【解決手段】制御系設計装置6は、制御対象Pのむだ時間を取得するむだ時間推定部61と、むだ時間L^1を除いたむだ時間なし伝達関数G^´を取得する、むだ時間なし伝達関数取得部62と、むだ時間なし伝達関数G^´を用いて、制御対象Pの逆モデルを取得する逆モデル取得部63と、前記逆モデルを用いて制御系の伝達関数を取得する制御系伝達関数取得部64と、を備える。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のように制御系の設計を自動的に行う装置において、設計の際に用いる制御モデル(伝達関数)等に誤差があると、制御対象の制御性能に影響を与える。そのため、制御系を自動設計可能な装置において、より精度の高い制御モデルを用いることが望まれている。
【0006】
特に、フィードフォワード制御系などのように制御対象の逆モデルを用いた制御系を設計する場合に、前記制御モデルにむだ時間が含まれると、得られる制御系は不安定な制御系になる。
【0007】
本発明の目的は、安定した制御系を誤差の影響が少なくなるように設計可能な制御系設計装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一実施形態に係る制御系設計装置は、制御対象を制御する制御系を設計するための制御系設計装置である。この制御系設計装置は、前記制御対象のむだ時間を取得するむだ時間推定部と、前記むだ時間を除いたむだ時間なし伝達関数を取得する、むだ時間なし伝達関数取得部と、前記むだ時間なし伝達関数を用いて、前記制御対象の逆モデルを取得する逆モデル取得部と、前記逆モデルを用いて前記制御系の伝達関数を取得する制御系伝達関数取得部と、を備える(第1の構成)。
【0009】
これにより、制御モデルである伝達関数として、制御対象のむだ時間を除いたむだ時間なし伝達関数を用いて、逆モデルを取得することができる。したがって、制御系設計装置によって、前記逆モデルを用いて、安定し且つ制御性能の高い制御系を自動的に設計することができる。
【0010】
前記第1の構成において、前記むだ時間推定部は、前記制御対象に信号を入力して、その応答結果から前記制御対象の伝達関数を取得する制御対象伝達関数取得部と、前記制御対象伝達関数取得部によって取得された前記伝達関数の制御対象に所定の入力信号を入力した場合に得られる応答信号において、所定の閾値を超えるまでの時間を、前記むだ時間として求めるむだ時間演算部と、を備える。前記むだ時間なし伝達関数取得部は、前記制御対象の伝達関数から前記むだ時間に対応するむだ時間要素を除いた要素の周波数特性を求める周波数特性取得部と、前記周波数特性をG^/e
-L^′
1sとし、前記制御対象においてむだ時間要素を含まない伝達関数をG^′とした場合に、式(1)の評価関数Jの値が最小になる伝達関数G^′を、前記むだ時間なし伝達関数として求めるむだ時間なし伝達関数演算部と、を備える(第2の構成)。
【数1】
【0011】
これにより、制御対象のむだ時間を含まないむだ時間なし伝達関数を、精度良く求めることができる。すなわち、制御対象に信号を入力して、その応答結果から前記制御対象の伝達関数を取得し、該伝達関数の制御モデルに所定の入力信号を入力した場合に得られる応答信号から、むだ時間を求めることにより、前記制御対象のむだ時間を精度良く求めることができる。そして、前記制御対象の伝達関数からむだ時間要素を除いた要素の周波数特性と、前記制御対象のむだ時間要素を含まない伝達関数との関係を示す(1)式の評価関数において、該評価関数の値が最小になる伝達関数をむだ時間なし伝達関数として求めることにより、むだ時間を含まない伝達関数を精度良く求めることができる。
【0012】
よって、上述のように求めたむだ時間なし伝達関数を用いて、制御性能のより高い制御系を設計することができる。
【0013】
前記第1または第2の構成において、前記逆モデル取得部は、前記むだ時間なし伝達関数取得部によって取得された前記むだ時間なし伝達関数を低次元化し、該低次元化されたむだ時間なし伝達関数を用いて、前記逆モデルを取得する(第3の構成)。
【0014】
これにより、むだ時間なし伝達関数を用いて制御対象の逆モデルを取得する際に、演算器の性能に応じて演算負荷を軽減することができる。よって、制御対象の制御系を容易に設計することができる。
【0015】
前記第1から第3の構成のうちいずれか一つの構成において、前記逆モデル取得部は、前記むだ時間なし伝達関数を各要素に分離した後、これらの要素のうち少なくとも一つの要素を含む所定の伝達関数から、前記逆モデルを取得する(第4の構成)。
【0016】
これにより、制御系を設計する際に、むだ時間なし伝達関数のうち必要な要素のみを用いて、逆モデルを取得することができる。よって、制御対象に合わせて、適した制御系を設計することが可能になる。
【0017】
前記第4の構成において、前記制御系は、微分器を有し、且つ、前記制御対象の出力値を入力指令に対して負帰還させるフィードバックループを含む。前記制御系伝達関数取得部は、前記逆モデルを用いて、前記フィードバックループの伝達関数を求める(第5の構成)。
【0018】
これにより、むだ時間なし伝達関数から求めた逆モデルを用いて、微分器を有するフィードバックループを含む制御系を設計することができる。このような制御系の設計において前記逆モデルを用いることにより、制御対象のむだ時間の影響を排除できるため、安定且つ精度の高い制御を設計できる。
【0019】
本発明の一実施形態に係る試験装置は、供試体に対して駆動力を与える制御対象と、前記制御対象を制御する制御装置と、前記制御装置に対し、求めた制御系の伝達関数を出力する、第1から第5の構成のうちいずれか一つの構成における制御系設計装置と、を備える(第6の構成)。
【0020】
これにより、供試体の試験装置において、前記供試体に駆動力を与える制御対象を制御する制御装置に対し、制御系設計装置で求めた伝達関数を出力することができる。よって、制御対象を、設計した制御系で制御することができるため、試験装置を精度良く駆動することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一実施形態に係る制御系設計装置は、むだ時間なし伝達関数を用いて、制御対象の逆モデルを得るとともに、該逆モデルを用いて制御系の伝達関数を取得する。これにより、安定した制御系を誤差の影響が少なくなるように設計可能な制御系設計装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照し、本発明の実施の形態を詳しく説明する。図中の同一または相当部分については同一の符号を付してその説明は繰り返さない。
【0024】
<実施形態1>
(全体構成)
図1は、本発明の実施形態1に係る制御系設計装置6を備えた試験装置1の概略構成を機能ブロックで示す図である。この試験装置1は、自動車のモータなどの供試体Mの特性を試験するための試験装置である。なお、試験装置1で試験する供試体Mは、モータ以外の回転体であってもよい。
【0025】
具体的には、試験装置1は、制御装置2と、モータ駆動回路3と、電動モータ4と、トルク検出器5と、制御系設計装置6とを備える。
【0026】
制御装置2は、入力指令であるモータトルク指令rと後述のフィードバック値とを用いて、モータ駆動回路3に対する駆動指令を生成する。制御装置2は、トルク検出器5の出力値を用いてモータトルク指令rに対して負帰還するフィードバックループ10を有する(
図2参照)。なお、制御装置2が前記駆動指令を生成する構成は、従来と同様であるため、詳しい説明は省略する。
【0027】
本実施形態において、制御装置2は、
図2に示すように、例えば2自由度制御系を有する。すなわち、制御装置2は、フィードバックループ10と、フィードフォワードループ20とを有する。フィードバックループ10は、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器5の出力値をフィードバックする。フィードフォワードループ20は、モータトルク指令rを用いてフィードフォワード系のコントローラ21によって得られる信号を、制御対象Pの入力に加算する。
【0028】
なお、
図2において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器5の出力値であり、符号12は、フィードバック系のコントローラである。符号11,21は、フィードフォワード系のコントローラである。また、
図2における符号Pは制御対象である。
【0029】
モータ駆動回路3は、特に図示しないが、複数のスイッチング素子を有する。モータ駆動回路3は、前記駆動指令に基づいて前記複数のスイッチング素子が駆動することにより、電動モータ4の図示しないコイルに電力を供給する。
【0030】
電動モータ4は、図示しない回転子及び固定子を有する。前記固定子のコイルにモータ駆動回路3から電力が供給されることにより、前記回転子が前記固定子に対して回転する。前記回転子は、図示しない中間軸を介して、供試体Mに対し、供試体Mと一体で回転可能に連結されている。これにより、前記回転子の回転によって、電動モータ4から供試体Mにトルクを出力することができる。なお、電動モータ4の構成は、一般的なモータの構成と同様であるため、電動モータ4の詳しい説明は省略する。
【0031】
トルク検出器5は、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸に設けられている。トルク検出器5は、電動モータ4から出力されたトルクを検出する。トルク検出器5で検出されたトルクの出力値は、制御装置2にフィードバックループ10の入力値として入力される。すなわち、トルク検出器5の出力値は、フィードバック制御に用いられる。なお、トルク検出器5の構成は、従来の構成と同様であるため、トルク検出器5の詳しい説明は省略する。
【0032】
本実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。なお、制御対象Pには、電動モータ4と供試体Mとを接続する中間軸のうち、電動モータ4からトルク検出器5までの範囲も含む。すなわち、制御対象Pは、供試体Mに駆動力を与える。本実施形態の試験装置1は、制御装置2、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0033】
ところで、試験装置1において制御対象Pを制御する際には、制御装置2のサンプリング周期及び通信等によって、モータトルク指令rに対して供試体Mに入力されるトルクが遅れを生じる。このような遅れは、いわゆるむだ時間と呼ばれ、制御対象Pの制御に影響を与える。
【0034】
よって、むだ時間を考慮して制御系を設計する場合、制御対象Pのむだ時間を精度良く推定し、推定したむだ時間を用いて制御対象Pを制御する必要がある。例えば、むだ時間を考慮してフィードフォワード制御系を設計した場合、
図3に示すように、制御モデルとしての伝達関数に誤差がない場合(
図3の実線)に対して、伝達関数に誤差がある場合には、破線及び一点鎖線のように、設計した制御性能と異なる特性になる。なお、
図3における誤差の条件1、2は、制御モデルにおいて異なる誤差を有する場合の一例である。
【0035】
制御系設計装置6は、制御対象Pのむだ時間を除いた伝達関数(以下、むだ時間なし伝達関数)を用いて、制御対象Pの制御系の設計を行う。具体的には、制御系設計装置6は、制御対象Pのむだ時間なし伝達関数を用いて逆モデルを取得し、該逆モデルを用いて、2自由度制御系の伝達関数を求める。
【0036】
なお、以下の説明では、文章表記の都合上、数式及び図において各文字の上に付される“^”を、各文字の後ろに記載する。
【0037】
図1に示すように、制御系設計装置6は、むだ時間推定部61と、むだ時間なし伝達関数取得部62と、逆モデル取得部63と、制御系伝達関数取得部64とを備える。
【0038】
むだ時間推定部61は、制御対象Pの伝達関数を取得し、該伝達関数を用いて求めたステップ応答から、制御対象Pのむだ時間を推定する。具体的には、むだ時間推定部61は、制御対象伝達関数取得部66と、むだ時間演算部67とを備える。
【0039】
制御対象伝達関数取得部66は、制御対象Pにランダム信号(信号)を入力して得られた周波数特性G(応答結果)から、制御対象Pの伝達関数G^を取得する。制御対象Pにランダム信号を入力して得られた周波数特性Gの一例を
図4に実線で示す。伝達関数G^は、後述のむだ時間推定部61でむだ時間L^1を取得するために用いられる伝達関数である。前記ランダム信号は、予測できない変動を有する信号である。本実施形態では、前記ランダム信号として、例えばホワイトノイズの信号を用いる。
【0040】
また、制御対象伝達関数取得部66は、式(2)の評価関数J0の値が最小になる伝達関数G^を求める。具体的には、制御対象伝達関数取得部66は、式(2)の評価関数J0の値が最小になるように、式(3)に示す伝達関数の一般式における、分母及び分子の次数、a
0〜a
mの値及びb
0〜b
nの値を求める。
図4に、評価関数J0の値が最小になる伝達関数G^を求める際に繰り返し演算で得られる伝達関数の計算結果の一例(計算例)を、破線で示す。
【数2】
【数3】
【0041】
むだ時間演算部67は、制御対象伝達関数取得部66で取得した伝達関数G^を用いて、制御対象Pのむだ時間L^1を推定する。具体的には、むだ時間演算部67は、伝達関数G^を有する制御対象Pのモデルに対してステップ信号(所定の入力信号)を入力することにより得られるステップ応答から、むだ時間L^1を推定する。
図5に、前記ステップ応答の一例を示す。本実施形態では、
図5に示すように、むだ時間演算部67は、前記ステップ応答において、前記ステップ信号の入力時(
図5における時間0)から出力値が閾値Xを超えるまでの時間を、むだ時間L^1として推定する。閾値Xは、例えば、ステップ応答の収束値に対して所定の割合(例えば10%)の値に設定される。
【0042】
なお、むだ時間演算部67は、前記ステップ応答において、前記ステップ信号の入力時から出力値の移動平均値が閾値を超えるまでの時間を、むだ時間L^1として推定してもよい。
【0043】
ところで、トルク指令によって駆動されるモータにステップ信号を入力した場合、前記モータが加速し続けて該モータの速度上限に達する可能性がある。そのため、前記ステップ信号の調整が必要である。これに対し、上述のように、制御対象Pの伝達関数G^を求めるとともに、その伝達関数G^を有するモデルに対してステップ信号を入力してステップ応答を得ることにより、制御対象Pに対してステップ信号を直接入力しなくても、制御対象Pにおけるむだ時間L^1を推定できる。したがって、前記ステップ信号の調整が不要になり、制御対象Pにおけるむだ時間L^1を容易に推定できる。
【0044】
また、上述のようにむだ時間L^1を求めることにより、制御対象Pの周波数特性Gを取得する過程及び伝達関数G^を推定する過程の少なくとも一方の過程において、ノイズ処理を行うことにより、伝達関数G^を有するモデルのステップ応答にノイズの影響が現れにくくすることができる。
図6に、実測した周波数特性と、上述のように伝達関数G^を有するモデルを用いて求めた周波数特性とを比較して示す。
図6に示すように、ノイズの少ない周波数特性を得ることができる。これにより、前記ステップ応答から、むだ時間L^1を容易に推定できる。
【0045】
なお、制御対象Pに対してステップ信号を入力することにより得られるステップ応答から、むだ時間を推定してもよい。この場合にも、得られたステップ応答において、前記ステップ信号の入力時から出力値が閾値Xを超えるまでの時間を、前記むだ時間として推定してもよいし、前記ステップ信号の入力時から出力値の移動平均値が閾値を超えるまでの時間を、前記むだ時間として推定してもよい。
【0046】
むだ時間なし伝達関数取得部62は、推定した制御対象Pのむだ時間L^1を用いて、伝達関数G^からむだ時間L^1を用いて求められるむだ時間要素を除いたG^/e
-L^´
1sの周波数成分を求める。むだ時間なし伝達関数取得部62は、求めた周波数特性から、むだ時間を含まない制御対象Pの伝達関数(むだ時間なし伝達関数)G^´を取得する。具体的には、むだ時間なし伝達関数取得部62は、周波数特性取得部68と、むだ時間なし伝達関数演算部69とを備える。
【0047】
周波数特性取得部68は、制御対象伝達関数取得部66で取得した伝達関数G^と、むだ時間演算部67で取得したむだ時間L^1を用いて求められるむだ時間要素e
-L^´
1sとを用いて、伝達関数G^からむだ時間L^1を用いて求められるむだ時間要素を除いたG^/e
-L^´
1sの周波数特性を求める。
図7に、むだ時間を除いた周波数特性及びむだ時間の一例を示す。
【0048】
ここで、L^´1は、例えば、以下の関係を満たす値である。なお、L^´1は、L^1を基準とした他の範囲で規定された値であってもよい。また、L^´1の代わりに、L^1を用いてもよい。
L^1min=L^1−L^1/10
L^1max=L^1+L^1/10
L^1min≦L^´1≦L^1max
【0049】
むだ時間なし伝達関数演算部69は、式(1)の評価関数Jの値が最小になるむだ時間なし伝達関数G^´を求める。
【数4】
【0050】
なお、式(1)において、G^/e
-L^´
1sの導出は、制御対象伝達関数取得部66で求めたG^を用いてもよいし、制御対象Pにランダム信号を入力して得られた周波数特性Gを用いてもよい。
【0051】
これにより、L^1min≦L^´1≦L^1maxを満たし、且つ、式(1)の評価関数Jの値が最小になるむだ時間なし伝達関数G^´を求めることができる。このように、むだ時間L^1を基準とした所定の範囲内で且つ式(1)の評価関数Jの値が最小になるむだ時間なし伝達関数G^´を求めることにより、むだ時間L^1を精度良く求めることができない場合でも、制御対象Pのむだ時間なし伝達関数G^´を精度良く求めることができる。
【0052】
以上のように式(1)を用いて制御対象Pにおけるむだ時間なし伝達関数G^´を求めることにより、むだ時間なし伝達関数G^´を精度良く求めることができる。
【0053】
逆モデル取得部63は、むだ時間なし伝達関数G^´を用いて、制御対象Pの逆モデルを取得する。むだ時間なし伝達関数G^´は、制御対象Pのむだ時間要素を含まないため、むだ時間なし伝達関数G^´から求められる制御対象Pの逆モデルは、不安定ゼロ点を有しない。
【0054】
制御系伝達関数取得部64は、逆モデル取得部63で取得した逆モデルを用いて、制御対象Pを制御する制御系の伝達関数を取得する。具体的には、制御系伝達関数取得部64は、
図2におけるP^に、むだ時間なし伝達関数G^´を用いるとともに、
図2におけるe
-Lsに、むだ時間L^1を用いて、制御系の伝達関数を求める。
【0055】
なお、制御系伝達関数取得部64は、フィードフォワード系のコントローラ21の伝達関数が不安定極を含まないように、該伝達関数を生成する。具体的には、制御系伝達関数取得部64は、フィードフォワード系のコントローラ21の伝達関数において、分母の次数が分子の次数以上になるとともに分母に不安定ゼロ点を含まないように、前記伝達関数を生成する。
【0056】
これにより、制御対象Pのむだ時間を含まない伝達関数を用いて、制御系の伝達関数を取得できるため、制御系設計装置6によって、安定し且つ制御性能の高い制御系を設計できる。したがって、制御対象Pを、設計した制御系で制御することができるため、試験装置1を精度良く駆動することができる。
【0057】
(むだ時間推定装置の動作)
次に、上述の構成を有する制御系設計装置6の動作を、
図8に示すフローを用いて説明する。
【0058】
図8に示すフローがスタートすると、ステップSA1において、制御系設計装置6の制御対象伝達関数取得部66は、制御対象Pにランダム信号を入力する。続くステップSA2で、制御対象伝達関数取得部66は、制御対象Pにランダム信号を入力した際の出力から周波数特性Gを測定する。その後、ステップSA3で、制御対象伝達関数取得部66は、周波数特性Gを用いて、既述の式(2)の評価関数J0が最小になるように制御対象Pの伝達関数G^を推定する。
【0059】
次に、むだ時間演算部67は、伝達関数G^を有する制御対象Pのモデルに対してステップ信号を入力して、ステップ応答を取得する(ステップSA4)。その後、むだ時間演算部67は、前記ステップ応答から、むだ時間L^1を推定する(ステップSA5)。この際、むだ時間演算部67は、前記ステップ応答において、ステップ信号の入力から出力値が閾値を超えるまでの時間を、むだ時間L^1として推定する。
【0060】
続くステップSA6では、周波数特性取得部68は、ステップSA3で取得した伝達関数G^からむだ時間L^1を用いて求められるむだ時間要素を除いたG^/e
-L^´
1sの周波数特性を求める。ここで、L^´1は、例えば、以下の関係を満たす値である。
L^1min=L^1−L^1/10
L^1max=L^1+L^1/10
L^1min≦L^´1≦L^1max
【0061】
そして、ステップSA6では、むだ時間なし伝達関数演算部69は、既述の式(1)の評価関数Jが最小になるように制御対象Pのむだ時間なし伝達関数G^´を求める。続くステップSA7では、逆モデル取得部63は、むだ時間なし伝達関数G^を用いて、制御対象Pの逆モデルを取得する。むだ時間なし伝達関数G^´は、制御対象Pのむだ時間要素を含まないため、むだ時間なし伝達関数G^´から求められる制御対象Pの逆モデルは、不安定ゼロ点を有しない。
【0062】
その後、ステップSA8で、制御系伝達関数取得部64は、逆モデルを用いて、制御対象Pを制御する制御系の伝達関数を取得する。このとき、制御系伝達関数取得部64は、フィードフォワード系のコントローラ21の伝達関数が不安定極を含まないように、該伝達関数を生成する。その後、このフローを終了する。
【0063】
これにより、制御対象Pを制御する安定した制御系を誤差の影響が少なくなるように設計することができる。
【0064】
<実施形態2>
図9に、実施形態2に係る制御系設計装置106を備えた試験装置101の概略構成を機能ブロックで示す。本実施形態では、制御系設計装置106の逆モデル取得部163が、制御対象Pのむだ時間なし伝達関数G^´を低次元化する点で、実施形態1の構成とは異なる。以下では、実施形態1の構成と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1の構成と異なる構成についてのみ説明する。
【0065】
制御系設計装置106は、むだ時間推定部61と、むだ時間なし伝達関数取得部62と、逆モデル取得部163と、制御系伝達関数取得部64とを備える。むだ時間推定部61、むだ時間なし伝達関数取得部62及び制御系伝達関数取得部64は、実施形態1の制御系設計装置6と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0066】
逆モデル取得部163は、むだ時間なし伝達関数演算部69で得られたむだ時間なし伝達関数G^´を低次元化した後、低次元化した伝達関数を用いて、逆モデルを取得する。逆モデル取得部163は、例えば、むだ時間なし伝達関数G^´のうち、3次以上の次数の要素を省略して、低次元化する。これにより、制御系設計装置106の演算負荷を低減できる。
【0067】
図10に、
図7に示す伝達関数を低次元化した伝達関数の一例を示す。なお、逆モデル取得部163の構成は、むだ時間なし伝達関数G^´を低次元化可能な構成であれば、本実施形態の構成に限定されない。
【0068】
(制御系設計装置の動作)
次に、上述の構成を有する制御系設計装置106の動作を、
図11に示すフローを用いて説明する。なお、ステップSB1からSB6、SB9における動作は、実施形態1のステップSA1からSA6、SA8における動作と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0069】
ステップSB7では、逆モデル取得部163は、むだ時間なし伝達関数演算部69で得られたむだ時間なし伝達関数G^´を低次元化する。続くステップSB8では、逆モデル取得部163は、低次元化したむだ時間なし伝達関数を用いて、逆モデルを取得する。その後、ステップSB9で、制御系伝達関数取得部64、前記逆モデルを用いて、制御対象Pを制御する制御系の伝達関数を取得する。その後、このフローを終了する。
【0070】
<実施形態3>
図12に、実施形態3に係る制御系設計装置206を備えた試験装置201の概略構成を機能ブロックで示す。本実施形態では、制御系設計装置206の逆モデル取得部263が、制御対象Pのむだ時間なし伝達関数を各要素に分離した後、任意の要素を含む所定の伝達関数を取得し、該伝達関数から逆モデルを取得する点で、実施形態1の構成とは異なる。
【0071】
また、本実施形態では、制御装置202の構成が実施形態1の構成とは異なる。
図13に、制御装置202の構成を示す。
【0072】
以下では、実施形態1の構成と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態1の構成と異なる構成についてのみ説明する。
【0073】
まず、制御装置202の構成について説明する。本実施形態において、制御装置202は、
図13に示すように、入力指令であるモータトルク指令rに対してトルク検出器5の出力値をフィードバックするフィードバックループ210を有する。すなわち、制御装置202は、微分フィードバックの制御系を有する。本実施形態の試験装置201は、制御装置202、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含み且つ供試体Mを含まない制御系によって、電動モータ4の駆動を制御する。
【0074】
なお、
図13において、rはモータトルク指令としての目標値であり、yはトルク検出器5の出力値であり、K
Dは微分係数であり、sは微分要素であり、Fdはフィルタ52の伝達関数である。
【0075】
フィードバックループ210は、微分要素sを含む微分フィードバック系である。フィードバックループ210には、トルク検出器5の出力値が入力される。フィードバックループ210は、減衰比調整部51(微分器)と、フィルタ52とを有する。減衰比調整部51は、微分要素s及び微分係数K
Dによって、制御対象に対する減衰比を調整する。フィルタ52は、トルク検出器5の出力値からむだ時間の影響を排除する。フィードバックループ210では、トルク検出器5の出力値は、フィルタ52及び減衰比調整部51によって処理された後、フィードバック値としてモータトルク指令rに負帰還される。
【0076】
制御系設計装置206は、むだ時間推定部61と、むだ時間なし伝達関数取得部62と、逆モデル取得部263と、制御系伝達関数取得部264とを備える。むだ時間推定部61及びむだ時間なし伝達関数取得部62は、実施形態1の制御系設計装置6と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0077】
逆モデル取得部263は、むだ時間なし伝達関数演算部69で得られたむだ時間なし伝達関数G^´を各要素に分離して、所定の要素を含む伝達関数を取得する。逆モデル取得部263は、むだ時間なし伝達関数G^´を、1次共振や2次共振などの各次数の共振の伝達関数に分離し、それらの伝達関数の中から、共振を抑制したい伝達関数を除いた伝達関数を含む伝達関数を、前記所定の要素を含む伝達関数として、取得する。例えば、逆モデル取得部263は、
図14に示すように、むだ時間なし伝達関数G^´を、1次共振の伝達関数と2次共振の伝達関数とに分離する。逆モデル取得部263は、1次共振を抑制する場合には、2次共振の伝達関数を、前記所定の要素を含む伝達関数とする。
【0078】
逆モデル取得部263は、前記所定の要素を含む伝達関数を用いて、逆モデルを取得する。
【0079】
制御系伝達関数取得部264は、逆モデル取得部263によって取得された逆モデルをフィルタ52に代入して、振動を抑制するように微分係数K
Dを設計する。この際、制御系伝達関数取得部264は、FdK
Dsの伝達関数が安定した伝達関数になるように、Fdの分母の次数を調整する。
【0080】
これにより、制御系伝達関数取得部264によって、制御対象Pを制御する制御系を設計することができる。したがって、
図13に示すように、微分器を有し且つ制御対象Pの出力値を入力指令に対して負帰還させるフィードバックループ210を含む制御系を、制御系設計装置206によって自動的に且つ容易に設計することができる。
【0081】
(制御系設計装置の動作)
次に、上述の構成を有する制御系設計装置206の動作を、
図15に示すフローを用いて説明する。なお、
図15におけるステップSC1からSC6の動作は、実施形態1のステップSA1からSA6の動作と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0082】
ステップSC7では、逆モデル取得部263は、むだ時間なし伝達関数演算部69で得られたむだ時間なし伝達関数G^´を各要素に分離する。具体的には、逆モデル取得部263は、むだ時間なし伝達関数G^´を、各次数の共振の伝達関数に分離する。
【0083】
その後、ステップSC8で、逆モデル取得部263は、ステップSC8で分離された各要素のうち所定の要素を含む伝達関数を取得し、該伝達関数から逆モデルを生成する。続くステップSC9では、制御系伝達関数取得部264は、前記逆モデルを用いて、制御対象Pを制御する微分フィードバック制御系の伝達関数を取得する。具体的には、制御系伝達関数取得部264は、前記逆モデルをフィルタ52に代入して、振動を抑制するように微分係数K
Dを設計する。この際、制御系伝達関数取得部264は、FdK
Dsの伝達関数が安定した伝達関数になるように、Fdの分母の次数を調整する。その後、このフローを終了する。
【0084】
<実施形態4>
図16に、実施形態4に係る制御系設計装置306の概略構成を示す。この制御系設計装置306は、制御対象Pのむだ時間を推定し、該むだ時間を除いた伝達関数を各要素に分離した後、該伝達関数のパラメータを調整して設計用伝達関数を選択可能である点、及び、共振を抑制する係数として、制御系を適用した際の共振抑制の減衰比も設定可能である点で、実施形態3の制御系設計装置206とは異なる。以下では、実施形態3の構成と同様の構成には同一の符号を付して説明を省略し、実施形態3の構成と異なる構成についてのみ説明する。なお、
図16において、符号301は、試験装置である。
【0085】
制御系設計装置306は、むだ時間推定部61と、むだ時間なし伝達関数取得部62と、逆モデル取得部263と、制御系伝達関数取得部264と、入力部265とを備える。むだ時間推定部61、むだ時間なし伝達関数取得部62、逆モデル取得部263及び制御系伝達関数取得部264は、実施形態3の制御系設計装置206と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0086】
入力部265は、GUI(グラフィカルユーザインタフェース)によって、ユーザが操作端末を用いて制御系設計装置306に数値等を入力可能に構成されている。入力部265を介して制御系設計装置306には、設計用伝達関数を取得する際のパラメータの数値を入力可能であるとともに、微分フィードバックを設計する際に減衰比を入力可能である。入力部265によって表示される画面の一例を
図18に示す。この
図18では、設計用伝達関数を取得する際のパラメータの数値を入力する例を示す。入力部265には、むだ時間を入力するむだ時間入力部265aと、伝達関数の各要素のパラメータを入力するパラメータ入力部265bとが含まれる。
図18では、入力部265によって表示される画面D上における各入力部の入力箇所に、各入力部の符号を付している。
【0087】
なお、入力部265によって表示される画面Dには、制御系設計装置306で設計されたデータがデフォルト値として表示されている。画面D上で、入力部265によって、パラメータの値を書き換えることにより、該パラメータを変更することができる。
【0088】
上述のように制御系設計装置306が入力部265を有することにより、ユーザが制御系設計装置306に対して数値を入力したり、選択の指示を入力したりすることができる。
【0089】
以上のように、本実施形態の制御系設計装置306では、設計用伝達関数を取得する際及び微分フィードバックを設計する際に、入力部265に対する入力によってユーザが調整することができる。したがって、制御対象Pの制御系の設計を全て自動で行う場合に比べて、利便性を向上することができる。
【0090】
(制御系設計装置の動作)
次に、上述の構成を有する制御系設計装置306の動作を、
図17に示すフローを用いて説明する。なお、
図17におけるステップSD1からSD7の動作は、実施形態3のステップSC1からSC7の動作と同様であるため、詳しい説明を省略する。
【0091】
ステップSD8では、逆モデル取得部263は、入力部265に入力されたパラメータを取得する。このパラメータは、むだ時間なし伝達関数G^´を分離した際の各要素におけるパラメータである。逆モデル取得部263は、取得したパラメータを用いて、制御対象Pの逆モデルを求める。この逆モデルを用いて、設計用伝達関数が得られる(ステップSD9)。
【0092】
次に、ステップSD10で、制御系伝達関数取得部264は、入力部265に入力された減衰比を取得する。制御系伝達関数取得部264は、ステップSD9で得られた設計用伝達関数と、取得した減衰比とを用いて、微分フィードバックの制御系における伝達関数を求める(ステップSD11)。その後、このフローを終了する。
【0093】
これにより、微分フィードバックの制御系を、容易に設計できるとともに、設計の際に用いる設計用伝達関数及び減衰比のパラメータを、入力部265の入力によって調整することができる。したがって、微分フィードバックの制御系を設計する際に、各パラメータを調整することにより、制御対象Pの制御を容易に微調整することが可能になる。
【0094】
(その他の実施形態)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。よって、上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変形して実施することが可能である。
【0095】
前記実施形態1,2では、制御装置2,102は、2自由度制御系を有する。前記実施形態3,4では、制御装置202,302は、微分フィードバック系を有する。しかしながら、制御装置は、伝達関数の逆モデルを用いて設計される制御系であれば、他の制御系を有していてもよい。
【0096】
前記実施形態1、2では、制御系設計装置6,106が、制御系として、むだ時間を考慮する2自由度制御系を設計する。しかしながら、制御系設計装置は、制御系として、むだ時間を考慮しない2自由度制御系を設計してもよい。この場合には、
図19に示す制御ブロックにおいて、P^に、むだ時間なし伝達関数取得部で取得したむだ時間なし伝達関数を用いて、制御系の伝達関数を求めればよい。なお、
図19において、符号302は制御装置を、符号311はフィードフォワード系のコントローラを、それぞれ示す。
【0097】
前記各実施形態では、むだ時間推定部61は、伝達関数G^を有する制御対象Pのモデルに対してステップ信号を入力することにより得られるステップ応答から、むだ時間L^1を推定する。しかしながら、むだ時間推定部は、前記モデルにおけるランプ応答から、むだ時間を推定してもよい。すなわち、むだ時間推定部は、応答から、むだ時間を推定できれば、前記モデルに対してどのような種類の信号を入力してもよい。なお、得られるむだ時間の精度を考慮すると、前記モデルにおけるステップ応答を得るのが最も好ましい。
【0098】
前記各実施形態では、制御対象Pは、モータ駆動回路3、電動モータ4及びトルク検出器5を含む。しかしながら、制御対象は、供試体に駆動力を与えることができる構成を有していれば、他の構成を含んでもよいし、他の構成を有する軸系を含んでいてもよい。