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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2020-162917(P2020-162917A)
(43)【公開日】2020年10月8日
(54)【発明の名称】生体情報測定装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0456 20060101AFI20200911BHJP
【FI】
   A61B5/04 312R
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-67079(P2019-67079)
(22)【出願日】2019年3月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000115120
【氏名又は名称】ユニオンツール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091373
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100097065
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 雅栄
(74)【代理人】
【識別番号】100201237
【弁理士】
【氏名又は名称】吉井 将太郎
(72)【発明者】
【氏名】上村 晴也
【テーマコード(参考)】
4C127
【Fターム(参考)】
4C127AA02
4C127CC01
4C127FF02
4C127GG02
4C127GG05
4C127GG07
4C127GG11
4C127KK03
(57)【要約】
【課題】可及的に誤差の小さい心拍間隔を測定可能な生体情報測定装置の提供。
【解決手段】QRS波を含むアナログ心電図信号をデジタル化してデジタル心電図信号を作成する信号処理手段1と、デジタル心電図信号から心拍間隔を測定する心拍間隔測定手段3とを有する生体情報測定装置であって、心拍間隔測定手段3は、一拍分のQRS波内の一のピークを基準ピークに設定し、各一拍分のQRS波の基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定すると共に、各基準ピークの突出方向情報を夫々取得するように構成し、過去の突出方向情報をもとに、QRS波内で上方向若しくは下方向どちらに突出するピークを優先的に基準ピークに設定するかを決定する優先方向決定手段4を有し、心拍間隔測定手段3は、優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークを優先して各QRS波内の基準ピークに設定するように構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
QRS波を含むアナログ心電図信号をデジタル化してデジタル心電図信号を作成する信号処理手段と、前記デジタル心電図信号から心拍間隔を測定する心拍間隔測定手段とを有する生体の心拍間隔を測定可能な生体情報測定装置であって、
前記心拍間隔測定手段は、一拍分の前記QRS波内の一のピークを基準ピークに設定し、前記各一拍分のQRS波の前記基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定すると共に、前記各基準ピークが上方向に突出するか下方向に突出するかを示す突出方向情報を夫々取得するように構成され、
過去の一若しくは複数の前記突出方向情報をもとに、前記QRS波内で上方向若しくは下方向どちらに突出するピークを優先的に前記基準ピークに設定するかを決定する優先方向決定手段を有し、
前記心拍間隔測定手段は、前記優先方向決定手段により決定された優先方向のピークを優先して前記各QRS波内の前記基準ピークに設定するように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体情報測定装置において、前記心拍間隔測定手段は、一拍分の前記QRS波内の各ピークの高低差を比較して最も高低差が大きいピークを基準ピークに設定するように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項3】
請求項2記載の生体情報測定装置において、前記QRS波内の各ピークの高低差を比較する際、前記優先方向決定手段により決定された優先方向のピークが前記基準ピークに設定され易くなるように、前記ピークの高低差を補正して比較する高低差補正手段を備えたことを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項4】
請求項1〜3いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記信号処理手段はフィルタリング処理を行うフィルタ手段を有することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項5】
請求項1〜4いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段は、非測定時は優先方向を決定しない中立状態であることを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項6】
請求項1〜5いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段は、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が多い方向を優先方向として決定することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項7】
請求項6記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段は、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が同数の場合、上方向を優先方向として決定することを特徴とする生体情報測定装置。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段で決定された優先方向ではないピークが所定回数連続して前記基準ピークに設定された場合、前記優先方向決定手段が優先方向を決定しない中立状態となるように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体情報測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、身に着けることができるウェアラブル電子機器の利用が増えている。電子機器を身に着けることで継続して生体情報を測定できるため、継続した心拍間隔の測定が手軽にできる環境が整いつつある。
【0003】
このようなウェアラブル電子機器を利用して継続的に測定した心拍間隔を、うつ検出や眠気検出等に利用しようとする心拍間隔の応用研究も近年活発に行われている。このような応用研究の例としては、例えば特許文献1〜3に開示されるものがある。
【0004】
これらの心拍間隔の応用研究では、連続する心拍間隔の差、LF(パワースペクトルの低周波成分、交感神経が活性化したときに現れる)、HF(パワースペクトルの高周波成分、副交感神経が活性化したときに現れる)等を算出して使用するため、心拍間隔に数十msの誤差があると誤判断の原因となる。
【0005】
従って、心拍間隔の誤差は可能な限り小さくする必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2018−33795号公報
【特許文献2】特開2014−168541号公報
【特許文献3】特開2016−150102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述のような現状に鑑みなされたもので、可及的に誤差の小さい心拍間隔を測定可能な実用的な生体情報測定装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
添付図面を参照して本発明の要旨を説明する。
【0009】
QRS波を含むアナログ心電図信号をデジタル化してデジタル心電図信号を作成する信号処理手段1と、前記デジタル心電図信号から心拍間隔を測定する心拍間隔測定手段3とを有する生体の心拍間隔を測定可能な生体情報測定装置であって、
前記心拍間隔測定手段3は、一拍分の前記QRS波内の一のピークを基準ピークに設定し、前記各一拍分のQRS波の前記基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定すると共に、前記各基準ピークが上方向に突出するか下方向に突出するかを示す突出方向情報を夫々取得するように構成され、
過去の一若しくは複数の前記突出方向情報をもとに、前記QRS波内で上方向若しくは下方向どちらに突出するピークを優先的に前記基準ピークに設定するかを決定する優先方向決定手段4を有し、
前記心拍間隔測定手段3は、前記優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークを優先して前記各QRS波内の前記基準ピークに設定するように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0010】
また、請求項1記載の生体情報測定装置において、前記心拍間隔測定手段3は、一拍分の前記QRS波内の各ピークの高低差を比較して最も高低差が大きいピークを基準ピークに設定するように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0011】
また、請求項2記載の生体情報測定装置において、前記QRS波内の各ピークの高低差を比較する際、前記優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークが前記基準ピークに設定され易くなるように、前記ピークの高低差を補正して比較する高低差補正手段を備えたことを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0012】
また、請求項1〜3いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記信号処理手段1はフィルタリング処理を行うフィルタ手段を有することを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0013】
また、請求項1〜4いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段4は、非測定時は優先方向を決定しない中立状態であることを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0014】
また、請求項1〜5いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段4は、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が多い方向を優先方向として決定することを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0015】
また、請求項6記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段4は、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が同数の場合、上方向を優先方向として決定することを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【0016】
また、請求項1〜7いずれか1項に記載の生体情報測定装置において、前記優先方向決定手段4で決定された優先方向ではないピークが所定回数連続して前記基準ピークに設定された場合、前記優先方向決定手段4が優先方向を決定しない中立状態となるように構成されていることを特徴とする生体情報測定装置に係るものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明は上述のように構成したから、可及的に誤差の小さい心拍間隔を測定可能な実用的な生体情報測定装置となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施例の概略説明図である。
図2】心拍波形の種類を説明する説明図である。
図3】基準ピークの上下方向の違いによる誤差を説明する説明図である。
図4】心拍間隔の誤差を説明する説明図である。
図5】一方向にのみピークが存在する心電図波形の例を示す説明図である。
図6】従来例(a)と本実施例(b)との違いを示す説明図である。
図7】従来例(a)と本実施例(b)との違いを示す説明図である。
図8】別例1を示す概略説明図である。
図9】別例2を示す概略説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
好適と考える本発明の実施形態を、図面に基づいて本発明の作用を示して簡単に説明する。
【0020】
デジタル心電図信号の一拍分の一のQRS波の基準ピーク(R波、S波若しくはQ波の頂点)と隣り合う他のQRS波の基準ピーク(R波、S波若しくはQ波の頂点)との間隔から心拍間隔を測定する。
【0021】
この際、心拍間隔測定手段3は心拍間隔を測定すると共に、各基準ピークの突出方向情報も取得する。
【0022】
この突出方向情報をもとに優先方向決定手段4で優先方向が決定され、心拍間隔測定手段3は、優先方向が決定されている場合にはこの優先方向のピーク(例えば上方向が優先方向の場合にはR波)を優先して前記基準ピークを設定する。
【0023】
Q波、R波及びS波は、心臓の状態や個人差等により夫々の波の振幅及び幅が変化する(図2参照)。また、同一人物が継続して心電図信号を測定しているときにも図3に図示したようにピークの相対的な高さが変化する場合がある。
【0024】
例えば、多数の図3(a)のような心拍波形に図3(b)のような波形が混ざった場合、ピークの高さ(振幅)を基準として基準ピークを設定すると図3(a)では上方向のピークα、図3(b)では下方向のピークα’を基準ピークとすることになるが、上方向のピークを連続的に基準ピークとして測定する場合に比べ誤差が生じ、心拍間隔にも誤差が生じる。
【0025】
具体的には、図4に図示したように、上方向のピークαを基準ピークとした直後に、下方向のピークα’を基準ピークとして心拍間隔を測定した場合(T1,T2)、上方向のピークαを連続で基準ピークに設定した場合と比べ(TC1,TC2)、基準ピークの位置(基準位置)に誤差(ERR)が生じ、心拍間隔にも誤差が生じることになる。
【0026】
ここで、正しい心拍間隔であるTC1とTC2はTC1=TC2とし、誤差を含む心拍間隔をT1,T2とし、基準ピークの位置(基準位置)の誤差をERRとすると、次のようになる。
T1=TC1+ERR
T2=TC2−ERR
【0027】
ここで、連続する心拍間隔であるT1とT2の差を取ると、次のようになる。
T1−T2=(TC1+ERR)−(TC2−ERR)=(TC1+ERR)−(TC1−ERR)=2ERR
【0028】
従って、基準ピークが変化した場合(直前の基準ピークと突出方向が異なるピークが基準ピークとなった場合)、変化した前後の心拍間隔の差は基準位置の誤差の2倍となる。
【0029】
この点、本発明は、ピークの振幅に変動があっても優先方向のピークを連続的に基準ピークに設定し易くなり、よって、基準ピークの変化が抑制され、心拍間隔の変動も抑制されることになり、より誤差の小さい心拍間隔を測定可能となる。
【実施例】
【0030】
本発明の具体的な実施例について図面に基づいて説明する。
【0031】
本実施例は、QRS波を含むアナログ心電図信号をデジタル化してデジタル心電図信号を作成する信号処理手段1と、前記デジタル心電図信号から心拍間隔を測定する心拍間隔測定手段3とを有する生体の心拍間隔を測定可能な生体情報測定装置であって、前記心拍間隔測定手段3は、一拍分の前記QRS波内の一のピークを基準ピークに設定し、前記各一拍分のQRS波の前記基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定すると共に、前記各基準ピークが上方向に突出するか下方向に突出するかを示す突出方向情報を夫々取得するように構成され、過去の一若しくは複数の前記突出方向情報をもとに、前記QRS波内で上方向若しくは下方向どちらに突出するピークを優先的に前記基準ピークに設定するかを決定する優先方向決定手段4を有し、前記心拍間隔測定手段3は、前記優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークを優先して前記各QRS波内の前記基準ピークに設定するように構成されているものである。
【0032】
具体的には本実施例は、生体に接触して心電図を取得する複数の電極2を有し、且つ、生体に着用可能(ウェアラブル)なものであり、このウェアラブルな生体情報測定装置(測定器)で測定した心拍間隔等を測定器とは別体の解析器に送信(出力)してこの解析器で詳細な分析を行う構成として、可能な限り小型化・軽量化したものである。
【0033】
図1を参照して各部を具体的に説明する。
【0034】
信号処理手段1は、生体に接触する電極2の間の電位差から取り出したアナログ心電図信号をADコンバータ等で処理してデジタル心電図信号とするものである。
【0035】
また、信号処理手段1は、心拍間隔の検出に不要な信号のみを取り除く(フィルタリング処理を行う)フィルタ手段を有する。フィルタ手段としては、例えばローパスフィルタ、ハイパスフィルタ、バンドパスフィルタ、バンドストップフィルタ等を適宜使用できる。フィルタ手段を通過した心電図信号は、等時間隔でサンプリングされデジタル信号に変換される。
【0036】
フィルタ手段により取り除く信号の例としては、ADコンバータのナイキスト周波数を超える高周波数成分の信号、ハムノイズ、筋電ノイズ、外来ノイズ等がある。なお、波形が歪むと心拍間隔が変化することから、フィルタ手段としては歪率が低くて線形性が高いものが望まれる。ノイズ等の不要な信号を取り除いた後の心電図信号を、心拍間隔の検出に使用する。ADコンバータのナイキスト周波数を超える高周波成分の信号以外は、サンプリング後に取り除いても良い。デジタル化する際のサンプリング間隔は250Hz以上とする。従って、4ms以下の心拍間隔の測定が可能となる。
【0037】
信号処理手段1において上述のようにしてデジタル化されたデジタル心電図信号が入力される心拍間隔測定手段3は、一拍分のQRS波内の一のピークを基準ピークに設定し、前記各一拍分のQRS波の前記基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定すると共に、前記各基準ピークが上方向に突出するか下方向に突出するかを示す突出方向情報を夫々取得するものである。心拍間隔は心拍間隔出力手段5に送られ、突出方向情報は優先方向決定手段4に送られる。
【0038】
本実施例では、心拍間隔測定手段3は、一拍分のQRS波内の各ピークの高低差を比較して最も高低差が大きいピークを基準ピークに設定し、各一拍分の前記QRS波の前記基準ピーク同士の間隔から心拍間隔を測定するように構成されている。
【0039】
また、本実施例は、過去の一若しくは複数の前記突出方向情報をもとに、前記QRS波内で上方向若しくは下方向どちらに突出するピークを優先的に前記基準ピークに設定するかを決定する優先方向決定手段4を有しており、前記心拍間隔測定手段3は、前記優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークを優先して前記各QRS波内の前記基準ピークに設定する。
【0040】
即ち、優先方向決定手段4には心拍間隔測定手段3で取得した各基準ピークの突出方向情報が順次蓄積され、この過去の突出方向情報を基に優先方向が決定されて心拍間隔測定手段3に送られる。
【0041】
また、心拍間隔測定手段3は、前記QRS波内の各ピークの高低差を比較する際、前記優先方向決定手段4により決定された優先方向のピークが前記基準ピークに設定され易くなるように、前記ピークの高低差を補正して比較する高低差補正手段を備えている。
【0042】
また、優先方向決定手段4は、非測定時は優先方向を決定しない中立状態(優先方向が特定されていない状態)であり、測定開始後に順次蓄積される各基準ピークの突出方向情報(上方向若しくは下方向)から優先方向を決定する。
【0043】
また、本実施例では、前記優先方向決定手段4は、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が多い方向を優先方向として決定する。この際、所定数の過去の前記突出方向情報中で出現数が同数の場合、上方向を優先方向として決定する。
【0044】
前記優先方向決定手段4で決定された優先方向ではないピークが所定回数連続して前記基準ピークに設定された場合、前記優先方向決定手段4は蓄積した基準ピークの突出方向情報を全てリセットし中立状態となるように構成されている。
【0045】
心拍間隔出力手段5は、得られた心拍間隔を無線送信若しくは有線送信するか、生体情報測定装置内に保存するか、生体情報測定装置に設けた表示手段で表示するか、心拍間隔を利用する手段に心拍間隔を渡すために出力等するものである。
【0046】
以下、心拍間隔測定手段3及び優先方向決定手段4を上述のように構成した理由について詳述する。
【0047】
心拍間隔測定手段3は、最も高低差のあるピーク(Q波、R波若しくはS波の頂点)を基準ピークとし、基準ピーク同士の時間的間隔を心拍間隔とする。心拍間隔の基準ピークは、波形の上方向のピークでも下方向のピークでも良い。なぜなら、心臓の異常状態、例えば、心室期外収縮、突発性脚ブロック等を除くと、心電図信号の波形形状は急激に大きく変化しないため、どちらのピークを心拍間隔の基準位置としても、心拍間隔の差は小さいからである。
【0048】
心拍波形(心電図信号の定義の中で心電図と同じ周波数帯域の信号であり、かつ、心臓の心室の収縮を表す波形のこと)のQRS波は、一般的に下方向のピークQ波、上方向のピークR波、下方向のピークS波で表される(図2(a))。なお、簡略化のために、Q波、R波、S波以外のP波、T波、U波、δ波、ε波、J波等については省略する。
【0049】
Q波、R波、S波は心臓の状態や個人差等により夫々波の振幅および幅が変化する。極端な場合には、図2(b)(c)のようにQ波、R波、S波のいずれかが存在しないこと、若しくは図2(d)(e)のように複数存在すること(R’波、S’波)がある。
【0050】
ここで、一方向のみ(上方向のみ若しくは下方向のみ)のピークに限定して基準ピークを設定しない理由を述べる。図5に上下のいずれか一方にしかピークが発生しない波形を示す。一方向のみのピークに限定して基準ピークを設定した場合、限定した方向と逆方向のピークのみの心電図信号の心拍波形が入力されたとき心拍間隔の基準ピーク位置は未設定となるので、心拍間隔の検出ができず未検出となる。従って、一方向のみのピークを基準ピークに設定する対策はできない。
【0051】
この問題の対策として、本実施例では、過去に上方向の基準ピークが多い(優先方向決定手段4に蓄積された過去n拍分の突出方向情報中で上方向の数が多い)場合には、心拍間隔測定手段3での次の検出で上方向のピークを優先的に基準ピークに設定し、下方向の基準ピークが多い場合には次の検出で下方向のピークを優先的に基準ピークに設定する。上方向ピークを優先にする場合、上方向のピークはピーク間の振幅を嵩上げし、下方向のピークはピーク間の振幅を嵩下げするように高低差補正手段を構成する。逆に、下方向のピークを優先する場合、上方向のピークはピーク間の振幅を嵩下げし、下方向のピークはピーク間の振幅を嵩上げする。高低差補正手段の詳細については後述する。
【0052】
ここで、上方向のピークと下方向のピークのピーク間の振幅について説明する。上方向のピークの振幅は、上方向のピークの直前に下方向のピークがある場合は下方向のピークから上方向のピークまでの高低差、上方向のピークの直前に下方向のピークがない場合は定常状態から上方向のピークまでの高低差とする。下方向のピークの振幅は、下方向のピークの直前に上方向のピークがある場合は上方向のピークから下方向のピークまでの高低差、下方向のピークの直前に上方向のピークがない場合は定常状態から下方向のピークまでの高低差とする。
【0053】
優先方向決定手段4において優先方向は、上述の通り過去n拍分の心電図信号の心拍波形において基準ピークに設定されたピークの突出方向情報中で、出現数が多い方向に決定する。なお、出現数が同数の場合は上方向を優先方向に決定する。上方向を優先するのは、心拍間隔が本来対象としている上方向のR波に相当するピークを優先したいからである。nが少ないと優先する方向が変わり易く、対策の意味をなさない。nが多いと優先する方向を変えなければならない状況でも変わらない状態になり、悪影響が出る。従って、nは適切な数値にする必要がある。nは信号処理手段1と心拍間隔測定手段3によって最適な数値は異なるが、弊害を考慮すると4以上64以下の値にすることが望ましい。更に、計算の効率を考慮すると、2のべき乗(4,8,16,32,64)に限定することが望ましい。nが4未満では、優先するピークを指定する意味が薄れ、nが65以上(処理効率を上げるには2のべき乗をとる必要があるため、処理効率を考慮する場合の次のnは128となる)となると、波形形状が変化した場合、心拍間隔が1秒、且つ、nが128の場合に2分以上継続してから優先方向が変化することを意味し、優先方向の固定のし過ぎで悪影響が出る可能性がある。
【0054】
次に高低差補正手段について詳述する。優先の度合い(高低差補正手段による補正の度合い。優先度Φ)は以下のように設定する。
【0055】
現在の波形の位置をx、直前の心電図信号の心拍波形の振幅(検出したピークの振幅)をAmp(x-1)としたとき、優先度Φは次のようになる。
Φ=Amp(x-1)φ
【0056】
ここで、φは優先度を設定するためのパラメータである。φを適切な数値にしないと、nと同様な弊害が発生する。nと同様に弊害を考慮すると、φの値は、0.1以上0.9以下の範囲にすることが望ましい。0.1未満ではピークを優先させる効果がほぼなく、0.9を超えると優先させすぎるために、ピークの優先方向を変えるべき場面で変わらなくなる。
【0057】
このΦを使用して、直前の波形の振幅(Peak to Peak)を比較するときに、現在のピークが優先方向の場合は、「Amp(x)」と「Amp(x-1)-Φ」とを比較することで、直前の振幅より振幅が大きいと判定し易くする(基準ピークに設定され易くする。)。
【0058】
また、現在のピークが優先しない方向の場合は、「Amp(x)」と「Amp(x-1)+Φ」とを比較することで、直前の振幅より振幅が小さいと判定し易くする。
【0059】
同じ人が連続して心電図信号の心拍波形を測定したとき、心臓の異常状態を除き、心電図信号の波形形状が大きく変化することは少ないため、積極的に波形の形状変化を追う必要はないが、測定中に波形形状が変化した場合の対策として、直近の優先方向が変わっていない状態で検出方向(基準ピークの方向)が優先方向とm回連続して異なる場合、優先すべき方向が変わったと見なす。波形形状が変わる原因としては、呼吸、姿勢、運動状態、発汗状態、電極2の位置ずれによる生体との接触位置、電極2と生体の接触状態等の変化が考えられる。
【0060】
上述のmの回数を適切に設定しないと心拍間隔に誤差が生じる原因となるので、nが4以上64以下であることを考慮し、mは4以上n/2以下とする。mが少ないと優先方向決定手段4の効果が得られなくなり、mが多いと保存している心拍間隔の付属情報としての突出方向情報(上方向のピーク(R波)であるか下方向のピーク(S波)であるかを示す情報)のリセットの意味が無くなる。nが7以下のときは、通常の優先方向の判断で優先方向が変わり意味をなさないのでこの対策は盛り込まない。
【0061】
心拍間隔と共に取得される突出方向情報の出現数が上下方向で同等の場合は、上方向のピーク(R波)を優先する。保存する心拍間隔の突出方向情報の履歴が偶数の場合や、初期化後十分に時間が経過しておらず「中立」情報が残っていた場合に発生する可能性がある。なお、本実施例の優先方向決定手段4における中立状態とは、過去n拍分の突出方向情報が全て上方向でも下方向でもない「中立」情報で埋められた状態を示す。
【0062】
初期状態等で過去の心拍間隔の突出方向情報が全て「中立」のとき、Amp(x-1)が存在せず優先度Φが決定できないため、優先方向を決定しない中立状態とする。2回目以降は、過去の突出方向情報に基づいて優先方向を決める(新たな突出方向情報が保存されると共に、最も古い突出方向情報が消去される。)。
【0063】
本実施例と従来例とで検出される基準ピーク(基準位置)がどのように変わるか図6及び図7を用いて以下説明する。
【0064】
図6及び図7で示す破線○印(上方向のピークα、下方向のピークα’)は、基準ピーク(基準位置)に設定されたピークである。
【0065】
図6は、上方向のピークαを常に検出し上方向のピークαが検出できないときのみ下方向のピークα’を検出する方法(図6(a)。従来例)と、本実施例(図6(b))とを比較したものである。
【0066】
従来例において、波形A11及びA13では上方向のピークαを検出でき、波形A12及びA14では上方向のピークαが検出できない場合、検出するピーク(基準ピーク)の位置が上下交互に変化する。
【0067】
一方、本実施例では、波形A21を検出するときに下方向を優先して検出する状態とすると、波形A21、A22、A23及びA24のピークの高低差は上方向のピークの振幅(定常位置から上方向のピークまでの高低差)より下方向のピークの振幅(上方向のピークから基準位置である下方向のピークまでの高低差)の方が大きく、優先方向も同じため、下方向のピークα’を常に基準位置とすることができる。
【0068】
図7は、高低差の大きいピークを検出する方法(図7(a)。従来例)と、本実施例(図7(b))とを比較したものである。
【0069】
従来例の波形B11及びB13では、下方向のピークが左側より右側の方が低いため、上方向のピークの振幅(B11とB13の基準位置の直前の上方向のピークと、その上方向のピークの直前の下方向のピークの間の高低差)より下方向のピークの振幅(B11とB13の基準位置とその直前の上方向のピークの間の高低差)の方が大きいと判断し、下方向のピークα’を基準ピークとして設定する。波形B12及びB14では、下方向のピークの振幅(B12とB14の基準位置と基準位置の直後の下方向のピークの間の高低差)より上方向のピークの振幅(B12とB14の基準位置の直前の下方向のピークと基準位置の間の高低差)の方が大きいと判断し、上方向のピークαを基準ピークとして設定する。よって、基準位置を上方向と下方向に交互に検出する。
【0070】
一方、本実施例では、一方向のピークを優先して検出しており、図7(b)ではB21を検出するときに上方向を優先して検出する状態とすると、波形B21、B22、B23及びB24は、上方向を検出し易くするように比較時に高低差を補正するため、全て上方向のピークαを基準ピーク(基準位置)として設定できる。
【0071】
以上、図6,7のケースでは、本実施例を利用することで心電図信号の波形形状が変化しても基準ピークの突出方向を一定にすることができる。基準ピークの突出方向を一定にできている間は、基準ピークの突出方向が変化した場合に混入する数十msの誤差が混入しないため、この原因による心拍間隔の誤差を無くすことができる。
【0072】
従って、本発明の背景技術で挙げたような心拍間隔の応用研究において、本実施例を用いて優先方向の基準ピークを連続して検出している間(基準ピークの突出方向が一定の間)は、波形形状の変化を原因とする誤判断を無くすことができる。
【0073】
なお、本実施例は上述のように構成しているが、図8,9に図示したような構成としても良い。
【0074】
即ち、無線送信後に心拍間隔を測定する場合、無線送信するデータが増大する。無線送信するデータが増大した場合、送信するための電力が多くかかり、省電力化が図れない。省電力化が図れないと電池を大きくする必要があるため、生体情報測定装置の小型化が難しい。ただし、大量のデータを無線送信しても省電力化が可能な通信手段が現れた場合は、図8に図示した別例1のように、電極2及び信号処理手段1と心拍間隔測定手段3等とを別体の装置に設ける構成とし、デジタル心電図信号を送受信する無線送信手段6及び無線受信手段7を夫々の装置に備えた構成として無線送信後に心拍間隔を測定する構成としても良い。この場合、無線受信手段以降は身に着ける必要がないので、身に着ける測定器のメンテナンスがし易い、無線受信手段以降の手段の変更が容易である等の利点がある。
【0075】
また、データ保存後に心拍間隔を測定する場合、データを保存するための電力および保存しておくための容量が多くなるため、省電力化が図れず、無線送信後の場合と同様に、小型化が難しい。ただし、大量のデータを保存しても省電力化が可能な保存手段が現れた場合は、図9に図示した別例2のように、電極2及び信号処理手段1と心拍間隔測定手段3等とを別体の装置に設ける構成とし、デジタル心電図信号を保存・読込するデータ保存手段8及びデータ読込手段9を夫々の装置に備えた構成としてデータ保存後に後から心拍間隔を測定する構成としても良い。この場合も、図8の場合と同様、データ読込手段以降は身に着ける必要が無いので、身に着ける測定器のメンテナンスがし易い、データ読込手段以降の手段の変更が容易である等の利点がある。
【0076】
本実施例は上述のように構成したから、デジタル心電図信号の一拍分の一のQRS波の基準ピーク(R波、S波若しくはQ波の頂点)と隣り合う他のQRS波の基準ピーク(R波、S波若しくはQ波の頂点)との間隔から心拍間隔を測定する際、心拍間隔測定手段3が心拍間隔を測定すると共に、各基準ピークの突出方向情報も取得し、この突出方向情報をもとに優先方向を決定し、ピークの振幅に変動があっても優先方向のピークを連続的に基準ピークに設定し易くすることで、基準ピークの変化が抑制され、心拍間隔の変動も抑制されることになり、より誤差の小さい心拍間隔を測定可能となる。
【0077】
よって、本実施例は、可及的に誤差の小さい心拍間隔を測定可能な実用的な生体情報測定装置となる。
【符号の説明】
【0078】
1 信号処理手段
3 心拍間隔測定手段
4 優先方向決定手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9