特開2020-162420(P2020-162420A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2020-162420サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害剤の感受性を判定するための方法、試薬キット、装置及びコンピュータプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-162420(P2020-162420A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】サイクリン依存性キナーゼ4/6阻害剤の感受性を判定するための方法、試薬キット、装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/48 20060101AFI20200911BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20200911BHJP
   G01N 33/573 20060101ALI20200911BHJP
【FI】
   C12Q1/48 Z
   C12M1/34 E
   G01N33/573 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2019-63185(P2019-63185)
(22)【出願日】2019年3月28日
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【弁理士】
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【弁理士】
【氏名又は名称】稲本 潔
(72)【発明者】
【氏名】横瀬 範子
(72)【発明者】
【氏名】野田 健太
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029BB16
4B029FA13
4B063QA07
4B063QA18
4B063QQ02
4B063QQ27
4B063QR07
4B063QS28
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定を可能にする方法の提供。
【解決手段】被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、前記CDKに対応する閾値とを比較する工程と、前記CDKの活性に基づく値が前記閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程とを含む、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、前記CDKに対応する閾値とを比較する工程と、
前記CDKの活性に基づく値が前記閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程と
を含む、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法。
【請求項2】
前記判定工程において、前記CDKの活性に基づく値が前記閾値以上であるとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記比較工程において、前記CDK4の活性に基づく値とCDK4に対応する閾値とを比較し、前記CDK6の活性に基づく値とCDK6に対応する閾値とを比較し、
前記判定工程において、前記CDK4の活性に基づく値が前記閾値より低く、且つ前記CDK6の活性に基づく値が前記閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定される、
請求項1に記載の判定方法。
【請求項4】
前記比較工程において、前記試料中のCDK2の活性に基づく値と、CDK2に対応する閾値とをさらに比較し、
前記判定工程において、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値が、前記CDKに対応する閾値より低く、且つ前記CDK2の活性に基づく値が、CDK2に対応する閾値以上であるとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する、
請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記比較工程において、前記試料中のCDK2の活性に基づく値と、CDK2に対応する閾値とをさらに比較し、
前記判定工程において、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値が、前記CDKに対応する閾値以上であり、且つ前記CDK2の活性に基づく値が、CDK2に対応する閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する、
請求項1又は4に記載の方法。
【請求項6】
各CDKの活性に基づく値が、各CDKの比活性の値である請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
被検者から採取した試料の第1アリコート中の第1CDKの比活性である第1比活性の値と、前記試料の第2アリコート中の前記第1CDKの比活性である第2比活性の値とを取得する工程と、
前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程と
を含み、
前記第1CDKが、CDK4又はCDK6であり、
前記第1アリコートが、CDK4/6阻害剤で処理していないアリコートであり、前記第2アリコートが、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理したアリコートである、
CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法。
【請求項8】
前記取得工程において、前記第1アリコート中の第2CDKの比活性である第3比活性の値と、前記第2アリコート中の第2CDKの比活性である第4比活性の値とをさらに取得し、
前記判定工程において、
- 前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ前記第3比活性の値に対する前記第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき、又は、
- 前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ前記第4比活性の値に対する前記第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき、
前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定され、
前記第2CDKがCDK2である、
請求項7に記載の判定方法。
【請求項9】
前記取得工程において、前記第1アリコート中の第2CDKの比活性である第3比活性の値と、前記第2アリコート中の第2CDKの比活性である第4比活性の値と、前記第1アリコート中の第3CDKの比活性である第5比活性の値と、前記第2アリコート中の第3CDKの比活性である第6比活性の値とをさらに取得し、
前記判定工程において、
- 前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、前記第3比活性の値に対する前記第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ前記第5比活性の値に対する前記第6比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき、又は、
- 前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、前記第4比活性の値に対する前記第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ前記第6比活性の値に対する前記第5比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき、
前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定され、
前記第1CDKがCDK4であり、前記第2CDKがCDK6であり、前記第3CDKがCDK2である、
請求項7に記載の判定方法。
【請求項10】
CDK4/6阻害剤を投与された被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法であって、
第1試料中の第1CDKの比活性である第1比活性の値と、第2試料中の前記第1CDKの比活性である第2比活性の値とを取得する工程と、
前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程と
を含み、
前記第1CDKがCDK4又はCDK6であり、
前記第1試料が、前記CDK4/6阻害剤の投与前に前記被検者から採取した試料であり、
前記第2試料が、前記CDK4/6阻害剤の投与後に前記被検者から採取した試料である、
CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法。
【請求項11】
前記取得工程において、前記第1試料中の第2CDKの比活性である第3比活性の値と、前記第2試料中の第2CDKの比活性である第4比活性の値とをさらに取得し、
前記判定工程において、
- 前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ前記第3比活性の値に対する前記第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき、又は、
- 前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ前記第4比活性の値に対する前記第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき、
前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定され、
前記第2CDKがCDK2である、
請求項10に記載の判定方法。
【請求項12】
前記取得工程において、前記第1試料中の第2CDKの比活性である第3比活性の値と、前記第2試料中の第2CDKの比活性である第4比活性の値と、前記第1試料中の第3CDKの比活性である第5比活性の値と、前記第2試料中の第3CDKの比活性である第6比活性の値とをさらに取得し、
前記判定工程において、
- 前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、前記第3比活性の値に対する前記第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ前記第5比活性の値に対する前記第6比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき、又は、
- 前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、前記第4比活性の値に対する前記第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ前記第6比活性の値に対する前記第5比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき、
前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定され、
前記第1CDKがCDK4であり、前記第2CDKがCDK6であり、前記第3CDKがCDK2である、
請求項10に記載の判定方法。
【請求項13】
前記判定工程において、前記第1比活性の値に対する前記第2比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、又は前記第2比活性の値に対する前記第1比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する請求項7又は10に記載の判定方法。
【請求項14】
前記被検者が、がん患者である請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記被検者が、乳がん患者である請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記試料が、前記被検者から採取したがん細胞又は腫瘍組織から調製した液状試料である請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
前記CDK4/6阻害剤が、パルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ又はトリラシクリブである請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKと結合する捕捉物質と、前記CDKの基質とを含む、請求項1〜17のいずれか1項に記載の方法に用いるための試薬キット。
【請求項19】
プロセッサ及び前記プロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、
前記メモリには、下記のステップ:
被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値を取得するステップと、
前記CDKの活性に基づく値と、前記CDKに対応する閾値とを比較するステップと、
前記CDKの活性に基づく値が前記閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、
CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定装置。
【請求項20】
コンピュータが読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、
前記コンピュータプログラムが、下記のステップ:
被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値を取得するステップと、
前記CDKの活性に基づく値と、前記CDKに対応する閾値とを比較するステップと、
前記CDKの活性に基づく値が前記閾値より低いとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定するステップと
を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである、
CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定のためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイクリン依存性キナーゼ(CDK)4/6阻害剤の感受性の判定方法に関する。また、本発明は、CDK4/6阻害剤の感受性を判定するための試薬キット、装置及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
正常な細胞では、無秩序な細胞分裂が行われないように、細胞周期が制御されている。しかし、がん細胞においては、CDK4及びCDK6の関与により細胞周期の制御が不能となり、無制限な細胞増殖が起こる。CDK4/6阻害剤は、CDK4又はCDK6とサイクリンDとの複合体の活性を阻害することにより、細胞周期の進行を停止して、がん細胞の増殖を抑制する。現在、CDK4/6阻害剤は、手術不能又は再発の乳がんの治療薬として承認されている。
【0003】
非特許文献1には、パルボシクリブなどのCDK4/6阻害剤による乳がんの治療において、がん細胞が該阻害剤に対する耐性を獲得するという問題に関して、CDK2が、CDK4活性の減少を補うことにより、パルボシクリブで増殖抑制された乳がん細胞を救済することが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Patel P.ら, Dual Inhibition of CDK4 and CDK2 via Targeting p27 Tyrosine Phosphorylation Induces a Potent and Durable Response in Breast Cancer Cells, Mol Cancer Res, 2018, vol.16, p.361-377
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
がんをより効果的に治療するためには、患者ごとに最適な治療法を選択することが重要である。例えば、CDK4/6阻害剤による治療を選択する場合、患者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であるか否かを予測できることが望ましい。また、CDK4/6阻害剤による治療を継続するか否かを判断する場合にも、CDK4/6阻害剤に対する感受性の予測は有用である。本発明は、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定可能な方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、CDKに対応する閾値とを比較する工程と、CDKの活性に基づく値が閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程とを含む、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法を提供する。
【0007】
本発明は、被検者から採取した試料の第1アリコート中の第1CDKの比活性である第1比活性の値と、該試料の第2アリコート中の第1CDKの比活性である第2比活性の値とを取得する工程と、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程とを含み、第1CDKが、CDK4又はCDK6であり、第1アリコートが、CDK4/6阻害剤で処理していないアリコートであり、第2アリコートが、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理したアリコートである、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法を提供する。
【0008】
本発明は、CDK4/6阻害剤を投与された被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法であって、第1試料中の第1CDKの比活性である第1比活性の値と、第2試料中の第1CDKの比活性である第2比活性の値とを取得する工程と、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する工程とを含み、第1CDKがCDK4又はCDK6であり、第1試料が、CDK4/6阻害剤の投与前に被検者から採取した試料であり、第2試料が、CDK4/6阻害剤の投与後に被検者から採取した試料である、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法を提供する。
【0009】
本発明は、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKと結合する捕捉物質と、CDKの基質とを含む、上記の方法に用いるための試薬キットを提供する。
【0010】
本発明は、プロセッサ及びプロセッサの制御下にあるメモリを含むコンピュータを備え、メモリには、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、CDKに対応する閾値とを比較するステップと、CDKの活性に基づく値が閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムが記録されている、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定装置を提供する。
【0011】
本発明は、コンピュータが読み取り可能な媒体に記録されているコンピュータプログラムであって、コンピュータプログラムが、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値を取得するステップと、CDKの活性に基づく値と、CDKに対応する閾値とを比較するステップと、CDKの活性に基づく値が閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定するステップとをコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムである、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定のためのコンピュータプログラムを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
図1B】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
図1C】本実施形態の試薬キットの一例を示す概略図である。
図2】本実施形態の判定装置の一例を示す概略図である。
図3】本実施形態の判定装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4A】本実施形態の判定装置を用いたCDK4/6阻害剤の感受性の判定のフローチャートである。
図4B】本実施形態の判定装置を用いたCDK4/6阻害剤の感受性の判定のフローチャートである。
図4C】本実施形態の判定装置を用いたCDK4/6阻害剤の感受性の判定のフローチャートである。
図4D】本実施形態の判定装置を用いたCDK4/6阻害剤の感受性の判定のフローチャートである。
図5】CDKの活性に基づく値の取得装置による処理手順を示すフローチャートである。
図6】種々の乳がん細胞株のCDK4の比活性の比の値及びCDK2の比活性の比の値をプロットしたグラフである。
図7】種々の乳がん細胞株のCDK6の比活性の比の値及びCDK2の比活性の比の値をプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、いずれのCDKであるかを言及せずに、単に「CDK」と記載した場合、当該「CDK」との語は、CDK2、CDK4及びCDK6を包含する。
【0015】
[1.CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法]
本実施形態のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法(以下、「判定方法」ともいう)では、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、該CDKに対応する閾値とを比較し、比較結果に基づいて、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定する。
【0016】
(CDK4/6阻害剤)
CDK4/6阻害剤とは、CDK4及びCDK6の少なくとも一方を特異的に阻害する化合物、又は該化合物を有効成分として含む製剤である。そのような阻害剤としては、例えばパルボシクリブ、アベマシクリブ、リボシクリブ、トリラシクリブなどが挙げられるが、これらに限定されない。本実施形態の判定方法は、特にパルボシクリブの感受性の判定に適する。
【0017】
(被検者及び試料)
被検者は、CDK4/6阻害剤による治療の開始、継続又は中止が検討される者であればよい。そのような被検者としては、がん患者が挙げられる。がんの種類は特に限定されないが、CDK4/6阻害剤による治療が有効であるがんが好ましい。がんの種類としては、例えば乳がん、頭頸部がん、非小細胞肺がんなどが挙げられる。本実施形態の判定方法は、特に乳がん患者に適している。
【0018】
被検者は、CDK4/6阻害剤による治療を受けた経験を有する乳がん患者であってもよい。CDK4/6阻害剤が奏効する患者であっても、CDK4/6阻害剤の継続的な投与により耐性を獲得することがある。すなわち、治療当初はCDK4/6阻害剤に感受性であった患者であっても耐性獲得により非感受性となり得る。本願実施形態の方法によると、CDK4/6阻害剤による治療を受けた経験を有する乳がん患者において、CDK4/6阻害剤に対する耐性が生じているか否かを判定できる。また、被検者は、CDK4/6阻害剤以外の治療を受けた経験を有するがん患者(特に乳がん患者)であってもよい。そのような治療としては、手術、放射線照射、化学療法、ホルモン療法及びこれらの組み合わせなどが挙げられる。
【0019】
被検者から採取した試料は、該被検者のCDKを含む限り特に限定されない。本実施形態では、採取した試料は、被検者の細胞又は組織を含むことが好ましい。被検者ががん患者である場合、採取した試料は、被検者のがん細胞又は腫瘍組織を含むことが好ましい。そのような試料としては、例えば、穿刺吸引により採取した細胞又は組織、手術又は生検により採取した組織などが挙げられる。好ましい実施形態では、採取した試料は、乳がん患者から穿刺吸引により採取した乳がん細胞又は乳がん組織、手術又は生検により採取した乳がん組織などである。
【0020】
本実施形態では、試料として、被検者から採取した細胞又は組織から調製した液状試料を用いることが好ましい。細胞又は組織からCDKなどのタンパク質を含む液状試料を調製する方法自体は、当該技術分野において公知である。例えば、細胞又は組織と、適切な界面活性剤を含む緩衝液とを混合して、細胞又は組織を可溶化することにより、CDKを含む液状試料を得ることができる。液状試料が、細胞又は組織の破砕物などの不溶性の夾雑物を含む場合、遠心分離、ろ過などにより該夾雑物を除去してもよい。
【0021】
界面活性剤は特に限定されず、CDKのキナーゼ活性を阻害しない範囲で用いることができる。界面活性剤としては、ポリオキシアルキルフェニルエーテル(例えばNP-40、Triton(商標) X-100など)、ポリソルベート(例えばTween(商標)20など)、デオキシコール酸、CHAPSなどが挙げられる。緩衝液は、CDKのキナーゼ活性に適するpH(通常pH6〜8、好ましくはpH7〜7.8)を維持することができる限り、特に限定されない。そのような緩衝液としては、Tris-HCl、HEPES、PIPESなどが挙げられる。
【0022】
緩衝液には、CDKの分解又は変性を防止するための試薬を添加してもよい。そのような試薬としては、プロテアーゼ阻害剤などが挙げられる。プロテアーゼ阻害剤としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)、市販のプロテアーゼ阻害剤カクテルなどが挙げられる。また、緩衝液には、フッ化ナトリウム、オルトバナジン酸ナトリウムなどのホスファターゼ阻害剤を添加してもよい。
【0023】
(CDKの活性に基づく値)
本発明者らは、種々のがん細胞株において、CDK4及びCDK6の活性に基づく値が、各がん細胞株のCDK4/6阻害剤に対する感受性によって異なることを見出した。すなわち、本発明者らは、CDK4及びCDK6の活性に基づく値が、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定のためのパラメータとなることを見出した。ここで、CDKの活性に基づく値とは、CDKの活性(キナーゼ活性)の測定値と、該CDKの発現量の測定値とを用いて取得される値である。そのような値としては、例えば、CDKの活性の測定値と、該CDKの発現量の測定値との比、積、和、差などが挙げられる。
【0024】
各CDKの活性の測定値及び発現量の測定値は、被検者から採取した細胞又は組織中の各CDKの活性及び発現量を測定することにより得ることができる。好ましい実施形態では、被検者から採取した細胞又は組織から調製した液状試料中の各CDKの活性及び発現量を測定することにより、各CDKの活性の測定値及び発現量の測定値を得る。
【0025】
好ましい実施形態では、CDKの活性に基づく値は、CDKの活性の測定値を、該CDKの発現量の測定値で標準化することにより得られる値である。そのようなCDKの活性に基づく値としては、例えば、CDKの比活性の値が挙げられる。CDK4及びCDK6のそれぞれの比活性の値は、下記の式により算出できる。あるいは、下記の式により算出された値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を、CDK4及び6の比活性の値として用いてもよい。
【0026】
[CDK4の比活性の値] = [CDK4の活性の測定値]/[CDK4の発現量の測定値]
[CDK6の比活性の値] = [CDK6の活性の測定値]/[CDK6の発現量の測定値]
【0027】
より好ましい実施形態では、CDKの活性に基づく値は、被検者から採取した試料をインビトロでCDK4/6阻害剤で処理した場合、CDKの比活性が、未処理の場合に比べて、どの程度変化するかを示す値である。ここで、「インビトロでCDK4/6阻害剤で処理した」とは、被検者から採取した試料、すなわち生体から分離された試料に対してCDK4/6阻害剤を作用させたことを意図する。そのような値は、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理した試料から得たCDKの活性及び発現量の値と、CDK4/6阻害剤で処理していない試料から得たCDKの活性及び発現量の値とから取得できる。例えば、CDKの活性に基づく値は、CDK4/6阻害剤で処理していない試料中のCDKの比活性の値に対する、CDK4/6阻害剤で処理した試料中のCDKの比活性の値の比の値であってもよい。CDK4及びCDK6のそれぞれの比活性の比の値は、下記の式により算出できる。あるいは、下記の式により算出された値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を、CDK4及び6の比活性の比の値として用いてもよい。
【0028】
[CDK4の比活性の比の値] = [CDK4/6阻害剤で処理した試料のCDK4の比活性の値]/[CDK4/6阻害剤で処理していない試料のCDK4の比活性の値]
[CDK6の比活性の比の値] = [CDK4/6阻害剤で処理した試料のCDK6の比活性の値]/[CDK4/6阻害剤で処理していない試料のCDK6の比活性の値]
【0029】
上記の比の値は、例えば、次のようにして取得できる。被検者から採取した細胞又は組織を2つに分割し、一方にCDK4/6阻害剤を添加し、もう一方にはCDK4/6阻害剤を添加せずにインキュベーションする。インキュベーション時間は、6時間以上、好ましくは12時間以上、より好ましくは24時間以上であり、且つ72時間以下、好ましくは60時間以下、より好ましくは48時間以下である。CDK4/6阻害剤の終濃度は、10 nM以上、好ましくは100 nM以上、より好ましくは500 nM以上であり、且つ10000 nM以下、好ましくは5000 nM以下、より好ましくは1000 nM以下である。インキュベーション後、細胞又は組織から液状試料を調製する。液状試料中のCDKの活性及び発現量を測定して、CDKの比活性の値を取得する。そして、CDK4/6阻害剤で処理した試料中のCDKの比活性の値を、CDK4/6阻害剤で処理していない試料中のCDKの比活性の値で割ることにより、比の値を得る。
【0030】
(CDKの活性の測定)
本実施形態において、CDKの活性を測定する方法は、試料中のCDKのキナーゼ活性を反映する値を取得できる限り、特に限定されない。好ましい試料は、被検者から採取した細胞又は組織から調製された液状試料である。好ましい実施形態では、CDKの活性の測定方法は、CDKにより基質をリン酸化する工程と、リン酸化された基質の量を測定する工程とを含む方法である。そのような測定方法は、CDKの基質を用いる公知のインビトロ・キナーゼアッセイから選択できる。インビトロ・キナーゼアッセイでは、キナーゼによりリン酸化された基質の量を測定し、得られた測定値を、キナーゼ活性を反映する値として取得する。測定には、市販のキナーゼアッセイキットを用いてもよい。
【0031】
CDK4及びCDK6の基質は特に限定されず、網膜芽種(RB)タンパク質などの公知のCDK基質から選択できる。また、市販のCDK基質を用いてもよい。本実施形態では、基質は、タンパク質に限られず、オリゴペプチドであってもよい。オリゴペプチドの基質としては、例えば、特開2018-193347号公報(参照により本明細書に組み込まれる)に記載の基質ペプチドが好ましい。この基質ペプチドは、CDKに対して高い反応性を有し、特にCDK4及びCDK6に対してより高い特異性を有する。
【0032】
基質には、必要に応じて、タグなどが付加されてもよい。基質に付加されたタグは、基質を捕捉又は回収するのに有用である。タグとしては、ビオチンタグ、Hisタグ、FLAGタグ、Haloタグ、MBPタグ、HAタグ、Mycタグ、V5タグ、PAタグなどが挙げられる。本実施形態では、ビオチンタグを付加した基質を用いることが好ましい。
【0033】
本実施形態では、液状試料中のCDK4の活性の測定には、基質、CDK4と結合する捕捉物質、及び固相を用いることが好ましい。また、液状試料中のCDK6の活性の測定には、基質、CDK6と結合する捕捉物質、及び固相を用いることが好ましい。測定の手順を簡潔に述べると、まず、捕捉物質を介して固相上に固定したCDK4又は6と、基質とを接触して、CDK4又は6による基質のリン酸化反応を行う。そして、生じたリン酸化基質の量を測定することにより、CDK4又は6の活性値を得る。以下、CDK4の活性を測定する場合を例にして説明するが、CDK6の活性も、CDK6と結合する捕捉物質を用いることにより同様に測定できる。
【0034】
まず、CDK4と、CDK4と結合する捕捉物質とを含む複合体を固相上に形成する。該複合体は、液状試料と、CDK4と結合する捕捉物質と、固相とを混合することにより形成できる。混合の順序は特に限定されない。あるいは、CDK4と結合する捕捉物質をあらかじめ固定した固相を用いてもよい。すなわち、液状試料と、CDK4と結合する捕捉物質を固定した固相とを混合することにより、上記の複合体を固相上に形成できる。CDK4は、CDK4に対応するサイクリンと結合することにより活性を示すので、液状試料中では、CDK4と、CDK4と結合する捕捉物質と、サイクリンD1、D2又はD3とを含む複合体が固相上に形成されると考えられる。これは、CDK6も同様である。
【0035】
CDK4と結合する捕捉物質は、CDK4と特異的に結合する物質であって、CDK4を固相上に固定するための物質をいう。また、CDK6と結合する捕捉物質は、CDK6と特異的に結合する物質であって、CDK6を固相上に固定するための物質をいう。そのような捕捉物質としては、例えば抗体、アプタマーなどが挙げられる。抗体は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、及びそれらの断片(例えばFab、F(ab')2、Fab'など)のいずれであってもよい。好ましくはモノクローナル抗体である。本実施形態では、CDK4と特異的に結合する物質としては、抗CDK4抗体が好ましく、CDK6と特異的に結合する物質としては、抗CDK6抗体が好ましい。抗CDK4抗体及び抗CDK6抗体は市販されており、一般に入手可能である。
【0036】
リン酸化反応に用いられる固相は、捕捉物質を固定可能な不溶性の担体であればよい。CDK4と特異的に結合した捕捉物質が固相に固定されることにより、CDK4は、捕捉物質を介して固相上に捕捉される。捕捉物質の固相への固定の態様は、特に限定されない。例えば、捕捉物質と固相とを直接結合させてもよいし、捕捉物質と固相とを別の物質を介して間接的に結合させてもよい。直接の結合としては、物理的吸着などが挙げられる。間接的な結合としては、結合物質と結合パートナーの組み合わせを介した結合が挙げられる。結合物質と結合パートナーの組み合わせは公知であり、例えばビオチン類(ビオチン、デスチオビオチンなどのビオチン類縁体を含む)とアビジン類(アビジン、ストレプトアビジンなどのアビジン類縁体を含む)との組み合わせ、ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせなどが挙げられる。ハプテンと抗ハプテン抗体の組み合わせとしては、2, 4-ジニトロフェニル(DNP)基と抗DNP抗体が特に好ましい。例えば、捕捉物質をあらかじめDNP基で修飾し、固相に抗DNP抗体をあらかじめ固定しておくことにより、DNP基と抗DNP抗体との結合を介して、捕捉物質を固相に結合できる。捕捉物質が抗体である場合、プロテインA又はGが固定化された固相を用いてもよい。
【0037】
基質にタグが付加されている場合、当該タグ以外の結合物質又は結合パートナーを用いることが好ましい。例えば、基質にビオチンタグが付加されている場合、捕捉物質と固相とは、ビオチン類とアビジン類との組み合わせ以外の結合物質と結合パートナーの組み合わせを介して結合することが好ましい。
【0038】
固相の素材は特に限定されず、例えば、有機高分子化合物、無機化合物、生体高分子などから選択できる。有機高分子化合物としては、ラテックス、ポリスチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。無機化合物としては、磁性体(酸化鉄、酸化クロム及びフェライトなど)、シリカ、アルミナ、ガラスなどが挙げられる。生体高分子としては、不溶性アガロース、不溶性デキストラン、ゼラチン、セルロースなどが挙げられる。これらのうちの2種以上を組み合わせて用いてもよい。固相の形状は特に限定されず、例えば、粒子、膜、マイクロプレート、マイクロチューブ、試験管などが挙げられる。それらの中でも粒子が好ましく、磁性粒子が特に好ましい。
【0039】
複合体の形成後、上清を除去して、複合体を捕捉した固相を回収する。上清には、未反応の遊離成分が含まれるので、複合体を回収する工程は、B/F(Bound/Free)分離に相当する。未反応の遊離成分とは、複合体を構成しない成分をいう。例えば、CDK4と結合しなかった捕捉物質などが挙げられる。複合体を捕捉した固相を回収する手段は、特に限定されない。例えば、固相が粒子である場合、遠心分離で固相を沈殿させることにより、上清を除いて、固相のみを回収できる。固相がマイクロプレートやマイクロチューブなどの容器である場合、上清を除去することにより、固相のみを回収できる。固相が磁性粒子の場合、磁石で磁性粒子を磁気的に拘束して、上清を吸引除去することにより、固相のみを回収できる。これは測定の自動化の観点で好ましい。上清を除去した後、複合体を捕捉した固相をPBSなどの適切な水性媒体で洗浄してもよい。
【0040】
そして、固相上の複合体に含まれるCDK4と、基質とを、アデノシン三リン酸(ATP)の存在下で接触することにより、CDK4による基質のリン酸化反応を行う。この反応は、回収した固相と、基質及びATPを含む緩衝液とを混合して、インキュベーションすることにより行うことができる。インキュベーション時間は2分以上48時間以下であればよい。温度条件は、4℃以上45℃以下であればよい。
【0041】
ATPは、標識ATP又はATP誘導体であってもよい。標識ATPとしては、例えば、放射性同位元素で標識したATP、蛍光標識ATPなどが挙げられる。放射性同位元素で標識したATPとしては、例えば、ATPを構成するリン原子がアイソトープ(例えば32P)に置換されたATPなどが挙げられる。蛍光標識ATPとしては、蛍光色素などの蛍光物質が連結したATPなどが挙げられる。ATP誘導体としては、例えば、特開2002−335997号公報に開示されるATP-γS(アデノシン-5'-(γ-チオ)-三リン酸塩)、特開2015-192635号公報に開示されるATPのγ位にDNP基が連結したDNP基連結ATP誘導体などが挙げられる。
【0042】
緩衝液としては、細胞又は組織の可溶化に用いる緩衝液について述べたことと同様である。基質及びATPを含む緩衝液は、CDKの活性の発揮に必要な金属イオン(例えばマグネシウムイオン、マンガンイオンなど)をさらに含むことが好ましい。
【0043】
リン酸化反応を行った後、複合体を捕捉した固相と上清とを分離し、上清のみを回収する。固相と上清とを分離する手段は特に限定されず、上記のB/F分離と同様にしてもよい。回収した上清には、CDK4によりリン酸化された基質が含まれる。
【0044】
上清の回収後、該上清中のリン酸化基質の量を測定する。得られた測定値は、CDK4の活性の測定値として用いることができる。リン酸化基質の量を測定する方法は、定量的測定が可能であれば、特に限定されない。そのような測定方法自体は公知であり、例えば、酵素結合免疫吸着法(ELISA法)、質量分析法、ウェスタンブロット法などが挙げられる。ELISA法及びウェスタンブロット法では、リン酸化基質を特異的に検出することにより、リン酸化基質の量を測定できる。リン酸化基質は、元の基質に比べて、リン酸基の付加により質量が増加しているので、質量分析法によりリン酸化基質を検出することにより、リン酸化基質の量を測定できる。
【0045】
本実施形態では、ELISA法により、リン酸化基質の量を測定することが好ましい。ELISA法は、直接法、間接法、サンドイッチ法、競合法のいずれであってもよい。以下、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質を用いる直接法又は間接法により、リン酸化基質の量を測定する場合を例として説明する。この例では、ビオチンタグが付加された基質を用いたリン酸化反応で得られた上清と、アビジン類が固定された固相とを用いて、基質及びリン酸化基質を固相上に固定するが、本実施形態の方法はこの例に限定されない。サンドイッチ法により測定する場合は、基質及びリン酸化基質と結合する物質を用いて、基質及びリン酸化基質を固相上に固定できる。
【0046】
まず、リン酸化基質と、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質とを含む複合体を固相上に形成する。該複合体は、回収した上清と、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質と、固相とを混合することにより形成できる。混合の順序は特に限定されない。好ましくは、リン酸化基質と固相とを混合した後、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質をさらに混合する。この例では、リン酸化基質が有するビオチンタグと、固相のアビジン類との結合により、リン酸化基質は固相上に固定される。そして、固相上に固定されたリン酸化基質と、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質とが結合して、複合体が固相上に形成される。
【0047】
リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質は、リン酸化基質中のリン酸化アミノ酸残基と特異的に結合する物質であればよい。そのような物質としては、例えば抗体、アプタマーなどが挙げられる。好ましい実施形態では、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質は、抗リン酸化アミノ酸抗体である。そのような抗体としては、抗リン酸化セリン/スレオニン抗体、抗リン酸化セリン抗体、抗リン酸化スレオニン抗体が挙げられる。抗リン酸化セリン/スレオニン抗体は、タンパク質又はオリゴペプチド中のリン酸化セリン残基及びリン酸化スレオニン残基の両方に特異的に結合する抗体である。抗リン酸化アミノ酸抗体は市販されており、一般に入手可能である。
【0048】
リン酸化基質の量の測定に用いられる固相は、リン酸化基質を固定可能な不溶性の担体であればよい。固相の種類及び材質については上述のとおりである。好ましい実施形態では、固相は磁性粒子である。この例では、アビジン類が固定された固相を用いるが、基質(リン酸化基質を含む)がビオチンタグ以外のタグを有する場合、固相には、該タグと結合する捕捉物質、例えばタグに特異的に結合する抗体又はアプタマーが固定されていてもよい。あるいは、固相には、基質(リン酸化基質を含む)自体と結合する捕捉物質、例えば該基質に特異的に結合する抗体又はアプタマーが固定されていてもよい。
【0049】
本実施形態では、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質を標識物質で標識することが好ましい。ELISA法が直接法である場合、上記の複合体の形成工程において、あらかじめ標識物質が結合した検出用物質を用いる。ELISA法が間接法である場合、上記の複合体が形成された固相と、検出用物質に結合し且つ標識物質を有する物質(例えば二次抗体)とを接触する。これにより、複合体中のリン酸化基質は、検出用物質を介して標識物質により標識される。そして、標識物質により生じるシグナルを検出することにより、リン酸化基質の量を測定できる。
【0050】
本明細書において、「シグナルを検出する」とは、シグナルの有無を定性的に検出すること、シグナル強度を定量すること、及び、シグナルの強度を半定量的に検出することを含む。半定量的な検出とは、シグナルの強度を、「シグナル発生せず」、「弱」、「中」、「強」などのように段階的に検出することをいう。本実施形態では、シグナルの強度を定量的又は半定量的に検出することが好ましい。より好ましい実施形態では、シグナルの強度を定量的に検出する。
【0051】
標識物質は、特に限定されない。標識物質は、例えば、それ自体がシグナルを発生する物質(以下、「シグナル発生物質」ともいう)であってもよいし、他の物質の反応を触媒してシグナルを発生させる物質であってもよい。シグナル発生物質としては、蛍光物質、放射性同位元素などが挙げられる。他の物質の反応を触媒して検出可能なシグナルを発生させる物質としては、例えば、酵素が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ、ペルオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、ルシフェラーゼなどが挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、ローダミン、Alexa Fluor(登録商標)などの蛍光色素、GFPなどの蛍光タンパク質などが挙げられる。放射性同位元素としては、125I、14C、32Pなどが挙げられる。それらの中でも、標識物質として、酵素が好ましく、アルカリホスファターゼ及びペルオキシダーゼが特に好ましい。
【0052】
酵素の基質は、該酵素の種類に応じて公知の基質から適宜選択できる。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合、基質として、CDP-Star(登録商標)(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1, 2-ジオキセタン-3, 2-(5'-クロロ)トリシクロ[3. 3. 1. 13, 7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ−インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン酸などの発色基質が挙げられる。また、酵素としてペルオキシダーゼを用いる場合、基質としては、ルミノール及びその誘導体などの化学発光基質、2, 2'-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸アンモニウム)(ABTS)、1, 2-フェニレンジアミン(OPD)、3, 3',5, 5'-テトラメチルベンジジン(TMB)などの発色基質が挙げられる。
【0053】
標識物質が放射性同位体である場合は、シグナルとしての放射線を、シンチレーションカウンターなどの公知の装置を用いて測定できる。また、標識物質が蛍光物質である場合は、シグナルとしての蛍光を、蛍光マイクロプレートリーダーなどの公知の装置を用いて測定できる。なお、励起波長及び蛍光波長は、用いた蛍光物質の種類に応じて適宜決定できる。
【0054】
シグナルの検出結果は、CDK4によりリン酸化された基質の量を示す。上述のように、リン酸化基質の量を示す測定値は、CDK4の活性の測定値として用いることができる。例えば、シグナルの強度を定量的に検出する場合は、シグナル強度の測定値自体又は該測定値から取得される値を、CDK4の活性の測定値として用いることができる。シグナル強度の測定値から取得される値としては、例えば、該測定値からバックグラウンドの値を差し引いた値、該測定値を検量線に当てはめて取得した値などが挙げられる。
【0055】
本実施形態では、CDKによる基質のリン酸化反応及びリン酸化基質の量の測定の各工程又は一連の工程を用手法で行ってもよいし、装置により行ってもよい。そのような装置としては、例えば、HISCLシリーズ(シスメックス株式会社製)などの自動免疫測定装置などが挙げられる。
【0056】
(CDKの発現量の測定)
本実施形態において、CDKの発現量を測定する方法は、試料中のCDKのタンパク質としての量又は濃度を反映する値を取得できる限り、特に限定されない。好ましい試料は、被検者から採取した細胞又は組織から調製された液状試料である。発現量の測定に用いる液状試料は、活性の測定に用いた液状試料と同じであることが好ましい。
【0057】
好ましい実施形態では、発現量の測定方法は、CDKと特異的に結合する物質を用いる方法である。CDKと特異的に結合する物質は、活性の測定に用いたCDKと結合する捕捉物質と同じであってもよい。CDKと特異的に結合する物質としては、抗体、アプタマーなどが挙げられる。好ましくは、CDK4と特異的に結合する物質は抗CDK4抗体であり、CDK6と特異的に結合する物質は抗CDK6抗体である。抗体を用いる発現量の測定方法は公知であり、例えば、ウェスタンブロット法、ELISA法などが挙げられる。いずれの測定方法においても、定量的測定のための参照試料として、所定の量又は濃度の各CDKの組換えタンパク質を測定することが好ましい。参照試料の測定値から検量線などを作成してもよい。
【0058】
本実施形態では、被検者から採取した細胞又は組織から調製した液状試料中の各CDKの発現量を測定することが好ましい。以下、ウェスタンブロット法による、液状試料中のCDKの発現量の測定について説明する。
【0059】
まず、液状試料の総タンパク質濃度を測定する。総タンパク質濃度の測定方法は公知であり、例えばBCA法、Bradford法、Lowry法などが挙げられる。市販の総タンパク質濃度の測定キットを用いてもよい。総タンパク質濃度の測定後、必要に応じて液状試料を希釈して、所定の総タンパク質濃度となるように調整してもよい。そして、所定量の濃度既知の液状試料から電気泳動用サンプルを調製する。得られた電気泳動用サンプルを、ポリアクリルアミドゲルなどの適切なゲルで電気泳動する。このとき、所定量の濃度既知の組換えCDK4又はCDK6も同様に電気泳動する。電気泳動後、ゲル中のタンパク質をPVDFメンブレンなどの適切なメンブレンに転写し、抗CDK4抗体又は抗CDK6抗体を用いて一次反応を行う。そして、標識物質で標識された抗体を用いて二次反応を行い、該標識物質により生じるシグナルを検出することにより、メンブレン上のCDK4又はCDK6を測定する。
【0060】
標識物質は特に限定されないが、好ましくはペルオキシダーゼなどの酵素である。酵素の基質は上記のとおりである。本実施形態では、標識物質によるシグナルの検出が可能な装置、例えばCCDイメージャー、デンシトメトリーなどを用いて、メンブレンの画像を取得することが好ましい。検出結果をImage Lab (Bio Rad社)などの公知の画像解析ソフトウェアで定量解析して、CDK4又はCDK6の発現量の測定値を取得する。
【0061】
(閾値との比較及び判定)
CDK4及びCDK6のうち、いずれか1つのCDKの活性に基づく値を用いる場合、次のように判定を行うことができる。一実施形態において、CDK4の活性に基づく値を用いる場合、CDK4の活性に基づく値と、CDK4に対応する閾値とを比較する。CDK4の活性に基づく値が閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK4の活性に基づく値が閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0062】
別の実施形態において、CDK6の活性に基づく値を用いる場合、CDK6の活性に基づく値と、CDK6に対応する閾値とを比較する。CDK6の活性に基づく値が閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK6の活性に基づく値が閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0063】
別の実施形態において、CDK4の活性に基づく値及びCDK6の活性に基づく値の両方を用いる場合、次のように判定を行うことができる。CDK4の活性に基づく値と第1の閾値とを比較し、CDK6の活性に基づく値と第2の閾値とを比較する。この例において、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK6に対応する閾値である。CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低いか、又はCDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0064】
さらに別の実施形態において、CDK4の活性に基づく値と第1の閾値とを比較し、CDK6の活性に基づく値と第2の閾値とを比較する。この例において、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK6に対応する閾値である。CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、又は、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有すると判定してもよい。あるいは、感受性の判定結果を示さずに、他の医学的所見に基づいてCDK4/6阻害剤の投与の要否を判断してもよい。
【0065】
本明細書において、「被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性である」とは、「CDK4/6阻害剤が被検者に奏効する可能性が高い」ことを意味し、また「被検者はCDK4/6阻害剤の投与対象として選択される」と言い換えることができる。本明細書において、「被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性である」とは、「CDK4/6阻害剤が被検者に奏効する可能性が低い」ことを意味し、また「被検者はCDK4/6阻害剤の投与対象として選択されない」と言い換えることができる。本明細書において、「被検者がCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有する」とは、「CDK4/6阻害剤が被検者に奏効する可能性が中程度である」ことを意味し、また「被検者はCDK4/6阻害剤の投与対象として選択される可能性がある」と言い換えることができる。
【0066】
上記の各CDKに対応する閾値は、適宜設定することができる。閾値は、例えば、CDK4/6阻害剤に対して感受性であるがん患者と、CDK4/6阻害剤に対して非感受性であるがん患者とから採取した試料におけるCDKの活性に基づく値から設定することができる。例えば、次のようにして所定の閾値を設定してもよい。まず、複数のがん患者から試料を採取して、各CDKの活性に基づく値を取得する。試料の採取後、がん患者にCDK4/6阻害剤を投与して、経過を観察する。腫瘍の大きさの変化、細胞診、組織診などの公知の診断方法に基づいて、各がん患者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を確認する。そして、がん患者を、CDK4/6阻害剤に対して感受性である群と、CDK4/6阻害剤に対して非感受性である群とに分類する。それぞれの群の患者についてのCDKの活性に基づく値から、CDK4/6阻害剤に対して感受性である群と、CDK4/6阻害剤に対して非感受性である群とを区別可能な値を求め、その値を所定の閾値として設定する。閾値の設定に際しては、判定の感度、特異度、陽性的中率及び陰性的中率も考慮することが好ましい。
【0067】
(CDK2の活性に基づく値)
本発明者らは、CDK2の活性に基づく値も、CDK4/6阻害剤に対する感受性が異なるがん細胞株の間で異なっていることを見出している。よって、本実施形態の判定方法では、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、CDK2の活性に基づく値とを取得することが好ましい。
【0068】
CDK2の活性に基づく値は、CDK2の活性の測定値と、CDK2の発現量の測定値とを用いて取得される値である。CDK2の活性は、CDK2と結合する捕捉物質及びCDK2の基質を用いることにより、CDK4及びCDK6の活性と同様に測定できる。また、CDK2の発現量は、CDK2と特異的に結合する物質を用いることにより、CDK4及びCDK6の発現量と同様に測定できる。CDK2と結合する捕捉物質、及びCDK2と特異的に結合する物質としては、抗体、アプタマーなどが挙げられる。本実施形態では、抗CDK2抗体を用いることが好ましい。CDK2の基質は、CDK4及びCDK6の基質と同様である。
【0069】
好ましい実施形態では、CDK2の活性に基づく値は、CDK2の比活性の値である。CDK2の比活性の値は、下記の式により算出できる。あるいは、下記の式により算出された値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を、CDK2の比活性の値として用いてもよい。
【0070】
[CDK2の比活性の値] = [CDK2の活性の測定値]/[CDK2の発現量の測定値]
【0071】
より好ましい実施形態では、CDK2の活性に基づく値は、CDK4/6阻害剤で処理していない試料中のCDK2の比活性の値に対する、CDK4/6阻害剤で処理した試料中のCDK2の比活性の値の比である。CDK2の比活性の比の値は、下記の式により算出できる。あるいは、下記の式により算出された値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を、CDK2の比活性の比の値として用いてもよい。
【0072】
[CDK2の比活性の比の値] = [CDK4/6阻害剤で処理した試料のCDK2の比活性の値]/[CDK4/6阻害剤で処理していない試料のCDK2の比活性の値]
【0073】
本実施形態の判定方法では、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、該CDKに対応する閾値とを比較し、CDK2の活性に基づく値と、CDK2に対応する閾値とを比較して、比較結果に基づいて、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定することが好ましい。各CDKに対応する閾値及び判定結果の詳細は、上記のとおりである。
【0074】
一実施形態において、CDK4の活性に基づく値及びCDK2の活性に基づく値を用いる場合、次のように判定を行うことができる。CDK4の活性に基づく値と第1の閾値とを比較し、CDK2の活性に基づく値と第2の閾値とを比較する。この例において、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK2に対応する閾値である。CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0075】
一方、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、又は、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有すると判定してもよい。あるいは、感受性の判定結果を示さずに、他の医学的所見に基づいてCDK4/6阻害剤の投与の要否を判断してもよい。
【0076】
別の実施形態において、CDK6の活性に基づく値及びCDK2の活性に基づく値を用いる場合、次のように判定を行うことができる。CDK6の活性に基づく値と第1の閾値とを比較し、CDK2の活性に基づく値と第2の閾値とを比較する。この例において、第1の閾値は、CDK6に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK2に対応する閾値である。CDK6の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK6の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0077】
一方、CDK6の活性に基づく値が第1の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、又は、CDK6の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有すると判定してもよい。あるいは、感受性の判定結果を示さずに、他の医学的所見に基づいてCDK4/6阻害剤の投与の要否を判断してもよい。
【0078】
別の実施形態において、CDK4の活性に基づく値、CDK6の活性に基づく値及びCDK2の活性に基づく値を用いる場合、次のように判定を行うことができる。CDK4の活性に基づく値と第1の閾値とを比較し、CDK6の活性に基づく値と第2の閾値とを比較し、CDK2の活性に基づく値と第3の閾値とを比較する。この例において、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK6に対応する閾値であり、第3の閾値は、CDK2に対応する閾値である。CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値以上であるとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定してもよい。また、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値より低いとき、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定してもよい。
【0079】
一方、以下の場合は、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有すると判定してもよい。あるいは、感受性の判定結果を示さずに、他の医学的所見に基づいてCDK4/6阻害剤の投与の要否を判断してもよい。
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値より低いとき、
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値以上であるとき、
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値より低いとき、
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値より低いとき、
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値より低く、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値以上であるとき、又は
- CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値以上であるとき。
【0080】
被検者がCDK4/6阻害剤による治療をまだ受けていない場合、本実施形態の判定方法は、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であるか否かを、CDK4/6阻害剤の投与前に判定することを可能にする。被検者がCDK4/6阻害剤による治療を受けている場合、本実施形態の判定方法は、被検者がCDK4/6阻害剤に対して耐性を生じているか否かを判定することを可能にする。このように、本実施形態の判定方法は、医師などに、CDK4/6阻害剤の感受性の判定を補助する情報を提供できる。このような情報は、CDK4/6阻害剤による治療の開始、継続又は中止を検討するのに有用である。また、本実施形態の判定方法は、CDK4/6阻害剤の奏効性の判定方法、又はCDK4/6阻害剤の効果の予測方法と言い換えることができる。
【0081】
(本実施形態の判定方法の変形例)
さらなる実施形態では、被検者から採取した試料を分割して第1アリコート及び第2アリコートを取得し、各アリコート中のCDKの比活性の値を用いて、CDK4/6阻害剤の感受性を判定してもよい。この変形例では、第1アリコートは、CDK4/6阻害剤で処理していないアリコートであり、第2アリコートは、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理したアリコートであることが好ましい。この例によれば、1回の採取で得た試料から、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定できる。具体的には、試料を分割して得た各アリコート中のCDKの比活性の値を用いることにより、CDK4/6阻害剤の添加前と添加後との間のCDKの比活性の変化に基づいて、CDK4/6阻害剤に対する感受性を判定できる。
【0082】
第1アリコートとしては、CDK4/6阻害剤で処理していない細胞又は組織が好ましい。例えば、被検者から採取した細胞又は組織を2つに分割して得た一方のアリコートを、そのまま第1アリコートとして用いることができる。より好ましくは、第1アリコートは、CDK4/6阻害剤で処理していない細胞又は組織から調製した液状試料である。
【0083】
第2アリコートとしては、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理した細胞又は組織が好ましい。そのような第2アリコートは、被検者から採取した細胞又は組織を2つに分割して得たもう一方のアリコートにCDK4/6阻害剤を添加して、所定の時間インキュベーションすることにより得ることができる。より好ましくは、第2アリコートは、インビトロでCDK4/6阻害剤で処理した細胞又は組織から調製した液状試料である。インキュベーション時間及びCDK4/6阻害剤の終濃度は上記のとおりである。
【0084】
この例では、第1アリコート中の第1CDKの比活性(「第1比活性」ともいう)の値と、第2アリコート中の第1CDKの比活性(「第2比活性」ともいう)の値とを取得する。ここで、第1CDKは、CDK4又はCDK6である。第1比活性の値及び第2比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0085】
この例では、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値を用いて、CDK4/6阻害剤に対する感受性を判定する。そのような比としては、例えば、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比([第2比活性の値]/[第1比活性の値])、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比([第1比活性の値]/[第2比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0086】
この例では、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。また、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。所定の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
【0087】
上記の変形例では、第1及び第2アリコート中の複数のCDKの比活性の値を用いて判定を行ってもよい。以下、CDK4又はCDK6とCDK2との2つのCDKの比活性の値を用いる場合を例にして説明する。まず、比活性の値の取得工程において、第1比活性及び第2比活性の値に加えて、第1アリコート中の第2CDKの比活性(「第3比活性」ともいう)の値と、第2アリコート中の第2CDKの比活性(「第4比活性」ともいう)の値とをさらに取得する。この場合、第1CDKはCDK4又はCDK6であり、第2CDKはCDK2である。第3比活性の値及び第4比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0088】
次に、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値、及び、第3比活性の値と第4比活性の値との比の値を取得する。第3比活性の値と第4比活性の値との比としては、例えば、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比([第4比活性の値]/[第3比活性の値])、又は、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比([第3比活性の値]/[第4比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0089】
以下の場合、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。第1及び第2の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき、又は
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき。
【0090】
以下の場合、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき、又は
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき。
【0091】
CDK4、CDK6及びCDK2の3つのCDKの比活性の値を用いる場合を例にして説明する。まず、比活性の値の取得工程において、第1比活性及び第2比活性の値に加えて、第3比活性の値と、第4比活性と、第1アリコート中の第3CDKの比活性(「第5比活性」ともいう)の値と、第2アリコート中の第3CDKの比活性(「第6比活性」ともいう)の値とをさらに取得する。この例では、第1CDKはCDK4であり、第2CDKはCDK6であり、第3CDKはCDK2である。第5比活性の値及び第6比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0092】
次に、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値、第3比活性の値と第4比活性の値との比の値、及び、第5比活性の値と第6比活性の値との比の値を取得する。第5比活性の値と第6比活性の値との比としては、例えば、第5比活性の値に対する第6比活性の値の比([第6比活性の値]/[第5比活性の値])、又は、第6比活性の値に対する第5比活性の値の比([第5比活性の値]/[第6比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0093】
以下の場合、被検者はCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。第1、第2及び第3の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ第5比活性の値に対する第6比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき、又は、
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ第6比活性の値に対する第5比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき。
【0094】
以下の場合、被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ第5比活性の値に対する第6比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき、又は、
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ第6比活性の値に対する第5比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき。
【0095】
[2.CDK4/6阻害剤を投与された被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法]
本発明の一実施形態は、CDK4/6阻害剤を投与された被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性の判定方法に関する。上記のとおり、CDK4/6阻害剤による治療では、耐性の獲得が問題となっている。本実施形態の判定方法によれば、被検者から採取した試料中のCDKの比活性の値に基づいて、CDK4/6阻害剤に対する感受性を判定できることから、該阻害剤の投与前と投与後との間のCDKの比活性の変化に基づいて、被検者においてCDK4/6阻害剤への耐性が生じているか否かをモニタリングすることができる。この判定方法によれば、CDK4/6阻害剤による治療を継続するか否かの判断を補助する情報を、医師などに提供できる。なお、被検者、CDK4/6阻害剤、試料、CDKの比活性の取得等の詳細については、上記の判定方法について述べたことと同じである。
【0096】
本実施形態では、CDK4/6阻害剤の投与前に被検者から採取した試料(「第1試料」ともいう)と、CDK4/6阻害剤の投与後に被検者から採取した試料(「第2試料」ともいう)とを用いる。第1試料及び第2試料としては、被検者から採取した細胞又は組織が好ましく、細胞又は組織から調製した液状試料がより好ましい。第1試料の採取時期は、被検者にCDK4/6阻害剤を投与する前であれば、特に限定されない。第2試料の採取時期は、被検者にCDK4/6阻害剤を投与した後であれば特に限定されないが、投与から1日後〜16週間後であり、好ましくは2日後〜12週間後、より好ましくは4週間後〜12週間後である。被検者ががん患者である場合、一般に、治療開始後しばらくの間は経過観察のために通院する必要があるので、この通院の際に試料を採取してもよい。
【0097】
本実施形態では、第1試料中の第1CDKの比活性(「第1比活性」ともいう)の値と、第2試料中の第1CDKの比活性(「第2比活性」ともいう)の値とを取得する。ここで、第1CDKは、CDK4又はCDK6である。第1比活性及び第2比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0098】
本実施形態では、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値を用いて、CDK4/6阻害剤を投与された被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を判定する。そのような比としては、例えば、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比([第2比活性の値]/[第1比活性の値])、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比([第1比活性の値]/[第2比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0099】
本実施形態では、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。非感受性であると判定された場合、被検者にはCDK4/6阻害剤への耐性が生じていると判定してもよい。また、第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が所定の閾値以上であるとき、又は、第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が所定の閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。感受性であると判定された場合、被検者にはCDK4/6阻害剤への耐性は生じていないと判定してもよい。所定の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
【0100】
本実施形態では、第1試料及び第2試料中の複数のCDKの比活性の値を用いて判定を行ってもよい。以下、CDK4又はCDK6とCDK2との2つのCDKの比活性の値を用いる場合を例にして説明する。まず、比活性の値の取得工程において、第1比活性及び第2比活性の値に加えて、第1試料中の第2CDKの比活性(「第3比活性」ともいう)の値と、第2試料中の第2CDKの比活性(「第4比活性」ともいう)の値とをさらに取得する。この場合、第1CDKはCDK4又はCDK6であり、第2CDKはCDK2である。第3比活性の値及び第4比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0101】
次に、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値、及び、第3比活性の値と第4比活性の値との比の値を取得する。第3比活性の値と第4比活性の値との比としては、例えば、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比([第4比活性の値]/[第3比活性の値])、又は、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比([第3比活性の値]/[第4比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0102】
以下の場合、CDK4/6阻害剤を投与された被検者は、CDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。第1及び第2の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき、又は
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき。
【0103】
以下の場合、CDK4/6阻害剤を投与された被検者はCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、且つ第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低いとき、又は
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、且つ第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であるとき。
【0104】
CDK4、CDK6及びCDK2の3つのCDKの比活性の値を用いる場合を例にして説明する。まず、比活性の値の取得工程において、第1比活性及び第2比活性の値に加えて、第3比活性の値と、第4比活性と、第1試料中の第3CDKの比活性(「第5比活性」ともいう)の値と、第2試料中の第3CDKの比活性(「第6比活性」ともいう)の値とをさらに取得する。この例では、第1CDKはCDK4であり、第2CDKはCDK6であり、第3CDKはCDK2である。第5比活性の値及び第6比活性の値は、本実施形態の判定方法について述べた各CDKの比活性の値と同様にして取得できる。
【0105】
次に、第1比活性の値と第2比活性の値との比の値、第3比活性の値と第4比活性の値との比の値及び、第5比活性の値と第6比活性の値との比の値を取得する。第5比活性の値と第6比活性の値との比としては、例えば、第5比活性の値に対する第6比活性の値の比([第6比活性の値]/[第5比活性の値])、又は、第6比活性の値に対する第5比活性の値の比([第5比活性の値]/[第6比活性の値])が挙げられる。あるいは、これらの比の値と、所定の定数又は係数とを用いて取得される値(例えば積、比、和、差など)を用いてもよい。
【0106】
以下の場合、CDK4/6阻害剤を投与された被検者は、CDK4/6阻害剤に対して非感受性であると判定する。第1、第2及び第3の閾値は、上記のCDKに対応する閾値と同様に適宜決定できる。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ第5比活性の値に対する第6比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき、又は、
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ第6比活性の値に対する第5比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき。
【0107】
以下の場合、CDK4/6阻害剤を投与された被検者は、CDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する。
- 第1比活性の値に対する第2比活性の値の比の値が第1の閾値以上であり、第3比活性の値に対する第4比活性の値の比の値が第2の閾値以上であり、且つ第5比活性の値に対する第6比活性の値の比の値が第3の閾値より低いとき、又は、
- 第2比活性の値に対する第1比活性の値の比の値が第1の閾値より低く、第4比活性の値に対する第3比活性の値の比の値が第2の閾値より低く、且つ第6比活性の値に対する第5比活性の値の比の値が第3の閾値以上であるとき。
【0108】
[3.がんの治療方法]
本発明の一実施形態は、がんの治療方法に関する。本実施形態のがんの治療方法は、がん患者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、該CDKに対応する閾値とを比較する工程と、該CDKの活性に基づく値が該閾値以上であるとき、前記被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定する工程と、CDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定された患者にCDK4/6阻害剤を投与する工程とを含む。
【0109】
本実施形態では、CDK2の活性に基づく値をさらに用いることが好ましい。すなわち、本実施形態のがんの治療方法は、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値と、該CDKに対応する閾値とを比較し、CDK2の活性に基づく値と、CDK2に対応する閾値とを比較する工程と、比較結果に基づき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であると判定されたとき、該被検者にCDK4/6阻害剤を投与する工程を含むことが好ましい。
【0110】
がんの種類、CDK4/6阻害剤、試料、CDKの活性に基づく値、閾値、比較工程及び判定工程等の詳細は、上記の判定方法について述べたことと同じである。本実施形態の治療方法は、特に乳がん患者に適している。投与工程では、治療上の有効量のCDK4/6阻害剤をがん患者に投与することが好ましい。治療上の有効量は、がんの種類、がんの進行度、CDK4/6阻害剤の種類、治療ガイドラインなどに応じて適宜決定される。
【0111】
[4.CDKの活性に基づく値の取得方法]
上記の判定方法で得られるCDKの活性に基づく値は、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を示唆する情報ともいえる。よって、本発明の範囲には、CDKの活性に基づく値の取得方法(以下、「取得方法」ともいう)も含まれる。本実施形態の取得方法は、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値を取得する工程を含み、取得したCDKの活性に基づく値は、該CDKに対応する閾値より低いとき、該被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であることを示唆する。
【0112】
本実施形態の取得方法では、まず、被検者から採取した試料中のCDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値を取得する。被検者、CDK4/6阻害剤、試料、CDKの活性に基づく値の詳細については、上記の判定方法について述べたことと同じである。好ましい実施形態では、被検者は、がん患者、特に乳がん患者である。また、被検者は、CDK4/6阻害剤による治療を受けた経験を有するがん患者(特に乳がん患者)であってもよい。
【0113】
本実施形態の取得方法で得られるCDKの活性に基づく値は、各CDKに対応する閾値との比較により、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を示唆する情報となる。例えば、取得したCDKの活性に基づく値が、該CDKに対応する閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であることを示唆する。また、取得したCDKの活性に基づく値が、該CDKに対応する閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であることを示唆する。
【0114】
本実施形態では、CDK2の活性に基づく値をさらに取得することが好ましい。すなわち、本実施形態の取得方法では、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値が、該CDKに対応する閾値より低く、且つCDK2の活性に基づく値が、CDK2に対応する閾値以上であるとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して非感受性であることを示唆する。また、本実施形態の取得方法では、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKの活性に基づく値が、該CDKに対応する閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が、CDK2に対応する閾値より低いとき、被検者がCDK4/6阻害剤に対して感受性であることを示唆する。
【0115】
[5.試薬キット]
本発明の範囲には、上記の判定方法又は取得方法に用いるための試薬キットも含まれる。本実施形態の試薬キットは、CDK4及びCDK6から選択される少なくとも1つのCDKと結合する捕捉物質と、該CDKの基質とを含む。好ましくは、試薬キットは、CDK4と結合する捕捉物質と、CDK6と結合する捕捉物質と、CDK4及びCDK6の基質とを含む。本実施形態では、CDK4及びCDK6の基質は、CDK4及びCDK6に対する共通の基質であってもよい。あるいは、CDK4及びCDK6の基質は、CDK4に対する基質及びCDK6に対する基質の組み合わせであってもよい。
【0116】
さらなる実施形態では、試薬キットは、CDK2と結合する捕捉物質と、CDK2の基質とをさらに含んでもよい。CDK2の基質は、CDK2、CDK4及びCDK6に対する共通の基質であってもよい。この場合、試薬キットは、CDK4と結合する捕捉物質と、CDK6と結合する捕捉物質と、CDK2と結合する捕捉物質と、CDK2、CDK4及びCDK6の基質とを含む。
【0117】
CDKと結合する捕捉物質及びCDKの基質の詳細は、上記の判定方法について述べたことと同様である。本実施形態では、CDKと結合する捕捉物質としては、抗体が特に好ましい。また、CDKの基質としては、特開2018-193347号公報に記載の基質ペプチドが好ましい。
【0118】
本実施形態の試薬キットは、CDKと結合する捕捉物質を固定するための固相をさらに含んでもよい。また、本実施形態の試薬キットは、ATPを含む緩衝液をさらに含んでもよい。固相、ATP及び緩衝液の詳細は、上記の判定方法について述べたことと同じである。
【0119】
本実施形態の試薬キットは、基質及びリン酸化基質を固定するための固相をさらに含んでもよい。また、本実施形態の試薬キットは、リン酸化アミノ酸と結合する検出用物質をさらに含んでもよい。固相、及びリン酸化アミノ酸と結合する検出用物質の詳細は、上記の判定方法について述べたことと同じである。
【0120】
本実施形態の試薬キットは、CDKの発現量を測定するための、CDKと特異的に結合する物質をさらに含んでもよい。CDKと特異的に結合する物質の詳細は、上記の判定方法について述べたことと同じである。本実施形態では、CDKと特異的に結合する物質としては、抗体が特に好ましい。
【0121】
本実施形態の試薬キットの一例を、図1Aに示す。図1Aにおいて、11は、試薬キットを示し、12は、CDK4又はCDK6と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第1容器を示し、13は、基質を含む試薬を収容した第2容器を示し、14は、梱包箱を示し、15は、添付文書を示す。この例において、基質は、CDK4及びCDK6に対する共通の基質である。
【0122】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、図1Bに示す。図1Bにおいて、21は、試薬キットを示し、22は、CDK4と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第1容器を示し、23は、CDK6と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第2容器を示し、24は、基質を含む試薬を収容した第3容器を示し、25は、梱包箱を示し、26は、添付文書を示す。この例において、基質は、CDK4及びCDK6に対する共通の基質である。
【0123】
さらなる実施形態の試薬キットの一例を、図1Cに示す。図1Cにおいて、31は、試薬キットを示し、32は、CDK4と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第1容器を示し、33は、CDK6と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第2容器を示し、34は、CDK2と結合する捕捉物質を含む試薬を収容した第3容器を示し、35は、基質を含む試薬を収容した第4容器を示し、36は、梱包箱を示し、37は、添付文書を示す。この例において、基質は、CDK2、CDK4及びCDK6に対する共通の基質である。
【0124】
上記のいずれの試薬キットにおいても、キャリブレータを含むことが好ましい。キャリブレータの一例としては、CDK4の活性及び/又は発現量の定量のためのキャリブレータ(CDK4キャリブレータ)、CDK6の活性及び/又は発現量の定量のためのキャリブレータ(CDK6キャリブレータ)、及びCDK2の活性及び/又は発現量の定量のためのキャリブレータ(CDK2キャリブレータ)が挙げられる。CDK4キャリブレータは、例えば、CDK4を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、組換えCDK4タンパク質を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。CDK6キャリブレータは、例えば、CDK6を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、組換えCDK6タンパク質を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。CDK2キャリブレータは、例えば、CDK2を含まない緩衝液(ネガティブコントロール)と、組換えCDK2タンパク質を既知濃度で含む緩衝液とを備えていてもよい。
【0125】
[6.装置及びコンピュータプログラム]
本発明の範囲には、上記の本実施形態の判定方法を実施するための装置も含まれる。そのような装置は、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定装置(以下、「判定装置」ともいう)である。また、本発明の範囲には、上記の本実施形態の判定方法をコンピュータに実行させるためのコンピュータプログラムも含まれる。そのようなコンピュータプログラムは、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定のためのコンピュータプログラムである。さらに、本発明の範囲には、上記の本実施形態の取得方法を実施するための装置も含まれる。そのような装置は、CDKの活性に基づく値の取得装置である。
【0126】
以下に、上記の本実施形態の方法を実施するための装置の一例を、図面を参照して説明する。しかし、本実施形態は、この例に示される形態のみに限定されない。図2は、判定装置の概略図である。図2に示された判定装置10は、CDKの活性測定装置20と、CDKの発現量測定装置30と、プリンタ50と、測定装置20及び30並びにプリンタ50と接続されたコンピュータシステム40とを含む。
【0127】
本実施形態において、CDKの活性測定装置の種類は特に限定されず、活性の測定方法に応じて適宜選択できる。図2に示される例では、CDKの活性測定装置20は、ELISA法により生じる化学発光シグナルを検出可能な市販の自動免疫測定装置である。自動免疫測定装置の例としては、シスメックス株式会社製のHISCL(商標)-5000、HI-1000などが挙げられる。CDKの活性測定装置20は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されず、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。例えば、CDKの活性測定装置20に、リン酸化基質を含む上清、基質及びリン酸化基質を固定するための固相、及びリン酸化アミノ酸と結合する検出用物質をセットすると、該装置は、各試薬を用いて抗原抗体反応を実行し、リン酸化基質と特異的に結合した酵素標識抗体に基づく化学発光シグナルを取得し、該シグナルからCDKの活性の測定値を取得する。CDKの活性測定装置20は、得られた活性の測定値をコンピュータシステム40に送信する。
【0128】
本実施形態において、CDKの発現量測定装置の種類は特に限定されず、発現量の測定方法に応じて適宜選択できる。図2に示される例では、CDKの発現量測定装置30は、ウェスタンブロット法により生じる化学発光シグナルを検出可能な市販のCCDイメージャーである。CDKの発現量測定装置30は、用いた標識物質に基づくシグナルの検出が可能であれば特に限定されず、標識物質の種類に応じて適宜選択できる。例えば、CDKの発現量測定装置30に、抗CDK抗体及び酵素標識抗体を用いてウェスタンブロットしたメンブレンをセットすると、該装置は、メンブレン上のCDKと間接的に結合した酵素標識抗体に基づく化学発光シグナルを取得し、該シグナルからCDKの発現量の測定値を取得する。CDKの発現量測定装置30は、得られた発現量の測定値をコンピュータシステム40に送信する。
【0129】
コンピュータシステム40は、コンピュータ本体400と、入力部401と、検体情報や判定結果などを表示する表示部402とを含む。コンピュータシステム40は、測定装置20及び30からCDKの活性及び発現量の測定値を受信する。そして、コンピュータシステム40のプロセッサは、CDKの活性及び発現量の測定値から、CDKの活性に基づく値を算出する。この例では、コンピュータシステム40のプロセッサは、CDKの比活性の値を算出する。各測定値により、CDK4/6阻害剤で処理した試料から得たCDKの活性及び発現量の値と、CDK4/6阻害剤で処理していない試料から得たCDKの活性及び発現量の値を受信している場合、コンピュータシステム40のプロセッサは、CDKの比活性の比の値を算出することが好ましい。
【0130】
コンピュータシステム40のプロセッサは、算出したCDKの活性に基づく値に基づいて、ハードディスク413にインストールされた、CDK4/6阻害剤の感受性の判定のためのコンピュータプログラムを実行する。なお、コンピュータシステム40は、図2に示されるように、測定装置20及び30とは別個の機器であってもよい。あるいは、コンピュータシステム40は、測定装置20及び/又は30を内包する機器であってもよい。
【0131】
図3を参照して、コンピュータ本体400は、CPU(Central Processing Unit)410と、ROM(Read Only Memory)411と、RAM(Random Access Memory)412と、ハードディスク413と、入出力インターフェイス414と、読取装置415と、通信インターフェイス416と、画像出力インターフェイス417とを備えている。CPU410、ROM411、RAM412、ハードディスク413、入出力インターフェイス414、読取装置415、通信インターフェイス416及び画像出力インターフェイス417は、バス418によってデータ通信可能に接続されている。また、測定装置20及び30並びにプリンタ50は、通信インターフェイス416により、コンピュータシステム40と通信可能に接続されている。
【0132】
CPU410は、ROM411又はハードディスク413に記憶されているプログラム及びRAM412にロードされたプログラムを実行することが可能である。CPU410は、各CDKの活性に基づく値を算出し、ROM411又はハードディスク413に記憶されている各CDKに対応する所定の閾値を読み出し、被検者がCDK4/6阻害剤に感受性であるか否かを判定する。CPU410は、判定結果を出力して表示部402に表示させる。なお、CDKに対応する閾値は、コンピュータシステム製造時に予め製造者がROM411又はハードディスク413に記憶させていてもよいし、入力部401を用いてユーザが入力しROM411又はハードディスク413に記憶させてもよい。
【0133】
ROM411は、マスクROM、PROM、EPROM、EEPROMなどによって構成されている。ROM411には、前述のようにCPU410によって実行されるコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータが記録されている。ROM411には、各CDKに対応する所定の閾値など、後述の判定フローに用いられるデータが記録されていてもよい。
【0134】
RAM412は、SRAM、DRAMなどによって構成されている。RAM412は、ROM411及びハードディスク413に記録されているプログラムの読み出しに用いられる。RAM412はまた、これらのプログラムを実行するときに、CPU410の作業領域として利用される。
【0135】
ハードディスク413は、CPU410に実行させるためのオペレーティングシステム、アプリケーションプログラム(上記の感受性の判定のためのコンピュータプログラム)などのコンピュータプログラム及び当該コンピュータプログラムの実行に用いるデータがインストールされている。ハードディスク413には、各CDKに対応する所定の閾値など、後述の判定フローに用いられるデータが記録されていてもよい。
【0136】
読取装置415は、フレキシブルディスクドライブ、CD−ROMドライブ、DVD−ROMドライブ、USBポート、SDカードリーダ、CFカードリーダ、メモリースティックリーダ、ソリッドステートドライブなどによって構成されている。読取装置415は、可搬型記録媒体60に記録されたプログラム又はデータを読み取ることができる。
【0137】
入出力インターフェイス414は、例えば、USB、IEEE1394、RS−232Cなどのシリアルインターフェイスと、SCSI、IDE、IEEE1284などのパラレルインターフェイスと、D/A変換器、A/D変換器などからなるアナログインターフェイスとから構成されている。入出力インターフェイス414には、キーボード、マウスなどの入力部401が接続されている。操作者は、該入力部401により、コンピュータ本体400に各種の指令を入力することが可能である。
【0138】
通信インターフェイス416は、例えば、Ethernet(登録商標)インターフェイス、Bluetooth(登録商標)などの規格に準拠した無線インターフェイスなどである。コンピュータ本体400は、通信インターフェイス416により、プリンタ50などへの印刷データの送信が可能である。プリンタ50は、例えばレーザープリンタ、インクジェットプリンタなどである。通信インターフェイス416が無線インターフェイスである場合、コンピュータ本体400は、携帯電話、タブレット端末などのモバイルデバイスへのデータ送信が可能である。
【0139】
画像出力インターフェイス417は、LCD、CRTなどで構成される表示部402に接続されている。これにより、表示部402は、CPU410から与えられた画像データに応じた映像信号を出力できる。表示部402は、入力された映像信号にしたがって画像(画面)を表示する。
【0140】
図4Aを参照して、判定装置10により実行される、CDK4/6阻害剤の感受性の判定フローについて説明する。ここでは、CDK4の比活性の値を取得し、取得した値を用いて判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。CDK4の比活性の値に代えて、CDK6の比活性の値を取得してもよい。また、比活性の値に代えて、比活性の比の値を取得してもよい。
【0141】
ステップS101において、CPU410は、測定装置20からCDK4の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4の発現量の測定値を取得してハードディスク413に記憶する。ステップS102において、CPU410は、CDK4の活性の測定値をCDK4の発現量の測定値で割ることにより、CDK4の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。ステップS103において、CPU410は、CDK4の比活性の値と、ハードディスク413に記憶されたCDK4の閾値とを比較する。CDK4の比活性の値がCDK4の閾値より低いとき、処理はステップS104に進行する。ステップS104において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に非感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。
【0142】
一方、ステップS103において、CDK4の比活性の値がCDK4の閾値以上であるとき、処理はステップS105に進行する。ステップS105において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。ステップS106において、CPU410は、判定結果を出力する。例えば、CPU410は判定結果を表示部402に表示したり、プリンタ50で印刷したり、携帯電話やタブレット端末などのモバイルデバイスに送信したりする。これにより、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定を補助する情報を医師などに提供することができる。
【0143】
図4Bを参照して、判定装置10により実行される、CDK4/6阻害剤の感受性の判定フローについて説明する。ここでは、CDK4及びCDK6の比活性の値を取得し、取得した値を用いて判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。各CDKの比活性の値に代えて、比活性の比の値を取得してもよい。
【0144】
ステップS201において、CPU410は、測定装置20からCDK4及びCDK6の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4及びCDK6の発現量の測定値を取得してハードディスク413に記憶する。ステップS202において、CPU410は、ステップS102と同様にして、CDK4の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。また、CPU410は、CDK6の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。ステップS203において、CPU410は、CDK4の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第1の閾値とを比較し、CDK6の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第2の閾値とを比較する。ここで、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK6に対応する閾値である。ステップS203において、CDK4の比活性の値が第1の閾値より低く、且つCDK6の比活性の値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS204に進行する。ステップS204において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に非感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。
【0145】
CDK4の比活性の値及びCDK6の比活性の値がステップS203の条件を満たさないとき、処理は、ステップS205に進行する。ステップS205において、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS206に進行する。ステップS206において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。一方、CDK4の比活性の値及びCDK6の比活性の値がステップS205の条件も満たさないとき、処理は、ステップS207に進行する。ステップS207において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有するとの判定結果をハードディスク413に記憶する。ステップS208において、CPU410は、判定結果を出力する。例えば、CPU410は判定結果を表示部402に表示したり、プリンタ50で印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。これにより、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定を補助する情報を医師などに提供することができる。なお、この例において、ステップS203及びステップS205の処理は順序を入れ替えることができる。
【0146】
図4Cを参照して、判定装置10により実行される、CDK4/6阻害剤の感受性の判定フローについて説明する。ここでは、CDK4及びCDK2の比活性の値を取得し、取得した値を用いて判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。CDK4の比活性の値に代えて、CDK6の比活性の値を取得してもよい。また、各CDKの比活性の値に代えて、比活性の比の値を取得してもよい。
【0147】
ステップS301において、CPU410は、測定装置20からCDK4及びCDK2の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4及びCDK2の発現量の測定値を取得してハードディスク413に記憶する。ステップS302において、CPU410は、ステップS102と同様にして、CDK4の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。また、CPU410は、CDK2の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。ステップS303において、CPU410は、CDK4の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第1の閾値とを比較し、CDK2の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第2の閾値とを比較する。ここで、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK2に対応する閾値である。ステップS303において、CDK4の比活性の値が第1の閾値より低く、且つCDK2の比活性の値が第2の閾値以上であるとき、処理はステップS304に進行する。ステップS304において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に非感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。
【0148】
CDK4の比活性の値及びCDK2の比活性の値がステップS303の条件を満たさないとき、処理は、ステップS305に進行する。ステップS305において、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第2の閾値より低いとき、処理はステップS306に進行する。ステップS306において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。一方、CDK4の比活性の値及びCDK2の比活性の値がステップS305の条件も満たさないとき、処理は、ステップS307に進行する。ステップS307において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有するとの判定結果をハードディスク413に記憶する。ステップS308において、CPU410は、判定結果を出力する。例えば、CPU410は判定結果を表示部402に表示したり、プリンタ50で印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。これにより、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定を補助する情報を医師などに提供することができる。なお、この例において、ステップS303及びステップS305の処理は順序を入れ替えることができる。
【0149】
図4Dを参照して、判定装置10により実行される、CDK4/6阻害剤の感受性の判定フローについて説明する。ここでは、CDK4、CDK6及びCDK2の比活性の値を取得し、取得した値を用いて判定を行なう場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。各CDKの比活性の値に代えて、比活性の比の値を取得してもよい。
【0150】
ステップS401において、CPU410は、測定装置20からCDK4、CDK6及びCDK2の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4、CDK6及びCDK2の発現量の測定値を取得してハードディスク413に記憶する。ステップS402において、CPU410は、ステップS102と同様にして、CDK4の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。また、CPU410は、CDK6の比活性の値及びCDK2の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。ステップS403において、CPU410は、CDK4の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第1の閾値とを比較し、CDK6の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第2の閾値とを比較し、CDK2の比活性の値と、ハードディスク413に記憶された第3の閾値とを比較する。ここで、第1の閾値は、CDK4に対応する閾値であり、第2の閾値は、CDK6に対応する閾値である。第3の閾値は、CDK2に対応する閾値である。
【0151】
ステップS403において、CDK4の比活性の値が第1の閾値より低く、CDK6の比活性の値が第2の閾値より低く、且つCDK2の比活性の値が第3の閾値以上であるとき、処理はステップS404に進行する。ステップS404において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に非感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。
【0152】
CDK4の比活性の値、CDK6の比活性の値及びCDK2の比活性の値がステップS403の条件を満たさないとき、処理は、ステップS405に進行する。ステップS405において、CDK4の活性に基づく値が第1の閾値以上であり、CDK6の活性に基づく値が第2の閾値以上であり、且つCDK2の活性に基づく値が第3の閾値より低いとき、処理はステップS406に進行する。ステップS406において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に感受性であるとの判定結果をハードディスク413に記憶する。一方、CDK4の比活性の値、CDK6の比活性の値及びCDK2の比活性の値がステップS405の条件も満たさないとき、処理は、ステップS407に進行する。ステップS407において、CPU410は、被検者はCDK4/6阻害剤に対して中程度の感受性を有するとの判定結果をハードディスク413に記憶する。ステップS408において、CPU410は、判定結果を出力する。例えば、CPU410は判定結果を表示部402に表示したり、プリンタ50で印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。これにより、CDK4/6阻害剤に対する感受性の判定を補助する情報を医師などに提供することができる。なお、この例において、ステップS403及びステップS405の処理は順序を入れ替えることができる。
【0153】
図5を参照して、CDKの活性に基づく値の取得装置10により実行される処理手順について説明する。ここでは、測定装置20からCDK4の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4の発現量の測定値を取得し、取得した測定値から、CDKの活性に基づく値としてCDK4の比活性の値を取得する場合を例として説明する。しかし、本実施形態は、この例のみに限定されない。CDK4の比活性の値に代えて、CDK6の比活性の値を取得してもよい。さらなる実施形態では、CDK4又はCDK6の比活性の値と、CDK2の比活性の値とを取得してもよい。あるいは、CDK4、CDK6及びCDK2の比活性の値を取得してもよい。各CDKの比活性の値に代えて、比活性の比の値を取得してもよい。
【0154】
ステップS501において、CPU410は、測定装置20からCDK4の活性の測定値を取得し、測定装置30からCDK4の発現量の測定値を取得してハードディスク413に記憶する。ステップS502において、CPU410は、CDK4の活性の測定値をCDK4の発現量の測定値で割ることにより、CDK4の比活性の値を算出してハードディスク413に記憶する。ステップS503において、CPU410は、取得したCDK4の比活性の値を出力する。例えば、CPU410は判定結果を表示部402に表示したり、プリンタ50で印刷したり、モバイルデバイスに送信したりする。なお、取得したCDKの活性に基づく値と共に、各CDKに対応する所定の閾値を出力してもよい。
【0155】
取得装置により得られたCDKの活性に基づく値は、各CDKに対応する所定の閾値との比較により、被検者のCDK4/6阻害剤に対する感受性を示唆する情報となる。具体的には、本実施形態の取得方法について述べたことと同様である。
【0156】
以下に、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0157】
[実施例1]
未処理の乳がん細胞株及びCDK4/6阻害剤(パルボシクリブ)で処理した乳がん細胞株のそれぞれのライセートサンプル中のCDK2、CDK4及びCDK6の発現量及び酵素活性を測定した。得られた発現量及び活性の測定データと、薬剤効果の指標である50%阻害濃度(IC50)とを比較し、その関係性について検証した。
【0158】
(1) IC50の決定
乳がん細胞株としてT47D、MCF7、HCC1500、CAMA-1、DU4475及びMDA-MB-231の6種を用いた。T47D、MCF7、HCC1500及びCAMA-1は、HER2陰性/ER陽性の乳がん細胞株であり、DU4475及びMDA-MB-231は、トリプルネガティブ乳がん(TNBC)由来の細胞株である。各細胞株を96ウェルプレートに2.5×103 cells/0.1 mL/ウェルで播種し、パルボシクリブを100 pM、1 nM、10 nM、100 nM、1μM、10μM又は100μMの濃度で添加した。パルボシクリブに代えてジメチルスルホキシド(DMSO)を添加した各細胞株を、未処理の乳がん細胞株とした。48時間後、パルボシクリブの阻害効果を、WST-8(株式会社同仁化学研究所)を用いた細胞毒性試験による生細胞数に基づいて解析した。解析では、未処理の細胞株の生存率を100%とした。IC50値は、規格化したデータからKaleidaGraph4.0を用いてカーブフィッティングを行って算出した。表1に、各細胞株のIC50値を示す。
【0159】
【表1】
【0160】
表1に示されるように、T47D、MDA-MB-231及びMCF7は、CDK4/6阻害剤に対して比較的感受性を有する乳がん細胞株であることが分かった。一方、CAMA-1は、CDK4/6阻害剤に対して比較的抵抗性を有する乳がん細胞株であり、HCC1500及びDU4475は、CDK4/6阻害剤に対して強い抵抗性を有する乳がん細胞株であることが分かった。以下、T47D、MDA-MB-231及びMCF7を「感受性群」とも呼び、CAMA-1、HCC1500及びDU4475を「抵抗性群」とも呼ぶ。
【0161】
(2) ライセートサンプルの調製
上記6種の乳がん細胞株のそれぞれにパルボシクリブを426 nMの濃度で添加した。パルボシクリブに代えてDMSOを添加した各細胞株を、未処理の乳がん細胞株とした。48時間後、細胞を回収した。細胞のペレットに細胞可溶化バッファーを5×107 cells/mLとなるように添加して細胞を溶解し、遠心分離により上清を回収して、細胞可溶化液(以下、「ライセートサンプル」ともいう)を得た。細胞可溶化バッファーの組成は下記のとおりであった。
【0162】
[細胞可溶化バッファーの組成]
50 mM Tris-HCl (pH 7.4)
150 mM NaCl
5 mM EDTA (pH 8.0)
50 mM NaF
1 mM オルトバナジン酸
0.10% NP-40
10%グリセロール
1 mM DTT
Complete Protease Inhibitor Cocktail (Roche社)
【0163】
(3) 発現量の測定
CDK2、CDK4及びCDK6の発現量の測定は、ウェスタンブロット法により、次のようにして行った。上記(2)で得た各ライセートサンプルから電気泳動用サンプル(1 mg/mLライセートサンプル、2×サンプルバッファー及び10% 2-メルカプトエタノール)を調製した。電気泳動用サンプル(10μL/レーン)をポリアクリルアミドゲルに電気泳動した。発現量を定量解析するため、標準タンパク質として組換えCDKタンパク質(rCDK2、rCDK4及びrCDK6)を5.0 ng、2.5 ng、1.0 ng、0.75 ng、0.5 ng及び0.2 ngで電気泳動した。電気泳動後のゲルを常法によりメンブレンに転写し、抗CDK2抗体、抗CDK4抗体及び抗CDK6抗体を用いて一次反応を行った。そして、HRP標識抗体を用いて二次反応を行い、さらにSuperSignal West Femto Substrate(Thermo Fisher社)と反応させ、化学発光シグナルをX線フィルムで検出した。ブロットをImage Lab 5.2.1(Bio Rad社)により定量解析して、各ライセートサンプル中のCDK2、CDK4及びCDK6の発現量(nmol/L)を算出した。表2に、各細胞株のCDK2、CDK4及びCDK6の発現量を示す。表の「薬剤処理」の欄において、「0 h」は、パルボシクリブ未処理であることを示し、「48 h」は、パルボシクリブで48時間処理したことを示す。
【0164】
【表2】
【0165】
(4) 活性の測定
(4.1) CDKによるリン酸化反応
CDK2、CDK4及びCDK6の活性の測定は、抗体を介してビーズ上に捕捉した各CDKと、基質ペプチドとをATP存在下で反応させ、生じたリン酸化基質ペプチドの量を測定することにより行った。具体的には、次のようにして行った。抗CDK2抗体、抗CDK4抗体及び抗CDK6抗体のそれぞれをプロテインG固定化ビーズと混合して、抗体固定化ビーズを調製した。CDKの基質ペプチドは、特開2018-193347号公報を参照して作製した。この基質ペプチドのN末端のアミノ酸残基は、EZ-Link(商標) Amine-PEG11-Biotin (Thermo Fisher社)によりビオチン化された。調製した抗体固定化ビーズと、上記(2)で得た各ライセートサンプル(30μL)とを混合し、撹拌しながら4℃で1時間反応させた。反応後、上清を除去し、抗体固定化ビーズと、CDKの基質ペプチドを含む基質溶液(40μL)を混合して、撹拌しながら42℃で1時間反応させた。反応後、上清を回収して、リン酸化基質ペプチドを含む溶液(リン酸化反応物)を得た。なお、基質溶液の組成は下記のとおりであった。
【0166】
[基質溶液の組成]
25 mM HEPES-NaOH (pH 7.4)
30 mM MgCl2
32 mM ATP
6μg/mL ビオチン化基質ペプチド(Y42)
0.2% LIPIDURE(商標)-BL103 (日油株式会社)
0.0075% 消泡剤
【0167】
(4.2) 活性の測定
回収したリン酸化反応物をサンプルとして用いて、リン酸化された基質ペプチドの量をCDKの活性として測定した。測定は、自動免疫化学発光測定装置HISCL(シスメックス株式会社)により行った。この測定は、磁性粒子上でのELISA法をベースとしている。リン酸化反応物(30μL)と、HISCL R2試薬(ストレプトアビジン固定化磁性粒子を含む懸濁液:30μL)(シスメックス株式会社)とを混合した。得られた混合液中の磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子にR3試薬(ウサギ抗リン酸化(セリン/スレオニン)抗体及びアルカリホスファターゼ(ALP)標識抗ウサギIgG抗体との混合物:100μL)を加えて反応させた。反応後、磁性粒子を集磁して上清を除き、HISCL洗浄液(300μL)を加えて磁性粒子を洗浄した。上清を除き、磁性粒子に、測定用緩衝液を含むHISCL R4試薬(50μL)(シスメックス株式会社)と、ALPの基質であるCDP-Star(登録商標)(アプライドバイオシステムズ社)を含むHISCL R5試薬(100μL)(シスメックス株式会社)とを加えて反応させ、発光カウントを測定した。表3に、各CDKの活性の測定値を示す。また、上記(3)で得た発現量の測定値、及び比活性の値も表3に示す。比活性の値は、下記の式により算出した。
【0168】
[CDKの比活性の値] = [CDKの活性の測定値]/[CDKの発現量の測定値]
【0169】
【表3】
【0170】
(5) CDK4/6阻害剤の感受性の判定
表3に示される結果に基づき、細胞にCDK4/6阻害剤を添加した48時間後に、各CDKの発現量及び比活性の値がどの程度変化したかを検討した。具体的には、各CDKの発現量及び比活性の変化を示す指標として、未処理(0 h)の値に対する処理後(48 h)の値の比(48 h/0 h)を算出した。また、算出した比とIC50とを比較し、その関係性について検証した。表4に、各CDKの発現量の測定値の比を示し、表5に、各CDKの比活性の値の比を示す。
【0171】
【表4】
【0172】
【表5】
【0173】
表4に示されるように、CDK2及びCDK6の発現量の比とIC50との間に相関性が認められた。しかし、感受性群と抵抗性群とを区別可能な閾値を設定することは困難であった。また、CDK4の発現量とIC50との間には相関性は認められなかった。これらのことから、CDK2、CDK4及びCDK6の発現量の比をCDK4/6阻害剤の感受性の判定指標として用いることは適切でないことが示唆された。
【0174】
表5に示されるように、感受性群であるT47D、MDA-MB-231及びMCF7では、CDK2の比活性の比の値は低い傾向にあり、CDK4及びCDK6の比活性の比の値は高い傾向にあった。これに対して、抵抗性群であるCAMA-1、HCC1500及びDU4475では、CDK2の比活性の比の値は高い傾向にあり、CDK4及びCDK6の比活性の比の値は低い傾向にあった。この結果から、CDK4の比活性の比の値に対応する閾値として、たとえば1.5より高く且つ2.0より低い値を設定することができる。また、CDK6の比活性の比の値に対応する閾値として、たとえば1.0より高く且つ2.3より低い値を設定することができる。また、CDK2の比活性の比の値に対応する閾値として、たとえば0.8より高く且つ1.2より低い値を設定することができる。CDK4/6阻害剤に対して感受性である細胞株においてCDK4及びCDK6の比活性の比の値が高く、CDK4/6阻害剤に対して非感受性である細胞株においてCDK4及びCDK6の比活性の比の値が低いことは、表1に示すIC50から予期される結果とは反対であった。
【0175】
上記のことから、がん細胞又は腫瘍組織のライセートサンプルにCDK4/6阻害剤を添加した後のCDK2、CDK4及びCDK6の比活性の変化が、CDK4/6阻害剤の感受性の判定指標として用い得ることが示唆された。例えば、表5の結果から、次のような判定ができた。CDK2の比活性の比の値を指標として用いる場合、閾値を1.2に設定することで、感受性群と抵抗性群とを層別化できた。同様に、CDK4及びCDK6の比活性の比の値を指標として用いる場合、閾値をそれぞれ1.5及び1.0に設定することで、感受性群と抵抗性群とを層別化できた。
【0176】
[実施例2]
表5に示されるCDK4又はCDK6の比活性の比の値とCDK2の比活性の比の値とを組み合わせることにより、感受性群と抵抗性群との層別化をより良好に行えるかを検討した。具体的には、縦軸にCDK4又はCDK6の比活性の比の値を取り、横軸にCDK2の比活性の比の値を取った座標平面に、各細胞株の比活性の比の値をプロットした。結果を図6及び7に示す。
【0177】
図6及び7に示されるように、感受性群は、CDK4又はCDK6の比活性の比の値が高値かつCDK2の比活性の比の値が低値の領域に現れた。一方、抵抗性群は、CDK4又はCDK6の比活性の比の値が低値かつCDK2の比活性の比の値が高値の領域に現れた。よって、CDK4又はCDK6の比活性の比の値とCDK2の比活性の比の値とを組み合わせることにより、感受性群と抵抗性群とをより明確に層別できることが示唆された。
【符号の説明】
【0178】
11、21、31: 試薬キット
12、22、32: 第1容器
13、23、33: 第2容器
24、34: 第3容器
35: 第4容器
14、25、36: 梱包箱
15、26、37: 添付文書
10: 判定装置
20: 活性測定装置
30: 発現量測定装置
40: コンピュータシステム
50: プリンタ
60: 記録媒体
400: コンピュータ本体
401: 入力部
402: 表示部
410: CPU
411: ROM
412: RAM
413: ハードディスク
414: 入出力インターフェイス
415: 読取装置
416: 通信インターフェイス
417: 画像出力インターフェイス
418: バス
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図5
図6
図7