【解決手段】水中生物と共に水Wを貯留する水槽2と、多孔質体により構成され、硝化菌を担持する多孔体を備えた水浄化エレメント8を内部に収容すると共に、水浄化エレメント8に対して上方から水Wを供給する硝化反応槽3と、硝化反応槽3へガス(空気A、酸素O)を送り込む送気部(ファン)11と、水槽2と硝化反応槽3との間で水Wを循環させる流路6,15とを備える。
前記水槽と前記硝化反応槽を連通し、前記水槽から前記硝化反応槽への水の流通を可能にするバイパス流路を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の水中生物の輸送装置。
脱窒菌を内部に収容した脱窒槽を備え、前記水槽と前記硝化反応槽を循環する水を前記脱窒槽に引き込み、脱窒して戻すよう構成したことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の水中生物の輸送装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は本発明の実施による水中生物の輸送装置の形態の一例を示している。本実施例の水中生物の輸送装置1は、水中生物と共に水Wを貯留する水槽2、水槽2から抜き出された水W中のアンモニアを硝化する硝化反応槽3、硝化反応槽3において生じた硝酸や亜硝酸を除去する脱窒槽4を備えている。
【0017】
水槽2は、水中生物の生存スペースであり、輸送対象である水中生物の種類に応じた水(例えば、海水)Wが貯留される。水槽2の上部開口を覆う蓋5には、ガス抜きのための抜出弁5aが備えられており、ここから必要に応じて水槽2内の空気Aを抜き、水槽2を上部まで水Wで満たすことができるようになっている。
【0018】
また、水槽2の上部には、硝化反応槽3と連通する流路6の一端が接続されている。流路6は、一部が水槽2の上端(ここに示した例では、蓋5を除いた水槽2の本体内部における上面を指す)および硝化反応槽3の上部の空間における水位(すなわち、後述する硝化反応槽3の散水板3bの上の空間に溜まる水Wの水位)よりも上に位置しており、その水槽2および硝化反応槽3の上部の空間における水位よりも上に位置する部分に、流路6を流通する水Wからガスを抜くためのガス抜き管6aが設けられている。
【0019】
水槽2の下部には、開閉弁7aを備えたドレン管7が設けられており、ここからも必要に応じて水槽2内の水Wを排出することができるようになっている。
【0020】
硝化反応槽3は、水槽2から流路6を通って導入された水Wを、微生物(硝化菌)の作用により浄化する役割を担う。硝化反応槽3内の空間は、下部に備えた仕切板3aと、上部に備えた散水板3bにより上下に3分割されている。仕切板3aおよび散水板3bは、いずれも空気Aや水Wが流通し得るよう、多数の孔を備えた板として構成されている。仕切板3aと散水板3bの間には、微生物を付着させる担体としての水浄化エレメント8が多数収容される。
【0021】
水浄化エレメント8は、例えば
図2、
図3に示す如く、微生物の付着する間隙を有する多孔体9と、該多孔体9を収容する枠体10により構成される。
【0022】
多孔体9は、保水性と柔軟性を備えた連続気泡構造の多孔質体により構成される。多孔体9の素材としては、具体的には、例えばウレタン樹脂、エステル重合体、エーテル重合体といった樹脂を発泡させた多孔質体が用いられる。
【0023】
多孔体9は、柱状(ここでは円柱状)に形成される。枠体10は、全体として円筒形の籠状の形状をなし、枠体10の周をなすように環状に延びる複数のリング部10aと、軸方向に沿って延びてリング部10a同士を接続する柱部10bとを備えて構成される。そして、
図2、
図3に示す如く、リング部10aと、柱部10bとにより枠体10内に形成される円筒状の空間に、中心軸が互いに一致するよう、多孔体9が収容される。ここで、多孔体9の円筒面をなす外周部は、柱部10bに面する箇所が柱部10bによって径方向内側に潰されるように変形する一方、その他の部分は枠体10から径方向外側にはみ出す。こうすることで、多孔体9を枠体10から脱落しにくくしている。水浄化エレメント8は、後述するように硝化反応槽3に収容され、多孔体9に水Wを吸わせる形で使用されるが(
図1参照)、水浄化エレメント8が硝化反応槽3に収容される際の衝撃や、水Wを含んだ多孔体9の重み等により、多孔体9が枠体10から脱落する可能性がある。そこで、多孔体9の径を枠体10の内側に形成される空間の径よりも大きめに設定することで、多孔体9を枠体10の内部に固定するようにしているのである。
【0024】
このような構成の水浄化エレメント8が、
図1に示す如く硝化反応槽3内に多数収容される。水浄化エレメント8の多孔体9には、水W中のアンモニアを酸化する硝化菌が担持される。尚、ここに示す水浄化エレメント8の形状や構成はあくまで一例であって、硝化反応槽3内で使用する水浄化エレメントは、微生物を担持する多孔体を備えたものであればどのような構成であっても良い。例えば、枠体や多孔体の形状は
図2、
図3に示す多孔体9や枠体10とは異なっていても良いし、あるいは、多孔体を硝化反応槽3内に吊るすような構成としても良い。
【0025】
硝化反応槽3の上部の散水板3bより上側の空間には、一端を水槽2に接続された流路6の他端が接続され、ここに水槽2から抜き出された水Wが供給されるようになっている。また、散水板3bより上側の空間には送気部としてのファン11が設けられており、外部空間からガス導入路12を通して空気Aを引き込み、硝化反応槽3の内部へ送り出すようになっている。ガス導入路12の途中には、開閉弁12aが設けられている。
さらに、本実施例の場合、ガス導入路12における開閉弁12aの下流側の位置に分岐路を設けて酸素ボンベ13を接続しており、空気Aのほか、必要に応じて酸素Oを硝化反応槽3内へ導入できるようになっている。前記分岐路には、流量調整弁13aが設けられている。流量調整弁13aは例えばニードル弁であり、酸素Oの供給量を調整できるようになっている。
【0026】
硝化反応槽3の下部の仕切板3aより下側の空間の上部には、硝化反応槽3内の空気を適宜抜き出すための排気管14の一端が接続される。排気管14の他端は、後述する輸送途中の積み下ろし等における水Wの注入等の過程で硝化反応槽3内の水Wが排気管14から漏れる虞がないよう、図中に一点鎖線で示す高さ(後述するように、積み下ろし時において硝化反応槽3の仕切板3aより上且つ散水板3bより下の空間に一時的に注入され得る水Wの水位である)より上の高さに開口を備えることが好ましい。
【0027】
仕切板3aより下側の空間の下部には流路15の一端が接続され、流路15の他端は水槽2の下部に接続されて、硝化反応槽3の下部に溜まった水Wを水槽2へ戻すようになっている。流路15の途中には、硝化反応槽3から水槽2への水Wの流れを駆動するポンプ16が設置され、流路15におけるポンプ16より水槽2側の位置には流量調整弁15aが設けられる。流量調整弁15aは例えばボール弁であり、流路15を流通する水Wの量を調整できるようになっている。
【0028】
流路15は、流量調整弁15aより水槽2側の位置にて温度調節流路17に分岐している。温度調節流路17の途中には、温度調節部18が設けられている。温度調節部18は、熱交換器等を備えており、温度調節流路17から引き込んだ水Wの温度を必要に応じて冷却し、あるいは加熱することができるようになっている。温度調節流路17は、流路15から分岐して温度調節部18に通じ、さらに温度調節部18の下流側にて流路15に合流する。温度調節流路17における温度調節部18の上流および下流の位置にはそれぞれ開閉弁17a,17bが設けられ、また、流路15における温度調節流路17への分岐点と、温度調節流路17との合流点の間の位置には開閉弁17cが設けられる。
【0029】
流路15における温度調節流路17との合流点より水槽2側の位置には逆止弁15bが設けられ、水槽2から硝化反応槽3へ水Wが流れることを防ぐようになっている。
【0030】
流路15におけるポンプ16より上流側の位置と、逆止弁15bより下流側の位置は、バイパス流路19によって接続されている。バイパス流路19の途中には、開閉弁19aが設置される。
【0031】
流路15における流量調整弁15aより下流側且つ温度調節流路17への分岐点より上流側の位置からは、脱窒槽4へ至る脱窒流路20が分岐している。流路15から分岐した脱窒流路20は、脱窒槽4の下部に接続される。脱窒流路20の途中には、栄養液流路21を介して栄養液槽22が接続されている。栄養液槽22は、脱窒槽4における微生物(脱窒菌)の働きに必要な栄養液Nを貯留する槽であり、脱窒流路20を通じて脱窒槽4に送られる水Wに対し、栄養液流路21を通じて栄養液Nを添加するようになっている。栄養液Nとしては、例えば酢酸ナトリウム水溶液が用いられる。
【0032】
栄養液流路21の途中には、栄養液槽22から脱窒流路20への栄養液Nの動きを駆動するポンプ23が備えられており、栄養液流路21におけるポンプ23の下流側の位置には、流量調整弁21aが設けられている。
【0033】
脱窒流路20における流路15からの分岐点の下流側且つ栄養液流路21の接続点の上流側の位置には、流量調整弁20aが設けられている。
【0034】
脱窒槽4は、硝化反応槽3から水Wの一部を抜き出して硝酸や亜硝酸を除去する槽であり、嫌気呼吸を行って硝酸や亜硝酸を還元する脱窒菌が収容されている。脱窒槽4内には、下方へ脱窒流路20から水Wが供給され、脱窒菌による処理を経た水Wは上部に接続された脱窒流路24からオーバーフローする形で硝化反応槽3へ戻されるようになっている。
【0035】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0036】
図示しない輸送車両等に搭載された水中生物の輸送装置1の水槽2に、水Wと共に水中生物を収容し、輸送を行う。
【0037】
輸送の開始時には、まず水槽2に水Wを注入する。蓋5を開け、図示しない外部の水源から水Wを汲み上げ、水槽2の上部開口を通して注ぎ込む。ドレン管7の開閉弁7aは閉弁しておく。
【0038】
また、硝化反応槽3にも予め適当な量の水Wを注入しておくことが必要である。ここで、水槽2および硝化反応槽3に水を注入するためには、例えばバイパス流路19の開閉弁19aを閉弁しておき、水槽2に水Wを注入すると共に、硝化反応槽3にも図示しない開口等から水Wを注入する。このとき、例えば水槽2には上面いっぱいまで水Wを満たし、硝化反応槽3には適量の水Wを注入する。あるいは、水槽2と硝化反応槽3に、同じ水位(
図1中に一点鎖線で示す水位)まで水Wを注ぎ込む。
【0039】
あるいは、バイパス流路19の開閉弁19aを開弁しておけば、水槽2と硝化反応槽3とがバイパス流路19を介して連通するので、水槽2に水Wを注ぎ込めば、バイパス流路19を通じて硝化反応槽3へも水が供給されることになる。この場合は、
図1中に一点鎖線で示す水位まで両槽に水Wを注ぎ込んでも良いし、あるいは硝化反応槽3に適量の水Wが注入された段階で開閉弁19aを閉弁し、続けて水槽2にいっぱいまで水Wを注入しても良い。
【0040】
尚、この段階において、各槽における水Wの水位や配分は重要ではない。水Wの合計量が、水中生物の輸送装置1の各部に必要な量に基づき決定される適量となっていれば良い(この水Wの量については、後に詳述する)。
【0041】
水槽2と硝化反応槽3にそれぞれ水Wを注入したら、水槽2に輸送対象である水中生物を投入し、蓋5を閉じる。バイパス流路19の開閉弁19aを閉弁した状態でポンプ16を作動させると、硝化反応槽3内の水Wが流路15を通じて水槽2に導入され、水槽2内の水位が上昇していく。同時に、水槽2と蓋5により構成される内部空間の空気Aが抜出弁5aを通じて抜けていく。水位が水槽2本体の上端を越え、蓋5の下面に達したら抜出弁5aを閉じる。このようにすると、水槽2と蓋5により構成される内部空間が満水の状態になる。
【0042】
さらにポンプ16の駆動を続けると、水槽2内の水Wは、水槽2の上部に接続された流路6へ送り込まれ、硝化反応槽3に流れ込む。尚、流路6内にあった空気や、もともと水槽2内にあって流路6に流れ込んだ空気は、流路6の途中のガス抜き管6aから抜き出される。
【0043】
硝化反応槽3における水量はポンプ16の駆動によって注入時よりは減り、例えば
図1における硝化反応槽3の仕切板3aの下部に実線で示す水位となる。そして、硝化反応槽3の散水板3bの上側の空間に流路6を介して水Wが供給され、散水板3bを通して水浄化エレメント8の収容された空間へ導入される。水Wは、水浄化エレメント8に対して上方から供給され、多孔体9(
図2、
図3参照)の表面や内部を通りながら、硝化反応槽3の内部空間を下方へ移動する。そして、仕切板3aを通って落ち、下側の空間に貯留される。こうして、水Wの循環時には、水浄化エレメント8の多孔体9に水Wが保持される一方、該多孔体9の少なくとも一部(ここに示す例では、全部)が空気中に露出するように構成されている。
【0044】
硝化反応槽3の仕切板3aの下側の空間からは、ポンプ16の作動により、水Wが流路15を通って水槽2に戻される。
【0045】
ここで、水Wの温度を操作する場合には、温度調節部18を作動させる。温度調節流路17の開閉弁17a,17bを開弁すると共に、流路15の開閉弁17cを閉弁する。こうして、流路15を通る水Wを上流側の温度調節流路17から温度調節部18に送り込み、冷却あるいは加熱したうえで下流側の温度調節流路17から流路15に戻す。
【0046】
水Wの温度を操作する必要がない場合には、温度調節部18の作動を停止し、温度調節流路17の開閉弁17a,17bを閉弁し、流路15の開閉弁17cを開弁して、水Wを温度調節部18を通さずに硝化反応槽3から水槽2へ戻すようにする。
【0047】
こうして、水槽2と硝化反応槽3の間を、流路6および流路15を通じて水Wが循環する。
【0048】
また、硝化反応槽3には、ファン11の作動によりガス導入路12を通じて空気Aが導入される。空気Aは硝化反応槽3の上部に導入され、散水板3bの上側の空間から、散水板3bを通して水浄化エレメント8の収容された空間へ供給される。空気Aは水浄化エレメント8の表面や内部を通過して仕切板3aから下方の空間へ抜け、仕切板3aの下側の空間から排気管14を通って排出される。
【0049】
こうして水Wを循環させつつ、硝化反応槽3に空気Aを導入しながら、水槽2に収容された水中生物と共に水中生物の輸送装置1の全体を輸送する。この間、水槽2内の水中生物からは、アンモニアを含む排出物が水W中に排出される。アンモニアを含む水Wは流路6から硝化反応槽3へ抜き出され、水浄化エレメント8の多孔体9(
図2、
図3参照)に担持された硝化菌の働きによって酸化され、硝酸や亜硝酸となる。硝化反応槽3には、水Wと共に空気Aが導入されており、硝化菌は空気A中の酸素を利用してアンモニアを酸化する。そして、アンモニアを酸化除去された水Wが硝化反応槽3の下部の空間に貯留され、水槽2に戻される。このようにして、水槽2中のアンモニア濃度が低く保たれる。
【0050】
水槽2における水中生物の生存のためには、アンモニア濃度を低く保つほか、酸素の供給が必要である。本実施例の場合、硝化反応槽3がアンモニアの酸化と同時に、水Wへの酸素の供給をも担っている。すなわち、硝化反応槽3には硝化菌によるアンモニアの酸化に必要な酸素が空気Aとして供給されるが、ここで水Wに溶け込んだ酸素のうち、アンモニアの酸化に使われなかった酸素が溶存酸素となり、水Wに溶け込んだまま水槽2に供給されるのである。したがって、本実施例の水中生物の輸送装置1には、水槽2に対して空気を送り込む曝気装置等を設置する必要がない。したがって、曝気装置の設置にかかるコストやスペースを削減し、装置全体を小型化することができ、ひいては水槽2の容積を大きく確保することができる。尚、空気Aだけでは酸素量が不足する場合には、ガス導入路12の開閉弁12aを閉弁して流量調整弁13aを開弁し、必要に応じて酸素ボンベ13から酸素Oを導入するようにしても良い。
【0051】
また、本実施例においては、上述の如く水槽2内の空気Aを抜き、水槽2を満水とした状態で水中生物を輸送している。これは、水槽2内における水Wの体積を大きくして水中生物の生存スペースを広げ、輸送可能な水中生物の数を増やすと同時に、輸送に伴う振動や慣性力の作用により、水面が動いてスロッシングが発生してしまうことを防止する効果がある。すなわち、水槽2にある程度以上の空気Aが残存していた場合、水Wに振動や慣性力が加わると、空気Aとの境界面である水面に波が生じ、水面が水槽2や蓋5の内面に衝突するスロッシングが発生し、その衝撃が水中生物に悪影響を与えてしまう可能性がある。本実施例の場合、水槽2内を満水にすることで水槽2内に存在する水面を無くし(あるいは少なくし)、スロッシングの発生を防止しているのである。
【0052】
ここで、従来の一般的な水中生物の飼育槽等においては、水中生物へ酸素を供給するため、水槽に備えた曝気装置を用いて水に対し空気や酸素といったガスを送り込むようにしていたが、本実施例の場合、上に説明したように、水槽2に曝気装置を備えなくとも硝化反応槽3の働きによって水Wに対し十分な酸素を溶かし込むことができる。水槽2に直接ガスを供給しないので、輸送中、水槽2の満水状態を保つことができる。
また、水槽2内の水Wに対して曝気装置からガスを送り込むには相応のエネルギーを要するが、本実施例の如く水浄化エレメント8を収容した硝化反応槽3にファン11によって送気を行う方式であれば、酸素の供給に係るエネルギーは比較的少なく済む。
【0053】
尚、ここでいう「満水」とは必ずしも水槽2と蓋5により構成される内部空間にガスが一切残存していないことを意味しない。水中生物に影響するほどの衝撃が発生しない程度の量の空気Aであれば、水槽2に残存していても問題はない。
【0054】
このように、本実施例の水中生物の輸送装置1は、水槽2の水中生物に対して酸素を効率良く供給しながら水Wからアンモニアを除去し、長時間にわたって水中生物の状態や生存率を保ちつつ、水中生物を輸送することを可能にしている。
【0055】
さらに長時間の輸送を行う場合には、脱窒槽4を使用する。硝化反応槽3における硝化菌の作用により、アンモニアの濃度は低く保たれるが、代わりに硝酸や亜硝酸が生じる。硝酸や亜硝酸は、水中生物にとってアンモニアほど毒性の高いものではないが、ある程度以上の濃度になると、やはり水中生物の状態や生存率に影響する。そこで、脱窒槽4を用い、水W中の硝酸や亜硝酸を還元して窒素ガスに変え、水Wから硝酸や亜硝酸を除去する。
【0056】
脱窒槽4を使用する場合には、流量調整弁20aの開度を調整し、流路15を流れる水Wの一部が脱窒流路20から脱窒槽4へ流れるようにする。同時に、栄養液流路21の流量調整弁21aを開弁し、ポンプ23を駆動して、栄養液槽22から栄養液Nを脱窒流路20を流れる水Wに供給する。
【0057】
脱窒槽4においては、栄養液Nを栄養源とする脱窒菌の嫌気呼吸により、水Wに含まれる硝酸や亜硝酸が還元されて窒素ガスとなる。そして、硝酸を除去された水Wが、脱窒流路24を通して硝化反応槽3へ戻される。脱窒流路24から硝化反応槽3の散水板3bの上部の空間に戻された水Wは、散水板3bを通して再度、水浄化エレメント8の収容された空間へ供給される。
【0058】
尚、あまり長時間の輸送を想定しない場合(すなわち、アンモニアの酸化により生じる硝酸や亜硝酸の濃度が、水中生物の状態や生存率に影響を及ぼすほど高まる虞がない程度の時間の輸送を想定する場合)には、脱窒槽4や脱窒流路20,24、栄養液槽22といった設備は使用しないか、水中生物の輸送装置1に搭載しないようにしても良い。
【0059】
輸送の終了時、または輸送途中に水中生物の積み下ろしを行う時には、流路15のポンプ16を停止し、水Wの循環を停止する。脱窒槽4を使用していた場合は、栄養液流路21のポンプ23も停止し、流量調整弁20aを閉弁する。蓋5の抜出弁5aを開放し、バイパス流路19の開閉弁19aを開弁すると、水槽2内の水Wがバイパス流路19を通って硝化反応槽3へ流れ込む。両槽における水位は、
図1中に一点鎖線で示す水位となる(尚、水位が一点鎖線に示す高さに達する前に、水槽2から蓋5の開閉に支障がない程度に水Wが抜き出された段階で開閉弁19aを閉弁しても良い)。蓋5を開放し、水中生物の出し入れを行う。
【0060】
輸送を再開する場合には、蓋5を閉じてバイパス流路19の開閉弁19aを閉弁し、蓋5の抜出弁5aを開いた状態でポンプ16を作動させて水槽2を満水にしたうえで、抜出弁5aを閉弁してポンプ16の作動を継続し、水Wを循環させる。必要に応じて脱窒流路20の流量調整弁20aを開弁し、また、栄養液流路21の流量調整弁21aを開弁してポンプ23を作動させる。
【0061】
輸送を終了し、水中生物の輸送装置1の使用を止める場合には、ポンプ16、ポンプ23、ファン11、温度調節部18といった各機器を停止し、ドレン管7の開閉弁7aを開弁して水槽2内の水Wを排水する。このとき、バイパス流路19の開閉弁19aをあわせて開弁すれば、硝化反応槽3内の水Wも排水することができる。
【0062】
ここで、本実施例の場合、積み下ろし等を行う際に、硝化反応槽3を水Wの一時的な貯留槽として利用できるという利点がある。特に、本実施例では水槽2を満水とした状態で輸送を行うので、蓋5を開放するにあたり、水Wが水槽2から溢れ出さないよう、水槽2内の水Wの一部を一旦水槽2の外へ移す必要がある。このとき、本実施例では、水槽2と硝化反応槽3を連通するバイパス流路19を開通させるだけで、水槽2から硝化反応槽3への水Wの流通を可能にし、水槽2内の水Wの一部を硝化反応槽3へ移動させて蓋5の開放や水中生物の出し入れを支障なく行うことができる。水Wを貯留するための桶や水槽等を別途用意して水槽2内のドレン管7から水Wを排出したり、外部の水源から水槽2の上部開口へ水Wを注ぎ込んだりといった操作を行う必要がなく、簡便である。
【0063】
すなわち、多孔体9(
図2、
図3参照)を備えた水浄化エレメント8を利用し、水Wを多孔体9に保持させて気液を接触させ、硝化を促進する本実施例の如き硝化反応槽3は、硝化反応槽3内に水Wのほかにガスを導入する空間を有している。そこで、水槽2から硝化反応槽3へ水Wが移動できるバイパス流路19を設けるだけで、ガスが導入される空間に代わりに水Wを導入し、硝化反応槽3を水Wの一時的な貯留槽として利用することができるのである。
【0064】
水中生物の輸送装置1内の各所における水Wの体積と、硝化反応槽3の容積との関係について以下に説明する。
【0065】
水槽2と蓋5により形成される内部空間の体積をVtとする。また、上述の如く水槽2を満水にした状態で水中生物を輸送するにあたり、ポンプ16が支障なく駆動して水Wを循環させるためには、硝化反応槽3の下部にある程度の水Wが貯留されていることが必要であり、このポンプ16の駆動に必要な水Wの体積をVlとする。流路6,15および温度調節流路17、脱窒流路20,24を満たす水Wの総量をVpとし、水浄化エレメント8の多孔体9に保持される水Wの総量をVsとする。また、脱窒槽4を使用する場合には、栄養液槽22内の栄養液Nが水Wに添加されることになるが、その栄養液Nの最大添加量をVnとする。
【0066】
輸送の開始前、仮に水槽2、硝化反応槽3における水Wの貯留量がゼロであり、また流路6,15および温度調節流路17、脱窒流路20,24に水が満たされておらず、水浄化エレメント8に水Wが保水されていないとした場合、輸送の開始にあたって水槽2、硝化反応槽3に注入すべき水の合計量は、最低限、Vt+Vl+Vp+Vsである。輸送開始時において、水槽2に対し満水になるように水Wを注入する場合、硝化反応槽3側にはVp+Vl+Vsの量の水Wを最低量として貯留することになる。また、脱窒槽4を使用する場合には、輸送の終了までの間に、水槽2と硝化反応槽3の間を循環する水Wに、最大Vnの体積の栄養液Nが添加される。よって、水Wおよび栄養液Nに関し、硝化反応槽3に要求される最小限の容量は、Vl+Vp+Vs+Vnである。実際の設計においては、ここに安全率k(kは例えば1.2以上1.5以下程度の無次元の係数とする)を乗じた値を、水Wおよび栄養液Nに関する硝化反応槽3の最低容量とする。さらに、硝化反応槽3内に収容される水浄化エレメント8自体の体積、および硝化反応のために導入される空気Aや酸素Oといったガスの分の容積も必要であるので、硝化反応槽3の容積Vrは、Vr>k(Vl+Vp+Vs+Vn)と設定される。また、水中生物の積み下ろし等の際には、Vr−k(Vl+Vp+Vs+Vn)以下の量の水Wが、水槽2から硝化反応槽3へ移されることになる。
【0067】
以上のように、上記本実施例の水中生物の輸送装置1は、水中生物と共に水Wを貯留する水槽2と、多孔質体により構成され、硝化菌を担持する多孔体9を備えた水浄化エレメント8を内部に収容すると共に、水浄化エレメント8に対して上方から水Wを供給する硝化反応槽3と、硝化反応槽3へガス(空気A、酸素O)を送り込む送気部(ファン)11と、水槽2と硝化反応槽3との間で水Wを循環させる流路6,15とを備えている。こうすることにより、輸送対象である水中生物から排出されるアンモニアを硝化菌の働きにより除去し、水W中におけるアンモニアの濃度を低く保つと同時に水Wへ酸素を供給し、水中生物の状態や生存率を長時間にわたって保ちながら、水中生物を輸送することができる。
また、本実施例は、水Wの循環時には、水浄化エレメント8の多孔体9に水Wが保持される一方、該多孔体9の少なくとも一部は空気中に露出するように構成されている。
【0068】
また、本実施例においては、水槽2の上部に、ガス抜きのための抜出弁5aを備えているので、水槽2を満水とした状態で水中生物を輸送することができる。水槽2に貯留される水Wの体積を大きくし、輸送可能な水中生物の数を増やすと共に、輸送に伴うスロッシングの発生を防止することができる。
【0069】
また、本実施例は、水槽2と硝化反応槽3を連通し、水槽2から硝化反応槽3への水Wの流通を可能にするバイパス流路19を備えているので、必要に応じて水槽2内の水をバイパス流路19を通して硝化反応槽3に移動させることができ、硝化反応槽3を水Wの一時的な貯留槽として利用することができる。
また、本実施例においては、水槽2から硝化反応槽3へ水Wを流通させる流路6にガス抜き管6aを備えているので、水Wの循環に際し、流路6からガスを抜き出すことができる。
【0070】
また、本実施例は、脱窒菌を内部に収容した脱窒槽4を備え、水槽2と硝化反応槽3を循環する水Wを脱窒槽4に引き込み、脱窒して戻すよう構成されているので、アンモニアを酸化して生じる硝酸や亜硝酸を水Wから除去し、水中生物の状態や生存率をより長時間にわたって保つことができる。
【0071】
また、本実施例は、水槽2と硝化反応槽3を循環する水Wの温度を調節する温度調節部18を備えているので、水槽2と硝化反応槽3を循環する水Wの温度を操作することができる。
【0072】
したがって、上記本実施例によれば、水中生物の生存スペースをなるべく大きく確保しつつ、水中生物の長時間の輸送を可能にし得る。
【0073】
尚、本発明の水中生物の輸送装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではない。例えば、輸送対象である水中生物としては魚介類の他に藻類や両生類、その他水中にて生存する生物一般を想定することができるし、また、貯留水としては生物種に応じて海水の他に真水、汽水等、適当な水を用いることができる。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。