【実施例】
【0047】
  以下では、図面を参照して呼吸音解析装置及び呼吸音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体の実施例について詳細に説明する。
【0048】
  <全体構成>
  先ず、本実施例に係る呼吸音解析装置の全体構成について、
図1を参照して説明する。ここに
図1は、本実施例に係る呼吸音解析装置の全体構成を示すブロック図である。
【0049】
  図1において、本実施例に係る呼吸音解析装置は、主な構成要素として、生体音センサ110と、信号記憶部120と、信号処理部125と、音声出力部130と、基底保持部140と、表示部150と、入力部160と、処理部200とを備えて構成されている。
【0050】
  生体音センサ110は、生体の呼吸音を検出可能に構成されたセンサである。生体音センサ110は、例えばECM(Electret Condenser Microphone)やピエゾを利用したマイク、振動センサ等で構成されている。
【0051】
  信号記憶部120は、例えばRAM(Random Access Memory)等のバッファとして構成されており、生体音センサ110で検出された呼吸音を示す信号(以下、適宜「呼吸音信号」と称する)を一時的に記憶する。信号記憶部120は、記憶した信号を、音声出力部130及び処理部200に夫々出力可能に構成されている。
【0052】
  信号処理部125は、生体音センサ110で取得した音を加工して音声出力部130に出力する。信号処理部125は、例えばイコライザーやフィルターとして機能し、取得した音を人が聴き易い状態に加工する。
【0053】
  音声出力部130は、例えばスピーカーやヘッドフォンとして構成されており、生体音センサ110で検出され、信号処理部125で加工された呼吸音を出力する。
【0054】
  基底保持部140は、例えばROM(Read Only Memory)等として構成されており、呼吸音に含まれ得る所定の音種に対応する基底を記憶している。なお、本実施例に係る基底は、本発明の「基準スペクトル」の一例である。
【0055】
  表示部150は、例えば液晶モニタ等のディスプレイとして構成されており、処理部200から出力される画像データを表示する。
【0056】
  入力部160は、ユーザによる入力を受け付けるデバイスであり、例えばキーボード、マウス、タッチパネル、各種スイッチ等として構成されている。入力部160は、少なくとも出力すべき呼吸音を選択するための入力操作が可能なものとして構成されている。
【0057】
  処理部200は、複数の演算回路やメモリ等を含んで構成されている。処理部200は、周波数解析部210、周波数ピーク検出部220、基底集合生成部230、結合係数算出部240、信号強度算出部250、画像生成部260、及び呼吸音選択部270を備えている。
【0058】
  処理部200の各部の動作については後に詳述する。
【0059】
  <動作説明>
  次に、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作について、
図2を参照して説明する。ここに
図2は、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作を示すフローチャートである。ここでは、本実施例に係る呼吸音解析装置が実行する処理の全体的な流れを把握するための簡単な説明を行う。各処理の詳細については、後述する。
【0060】
  図2において、本実施例に係る呼吸音解析装置の動作時には、先ず生体音センサ110において呼吸音が検出され、処理部200による呼吸音信号の取得が行われる(ステップS101)。
【0061】
  呼吸音信号が取得されると、周波数解析部210において周波数解析(例えば、高速フーリエ変換)が実行される(ステップS102)。また、周波数ピーク検出部220において、周波数解析結果を用いてピーク(極大値)の検出が実行される。
【0062】
  続いて、基底集合生成部230において基底集合が生成される(ステップS103)。具体的には、基底集合生成部230は、基底保持部140に記憶されている基底を用いて基底集合を生成する。この際、基底集合生成部230は、周波数解析結果から得られたピーク位置(即ち、対応する周波数)に基づいて、基底をシフトさせる。
【0063】
  基底集合が生成されると、結合係数算出部240において、周波数解析結果及び基底集合に基づく結合係数の算出が実行される(ステップS104)。
【0064】
  結合係数が算出されると、信号強度算出部250において、結合係数に応じた信号強度が算出される(ステップS105)。言い換えれば、呼吸音信号に含まれる各音種の割合が算出される。
【0065】
  信号強度が算出されると、画像生成部260において、信号強度を示す画像データが生成される。生成された画像データは、表示部150において解析結果として表示される(ステップS106)。
【0066】
  解析結果表示後は、ユーザによって出力すべき音種が入力されると(ステップS107:YES)、呼吸音選択部270により出力すべき呼吸音が選択され、選択された音種が音声出力部130又は表示部150に出力される(ステップS108)。
【0067】
  その後、解析処理を継続するか否かの判定が実行される(ステップS109)。解析処理を継続すると判定された場合(ステップS109:YES)、ステップS101からの処理が再び実行される。解析処理を継続しないと判定された場合(ステップS109:NO)、一連の処理は終了する。
【0068】
  <呼吸音信号の具体例>
  次に、本実施例に係る呼吸音解析装置で解析される呼吸音信号の具体例について、
図3及び
図4を参照して説明する。ここに
図3は、捻髪音を含む呼吸音の周波数解析結果を示すスペクトログラム図であり、
図4は、笛声音を含む呼吸音の周波数解析結果を示すスペクトログラム図である。
【0069】
  図3に示す例では、正常呼吸音に対応するスペクトログラムパターンに加えて、異常呼吸音の1つである捻髪音に対応するスペクトログラムパターンが観測されている。捻髪音に対応するスペクトログラムパターンは、図中の拡大部分に示すように、菱形に近い形状である。
【0070】
  図4に示す例では、正常呼吸音に対応するスペクトログラムパターンに加えて、異常呼吸音の1つである笛声音に対応するスペクトログラムパターンが観測されている。笛声音に対応するスペクトログラムパターンは、図中の拡大部分に示すように、白鳥の首のような形状である。
【0071】
  このように、異常呼吸音には複数の音種が存在し、その音種によって異なる形状のスペクトログラムパターンとして観測される。ただし、図を見ても分かるように、正常呼吸音及び異常呼吸音は互いに混じり合った状態で検出される。本実施例に係る呼吸音解析装置は、このように混じり合った複数の音種を分離するための解析を実行する。
【0072】
  <呼吸音信号の近似方法>
  次に、本実施例に係る呼吸音解析装置による解析方法について、
図5から
図8を参照して簡単に説明する。ここに
図5は、捻髪音を含む呼吸音の所定タイミングにおけるスペクトルを示すグラフであり、
図6は、捻髪音を含む呼吸音のスペクトルの近似方法を示す概念図である。また
図7は、笛声音を含む呼吸音の所定タイミングにおけるスペクトルを示すグラフであり、
図8は、笛声音を含む呼吸音のスペクトルの近似方法を示す概念図である。
【0073】
  図5において、捻髪音を含む呼吸音信号(
図3参照)について、捻髪音に対応するスペクトログラムパターンが強く現れているタイミングでスペクトルを抽出すると、図に示すような結果が得られる。このスペクトルは、正常呼吸音と捻髪音とを含んでいると考えられる。
【0074】
  図6において、正常呼吸音に対応するスペクトル及び捻髪音に対応するスペクトルは、予め実験等により推定できる。このため、予め推定したパターンを利用すれば、上述したスペクトルについて、正常呼吸音に対応する成分と捻髪音に対応する成分とがどのような割合で含まれているかを知ることができる。
【0075】
  図7において、笛声音を含む呼吸音信号(
図4参照)について、笛声音に対応するスペクトログラムパターンが強く現れているタイミングでスペクトルを抽出すると、図に示すような結果が得られる。このスペクトルは、正常呼吸音と笛声音とを含んでいると考えられる。
【0076】
  図8において、上述した正常呼吸音及び捻髪音と同様に、笛声音に対応するスペクトルについても、予め実験等により推定できる。このため、予め推定したパターンを利用すれば、上述したスペクトルについて、正常呼吸音に対応する成分と笛声音に対応する成分とがどのような割合で含まれているかを知ることができる。
【0077】
  以下では、このような解析を実現するための各処理について、より具体的に説明する。
【0078】
  <周波数解析>
  呼吸音信号の周波数解析及び解析結果におけるピークの検出について、
図9から
図11を参照して詳細に説明する。ここに
図9は、周波数解析方法の一例を示すグラフであり、
図10は、周波数解析結果の一例を示す図である。また
図11は、スペクトルのピーク検出結果を示す概念図である。
【0079】
  図9において、取得された呼吸音信号に対しては、先ず周波数解析が実行される。周波数は、高速フーリエ変換等の既存の技術を利用して行うことができる。本実施例では、周波数毎の振幅値(即ち、振幅スペクトル)を周波数解析結果として用いている。なお、データ取得時のサンプリング周波数、窓サイズ、窓関数(例えば、ハニング窓等)については、適宜決定すればよい。
【0080】
  図10に示すように、周波数解析結果は、n個の値で構成されるものとして得られる。なお、「n」は、周波数解析における窓サイズ等によって決まる値である。
【0081】
  図11において、周波数解析によって得られたスペクトルについては、ピークの検出が実行される。図に示す例では、100Hz、130Hz、180Hz,及び320Hzの位置にピークp1〜p4が検出されている。なお、ピークの検出処理については、どの周波数にピークが存在するかだけわかればよいため、簡易的な処理でも構わない。ただし、小さなピークでも取りこぼしがないよう、ピーク検出のパラメータ設定されていることが好ましい。
【0082】
  本実施例では、極大値を取る点を求め、更にその点の2階微分値の小さいもの(即ち、絶対値が大きいもの)から順に最大N個(Nは所定の値)を検出している。極大値は、差分の符号が正から負に切り替わる点から求められる。2階微分値は差分の差分で近似する。この値が所定の閾値(負の値)より小さいものを、小さいものから順に最大N個選び、その位置を記憶する。
【0083】
  <基底集合の生成>
  次に、基底集合の生成について、
図12から
図16を参照して詳細に説明する。ここに
図12は、正常肺胞呼吸音基底を示すグラフである。また
図13は、捻髪音基底を示すグラフであり、
図14は、連続性ラ音基底を示すグラフであり、
図15は、ホワイトノイズ基底を示すグラフである。
図16は、周波数シフトされた連続性ラ音基底を示すグラフである。
【0084】
  図12から
図15に示すように、各音種に対応する基底は、特有の形状を有している。なお、各基底は周波数解析結果と同じn個の数値(即ち、周波数ごとの振幅値)で構成されている。なお、各基底は、周波数毎の振幅値を示す線と周波数軸とで囲まれた面積が所定の値(例えば1)になるように正規化されている。
【0085】
  ちなみに、ここでは正常肺胞呼吸音基底、捻髪音基底、連続性ラ音基底、ホワイトノイズ基底の4つの基底を示しているが、1つの基底しかない場合でも解析を実行することができる。また、ここで挙げた基底以外の基底を用いることもできる。なお、ここで挙げた呼吸音に対応する基底に代えて、例えば心拍音や腸音に対応する基底を用いれば、心拍音や腸音の解析を実行することが可能となる。
【0086】
  図16において、上述した基底のうち連続性ラ音に対応する基底は、周波数解析の結果から検出されたピーク位置に合わせて周波数シフトされる。ここでは、
図11で示したピークp1〜p4の各々に合わせて、連続性ラ音基底を周波数シフトさせた例を示している。なお、連続性ラ音に対応する基底以外の基底を周波数シフトさせてもよい。
【0087】
  以上の結果、基底集合は、正常肺胞呼吸音基底、捻髪音基底、ピーク検出個数分の連続性ラ音基底、及びホワイトノイズ基底の集合として生成される。
【0088】
  <結合係数の算出>
  次に、結合係数の算出について、
図17から
図19を参照して詳細に説明する。ここに
図17は、スペクトルと、基底及び結合係数との関係を示す図であり、
図18は、観測されたスペクトル及び近似に用いられる基底の一例を示す図である。また
図19は、非負値行列因子分解による近似結果を示す図である。
【0089】
  解析対象であるスペクトルy、基底h(f)、及び結合係数uの関係は、以下の数式(1)で表すことができる。
【0090】
【数1】
  図17に示すように、スペクトルy及び各基底h(f)は、n個の値を有している。他方、結合係数は、m個の値を有している。なお、「m」は、基底集合に含まれる基底の数である。
【0091】
  本実施例に係る呼吸音解析装置では、非負値行列因子分解を利用して基底集合に含まれる各基底の結合係数を算出する。具体的には、以下の数式(2)で示される最適化基準関数Dを最小化するu(ただし、uの各成分値は非負)を求めればよい。
【0092】
【数2】
  なお、一般的な非負値行列因子分解は、基底スペクトルの集合を表す基底行列と、結合係数を表すアクティベーション行列を共に算出する手法であるが、本実施例においては、基底行列を固定して結合係数のみを算出している。
【0093】
  ちなみに、結合係数を算出するための手段として、非負値行列因子分解以外の近似法を用いてもよい。ただし、この場合においても非負であるという条件が望まれる。以下では、非負の近似法を用いる理由について、具体例を挙げて説明する
  
図18に示すように、観測されたスペクトルを、基底A〜Dの4つの基底で近似して結合係数を算出する場合を考える。なお、非負であることを条件とした場合の期待する結合係数uは、基底Aに対応するものが1、基底Bに対応するものが1、基底Cに対応するものが0、基底Dに対応するもの0である。即ち、非負であることを条件とした場合、観測されたスペクトルは、基底Aに1を乗じたものと、基底Bに1を乗じたものとを足し合わせたスペクトルとして近似される。
【0094】
  一方、非負であることを条件としない場合の期待する結合係数uは、基底Aに対応するものが0、基底Bに対応するものが0、基底Cに対応するものが1、基底Dに対応するものが−0.5である。即ち、非負であることを条件としない場合、観測されたスペクトルは、基底Cに1を乗じたものと、基底Dに−0.5を乗じたものとを足し合わせたスペクトルとして近似される。
【0095】
  上述した2つの例を比較した場合、非負であることを条件とする場合よりも、非負であることを条件としない場合の方が高い近似精度を得られることがある。しかしながら、ここでの結合係数uはスペクトルごとの成分量を表すものであるため、非負の値として得られなければならない。言い換えれば、結合係数uが負の値で得られた場合には、成分量としての解釈ができない。これに対し、非負の条件を課して近似を行えば、成分量に対応する結合係数uを算出することができる。
【0096】
  図19において、本実施例に係る生体解析装置では、上述したように、正常肺胞呼吸音基底、捻髪音基底、4つの連続性ラ音基底、及びホワイトノイズ基底からなる基底集合を用いて結合係数uを算出するため、結合係数uは、u
1からu
7の7個の値を有するものとして算出される。
【0097】
  ここで、正常肺胞呼吸音基底に対応する結合係数u
1は、呼吸音に対する正常肺胞呼吸音の割合を示す値であると言える。同様に、捻髪音基底に対応する結合係数u
2、ホワイトノイズ基底に対応する結合係数u
3、100Hzにシフトした連続性ラ音基底に対応する結合係数u
4、130Hzにシフトした連続性ラ音基底に対応する結合係数u
5、180Hzにシフトした連続性ラ音基底に対応する結合係数u
6、及び320Hzにシフトした連続性ラ音基底に対応する結合係数u
7の各々についても、呼吸音に対する各音種の割合を示す値であると言える。従って、結合係数uから各音種の信号強度を算出することができる。
【0098】
  以上のように、本実施例では、各音種に対応する複数の基底を利用して呼吸音に含まれる複数の音種を分別する。ただし、上述した分別方法はあくまで一例であり、他の分別方法を用いて複数の音種を分別しても構わない。
【0099】
  <分別方法の変形例>
  以下では、既に説明した複数の基底を利用する分別方法以外の分別方法について、いくつか例を挙げて説明する。
【0100】
  <第1変形例>
  先ず、第1変形例に係る分別方法について、
図20及び
図21を参照して説明する。ここに
図20及び
図21は夫々、第1変形例に係る連続性ラ音の分別方法を示す概念図である。
【0101】
  第1変形例に係る分別方法では、呼吸音を連続性ラ音とそれ以外の音に分別する。具体的には、呼吸音信号の周波数解析結果から検出されるピーク周波数が、所定の範囲内で変動している場合に連続性ラ音であると判定する。
【0102】
  図20に示すように、連続性ラ音である笛声音や類鼾音は、時間軸上で連続して検出されるピークの位置が所定の範囲内に収まるように変動する。言い換えれば、ピーク周波数が時間的に連続性を有するように変化する。よって、連続するピーク位置が所定の範囲内にある場合には、その音が連続性ラ音であると判別できる。
【0103】
  他方、
図21に示すように、連続性ラ音以外の音は、時間軸上で連続して検出されるピークの位置が所定の範囲内に収まらないように変動する。言い換えれば、ピーク周波数が時間的な連続性を有さず離散的に変化する。よって、連続するピーク位置が所定の範囲内でない場合には、その音が連続性ラ音でないと判別できる。
【0104】
  なお、連続性ラ音の判定には、複数回の判定結果を用いることもできる。具体的には、時間軸上で連続して検出されるピークの位置が所定の範囲内に収まるように変動している回数が所定回数以上継続した場合に、その音が連続性ラ音であると判定するようにしてもよい。
【0105】
  <第2変形例>
  次に、第2変形例に係る分別方法について、
図22を参照して説明する。ここに
図22は、第2変形例に係る笛声音と類鼾音との分別に用いる閾値を示すグラフである。
【0106】
  第2変形例に係る分別方法では、連続性ラ音を笛声音と類鼾音とに分別する。ここで、笛声音は高音性連続性ラ音、類鼾音は低音性連続性ラ音と呼ばれるように、笛声音と類鼾音とは音の高さ(即ち、周波数)で判別することが可能である。しかしながら、笛声音及び類鼾音は、ピーク周波数が時間的に変化する。このため、ピーク周波数に対する単一の閾値(即ち、値が変動しない一つの閾値)を利用して笛声音及び類鼾音を判定しようとすると、時間の経過により、判定結果が変化してしまうことがある。例えば、ピーク周波数が判定閾値を跨ぐように変化してしまうと、それまでは正確に判定されていたものが、誤った音種として判定されることになってしまう。このため第2変形例では、ピーク周波数に応じて判定閾値を変動させる。
【0107】
  図22に示すように、第2変形例に係る分別方法では、笛声音と判定する割合及び類鼾音と判定する割合がピーク周波数に応じてなめらかに変化するように閾値が変動する。例えば、ピーク周波数が200Hzの場合には、笛声音が7%含まれ、類鼾音が93%含まれると判定する。ピーク周波数が250Hzの場合には、笛声音が50%含まれ、類鼾音が50%含まれると判定する。ピーク周波数が280Hzの場合には、笛声音が78%含まれ、類鼾音が22%含まれると判定する。なお、ここでの具体的な数値はあくまで一例であり、異なる値を設定してもよい。また、測定対象である生体の性別、年齢、身長、体重等によって異なる変動特性を有するようにしてもよい。
【0108】
  上述した変動する閾値を利用することで、ピーク周波数の変動に起因する誤判定を好適に防止することができる。即ち、第2変形例に係る分別方法では、笛声音及び類鼾音を判定するための閾値がピーク周波数に応じて適切な値にとなるよう変動するため、例えば変動しない単一の閾値を用いる場合と比較して、より正確な分別が行える。
【0109】
  <第3変形例>
  次に、第3変形例に係る分別方法について、
図23から
図25を参照して説明する。ここに
図23は、第3変形例に係る笛声音と類鼾音との分別に用いる閾値の初期値を示すグラフである。また
図24及び
図25は夫々、第3変形例に係る笛声音と類鼾音との分別に用いる閾値の調整後の値を示すグラフである。
【0110】
  第3変形例に係る分別方法も、既に説明した第2変形例と同様に、連続性ラ音を笛声音と類鼾音とに分別する方法である。また、周波数解析結果から得られたピーク周波数に対する閾値を用いて判定する点についても、第2変形例と同様である。
【0111】
  図23に示すように、第3変形例に係る分別方法では、閾値である250Hzを境にして判定結果が変化するものとして設定されている。具体的には、ピーク周波数が250Hz以上である場合には、連続性ラ音は笛声音成分を100%含んでおり、類鼾音は含んでいないと判定される。一方、ピーク周波数が250Hz未満である場合には、連続性ラ音は類鼾音成分を100%含んでおり、笛声音は含んでいないと判定される。
【0112】
  図24に示すように、第3変形例に係る分別方法では、直前の判定において笛声音成分を100%含むものであると判定された場合、閾値が250Hzから220Hzへと低くされる。よって、笛声音成分を100%含むものとして判定され易くなる。具体的には、ピーク周波数が230Hzの場合を考えると、初期の閾値(
図23参照)によれば類鼾音と判定されることになるが、調整後の閾値(
図24参照)によれば笛声音と判定される。
【0113】
  図25に示すように、第3変形例に係る分別方法では、直前の判定において類鼾音成分を100%含むものであると判定された場合、閾値が250Hzから280Hzへと高くされる。よって、類鼾音成分を100%含むものとして判定され易くなる。具体的には、ピーク周波数が270Hzの場合を考えると、初期の閾値(
図23参照)によれば笛声音と判定されることになるが、調整後の閾値(
図25参照)によれば類鼾音と判定される。
【0114】
  上述したように閾値を調整すれば、ピーク周波数の変動に起因する誤判定を好適に防止することができる。即ち、第3変形例に係る分別方法では、笛声音及び類鼾音を判定するための閾値が過去の判定結果に基づいて適切なものへと調整されるため、例えば調整されない単一の閾値を用いる場合と比較して、より正確な判定が行える。
【0115】
  なお、閾値の調整は、直前の判定結果だけによらず、複数回の過去の判定結果に基づいて行われてもよい。また、複数回の過去の判定結果を利用する場合は、各判定結果に対して重み付けを行ってもよい。例えば、過去の判定結果であるほど影響が小さくなるように重み付けをおこなってもよい。また、調整する閾値の初期値として、第2変形例のなめらかな閾値を用いてもよい(
図22参照)。
【0116】
  <第4変形例>
  次に、第3変形例に係る分別方法について、
図26から
図26を参照して説明する。ここに
図26は、笛声音を含む呼吸音のスペクトログラム図であり、
図27は、笛声音のピーク周波数及びピーク数を示すグラフである。また
図28は、類鼾音を含む呼吸音のスペクトログラム図であり、
図29は、類鼾音のピーク周波数及びピーク数を示すグラフである。
【0117】
  第4変形例に係る分別方法も、既に説明した第2及び第3変形例と同様に、連続性ラ音を笛声音と類鼾音とに分別する方法である。
【0118】
  図26において、笛声音を含む呼吸音は、所定のピークを有するスペクトラム波形として検出される。ここからピーク周波数F及びピーク数Nを検出するには、先ずスペクトラム波形の単一時間(即ち、図中の白枠で囲った領域)に対応する周波数−振幅グラフを作成する。
【0119】
  図27に示すグラフから、笛声音のピーク周波数F1及びピーク数N1が検出できる。なお、笛声音のピーク周波数の分布は、180〜900Hz程度であることが分かっている。また、図を見ても分かるように、笛声音のピーク数N1は1個である。
【0120】
  図28において、類鼾音を含む呼吸音は、笛声音とは異なる所定のピークを有するスペクトラム波形として検出される。ここからピーク周波数F及びピーク数Nを検出するには、同様にスペクトラム波形の単一時間に対応する周波数−振幅グラフを作成する。
【0121】
  図29に示すグラフから、類鼾音のピーク周波数F2及びピーク数N2が検出できる。なお、類鼾音のピーク周波数の分布は、100〜260Hz程度であることが分かっている。即ち、類鼾音のピーク周波数F2は、笛声音のピーク周波数F1よりも低い領域に分布していることになる。また、図を見ても分かるように、類鼾音のピーク数N2は例えば、3個である。即ち、類鼾音のピーク数N2は、笛声音のピーク数N1のように1つでなく、複数である。
【0122】
  第4変形例に係る分別方法では、上述した笛声音及び類鼾音の特性の違いを利用して判定が行われる。具体的には、ピーク周波数F及びピーク数Nの各々に基づいて、笛声音と類鼾音とが分別される。このようにすれば、例えばピーク周波数Fだけを利用して笛声音と類鼾音とを分別する場合と比べて、より正確な分別が行える。
【0123】
  <解析結果の表示>
  次に、解析結果の表示について、
図30を参照して詳細に説明する。ここに
図30は、表示部における表示例を示す平面図である。
【0124】
  図30に示すように、表示部150の表示領域155には、解析結果が複数の画像として表示される。具体的には、領域155aには、取得された呼吸音の波形が表示されている。領域155bには、取得された呼吸音のスペクトルが表示されている。領域155cには、取得された呼吸音のスペクトログラムが表示されている。領域155dには、分別された各音種(ここでは、正常呼吸音、類鼾音、笛声音、捻髪音、水泡音の5音種)の成分量の時系列変化を表すグラフが表示されている。領域155eには、分別された各音種の割合がレーダーチャートとして表示されている。
【0125】
  なお、このような解析結果の表示態様はあくまで一例であり、他の表示態様で解析結果が表示されてもよい。例えば、分別された各音種の割合は、棒グラフや円グラフとして表示されてもよいし、数値化して表示されてもよい。
【0126】
  <音種の選択及び出力>
  次に、ユーザによる音種の選択、及び選択された音種毎の出力について、
図31から
図33を参照して説明する。ここに
図31は、音種毎の抽出結果を示すスペクトログラム図である。また
図32及び
図33は夫々、分別された音種毎の音声出力の一例を示す概念図である。
【0127】
  図31に示すように、表示部150の領域155cに表示されるスペクトログラムは、ユーザによって選択された音種毎に表示してもよい。即ち、
図31(a)に示すオリジナル(取得された元の呼吸音)のスペクトログラムに代えて、
図31(b)に示す正常呼吸音のスペクトログラム、
図31(c)に示す類鼾音のスペクトログラム、
図31(d)に示す笛声音のスペクトログラム、
図31(e)に示す捻髪音のスペクトログラム、及び
図31(f)に示す水泡音のスペクトログラムを表示するようにしてもよい。また、これらの音種毎のスペクトログラムを複数並べて表示するようにしてもよい。
【0128】
  図32及び
図33に示すように、表示部150の領域155dに表示される音種毎のグラフを選択して、選択された音種のみを音量出力するようにしてもよい。例えば
図32の例では、正常呼吸音だけが選択されており、その他の類鼾音、笛声音、捻髪音及び水泡音はいずれも選択されていない。このため、音声出力部130からは、正常呼吸音のみが音声出力される。また
図33の例では、正常呼吸音だけが選択されておらず、その他の類鼾音、笛声音、捻髪音及び水泡音がいずれも選択されている。このため、音声出力部130からは、類鼾音、笛声音、捻髪音及び水泡音を合成した音声が出力される。
【0129】
  <出力態様の変更>
  次に、音種毎の出力態様の変更方法について、
図34から
図38を参照して具体的に説明する。ここに
図34は、分別された音種毎の音量調整方法を示す概念図であり、
図35は、周波数帯域毎の音量調整方法を示す概念図である。また
図36は、音種毎に実行される画像処理の一例を示す概念図であり、
図37は、音種毎に画像処理した画像を重ね合わせて生成した画像の一例を示す平面図である。
図38は、分別された音種毎の表示色調整方法を示す概念図である。
【0130】
  図34に示すように、分別された各音種の出力音量を音種毎に調整可能としてもよい。図に示す操作画面では、音種毎のON/OFFがチェックボックスにより切替え可能とされており、音種毎の音量がスライダーによって調整可能とされている。図に示す例では、類鼾音及び笛声音が夫々出力されており、笛声音が類鼾音より大きい音量で出力されている。
【0131】
  図35に示すように、音種毎の出力音量の調整に加えて、周波数帯域毎の出力音量の調整が可能とされてもよい。図に示す例では、125Hz、250Hz、500Hz、1kHz、2kHzの各周波数帯域でゲインが調整可能とされている。
【0132】
  図36に示すように、音種毎に抽出されたスペクトログラムに対して、画像処理(例えば、二値化やエッジ検出等)を実行するようにしてもよい。このようにすれば、抽出しただけの状態では認識しにくかったものを、より視覚的に分かりやすい状態で表示させることができる。なお、画像処理は複数の処理を組み合わせたものであってもよい。また、音種によって異なる画像処理を施すようにしても構わない。
【0133】
  図37に示すように、画像処理が施された音種毎の画像(
図36参照)を、重ね合わせて表示するようにしてもよい。このようにすれば、音種毎のスペクトログラムを1つの画像でまとめて認識できるため、視覚的な把握が好適に行える。なお、ここでは正常呼吸音及び笛声音の画像を重ねて表示した例を示したが、重ねて表示する音種は選択可能とされており、所望の音種のみを適宜選択して表示させることができる。
【0134】
  図38に示すように、音種毎に画像の色を調整可能としてもよい。図に示す例では、R(赤)、G(緑)、B(青)に対応するスライダーを夫々調整することで、音種毎にRGB値を調整することが可能である。このようにすれば、複数の音種を互いに異なる色で表示させることが可能となり、より視覚的に把握し易い状態での表示が実現できる。
【0135】
  以上説明したように、本実施例に係る呼吸音解析装置によれば、呼吸音を分別した後、適宜選択して出力することができる。また、出力態様を音種毎に変更することができるため、分別した音種毎のデータを好適に利用することができる。
【0136】
  本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、特許請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う呼吸音解析装置及び呼吸音解析方法、並びにコンピュータプログラム及び記録媒体もまた本発明の技術的範囲に含まれるものである。