記特定方向のピークの半価幅であることを特徴としている。これにより、容易に結晶構造が劣化している状態を特定できる。
【0010】
(3)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記金属試料の劣化状態が、前記回折スポットの強度分布の分散にかかる係数から算出されるクリープ寿命消費率であることを特徴としている。これにより、クリープ変形により破断するまでどの程度寿命が残っているかを特定することができる。
【0011】
(4)また、本発明の金属試料の劣化診断方法において、前記検出器の位置合わせ後は、各測定系の機器を静止したまま回折スポットを検出することを特徴としている。このように、測定時に試料台等の精密な角度調整は不要であり、一般ユーザが容易に利用できる。
【0012】
(5)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記照射により生じた回折スポットのうち、2θが90°以下である回折スポットにおいて前記特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出することを特徴としている。これにより、明確な形状のスポットに対して解析することができる。
【0013】
(6)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記金属試料が、ニッケル固溶体母相内にニッケル基金属間化合物析出相が整合的に散在して単結晶状態を構成するニッケル基超合金であることを特徴としている。
【0014】
これにより、ニッケル基超合金の金属試料に白色X線を照射することで観測される回折スポットを用いていることから十分な回折線強度が得られ、通常の実験室装置で金属試料の劣化状態の特定を可能としている。例えば、ニッケル固溶体母相の禁制反射で観測されるニッケル基金属間化合物析出相からの回折線強度で金属試料の劣化状態を特定する従来法では強度が極めて弱いため放射光を用いないと観測は難しい。
【0015】
このような金属試料はタービンブレードに使用され、タービンブレードはクリープ変形による金属劣化が蓄積されることにより使用限界に達する。この使用限界を推定することは、タービンブレードを効率的に使用するために極めて重要である。
【0016】
(7)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記検出された回折スポットのうち、少なくとも2以上の格子面による回折スポットに基づいて前記金属試料の劣化状態を特定することを特徴としている。これにより、金属試料内の領域によって異なる格子面の滑りによりクリープ変形を受けやすいところと受けにくいところがあっても、金属の劣化を正確に評価できる。
【0017】
(8)また、本発明の金属試料の劣化診断方法は、前記金属試料の複数の位置に白色X線を照射し、前記複数の位置に対して検出された回折スポットに基づいて前記金属試料の劣化状態を特定することを特徴としている。これにより、位置による結晶性のばらつきを低減できる。
【0018】
(9)また、本発明の金属試料の劣化診断装置は、単結晶状態で構成される金属試料の劣化診断装置であって、標準試料をもとに準備された、回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数とクリープ寿命消費率の関数を格納する記憶部と、金属試料に白色X線を照射することで生じた回折スポットの検出データに基づいて、前記検出データの回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出する係数算出部と、前記算出された係数から前記金属試料の劣化状態を特定する劣化状態特定部と、を備えることを特徴としている。これにより、難度の高い作業が不要となり、一般のユーザでも容易に劣化診断できる。
【0019】
(10)また、本発明の金属試料の劣化診断システムは、単結晶状態で構成される金属試料の劣化診断システムであって、白色X線を発生させるX線発生部と、前記白色X線を照射する試料を搭載する試料台と、前記試料により生じる回折スポットを検出する検出器と、前記X線発生部に対する前記検出器の配置を調整する位置調整部と、標準試料をもとに準備された、回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数とクリープ寿命消費率の関数を格納する記憶部と、前記検出された回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出する係数算出部と、前記算出された係数から前記金属試料の劣化状態を特定する劣化状態特定部と、を備えることを特徴としている。これにより、難度の高い作業が不要となり、一般のユーザでも容易に劣化診断できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、ラウエ法による白色X線の金属試料への照射により複数の反射の回折ピークを同時に計測することで、試料の軸立てのような特別の作業なしで特定方向の結晶構造の乱れを特定でき、一般のユーザでも容易に金属試料の劣化状態を診断できる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【0023】
[対象となる試料]
本発明において、劣化状態を特定しようとする金属試料(以下、単に試料という)は、単結晶状態で構成されている。「単結晶状態」とは、X線ビームの照射領域内が単結晶になっている結晶試料の状態をいう。例えば、「単結晶状態」には、タービンブレード材として使われるNi基合金を成分として幅数mmのロット状の単結晶で形成される一方向凝固材の状態が含まれる。また、試料全体が単結晶をなす材料で形成されている状態も含まれる。
【0024】
例えば、ニッケル基超合金は、比較的低い使用温度領域では完全な単結晶を構成するロッド状の結晶粒の集合となり、高い使用温度領域では完全な単結晶として存在している。これらのいずれの結晶構造も単結晶状態にある。
【0025】
ニッケル基超合金の結晶粒は、ニッケル固溶体母相(γ相(ガンマ相))およびニッケル基金属間化合物析出相(γ’相(ガンマプライム相))からなる複合材料が単結晶を形成している。
図1(a)、(b)は、それぞれニッケル固溶体母相(γ相)およびニッケル基金属間化合物析出相(γ’相)の結晶格子を示す斜視図である。γ相は、Ni原子の面心立方格子をもつfcc構造で形成されている。γ’相は、面心立方格子の各コーナーの原子をAlまたはTi原子に置換した立方体超格子構造で形成されている。
【0026】
ニッケル基超合金では、無数のγ’相の塊が3次元的に規則的に配列し、γ相からなる網目構造の枠がそれぞれのγ’相の塊を取り囲んで単結晶を形成している。異なる相からなる複合材料であるが、互いの方位は一致している。このようにニッケル基超合金では、γ相内にγ’相が整合的に散在して単結晶状態を構成している。
【0027】
このような単結晶状態にある試料が高い温度で力を受けると、クリープ変形等により破断に至るまでの過程で単結晶状態の規則的な配列に乱れが生じる。この配列の乱れの程度が特定しようとする劣化状態である。なお、本実施形態では、主にニッケル基超合金を単結晶状態にある試料の一例として説明しているが、試料は必ずしもこれに限定されるわけではない。何らかの過程で単結晶状態の配列が乱れる金属製の試料であれば、本発明の劣化診断方法を適用できる。
【0028】
タービンエンジンやジェットエンジンのタービンブレードは高温、高応力に晒されることから、劣化が早期に進行したり、寿命が予想以上に短くなったりする。ニッケル基超合金がタービンブレードとして使用されると、隣接するγ’相の領域同士が融合して粗大化し、扁平なラフト構造を形成する。このように、特にγ’相の構造が大きく変化することで金属材料がクリープ変形する。
【0029】
[劣化診断の原理]
上記のような単結晶状態の試料に、白色X線を照射すると回折スポットとしていわゆるラウエ斑点が生じる。単結晶状態の試料が全く変形していない状態のラウエ斑点は円で現れるが、これが変形するにつれラウエ斑点の形状が円から楕円になり、さらに楕円の長軸が伸びる。
【0030】
例えば、35%クリープ変形の試料では初期状態にくらべて、回折スポットの楕円の長軸が若干伸びている。試料の劣化状態は、クリープ変形の割合として、破断までの時間を100%としたときの経過時間で表すことができる。検出された画像データにはラウエ斑点が放射状に表れている。ラウエ斑点は、波長が連続的な白色X線を試料に照射したときに格子面間隔に適合した波長について生じる。
【0031】
一般的に金属の劣化は、ダメージを受けた結晶の内部に転位や面欠陥などの結晶の乱れが生じることで発生する。X線回折法によりニッケル基超合金の材料劣化を評価する場合、γ相とγ’相の結晶構造の乱れは、結晶内の回折面の回折ピークの広がりとして観測される。
【0032】
実際には、結晶の乱れは、(1)γ相の反射、(2)γ’相の反射、(3)γ相とγ’相の重合した反射の3通りの回折ピークの広がりとして観測される。従来技術では放射光などによる波長分散と角度発散の少ないX線を用いて、最も結晶の乱れの大きい(2)のγ’相のみの回折ピークを計測する装置光学系が採用されていたが、本発明では実験室装置の使用を意図してラウエ法の白色X線を適当なサイズのコリメータと共に用いて、回折ピークが(3)のγ相とγ’相が重合した1つの回折ピークとして観測される装置光学系を採用している。
【0033】
本発明は、ラウエ法による装置を用いて測定された上記(3)の回折スポットの分散にかかる係数が、係数のニッケル基超合金の劣化に対応するという事実に基づいている。このようにして、ニッケル基超合金の金属劣化を評価することにより、ニッケル基超合金タービンブレードの余寿命が推定できる。タービンブレードはクリープ変形による金属劣化が蓄積されることにより使用限界に達する。この使用限界を推定することは、タービンブレードを効率的に使用するために極めて重要である。
【0034】
なお、試料に白色X線を照射する際には、クリープ方向が試料台の表面に対し平行になるように試料を設置することが好ましい。例えば、ニッケル基超合金をタービンブレードに用いる場合、遠心力により結晶粒における100方向にタービンブレードが伸びる。この伸びる方向がクリープ方向である。クリープ変形による劣化状態が分かることでクリープ変形したタービンブレードは、破断に至る前(例えば50%クリープ変形前)に余裕を持たせて取り換えることができる。
【0035】
なお、ニッケル基超合金の試料に白色X線を照射する場合、回折スポットにはγ相およびγ’相の両方の情報が入り、2つの相の単結晶状態を見ていることになる。クリープ変形とともに構造変化するのは主にγ’相であり、これが回折スポットに表れることで試料の劣化状態を特定できる。
【0036】
[システム全体の構成]
図2は、試料の劣化診断システム100の構成を示すブロック図である。劣化診断システム100は、測定装置110および処理装置150(劣化診断装置)を備えている。
【0037】
[測定装置の構成]
測定装置110は、X線発生部120、試料台130および検出器140を備えている。X線発生部120は、白色X線を発生させる。発生された白色X線は試料に照射される。白色X線を照射することで、格子面間隔によって異なる回折スポットを同時に検出することができる。コリメータ等を備え、試料の結晶粒の大きさに合わせてビームサイズを調整可能であることが好ましい。
【0038】
試料台130は、白色X線を照射する測定対象として試料を搭載し、X線照射位置に位置調整して固定することができる。試料台130は、
図2に示すように調整機構135により3軸で調整可能に構成されており、処理装置150からの制御信号によりモータ等で角度位置を調整できる。X線発生部120から放出される入射X線R1は試料S0で回折して回折線R2を生じ、空間中に複数の回折スポットSP1を発生させる。回折スポットSP1の発生位置は、試料S0に存在する結晶面に対応して決まる。
【0039】
検出器140は、検出面に入射するX線の強度に応じて電気信号を発生する。これにより、試料により生じる回折スポットを検出する。検出器140は、回折スポットの形状を容易に検出するために2次元検出器であることが好ましく、具体的にはイメージングプレートまたは半導体検出器を用いることができる。測定時において、回折線R2は検出器140の様々な位置で検出される。特に半導体検出器は、読み出し速度が高いため好適である。検出面はフラットであることが好ましいが、必ずしもフラットでなくてもよい。検出器140の位置は、処理装置150からの制御信号により調整できる。これにより、試料S0から3次元空間中に発生した回折スポットの中から選択したものを検出面で検出できる。
【0040】
図2に示すように、入射X線R1に対する回折線R2の角度は、2θで表せる。X線のダイレクトビームDB1の位置は2θ=0となる。試料S0に対する検出器140の角度はβ、試料S0に対するX線の入射角度はαで表す。入射角度αおよび検出器140の角度βは通常は固定されており、測定時にスキャンは行わない。したがって、測定時には、X線発生部120、試料台130および検出器140のいずれも動かさない。
【0041】
[処理装置の構成]
処理装置150は、PC等のCPUおよびメモリを備える装置で構成でき、測定装置110の制御および検出データの処理を行う。処理装置150は、位置調整部160、係数算出部170、劣化状態特定部180、記憶部185および出力部190を備えている。処理装置150は、X線発生部120、試料台130、位置調整部160からの検出器140の位置情報の入力および検出器140の測定結果の入力に対し、データを処理し、回折スポットSP1における回折ピークの状態を特定する。
【0042】
位置調整部160は、入力された情報に基づいてX線発生部120に対する検出器140の配置を調整する。これにより、検出器140に回折線が入射するようにX線発生部120からの入射X線に対する角度調整が可能になる。具体的には、検出器140の位置角度調整(φ角度等)、X線発生部120の角度の調整を行う。調整の際に設定されたデータの処理は、係数算出部170で行うことができる。
【0043】
また、位置調整部160は、試料台130の傾きを調整することができる。なお、白色X線に放射光を利用する場合のようにX線発生部120を容易に動かせない場合には、X線発生部120を固定して試料台130と検出器140の位置で調整するようにしてもよい。
【0044】
係数算出部170は、回折スポットSP1の検出データに基づいて、検出データの回折スポットSP1における特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出する。係数算出部170は、2θ方向の回折ピークを解析して回折ピークの裾の広がり具合を把握する。
【0045】
劣化により試料の結晶構造が変形するのはタービンブレードの先端方向であるが、それに垂直な方向であっても、明確に試料の劣化状態を特定できる。なお、測定している変形の方向は、試料の配置、試料に対する入射X線の位置および回折X線の位置に基づいて特定できる。
【0046】
回折スポットSP1の強度分布の分散にかかる係数は、特定方向のピークの半価幅であることが好ましい。半価幅とは、ピークの高さの半分の位置におけるピーク幅を意味する。回折ピークの半価幅が大きいほどピークの広がりは大きく、結晶構造の乱れは大きい。これにより、容易に特定方向に力がかかったときの結晶構造の乱れの程度を特定できる。
【0047】
劣化状態特定部180は、算出された係数から試料の劣化状態を特定する。その際には記憶部185から供給される関数を参照し、回折スポットSP1における特定方向の強度分布の分散にかかる係数とクリープ寿命消費率との関数の検量線を利用する。
【0048】
検量線は、予めクリープ寿命消費率が既知である試料を用いて各ピークの半価幅に対するクリープ寿命消費率をプロットし、最少二乗法で近似曲線を引くことで求められる。その際には、破断間近の信頼性の低いデータを無視し、例えば0%〜50%のクリープ寿命消費率のデータのみを用いて直線近似できる。
【0049】
なお、検量線は直線である必要はなく曲線であってもよい。得られた検量線を用いることで、試料S0のクリープ寿命消費率を求め、さらに試料S0の余寿命を求めることができる。このようにして難度の高い4軸ゴニオメータを用いた角度調整作業等をしなくても容易に試料の劣化状態を診断できる。
【0050】
試料S0の劣化状態は、回折スポットの強度分布の分散にかかる係数から算出されるクリープ寿命消費率であることが好ましい。これにより、クリープ変形により破断するまでどの程度寿命が残っているかを特定することができる。
【0051】
記憶部185は、標準試料をもとに準備された、回折スポットにおける特定方向の強度分布の分散にかかる係数とクリープ寿命消費率の関数を格納する。記憶部185は、試料S0の劣化を評価するときには参照される。記憶部185は、劣化状態特定部180の要求に応じて適宜必要な関数を供給する。
【0052】
出力部190は、例えばディスプレイやプリンタであり、試料における特定された劣化状態を出力する。撮影された回折スポットの画像およびピーク形状を見ようとする方向を出力してもよい。
【0053】
[劣化診断方法]
上記のように構成された劣化診断システム100を用いて試料の劣化を診断する方法を説明する。
図3は、試料の劣化診断方法を示すフローチャートである。
図3に示すように、まず試料を試料台にセットする(ステップS1)。このときに試料のクリープ方向を試料台の表面に平行な方向に合わせる。
【0054】
そして、予め低角側の回折スポットを選択し、選択された低角側の回折スポットを検出できる配置に検出器を移動する(ステップS2)。回折スポットの選択の詳細については後述する。試料に白色X線を照射するとラウエ斑点として離散的で規則的な回折スポットが生成する。例えば、ニッケル基超合金は結晶粒が0.1mm程度と大きく、高精度測定のためX線照射面積を同程度、例えばX線ビームを0.1mmφ程度にすることにより、ほぼ1個の結晶粒に白色X線を照射できる。
【0055】
このようにして、白色X線を試料に照射し、生じた離散的な回折スポットを検出する(ステップS3)。その際には、試料を静止したまま検出面に出力された2次元の回折スポット形状を測定する。検出器の位置合わせ後は、各測定系の機器を静止したまま回折スポットを検出できる。白色X線を用いることで、検出器を低角にセットし、結晶の方位に関係なく、機器を回転することなく静止したままの位置で、多数の高強度な回折スポットを検出できる。そのため、測定時に試料台等の精密な角度調整は不要であり、一般ユーザが容易に利用できる。
【0056】
得られた検出データを処理装置に入力し(ステップS4)、検出器で測定した各スポットの形状から劣化状態を表すクリープ方向のピーク形状を切り出して分散に掛かる係数を算出する(ステップS5)。なお、分散に係る係数は、半価幅であることが好ましい。
【0057】
分散に係る係数に基づいて試料の劣化状態を特定する(ステップS6)。試料の劣化状態に基づいて余寿命を推定する(ステップS7)。推定された試料の余寿命を測定結果として出力する(ステップS8)。
【0058】
[試料の向きおよび測定点]
図4(a)、(b)は、それぞれ入射X線に対する試料の向きおよび試料上の照射点を示す図である。
図4(a)に示すように、タービンブレードから切り出した試料S0は、タービンの回転中心側からブレードの先端側に向かう方向がクリープ方向となる。測定の際には、クリープ方向を入射X線R1からαだけ傾けて試料を設置する。
図4(b)に示すように、測定位置によるデータのばらつきを低減するために、所定領域Q0内の複数の照射点P1〜P6で測定する。照射点P1〜P6の間隔は1mm以上空けることが好ましい。照射点に対して白色X線を照射すると、逆格子点と反射球E1の球面が交わった点に回折X線が生じ、検出面で回折スポットSP1が検出される。
【0059】
[低角の回折スポットの選択]
高角側(例えば2θが90°超)の回折スポットを選択すれば、試料に対してX線を入射させて反射したX線を測定できる。したがって、装置構成をコンパクトにできるとともに手順が簡単になる。しかし、高角側の回折スポットは、回折線の強度が小さく、データのばらつきも大きくなる。現状では、低角側の回折スポット(例えば2θが90°以下)を選択する方が回折スポットの形が明確であり、結晶構造の乱れを特定しやすい。
【0060】
このように、白色X線の照射により生じた回折スポットのうち、2θが90°以下である回折スポットにおいて特定方向の強度分布の分散にかかる係数を算出することが好ましい。これにより、明確な形状のスポットに対して解析することができる。なお、2θが50°以下であれば、さらに好ましい。
【0061】
[利用する回折スポットの数]
また、なるべく多くの回折スポットを利用するのが好ましい。試料の領域によってクリープ変形を受けやすいところと受けにくいところがあり、格子面の滑りが微妙に異なるため各回折スポットにはその影響が現れる。したがって正しく試料の劣化を評価するためには、試料内の測定位置を複数とり、かつ多くの回折スポットを測定することにより得られた全データを平均するのが好ましい。なお、領域は6箇所程度、スポット10点程度を有して選択することが好ましい。
【0062】
例えば、数個の測定点に対して、110、111のように異なる面指数を有する少なくとも10以上の格子面による回折スポットに基づいて試料の劣化状態を特定することが好ましい。面指数が異なっていても基本的に同じ半価幅となるが、試料内の領域によって異なる格子面の滑りによりクリープ変形を受けやすいところと受けにくいところがあり、わずかに異なる結果が得られる。しかし、上記のように複数の回折スポットを参照することで、金属の劣化を正確に評価できる。なお、撮影フレーム内で利用可能なすべての回折スポットを利用すれば効率的である。
【0063】
[分散に係る係数を求める方向]
上記のように、分散に係る係数を算出する方向は、2θ方向である。ダイレクトビーム位置から放射方向の直線を引き、その直線方向についてピーク形状を切り出したり、回折スポットの形状を楕円に見立ててその長軸方向でピーク形状を切り出したりすることも可能である。ただし、タービンブレードの回転中心と先端を結ぶ方向にクリープによる負荷が掛かっており、特にクリープ変形の大きい試料面に垂直な格子面の変形を直接測定することは試料形状の関係上不可能である。したがって、クリープ方向と2θ方向のずれがほぼ90°と大きくても、タービンブレード側面に平行な格子面の回折スポットを測定することが好ましい。その結果、対象箇所に対して、ピーク形状の安定した2θ低角側の反射ラウエ写真を測定し、上記のようなピークの切り出しが可能となっている。
【0064】
[実施例]
ニッケル基超合金の試料について760℃に温度を維持し、440Mpaで引っ張ることで破断するまでクリープ変形を与えた。そして、クリープ変形無し、クリープ寿命消費率35%、65%、破断の各状態の試料に白色X線を照射して回折ピークを検出した。検出された回折ピークから半価幅を算出した。この際には、各フレームで確認できる総数である数十個の回折スポットを利用した。
【0065】
図5〜
図8では、クリープ変形無し、クリープ寿命消費率35%、65%、破断の状態の試料についてそれぞれの図の(a)〜(c)として反射ラウエ画像、回折スポットの拡大図および回折ピークのグラフを示している。
【0066】
例えば、一方向凝固材のニッケル基超合金に対して白色X線を照射したところ、
図5から
図8の(a)に示すように、クリープの方向に広がっている状態の回折スポットが検出された。
図5から
図8の(b)には、
図5から
図8の(a)の中の拡大画像を示すとともに、検出された画像中の小枠F1で囲まれた回折スポットについてピークを切り出す方向(クリープを受けた方向)を矢印で示している。また、
図5から
図8の(c)には、クリープ方向に切り出した回折ピークのプロファイルをFWHMと共に示している。
【0067】
図9(a)〜(c)は、それぞれクリープダメージで破断したニッケル基超合金における背面ラウエ写真、回折スポットの拡大図および回折ピークのグラフである。
図9は、検出器を試料の背面(2θ=180°の方向)にセットし、試料にX線を照射したときに試料の背面側に発生した回折スポットを検出器に入れたときの検出画像である。
図9において、
図8と同じ破断した試料から発生した回折スポットが観測されている。
図9の回折スポットの数および強度は
図8の回折スポットの数と強度に比べると、スポット数も少なく強度も弱くぼやけている。このことから、検出器を低角にセットすることにより、高強度の回折スポットを多数観測でき、正確なクリープ劣化率を評価できることが分かった。
【0068】
[結果(グラフ)の説明]
図10は、ラウエ法により得た寿命消費率と回折ピーク半価幅の関係を示すグラフである。
図10に示すように、一つのクリープ寿命消費率にはそれぞれ4つ程度の半価幅の数値が対応しており、それらは概ね重なっている。この半価幅の数値は、1フレームの中の半価幅の平均を示している。なお、異なるフレームについても概ね同様の結果が得られた。
【0069】
また、異なる処理方法を破線と実線で表している。760℃、440MPaで引っ張り続けた試料の数値は破線で、980℃、95MPaで引っ張り続けた試料の数値は実線で表されている。破線の方がやや上回っており、引っ張り力の大きい方がクリープ変形の進行が速い傾向を確認できるものの、特定のクリープ寿命消費率に対して概ね同じ半価幅が得られた。
【0070】
なお、破断のところではばらつきが大きくなり傾向が逆転しているが、これは破断間近では誤差が大きくなることが原因である。クリープ変形過程の前半で精度の高い結果が得られており、劣化診断方法として十分な精度が得られている。クリープ寿命消費率が35%と50%とをみるとこれらを区別できるほど半価幅の差がないようにも見えるが、複数のフレームで平均をとれば十分な精度が得られると考えられる。