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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-161966(P2020-161966A)
(43)【公開日】2020年10月1日
(54)【発明の名称】マルチプレクサ
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20200904BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20200904BHJP
   H03H 9/64 20060101ALI20200904BHJP
【FI】
   H03H9/145 Z
   H03H9/72
   H03H9/64 Z
   H03H9/145 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2019-58974(P2019-58974)
(22)【出願日】2019年3月26日
(71)【出願人】
【識別番号】000204284
【氏名又は名称】太陽誘電株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087480
【弁理士】
【氏名又は名称】片山 修平
(72)【発明者】
【氏名】近藤 宏樹
【テーマコード(参考)】
5J097
【Fターム(参考)】
5J097AA15
5J097BB15
5J097BB17
5J097DD07
5J097DD16
5J097DD17
5J097KK04
5J097KK09
(57)【要約】
【課題】通過帯域の低いフィルタの特性を改善すること。
【解決手段】共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれPR1およびPD1とすると、PR1>PD1であり、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、を備えるマルチプレクサ。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれPR1およびPD1とすると、PR1>PD1であり、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を備えるマルチプレクサ。
【請求項2】
前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の反共振周波数をfap、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および前記第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fap/(f1+f2)≦PR1/PD1である請求項1に記載のマルチプレクサ。
【請求項3】
前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器以外の少なくとも1つの並列共振器において、複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれPR2およびPD2とすると、PR1/PD1>PR2/PD2である請求項1または2に記載のマルチプレクサ。
【請求項4】
前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、
前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR1およびSD1とし、前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の反共振周波数をfas、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および前記第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fas/(f1+f2)≦SR1/SD1である請求項1から3のいずれか一項に記載のマルチプレクサ。
【請求項5】
前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器は、前記複数の直列共振器と前記複数の並列共振器のうち他の並列共振器とをいずれも介さず前記共通端子と接続する経路を有する請求項1から4のいずれか一項に記載のマルチプレクサ。
【請求項6】
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR1およびSD1とし、前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の反共振周波数をfas、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fas/(f1+f2)≦SR1/SD1であり、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を備えるマルチプレクサ。
【請求項7】
前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器以外の少なくとも1つの直列共振器において、複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR2およびSD2とすると、SR1/SD1>SR2/SD2である請求項6に記載のマルチプレクサ。
【請求項8】
前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器は、前記複数の直列共振器のうち他の直列共振器と前記複数の並列共振器とをいずれも介さず前記共通端子と接続する経路を有する請求項6または7に記載のマルチプレクサ。
【請求項9】
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の前記反射器のストップバンドは前記第1フィルタの通過帯域および第2フィルタの通過帯域を含み、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を備えるマルチプレクサ。
【請求項10】
共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、
通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の前記反射器のストップバンドは前記第1フィルタの通過帯域および第2フィルタの通過帯域を含み、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、
を備えるマルチプレクサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はマルチプレクサに関し、例えば複数のフィルタを有するマルチプレクサに関する。
【背景技術】
【0002】
弾性表面波共振器では、IDT(Inter Digital Transducer)の両側にIDTが励振した弾性波を反射する反射器を設ける。これにより、弾性波をIDT内に効率的に閉じ込めている。反射器が弾性波を反射するストップバンドは弾性表面波共振器の共振周波数および反共振周波数を含む。
【0003】
弾性表面波共振器を用いた異なる通過帯域を有するフィルタを有するデュプレクサにおいて、通過帯域が低いフィルタの最も共通端子側の直列共振器の反射器のピッチをIDTのピッチより大きくすることが知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−295203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、通過帯域が低いフィルタの最も共通端子側の直列共振器の反射器のストップバンドの高周波側の端部を通過帯域の高いフィルタの通過帯域外に位置させる。これにより、通過帯域内のスプリアスを抑制することができる。
【0006】
特許文献1では、ストップバンドの高周波側の端部においてインピーダンスが急激に変動することを問題としている。しかし、ストップバンドの低周波側の端部においてはインピーダンスの変動は記載されておらず、通過帯域の低いフィルタの特性改善については記載されていない。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、通過帯域の低いフィルタの特性を改善することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれPR1およびPD1とすると、PR1>PD1であり、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、を備えるマルチプレクサである。
【0009】
上記構成において、前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の反共振周波数をfap、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および前記第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fap/(f1+f2)≦PR1/PD1である構成とすることができる。
【0010】
上記構成において、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器以外の少なくとも1つの並列共振器において、複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれPR2およびPD2とすると、PR1/PD1>PR2/PD2である構成とすることができる。
【0011】
上記構成において、前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR1およびSD1とし、前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の反共振周波数をfas、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および前記第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fas/(f1+f2)≦SR1/SD1である構成とすることができる。
【0012】
上記構成において、前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器は、前記複数の直列共振器と前記複数の並列共振器のうち他の並列共振器とをいずれも介さず前記共通端子と接続する経路を有する構成とすることができる。
【0013】
本発明は、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR1およびSD1とし、前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の反共振周波数をfas、前記第1フィルタの通過帯域の中心周波数をf1、および第2フィルタの通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fas/(f1+f2)≦SR1/SD1であり、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、を備えるマルチプレクサである。
【0014】
上記構成において、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器以外の少なくとも1つの直列共振器において、複数の格子電極の平均ピッチおよび複数の電極指の平均ピッチをそれぞれSR2およびSD2とすると、SR1/SD1>SR2/SD2である構成とすることができる。
【0015】
上記構成において、前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器は、前記複数の直列共振器のうち他の直列共振器と前記複数の並列共振器とをいずれも介さず前記共通端子と接続する経路を有する構成とすることができる。
【0016】
本発明は、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の並列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の並列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い並列共振器の前記反射器のストップバンドは前記第1フィルタの通過帯域および第2フィルタの通過帯域を含み、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、を備えるマルチプレクサである。
【0017】
本発明は、共通端子と第1端子との間に接続された第1フィルタと、通過帯域が前記第1フィルタの通過帯域より高く、前記共通端子と第2端子との間に直列に接続された複数の直列共振器と、前記共通端子と前記第2端子との間に並列に接続された複数の並列共振器と、を備え、前記複数の直列共振器は複数の電極指を有する一対の櫛型電極と前記一対の櫛型電極を挟み複数の格子電極を有する一対の反射器とを各々備え、前記複数の直列共振器のうち前記共通端子に回路接続上最も近い直列共振器の前記反射器のストップバンドは前記第1フィルタの通過帯域および第2フィルタの通過帯域を含み、前記共通端子と前記第2端子との間に接続された第2フィルタと、を備えるマルチプレクサマルチプレクサである。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、通過帯域の低いフィルタの特性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A断面図である。
図2図2は、実施例1に係るマルチプレクサの回路図である。
図3図3(a)および図3(b)は、実施例1における直列共振器S1および並列共振器P1の平面図である。
図4図4(a)および図4(b)は、実施例1における直列共振器S2−S4および並列共振器P2およびP3の平面図である。
図5図5(a)および図5(b)は、実施例1および比較例1におけるフィルタ40および42の通過特性を示す図である。
図6図6(a)および図6(b)は、実施例1および比較例1における反射器の反射特性を示す図である。
図7図7(a)および図7(b)は、実施例1および比較例1における共振器の通過特性および反射器の反射特性を示す図である。
図8図8は、実施例1の変形例1に係るマルチプレクサの回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下図面を参照し実施例について説明する。
【実施例1】
【0021】
図1(a)は、比較例および実施例における弾性波共振器の平面図、図1(b)は、図1(a)のA−A断面図である。電極指の配列方向をX方向、電極指の延伸方向をY方向、圧電基板の法線方向をZ方向とする。X方向、Y方向およびZ方向は圧電基板の結晶方位とは限らないが、圧電基板が回転YカットX伝搬基板のときにはX方向が結晶方位のX軸方位となる。
【0022】
図1(a)および図1(b)に示すように、1ポート弾性波共振器26では、圧電基板10上にIDT24および反射器20が形成されている。IDT24および反射器20は、圧電基板10上に形成された金属膜12により形成される。一対の反射器20は、IDT24を挟みX方向の両側に設けられている。
【0023】
IDT24は、対向する一対の櫛型電極18を備える。櫛型電極18は、複数の電極指14と、複数の電極指14が接続されたバスバー15と、を備える。一対の櫛型電極18は、少なくとも一部において一方の櫛型電極18の電極指14と他方の櫛型電極18の電極指14とが互い違いとなるように、対向して設けられている。反射器20は、複数の格子電極16と、複数の格子電極16が接続されたバスバー17と、を備える。
【0024】
一対の櫛型電極18の電極指14が励振する弾性波は、主にX方向に伝搬する。一対の櫛型電極18のうち一方の櫛型電極18の電極指14のピッチがほぼ弾性波の波長λとなる。反射器20は、弾性波を反射する。これにより弾性波のエネルギーがIDT24内に閉じ込められる。
【0025】
圧電基板10は、例えばタンタル酸リチウム基板、ニオブ酸リチウム基板または水晶基板であり、例えば回転YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板またはニオブ酸リチウム基板である。圧電基板10は、例えば、単結晶サファイア基板、アルミナ基板、スピネル基板、水晶基板またはシリコン基板等の支持基板の上面に接合されていてもよい。圧電基板10と支持基板との間に酸化シリコン膜または窒化アルミニウム膜等の絶縁膜が設けられていてもよい。このように圧電基板10は支持基板上に直接的または間接的に接合されていてもよい。
【0026】
金属膜12は、例えばアルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜である。アルミニウム膜、銅膜またはモリブデン膜と圧電基板10との間にチタン膜またはクロム膜等の金属膜が設けられていてもよい。波長λは例えば500nmから5000nm、電極指14および格子電極16のX方向の幅は例えば200nmから3000nm、金属膜12の膜厚は例えば50nmから500nm、弾性波共振器26の静電容量は例えば0.1pFから10pFである。圧電基板10上に金属膜12を覆うように保護膜または温度補償膜として機能する絶縁膜が設けられていてもよい。
【0027】
図2は、実施例1に係るマルチプレクサの回路図である。図2に示すように、共通端子Antと端子T1(第1端子)との間にフィルタ42(第1フィルタ)が接続され、共通端子Antと端子T2(第2端子)との間にフィルタ40(第2フィルタ)が接続されている。フィルタ40の通過帯域はフィルタ42の通過帯域より高い。フィルタ40および42は、例えばFDD(Frequency Division Duplex)通信方式の同じバンドのそれぞれ受信フィルタおよび送信フィルタである。フィルタ40および42は、それぞれ送信フィルタおよび受信フィルタでもよい。フィルタ40および42は、例えばTDD(Time Division Duplex)通信方式の異なるバンドのフィルタでもよい。
【0028】
フィルタ40は、ラダー型フィルタであり、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3を備えている。複数の直列共振器S1からS4は共通端子Antと端子T2との間に直列に接続され、複数の並列共振器P1からP3は共通端子Antと端子T1との間に並列に接続されている。
【0029】
フィルタ42は、共通端子Antと端子T1との間にDMS(Double Mode SAW(Surface Acoustic Wave))フィルタDMS1およびDMS2が縦続接続され、フィルタDMS1と共通端子Antとの間に弾性波共振器R1が接続されている。
【0030】
図3(a)および図3(b)は、実施例1における直列共振器S1および並列共振器P1の平面図である。図3(a)に示すように、直列共振器S1では、IDT24の電極指14の平均ピッチはSD1である。IDT24が励振する弾性波の波長は略2×SD1である。反射器20の格子電極16の平均ピッチはSR1である。図3(b)に示すように、並列共振器P1では、IDT24の電極指14の平均ピッチはPD1である。反射器20の格子電極16の平均ピッチはPR1である。SR1>SD1であり、PR1>PD1であり、かつSR1/SD1>PR1/PD1である。
【0031】
図4(a)および図4(b)は、実施例1における直列共振器S2−S4および並列共振器P2およびP3の平面図である。図4(a)に示すように、直列共振器S2、S3およびS4では、IDT24の電極指14の平均ピッチはSD2である。反射器20の格子電極16の平均ピッチはSR2である。図4(b)に示すように、並列共振器P2およびP3では、IDT24の電極指14の平均ピッチはPD2である。反射器20の格子電極16の平均ピッチはPR2である。SR2>SD2であり、PR2はPD2にほぼ等しく、かつSR2/SD2>PR2/PD2である。
【0032】
直列共振器S1とS2−S4とを比べると、SR1/SD1>SR2/SD2である。並列共振器P1とP2およびP3とを比べると、PR1/PD1>PR2/PD2である。
【0033】
[シミュレーション]
実施例1および比較例1について通過特性のシミュレーションを行った。
シミュレーション条件は以下である。
圧電基板10:42°YカットX伝搬タンタル酸リチウム基板
金属膜12:圧電基板10側から膜厚が190nmのチタン膜、膜厚が213nmのアルミニウム膜
直列共振器S1
IDT24のピッチ(電極指14のピッチ×2):4.82μm、
IDT24の対数(電極指14の本数/2):65対
反射器20の対数(格子電極16の本数/2):15対
デュティ比:52.3%
開口長:53.98μm(11.2λ)
反共振周波数:836.0MHz
並列共振器P1
IDT24のピッチ(電極指14のピッチ×2):5.04μm、
IDT24の対数(電極指14の本数/2):58対
反射器20の対数(格子電極16の本数/2):15対
デュティ比:52.3%
開口長:163.8μm(32.5λ)
反共振周波数:803.0MHz
直列共振器S2−S4のIDT24のピッチは直列共振器S1のピッチと等しく、並列共振器P2、P3のIDT24のピッチは並列共振器P1のピッチと等しい。
【0034】
実施例1における各共振器のIDT24のピッチと反射器20のピッチとの差のIDT24のピッチに対するピッチ比は以下である。
直列共振器
S1:(SR1−SD1)/SD1×100[%]:7.88%
S2−S4:(SR2−SD2)/SR2×100[%]:3.96%
並列共振器
P1:(PR1−PD1)/PD1×100[%]:3.24%
P2、P3:(PR2−PD2)/PR2×100[%]:0.00%
【0035】
比較例1における各共振器のIDT24のピッチと反射器20のピッチとの差のIDT24のピッチに対するピッチ比は以下である。
直列共振器
S1−S4:(SR2−SD2)/SR2×100[%]:3.96%
並列共振器
P1−P3:(PR2−PD2)/PR2×100[%]:0.00%
比較例1では、直列共振器S1のピッチ比を直列共振器S2−S4のピッチ比と同じとし、並列共振器P1のピッチ比を並列共振器P2、P3と同じとしている。
【0036】
直列共振器S2−S4において、(SR2−SD2)/SR2を正の値にしているのは、反射器20のストップバンドをフィルタ40の通過帯域に合わせるためである。
【0037】
図5(a)および図5(b)は、実施例1および比較例1におけるフィルタ40および42の通過特性を示す図である。図5(a)は、フィルタ40および42の通過特性を示し、図5(b)は、フィルタ42の通過特性を示す。フィルタ40の通過特性は共通端子Antと端子T2との間の通過特性であり、フィルタ42の通過特性は共通端子Antと端子T1との間の通過特性である。実施例1および比較例1のシミュレーション結果をそれぞれ実線および破線で示す。
【0038】
図5(a)に示すように、フィルタ42の通過帯域Pass1は758MHzから768MHzであり、フィルタ40の通過帯域Pass2は788MHzから798MHzである。図5(b)に示すように、矢印44の約761MHzと矢印46の約768MHzにおいて、比較例1の損失が実施例1より大きくなっている。
【0039】
図6(a)および図6(b)は、実施例1および比較例1における反射器の反射特性を示す図である。図6(a)は、直列共振器S1の反射器20の反射特性を示し、図6(b)は、並列共振器P1の反射器20の反射特性を示す。反射が0dBに近い周波数帯域がストップバンドである。
【0040】
図6(a)に示すように、比較例1では直列共振器S1の反射器20のストップバンドにフィルタ40の通過帯域Pass2は含まれるが、フィルタ42の通過帯域Pass1は含まれない。実施例1では直列共振器S1の反射器20のストップバンドに通過帯域Pass1およびPass2ともに含まれる。
【0041】
図6(b)に示すように、比較例1では並列共振器P1の反射器20のストップバンドにフィルタ40の通過帯域Pass2は含まれるが、フィルタ42の通過帯域Pass1は含まれない。実施例1では並列共振器P1の反射器20のストップバンドに通過帯域Pass1およびPass2ともに含まれる。
【0042】
このように、実施例1では、直列共振器S1および並列共振器P1の反射器20のストップバンドにフィルタ42の通過帯域が含まれる。
【0043】
図7(a)および図7(b)は、実施例1および比較例1における共振器の通過特性および反射器の反射特性を示す図である。図7(a)は、フィルタ40の直列共振器S1の通過特性(S21)、反射特性(S11)、および反射器20の反射特性を示す図である。図7(b)は、フィルタ40の並列共振器P1の通過特性(S21)、反射特性(S11)、および反射器20の反射特性を示す図である。共振器の通過特性をS21、共振器の反射特性をS11、反射器20の反射特性をSBで示す。
【0044】
図7(a)および図7(b)に示すように、特に並列共振器P1では、比較例1における反射器20の反射特性SBにおけるストップバンドよりやや低い周波数帯域に、矢印44および46のように通過特性および反射特性の低下が生じている。矢印44および46の周波数は図5(b)の矢印44および46の周波数とほぼ一致する。
【0045】
以上をまとめると、比較例1では、直列共振器S1および並列共振器P1での反射器20のストップバンドがフィルタ42の通過帯域Pass1を含まない。このため、フィルタ42の通過帯域Pass1内において、直列共振器S1および並列共振器P1の反射特性が低下する。このため、フィルタ42を通過すべき高周波信号の一部がフィルタ40を通過してしまいフィルタ42の損失が低下する。
【0046】
特許文献1のように、ストップバンドの高周波側の端部においてインピーダンスが急激に変動し、フィルタ特性に影響することは知られていた。しかし、フィルタ40の最も共通端子Antに近い並列共振器P1および/または直列共振器S1の反射器20のストップバンドの低周波側の端部がフィルタ42の通過帯域Pass1内に位置すると、フィルタ42の通過特性に影響することはこれまで知られていなかった。
【0047】
実施例1では、フィルタ42(第1フィルタ)の通過帯域Pass1より高い通過帯域Pass2を有するフィルタ40(第2フィルタ)において、並列共振器P1からP3のうち共通端子Antに回路接続上最も近い並列共振器P1の複数の格子電極16の平均ピッチおよび複数の電極指14の平均ピッチをそれぞれPR1およびPD1とすると、PR1>PD1である。これにより、並列共振器P1の反射器20ストップバンドが低くなる。よって、矢印44および46における並列共振器P1の反射特性が低下する周波数が低くなり、フィルタ42の通過帯域Pass1より低くなる。よって、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制できる。
【0048】
電極指14の平均ピッチはIDT24のX方向の幅を電極指14の本数で除することで算出できる。また、格子電極16の平均ピッチは反射器20のX方向の幅を格子電極16の本数で除することで算出できる。PR1≧1.01×PD1がより好ましく、PR1≧1.02×PD1がさらに好ましい。反射器20のストップバンドが通過帯域Pass2を含むためPR1≦1.2×PD1が好ましく、PR1≦1.1×PD1がより好ましい。
【0049】
並列共振器P1の反共振周波数をfap、フィルタ42の通過帯域Pass1の中心周波数をf1、およびフィルタ40の通過帯域の中心周波数をf2とすると、2×fap/(f1+f2)≦PR1/PD1とすると、並列共振器P1の反射器20のストップバンドが通過帯域Pass1を含むようになる。よって、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制できる。例えば、シミュレーションした実施例1の並列共振器では、fap=803MHz、f1=763MHz、f2=793MHzであり、2×fap/(f1+f2)=1.0321であり、PR1/PD1=1.0324である。反射器20のストップバンドが通過帯域Pass2を含むため1.2×2×fap/(f1+f2)≧PR1/PD1が好ましく、1.1×2×fap/(f1+f2)≧PR1/PD1がより好ましい。
【0050】
フィルタ42の通過帯域Pass1はフィルタ42が通過させる通信バンドの通信帯域(送信帯域または受信帯域)であり、フィルタ40の通過帯域Pass2はフィルタ40が通過させる通信バンドの通信帯域(送信帯域または受信帯域)である。ストップバンドはシミュレーションにより算出できる。例えば反射特性(S11の大きさ)が−1dB以上のときをストップバンドとする。
【0051】
並列共振器P2およびP3においても並列共振器P1と同様に格子電極16の平均ピッチPR2を電極指14の平均ピッチPD2より大きくしてもよい。これにより、通過帯域Pass1において並列共振器P2からP3の矢印44および46の特性劣化が抑制できる。しかし、フィルタ42の通過特性に大きく影響するのは共通端子Antに最も近い並列共振器P1である。一方、並列共振器P2からP3の反射器20のストップバンドを並列共振器P1と同様に低くすると、フィルタ40の特性が劣化する可能性がある。
【0052】
そこで、並列共振器P1からP3のうち並列共振器P1以外の並列共振器P2およびP3の少なくとも1つにおいて、格子電極16の平均ピッチおよび電極指14の平均ピッチをそれぞれPR2およびPD2とすると、PR1/PD1>PR2/PD2である。これにより、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制し、かつフィルタ42の特性劣化を抑制できる。並列共振器P2およびP3の全てにおいて、PR1/PD1>PR2/PD2とすることが好ましい。
【0053】
また、並列共振器P2およびP3の少なくとも1つにおいて、反共振周波数をfap2としたとき、2×fap2/(f1+f2)>PR2/PD2とする。これにより、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制し、かつフィルタ42の特性劣化を抑制できる。並列共振器P2およびP3の全てにおいて、2×fap2/(f1+f2)>PR2/PD2とすることがより好ましい。
【0054】
直列共振器S1からS4のうち共通端子Antに回路接続上最も近い直列共振器S1の格子電極16の平均ピッチおよび電極指14の平均ピッチをそれぞれSR1およびSD1とし、共通端子Antに回路接続上最も近い直列共振器S1の反共振周波数をfasとすると、2×fas/(f1+f2)≦SR1/SD1である。これにより、直列共振器S1の反射器20のストップバンドが通過帯域Pass1を含むようになる。よって、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制できる。例えば、シミュレーションした実施例1の直列共振器S1では、fap=836MHz、f1=763MHz、f2=793MHzであり、2×fap/(f1+f2)=1.0746であり、SR1/SD1=1.0788である。反射器20のストップバンドが通過帯域Pass2を含むため1.2×2×fas/(f1+f2)≧SR1/SD1が好ましく、1.1×2×fas/(f1+f2)≧SR1/SD1がより好ましい。
【0055】
直列共振器S1からS4のうち直列共振器S1以外の少なくとも1つの直列共振器S2からS4において、格子電極16の平均ピッチおよび電極指14の平均ピッチをそれぞれSR2およびSD2とすると、SR1/SD1>SR2/SD2である。これにより、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制し、かつフィルタ42の特性劣化を抑制できる。直列共振器S2からS4の全てにおいて、SR1/SD1>SR2/SD2とすることが好ましい。
【0056】
また、直列共振器S2からS4の少なくとも1つにおいて、反共振周波数をfas2としたとき、2×fas2/(f1+f2)>SR2/SD2とする。これにより、フィルタ42の通過帯域Pass1内の損失を抑制し、かつフィルタ42の特性劣化を抑制できる。直列共振器S1からS4の全てにおいて、2×fas2/(f1+f2)>SR2/SD2とすることがより好ましい。
【0057】
直列共振器S1および並列共振器P1の少なくとも一方において、反射器20のストップバンドが通過帯域Pass1を含めばよい。最も共通端子Antに近い共振器の反射特性がフィルタ42の通過特性に影響する。よって、直列共振器S1からS4および並列共振器P1からP3のうち直列共振器S1が共通端子Antに回路接続上最も近いとき、すなわち、直列共振器S1は、直列共振器S1からS4のうち直列共振器S1以外の直列共振器S2からS4と並列共振器P1からP3とをいずれも介さず共通端子Antと接続する経路を有するとき、直列共振器S1のストップバンドが通過帯域Pass1を含むことが好ましい。これにより、フィルタ42の損失を抑制できる。
【0058】
[実施例1の変形例1]
図8は、実施例1の変形例1に係るマルチプレクサの回路図である。図8に示すように、フィルタ40は、直列共振器S1からS3と並列共振器P1からP3を備えている。最も共通端子Antに近い共振器は並列共振器P1である。その他の構成は実施例1と同じであり説明を省略する。
【0059】
実施例1の変形例1のように、直列共振器S1からS3および並列共振器P1からP3のうち並列共振器P1が共通端子Antに回路接続上最も近いとき、すなわち、共通端子Antに回路接続上最も近い並列共振器P1は、直列共振器S1からS4と、並列共振器P1からP3のうち並列共振器P1以外の並列共振器P1およびP2とをいずれも介さず共通端子Antと接続する経路を有するとき、並列共振器P1のストップバンドが通過帯域Pass1を含むことが好ましい。これにより、フィルタ42の損失を抑制できる。
【0060】
実施例1およびその変形例において、フィルタ40の直列共振器および並列共振器の個数は任意に設定できる。フィルタ42は多重モード型フィルタを含んでもよいしラダー型フィルタでもよい。マルチプレクサとしてデュプレクサを例に説明したがトリプレクサまたはクワッドプレクサでもよい。
【0061】
以上、本発明の実施例について詳述したが、本発明はかかる特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【符号の説明】
【0062】
10 圧電基板
14 電極指
16 格子電極
18 櫛型電極
20 反射器
24 IDT
40、42 フィルタ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8