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特開2020-161761積層コイル部品及びその製造方法、並びに積層コイル部品を載せた回路基板
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-161761(P2020-161761A)
(43)【公開日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】積層コイル部品及びその製造方法、並びに積層コイル部品を載せた回路基板
(51)【国際特許分類】
   H01F 17/04 20060101AFI20200904BHJP
   H01F 17/00 20060101ALI20200904BHJP
   H01F 1/24 20060101ALI20200904BHJP
【FI】
   H01F17/04 F
   H01F17/00 D
   H01F1/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2019-62472(P2019-62472)
(22)【出願日】2019年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100206829
【弁理士】
【氏名又は名称】相田 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100127513
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100140198
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 保子
(74)【代理人】
【識別番号】100158665
【弁理士】
【氏名又は名称】奥井 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100199691
【弁理士】
【氏名又は名称】吉水 純子
(72)【発明者】
【氏名】倉橋 秀平
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 準
【テーマコード(参考)】
5E041
5E070
【Fターム(参考)】
5E041AA02
5E041AA11
5E041AA19
5E041CA01
5E041NN01
5E070AA01
5E070AB01
5E070BA12
5E070BB01
5E070CB02
5E070CB13
(57)【要約】
【課題】磁気特性に優れ、厚みの薄い積層コイル部品を提供する。
【解決手段】積層コイル部品の磁性層を、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子21と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層22とで構成されるものとする。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一軸方向に積層された複数の磁性層と、
該磁性層内に形成された内部導体と、
該内部導体に電気的に接続された一対の外部電極と
を備える積層コイル部品であって、
前記磁性層が、
構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、
該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層と
で構成されることを特徴とする、積層コイル部品。
【請求項2】
前記酸化物層の前記軟磁性合金粒子と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化領域をさらに備える、請求項1に記載の積層コイル部品。
【請求項3】
前記軟磁性合金粒子の組成が、Siを1〜10質量%、Cr又はAlを合計で0.2〜2質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である、請求項1又は2に記載の積層コイル部品。
【請求項4】
前記軟磁性合金粒子におけるAlの含有量が0.2〜1質量%である、請求項3に記載の積層コイル部品。
【請求項5】
軟磁性合金粉末を含むグリーンシートを調製すること、
該グリーンシートに導体パターンを形成すること、
該導体パターンが形成されたグリーンシートを積層、圧着、及び熱処理して、
前記導体パターンが形成する内部導体と、
前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末の粒子が形成する、軟磁性合金粒子同士が酸化物層を介して結合した磁性層と
を備える積層体を得ること、及び
前記内部導体と導通する外部電極を前記積層体の表面に形成すること、
を含む積層コイル部品の製造方法であって、
前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末が、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含むとともに、Siの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものであり、かつ
前記熱処理が、前記グリーンシート及び前記導体パターン中のバインダを除去する第1の熱処理と、該第1の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜900℃の温度で行う第2の熱処理とを含む
ことを特徴とする、積層コイル部品の製造方法。
【請求項6】
前記熱処理が、前記第2の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜600℃で、かつ第2の熱処理温度より低い温度で行う第3の熱処理をさらに含む、請求項5に記載の積層コイル部品の製造方法。
【請求項7】
前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末の組成が、Siを1〜10質量%、Cr又はAlを合計で0.2〜2質量%含有し、残部がFe及び不可避不純物である、請求項5又は6に記載の積層コイル部品の製造方法。
【請求項8】
前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末におけるAlの含有量が0.2〜1質量%である、請求項7に記載の積層コイル部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層コイル部品を載せた回路基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層コイル部品及びその製造方法、並びに積層コイル部品を載せた回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用電子機器の多機能化や、自動車における制御の電子化等に伴い、これらに搭載されるチップタイプと呼ばれる小型のコイル部品ないしインダクタンス部品において、大電流化が求められている。中でも、厚みを薄くできる積層型のコイル部品(積層コイル部品)に対しては、大電流化の要請が強い。
【0003】
こうした大電流化の要請に応えるため、積層コイル部品の磁性体部を、従来のフェライト系材料に比べて電流に対して磁気飽和しにくい(飽和磁束密度が高い)鉄系の金属磁性材料で構成することが検討されている。
【0004】
積層コイル部品の磁性体部は、多数の磁性材料粒子同士が互いに接することで形成されており、かつ該粒子の一部が内部導体と接するように構成されている。このため、磁性体部を構成する磁性材料を、フェライト系から金属系に置換する場合、金属系磁性材料の絶縁抵抗がフェライト系材料よりも低いことに起因する渦電流損失を低減するために、個々の磁性体粒子の周囲に酸化被膜を形成して絶縁性を確保することが多い(特許文献1、2)。
【0005】
このような酸化被膜(酸化物膜)を形成する方法としては、磁性層及び導体パターンの積層体を脱脂後に、大気等の酸化性雰囲気中、約700℃で約2時間の加熱処理を行うことが知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013−55315号公報
【特許文献2】特開2017−92431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、Fe系の合金材料で、Feの比率の高い磁性材料を用いた積層体を大気中で熱処理した場合、大気と接する表面近傍では、大気中の酸素により金属磁性材料の酸化が促進されて、酸化物膜が厚く形成されるのに対し、大気と接することのない内部では、酸素の不足により酸化物膜が厚く形成されず、積層体内で酸化物膜の厚さが異なることとなってしまう場合がある。このため、積層体の内部において所期の絶縁性が得られる厚さで酸化物膜を形成すると、表面近傍の酸化物膜が厚くなりすぎ、磁気特性が低下してしまうことが問題であった。他方、積層体の表面において所期の絶縁性が得られる最小厚さで酸化物膜を形成すると、内部の酸化膜厚さが不十分となり、特に磁性層で隔てられた内部導体間の絶縁が不十分となる。このため、内部導体の間隔を広くする必要があり、部品の厚みが増加する結果、厚みを薄くできるという積層コイル部品の利点が減殺されることが問題であった。
【0008】
そこで本発明は、前述の問題点を解決し、磁気特性に優れ、厚みの薄い積層コイル部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前述の問題点を解決するために種々の検討を行ったところ、積層コイル部品を構成する磁性金属粒子の組成を特定のものにするとともに、該磁性金属粒子の表面に形成される酸化物層を、特定の組成を有するものとすることで、前記酸化物層が絶縁性に優れたものとなり、かつ積層コイル部品の表面と内部とでその厚みの差が小さくなり、該問題点を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、前記課題を解決するための本発明の第1の実施形態は、一軸方向に積層された複数の磁性層と、該磁性層内に形成された内部導体と、該内部導体に電気的に接続された一対の外部電極とを備える積層コイル部品であって、前記磁性層が、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層とで構成されることを特徴とする、積層コイル部品である。
【0011】
また、本発明の第2の実施形態は、軟磁性合金粉末を含むグリーンシートを調製すること、該グリーンシートに導体パターンを形成すること、該導体パターンが形成されたグリーンシートを積層、圧着、及び熱処理して、前記導体パターンが形成する内部導体と、前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末の粒子が形成する、軟磁性合金粒子同士が酸化物層を介して結合した磁性層とを備える積層体を得ること、及び前記内部導体と導通する外部電極を前記積層体の表面に形成すること、を含む積層コイル部品の製造方法であって、前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末が、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含むとともに、Siの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものであり、かつ前記熱処理が、前記グリーンシート及び導体パターン中のバインダを除去する第1の熱処理と、該第1の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜900℃の温度で行う第2の熱処理とを含むことを特徴とする、積層コイル部品の製造方法である。
【0012】
さらに、本発明の第3の実施形態は、前述の積層コイル部品を載せた回路基板である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、磁気特性に優れ、厚みの薄い積層コイル部品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態に係る積層コイル部品の全体構造を示す模式図((a):全体斜視図、(b):(a)におけるB−B断面図)
図2】本発明の第1実施形態に係る積層コイル部品の内部導体構造を示す模式図
図3】本発明の第1実施形態に係る積層コイル部品の磁性層の微細構造を示す模式図(実施例に係る試験片についての走査型透過電子顕微鏡(STEM)による酸化物層の構造確認結果)
図4図3中のA−A’に沿った線分析結果
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の構成及び作用効果について、技術的思想を交えて説明する。但し、作用機構については推定を含んでおり、その正否は、本発明を制限するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。なお、数値範囲の記載(2つの数値を「〜」でつないだ記載)については、下限及び上限として記載された数値をも含む意味である。
【0016】
[積層コイル部品]
本発明の第1の実施形態に係る積層コイル部品(以下、単に「第1実施形態」と記載することがある。)は、一軸方向に積層された複数の磁性層と、該磁性層内に形成された内部導体と、該内部導体に電気的に接続された一対の外部電極とを備え、前記磁性層が、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層とで構成される。
【0017】
まず、第1実施形態の全体構造を、図1及び図2を参照しながら説明する。
第1実施形態に係る積層コイル部品100は、図1に示すように、一軸方向に積層された複数の磁性層2、2、・・・と、該磁性層間及び該磁性層中を通って、前記一軸周りに巻回されるコイルを形成する内部導体3と、該内部導体に電気的に接続される一対の外部電極4、4とを備える。
内部導体3は、図2に示すように、各磁性層2、2、・・・上に形成され、前記一軸方向(積層方向)に隣接する2つの磁性層2、2に挟み込まれる導体パターン31、31、・・・と、磁性層2、2、・・・中を前記一軸方向に貫通して前記導体パターン31、31、・・・同士を電気的に接続する接続導体32、32、・・・とで構成される。前記導体パターン31、31、・・・は、各磁性層2、2、・・・毎にほぼ環状ないし半環状に形成される。
なお、第1実施形態に係る積層コイル部品100の形状は、これを構成する磁性層2の厚み及び積層数、内部導体3の形状等を含め、前述したものに限定されず、要求される特性に応じて適宜設定すればよい。例えば、前記導体パターン31を1層のみ有し、その内部導体3の形状が、平面コイル状であってもよい。また、本明細書のコイル部品は、ミアンダー状、直線状などの内部導体を有するものも含み、第1実施形態においてもそのような形状とすることができる。
【0018】
第1実施形態で使用する内部導体3及び外部電極4の材質は、導電性が高く、積層コイル部品100の使用環境下で物理的及び化学的に安定なものであれば特に限定されず、例えば、銀若しくは銅、又はこれらの合金等が使用できる。
【0019】
第1実施形態では、後述するように、磁性層2、2、・・・が、絶縁性が高くて厚みの薄い酸化物層22により軟磁性合金粒子21同士が結合されて構成され、しかも表面に位置する磁性層2と中央部に位置する磁性層2との間で酸化物層22の厚みの差が小さいことから、磁性層2の厚みを薄くして内部導体3間の距離を狭めても、良好な電気的絶縁性及び磁気特性が得られる。具体的には、内部導体3間の距離を、10μm以下とすることができ、好ましい態様では3μm以下とすることができ、さらに好ましい様態では1μm以下とすることができる。
【0020】
次に、第1実施形態における磁性層2、2、・・・の微細構造について、図3を参照しながら説明する。
磁性層2、2、・・・は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子21を含む。
軟磁性合金粒子21がSiを含有することで、電気抵抗が高くなり、渦電流による磁気特性の低下を抑制することができる。Siは、軟磁性合金粒子21の表面側に、その内部よりも多く存在することが好ましい。具体的には軟磁性合金粒子21の金属部分の表面から内側に向かった距離が0から50nmまでの範囲におけるSi量の最大値が、軟磁性合金粒子21の金属部分の表面から内側に向かった距離が100nmから150nmまでの範囲におけるSi量の最大値よりも、大きいことを意味する。また、軟磁性合金粒子21がCr又はAlの少なくとも一方を含有することで、耐酸化性に優れたものとなる。軟磁性合金粒子21中のCr及びAlは、該粒子の表面側に、その内部よりも多く存在することが好ましい。
【0021】
軟磁性合金粒子21の組成は、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%〜10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5〜5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2〜3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。合金部分でのCr又はAlの偏析を抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましい。さらに、合金部分がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面で酸化し易いことから、その含有量が1質量%以下であることが特に好ましい。
なお、合金部分が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0022】
磁性層2、2、・・・では、軟磁性合金粒子21同士が、該粒子21の周囲に形成された酸化物層22で結合されている。そして、該酸化物層22は、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い。
酸化物層22が、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有することで、該層内の酸素の移動速度を低減し、積層コイル部品100の表面近傍で、軟磁性合金粒子21に酸素が到達してFeが酸化することによる、酸化物層22の厚みの増加を抑制できる。
また、酸化物層22における質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多いことで、電気的絶縁性に優れたものとなる。これに加えて、酸化物層22中のCr及びAlの含有量がSiよりも少ないことは、積層コイル部品100製造時の酸素存在下での熱処理において、Siに比べて酸化物層22に拡散し易いCr及びAlの拡散が抑えられ、軟磁性合金粒子21から酸化物層22への拡散流束が小さくなることで、厚みの小さい酸化物層22が得られたことを意味する点からも好ましい。
このように、第1実施形態は、磁性層2中の軟磁性合金粒子21同士が、酸素の移動速度が小さく、絶縁性に優れた酸化物層22で隔てられていることにより、積層コイル部品100の表面と内部とで酸化物層22の厚みの差が小さく、絶縁性に優れる磁性層2を備えるものとなるため、磁性層2の厚みを抑えて厚みの薄い積層コイル部品100とすることができる。
【0023】
酸化物層22は、質量基準でSiを最も多く含むとともに、該Siの含有量が、Fe,Cr及びAlのうち、質量基準でSiの次に含有量の多い元素の3倍以上であるSi濃化領域221を有し、該Si濃化領域221で軟磁性合金粒子21と接していることが好ましい。酸化物層22がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなる。前記Si濃化領域221には、質量基準のSi含有量が、前記Siの次に含有量の多い元素の5倍以上の箇所が存在することがより好ましく、該倍率が10倍以上の箇所が存在することがさらに好ましい。
【0024】
さらに酸化物層22は、図4にあるように、その中央部付近に現れるSi富化領域222において、Siの含有量が、Si濃化領域221に比べて少なくなる。Si濃化領域221のSiの含有量は、Si富化領域222でのSiの含有量の1.5倍以上であることが好ましく、2倍以上であることがより好ましく、3倍以上であることがさらに好ましい。酸化物層22がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなり、膜の厚さも薄くすることができる。
これに加えて、酸化物層22は、図4にあるように、その全体にわたって質量基準でSiを最も多く含むことが好ましい。酸化物層22がこのような構造を有することで、より電気的絶縁性に優れたものとなり、膜の厚さも薄くすることができる。
【0025】
ここで、磁性層2における軟磁性合金粒子21の組成及び酸化物層22の構造は、以下の手順により確認する。
まず、積層コイル部品100の中央部から、集束イオンビーム装置(FIB)を用いて、厚さ50nm〜100nmの薄片試料を積層方向に沿って取り出した後、直ちに環状暗視野検出器及びエネルギー分散型X線分光(EDS)検出器を搭載した走査型透過電子顕微鏡(STEM)を用いて、STEM―EDS法にて酸化物層22近傍の組成マッピング像を取得する。STEM―EDSの測定条件は、加速電圧を200kV、電子ビーム径を1.0nmとし、軟磁性合金粒子21内の各点における6.22keV〜6.58keVの範囲の信号強度の積算値が25カウント以上となるように測定時間を設定する。そして、FeKα線の信号強度(IFeKα)、CrKα線の信号強度(ICrKα)及びAlKα線の信号強度(IAlKα)の合計に対するOKα線の信号強度の比(IOKα/(IFeKα+ICrKα+IAlKα))が0.5以上である領域を酸化物層22とし、該値が0.5未満である領域を軟磁性合金粒子21とする。
軟磁性合金粒子21の組成は、前記信号強度比に基づいて軟磁性合金粒子21とした領域について、STEM―EDS法にて酸化物層22側から径方向に線分析を行って、Fe、Si、Cr及びAlの分布を測定し、該各元素の含有量の変動が±1質量%以内となる最初の3測定点について、各元素の含有量の平均値を算出し、これに基づいて決定する。なお、積層コイル部品100の製造に用いた軟磁性合金粉末の組成が既知である場合には、当該既知の組成を軟磁性合金粒子21の組成としてもよい。
酸化物層22の構造は、前記信号強度比に基づいて酸化物層22とした領域のうち、軟磁性合金粒子21同士を結合している任意の部分について、一方の軟磁性合金粒子21から酸化物層22を経て他方の軟磁性合金粒子21へと至る線分に沿ってSTEM―EDS法にて線分析を行い、各元素の分布を測定することで確認する。
【0026】
第1実施形態では、積層方向の最表面に位置する磁性層2中の酸化物層22の厚み(tsurface)に対する、積層方向の中央部に位置する磁性層2中の酸化物層22の厚み(tcenter)の比(tcenter/tsurface)を0.80以上とすることが好ましい。酸化物層22の厚みの比をこの範囲とすることで、最表面の酸化物層22を過度に厚くすることなく内部導体間を電気的に絶縁することができる。これにより、磁性体層全体の酸化物層22の厚みを薄くかつ均一にすることができ、透磁率を高くすることができる。前記比(tcenter/tsurface)の値は、0.85以上とすることがより好ましく、0.90以上とすることがさらに好ましい。
【0027】
ここで、積層方向の最表面及び中央部にそれぞれ位置する磁性層2中の酸化物層22の厚みは、以下のように決定する。
積層コイル部品100の積層方向最表面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテクノロジーズ社製 S−4300)にて観察し、コントラストの差異により認識される軟磁性合金粒子21同士の結合部を形成する酸化物層22について、その厚み(粒子間距離)を、20,000倍〜50,000倍の倍率にて、20箇所で計測して平均値を算出し、該平均値の1/2を積層方向最表面に位置する磁性層2中の酸化物層22の厚み(tsurface)とする。また、積層コイル部品100を積層方向に平行な面で切断し、該切断面の積層方向中央部に位置する磁性層2をSEMにて観察し、同様の方法で中央部に位置する磁性層中の酸化物層22の厚み(tcenter)を決定する。
【0028】
また、第1実施形態では、前記酸化物層22の前記軟磁性合金粒子21と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化層23をさらに備えることが好ましい。酸化物層22の外側にFe富化層23を備えることで、磁性層2中の空隙が減少し、積層コイル部品100の強度が向上する。
【0029】
[積層コイル部品の製造方法]
本発明の第2実施形態に係る積層コイル部品の製造方法(以下、単に「第2実施形態」と記載することがある。)は、軟磁性合金粉末を含むグリーンシートを調製すること、該グリーンシートに導体パターンを形成すること、該導体パターンが形成されたグリーンシートを積層、圧着、及び熱処理して、前記導体パターンが形成する内部導体と、前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末の粒子が形成する、軟磁性合金粒子同士が酸化物層を介して結合した磁性層とを備える積層体を得ること、及び前記内部導体と導通する外部電極を前記積層体の表面に形成することを含む。そして、前記グリーンシート中の軟磁性合金粉末は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含むとともに、Siの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものである。また、前記熱処理は、前記グリーンシート及び導体パターン中のバインダを除去する第1の熱処理と、該第1の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜900℃の温度で行う第2の熱処理とを含む。
【0030】
第2実施形態におけるグリーンシートは、典型的には、軟磁性合金粉末とバインダとを含むスラリーを、ドクターブレードやダイコーター等の塗工機により、プラスチックフィルム等のベースフィルムの表面に塗布・乾燥することで製造される。
使用するバインダとしては、軟磁性合金粉末をシート状に成形し、その形状を保持できるとともに、加熱により炭素分等を残存させることなく除去できるものであれば特に限定されない。一例として、ポリビニルブチラールをはじめとするポリビニルアセタール樹脂等が挙げられる。
前記スラリーを調製するための溶媒も特に限定されず、ブチルカルビトールをはじめとするグリコールエーテル等を用いることができる。
前記スラリー中の各成分の含有量は、採用するグリーンシートの成形方法や調製するグリーンシートの厚み等に応じて適宜調節すればよい。
【0031】
前記グリーンシート中に含まれる軟磁性合金粉末は、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含むとともに、Siの含有量がCr及びAlの合計よりも多いものとする。
軟磁性合金粉末がCr又はAlの少なくとも一方を含むことで、後述する熱処理において、酸化物層の厚みが過剰となることを抑制できる。これにより酸化物層の厚みを安定化することが可能になる。
また、軟磁性合金粉末がCr及びAlの合計よりもSiを多く含むことで、後述する熱処理時のCr及びAlの酸化を抑制できるため、酸化物層の厚みの増加を抑えることができる。これに加えて、該熱処理によって形成される酸化物層を、Cr及びAlの合計に対するSiの質量割合が高いものとすることができ、酸化膜の厚みが薄くても絶縁を確保できる。
【0032】
使用する軟磁性合金粉末の組成としては、前述した要件を満たすものであれば特に限定されず、例えば、Siは1質量%〜10質量%含有され、Crを含有する場合Crは0.5〜5質量%含有され、Alを含有する場合Alは0.2〜3質量%含有され、残部はFe及び不可避不純物であるものが挙げられる。熱処理により形成される酸化物層を、Cr及びAlの合計に対するSiの含有量の質量割合を高いものとするためには、Cr又はAlの量は合計で4質量%以下とすることが好ましい。これに加えて、熱処理時におけるSiの酸素との反応に対して、Cr又はAlの酸素との反応を相対的に抑制して特に優れた磁気特性を得るためには、Cr又はAlの量は合計で2質量%以下とすることがより好ましい。さらに、軟磁性合金粉末がAlを含む場合には、AlがCrに比べて粒子表面に拡散し易いことから、その含有量を1質量%以下とすることが特に好ましい。
なお、軟磁性合金粉末が前記した以外の元素を含むものであってもよいことは言うまでもない。
【0033】
使用する軟磁性合金粉末の粒径も特に限定されず、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))を0.5μm〜30μmとすることができる。平均粒径は、1μm〜10μmとすることが好ましい。この平均粒径は、例えば、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置を用いて測定することができる。
【0034】
第2実施形態では、軟磁性合金粉末からグリーンシート成形用のスラリーを調製する前に、該粉末を、酸素濃度が5ppm〜500ppmの雰囲気中にて、600℃以上の温度で熱処理してもよい。該熱処理により、軟磁性合金粉末を構成する粒子の表面に凹凸の少ない滑らかな酸化膜が形成され、成形性が向上することで充填率を高くできる。また、電気的絶縁性に優れる磁性層が得られる。
前記熱処理温度の上限は特に限定されないが、Feの酸化、並びにCr及びAlの過度の酸化を抑制する点で、900℃以下とすることが好ましく、850℃以下とすることがより好ましく、800℃以下とすることがさらに好ましい。
【0035】
前述の酸化膜は、最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))が1〜10であることが好ましい。前記比率が1以上であると、微細な凹凸がより少ない、より滑らかな表面を有する膜となる。他方、前記比率が10以下であると、過剰な酸化が抑制され、酸化膜は薄くとも、膜の安定性がより向上する。前記比率は、8以下であることが好ましく、6以下であることがより好ましい。
【0036】
ここで、酸化膜の最表面におけるCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率(Si/(Cr+Al))は、以下の方法で測定する。X線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ株式会社製 PHI Quantera II)を用いて、酸化膜が形成された軟磁性合金粒子の表面における鉄(Fe)、ケイ素(Si)、酸素(O)、クロム(Cr)及びアルミニウム(Al)の含有割合(原子%)の測定を行う。測定条件は、X線源として単色化したAlKα線を用い、検出領域を100μmφとする。そして、得られた結果から各元素の質量割合(mass%)を算出し、これに基づいてCr及びAlの合計質量に対するSiの質量の比率を算出する。
【0037】
前述したスラリー調製前の熱処理は、酸化膜の最表面におけるSiの質量割合を、粒子内部に位置する軟磁性合金部分の5倍以上とし、かつ前記酸化膜の最表面におけるCr又はAlの質量割合を、前記軟磁性合金部分の3倍以上とするように行うことが好ましい。このような質量割合とすることで、より優れた流動性が得られる。
【0038】
また、前述したスラリー調製前の熱処理は、該熱処理前の軟磁性合金粉末を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si処理前]、[Cr処理前]及び[Al処理前]とし、該熱処理後の軟磁性合金粉末を構成する各粒子の最表面における、質量%で表示したSi、Cr及びAl濃度をそれぞれ[Si処理後]、[Cr処理後]及び[Al処理後]とした場合に、{([Cr処理後]+[Al処理後])/[Cr処理前]+[Al処理前])}>([Si処理後]/[Si処理前])となるように、すなわち、熱処理による粒子最表面のCrとAlの合量の増加割合が、Siの増加割合よりも大きくなるように、行うことが好ましい。このように熱処理を行うことで、より安定性の高い酸化膜を備えた軟磁性合金粉末を得ることができる。
【0039】
ここで、前記[Si処理後]、[Cr処理後]及び[Al処理後]の値は、スラリー調製前の熱処理を行った軟磁性合金粉末について、上述のX線光電子分光分析装置による酸化膜の最表面の分析で得られた結果とし、前記[Si処理前]、[Cr処理前]及び[Al処理前]の値は、該分析において、測定用試料を、熱処理前の軟磁性合金粉末を構成する磁性粒子に変更して得られた値とする。
【0040】
また、前述したスラリー調製前の熱処理は、軟磁性合金粉末の比表面積S(m/g)と平均粒径D50(μm)との関係が、下記式(1)を満たすように行うことが好ましい。
【0041】
【数1】
【0042】
この式は、比表面積S(m/g)の常用対数と平均粒径D50(μm)の常用対数とが直線関係になるという経験則に基づいて導出されたものである。粉末の比表面積の値は、これを構成する粒子表面の凹凸に加えて、該粒子の粒径の影響も受けるため、比表面積の値が小さい粉末であれば表面の凹凸の少ない滑らかな粒子で構成されているとはいえない。そこで、第2実施形態では、前記式(1)により、比表面積に対する粒子の表面状態の影響と粒径の影響とを分離し、前者の影響で小さな比表面積を有する軟磁性合金粉を、凹凸の少ない滑らかな表面を有するものとしたのである。SとD50との関係が前記式(1)を満たすことで、より流動性に優れる粉末となる。
比表面積S(m/g)は、粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合を増やし、酸化膜表面の凹凸を少なくすることで、より小さくすることができる。表面凹凸の少ない酸化膜によれば、薄い膜厚で絶縁を維持することができるため好ましい。粒子表面の酸化膜に存在するSiの割合は、軟磁性合金粉末のSiの組成比率を高めたり、熱処理温度を低くしたりすることで、高めることができる。具体的には比表面積S(m/g)と平均粒径D50(μm)との関係は、下記式(2)を満たすことがより好ましく、下記式(3)を満たすことがさらに好ましい。
【0043】
【数2】
【0044】
【数3】
【0045】
ここで、比表面積Sは、全自動比表面積測定装置(株式会社マウンテック製 Macsorb)により、窒素ガス吸着法を用いて測定・算出する。まず、ヒーター内で測定試料を脱気した後、測定試料に窒素ガスを吸着・脱離させることにより吸着窒素量を測定する。次いで、得られた吸着窒素量から、BET1点法を用いて単分子層吸着量を算出し、この値から、1個の窒素分子が占める面積及びアボガドロ数の値を用いて試料の表面積を導出する。最後に、得られた試料の表面積を該試料の質量で除すことで、粉末の比表面積Sを得る。
【0046】
また、平均粒径D50は、レーザー回折/散乱法を利用した粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA−950)により測定・算出する。まず、湿式フローセル中に分散媒としての水を入れ、事前に十分に解砕した粉末を、適切な検出信号が得られる濃度で該セル中に投入して粒度分布を測定する。次いで、得られた粒度分布におけるメジアン径を算出し、この値を平均粒径D50とする。
【0047】
さらに、前述したスラリー調製前の熱処理は、これにより形成される酸化膜の厚みが10nm〜50nmとなるように行うことが好ましい。酸化膜の厚みを10nm以上とすることで、合金部分の微細な凹凸を覆って平滑な表面を形成することができる。また、高い絶縁性を得ることができる。酸化膜の厚みは、20nm以上とすることがより好ましい。このようにすることで、より酸化膜表面のSiの比率を高めることができる。また、グリーンシート同士を圧着する際に、プレス圧力によって酸化膜の欠陥が生じた場合であっても、絶縁性を維持することができる。他方、酸化膜の厚みを50nm以下とすることで、膜厚の不均一による粒子表面の平滑性の低下を抑制できる。また、積層コイル部品を形成した際に、高い透磁率が得られる。酸化膜の厚みは、40nm以下とすることがより好ましい。
【0048】
ここで、酸化膜の厚みは、軟磁性合金粉末を構成する磁性粒子の断面を走査型透過電子顕微鏡(STEM)(日本電子株式会社製 JEM−2100F)にて観察し、粒子内部の合金部分とのコントラスト(明度)の差異により認識される酸化膜について、その厚みを、異なる粒子の10箇所で、倍率500,000倍で測定し、平均値を求めることで算出する。
【0049】
第2実施形態では、上述の方法で調製したグリーンシートに後述する導体パターンを形成する前に、該導体パターン同士を接続する接続導体を埋め込むスルーホールを形成してもよい。
スルーホールの形成には、打抜き加工機やレーザー加工機等の穿孔機を使用できる。形成するスルーホールの配列及びサイズは、製造しようとする積層コイル部品の内部導体形状に応じて決定される。
【0050】
第2実施形態では、調製されたグリーンシートに導体パターンを形成する。
導体パターンは、例えば、スクリーン印刷機やグラビア印刷機等の印刷機を用いて、導体ペーストをグリーンシート表面に印刷し、これを熱風乾燥機等の乾燥機で乾燥することで形成できる。導体パターンの形成前にグリーンシートにスルーホールを形成した場合には、印刷の際に該スルーホール中にも導体ペーストが充填され、グリーンシート表面に印刷された導体パターンとともに、内部導体の形状を構成することとなる。
印刷に使用する導体ペーストとしては、導体粉末と有機ビヒクルとを含むものが挙げられる。導体粉末としては、銀若しくは銅又はこれらの合金等の粉末が用いられる。導体粉末の粒径は特に限定されないが、例えば、体積基準で測定した粒度分布から算出される平均粒径(メジアン径(D50))が1μm〜10μmのものが用いられる。有機ビヒクルの組成は、グリーンシートに含まれるバインダとの相性を考慮して決定すればよい。一例として、ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂を、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤に溶解ないし膨潤させたものが挙げられる。導体ペーストにおける導体粉末及び有機ビヒクルの配合比率は、使用する印刷機に好適なペーストの粘度や形成しようとする導体パターンの膜厚等に応じて適宜調節することができる。
【0051】
次いで、導体パターンが形成されたグリーンシートを、所定の順序で積み重ねて圧着する。
グリーンシートを積み重ねる際には、吸着搬送機等を用いてこれを搬送することができる。また、積み重ねたグリーンシートを圧着する際には、プレス機を用いて熱圧着する方法が採用できる。
圧着された積層体から複数の積層コイル部品を得る場合には、該積層体を、ダイシング機やレーザー切断機等の切断機を用いて、個々の積層コイル部品のサイズに切断してもよい。
【0052】
次いで、得られた積層体を熱処理する。熱処理としては、グリーンシート及び導体パターン中のバインダを除去するための第1の熱処理と、導体パターン中の導体粉末を焼結して内部導体を形成するとともに、グリーンシート中の軟磁性合金粉末の粒子同士を酸化物層を介して結合させて磁性層を形成する第2の熱処理とを行う。
【0053】
第1の熱処理は、大気や過熱水蒸気等の酸化性雰囲気中で、バインダの消失する程度の温度及び時間で行えばよい。熱処理条件の例としては、過熱水蒸気中、200℃〜300℃で30分〜2時間が挙げられる。
【0054】
第2の熱処理は、酸素濃度が5ppm〜800ppmの低酸素雰囲気で行う。
熱処理雰囲気中の酸素濃度を前記範囲とすることで、軟磁性合金粒子の表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつSiに富む酸化物層を適度かつ均一な厚みで形成することができる。前記酸素濃度は、100ppm以上とすることが好ましく、200ppm以上とすることがより好ましい。
熱処理雰囲気中の酸素濃度が低すぎると、短時間の熱処理では酸化物層の形成が不十分となることで絶縁性が低下し、長時間の熱処理では、酸化物層へのFe又はCr若しくはAlの拡散によって酸化物層が厚くなりすぎ、透磁率が低下する。他方、熱処理雰囲気中の酸素濃度が高すぎると、積層コイル部品の表面と内部とで酸化物層の厚みの差が大きくなりすぎるとともに、酸化物層中のFe又はCr若しくはAlの含有量が多くなりすぎ、酸化物層の絶縁性が低下する。
【0055】
また、第2の熱処理は、500℃〜900℃の温度で行う。
熱処理温度を前記範囲とすることで、軟磁性合金の粒子表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつSiに富む酸化物層を適度かつ均一な厚みで形成することができる。前記熱処理の温度は、550℃以上とすることが好ましく、600℃以上とすることがより好ましい。また、前記熱処理の温度は、850℃以下とすることが好ましく、800℃以下とすることがより好ましい。
【0056】
第2の熱処理における熱処理の時間は、軟磁性合金の粒子表面に、Siに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ軟磁性合金の粒子表面にSiに富む酸化物層が形成され、該酸化物層を介して軟磁性合金の粒子同士が結合できれば特に限定されないが、酸化物層を十分な厚さとする点からは、30分以上とすることが好ましく、1時間以上とすることがより好ましい。他方、熱処理を短時間で終わらせて生産性を向上する点からは、熱処理時間を5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0057】
第2の熱処理は、バッチ処理であってもフロー処理であってもよい。フロー処理の例としては、前述した積層体を載せた複数の耐熱トレーをトンネル炉中に断続的ないし連続的に投入し、所定の雰囲気及び温度に保持した領域を所定の時間で通過させる方法が挙げられる。
【0058】
第2実施形態では、前述した熱処理が、第2の熱処理後に、酸素濃度が5ppm〜800ppmの雰囲気中にて、500℃〜600℃で、かつ第2の熱処理温度より低い温度で行う第3の熱処理をさらに含んでもよい。第3の熱処理を行うことにより、酸化物層の軟磁性合金粒子と接していない側に、Fe、Si、Cr及びAlのうち、質量基準でFeを最も多く含むFe富化層を厚く形成することができる。これにより、磁性層中の空隙が減少し、積層コイル部品の強度が向上する。
第3の熱処理を行う場合、第2の熱処理と同一の装置を用い、第2の熱処理と連続して行うことが、製造の効率性の点から好ましい。
【0059】
第2実施形態では、熱処理後の積層体の表面に、内部導体と導通する外部電極を形成する。
外部電極を形成する際には、予め用意した導体ペーストを、ディップ塗布機やローラー塗布機等の塗布機を用いて積層体の表面に塗布した後、焼成炉等の加熱装置を用いて焼付け処理を行う方法が採用できる。前記導体ペーストとしては、上述した導体パターン形成用のペースト等を適宜用いればよい。
【0060】
[回路基板]
本発明の第3の実施形態に係る回路基板(以下、単に「第3実施形態」と記載することがある。)は、第1実施形態に係る積層コイル部品を載せた回路基板である。
回路基板の構造等は限定されず、目的に応じたものを採用すればよい。
第3実施形態は、第1実施形態に係るコイル部品を使用することで、高性能化及び小型化、特に低背化が可能となる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は該実施例に限定されるものではない。
【0062】
[実施例]
本実施例及び後述する比較例では、低酸素雰囲気での熱処理により、所期の構造及び元素分布を有する磁性体が得られ、かつ該磁性体の表面と内部とで酸化物層の厚みの差が小さくなることを、試験片を用いて確認した。
【0063】
(立方体状試験片の作製)
まず、Fe−3.5Si−1.5Cr(数値は質量百分率を示す)の組成を有する、平均粒径4.0μmの軟磁性合金粉末を準備した。次いで、この軟磁性合金粉を、1.2質量%のアクリル系バインダとともに撹拌混合し、成形用材料を調製した。次いで、この成形用材料を、四角柱状の成形空間を有する金型に投入し、8t/cmの圧力で一軸加圧成形して、1辺が10mmの立方体形状の成形体を得た。次いで、得られた成形体を150℃の恒温槽中に1時間入れてバインダを硬化させた後、過熱水蒸気炉により300℃に加熱して第1の熱処理を行い、熱分解によりバインダを除去した。最後に、石英炉にて、酸素濃度800ppmの雰囲気中、800℃で1時間の条件で第2の熱処理を行い、立方体形状の試験片を得た。
【0064】
(酸化物層の構造確認)
得られた試験片について、軟磁性合金粒子同士を結合する酸化物層の構造を上述した方法で確認した。STEMにより観察された酸化物層の構造の模式図を図3に、図3中の線分A−A’に沿った線分析結果を図4に、それぞれ示す。
図4によれば、酸化物層22は、Siに加えてFe及びCrを含有することが判る。また、酸化物層22のほぼ全幅に亘って、Crの含有量よりもSiの含有量が多くなっていることから、該酸化物層22は、質量基準のSi含有量がCr及びAlの合計よりも多いことが判る。さらに、酸化物層22中には、軟磁性合金粒子21との境界部分にSi含有量が特に多いSi濃化領域221領域が確認された。該領域中には、Si含有量が、2番目に多く含まれるFeの約5倍である箇所が見られた。
また、図3では、酸化物層22の軟磁性合金粒子21と接していない側に、Fe含有量が特に多いFe富化層23の存在も確認された。
【0065】
(酸化物層の厚み測定)
得られた試験片について、表面及び中央部にそれぞれ位置する磁性層中の酸化物層の厚みを、上述した方法で決定したところ、表面で30nm、中央部で27nmとなった。
【0066】
(試験片の体積抵抗率測定)
得られた試験片の表面及び中央部の体積抵抗率を、以下の方法により測定した。
得られた試験片の表面及び中央部から、0.2mm×0.2mm×0.1mmの評価用試験片をそれぞれ切り出し、対向する1対の面全体にスパッタリングによりAu膜を形成して評価用試料とした。得られた評価用試料について、試料の両面に形成されたAu膜を電極とし、該電極間に、電界強度が60V/cmとなるように電圧を印加して抵抗値を測定し、該抵抗値から体積抵抗率を算出した。
体積抵抗率は、表面側試験片で100MΩ・cm、中央部側試験片で92MΩ・cmであった。
【0067】
[比較例]
第2の熱処理における熱処理雰囲気を大気とした以外は実施例と同様にして、比較例に係る試験片を得た。
【0068】
得られた試験片における酸化物層の構造を、実施例と同様の方法で確認したところ、酸化物層は、Siに加えてFe及びCrを含み、軟磁性合金粒子との境界部分ではSiを最も多く含んでいるものの、その内側の領域の殆どでCrが最も多くなっており、全体としてCrの含有量が最も多かった。
【0069】
また、得られた試験片について、表面及び中央部にそれぞれ位置する磁性層中の酸化物層の厚みを、実施例と同様の方法で決定したところ、表面で100nm、中央部で50nmとなった。
【0070】
さらに、得られた試験片について、表面及び中央部の体積抵抗率を、実施例と同様の方法で測定したところ、表面側試験片で2MΩ・cm、中央部側試験片で1MΩ・cmであった。
【0071】
実施例と比較例との対比から、構成元素としてFe及びSi、並びにCr又はAlの少なくとも一方を含有する軟磁性合金粒子と、該軟磁性合金粒子の周囲に形成されて該軟磁性合金粒子同士を結合する、構成元素としてSiに加えてCr又はAlの少なくとも一方を含有し、かつ質量基準のSiの含有量が、Cr及びAlの合計よりも多い酸化物層とで構成される磁性体は、酸化物層の厚みが薄く、表面と中央部との層厚の差も小さく、電気的絶縁性に優れるものといえる。このことから、このような磁性体を磁性層とする本発明の積層コイル部品は、内部導体間の距離を狭めて素子厚みを薄くすることができ、磁気特性に優れ、厚みの薄いコイル部品になるといえる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明によれば、磁気特性に優れ、厚みの薄い積層コイル部品が提供される。このため、大電流化と薄型化との両立が求められる、携帯用電子機器や自動車に搭載されるコイル部品とすることができる点で本発明は有用なものである。また、本発明の好ましい形態によれば、空隙率の小さい積層コイル部品となるため、強度に優れた積層コイル部品の提供が可能となる点でも、本発明は有用なものである。
【符号の説明】
【0073】
100 積層コイル部品
2 磁性層
21 軟磁性合金粒子
22 酸化物層
221 Si濃化領域
222 Si富化領域
23 Fe富化層
3 内部導体
31 導体パターン
32 接続導体
4 外部電極
図1
図2
図3
図4