【解決手段】巻線型コイル部品のコア部材を、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子210と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層220とで構成されるものとする。
柱状の巻芯部を有するコア部材と、該コア部材の前記巻芯部に巻回されたコイル導線と、該コイル導線の端部又は該端部が接続された金属部のいずれかで構成された一対の端子電極とを備える巻線型コイル部品であって、
前記コア部材が、
構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、
該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層と
で構成されることを特徴とする、巻線型コイル部品。
前記酸化物層の前記軟磁性合金粒子と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化層をさらに備える、請求項1に記載の巻線型コイル部品。
前記軟磁性合金粒子の組成が、Siを1〜10質量%、Cr又はAlを合計で0.2〜2質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である、請求項1又は2に記載の巻線型コイル部品。
柱状の巻芯部を有するコア部材と、該コア部材の前記巻芯部に巻回されたコイル導線と、該コイル導線の端部又は該端部が接続された金属部のいずれかで構成された一対の端子電極とを備える巻線型コイル部品の製造方法であって、
構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含み、かつSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い軟磁性合金粉を準備すること、
該軟磁性合金粉を成形して、前記コア部材の形状に対応する成形体を得ること、
該成形体を、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜900℃の温度で熱処理して、軟磁性合金の粒子表面に酸化物層を形成し、該酸化物層を介して軟磁性合金の粒子同士を結合してコア部材を得ること、
前記コイル導線の端部又は前記金属部のいずれかにより一対の端子電極を形成すること、及び
前記コア部材の巻芯部にコイル導線を巻回すること
を含む、巻線型コイル部品の製造方法。
前記熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜600℃で、かつ前記熱処理温度より低い温度にて、第2の熱処理を行う、請求項5に記載の巻線型コイル部品の製造方法。
前記軟磁性合金粉の組成が、Siを1〜10質量%、Cr又はAlを合計で0.2〜2質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である、請求項5又は6に記載の巻線型コイル部品の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「〜」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0015】
[巻線型コイル部品]
本発明の第1の実施形態に係る巻線型コイル部品(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、柱状の巻芯部を有するコア部材と、該コア部材の前記巻芯部に巻回されたコイル導線と、該コイル導線の端部又は該端部が接続された金属部のいずれかで構成された一対の端子電極とを備える。そして、前記コア部材が、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層とで構成される。
【0016】
まず、第1実施形態の全体構造を、
図1を参照しながら説明する。
第1実施形態に係る巻線型コイル部品100は、柱状の巻芯部21を有するコア部材2と、該コア部材2の前記巻芯部21に巻回されたコイル導線3と、該コイル導線3の両端部が接続された一対の端子電極4a、4bと、を備える。例示したコイル部品100は、外装部を有するドラムコア型のコイル部品であるので、コア部材2は柱状の巻芯部21の両端に設けられた一対の鍔部22a、22bをさらに有し、前記一対の端子電極4a、4bは、前記鍔部22a、22bの外表面に設けられている。また、該コイル部品100は、前記巻芯部21及び前記コイル導線3の外周を被覆する外装部材5をさらに備えている。この外装部材5は、樹脂と磁性材料の複合磁性材料、また磁性材料の焼結されたものでもよい。
【0017】
コア部材2は、コイル導線3が巻回される巻芯部21と、該巻芯部の上端に設けられた上鍔部22aと、該巻芯部の下端に設けられた下鍔部22bとを備え、その外観はドラム型の形状を有している。コア部材2の形状は、コイル導線3が巻回される巻芯部21を有すれば、例示した巻線型コイル部品100のコア部材2の形状に、特に限定はされず、T型コア、I型コア等であってもよい。
巻芯部21の形状は、特に限定されないが、コイル導線3を巻回する際に、所定の巻回数を得るために要するコイル導線3の長さを短くできる点で、円形又は略円形の断面を有するものとすることが好ましい。
鍔部22a、22bは、必須ではなく、またこれらを備える場合の形状も、特に限定されない。コア部材2が鍔部22a、22bを備える場合、その形状は、回路基板に高密度で実装できる点で、巻芯部21の軸方向から見た平面視形状を四角形又は略四角形とすることが好ましい。また、上鍔部22aは、下鍔部22bと同サイズ又はこれよりもやや小さめに構成することが好ましい。さらに、後述する外装部材5の充填を容易にする点で、上鍔部22aの頂点に面取りを施すことが好ましい。
このように、巻芯部21の上端及び下端に鍔部22a、22bを設けることで、巻芯部21に対するコイル導線の巻回位置を制御しやすくなり、巻線型コイル部品100の特性を安定させることができる。
【0018】
コイル導線3は、コア部材2の巻芯部21の周囲に巻回されるとともに、両端部31a、31bが、半田等により金属部よりなる端子電極4a、4bに電気的に接続される。コイル導線3の両端部31a、31bが、直接端子電極4a、4bとなっていてもよく、コイル導線3の一方の端部31aが一方の端子電極4aとなり、他方の端部31bが接続された金属部が他方の端子電極4bとなっていてもよい。
コイル導線3としては、銅や銀等からなる金属線の外周に、ポリウレタン樹脂やポリエステル樹脂等からなる絶縁被覆が形成された被覆導線が使用され、両端部31a、31bでは該絶縁被覆が除去されている。コイル導線3の径や長さは、巻線型コイル部品100に要求される特性に応じて適宜決定すればよく、一例として、直径が0.1mm〜0.2mmで、巻芯部21に3.5ターン〜15.5ターン巻回できる長さのものが挙げられる。また、コイル導線3の断面中央に位置する金属線の形状も限定されず、単線の他、2本以上の線や撚り線であってもよく、断面形状が円形のものの他、長方形断面の平角線や正方形断面の四角線であってもよい。
【0019】
端子電極4a、4bは、コイル導線3の端部31a、31b又は該端部が接続された金属部のいずれかで構成される。そして、端子電極4a、4bは、巻線型コイル部品100を回路基板等(図示せず)に実装する際に、該回路基板等に電気的に接続される。これにより、端子電極4a、4bは、回路基板等からコイル導線3へと電流を供給する。コイル導線3の両端部31a、31bが、直接端子電極4a、4bとなっている場合は、該端部31a、31bが、巻線型コイル部品100を実装する回路基板等(図示せず)に直接、電気的に接続される。また、コイル導線3の一方の端部31aと、他方の端部31bが接続された金属部とが端子電極4a、4bとなっている場合は、これらの端子電極4a、4bが、巻線型コイル部品100を実装する回路基板等(図示せず)に、それぞれ電気的に接続される。
端子電極4a、4bの位置及び形状は、コイル導線3及び回路基板等との接続の仕方に応じて適宜決定すればよい。また、端子電極4a、4bとして金属部を用いる場合、その材質も特に限定されず、例えば、銀(Ag)、Ag−Pd合金、Ag−Pt合金、銅(Cu)、Ti−Ni−Sn合金、Ti−Cu合金、Cr−Ni−Sn合金、Ti−Ni−Cu合金、Ti−Ni−Ag合金、Ni−Sn合金、Ni−Cu合金、Ni−Ag合金、又はリン青銅等が使用可能である。
【0020】
第1実施形態は、
図1に示すように、コア部材2の巻芯部21及びコイル導線3を被覆する外装部材5を備えてもよい。外装部材5は、コア部材2の対向する鍔部22a、22b間をつなぐように形成されたり、コイル導線3の外側の空間に充填されて形成されたりする。第1実施形態では、コイル導線3として絶縁被覆が形成された被覆導線を使用しているため、外装部材5は必須ではない。しかし、外装部材5は、巻芯部21に巻回されたコイル導線3を保護するとともに、ショート不良等をさらに抑制する機能を有することから、用途に応じて形成することが好ましい。また、外装部材5に磁性粉を含有させた場合には、外装部材5を磁場の通り道とし、巻線型コイル部品100の磁気特性を向上する機能も付与できる。
【0021】
外装部材5の材質は、前述の機能を有するものであれば特に限定されず、例えば、シリコン樹脂、エポキシ樹脂等の各種樹脂を採用できる。該樹脂としては、ガラス転移温度が100〜150℃のものが好ましい。外装部材5を樹脂で形成する場合には、耐熱性の向上や熱膨張係数の調整のために、シリカ等の無機フィラーを添加してもよい。
【0022】
外装部材5に磁性粉を含有させる場合、磁性粉としてFe−Cr−Si合金粉、Mn−Znフェライト粉又はNi−Znフェライト粉等の各種磁性材料の粉末を用いることができる。これらの磁性粉うち、コア部材2を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成を有するものを用いることが、高い透磁率を得る点で好ましい。使用する磁性粉の平均粒径は、概ね2μm〜30μm程度であることが好ましい。また、磁性粉の含有量は、概ね50体積%以上とすることが好ましい。
【0023】
次に、第1実施形態におけるコア部材2の微細構造について、
図2を参照しながら説明する。
コア部材2を構成する軟磁性合金粒子210は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する。
軟磁性合金粒子210がSiを含有することで、電気抵抗が高くなり、渦電流による磁気特性の低下を抑制することができる。Siは、軟磁性合金粒子210の表面側に、その内部よりも多く存在することが好ましい。具体的には軟磁性合金粒子210の金属部分の表面から内側に向かった距離が0から50nmまでの範囲におけるSi量の最大値が、軟磁性合金粒子210の金属部分の表面から内側に向かった距離が100nmから150nmまでの範囲におけるSi量の最大値よりも、大きいことを意味する。また、軟磁性合金粒子210がCr又はAlの少なくとも一方を含有することで、耐酸化性に優れたものとなる。軟磁性合金粒子210中のCr及びAlは、該粒子の表面側に、その内部よりも多く存在することが好ましい。
【0024】
軟磁性合金粒子210の組成は、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%〜10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5〜5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2〜3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。合金部分でのCr又はAlの偏析を抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下であることが好ましく、2質量%以下とすることがより好ましい。さらに、合金部分がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面で酸化し易いことから、その含有量が1質量%以下であることが特に好ましい。
なお、軟磁性合金粒子210が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0025】
コア部材2では、前述した組成を有する軟磁性合金粒子210同士が、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層220を介して結合されている。
このような構造を有することで、コア部材2の強度が向上し、ハンドリング時の割れや欠け等の破損、特にドラム型のコアにおける鍔部22a、22bの破損を抑えることができる。こうした強度向上のメカニズムは明らかでないが、以下のように推測される。大気中で熱処理されたコア部材中の酸化物層は、
図4にその粒子間の結合部分の構造を模式的に示すように、おおよそ(Siリッチ層)/(Si、Cr(Al)混合層)/(FeリッチSi含有層)/(Si、Cr(Al)混合層)/(Siリッチ層)の5層構造を有し、その厚みも粒子間で100nm前後と厚くなる。このため、剪断ないし引っ張り応力が加わった際に、各層の界面での剥離ないしすべり変形が生じ易い。これに対し、前述の特徴を有する第1実施形態の酸化物層220は、
図2に示すように、これを構成する層の数が3層と少なく、しかも粒子間の層全体の厚みが薄いため、こうした剥離ないしすべり変形が生じにくくなる結果、コア部材の強度が向上する。
また、酸化物層220がSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含むことは、層内の酸素の移動速度を低減し、軟磁性合金粒子210に酸素が到達してFeが酸化することによる磁気特性の低下を抑制することにも寄与する。
さらに、酸化物層220における質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多いことは、酸化物層220及びコア部材2全体が電気的絶縁性に優れたものとなることにも寄与する。これに加えて、酸化物層220中のCr及びAlの含有量がSiよりも少ないことは、磁性体製造時の酸素存在下での熱処理において、Siに比べて酸化物層220に拡散し易いCr及びAlの拡散が抑えられ、軟磁性合金粒子210から酸化物層220への拡散流束が小さくなることで、厚みの小さい酸化物層220が得られたことを意味する点からも好ましい。
【0026】
酸化物層220は、質量基準でSiを最も多く含むとともに、該Siの含有量が、Fe,Cr及びAlのうち、質量基準でSiの次に含有量の多い元素の3倍以上であるSi濃化領域221を有し、該Si濃化領域221で前記軟磁性合金110と接していることが好ましい。酸化物層220がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなる。前記Si濃化領域221には、質量基準のSi含有量が、前記Siの次に含有量の多い元素の5倍以上の箇所が存在することがより好ましく、該倍率が10倍以上の箇所が存在することがさらに好ましい。
【0027】
さらに酸化物層220は、
図3にあるように、その中央部付近に現れるSi富化領域222において、Siの含有量が、Si濃化領域221に比べて少なくなる。Si濃化領域221のSiの含有量は、Si富化領域222でのSiの含有量の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。酸化物層220がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなり、膜の厚さも薄くすることができる。
これに加えて、酸化物層220は、
図3にあるように、その全体にわたって質量基準でSiを最も多く含むことが好ましい。酸化物層220がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなり、膜の厚さも薄くすることができる。
【0028】
また、
図2にあるように、コア部材2は、軟磁性合金粒子210同士を結合する酸化物層220の表面側に、すなわち軟磁性合金粒子210と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化層230をさらに備えることが好ましい。コア部材2がFe富化層230を備えることで、内部の空隙が減少し、強度がより向上する。さらに好ましくは、コア部材2は、その外表面にFe富化層230に由来するFeを主成分とした酸化膜が形成されている。この酸化膜により、コア部材2の機械的強度をさらに高めることができる。
【0029】
ここで、コア部材2における軟磁性合金粒子210の組成及び酸化物層220の構造は、以下の手順により確認する。
まず、コア部材2の中央部から、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、厚さ50nm〜100nmの薄片試料を取り出した後、直ちに環状暗視野検出器及びエネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、STEM―EDS法にて酸化物層220近傍の組成マッピング像を取得する。STEM―EDSの測定条件は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、軟磁性合金粒子210内の各点における6.22keV〜6.58keVの範囲の信号強度の積算値が25カウント以上となるように測定時間を設定する。そして、FeKα線の信号強度(I
FeKα)、CrKα線の信号強度(I
CrKα)及びAlKα線の信号強度(I
AlKα)の合計に対するOKα線の信号強度の比(I
OKα/(I
FeKα+I
CrKα+I
AlKα))が0.5以上である領域を酸化物層220とし、該値が0.5未満である領域を軟磁性合金粒子210とする。
軟磁性合金粒子210の組成は、前記信号強度比に基づいて軟磁性合金粒子210とした領域について、STEM―EDS法にて酸化物層220側から径方向に線分析を行って、Fe、Si、Cr及びAlの分布を測定し、該各元素の含有量の変動が±1質量%以内となる最初の3測定点について、各元素の含有量の平均値を算出し、これに基づいて決定する。なお、コア部材2の製造に用いた軟磁性合金粉の組成が既知である場合には、当該既知の組成を軟磁性合金粒子210の組成としてもよい。
酸化物層220の構造は、前記信号強度比に基づいて酸化物層220とした領域のうち、軟磁性合金粒子210同士を結合している任意の部分について、一方の軟磁性合金粒子210から酸化物層220を経て他方の軟磁性合金粒子210へと至る線分に沿ってSTEM―EDS法にて線分析を行い、各元素の分布を測定することで確認する。
【0030】
[巻線型コイル部品の製造方法]
本発明の第2の実施形態に係る磁性体の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含み、かつSiの含有量がCr及びAlの合計よりも多い軟磁性合金粉を準備すること、該軟磁性合金粉を成形して、前記コア部材の形状に対応する成形体を得ること、該成形体を、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜900℃の温度で熱処理して、軟磁性合金の粒子表面に酸化物層を形成し、該酸化物層を介して軟磁性合金の粒子同士を結合してコア部材を得ること、コイル導線の端部又はこれとは別に設けられる金属部のいずれかにより一対の端子電極を形成すること、及び前記コア部材の巻芯部にコイル導線を巻回することを含む。
【0031】
第2実施形態で使用する軟磁性合金粉は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含むと共に、Siの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものとする。
軟磁性合金粉がCr又はAlの少なくとも一方を含むことで、後述する熱処理において、酸化物層の厚みが過剰となることを抑制し、得られるコア部材の強度を高めることができる。
また、軟磁性合金粉がCr及びAlの合計よりもSiを多く含むことで、後述する熱処理によって形成される酸化物層を、Cr及びAlの合計に対するSiの質量割合が高いものとすることができる。これにより、コア部材の強度を高めることができるとともに、酸化膜の厚みが薄くても、軟磁性合金粒子間絶縁を確保できる。これに加えて、後述する熱処理時のCr及びAlの酸化を抑制できるため、酸化物層の厚みの増加を抑えることもできる。
【0032】
使用する軟磁性合金粉の組成としては、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%〜10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5〜5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2〜3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。熱処理により形成される酸化物層を、Cr及びAlの合計に対するSiの含有量の質量割合を高いものとするためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下とすることが好ましい。これに加えて、熱処理時におけるSiの酸素との反応に対して、Cr又はAlの酸素との反応を相対的に抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で2質量%以下とすることがより好ましい。さらに、軟磁性合金粉がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面に拡散し易いことから、その含有量を1質量%以下とすることが特に好ましい。
なお、軟磁性合金粉が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0033】
使用する軟磁性合金粉の粒径も特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D
50))を0.5μm〜30μmとすることができる。平均粒径は、1μm〜10μmとすることが好ましい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
第2実施形態では、準備した軟磁性合金粉を成形する前に、該合金粉を、酸素濃度が5ppm〜500ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理してもよい。該熱処理により、軟磁性合金粉を構成する粒子の表面に凹凸の少ない滑らかな酸化膜が形成され、成形性が向上することで充填率を高くできる。また、電気的絶縁性に優れるコア部材が得られる。
前記熱処理温度の上限は特に限定されないが、Feの酸化、並びにCr及びAlの過度の酸化を抑制する点で、900℃以下とすることが好ましく、850℃以下とすることがより好ましく、800℃以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
前述の酸化膜は、最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))が1〜10であることが好ましい。このことにより、酸化膜の厚みの均一性が高まり、磁性体の寸法に起因する強度変化を抑えることができる。このため、寸法の異なる磁性体を、同じ設計で作ることができる。また、前記比率が1以上であると、微細な凹凸がより少ない、より滑らかな表面を有する膜となる。他方、前記比率が10以下であると、過剰な酸化が抑制され、酸化膜は薄くとも、膜の安定性がより向上する。前記比率は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0036】
ここで、酸化膜の最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))は、以下の方法で測定する。X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製 PHI Quantera II)を用いて、酸化膜が形成された軟磁性合金粒子の表面における鉄(Fe)、ケイ素(Si)、酸素(O)、クロム(Cr)及びアルミニウム(Al)の含有割合(原子%)の測定を行う。測定条件は、X線源として単色化したAlKα線を用い、検出領域を100μmφとする。そして、得られた結果から各元素の質量割合(mass%)を算出し、これに基づいてCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率を算出する。
【0037】
前述した成形前の熱処理は、酸化膜の最表面におけるSiの質量割合を軟磁性合金部分の5倍以上とし、かつ酸化膜の最表面におけるCr又はAlの質量割合を軟磁性合金部分の3倍以上とするように行うことが好ましい。このような質量割合とすることで、より優れた流動性が得られる。
【0038】
また、前述した成形前の熱処理は、該熱処理前の軟磁性合金粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si
処理前]、[Cr
処理前]及び[Al
処理前]とし、該熱処理後の軟磁性合金粉を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si
処理後]、[Cr
処理後]及び[Al
処理後]とした場合に、{([Cr
処理後]+[Al
処理後])/[Cr
処理前]+[Al
処理前])}>([Si
処理後]/[Si
処理前])となるように、すなわち、熱処理による粒子最表面のCrとAlの合量の増加割合が、Siの増加割合よりも大きくなるように、行うことが好ましい。このように熱処理を行うことで、より安定性の高い酸化膜を備えた軟磁性合金粉を得ることができる。
【0039】
ここで、前記[Si
処理後]、[Cr
処理後]及び[Al
処理後]の値は、成形前の熱処理を行った軟磁性合金粉について、上述のX線光電子分光分析装置による酸化膜の最表面の分析で得られた結果とし、前記[Si
処理前]、[Cr
処理前]及び[Al
処理前]の値は、該分析において、測定用試料を、熱処理前の軟磁性合金粉を構成する粒子に変更して得られた値とする。
【0040】
また、前述した成形前の熱処理は、軟磁性合金粉の比表面積S(m
2/g)と平均粒径D
50(μm)との関係が下記式(1)を満たすように行うことが好ましい。
【0042】
この式は、比表面積S(m
2/g)の常用対数と平均粒径D
50(μm)の常用対数とが直線関係になるという経験則に基づいて導出されたものである。粉末の比表面積の値は、これを構成する粒子表面の凹凸に加えて、該粒子の粒径の影響も受けるため、比表面積の値が小さい粉末であれば表面の凹凸の少ない滑らかな粒子で構成されているとはいえない。そこで、第2実施形態では、前記式(1)により、比表面積に対する粒子の表面状態の影響と粒径の影響とを分離し、前者の影響で小さな比表面積を有する軟磁性合金粉を、凹凸の少ない滑らかな表面を有するものとしたのである。SとD
50との関係が前記式(1)を満たすことで、より流動性に優れる粉末となる。
比表面積S(m
2/g)は、粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合を増やし、酸化膜表面の凹凸を少なくすることで、より小さくすることができる。表面凹凸の少ない酸化膜によれば、薄い膜厚で絶縁を維持することができるため好ましい。粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合は、上述したとおり、軟磁性合金粉のSiの組成比率を高めたり、熱処理温度を低くしたりすることで、高めることができる。具体的には比表面積S(m
2/g)と平均粒径D
50(μm)との関係は、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことがさらに好ましい。
【0045】
ここで、比表面積Sは、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製 Macsorb)により、窒素ガス吸着法を用いて測定・算出する。まず、ヒーター内で測定試料を脱気した後、測定試料に窒素ガスを吸着・脱離させることにより吸着窒素量を測定する。次いで、得られた吸着窒素量から、BET1点法を用いて単分子層吸着量を算出し、この値から、1個の窒素分子が占める面積及びアボガドロ数の値を用いて試料の表面積を導出する。最後に、得られた試料の表面積を該試料の質量で除すことで、粉末の比表面積Sを得る。
【0046】
また、平均粒径D
50は、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA−950)により測定・算出する。まず、湿式フローセル中に分散媒としての水を入れ、事前に十分に解砕した粉末を、適切な検出信号が得られる濃度で該セル中に投入して粒度分布を測定する。次いで、得られた粒度分布におけるメジアン径を算出し、この値を平均粒径D
50とする。
【0047】
さらに、前述した成形前の熱処理は、これにより形成される酸化膜の厚みが10nm〜50nmとなるように行うことが好ましい。酸化膜の厚みを10nm以上とすることで、合金部分の微細な凹凸を覆って平滑な表面を形成することができる。また、高い絶縁性を得ることができる。酸化膜の厚みは、20nm以上とすることがより好ましい。このようにすることで、より酸化膜表面のSiの比率を高めることができる。また、コア部材を形成する際に、圧力を掛ける圧縮成形で酸化膜の欠陥が生じた場合であっても、絶縁性を維持することができる。他方、酸化膜の厚みを50nm以下とすることで、膜厚の不均一による粒子表面の平滑性の低下を抑制できる。また、コア部材を形成した際に、高い透磁率が得られる。酸化膜の厚みは、40nm以下とすることがより好ましい。
【0048】
ここで、酸化膜の厚みは、軟磁性合金粉を構成する磁性粒子の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)(日本電子株式会社製 JEM−2100F)にて観察し、粒子内部の合金部分とのコントラスト(明度)の差異により認識される酸化膜について、その厚みを、異なる粒子の10箇所で、倍率500,000倍で測定し、平均値を求めることで算出する。
【0049】
第2実施形態は、準備した軟磁性合金粉を成形し、コア部材の形状に対応する成形体を得ることを含む。成形方法の例としては、軟磁性合金粉に熱可塑性樹脂等のバインダを添加し、撹拌混合して造粒物を得た後、該造粒物を金型に投入してプレス成形する方法が挙げられる。
【0050】
その際、ドラム型のコア部材を得るためには、例えば、プレス成形で得られた成形体を研削ディスク等によりセンターレス研磨することで、巻芯部に対応する凹部を形成すればよい。なお、巻芯部に対応する凹部を備えるドラム型の成形体を得る方法は、この方法に限定されるものではなく、例えば、前述の造粒物を、ドラム型の成型空間を有する金型を用いてプレス成形することにより、ドラム型の成形体とすることもできる。
【0051】
第2実施形態において、軟磁性合金粉の成形時にバインダを添加する場合、使用するバインダは、軟磁性合金粉の粒子同士を接着して成形及び保形を可能にすると共に、脱脂処理によって炭素分等を残存させることなく揮発するものであれば特に限定されない。一例として、分解温度が500℃以下であるアクリル樹脂、ブチラール樹脂、及びビニル樹脂等が挙げられる。また、樹脂と共に、あるいは樹脂に代えて、ステアリン酸又はその塩、リン酸又はその塩、及びホウ酸及びその塩に代表される潤滑剤を使用してもよい。
樹脂ないし潤滑剤の添加量は、成形性及び保形性等を考慮して適宜決定すればよく、例えば、軟磁性合金粉100質量部に対して0.1〜5質量部とすることができる。
【0052】
第2実施形態では、前述の成形体を熱処理するが、成形体を得る際にバインダを混合した場合には、熱処理に先立って脱脂を行うことが好ましい。脱脂温度は、使用した樹脂の分解温度に応じて設定されるが、概ね200℃〜500℃程度とされる。また、脱脂雰囲気は、軟磁性合金の酸化を防ぐため、過熱水蒸気とすることが好ましい。
【0053】
第2実施形態は、前述の成形体を、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中で熱処理することを含む。
熱処理雰囲気中の酸素濃度を前記範囲とすることで、軟磁性合金の粒子表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつSiに富む酸化物層を適度な厚みで形成することができる。前記酸素濃度は、100ppm以上とすることが好ましく、200ppm以上とすることがより好ましい。
熱処理雰囲気中の酸素濃度が低すぎると、短時間の熱処理では酸化物層の形成が不十分となることで絶縁性が低下し、長時間の熱処理では、酸化物層へのFe又はCr若しくはAlの拡散によって酸化物層が厚くなりすぎ、コア部材の強度及び透磁率が低下する。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度が高すぎると、酸化物層中のFe又はCr若しくはAlの含有量が多くなりすぎ、酸化物層の層数及び厚みが増加することでコア部材の強度が低下するとともに、酸化物層の絶縁性も低下する。
【0054】
また、第2実施形態では、前記熱処理を500℃〜900℃の温度で行う。
熱処理温度を前記範囲とすることで、軟磁性合金粒子の表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつSiに富む酸化物層を適度な厚みで形成することができる。前記熱処理の温度は、550℃以上とすることが好ましく、600℃以上とすることがより好ましい。また、前記熱処理の温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0055】
第2実施形態における熱処理の時間は、軟磁性合金の粒子表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ軟磁性合金の粒子表面にSiに富む酸化物層が形成され、該酸化物層を介して軟磁性合金の粒子同士が結合できれば特に限定されないが、酸化物層を十分な厚さとする点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0056】
第2実施形態における熱処理は、バッチ処理であってもフロー処理であってもよい。フロー処理の例としては、前述した成形体を載せた複数の耐熱トレーをトンネル炉中に断続的ないし連続的に投入し、所定の雰囲気及び温度に保持した領域を所定の時間で通過させる方法が挙げられる。
【0057】
第2実施形態は、前述の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜600℃で、かつ該熱処理温度より低い温度で行う第2の熱処理をさらに含んでもよい。第2の熱処理を行うことにより、酸化物層の軟磁性合金粒子と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化層を厚く形成することができる。これにより、磁性層中の空隙が減少し、コア部材の強度が一層向上する。
第2の熱処理を行う場合、前述の熱処理と同一の装置を用い、該熱処理と連続して行うことが、製造の効率性の点から好ましい。
【0058】
第2実施形態は、コイル導線の端部又はこれとは別に設けられる金属部のいずれかにより一対の端子電極を形成することを含む。
コア部材の表面に金属部を設けて端子電極とする方法としては、電極ペーストを塗布して焼き付ける方法、電極フレームを接着剤で接着する方法、又はスパッタリング法若しくは蒸着法等により導体薄膜を形成する方法等、種々の手法を適用することができる。
電極ペーストを塗布して焼き付ける場合、まず、導体粉末、ガラスフリット及び有機ビヒクルを含む電極ペーストを、コア部材の外表面に塗布する。ここで、電極ペーストの塗布方法としては、例えばローラー転写法やパッド転写法等の転写法、スクリーン印刷法や孔版印刷法等の印刷法、又はスプレー法やインクジェット法等を適用することができる。次いで、電極ペーストが塗布されたコア部材を熱処理することにより、端子電極を形成する。ここで、熱処理条件としては、大気雰囲気中又は酸素濃度5ppm以下のN
2ガス雰囲気中で、750℃〜900℃の温度条件で行うことが例示される。
なお、端子電極の形成方法は前述の方法に限定されず、コイル導線の端部の被覆を除去して端子電極としてもよい。
【0059】
端子電極を金属部で形成した場合には、該金属部にコイル導線の端部を電気的に接続する。
接続方法としては、以下の方法が例示される。まず、コア部材に巻回されたコイル導線の端部の絶縁被覆を剥離・除去する。具体的には、コイル導線の端部に、被覆剥離溶剤を塗布することにより、あるいは、所定のエネルギーのレーザー光を照射することにより、コイル導線の端部近傍の絶縁被覆を形成する樹脂材料を溶解又は蒸発させて、完全に剥離・除去する方法等が採用できる。次いで、絶縁被覆が剥離・除去されたコイル導線の端部を、各端子電極に半田接合して、導電接続する。具体的には、コイル導線の端部を各端子電極上に配置し、該各コイル導線及び該各端子電極上に、フラックスを含有する半田ペーストを、孔版印刷法等により塗布した後、200℃〜250℃に加熱されたホットプレートにより加熱押圧して半田を溶融・固着させることで、コイル導線の端部を各端子電極に接合する。最後に、接合部のフラックス残渣を除去する洗浄処理を行う。
【0060】
第2実施形態は、コア部材の巻芯部にコイル導線を巻回することを含む。
コイル導線の巻回方法としては、ドラム型のコアについての以下の方法が例示される。まず、コア部材の上鍔部(巻線型コイル部品を実装した際、上側に位置する鍔部)を、コア部材の巻芯部が露出するように巻線装置のチャックに固定する。次いで、下鍔部に形成された一方の端子電極に被覆導線を仮固定し、この状態で該被覆導線を切断してコイル導線の一端側とする。次いで、前記チャックを回転させて、巻芯部に被覆導線を所定回数だけ巻回する。最後に、下鍔部に形成された他方の端子電極に被覆導線を仮固定し、この状態で該被覆導線を切断してコイル導線の他端側とすることにより、巻芯部にコイル導線が巻回されたコア部材を得る。
【0061】
第2実施形態では、前記巻芯部の周囲に巻回されたコイル導線の外周を外装部材で被覆してもよい。
被覆方法としては、ドラム型のコアについての以下の方法が例示される。まず、コア部材を構成する軟磁性合金粒子と同一の組成を有する磁性粉を含有する磁性粉含有樹脂のペーストを、ディスペンサーによりコア部材の鍔部間の領域に吐出して、コイル導線の外周を被覆するように充填する。次いで、150℃程度の温度で1時間程度の加熱を行い、磁性粉含有樹脂のペーストを硬化させることにより、コイル導線の外周を被覆する外装部材を形成する。
【0062】
[回路基板]
本発明の第3の実施形態に係る回路基板(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある。)は、第1実施形態に係る巻線型コイル部品を載せた回路基板である。
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
第3実施形態は、機械的強度に優れる第1実施形態に係る巻線型コイル部品を使用することで、耐久性及び信頼性の高いものとなる。
【実施例】
【0063】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0064】
[実施例]
本実施例及び後述する比較例では、低酸素雰囲気での熱処理により、所期の構造及び元素分布を有する磁性体が得られ、かつ該磁性体の強度が高くなることを、試験片を用いて確認した。
【0065】
(試験片の作製)
まず、Fe−3.5Si−1.5Cr(数値は質量百分率を示す)の組成を有する、平均粒径4.0μmの軟磁性合金粉を準備した。次いで、この軟磁性合金粉を、1.2質量%のアクリル系バインダとともに撹拌混合し、成形用材料を調製した。次いで、この成形用材料を、直方体状の成形空間を有する金型に投入し、8t/cm
2の圧力で一軸加圧成形して、長さ40.0mm、幅4.0mm、厚さ3.0mmの直方体状の成形体を得た。次いで、得られた成形体を150℃の恒温槽中に1時間入れてバインダを硬化させた後、過熱水蒸気炉により300℃に加熱して、熱分解によりバインダを除去した。最後に、石英炉にて、酸素濃度800ppmの雰囲気中、800℃で1時間の熱処理を行い、実施例に係る試験片を得た。
【0066】
(酸化物層の構造確認)
得られた試験片について、軟磁性合金粒子同士を結合する酸化物層の構造を上述した方法で確認した。STEMにより観察された酸化物層の構造の模式図を
図2に、
図2中の線分A−A’に沿った線分析結果を
図3に、それぞれ示す。
図3によれば、酸化物層220は、Siに加えてFe及びCrを含有することが判る。また、酸化物層22のほぼ全幅に亘って、Crの含有量よりもSiの含有量が多くなっていることから、該酸化物層22は、質量基準のSi含有量がCr及びAlの合計よりも多いことが判る。さらに、酸化物層22中には、軟磁性合金粒子21との境界部分にSi含有量が特に多いSi濃化領域221が確認された。該領域中には、Si含有量が、2番目に多く含まれるFeの約5倍である箇所が見られた。
また、
図2では、酸化物層220の軟磁性合金粒子210と接していない側に、Fe含有量が特に多いFe富化層230の存在も確認された。
【0067】
(試験片の強度評価)
得られた試験片の強度を、JIS R 1601:2008(ファインセラミックスの室温曲げ強さ試験方法)に準拠した3点曲げ試験における、試験片が破壊したときの最大荷重により評価した。得られた最大荷重は、15Nであった。
【0068】
[比較例]
成形体の熱処理条件を、大気中、750℃で1時間とした点以外は実施例と同様にして、比較例に係る試験片を得た。
【0069】
得られた試験片における酸化物層の構造を、実施例と同様の方法で確認したところ、酸化物層は、Siに加えてFe及びCrを含み、軟磁性合金粒子との境界部分ではSiを最も多く含んでいるものの、その内側の領域の殆どでCrが最も多くなっており、全体としてCrの含有量が最も多かった。また、酸化物層は、
図4に示す5層構造を有し、その厚みは100nm程度であった。
【0070】
得られた試験片の強度を、実施例と同様の方法で評価したところ、最大荷重は12Nであった。
【0071】
実施例と比較例との対比から、軟磁性合金粒子同士を結合する酸化物層が、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含み、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い磁性体は、高い機械的強度を示すといえる。これは、前記酸化物層が少数の層で構成され、しかも全体の厚みが小さいことにより、酸化物層の機械的強度が向上したことによると解される。機械的強度の高い磁性体で形成されたコア部材を含む巻線型コイル部品は、ハンドリング時に割れや欠け等の破損が発生しにくいものといえる。特に、ドラム型のコア部材を備える巻線型コイル部品では、巻芯部から突出する鍔部の破損の顕著な抑制効果が期待される。